『QES』
医薬品情報21
古泉秀夫
先日、講演会で『医療の本質は、全て患者の有益性に繋がるかどうかが基本である』という話を聞いた。薬についていえば、患者の有益性を高めるためには、薬剤のQES(クエス)が重要だという話である。
『Q』は品質(Quality)
『E』は有効性(Effectiveness)
『S』は安全性(Safety)
の各略で、『QES:Quality,Effectiveness and Safety』ということのようである。
特に医療の中における薬剤師の役割は、薬剤の『安全性』の確保に努めるべきであり、医薬品管理を通して、医薬品の適正使用に貢献することが重要であるという話であった。
しかし、どちらかといえばQESは製薬企業及び厚生労働省の守備範囲で、医療現場で働く薬剤師の守備範囲だと大風呂敷を広げられたとしても、簡単に感謝の辞を述べるなとということは出来ないというのが正直なところである。
医薬品の有効性について、基礎実験段階から臨床治験を経て資料の収集をするのは製薬会社であり、その資料に基づいて、薬の有効性・安全性を評価し、承認するのは厚生労働省である。我々現場の薬剤師が扱うのは、国の御墨付きを得た後、商品として市販された薬であって、第一、有効性や安全性の情報は、全て製薬企業が提供する情報に依拠している。更に開発段階で確認された有効性を超えて、市販後に有効性が向上するなどということはあり得ず、むしろ増加するのは『負』の情報である。最も薬物の中には、厚生労働省が承認した適応症以外の『適応外使用』がされることがあるが、それは本来その薬が持っている薬理作用を判断してのことであり、本当であれば、製薬企業が前もって適応症を取るための臨床治験をするべきはずのものであるということである。
また、製剤の安定性等についても、第一義的には製薬企業の管理の範疇であり、製造者でもない現場の薬剤師が、市販品を再製剤化することは有り得ない。むしろ製薬企業が製造した製品について、現場で手を加えることは極力避けるというのが、基本原則である。更に製品に手を加えた場合、製造物責任法などという法律が、製薬企業を飛び越えて薬剤師に絡み付いてくる可能性もあり、妄りに製剤の変更を行ってはならないというのが当方の考え方である。
それでは現場の薬剤師は何をするのか。
例えば製剤の安定性についていえば、製薬企業が保証した条件を厳守することによって患者に高品質の製品を手渡し、患者の服用が終了するまでの間、可能な限り安定した状況で患者が薬を保管できるよう、保管条件等について伝達する責任を有している。更に医薬品は発売された後も、時間経過とともに、種々情報が増加する。現場で薬物が使用される過程の中で、多様な情報が生み出され、雑誌等に掲載されて報文が増加する。種々の媒体が多くの情報を提供してくれるが、その情報の収集と評価、更には医師等の医療関係者あるいは患者への伝達が薬剤師の役割である。
更に薬の安全性についていえば、現に薬を服用する患者と身近に日常的に接している訳で、早い段階で副作用に気付かなければならない立場にあるのもまた事実である。また、現場の薬剤師が、『安全性』の確保に貢献することは当たり前のことだといえる。可能な限り重篤な副作用の前駆症状を伝え、患者自身が副作用の予兆を補足する手助けをしなければならない。
(2007.11.4.)