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『アルツハイマー病治療薬galantamineについて』

月曜日, 11月 12th, 2007

KW:薬名検索・ガランタミン・galantamine・レミニール・Reminyl・認知促進薬・アルツハイマー病・記憶障害・軽度知的障害

Q:アルツハイマー病治療薬galantamineについて

A:galantamineは、従来はヒガンバナ科の数種の植物、オオマツユキソウ(学名:Galanthus elwesii)、スズランスイセン(学名:Galanthus elwesii Hook)等から抽出された天然成分であったが、現在使用されているgalantamineは合成により精製されたものである。
臭化水素酸ガランタミン(galanthamine hydrobromide)、別名:galantamine。
商品名:Reminyl(米・Janssen社)。Nivalin(オーストラリア・Waldheim)。治験記号:GP-37267(英・Shire)。C17H21NO3=287.36。CAS-1953-04-4and357-70-0(free)。剤型:錠剤・液剤・注射剤。

本品はcholinesterase(ChE)阻害薬(選択的acetylcholine esterase阻害薬)、またアロステリック・ニコチン性コリン系調節薬、認知促進薬に分類される。本品は中枢活動性のAChEを可逆的かつ非競合的に阻害し、acetylcholineの利用度を上げる。増加したacetylcholineの利用度は、記憶を調節する新皮質のコリン作動性神経の変性の一部を変性を一部補う。galantamineは天然植物から単離・抽出された三級アルカロイドで、当初スイス・Novartis社がアルツハイマー病治療薬として臨床を進めた。東欧、旧ソ連では非脱分極性筋弛緩剤の拮抗剤として筋ジストロフィー、筋無力症等で使用。英・Shire社が北米、日韓台、タイ、シンガポールを除く実施権を取得。マック・ファーラン・スミス社より天然資源から抽出したgalantamineの供給を受けていた。オーストラリアではワルツハイム社が天然galantamineを老年性アルツハイマー型認知症(SDAT)の適応で1994年に発売(商品名:ニバリン)した。ニバリンはgalanthamine hydrobromide 5mgを主成分とする錠剤とアンプル剤である。本品の合成特許は2000年4月にオーストリアのサノヘミア社が米特許商標から取得。生産の独占特許は2014年まで有効。米国では軽-中等度アルツハイマー病治療薬として1999年9月申請、2001年2月FDA認可(商品名:レミニール錠)。2001年7月液剤認可。2003年には1日1回投与の持続錠の承認を取得した。糖尿病治療薬との誤用を回避するため、商品名を『Reminyl』から『Razadyne』に変更するの発表がされたの報告。

ニコチン受容体を調節し、acetylcholineの作用を増強する。ニコチン系の調節は、ドーパミン、ノルエピネフリン、セロトニン、GABA及びグルタミン酸の遊離を増加することにより、他の神経伝達物質の作用も増強することがある。butylcholinesterase(BuChE)を阻害しない。また本品は成長因子を遊離するか、あるいはアミロイド^β蛋白による神経毒性を緩和する作用も報告されている。

適応症としてアルツハイマー病、他の認知症における記憶障害、軽度知的障害。症状を改善し、疾患の進行を遅らせることがあるが、変性過程を元に戻すことはない。基本の記憶や行動に何等かの改善が明らかになるのに、6週間近くかかることがある。変性過程の何等かの安定が明らかになるまで、何カ月もかかることがある。

本品の消失相除去半減期は約7時間であるため、1日2回の投与が必要である。注意すべき副作用としてAChEの末梢での阻害の結果、消化器系の副作用を生じうる。AChEの中枢での阻害は悪心、嘔吐、体重減少、睡眠障害に寄与していることがある。悪心、下痢、嘔吐、食欲不振、胃酸分泌亢進、体重減少。頭痛、ふらつき。易疲労感、抑鬱。危険な副作用として希にてんかん性発作、失神。

現在、国内では第III相臨床試験(ヤンセン)段階。2009年以降に発売予定。

1)仙波純一・訳:精神科治療薬処方ガイド;メディカル・サイエンス・インターナショナル,2006
2)山口 登・他:薬物療法概論-Alzheimer病治療薬を中心に-;日本臨床,61(増刊号9):566-570(2003)
3)治験薬一覧;New Current,17(28):25(2006.12.20.)
4)トライアルドラッグス-最新治験薬集;エルゼピアジャパン,2004-2005
5)海外情報;New Current,14(13):37-42(2003.6.10.)

[011.1.GAL:2007.2.5.古泉秀夫]

「キャベツの成分と甲状腺」

月曜日, 11月 12th, 2007

KW:相互作用・キャベツ・cabbage・アブラナ科・イソチオシアネート・isothiocyanate・グルコシノレート・芥子油配糖体・glucosinolate・progoitrin・ゴイトリン・goitrin・甲状腺・ヨウ素

Q:甲状腺の手術を受けることになっているが、キャベツの摂食は避けるようにとする指示があった。これはどのような理由によるのか

A:キャベツ(cabbage)はアブラナ科の1年草又は越年草で、双子葉植物離弁花である。原産国はヨーロッパで、学名:Brassica oleracea var. capitataである。

アブラナ科の植物について、以下の報告がされている。

セイヨウカラシナ(leaf mustard)、カラシナ(mustard)、クロガラシ(black mustard)等の葉や種にはシリニグリン等の芥子油配糖体が含まれている。芥子油配糖体は同じ植物内に含まれる酵素による加水分解でglucoseが取れて非配糖体(アグリコン; aglycone)となり、更にLossen転移という反応でイソチオシアネート(isothiocyanate)になる。isothiocyanateは刺激性が強く、多量に摂取すると中毒の原因になる。また、β位の水酸基を持つグルコシノレート(芥子油配糖体;glucosinolate=progoitrin)はisothiocyanateになった後環化ゴイトリン(goitrin)になる。isothiocyanateやgoitrinは甲状腺でのヨウ素の取り込みを阻害するので、甲状腺ホルモンの合成が阻害される。そのため多量の芥子油配糖体を長期間摂取すると、甲状腺腫になるとする報告がみられる。

ケール(kale)はアブラナ科の2年草又は多年草。学名:Brassica oleracea L.var.acephala DC.。地中海から小アジア地域原産のcabbageと同一種とされる植物であるが、cabbageと異なって結球しない。S-メチルシステインスルフォキシドを含有する。この物質は幾つかの化学反応を経てジメチルジスルフィドになるが、この物質は動物に溶血性貧血を起こす。S-メチルシステインスルフォキシドからジメチルジスルフィドを生成する反応はルーメン微生物で促進されるため、中毒は反芻家畜でのみみられる。kaleやcabbageによる牛や羊の中毒事例が報告されている。

glucosinolate類はアブラナ科、フウチョウソウ科、トウダイグサ科、ヤマゴボウ科、モクセイソウ科、ノウゼンハレン科の多くの植物に見いだされており、潰した組織にある刺激臭味の性状の要因となっている。その濃度は葉の組織よりも種子に高い。植物に含まれるglucosinolate由来の加水分解産物を摂取することにより甲状腺腫を誘導したり、甲状腺が肥大化するという証拠がある。菜種油(Brassica napus;アブラナ科)中のprogoitrinは加水分解によりオキサゾリジン-2-チオン(oxazolyzin-2-thion)であるgoitrinになる。これは強力な甲状腺腫誘発薬であり、ヨウ素の取り込みとチロキシン生成を阻害する。glucosinolateの甲状腺誘発活性は単にヨウ素を投与するだけでは軽減されない。

ブロッコリー(Brassica oleracea;アブラナ科)由来のsulphoraphaneの前駆体glucosinolateであるglucoraphaninは医薬用としての利点を持っており、癌誘発剤の解毒化酵素を誘発し、生体異物の除去を加速する。栽培期間の短い芽生えは成熟した植物体より10-100倍のglucoraphaninを含んでいる。

Goitrogen(甲状腺腫瘍誘発物質)は甲状腺肥大や甲状腺腫を引き起こす物質で、アブラナ科の植物のglucosinolateの他、何種類かの物質が知られている。例えばヒトではヨウ素欠乏と甲状腺肥大の関係で問題となるキャッサバ(Manihot esculenta;トウダイグサ科)のシアノグリコシド(cyanoglycoside)も甲状腺腫瘍誘発物質である。

glucosinolateを含む植物

十字花科 ニワナズナ、スズシロ、ハタザオ、イヌガラシ、ヤマガラシダイコン、アブラナ、シロカラシ、クジラグサ、ワサビ、ワサビダイコン、マガリバナ、グンバイズナ、ニオイアラセイトウ
ノウゼンハレン科  
モクセイソウ科  
フチョウソウ科  
トウダイグサ科  

その他、progoitrin自体は甲状腺肥大を起こさないが、植物組織を細断したり擂り潰したりすると植物細胞内にある酵素ミロシナーゼ(myrosinase)がprogoitrinを分解し、辛味物質とともにを作る。このgoitrinが甲状腺腫を起こすとされている。goitrinはかなり強力な甲状腺腫誘導物質で、他の甲状腺腫誘導物質はヨウ素の摂取で予防できるとされるが、goitrinはヨウ素の添加でも甲状腺腫発生作用抑制できないとされている。ただし、栽培品種の改良により食糧用や飼料用のアブラナ属植物のprogoitrin量はあまり問題とならないまで低くなっているとされる。cabbage、broccoli、芽キャベツ(sprout)について、芽キャベツを除き、progoitrin量含量は低くてあまり問題にならないとされている。

代表的アブラナ属植物中のglucosinolate量(mg/100g)

  goitrin glucobrassicin
cabbage 3.8(0.8-12.6) 29.5(4.5-97.1)
caulflower 2.3(0.0-10.1) 22.7(6.6-78.9)
sprout 47.8(12.5-129.6) 47.8(12.5-129.6)

日本を始め海洋国では海中のヨウ素が蒸発して 雨と共に地中に浸透しており全ての食品を介してヨウ素が豊富に供給されており、原則的に不足することはない。一方、海から遠い内陸国や急峻な山岳地帯では雨が少ないことや、水が急流のために地中に止まることがないため土中にヨウ素が含まれない。従って、野菜や家畜から食物連鎖で、ヨウ素を摂取することができない。世界人口の約半数がヨウ素不足に悩まされているのが現状である。スイス、カナダ、米国などでは、食塩にヨウ素を加えることを法的に義務づけ、甲状腺ホルモン不足に対処している。

以上の報告からアブラナ科(十字花科)に属するcabbage等の含有成分として、甲状腺でのヨウ素の取り込みを阻害するisothiocyanate、goitrinが存在することは事実であるが、ヨウ素が豊富に供給されている我が国では、cabbage等の摂取によって、必ずしも甲状腺肥大や甲状腺腫を惹起するとは限らないと考えられる。また『多量の芥子油配糖体(glucosinolate)を長期間摂取すると甲状腺腫になる』とされているが、極端な偏食をしない限り、影響は出ないのではないかと考えられる。

1)清水矩宏・他編著:牧草・毒草・雑草図鑑;(社)畜産技術協会,2005
2)海老塚豊・監訳:医薬品天然物化学 原書第2版;南江堂,2004
3)リクガメのための栄養学入門;http://web.shinonome.ac.jp/%7Emiyada/kame.html,2006.10.3.
4)堀内清:体に必要な微量元素の話;千葉県衛生研究所情報Health 21(6),2002.1.15.
5)第一出版編集部・編:日本人の食事摂取基準[厚生労働省策定] 2005年版;第一出版,2006

                                            [015.2.CAB:2006.10.31.古泉秀夫]

「成人インフルエンザ患者への解熱剤投与」

月曜日, 11月 12th, 2007

KW:薬物療法・インフルエンザ・解熱剤・バイアスピリン錠・バファリン81mg錠・アスピリン・成人投与・小児投与

Q:小児のインフルエンザ患者に対する解熱剤の投与について、投与禁忌等の注意事項が見られるが、バイアスピリン、バファリン81mg服用中の成人患者の場合はどうか

A:バイアスピリン錠100mg(バイエル薬品)及びバファリン81mg錠(ライオン)の添付文書中に記載されている禁忌・使用上の注意等は下記の通りである。

商品名 バイアスピリン錠100mg バファリン81mg錠
成分 aspirin aspirin
禁忌

1.本剤成分又はサリチル酸系製剤に対し過敏症の既往歴者。
2.消化性潰瘍のある患者。
3.出血傾向のある患者。
4.アスピリン喘息又は既往者。
5.出産予定日12週以内の妊婦。
6.低出生体重児、新生児又は乳児。

重要な基本的注意 1.サリチル酸系製剤の使用実態は我が国と異なるものの、米国においてサリチル酸系製剤とライ症候群との関連性を示す疫学調査報告があるので、本剤を15歳未満の水痘、インフルエンザの患者に投与しないことを原則とするが、やむを得ず投与する場合には、慎重に投与し、投与後の患者の状態を十分に観察すること[ライ症候群:小児において極めて稀に水痘、インフルエンザ等のウイルス性疾患の先行後、激しい嘔吐、意識障害、痙攣(急性浮腫)と肝臓ほか諸臓器の脂肪沈着、ミトコンドリア変形、AST(GOT)・ALT(GPT)・LDH・CK(CPK)の急激な上昇、高アンモニア血症、低プロトロンビン血症、低血糖等の症状が短期間に発現する高死亡率の病態である]。
使用上の注意-小児等への投与

.低出生体重児、新生児又は乳児-錠剤の嚥下不能。
2.幼児には本剤の嚥下可能確認後慎重投与。
3.小児等-易副作用発現-患者の状態観察慎重投与。川崎病の治療において肝機能障害報告-適宜肝機能検査。
4.15歳未満の水痘、インフルエンザ患者に投与しないことを原則-やむを得ず投与する場合、慎重投与。投与後患者の状態十分観察。
5.本剤投与中の15歳未満の川崎病患者が水痘、インフルエンザを発症した場合、投与中断を原則とするが、やむを得ず投与継続の場合、慎重投与。投与後患者の状態十分観察。

バイアスピリン錠100mg及びバファリン81mg錠は、いずれもaspirinの製剤であり、添付文書の記載事項は同様である。なお、成人に関するinfluenza virus感染症とaspirin投与の関係は添付文書中に何等記載されていない。

「ライ症候群とサリチル酸系製剤の使用について」は、医薬品等安全性情報 151号(平成10年12月24日)において、次の通り報告されている。

ライ症候群は、昭和38年にオーストラリアの病理学者Reyeにより最初に報告された症候群であり、主として小児においてインフルエンザ、水痘等のウイルス疾患に罹患した後激しい嘔吐、意識障害、痙攣(急性浮腫)と肝臓ほか諸臓器の脂肪沈着、ミトコンドリア変形、AST(GOT)・ALT(GPT)・LDH・CK(CPK)の急激な上昇、高アンモニア血症、低プロトロンビン血症、低血糖等の症状が1週間程度発現する病態で、その発生は稀であるが、予後は不良である。

昭和57年米国においてサリチル酸系製剤、特にaspirinの使用とライ症候群の関連性を疑わせる疫学調査結果が報告された。

ライ症候群の発症とその使用における関連性については、aspirin以外のサリチル酸系製剤では必ずしも明らかでないが、他のサリチル酸系製剤がaspirinと類似の構造を有していることなどから、これらaspirin以外のサリチル酸系製剤についても、念のためサリチル酸系製剤とライ症候群の関連性について、使用上の注意改訂により改めて一層の注意喚起を行い、所要の措置を講じることが適当と考えられる。

上記注意喚起以後も、解熱鎮痛剤を投与された患者で意識障害、痙攣等の脳症状(ライ症候群と確定されないものも含む)が発生した症例が報告されているため、サリチル酸系製剤を含む解熱鎮痛剤全般について確認したところ、平成11年1月以降にaspirin等を含有するサリチル酸系製剤が投与された小児でライ症候群症例が3例あった。またそれらのうち2例は、サリチルアミドを含有する総合感冒薬が投与されたものであった。

日本小児科学会では、平成12年11月に、小児のインフルエンザに伴う発熱に対して使用するのであればacetaminophenが適切であり、非ステロイド系消炎剤の使用は慎重にすべきであるとする見解を公表した。

その他、diclofenac sodium、mefenamic acidについては、小児における「インフルエンザの臨床経過中の脳炎・脳症」患者に対する投与は禁忌とされている。なお、成人についてはインフルエンザ脳症を発症する頻度は低いと報告されているが、脳症発症時には同様に注意が必要であると考えられる。

但し、成人のインフルエンザに対する解熱剤投与に関して、特に勧告が出されたとする報告は見られないため、使用の可否判断はあくまで医師の裁量による。

 

1)バイアスピリン錠100mg添付文書,2006.4.改訂
2)バファリン81mg錠添付文書,2006.4.改訂
3)医薬品等安全性情報 151号,1998.12.24.
4)医薬品・医療用具等安全性情報 167号,2001.6.27.
5)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2006
6)山口 徹・総編集:今日の治療指針;医学書院,2006

                                                  [035.1. REY:古泉秀夫,2006.9.5.]