Archive for 11月 14th, 2007

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「L-カルニチンの吸収について」

水曜日, 11月 14th, 2007

 

KW:臨床薬理・L-カルニチン・L-carnitine・消化・吸収・カルニチン・carnitine・アミノ酸・オリゴペプチド・vitamin BT

 

Q:L-カルニチンについて、「人体の肝臓内で必須アミノ酸のリジンとメチオニンから合成されるアミノ酸の一種」とする説明がありますが、ダイエット食品などに添加されているL-カルニチンを経口摂取した場合、そのままの形で吸収されるのでしょうか?。つまり、消化を受けて分解されることはないのでしょうか?。

 

A:カルニチン(carnitine)=4-トリメチルアミノ-3-ヒドロキシ酪酸、4-トリメチル-3-ヒドロキシブチロベタイン。分子量:162.21。

殆ど全ての生物、各組織に存在する。コメゴミムシダマシ(Tenebrio obscurus)の発育因子で、vitamin BT とも呼ばれる。carnitineの別名の『vitamin BT』のTはTenebrioの幼虫が、葉酸及びその他の既知のvitamin Bに加え、carnitineをその必須成長因子として必要とすることから命名されたものとされる。ヒトにおいては必要量の一部が、生合成により体内で生成されるため、厳密な意味でのvitaminとはされていない。carnitineは肝臓と腎臓で産生されるか、あるいはcarnitineを含有する食品を摂取することで体内に取り込まれる

carnitineはアミノ酸の一種であるリジンとメチオニンから構成された成分で、肉や赤貝などから摂取される。体内で carnitineを作り出すのは二十代をピークに年齢とともに減少する。

carnitineは細胞内で脂肪酸をミトコンドリア内に運ぶ担体としての働きを持つ。carnitineが欠乏すると脂肪酸をエネルギー源とする心臓や骨格筋などの組織に障害を及ぼし、心収縮力の低下、不整脈、筋力の低下、筋痙攣などの症状が現れる。近年、carnitineがカチオン輸送担体の一つであるOCTN 1、OCTN 2によって細胞内に取り込まれることが報告された。

なお、消化については、次の報告がされている。

消化とは動物が食物として摂取した高分子栄養素物質を、腸管から吸収できる型にまで分解(低分子化)する生理作用のことである。糖質は単糖類(グルコース、ガラクトース、フルクトース)、蛋白質はアミノ酸又はオリゴペプチド、脂肪は脂肪酸とモノグリセリドまでに分解される。

物理的消化
(physical digestion)

口腔内における咀嚼や消化管運動による食物塊の細分・混和・推進など

化学的消化
(chemical digestion)

消化管内に分泌される消化液(唾液、胃液、膵液、胆汁、腸液)によって食物成分物質をコロイド粒子ないし分子の準位で分散・分解させる

更に化学的消化は、次の二方式に区分される。

管腔内消化
(luminal  digestion)

あくまで部分的加水分解にとどめ、管腔内における著しい浸透圧の上昇を防いでいる。
膜消化(membrane digestion) 小腸上皮細胞表面の刷子縁膜と結合した消化酵素の働きによる膜消化で、初めて完全な加水分解(終末消化)が行われ、同時に吸収される。

消化における蛋白質の分解生成物は、アミノ酸とオリゴペプチド(oligopeptide)とされている。peptideとは2又はそれ以上のアミノ酸がペプチド結合(アミノ酸のカルボキシル基と別なアミノ酸のアミノ基間の共有結合)で結合したものをいうが、そのうちアミノ酸数が10以下のものをoligopeptideという。従ってcarnitineはoligopeptideに属する物質であり消化管からの吸収は可能ということである。

L-carnitineの標記は左旋性のcarnitineであることを示している。

 

1)南山堂医学大辞典 第19版;南山堂,2006
2)http://www.kobayashihakkou.com/carnitin.htm,2006.10.26.
3)今堀和友・他編:生化学辞典 第3版;東京化学同人,1998

                                        [015.4.CAR:2006.10.31.古泉秀夫]

『アルツハイマー治療薬rivastigmineについて』

水曜日, 11月 14th, 2007

KW:薬名検索・rivastigmine・リバスチグミン・Exelon・エクセロン・アルツハイマー病・記憶障害・軽度認知障害

 

Q:アルツハイマー病治療薬rivastigmineについて

A:rivastigmineは、cholinesterase(ChE)阻害薬(acetylcholine esterase(AChE)阻害薬及びbutylcholinesterase(BuChE)阻害薬)、認知促進薬に分類される。

商品名:Exelon(瑞西・Novartis Pharmaceuticals)。

アルツハイマー病による痴呆症の治療薬としてカルバミン酸系(carbamate-based)cholinesterase阻害薬である酒石酸リバスチグミン(rivastigmine tartrate)が発売された。本品はアルツハイマー病に対してFDAで承認された3番目の薬剤である。国内では現在第III相臨床試験段階である。

rivastigmineは軽度-中程度のアルツハイマー病の一部の患者において認識及び機能測定の一時的な安定化又は改善をもたらす。適応症としてアルツハイマー病、他の疾患における記憶障害、軽度認知障害である。

偽非可逆的に中枢作用性のacetylcholine esterase(AChE)を阻害し、acetylcholineの利用度を上げる。増加したacetylcholineの利用度は、記憶を調節する新皮質のコリン作動性神経の変性を一部補う。butylcholinesterase(BuChE)を阻害する。成長因子を遊離するか、あるいはアミロイド沈着を阻害するかもしれない。基本の記憶や行動に何らかの改善が明らかになるのに6週近くかかることがある。また、変性過程の何等かの安定が明らかになるまで、何カ月もかかることがあるとする報告が見られる。

副作用としてAChEの末梢での阻害の結果、消化器系の副作用を生じうる。AChEの中枢での阻害は悪心、嘔吐、体重減少、睡眠障害に寄与していることがある。悪心、下痢、嘔吐、食欲不振、胃酸分泌亢進、体重減少。頭痛、ふらつき。易疲労感、抑鬱。危険な副作用として希にてんかん性発作、失神。

 

1)The Medical Letter<日本語版>16(21),2000.10.2.
2)仙波純一・訳:精神科治療薬処方ガイド;メディカル・サイエンスインターナショナル,2006

                                                    [011.1.RIV:2007.2.9.古泉秀夫]

『フタル酸ビスについて』

水曜日, 11月 14th, 2007

KW:薬名検索・フタル酸ビス・フタル酸ビス-2-エチルヘキシル・Phthalic acid bis-2-ethylhexyl・フタル酸ジオクチル・dioctyl phthalate・DOP・DEHP

Q:2003年8月オモチャへの使用が禁止されているフタル酸ビスが検出されたとの新聞報道[読売新聞,第47020号,2007.2.2.]がされたが、フタル酸ビスとはどのようなものか

A:フタル酸ビスについて、フタル酸ビス-2-エチルヘキシル(Phthalic acid bis-2-ethylhexyl)とする標記が見られる。

別名としてフタル酸ジエチルヘキシル(di-2-ethylhexyl phthalate)、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(Phthalic acid di-2-ethylhexyl)、フタル酸ジオクチル(dioctyl phthalate)、1,2-ベンゼンジカルボン酸ビス-2-エチルヘキシル)(1,2-Benzenedicarboxylic acid bis-2-ethylhexyl)、ジエチルヘキシルフタラート(Diethylhexyl phthalate)等が報告されている。略号:DOP、DEHP。化学式:C24H38O4=390.56。凝固点:?55℃、沸点:231℃(5Torr)、空気中での揮発度:0.02mg/cm2(100℃)。

CAS番号:117-81-7。

本品は無色透明な油状の液体である。軟質塩化ビニル樹脂の可塑剤として最も広く用いられている。フタル酸エステル類の中では、毒性は低いとされている。本品は水に溶け難いが、有機溶媒に溶け、ビニル系樹脂と相容性がよい。常温では無色の液体である。可塑剤は、粘土を軟らかくするために加える水のような働きをもつもので、プラスチック製品や接着剤などをつくるときに、合成樹脂などに添加される。

本品は特に塩化ビニル樹脂を効率よく柔らかくするので、さまざまな軟質塩化ビニル製品の製造の際に用いられている。この軟質塩化ビニル製品は、壁紙や床材などの建材、電線被覆材、一般用のフィルム・シートや農業用ビニールフィルムなど、一般家庭で使われる製品も含めて、多方面で使われている。また、塩化ビニル樹脂以外にラッカー(ニトロセルロースラッカー)などにも可塑剤として使われているほか、溶剤として塗料や接着剤などにも用いられている。

毒 性:ラットに5mg/kg/dayのPhthalic acid bis-2-ethylhexylを1週間にわたって餌に混ぜて取り込ませた実験では、肝臓の細胞にある解毒酵素の活性が認められている。水質要監視項目の指針値は、このラットの実験に基づいて耐容1日摂取量(TDI)を0.025mg/kg/dayと算出し、設定されている。また、雌雄のマウスに144mg/kg/dayのPhthalic acid bis-2-ethylhexylを含む餌を与えて交配実験をしたところ、出産回数、出産生児数、生児出産率の低下が認められている。ラットに37.6mg/kg/dayのPhthalic acid bis-2-ethylhexylを13週間にわたって餌に混ぜて取り込ませた実験では、雄のラットに精巣細胞への影響が認められている。水道水質管理目標値は、これらの生殖発生や精巣への影響に基づいて耐容1日摂取量(TDI)を0.04-0.14mg/kg/dayと算出して設定されている。Phthalic acid bis-2-ethylhexylは、シックハウス症候群との関連性が疑われていることから、厚生労働省ではこの物質の室内空気濃度の指針値を0.12mg/m3 (0.0076ppm)と定めている。これも、ラットに対する精巣の病理学的変化を根拠としている。発がん性については、国際がん研究機関(IARC)では2000年に、それまで2B(人に対して発がん性があるかもしれない)の評価を、3(人に対する発がん性については分類できない)に変更している。

吸 収:人がPhthalic acid bis-2-ethylhexylを体内に取り込む可能性があるのは、主として食事によると考えられる。可塑剤として使用されたPhthalic acid bis-2-ethylhexylが樹脂から溶出する可能性があり、食品などに付着することによる。体内に取り込まれたPhthalic acid bis-2-ethylhexylは、膵臓から分泌された酵素によって分解され代謝物を生成するが、その代謝経路は動物種によって異なるとされている。人では、代謝物は尿中に排泄すると考えられている。

影 響:Phthalic acid bis-2-ethylhexylは空気中、水中等から検出されているが、室内空気濃度の指針値、水質要監視項目指針値、地下水要監視項目指針値を超える濃度は検出されていない。現在の環境中の濃度では人の健康への影響はないと考えられている。飲料水からも、水道水質要監視項目指針値(2004年4月1日施行より水道水質管理目標値に変更。指針値は0.06mg/L、目標値は0.1 mg/L以下)を超える濃度は検出されていない。なお、環境省が行った食事調査によると、家庭内の食事では最大値で食事1kg当たり0.33mgのPhthalic acid bis-2-ethylhexylが含まれていた。食事調査の結果は、水質要監視項目指針値における耐容1日摂取量(TDI)より十分低いが、調理用の塩化ビニル製手袋の使用自粛を促すなどの対策が進められている。

環境汚染:空気中に排出されたPhthalic acid bis-2-ethylhexylは降雨などで水系や土壌に移動すると考えられている。土壌や水中の微生物による分解は良好とされている。

危険有害性情報:軽度の皮膚刺激、眼刺激、発がんのおそれの疑い、生殖能又は胎児への悪影響のおそれ、長期又は反復曝露による精巣、肝臓の障害のおそれ、長期的影響により水生生物に有害のおそれ。

安全対策:個人用保護具や換気装置を使用し、ばく露を避けること。ミスト、蒸気、スプレーを吸入しないこと。取扱い後はよく手を洗うこと。環境への放出を避けること。

救急処置

眼に入った場合:流水で15分間注意深く洗うこと。コンタクトレンズを容易に外せる場合には外して洗うこと。眼の刺激が持続する場合は、医師の診断、手当てを受けること。

曝露又はその懸念がある場合:医師の診断、手当てを受けること。気分が悪い時は、医師の診断、手当てを受けること。

皮膚刺激:医師の診断、手当てを受けること。

廃 棄:内容物や容器を、都道府県知事の許可を受けた専門の廃棄物処理業者に業務委託すること。

1)薬科学大事典 第2版;廣川書店,1990
2)志田正二・代表編:化学辞典;森北出版株式会社,1999
3)リスクコミュニケーションのための化学物質ファクトシート:ttp://www.env.go.jp/chemi/communication/factsheet/data/1-272.html,2007.2.2
4)安全性データシート:フタル酸ビス(2-エチルヘキシル);http://www.jaish.gr.jp/anzen/gmsds/0183.html,2007.2.2.

[011.1.DOP:2007.2.13.古泉秀夫]