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苦汁(ニガリ)の毒性

金曜日, 11月 30th, 2007
対象物 にがり(bittern)
成分

ニガリ100g中
MgSO4(硫酸マグネシウム):5.2-8.8g
MgBr2(臭化マグネシウム):0.5-0.3g
MgCl2(塩化マグネシウム):10-23gKCl(塩化カリウム):2-3g
NaCl(塩化ナトリウム):0.1-10g
全塩類:27-34g。
微量成分としてCu、Zn、Pb、Al、Fe、Mn、Mo、Bなどが0.06-2.2mgL-1 の桁で存在する。

一般的性状

別名:苦汁、苦塩。
天然の苦汁は、海水を濃縮して食塩を晶出した後の苦味を持つ残液である。成分としてマグネシウム塩を多く含み、苦味を持つので苦汁の名前がある。製塩の副産物で、食塩1t当たり360-500Lのニガリが出来る。ニガリの組成は食塩を晶出させるときの温度(15-32℃)により著しく影響を受け、また晶出時の濃度、比重、貯蔵期間によっても異なるがマグネシウム塩、臭素、カリウム塩等の製造原料や豆腐製造の際の豆乳の凝固剤として用いられる。

硫酸マグネシウム(magnesium sulfate):局・食添収載。抗痙攣、寫下薬。無色-白色の結晶。水又はグリセリンに溶け易く、エタノールにはやや溶け難い。苦味、清涼味及び塩味。
内服で腸管から吸収され難く、腸管の水分吸収を阻害するため中毒、急性腸炎、駆虫薬内服後などに下剤として用いる。またテタニー、破傷風などの痙攣に皮下・静脈投与する。食品では、水硬化剤、醗酵助成剤などに用いる。少量のマグネシウムは普通胃腸管より吸収される。マグネシウムの腸管からの吸収率は20 -40%程度で、残りは糞便中に排泄される。吸収されたマグネシウムは速やかに血中に移行し、血清中では約80%がイオン形である。通常1回8g、1日 15g(緩下薬)。
臭化マグネシウム(magnesium bromide):潮解性で水に易溶。
塩化マグネシウム(magnesium chloride):食添収載。無色-白色結晶、塊、粒又は片。食品製造用剤として、豆腐の凝固剤、清酒製造時の無機塩の補給源、醗酵補助剤として用いられる。塩化マグネシウムを苦汁とする報告もある。
塩化カリウム(potassium chloride):局・食添収載。無色又は白色の結晶あるいは結晶性の粉末で、無臭、味は塩辛い。水に溶け易く、エタノールに殆ど溶けない。医薬品、工業原料、肥料に用いる。カリウム補給薬。カリウム欠乏に対しカリウムを補う目的で用いられる。リンゲル液の構成成分である。また利尿薬として用いられる。
食品では、調味料として各種食品その他家庭用塩味料、スポーツドリンクなどに使用される。
塩化ナトリウム(sodium chloride):食塩。局・食添収載。無色又は白色の結晶。味は塩辛く、水に溶ける。生体内に普遍的に存在する無機質で、主として細胞体外液にあって体液浸透圧維持の主体をなす。0.9%水溶液は温血動物体液と等張である。吸収:経口、直腸、皮下投与でも速やかに吸収。排泄:90-95%が尿中に排泄。

毒性

苦汁(bittern):天然苦汁について、総体としての毒性は報告されていない。配合成分は100を超えるとされているが、その詳細は不明のため、代表的
成分とされる成分の毒性について調査した。なお、magnesiumの過量は中枢抑制、心筋及び骨格筋の興奮伝導の障害を来し、昏睡に陥るとする報告がある。
硫酸マグネシウム(magnesium sulfate):急性毒性LD50(イヌ)静注・脊椎腔0.5-1.0g/kg。内服又は直腸内適用によって稀ではあるが中毒を惹起し、死に至ることもある。腎障害者の経口致死量:30g。過用量は嘔吐と腹痛を起こし、水様下痢を伴うことがある。
臭化マグネシウム(magnesium bromide):具体的な報告例なし。
塩化マグネシウム(magnesium chloride):大量に服用すると下痢を起こす。苦汁中に20-30%の本品が含まれている。
塩化カリウム(potassium chloride):急性毒性LD50(ラット)経口3.02g/kg、亜急性毒性(イヌ、経口1日5-10mmol/kg)異常なし。慢性毒性(ラット、経口2.5%KCl液)15-30日間投与で副腎皮質における進行性肥大や機能亢進を生ずる。
塩化ナトリウム(sodium chloride):ヒト推定致死量:0.5-5g/kg(1-3g/kg)。致死的ナトリウム血中濃度:185mEq/L以上。中毒症状発現量:0.5 -1g/kg(成人:30g=茶匙1.5-2杯)。中枢神経症状発現ナトリウム血中濃度:150-160mEq/L。

症状

硫酸マグネシウム(magnesium sulfate):硫酸マグネシウム約200gを摂取後、意識不明。体温低下、蒼白、うとうと状態で入院。浣腸による吸収例で、口渇、昏睡と呼吸麻痺を起こすことがあり、ついで弛緩麻痺、低血圧と呼吸麻痺が起こる。新生女児が硫酸マグネシウム50g/100mL水溶液浣腸、90分後に呼吸停止、2日後に死亡した例で、脳浮腫と多くの脳領域の出血性壊死が死後解剖で見られた。magnesium主症状:低血圧、不整脈、脱力、呼吸抑制。
臭化マグネシウム(magnesium bromide):具体的報告例なし。
塩化マグネシウム(magnesium chloride):magnesium主症状:低血圧、不整脈、脱力、呼吸抑制。
塩化カリウム(potassium chloride):通常、悪心、嘔吐、下痢、代謝性アシドーシス、心拍不整を起こす。消化管粘膜に対する局所作用は潰瘍形成、狭窄、穿孔などがある。一過性の心停止が見られる■塩化ナトリウム(sodium chloride):症状は数時間以内に発現。嘔吐、下痢、口渇、頭痛、発熱。呼吸器系(過呼吸。体内水分の貯留によって肺水腫を来たし、呼吸停止に至る)、循環器系(頻脈、低血圧、後に脳浮腫、末梢の浮腫を来す)、神経系(興奮、眩暈、痙攣、昏睡)、その他(尿細管壊死による腎障害)。

処置

硫酸マグネシウム(magnesium sulfate):人工呼吸、10%-グルコン酸カルシウム(10mL)を緩徐に静注。又は1%-塩化カルシウムを注意深く、緩徐に静注する。フィゾスチグミン2mgの皮下注射、保温、多量の液体を経口摂取させる。magnesium治療:心電図モニターし、10%-グルコン酸カルシウム0.2-0.5mL/kgを投与、血液透析が有効。
臭化マグネシウム(magnesium bromide):臭化マグネシウムに対する処置方法については不明。

塩化マグネシウム(magnesium chloride):magnesium治療:心電図モニターし、10%-グルコン酸カルシウム0.2-0.5mL/kgを投与、血液透析が有効。
塩化カリウム(potassium chloride):1時間以内に胃洗浄。重炭酸ナトリウムで代謝性アシドーシスの是正。グルコン酸カルシウムの静注で心停止の予防。デキストロースの点滴、腎機能低下には利尿剤あるいは透析。
塩化ナトリウム(sodium chloride):?催吐(摂取後30分-2時間以内は有効)、?12時間以内であれば、5%-dextrose静注による排泄促進。?血中のナトリウム濃度の上昇を防ぎ、痙攣、低血圧、ショック対策。活性炭には吸着しないので無効。小児には腹膜透析が有効。

事例

神奈川県相模湖町の知的障害者更生施設「県立津久井やまゆり園」(新井昌明園長)で、入所者の女性(56)が職員から誤ってにがりの原液を飲まされた後、意識不明の重体になっていることが29日、わかった。県によると、同園では便秘症状の改善のため、女性ににがりの原液を2.5%に薄めて毎朝飲ませていた。 26日午前6時ごろ、女性職員がにがり液を飲ませたところ、ぐったりとしたため病院に搬送したが、自発呼吸が止まり、意識不明となった。
女性職員が、冷蔵庫に入っていたにがりの原液と、水で薄めたにがり水を取り違えたらしい [読売新聞,45984号,2004.3.30.]。2.5%稀釈液と思い込み、40倍濃度の原液200ccを飲ませた。
[毎日新聞,2004.3.29.]。海水から作るにがりを誤飲。脳幹部梗塞の診断 [共同通信,2004.3.29.] 。
神奈川県相模原市相模湖町の知的障害者施設「県立津久井やまゆり園」で2004年、入所女性に誤って高濃度の「にがり原液」を飲ませて死亡させたとして、津久井署は20日、当時の女性職員を業務上過失致死の疑いで横浜地検に書類送検した。調べによると、職員は2004年3月26日、同施設で便秘解消のため、女性に「にがり希釈液」200mLを飲ませる際、誤ってほぼ同量の原液を飲ませ、高マグネシウム血症が原因の低酸素脳症で約1カ月後に死亡させた疑い。職員は冷蔵庫にあった原液を間違えて飲ませたという[読売新聞,第47038号, 2007.2.20.]。

備考

いわゆる『健康食品』を、個人の意志で購入して摂取することについて、第三者が異論を差し挟む筋合いはない。しかし、苦汁の場合は、含有する成分は医薬品として使用されているものであり、素人判断で第三者が飲用を勧めていたとすれば問題である。更に飲用の目的が便秘改善ということであれば、それは医療行為であり、医師の診断を得て、医師の処方に基づいて対応すべきである。苦汁については、テレビの娯楽健康番組が、苦汁痩身法などとにぎにぎしく取り上げているが、だからといって安全性が保証されているわけではないので、飲用に際しては注意が必要である。

文献

1)志田正二・代表編:化学辞典,森北出版株式会社,1999
2)薬科学大辞典 第2版;広川書店,1990
3)古泉秀夫・編著:健康食品Q&A;じほう,2003
4)鵜飼 卓・監修:第三版 急性中毒処置の手引き;薬業時報社,1999
5)白川 充・他共訳:薬物中毒必携;医歯薬出版株式会社,1989
6)山口 徹・総編集:今日の治療指針;医学書院,20047)大阪府病院薬剤師会・編:全訂医薬品要覧;薬業時報社,1984

調査者 古泉秀夫 記入日 2004.4.8.・2007.2.21.改訂

「はしりどころ(走野老)の毒性」

金曜日, 11月 30th, 2007

対象物 はしりどころ(走野老)
成分

硫酸アトロピン、臭化水素スコポラミンの原料とする。
ロート根は、毒性の強いトロパンアルカロイド約0.2%を含み、その主成分はヒヨスチアミン(hyoscyamine)、アトロピン(atropine)で、その他ノルヒヨスチアミン、ノルアトロピン、スコポラミン(scopolamine)などが含まれている。

一般的性状

Scopolia japonica Maxim.ナス科(Solanaceae)はしりどころ属の多年草。葉は互生、長楕円形で全辺。早春、葉先に紫褐色鐘状の花を単生する。各地の林下・渓側の半陰地に生じ、全草有毒。根茎をロート根、葉をロート葉といい、鎮痛薬とする。本州、四国、九州に分布する。

薬用部分:根茎と根[莨宕根<ロウトウコン>、ロートコン(局)]。                 

薬効と薬理:ロート根は局方に収載されており、ロートエキス又は硫酸アはしりどころトロピンの原料になる。ロートエキスは消化液分泌抑制、鎮痙作用があり、胃酸過多、胃痛、胃・十二指腸潰瘍などに内服される。

別名:オキメグサ、ユキワリソウ、 莨宕(漢名)

ハシリドコロは全草、特に根茎に有毒成分が多く、誤って食べると興奮、狂躁状態を引き起こし、 遂に昏睡して死に至る。ただし、植物中のalkaloid含量は、生育条件や時期によって異なるので、摂取量と症状を関連付けることは難しい。

毒性

根茎にl-ヒヨスチアミンを主とするアルカロイド約0.3%、葉に約0.15-0.4%含有する(ヒヨスチアミンのラセミ体がアトロピンで、アトロピンの抗ムスカリン作用はl-ヒヨスチアミンの約50%である)。スコポラミン:経口中毒量 3-5mg、アトロピン:経口推定致死量 小児:10-20mg、成人:約100mg。マウス(経口)LD50:548mg/kgただし、小児では10mg以下の致死例もあり、成人では1gの服用でも回復例あり。

ハシリドコロの全草のアトロピン含有量は1.58mg、スコポラミンは0.33mgで推定摂取量9.6mg(5株)では口渇、まぶしがり、顔面紅潮、幻覚、意識障害、推定摂取量2.9mg(1.5株)では口渇、まぶしがり、顔面紅潮、推定摂取量1.9mg(葉1枚)では口渇。ネオスチグミンを投与したところ6時間後に、幻覚症状、意識レベルは改善した。

症状

経口:30分程度で口渇が発現し、体のふらつき、嘔気、倦怠感、眠気、散瞳、遠近調節力や対光反射の消失(羞明感や眼のちらつき)。発汗が抑制され、皮膚が乾燥し、熱感を持つ。特に小児の場合には、顔面、首、上半身の皮膚の紅潮を見る。また体温が上昇する。やがて興奮が始まり、痙攣、錯乱、幻覚、活動亢進などが見られる。重篤な場合には、昏睡から死に至る。血圧上昇、頻脈が見られるが、末期には血圧低下、呼吸麻痺を来す。

眼:ハシリドコロに触れた手で眼をこすると、瞳孔が開き、眩しくて眼が開けられなくなるときがある。

処置

分布容量が強く、肝による代謝と尿への排泄が速いため、血液透析や腹膜灌流は有効ではない。
基本的措置:消化管の蠕動が抑制されるため、摂取後24時間以内であれば、催吐、胃洗浄、活性炭と下剤の投与。
拮抗剤:フィゾスチグミン(国内未発売-院内製剤)2mgを緩徐に静注。必要であれば20分程度経過後に1-2mg追加。小児では0.5mgを使う。
対症療法:膀胱の弛緩性麻痺が起こるため、尿閉となり、しばしば導尿の必要がある。
硫酸アトロピン:皮膚、粘膜、腸管から速やかに吸収されるが、胃からは吸収されない。Tmax:1時間、T1/2:13-38時間、蛋白結合率:50%、排泄:尿中85-90%/24時間。

事例

「これは大久保様、よいところに………」
吉川夫婦から責められて困っていたといった。
「森山家の奥方が、はしりどころの毒に当たったと、手前が申したのを撤回せよと申されるのです。」
おいまが金切り声を上げた。
「わたしが持って参りましたのは、蕗の薹でございます。はしりどころなどではございません」
新八郎が、その場にそぐわない、のどかな調子で訊いた。
「はしりどころ、とは、なんです」[平岩弓枝:はやぶさ新八御用帳(六)春月の雛-冬の蛙;講談社文庫,1997]

備考 山菜と間違えて誤食し、中毒症状が出た場合、走り回るということではしりどころの名前が付いているようであるが、国語辞典で引いた所、はしりどころとする見出し語は見当たらなかったが [三省堂・新解明国語事典第五版、新潮現代国語辞典第二版]、引き方が悪いのか国語辞典に収載するほどの言葉ではないのか。はしりどころの漢名の莨宕(宕は草冠)については、『1826年(文政9年)に土生玄碩(ハブゲンセキ)が、将軍家から拝領した葵の紋服と引き替えにシーボルトから教えてもらった開腫薬がこれだったというのは有名な話し』とされているが、莨宕でも国語辞典では検索できなかった。世間一般に知られているが、辞典には拾い上げられていないという言葉は幾らでもあるのだろうが、毒草としてよく知られている植物だと思っていただけに以外。
文献

1)薬科学大辞典 第2版;広川書店,1990
2)大塚恭男:東西生薬考;創元社,1993
3)松本 黎:毒草の誘惑;講談社,1997
4)三橋 博・監修:原色牧野和漢薬草大図鑑;北隆館,1988
5)鵜飼 卓・監修:第三版 急性中毒処置の手引き;薬業時報社,1999
6)西 勝英・監修:薬・薬物中毒救急マニュアル改訂6版;医薬ジャーナル社,2001
7)内藤裕史:中毒百科 改訂第2版;南江堂,2001

調査者 古泉秀夫 記入日 2004.8.28.

「マンドロガの毒性」

木曜日, 11月 29th, 2007
対象物 マンドロガ。マンドラゴラ(mandragora)・マンドラケ(mandrake)。
成分

この植物の根にはソラヌムアルカロイド(ナス科アルカロイド:solanumalkaloid)の1種、マンドラゴリンが含まれている。
ナス科植物であるマンドレーク(mandrake)には、トロパンアルカロイド(tropane alkaloid)として、主にヒヨスチアミン(hyoscyamin)とヒヨスチン(hyoscine=scopolamine)が含まれるが、現在では殆ど使用されていない。

一般的性状

マンドラゴラ(マンドレイク、マンダラケ)。

ナス科コイナス属。学名:Mandragora officinarun L.。[英]mandrake、Loveapple。mandragora、european mandrake。[独]Mandragora。[仏]mandragore。[ラ]Mandragora officinarum。

ナス科(Solanaceae)マンドラゴラ属の有毒植物である。ヨーロッパの地中海沿岸地方に分布し、昔は貴重薬として栽培された多年草。薬用部分:根。昔は分岐した太い根を調製し、人形に作った。

成 分:根にはalkaloidのatropine、apoatropine、scopolamine、hyoscyamin、ベラドニン(belladonine)、cuscohygrineなどと脂肪油を含む。種子には22.1%の蛋白質と、22.6%の脂肪分を含む。

薬効・薬理:mandragoraの作用は主としてalkaloidに由来するもので鎮痛、鎮静、瞳孔散大、瀉下などの作用がある。mandragoraは解熱、鎮痛、催吐、幻覚、寫下薬として使用されたが、毒性が激しいため現在では薬用に使用されることはほとんどない。その他:mandragoraは古くから催淫薬、催眠薬として知られており、旧約聖書の創世記にも“恋なすび”の名称で収載されている。ギリシャ、ローマでは手術時の麻酔薬として使用し、またリウマチや吐き気にも用いられた。中世の暗黒時代には幻覚を生ずる薬草として魔法の儀式に乱用された。中近東では長い間、不妊の女性が妊娠を望んで家の軒にmandragoraの根をつるしたとされる。

European mandrakeは催眠薬、万能薬、媚薬として複雑な歴史を持つ。mandrake採集には、mandrakeを地面から抜くと、聞こえてくるこの世のものとは思えない叫び声のため、採集者が発狂する。またその根を引き抜くには、まず肉を投げ、飢えた犬をおびき寄せ、この犬を根に結びつけて引き抜かせればよいというような民話や迷信が存在する。根塊が二股に分かれていることが多く、漠然と男、あるいは女に例えられている。ものの形状はその特性を表すとする中世の解説書では、催淫薬としての効果が取り上げられているが、薬学的には催淫薬としての効果より鎮痛薬としての効果の方が高いと考えられる。古典的には魔女の催淫剤などの伝説が語られている。

マンドラゴラ・オータムナリス

(Mandragora autumnalis Bertol )。mandragoraは英語ではマンドレーク(mandrake:強い男)ともいい、日本では「恋茄子(恋なすび)」ともよばれる。一般に薬用のmandragoraは、Mandragora officinalisであるが、非常によく似た別種のMandragora autumnalisもある。花の色がより濃い紫色であることから black mandrakeとも呼ばれている。また、M. officinalisは春に花を咲かせるのでspring mandrake、M. autumnalisは秋から冬に花を咲かせるのでautumn mandrakeと呼ばれることもある。さらに、園芸家の間では、mandragoraには男と女があるという伝説に因みM.autumnalisはウーマンドレーク(womandrake:強い女)と呼ばれている。M.autumnalisは、緑のロゼットの中心に紫色の釣鐘形をした美しい花を多数咲かせる。東部地中海地域原産の多年草で、M.officinalisと同様にatropine、scopolamine、hyoscyaminなどのtropane alkaloidを含み有毒植物である。

毒性

*atropine
経口推定致死
小児:10-20mg、成人:約100mg。ただし、小児では10mg以下の致死例もあり、成人では1g服用でも回復例がある。
吸収:皮膚、粘膜、腸管から速やかに吸収し、胃からは吸収しない。
分布:血中から速やかに消失し、体内に分布する。蛋白結合率:50%、分布容量:2.3L/kg。
排泄:8時間で80%、24時間で94%が尿中へ排泄される。30-50%が未変化体で、2%以下が肝臓で代謝される。
中毒学的薬理作用:アセチルコリンに対する競合的拮抗作用による副交感神経遮断作用と中枢神経系への初期の軽い抑制、引き続く刺激作用が見られる。
*scopolamine
経口中毒量:3-5mg

症状

経口:30分程度で口渇が現れ、体のふらつき、嘔気、倦怠感、眠気。

▼散瞳、遠近調節力や対光反射の消失(羞明感や眼のちらつき)

▼発汗が抑制され、皮膚が乾燥し、熱感を持つ。特に小児の場合には、顔面、首、上半身に皮膚の紅潮を見る。また体温が上昇する。やがて興奮が始まり、痙攣、錯乱、幻覚、活動亢進などが見られる。重篤な場合には昏睡から死に至る。

▼血圧上昇、頻脈が見られるが、末期には血圧低下、呼吸麻痺を来す。

処置

発熱には強力な低体温療法。水、電解質の補正。

腸蠕動麻痺にはネオスチグミン0.5-1.0mg皮下又は筋注。

血液交換や血液吸着は血中アトロピン除去に有効である。neostigmine methylsulfate 0.5mg/mL・2mg/4mL [ワゴスチグミン注(塩野義)]。その他「消化管の蠕動運動が抑制されるため、摂取後24時間以内であれば、催吐、胃洗浄、活性炭と下剤の投与」とする報告も見られる。*活性炭 50gを微温湯300-500mL(小児では1g/kgの活性炭を生理食塩水10-20mL)に溶解し、坐位で服用。その後半量を3時間毎に24時間まで繰り返し投与。下剤としてD-ソルビトール液(75%)2mL/kgを投与し、6時間後に排便がなければ半量を繰り返し使用(保険適用外)。

事例

重蔵は上の二つを閉じ、いちばん下の入れ子を示した。ざらめのような、大粒の粉薬がいっている。
「これはなんだ」
「頭痛、歯痛など、いろいろな痛みを抑える薬でございます」
「なんという薬か、存じておるか」
「いえ、名前は存じませぬ」
重蔵はじっともよを見つめてから、おもむろに言った。
「これはイスパニア渡来の、マンドロガという秘薬だ。いささか、不都合な薬効があるため、お上のご禁制品に指定されておる。つまり、市中に出回るはずのない薬、ということだ。それを、なぜその方が所持いたしておるのか、ありていに申してみよ」 [逢坂 剛:重蔵始末-猫首;講談社文庫,2004]。

備考

小説に出てくる『マンドロガ』は、ロシアの田舎町の名前として検索できるが、薬物としては検索できなかった。しかし、文中に書かれている『マンドロガ』の作用は、明らかに『マンドラゴラ』を意識したものであると推定した。『マンドラゴラ』は種々の物語に取り上げられているが、実像よりは誇張された虚像の方がよく知られている植物だといえる。最大の虚像は引き抜く時に叫び声を上げるというものであるが、ある意味では毒草としての『マンドラゴラ』を無闇に使用しないようにという、規制目的での誇張的話だったのかも知れない。『マンドラゴラ』の使用は、人類の歴史的には相当古くから使用されていたということのようであるが、本来の薬理作用とは異なった使用法であり、効果は得られなかったのではないかと思われる。なお、小説では毒殺目的で使用したわけではなく、主人公の蘊蓄を知らしめるために出してきたような気がするが、物語の展開上は重要な小道具であるといえる。

文献

1)薬科学大辞典 第2版;広川書店,1990
2)舟山信次:図解雑学 毒の科学;ナツメ社,2004
3)奥本裕昭・訳:イギリス植物民俗事典;八坂書房,2001
4)海老塚豊・監訳:医薬品天然物化学 原書第2版;南江堂,2004
5)http://www.nippon-shinyaku.co.jp/ns07/ns07_01/index.html ,2005.2.10.
6)三橋 博・監修:原色牧野和漢薬草大図鑑;北隆館,1988
7)鵜飼 卓・監修:第三版 急性中毒処置の手引き;薬業時報社,1999
8)山口 徹・総編集:今日の治療指針;医学書院,2005
9)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2004

調査者 古泉秀夫 記入日 2005. 2.11.

医療関連略号集

水曜日, 11月 28th, 2007
略 号 起 源 意 味
ADR adverse drug reaction [アドバース・ドラッグ・リアクション]。『副作用』。 副作用の定義については、まだ一定したものはなく、各国でかなり広い範囲で用いられている。厚生労働省の副作用調査対象としての定義は『医薬品の副作用とは、医薬品を通常の方法で使用した場合に、発現する人体に対して好ましからざる作用で、使用時に予期しえなかったもの、及びその他発現した人体に対して好ましからざる作用』 としている[石橋丸應:図説医療用語辞典;薬事新報社,1984]。
adverse reaction→[過量投与]、特異体質、過敏反応等を含めた作用(広義の副作用)。
side effecs→治療上好ましからざるものであるが、避けられない作用(狭義の副作用)。
ADE adverse drug events [アドバース・ドラッグ・エベント]。有害事象。有害事象は、自覚症状、臨床的な徴候・所見、臨床検査値の変動など多岐にわたって発現する可能性(不利益な薬の出来事)(1。
ADME absorption,distribution,metabolism(biotransformation),excretion [アブソープション・ディストリビューション・メタボリズム(バイオトランスフォーメイション)・エクスクレーション]。医科薬理学は人体と相互に作用する化学物質の科学である。その相互作用は薬力学・薬物動態学の二つに分類されるが、薬物動態学で研究する分野として『吸収・分布・代謝(体内変化)・排泄』の4項目があげられている。▼?吸収:経口投与された薬物は腸壁を通過しなければ血流には入れない。吸収過程は多くの因子によって影響されるが、通常は薬物の脂溶性に比例する。従って非イオン化分子は、イオン化されて水分子に囲まれている分子よりはるかに脂溶性で、吸収されやすい。薬物は大きな表面積をもつ小腸から主に吸収される(胃腸管から吸収された薬物は、門脈系に入り、ある薬物は肝を通過する際、著しく代謝される-初回通過効果)。▼?分布:薬物の体内分布は、薬物が循環(血流中)に達すれば起こる。t1/2は、血中濃度が元の値の半分に下がるに要する時間である。経口で容易に吸収されるほど十分に脂溶性である薬物は、速やかに体液区分に分布する。▼?代謝(体内変化):薬物代謝の主要器官は肝であるが、胃腸管、肺のような他の器官もかなりの代謝作用を示す。経口投与された薬物は通常、小腸で吸収され、門脈系に入り、肝で著しく代謝される。これは初回通過代謝と呼ばれる。これは肝代謝のみに限定されない。第I相反応:最もよく見られる反応は酸化である。比較的少ないが、他に還元、加水分解がある。第II相反応:通常、肝で起こり、薬物又は第I相代謝物と内因性物質との抱合を行う。生成抱合物は殆どの場合、活性が低下し、腎から排泄されやすい極性分子であるのが常である。▼?排泄:腎排泄-殆どの薬物の排泄は腎排泄である。薬物は糸球体濾過で出てくるが、脂溶性であれば腎尿細管の受動拡散で容易に再吸収される。薬物の代謝で脂溶性が低下すると化合物を生じ腎排泄を助ける。イオン化は尿細管液のpHに依存する。尿pHを操作することは、時に薬物の腎排泄の増加に役立つ。弱酸と弱塩基は、近位尿細管で能動的に分泌される。胆汁排泄-ある薬物は胆汁に濃縮され小腸に排泄され、再吸収される。この腸肝循環は体内薬物の持続性を高める。糞便中に排泄される。[斉藤秀哉・他:新薬理学講義;南山堂,1984・麻生芳郎・訳:一目でわかる薬理学 第3版;メディカル・サイエンス・インターナショナル,1997]
AM Alternative Medicine [オルタナティブ・メディシン]。『代替医療』。代替医学あるいは代替医療について『現代西洋医学領域において、科学的未見証及び臨床未応用の医学・医療体系の総称』(日本補完・代替医療学会)と定義しており、現代西洋医学の立場から代替医療を科学的に検証する[鈴木信孝:代替医療-国内の現状と海外の動向;日病薬誌,38(7):937-939(2000)]
AUT Actual Use Trial [アクチュアル・ユーズ・トライアル]。『使用実態治験』。OTC薬について、その薬が売られている状況下での使用成績が必要ではないかということで考えられている方法[INTERVIEW-新一般用医薬品の使用実態治験;医薬品情報学,3:60-65(2001)]。
CAM complementary and alternative medicine [コンプリメンタリー・アンド・オルターナティブ・メディシン]。『補完・代替医学』。1993年ハーバード大学に設置。現在米国の医学校約1/3に開設されている。カイロプラクティス(Chiropractic)治療師、ホメオパシー(homeopathy;同毒療法)治療師、鍼灸(acupuncturist)治療師等の治療法の科学的分析・検討及びハーブの薬効検討等がされる講座。[週刊医学界新聞;第2291号,1998.6.1・鈴木信孝:代替医療-国内の現状と海外の動向;日病薬誌,38(7):937-939(2000)]
CDC Centers for Disease Control and prevention [センターズ・フォー・デジース・コントロール・アンド・プリベンション]。『米国疾病防疫センター』。アメリカ防疫センター。アメリカ疾病管理センター。米疫病管理予防センター。
CDE Certified Diabetes Educator [セルチファイド・ダイアベテス・エデュケーター]。「認定された糖尿病教育者」であり、『糖尿病教育士』と訳される。認定を受けるためにはCDE試験に合格しなければならない。CDE試験の受験資格は、医師、看護師(registered nurse)、栄養士(registered dietitian)、薬剤師(registered pharmacist)として免許あるいは登録のある者又はヘルスケアの専門分野で修士課程を修了しているヘルスケア専門家。糖尿病教育に2年以上携わり、かつ糖尿病患者教育に直接従事した時間が2000時間以上である者。CDE試験を受けた者は、5年毎に試験を受け認定を更新する。5年間に700時間以上の単位を取得することを受験条件とするが、この単位は、講演会やAADE年次大会への参加、各地で開催される糖尿病教育コースへの参加などによって取得できる(8。
CJD Creutzfeldt-Jakob Disease [クロイツフェルド・ヤコブ・デジーズ]。CJDは、稀に見られる中枢神経系の致死的疾患である。CJDの症例の多くは孤発性で、その感染及び発症機序は不明である。CJDの5-10%は家族性で有り、また、角膜移植、硬膜移植及びヒト下垂体製剤使用等の医療行為による偶発的な感染が報告されている。CJD は10歳の若年者及び80歳の高齢者の症例が報告されているが、一般的には50歳から75歳の間に発症する。病原体は異常プリオンと呼ばれる蛋白質である。
CRC Clinical Research Coordinator [クリニカル・リサーチ・コーディネーター]。『治験コーディネーター』『臨床治験調整担当』。患者と医師、更に製薬会社との連絡役となり、治験の円滑な運営を支援する専門職能。看護師や薬剤師など、看護・薬物の知識を持つ専門職能が治験コーディネーターとなる事例が多い[井上道敏・監修:治験-あなたの疑問にお答えします;日本製薬工業協会,2002.1.10. ]。
CRO Contract research organization [コントラクト・リサーチ・オーガニゼーション]。『医薬品開発業務受託機関・臨床試験受託機関』。企業の委託を受け、業務の一部を代行する。治験の場合には製薬会社の依頼により、患者の基本条件の確認や治験を行う病院の紹介などの治験初期の申し込みセンターの業務も受託する[井上道敏・監修:治験-あなたの疑問にお答えします;日本製薬工業協会,2002.1.10. ]。
DRG Diagnosis Related Groups [ダイアグノウシス・リレイテッド・グループズ]。「疾患別定額払い方式」。1987年米国政府が関与して開始されたシステムで、疾病別の支払い方式。HMOや医療保険取扱い会社は、入院費や治療費等をDRGに定められた基準額を基に計算して支払う[週刊医学界新聞;第2288号,1998.5.11.]。
DSU Drug Safety Update [ドラッグ・セフティ・アップディト]。「医薬品安全対策情報」。(財)公定書協会と日本製薬団体連合会が共同で年10回、病院、診療所、薬局に発送している冊子。「使用上の注意」の改定など薬安指示書等が出された後、1カ月以内に医療機関に届くように発行されている。対象は、日本製薬団体連合会の安全対策情報部会に参加している製薬企業が製造または輸入している医療用医薬品[小澤 光・監修:新選繁用医療用語;株式会社薬事新報社,1995]。
EBM Evidence-based medicine [エビデンス・ベイスド・メディシン]。「科学的根拠のある診断・治療」。「根拠のある医療」
*限られた医療資源を効率的に活用し、医療の質と患者サービスの向上を図るためにはEBMの実現が不可欠であり、そのための手段として医療技術評価は重要であるとして、厚生省は平成8年より「医療技術評価の在り方に関する検討会」を設置、平成9年6月に報告書のとりまとめを行った。「医療技術評価」とは、健康増進、疾病予防、検査、治療、リハビリテーションや長期療養の改善のための保健医療技術の普及と利用の意思決定を目的として、個々の医療技術を適用した場合の効果・影響について、健康結果を中心とした医学的側面や経済的、社会的側面から総合的に評価する活動をいう[読売新聞,1998.4.21.朝刊社説・週刊医学界新聞;第2294号,1998.6.22]。
ED Ethical Drugs [エシカル・ドラッグス]。『処方薬・要指示薬・医療用医薬品』。医師の指導の下に用いなければ適切な効果を発揮することができないばかりでなく、危険を生ずるおそれのある医薬品。厚生労働大臣により指定。販売業者は医師、歯科医師又は獣医師からの処方せんの交付又は指示を受けた者以外に販売又は授与できない。
FDA Food and Drug Administration [フード・アンド・ドラッグ・アドミニストレイション]。アメリカの食品及び医療品行政の中枢部。医薬品や食品の許可、取締等を実施する機関[小澤 光・監修:新選繁用医療用語;株式会社薬事新報社,1995]。
GCP Good clinical practice [グッド・クリニカル・プラクティス]。『医薬品の臨床試験の実施の基準』に関する省令。
GLP Good laboratory practice [グッド・ラボラトリー・プラクティス]。「医薬品の安全性試験の実施に関する基準」。試験施設、実験者のレベルについて基準を設け、これらを規制して研究体制の整備向上を図ろうとするもの[小澤 光・監修:新選繁用医療用語;株式会社薬事新報社,1995]。
GMP Good manufacturing practice [グッド・マニュファクチャリング・プラクティス]。▼*『医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令』 [厚生労働省令第179号・平成16年12月24]。▼*『医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理の基準に関する省令』 [厚生労働省令第169号・平成16年12月17日]。▼■医薬品等の品質管理のために製造中の原料、試験、製造工程、設備等を総体的に管理するシステム。WHOが打ち出したもので、医薬品の品質管理の原則、医薬品の製造に関する規則、国際貿易の場の医薬品の品質に関する証明書制度の三つが柱になっている。
GPSP good postmarketing study practice2005年4月1日施行 [グッド・ポストマーケッティング・スタディ・プラクティス]。『医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令』▼?使用成績調査:製造販売後調査等のうち、製造販売業者等が、診療において、医薬品を使用する患者の条件を定めることなく、副作用による疾病等の種類別の発現状況並びに品質、有効性及び安全性に関する情報の検出又は確認を行う調査をいう。▼?特定使用成績調査:使用成績調査のうち、製造販売業者等が、診療において、小児、高齢者、妊産婦、腎機能障害又は肝機能障害を有する患者、医薬品を長期に使用する患者その他医薬品を使用する条件が定められた患者における副作用による疾病等の種類別の発現状況並びに品質、有効性及び安全性に関する情報の検出又は確認を行う調査をいう。

▼?製造販売後臨床試験:製造販売後調査等のうち、製造販売業者等が、治験若しくは使用成績調査の成績に関する検討を行った結果得られた推定等を検証し、又は診療においては得られない品質、有効性及び安全性に関する情報を収集するため、当該医薬品について法第14条又は法第19条の二の承認に係わる用法、用量、効能及び効果に従い行う試験をいう。▼次のような試験が製造販売後臨床試験に該当。

▼*腎機能障害を有する患者等特別な背景を有する患者での適正な使用方法を確立するための試験等[医療用医薬品の市販後調査等の実施方法に関するガイドライン;医薬安第166号・医薬審第1810号,平成12年12月27日厚生省医薬安全局安全対策課長・審査管理課長]。

GVP good vigilance practice▼2005年4月1日施行薬事法施行規則第253条第一項第一号イ(1)から(6)まで及びロ並びに第二号イに掲げる症例等▼一.次に掲げる事項:15日イ.次に掲げる症例等の発生のうち、当該医薬品又は外国で使用されている物であって当該医薬品と成分が同一性を有すると認められるもの(以下この項において「当該医薬品等」という。)の副作用によるものと疑われるものであり、かつ、そのような症例等の発生又は発生数、発生頻度、発生条件等の発生傾向が当該医薬品の添付文書又は容器若しくは被包に記載された使用上の注意から予測できないもの。▼(1)死亡、(2)障害、(3)死亡又は障害につながるおそれある症例、(4)治療のために病院又は診療所への入院又は入院期間の延長が必要とされる症例((3)に掲げる事例を除く。) 、(5) (1)から(4)までに掲げる症例に準じて重篤である症例、(6)後世代における先天性の疾病又は異常▼ロ.当該医薬品等の使用によるものと疑われる感染症によるイ(1)から(6)までに掲げる症例等の発生。▼二. 次に掲げる事項(前号に該当するものを除く。) 30日▼イ.当該医薬品の副作用によるものと疑われる前号イ(1)から(6)までに掲げる症例等の発生▼2.医療機器の製造販売業者又は外国特例承認取得者は、その製造販売し、又は承認を受けた医療機器について、次の各号に掲げる事項を知ったときは、それぞれ当該各号に定める期間内にその旨を厚生労働大臣に報告しなければならない。 [グッド・ビジランス・プラクティス]。『医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療機器の製造販売後安全管理の基準に関する省令』。
?安全管理情報:医薬品、医薬部外品、化粧品又は医療機器(以下「医薬品等」という。)の品質、有効性及び安全性に関する事項その他医薬品等の適正な使用のために必要な情報をいう。
?安全確保業務:製造販売後安全管理に関する業務のうち、安全管理情報の収集、検討及びその結果に基づく必要な措置(以下「安全確保措置」という。)に関する業務をいう。
安全確保措置:安全確保業務のうち、安全管理情報の収集、検討及びその結果に基づく必要な措置
?市販直後調査:安全確保業務のうち、医薬品の製造販売業者が販売を開始した後の6カ月間、診療において、医薬品の適正な使用を促し、薬事法施行規則第253条第一項第一号イ(1)から(6)まで及びロ並びに第二号イに掲げる症例等の発生を迅速に把握するために行うものであって、法第79条第一項の規定により法第14条第一項の規定による承認の条件として付されるものをいう。
医薬品情報担当者:医薬品の適正な使用に資するために、医療関係者を訪問すること等により安全管理情報を収集し、提供することを主な業務として行う者をいう。
医療機器情報担当者:医療機器の適正な使用に資するために、医療関係者を訪問すること等により安全管理情報を収集し、提供することを主な業務として行う者をいう。
第一種製造販売業者:法第49条第一項に規定する厚生労働大臣の指定する医薬品(以下「処方せん医薬品」という。)又は高度管理医療機器の製造販売業者をいう。
第二種製造販売業者:処方せん医薬品以外の医薬品又は管理医療機器の製造販売業者をいう。
第三種製造販売業者:医薬部外品、化粧品又は一般医療機器の製造販売業者をいう。
HMO Health Maintenance Organization [ヘルス-メンテナンス・オーガニゼイション]。「健康民間団体保険組織」。1965年米国のジョンソン大統領の大社会政策の下に制定された二つの公的医療保険制度メディケイド(貧困者補助保険:州と連邦政府が医療費負担。但し、ナーシングホームの入院前コストの52%支払うにとどめられている。)とメディケア(老齢者・身障者保険:65歳以上の老人と身障者に対し、州と連邦政府が費用負担。但し、急性期疾患とリハビリテーションの費用に限定。老人ホームの長期介護費用は支払われない)の対象者以外は、全て自費で保険会社等と契約することになっている。HMOは米国東部における契約機構。医療機関に対する支払いは、病院や医師との交渉により協定値段が決定される。これをmanaged care(管理医療)という[週刊医学界新聞;第2288号,1998.5.11.]
HTA Health Technology Assessment [ヘルス・テクノロジー・アセスメント]。『医療技術評価』。ヘルス・テクノロジー・アセスメントは、「技術の適用に伴う技術的・経済的・社会的結果を検討する包括的な政策研究」を医療に適用したものであり、医療技術の臨床的有効性と経済的効率を総合的に評価することを目的としている[厚生白書平成9年版,1997]。
IBDPSUR→ International Birth Date [インターナショナル・バースデート]。『国際誕生日』。(ア)我が国又は外国で初めて当該医薬品の製造又は販売が認められた日((イ)に掲げる場合を除く)。
(イ)国際誕生日が我が国における承認日以外の場合であり、それが我が国における承認日の6カ月以前の時は、その日から起算して6カ月ごとの整数倍を経過した日のうち、当該医薬品が承認された日の直前の日。ただし、国際誕生日から起算して6カ月の整数倍を経過した日が我が国で承認された日と同じ場合にあっては、当該承認日。
*世界各国のいずれかの会社により一番最初にその成分の承認された日(若しくはその日に属する月の最終日)を国際誕生日と名付け、提出時期の起算点とする。原則として国際誕生日から6カ月の整数倍の時期の中から選んで報告を求める?定期的報告の起算日となる。
IC informed consent [インフォームド・コンセント]。『十分な説明に基づく、納得したうえでの自由な意思に基づく同意』(1。▼*『患者が自己の病状、医療行為の目的、方法、危険性、代替治療法等につき正しい説明を受け、理解した上で、自主的に選択・同意・拒否できるという原則』(日本弁護士連合会第33回人権大会,1992.11.(7)。*薬剤情報だけが独立した存在としてではなく、医療機関→組織としての情報提供に関する意識改革が必要*患者自身が医療知識を持たなければならない。誰が教えるのか?

*パターナリズム(paternalism):父権主義[父子(家族)主義、温情主義]→がん患者に対し、十分な説明に基づく同意(IC)がなかなか進まない理由として「任せておけ」に代表される医師側の父権主義があると6割もの看護婦が考えている。癌告知率の低い医療機関が、IC阻害要因としてのパターナリズムを挙げた(4。*『納得診療』(カタカナ語の言い換え例:国立国語研究所)。

ICD International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems [インターナショナル・ スタティスティクル・クラシフィケーション・オブ・ デジーズ・アンド・リレイテッド・ヘルス・プロブレムス]。『疾病及び関連保健問題の国際統計分類』。異なる国や地域から、異なる時点で集計された死亡や疾病のデータの体系的な記録、分析、解釈及び比較を行うため、世界保健機関憲章に基づき、世界保健機関(WHO)が作成した分類。現在、国際的に使用が勧告されている分類は『ICD-10』で、1990年の第43回世界保健総会において採択された第10回修正である。分類表は21の章から構成され、その分類の基本は「アルファベッド」+「2桁の数字」で表される中間分類項目の3桁分類(例:C17 小腸の悪性新生物)である。国際レベルで行う死因統計の作成では、この3桁分類項目までのコーディング(cording)が必須とされている。 更に3桁分類項目の大半は細分化され、4桁項目が設けられている▼例:小腸の悪性新生物▼
*第2章 新生物(C00-D48)* C17 小腸の悪性新生物* C17.0 十二指腸

* C17.1 空腸

* C17.2 回腸

* C17.3 メッケル憩室

* C17.8 小腸の境界線病巣

* C-17.9. 小腸、部位不明
[Pharmacist News No.196:5,2002.12.27.]

ICH International Conference on Harmonization of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use [インターナショナル・カンファレンス・オン・ハーモナイゼーション・オブ・テクニカル・リクワイアメント・フオー・レジストレイション・オブ・ファーマシューティカルス・フオー・ヒューマン・ユース]。「医薬品許認可のための技術要件の調和に関する国際会議」。ICHの目的は、日米欧三極の新医薬品の承認申請資料などの調和、整合性(ハーモナイゼーション)を図ることにより、データの国際的な相互受入れを実現し、臨床試験や動物実験などの繰返しを防ぎ、新医薬品開発の研究開発を促進、優れた新医薬品をより早く市場化することにある。1990年より活動を開始、1993年ブリュッセルで「医薬品の開発に関する日・欧・米協議」初会合。1994年米国において第2回会議(ICH2)、1995年11月ICH3横浜開催。統一GCP案公表(1。
INCLEN International Clinical Epide-miology Network [インターナショナル・クリニカル・エピデミアラジン・ネットワーク]。1988年非営利の財団として設立。臨床疫学を広め、臨床医の力で医療を合理的に行い、かつ信頼性と説得性のある応用科学として臨床医学を発展させるとともに、国民の健康づくりの基礎を築くということを目的に設立[週刊医学界新聞;第2292号,1998.6.8]
INN International Non-proprietary Name [インターナショナル・ノン-プレプライエタリー・ネーム]。「国際一般名 」。WHOが決定した名称。[小澤 光・監修:新選繁用医療用語;株式会社薬事新報社,1995]
IRB Institutional Review Board 『インスティテューシヨナル・レビュー・ボード』、『治験審査委員会(制度化した検閲委員会)』。『施設内治験審査委員会』。委員の構成:?治験について倫理的及び科学的観点から十分に審議を行うことができること。?5名以上の委員。?委員のうち医学、歯学、薬学その他の医療又は臨床試験に関する専門的知識を有する者以外の者が加えられていること。?委員のうち実施医療機関と利害関係を有しない者が加えられていること。審議内容:当該実施医療機関において、治験を行うことの適否について審議する。?治験実施計画書、?治験薬概要書、?症例報告書の見本、?説明文書、?治験責任医師・治験分担医師の氏名を記載した文書、?治験の費用の負担について説明した文書、?被験者の健康被害の補償について説明した文書。上記の他?被験者の募集の手順に関する資料等。審査の対象とされる治験が倫理的及び科学的に妥当であるか否か。実施するに適当であるかどうか。
JAN Japanese Accepted Nemes [ジャパニーズ・アセプテッド・ネーム]。『日本承認薬名』。WHOの医薬品一般名命名によるものを日本の中央薬事審議会で日本名として判定した一般名のこと[小澤 光・監修:新選繁用医療用語;株式会社薬事新報社,1995]
MR medical representatives [メディカル・リプレゼンタティブス]。『医薬品情報担当者』。医療機関等に情報を提供する製薬企業の社員は、従来、プロパと呼称されていたが、情報提供業務の充実が求められることから、製薬企業を代表する者としての位置付けを明確にするとして名称の変更がされた。
NBM Narrative Based Medicine [ナラティブ・ベースド・メディシン]。『経験に基づく対話を基礎とする医療』。患者のための良質な医療のプロセスとして医師と患者の間で交わされる対話(dialogue)と、それによって形作られるstory(case history)の重要性を強調。患者の話を十分に聞き、また医師が経験をふまえてよく話し合うことによって、初めて患者にとって最適な治療法が見いだされる。『医師の経験やそれに基づいた勘などを用いながら患者の個性を重んずる医療』であると解釈される[山田好則・他:EBMとNBMがもたらす良質な医療と医学の進歩;新医療,5:98(2000)]。
NIH National Institute of Health [ナショナル・インスティテュート・オブ・ヘルス]。米国・マジソンベセスダ市にある医学関係の総元締めの役割を持つ機関。[小澤 光・監修:新選繁用医療用語;(株)薬事新報社,1995]。
OAM Office of Alternative Medicine [オフイス・オブ・オルターナティヴ・メディシン]。1992年に米国・NIHが設置した代替治療事務局。1998年には格上げされてThe National Center for Complementary and Alternative Medicine(NCCAM) となりNIHの18の機関やセンターと同列になった[週刊医学界新聞;第2291号,1998.6.1・鈴木信孝:代替医療-国内の現状と海外の動向;日病薬誌,38(7):937-939(2000)]
OTC薬 Over the counter Drug [オーバー・ザ・カウンター・ドラッグ]。OTCとは“カウンター越しに販売する薬”の意味で、通常『大衆薬』と認識されている。大衆薬とは処方せんなしで、一般の薬局等で大衆が自由に購入できる薬物。
switch-OTC薬 Switch Over the counter Drug *スイッチOTCとは、販売後一定の年限が経過し、安全性が確立し、海外において『OTC薬』として市販されている等、種々の条件を勘案し承認される医療用医薬品から大衆薬への切換え製品。
direct-OTC薬 Direct Over the counter Drug *ダイレクトOTC(新一般用医薬品)とは、一般用医薬品(大衆薬)のうち全く新しい成分を含有している医薬品。通常、一般用医薬品の新薬の申請は、医療用医薬品としての使用経験、次いで一般用医薬品(OTC)にスイッチという方法が取られるが、逆に初めからOTC薬として承認申請された薬物をいう。
*医療用医薬品としての使用経験のない薬剤を直接『OTC薬』として承認する事例で、市販後6年経過後に医療用医薬品と同様再評価を求められている。国内ではミノキシジルを成分とする育毛剤リアップ(大正製薬)が第1回目として承認された。
PAE post antibiotic effect [ポスト・アンチバイオティク・エフェクト]。『抗生剤後効果』と訳されており、細菌に抗生剤を一定時間作用させた後、薬剤を除去した時に見られる細菌に対する影響(持続的に再増殖が阻止される効果)のことをいい、一般に時間で示される。臨床上の意義について、例えば、アミノ糖系抗生物質は、グラム陰性桿菌に対しPAEを有していること及び腎毒性の発生機序が明らかにされたことから、1日1回の大量投与療法の検討がされている。アミノ糖系抗生物質は、最高血中濃度が高いほどPAE及び臨床効果が増強すると報告されている。抗菌剤がPAEを有するか否かは薬剤と細菌の組合せで異なり、β-ラクタム系製剤では、PAEのないグラム陰性桿菌に対しては有効濃度を維持する投与法が重要であるとされている。[加藤 勝治・編:医学英和大辞典;南山堂,1997・日本医薬品卸勤務薬剤師会DI委員会・編:卸DI実例集(第6集);日本医薬品卸業連合会,1995.3.1.]
PIL Patient Information Leaflet [ペイシエント・インフォメーション・リーフレット]。患者向け説明文書(EC加盟国)(1
PMS Post-Marketing Surveillance [ポスト-マーケッティング・サーベイランス]。『市販後調査』。医薬品の市販後調査。「副作用報告制度」、「再審査制度」、「再評価制度」(1。
PMI Patient Medication Instruction [ペイシェント・メディケーション・インストラクション]。米国医師会が発行している患者用説明文書[小澤 光・監修:新選繁用医療用語;株式会社薬事新報社,1995]。
PPI Patient Package Insert [ペイシエント・パッケージ・インサート]。FDAが作成した薬物の使用方法、副作用等を記載した患者用添付文書。患者向け説明文書(添付文書)[小澤 光・監修:新選繁用医療用語;株式会社薬事新報社,1995]。
PSUR Periodic Safety Update Report [ペリオディク・セフティー・アップデート・レポート]。『定期安全性最新報告』(承認後2年間は半年毎報告。承認後3年目以降、再審査期間中は年1回報告)。1)医薬品の開発企業が、世界各地で当該医薬品を販売する関連会社から、その国における当該医薬品の安全性情報を収集する。2)収集した情報を分析・評価し、PSURを作成する(国際誕生日から6カ月毎)。*各国の規制状況、承認状況*各国の副作用、臨床試験、研究*世界標準添付文書(使用上の注意)

3)作成したPSURを各国の関連会社に提供する。*低頻度の副作用を早期に発見*再審査・再評価に利用*長期投与による副作用を早期に発見*外国政府の規制状況を把握

PTSD posttraumatic stress disorder [ポストトラウマティク・ストレス・ディスオーダー]。『心的外傷後ストレス障害』。自然災害や戦争、交通事故、誘拐、監禁、性的虐待などで被害を受けたり、身近な人の死を目の当たりにするなどの体験をすると人は心に耐え難い強烈なショックを受ける。これを心的外傷(トラウマ)と呼び、それによるストレスが心身に引き起こす様々な障害をいう。米国ではベトナム戦争体験の後遺症と思われる精神障害がみられ、調査、研究の結果、80年から米国精神医学協会の診断マニュアルにこの病名が収載された。日本では95年の阪神・淡路大震災と地下鉄サリン事件、96年末に起きたペルー日本大使館公邸人質事件などでこの病名が知られるようになった。PTSDの診断基準は、?自ら生死にかかわる事件に遭遇したり、他人の瀕死の状態や死を目撃した体験、?強い無力感や恐怖感を伴う体験のいずれかのトラウマ体験に曝されたことがある場合となっている。社会生活の適応阻害の他、不安、抑鬱、睡眠障害、情緒不安定、急激な孤独感などがよく見られる。患者に対しては早期発見、診断に基づき専門家によるカウンセリング等心のケアを受けさせる(6。
QOL quality of life [クオリティー・オブ・ライフ]。『生命の質』又は『生活の質』と訳される。医師を始めとする医療従事者が治療をする上で、患者の環境、社会的・経済的状態あるいは生活様式を考え、医師・患者の関係の中で種々の症状を和らげ、病気の後遺症を癒し、それに伴う不安等を和らげる努力をすることを、患者のQOLを考えた医療という[小澤 光・監修:新選繁用医療用語;株式会社薬事新報社,1988]。*英語のlifeには生命・生活・余生・救い等の訳語があるため、日本語での定義付けは難しい。『本人の感じている幸福感と満足感、協調感』に要約されるという意見もある。『個々の価値観によって左右され』必ずしも一般的概念が当てはまるわけではない。
RAD-AR(レーダー) Risk/benefit Assessment of Drugs-Analysis & Response [リスク/ベネフィト・アセスメント・オブ・ドラッグス-アナリシス・アンド・レスポンス]。『日本RAD-AR協議会(日本レーダー協議会)』。『危険/利益査定-医薬品評価と応答』。医薬品が本質的にもっているリスク(危険)とベネフィット(利益)について分析・評価して、その成果を基に医薬品の適切な使用推進を図り、患者の利益に貢献する一連の運動。日本でも日本レーダー協議会を作り活動している[小澤 光・監修:新選繁用医療用語;株式会社薬事新報社,1988]。「くすりのしおり」発行(患者向け情報源)。▼*医薬品の副作用に対する社会の批判に、当事者の一員である製薬企業が必ずしも的確に対応してこなかったとの反省にたって、医薬品の本質-BenefitとRisk-を科学的に検討して公表し、社会に医薬品の価値を認識してもらえるよう、世界の大手製薬企業有志が開始した活動。
SBR Summary Basis of Reexamination [サマリー・ベーシス・オブ・レクザミネーション]。『再審査結果概要』。従来、市販後調査のデータは、再審査申請のためにのみ使用されてきたが「適正使用推進の一環として、医療機関などへ再審査内容及び過程について情報提供する。」として公開されることになった資料(1。
TDM therapeutic drug monitoring [セラピュティク・ドラッグ・モニタリング]。『薬物療法(有効血中濃度)モニタリング』。薬物療法の適正化、個別化を目指し、薬物の血液中濃度測定を通じて行う薬物治療管理のこと。薬物投与計画の設定や処方の改善、コンプライアンス(規則(服薬)遵守)の徹底等に大きく貢献している[小澤 光・監修:新選繁用医療用語;株式会社薬事新報社,1988]。
TW therapeutic window [セラピュティク・ウィンドウ]。『治療濃度域』。抗うつ薬の解説中にみられた用語。疾病に反応す有効血中濃度の幅(範囲)を示す。例えば抗うつ薬のうち「ノリトリプチリン」では50?150ng/mLがtherapeutic windowとして存在する[村崎光邦:うつ病診療をめぐる最近の話題;Medicament News,No.1581:10-(1998.4.25.)]。
WHO World Health Organization [ワールド・ヘルス・オーガニゼーション]。『世界保健機構』。国際連合の中で、厚生部門を担当する組織[小澤 光・監修:新選繁用医療用語;株式会社薬事新報社,1988]。
WP window period [ウィンドウ・ピリオド]。『空白期間』。感染後抗体が出現するまでの空白期間。この期間に抗体を測定しても抗体は出現せず、感染の確認ができない[Nikkei Business Publications,Inc.All RIghts Reserved.,1997.6.19]。

1)山崎 幹夫・他編:医薬品情報学;東京大学出版会,1997
2)朝倉 俊成・他:薬剤師としてCDE制度を見つめて;薬事新報,No.1999:352-358(1998)
3)小川 祐二郎:からだの百景-潰瘍のないのに「胃に異常」;読売新聞夕刊,1997.10.20.
4)情報ファイル-医師の父権主義が阻害-がん患者の「説明に基づく同意」;読売新聞夕刊,1997.10.13.
5)週刊薬事新報,No.1979:19(1997)
6)南 砂:PTSDって何?;読売新聞,1998.3.14.
7)池永 満:医薬品の安全性と患者の権利-インフォームド・コンセントと医療記録の開示を中心として-;社会薬学,15(1):21-31(1996)

[1997.10.13. 古泉秀夫・1998.6 .23. 第8改訂・2003.1.23.第9改訂・2003.12.18.第10改訂・2005.4.30.第11改訂]

規制緩和

火曜日, 11月 27th, 2007

医薬品情報21

古泉秀夫

 

小泉総理が進めた規制緩和が経済界では、ライブドアの堀江貴文氏と村上ファンドの村上世彰氏という二人の錬金術師を生んだ。規制緩和もいいが、何をやっても許されるというのではなく、社会責任を逸脱した際の罰則規定は厳しいものを作っておいて貰わないと、必ず勘違いする人種が出てくる。

ところでこの規制緩和、止せばいいのに医薬品の世界や食品の世界にも導入され、今頃になって、食品成分を抽出した健康食品について、摂取上限量を決めるなどという作業を始めているが、本当は逆ではないのか。

中でも不思議なのが“コエンザイムQ10”(coenzyme Q10)を健康食品として認めてしまったということである。これは医療用医薬品として市販されており、食品に区分したのでは医薬品として承認されている製品の取扱はどうなるのかということである。

医薬品としての“コエンザイムQ10”は、一般名ユビデカレノン(ubidecarenone)で、5・10mg/錠・10mg/糖衣錠・ 5mg/Cap.・1%(10mg/g)顆粒剤が市販されている。適応症は『基礎治療施行中の軽度及び中等度のうっ血性心不全症状』である。服用量は1回 10mg 1日3回である。

ubidecarenoneの作用は、リンパ管を経て吸収され、細胞内ミトコンドリアに取り込まれて、虚血心筋に直接作用し、酸素利用効率を改善する。

このため心筋は虚血条件下でも高いATP産出機能を維持し、心筋組織の障害を軽減する。また、心機能の低下した老年者の心拍出量を増加させ、運動耐容能を増大させるとされている。

副作用として

  1. 消化器(胃部不快感、食欲減退、嘔気、下痢)
  2. 過敏症(発疹)

等が報告されている。

同義語:ユビキノン-10(ubiquinone-10)、ユビキノン(ubiquinone)、補酵素Q10(coenzyme Q10)、ビタミンQ(vitamin Q)、コォキューテン(Co-Q10) Co-Q10は体内でも合成される脂溶性のビタミン様物質で、vitamin E同様脂質の酸化を防ぐ抗酸化作用がある。

細胞膜を酸化から保護するとともに、酸素の利用効率を高めるとされている。

その他、Co-Q10には精子の活動を活性化したり、免疫細胞や白血球の作用を亢進する。l

また糖質をエネルギーに変換する作用により血液中の糖分を減少させる作用があることも認められている。 Co-Q10の含有量の高い食品:ウシ肝臓、ウシ・ブタ内臓、牛肉、豚肉、鰹、鮪。

ところで2006年6月23日の読売新聞[第46797号]に『コエンザイムQ摂取上限量設定を見送り食品安全委「データ不足」』とする見出しが見られた。

内閣府食品安全委員会(寺田雅昭委員長)は22日、人気の健康食品の成分「コエンザイムQ10」について、安全性を判断する科学的なデータが少ないことから1日摂取量の上限量の設定を見送る評価書案をまとめた。

それによると、食品として健康な人が長期間摂取した場合の安全性のデータは「不十分」と判断。一方、医薬品の場合副作用が報告されていることを挙げ、「健康影響は必ずしも明確でない」とした。

その上で安全性を確保する方策として、医薬品としての1日使用量(30mg)を超えない範囲で、長期間摂取した場合の安全性確認や消費者への摂取上の注意の提供を行うように指導することを厚生労働省に求めた。コエンザイムQ10は、細胞の中にある抗酸化物質の一つで、美容や老化予防に効果があるとされる。

医薬品としてのubidecarenoneは、臨床治験を経て適応症及び適正な投与量が決定された。既に医薬品として承認されたものを、何故、食品として許可しなければならなかったのか。その辺の理屈が全く解らない。更に健康食品として許可した後に1日の摂取量や継続摂取量の心配をしてどうする気なのか。全て承認する前に、片付けておかなければならなかったのではなかったのか。

同じ新聞に『「大豆イソフラボン」摂取基準上限上回る商品』とする記事が出ているが、大豆イソフラボンについて、健康食品で、食事以外からの安全な 1日摂取量(30mg)を上回る商品が多数出回っていることが 22日、国民生活センターの調査で明らかになったとしているが、これなども最初に上限値を決定し、違反した場合は、その製品の製造を禁止するぐらいの罰則規定を作ることが必要ではないか。

食品に法規制は馴染まないというが、特定の機能性成分を抽出して製品化したものは、明らかに食品ではないはずである。だからこそ健康食品などと標榜しているのではないか。


  1. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2005
  2. 中村丁次・監修:最新版からだに効く-栄養成分バイブル;主婦と生活社,2001

出ると思っていたら出た話

火曜日, 11月 27th, 2007

 

魍魎亭主人

ドラッグストア「ハックドラッグ」などをチェーン展開するCFSコーポレーション(本部・横浜市)は15日、医師の処方せんが必要な強心・喘息治療剤「ネオフィリン錠」を処方せん無しで店頭販売していたと発表した。量を誤って服用したと見られる人が、中毒症状を起こし、横浜市内の医療機関で治療を受けたことで発覚。CFSは錠剤の回収を始めた。

ネオフィリン錠は2005年4月の薬事法改正で、購入には医師の処方せんが必要になったが、CSFによると、同月以降、東京、神奈川、静岡、山梨4都県の計171店で、100錠入りを1113個販売した。販売元のエーザイから連絡を受けたが、社内の連絡ミスで、処方せんが必要になったことが店舗に伝わっていなかった。

CFSは服用を止め、医療機関を受診するように呼びかけている。神奈川県薬務課は、同社の管理体制に問題がなかったか調べている [読売新聞,第46790号,2006.6.16.]。

*大手医薬品店「マツモトキヨシ」(本社・千葉県松戸市)が、医師の処方せんが必要な医薬品を、処方せん無しで販売していたとホームページで公表した。販売されていたのは精神安定剤「アタラックスP」、駆虫剤「コンバントリン錠」など8製品。

これまでに15都道府県の計162店舗で、計468個を販売した。2005年の薬事法改正で、 8製品は販売に処方せんが必要になったが、社内での指示が徹底されていなかったという[読売新聞,第46794号,2006.6.20.]。

*大手スーパー「西友」(本部・東京都北区)の店舗内薬局で、医師の処方せんが必要な精神安定剤「アタラックスP」など5製品が、処方せん無しで販売されていたことが、20日わかった。これまでに東京、神奈川、千葉など9都県の19 店舗で計88個を販売していたという[読売新聞,第46795号,2006.6.21]。

*ダイエーは21日、 2005年4月から6月にかけて、東京、兵庫など12都府県のグループ21店で、医師の処方せんが必要な医薬品を処方せん無しで販売していたと発表。販売していたのは精神安定剤「アタラックスP」、駆虫剤「コンバントリン錠」など5種類、計35個[読売新聞, 第46796号,2006.6.22]。

各店適当な言い訳をしているが、従来から医師の指示書がなければ販売してはならないとされていた医薬品を法律に反して、指示書なしで販売されていたということである。各店その延長線上で、医薬品の販売を続けていたということだろう。

2005年4月1日の薬事法の改正により『要指示医薬品』が『処方せん医薬品』に改正され、『処方せん医薬品』が指定されたが、この改正は、本来医師の指示なしには販売できない医薬品を、指示書なしで販売していたことから、分かり難い『要指示医薬品』を『処方せん医薬品』と明確にするための改正である。

『要指示医薬品』であろうが、『処方せん医薬品』であろうが、専門家の病状判断があって治療薬として使用する医薬品であり、OTC薬とは明らかに異なるものである。確かにOTC薬との比較で、明らかに効果はあるかも知れないが、同時に副作用も念頭に置いておかなければならない薬なのである。

稼げれば何でも売ってやろうという発想は、医薬品を販売する世界には不向きである。今回の各店の実情は、前から違法に販売していたものをそのまま継続して販売していたと考えられるもので、将に出るべくして出たといわれても仕方がない。

参考のために薬事法の『第2節 医薬品の取扱い』-処方せん医薬品の販売に関する条文を挙げておく。

(処方せん医薬品の販売)

第49条 薬局開設者又は医薬品の販売業者は、医師、歯科医師又は獣医師から処方せんの交付を受けた者以外の者に対して、正当な理由なく、厚生労働大臣の指定する医薬品を販売し、又は授与してはならない。ただし、薬剤師、薬局開設者、医薬品の製造販売業者、製造業者若しくは販売業者、医師、歯科医師若しくは獣医師又は病院、診療所若しくは飼育動物診療施設の開設者に販売し、又は授与するときは、この限りでない。

2 薬局開設者又は医薬品の販売業者は、その薬局又は店舗に帳簿を備え、医師、歯科医師又は獣医師から処方せんの交付を受けた者に対して前項に規定する医薬品を販売し、又は授与したときは、厚生労働省令の定めるところにより、その医薬品の販売又は授与に関する事項を記載しなければならない。

3 薬局開設者又は医薬品の販売業者は、前項の帳簿を、最終の記載の日から2年間、保存しなければならない。

(2006.6.23.)

不二家-そのマニュアルは誰が作ったのか?

火曜日, 11月 27th, 2007

魍魎亭主人

 

率直に申し上げれば、『信じられない』というのが正直なところである。不二家は、本当に社会的責任を持った企業といえるのであろうか。食品を扱う個人商店でも、これ程杜撰な製造工程の管理はしないのではないか。

一般論としていわせていただければ、『マニュアル』というのは、仕事の完成度を高めるために作成されるものである。更に『マニュアル』は、作業の手順を明確にし、製品の完成度を高め、常に安全で均一な製品を製造するために作成されるものである。更には事故により人的な損害を起こさないようにするために作成されるものである。にもかかわらず『不二家』のマニュアルでは、食品製造業の基本中の基本である食中毒の原因となる黄色ブドウ球菌や大腸菌群について、国の基準に反し、検査で陽性になっていても出荷して良いとされていたという。厚生労働省では「陽性で販売していたら問題」としている[読売新聞,第47013号,2007.1.26.]とのことだが、問題以前の問題であり、役所も他人事みたいな発言はしない方が良い。

厚生労働省の洋菓子の衛生基準では、黄色ブドウ球菌や大腸菌群について「検査で陰性であること」とし、「適合しない場合は販売しない」と定められているとのことである。しかし、不二家では検査で陽性になっても、黄色ブドウ球菌については、「製品1g当たり1000個超」、大腸菌群については「1万個超」で、初めて「回収を要する」とマニュアルに規定されていた。

不二家の社内基準について、厚生労働省は「陽性でも販売していれば問題。こうした数値の設定にどのような科学的根拠があるのか疑問だ」と話しているという。不二家では一般細菌数に関しても、国の衛生基準より10倍も緩く社内基準を設定していることが明らかになっている。

さて、不二家において食品会社としては考えられない低レベルのマニュアルを作成したのは誰か?。

社内で業務に関連するマニュアルを作成する場合、一人で作文するなどということは考えられない。社内の関連部署から関係者が招集され、食品衛生の専門的知識を持つ社員も含めて侃々諤々の論議を積み重ねて完成させたはずである。その複数の関係者が、細菌数の基準を限りなく杜撰な数値に設定していたとでもいうのであろうか。

もしそうだとすれば、不二家は根幹から腐っているといわざるを得ない。しかし、当初作成したマニュアルを上司の決裁を得るために回覧している間に、上司の誰かが基準値を下げる改竄をしていたとすれば、改竄した当人を確定し、同族会社の悪弊が原因であるとすれば、組織を根幹から見直さない限り、会社の再生はあり得ない。

何れにしろこのような杜撰なマニュアルで、人の口に入るものを製造するということに対して、直接製造に携わっていた人達は、全く何の疑問も持たなかったのかと不思議でならない。少なくとも工場内の管理が不衛生きわまりない、製造工程中の外部侵入防止策(昆虫等)が低レベルである等というのは、工場で働いている人達には解っていたはずである。その人達から工場の改善意見が出てこなかったとすれば、そのような無気力な会社の建て直しは殆ど不可能に近い。

ところで病院にも数え切れないほどのマニュアルが存在する。病院全体で実施すべき業務上のマニュアル、職種別に実施すべき業務上のマニュアル。それぞれのマニュアルを作るときは、一種の熱気を持って作られるが、マニュアル完成後一定の時間が過ぎると、マニュアルを作成したときのエネルギーは雲散霧消し、至る所で手抜きが始まる。

つまりマニュアルを作ることは作るが、時間経過とともに作成時の細目の存在価値は希薄化し、面倒なことは省略されてしまうという運命にある。つまり本質的に人間はずぼらなのである。出来れば面倒なことはしたくない。常に怠惰であり、常に易きに付くというのが人間なのである。従って、常に作業の細部の重要性を認識し、緊張を保つためには、マニュアルの重要性、作成時のエネルギーを理解させておかなければならない。

場合によっては、マニュアルを使うためのマニュアルの作成が必要だという事態も生じる。このような後ろ向きの状態を避けるためには、定期的な研修を繰り返し、マニュアル遵守の意義と違反した際に派生する問題点を徹底的に認識させることが必要なのである。病院でやり損なえば、直ちに人の命にかかわる自体に至るわけで、決定されたマニュアルの遵守は決してないがしろに出来ないことなのである。

(2007.2.6.)

遵法の意味を考えるべきではないのか?

火曜日, 11月 27th, 2007

魍魎亭主人

 

「お前は無闇に酒が強い。酒を呑んでも私は酔ってないと称して車を運転するタイプだ。免許を取らなければ車の運転はしないで済む。免許は取るな………」

「しかし、仕事で車が必要なときもあるんじゃないですか。そんなとき困るでしょう。」

「東京で仕事をする限り車はいらんよ。車に乗りたければ、運転手を雇って乗れるようになるんだな。」

「ははー、なるほど………」

何でこんな話になったのか前後の話は忘れたが、大学の部の顧問の教授と呑んでいるときに、突然、教授が言い出した。その後、どういう訳かその時の忠告を守って車の免許は取らずに過ごしてきたが、確かにおっしゃられる通り、東京で仕事をする上では、特段の不足はなかった。

免許がないため、車を持てないということからすれば、酔っぱらい運転はやりようがない。呑み過ぎるとタクシーでのご帰還となるので、高く付くのだけが、若干不満であったが、そういう気持になること自体、免許があれば車を運転していたという事になるのかも知れない。

ところで車の免許を取るということは、道交法を順守して、車を転がすということではないのか。飲酒運転をした役人の厳罰化に対して、兵庫県の井戸敏三知事は2006年9月26日の定例記者会見で、職員の飲酒運転を厳罰化する自治体が相次いでいることについて「飲酒運転をしたから直ちに免職というのは、行き過ぎているのではないか」と述べ、疑問を示した。

飲酒運転以外の処分案件と比較した場合に「懲戒処分としてのバランスをあまりにも欠き過ぎている」ということのようである。同県は今月12日、職員が飲酒運転で事故を起こした場合の懲戒処分の基準を明文化。

▽死亡事故=免職

▽重傷事故=免職?停職

▽軽傷、物損事故=免職?減給

等の4段階と定めた。

その他、静岡県の石川嘉延知事も、25日の定例会見で「(飲酒運転した職員を)オートマチックに免職とするのはいかがなものか」等と発言したとの報道が見られた。

知事は飲酒運転の公務員の免職処分について「日本の雇用慣行からすると、免職はその人の職業生活上、死刑判決に等しい」と述べ、画一的な厳罰化の動きに疑問を示した。知事は「刑法の場合でも、犯した罪の状態と結果に相応の罰則をするのが鉄則。例えば酒気帯びで検問に引っ掛かった場合にオートマチックに適用するのはいかがなものか。[共同通信,2006.9.25.]。

くどいようではありますが、車の免許書を持っているということは、法令を遵守して車を転がすということである。更に役人は、国民の公僕であり、率先して国民の範とならなければならない立場にある。その諸君が、飲酒運転をすること自体言語道断といわざるを得ず、あの自動車というやつ、凶器であるということを忘れているのではないか。車が人に激突すれば、明らかに生身の人間は助からない。

知事達の論を展開すれば、田舎では公的交通手段が少ない。因って飲み屋に寄れば簡単に家に帰れない。足がないから仕方なしに車に乗って帰るので、大目に見るべきだということになる。酒を飲まなくとも死にはしない。公僕である限り、法令の遵守は義務である。処分が厳しくなるのは仕方がない。

(2006.10.18.)

最終章は茶番劇

火曜日, 11月 27th, 2007

魍魎亭主人

薬系の業界紙の報道を見ていると、中央社会保険医療協議会(中医協)の下村健・元中医協委員の声の大きさのみが目立つということがよく見られた。支払側代表委員としての彼の発言は、将に水戸黄門の印籠並み、正義は我にありといわんばかりのものが目立っていた。

下村健・元中医協委員の略歴を見ると、旧厚生省の職員で、主に医療保険畑を歩み、保険局長などを歴任、1988年には社会保険庁長官に就任。退職後は船員保険会会長、1994年健康保険組合連合会副会長に就任。中医協委員も1994年4月から2003年9月まで務めたという [読売新聞,第46000号,2004.4.15.]。

この経歴を見ると、旧厚生官僚として、事務次官にはたどり着かなかったとはいえ、それに継ぐ地位を得た特選抜の一人である。経歴を見る限り、典型的な天下りで、中医協委員も、支払側委員に名を借りて、旧厚生省の代弁者という役割を担っていたのではないかと思われる節もある。役所の代弁者という立場があればこそ、あれだけの大声が保証されていたということではないか。まあ、政府関係の委員会で、提案する側の役所が後ろ盾になっていれば、そりゃ意見の通りはいいやな。

それにしても、日本歯科医師会も泥臭いことをやったものである。歯科治療は無闇に自費徴収が多いというのが、一般的な認識であると思うが、自費徴収で稼いだ金で、保険点数を上げろという裏取引を展開したということは、どういうことなのか。患者の側からすれば、自費徴収の分を保険診療に切り替えてくれ、患者が受診し易いようにしてくれという運動であれば、納得しないでもないが、受療者にとって何の利益にもならないところで、運動を展開したというのでは、日本歯科医師会に同情するわけにはいかない。

しかし、官僚あるいは官僚上がりは、どうしてこうも金に弱いのか。 権力を持つことが利権を生み、利権を配分することが権力を生み出す。その利権を人より多く、人より速く手に入れようとすれば、当然他と異なった行動をせざるを得ない。その行動の最たるものが、金ということなのかもしれない。 誰の金であれ、金には名前が書いてあるわけではない。貰って使ったとしても、相手が言いさえしなければ、他人に解るわけがない。たぶんそういう発想からどつぼに嵌るのであろうが、贈収賄がばれる確率とばれない確率はどうなっているのか。勿論、表沙汰にされない事例は、統計の取りようがないわけで、贈収賄をする側は、自分達の事例もばれない側に入れているということなのだろう。

それにしても僅かな金額で、過去の全ての業績を零にしてしまうことの恐ろしさを、もっと身にしみて感じるべきではないか。将に最後は茶番劇である。

[2004.4.16.]

はしか再見

火曜日, 11月 27th, 2007

魍魎亭主人

 

都立井草高校(練馬区上石神井)で、『はしか』が集団発生し、感染防止のため生徒の登校を禁止する措置をとっていることが、29 日分かった。これまでに発症した生徒は入院2人を含めて21人に上がる。登校は23日から禁止されており、来月6 日の始業式も延期する。28日現在の感染者は何れも同校の生徒で、男子12人、女子9人。2年生が18人と突出していた。過去に予防接種を受けたことのある生徒も11人いた

[読売新聞,第47076号,2007.3.30.]。

世田谷区立池尻小(池尻2)で『はしか』が集団発生し、同小は6日この日予定していた始業式を延期し、13日まで休校することを決めた。5日迄の発症者は23人(うち4人は卒業)。6日は入学式だけを予定通り行ったが、迎える側の在校生は代表の6年生1人を出席させるにとどめた[読売新聞,第47084号,2007.4.7.]。

都立東大和高校(東大和市)の生徒に『はしか』が集団発生し、都教委は25日感染拡大を防ぐために同校を来月6日迄臨時休校にした。東大和高では 24日迄に2年生2人と3年生9人が発症し、うち2人は症状が重く入院した[読売新聞,第47103号,2007.4.26.]。

都立足立養護学校(足立区)で『はしか』が集団発生していることがわかり、都教委は7日、感染拡大を防ぐため、同校を8- 13日の6日間、臨時休校とした。都教委によると、同校では先月26日、27日に高等部の生徒3人が『はしか』と診断され、1人が入院。感染源が同じかどうか分からなかったため、様子を見ていたところ、3-7日に更に7人が発症、うち1人が入院していることが分かった。この他、熱を出して欠席するなどの感染の疑いがある生徒が15人いるという。

『はしか』の集団発生で臨時休校になったのは、都立学校では井草高、東大和高、中野工業高に続き4校目[読売新聞,第47115号,2007.5.8.]。

町田市の都立野津田高校でも集団感染が確認され、都教委は9日、同校を同日から18日まで臨時休校とした。『はしか』による都立学校の臨時休校は5 校目。都教委によると、同校では先月25日、生徒1人(1年)が発熱、発疹も認められた。更に今月7-9日に13人が発症し、うち2人が入院した。同校では11、12日に、発症者以外の生徒を対象に予防接種を行うという[読売新聞,第 47117号,2007.5.10.]。

2004年頃から激減していた『はしか』が、関東で流行の兆しを見せている。国立感染症研究所が2日公表した定点調査で分かった。過去の流行に比べて10-20歳代の発病者が多い。全国約450の基幹病院を対象に行っている定点調査によると、報告があった15歳以上の患者数は先月16日から1 週間で39人に上がり、2001年の大流行時に記録した1週間当たり54人に迫りつつある。都立校3校が『はしか』の集団発生で臨時休校となった他、創価大(東京都八王子市)も今月6日迄全授業を休講にした。

『はしか』はくしゃみ・咳による飛沫、接触による感染の他、空気による感染もおき、感染力が極めて強い(予防接種の効果は10年程度で弱まる)。1 歳児に対するワクチン接種の普及などにより患者総数は減少していたが、その一方で、病原体に触れて免疫が高まる機会が少なくなったことなどが原因となり、感染が拡大したと見られる。『はしか』の流行は春から初夏にかけてが最盛期となる。

国立感染症研究所は「『はしか』にかかったことがなくワクチンも接種してない人は、早めにワクチンを接種して欲しい」と呼びかけている[読売新聞,第47110号,2007.5.3.]。

『はしか』というのは[かゆい意の雅語形容詞「はしかし」の語幹に基づく名詞形]。古くは『赤瘢・隠疹』等と書いたとされている。我が国では『はしか』という病名が人口に膾炙されているが、正規には『麻疹』であり麻疹ウイルス(measles virus)の感染によって起こる感染症である。麻疹ウイルスは感染力が強く、空港のロビーですれ違っただけでも感染するという話が紹介されている。

従来は1回予防接種を受ければ、終生免疫を獲得するといわれていたが、実際には免疫獲得者が永年の間に麻疹ウイルスに接触し、不顕性感染状態で免疫を強化していたのが、感染者の絶対数が減るに従って、接触する機会が減り、免疫を強化する機会を失い、徐々に予防注射による免疫機能は減衰する。予防注射による麻疹ウイルスの予防効果は、10年程度で弱まるとする報告がされているが、米国方式にならい麻疹ワクチンは2回接種するということが必要だということなのだろう。

しかし、おかしな話だとは思う。予防注射を受けて免疫を獲得しても、麻疹ウイルスに接触する機会がないと、ワクチンの免疫効果は、ただただ減るだけということである。麻疹ウイルスはヒトにのみ感染し、ヒトを宿主としている。巧くやれば限りなく0に出来るということで、米国では、国内の麻疹ウイルスは全滅させ、国外からの輸入感染症として、感染が起こっているとされている。一時米国は、日本も麻疹ウイルス輸出国だと文句を付けていたが、限りなく減少している米国との比較で、集団発生が続く日本は、未だに輸出国なのかもしれない。

何れにしろ麻疹ワクチンを接種していない年代層がいるようである。厚生労働省の提灯を持つ気はないが、麻疹ワクチン接種の記憶がない年代の方々は、喫緊の要件としてワクチンの接種をしてはどうか。国内から駆逐できるものであれば、駆逐すべきであると考えるが、近隣諸国が麻疹浸淫国の場合、今度はそちらから流れてくるということであり、近隣諸国も含めて地球規模での感染防止対策が必要になるのではないか。

[2007.5.11.]

やっかいなことになってきた

火曜日, 11月 27th, 2007

水曜日, 8月 15th, 2007

2006 年12月、ノロウイルスによる感染が新聞やTVを騒がしていたが、ついに厚生労働省が警報を発した都道府県は45を数えるという。全国の570保健所の管轄区域ごとに、1医療機関あたり1週間で平均20人以上の患者が出ると、厚労省は保健所に注意喚起のための警報を発している。この患者数の全国平均が先月下旬、19.83人となり過去最高になったという。

しかも今回の感染拡大は、従来型の食中毒的感染ではなく、人から人に感染する二次感染によって拡大しており、ホテルにおける集団感染の報告も見られる。ホテルにおける拡大の原因が、客の吐物処理の不手際によるもので、絨毯を客が踏む度に空気中にウイルスが舞い上がり、感染が拡大したという。食中毒的感染にのみ眼を向けているうちに、ノロウイルスは反乱を起こしていたということのようである。

ノロウイルスによる感染性胃腸炎や食中毒は、一年を通して発生するが、特に冬期に流行する。ノロウイルスによる食中毒の原因食品として、生カキ等の二枚貝あるいは、二枚貝を使用した食品や献立に含む食事が上げられている。その他、カキ以外の二枚貝では、ウチムラサキ貝(大アサリ)、シジミ、ハマグリ等が食中毒の原因食品として上げられている。但し、カキや二枚貝を含まない食品を原因とする食中毒も発生しているが、食品からウイルスを検出することが難しいことなどから、原因食品を特定できなかった事例が過半数を占めるとされている。

ノロウイルスは主にカキの内臓、特に中腸腺と呼ばれる黒褐色をした部分に存在しているので、表面を洗うだけではウイルスの多くは除去できない。また、カキを殻から出す時あるいは洗う時には、まな板等の調理器具を汚染することがあるので、専用の調理器具を用意するか、カキの処理に使用したまな板等は、よく水洗あるいは熱湯消毒等を行い他の食材への二次汚染を防止することが重要で、カキを調理したあとは手指もよく洗浄、消毒する。

東京・池袋のホテルで2006年12月2日昼、結婚式に出席した女性客が、3階ロビーと宴会場のある25階通路で2度にわたり嘔吐。ホテル側が中性洗剤で拭き取った。5 日昼になって不調を訴える利用客が出始め、利用客と従業員347人が下痢や嘔吐を訴える被害があり、池袋保健所で原因を調べたところ、患者が3階と25階の利用客に集中しているため、感染源は、ホテル内の絨毯に残った微量の吐物だった可能性が高いと判断。人が歩く度にノロウイルスが空気中に拡散、感染性胃腸炎を集団発症した疑いの強いことが分かったとされている。

患者の糞便や吐物には大量のウイルスが排出されるので、

  1. 食事の前やトイレの後などには、必ず手を洗う。
  2. 下痢や嘔吐等の症状がある人は、食品を直接取り扱う作業をしない。
  3. 胃腸炎患者に接する人は、患者の糞便や吐物を適切に処理し、感染を広げないようにする。

ノロウイルスの感染経路は殆どが経口感染で、次のような感染様式があると考えられている。

  1. 汚染されていた貝類を、生あるいは十分に加熱調理しないで食べた場合
  2. 食品取扱者(食品の製造等に従事する者、飲食店における調理従事者、家庭で調理を行う者等)が感染しており、その者を介して汚染した食品を食べた場合
  3. 患者のノロウイルスが大量に含まれる糞便や吐物(1g中に1万-1億個)から人の手などを介して二次感染した場合
  4. 家庭や共同生活施設などヒト同士の接触する機会が多いところでヒトからヒトへ飛沫感染等直接感染する場合[12日以上前にノロウイルスに汚染されたカーペットを通じて、感染が起きた事例。乾燥して空気中に舞い上がっても、10日間程度は感染力が残り、ウイルス数個(10個程度)でも感染する。調理施設等の責任者は、下痢や嘔吐等の症状がある人を、食品を直接取り扱う作業に従事させない。また、このウイルスは下痢等の症状がなくなっても、通常では1週間程度、長いときには1カ月程度ウイルスの排泄が続くことがあるので、症状が改善した後も、しばらくの間は直接食品を取り扱う作業をさせないようにする。]
  5. ノロウイルスに汚染された井戸水や簡易水道を消毒不十分で摂取した場合

潜伏期間(感染から発症までの時間):24-48時間で、主症状は吐き気、嘔吐、下痢、腹痛であり、発熱は軽度。通常、これら症状が1-2日続いた後、治癒し、後遺症は見られない。感染しても発症しない場合や軽い風邪のような症状の場合もある。

食品の中心温度85℃以上で1分間以上の加熱を行えば、感染性はなくなるとされている。

流水による手洗いは、調理を行う前(特に飲食業を行っている場合は食事を提供する前も)、食事の前、トイレに行った後、下痢等の患者の汚物処理やオムツ交換等を行った後(手袋をして直接触れないようにしていても)には必ず行う。常に爪を短く切って、指輪等をはずし、石けんを十分泡立て、ブラシなどを使用して手指を洗浄する。すすぎは温水による流水で十分に行い、清潔なペーパータオルで拭く。石けん自体にはノロウイルスを直接失活化する効果はないが、手の脂肪等の汚れを落とすことにより、ウイルスを手指から剥がれやすくする効果がある。

ノロウイルスの失活化には、エタノールや逆性石鹸はあまり効果が見られない。ノロウイルスを完全に失活化する方法には、次亜塩素酸ナトリウム、加熱がある。調理器具等は洗剤などを使用し十分に洗浄した後、0.02%-次亜塩素酸ナトリウム(塩素濃度200ppm)で浸すように拭くことでウイルスを失活化できる。また、まな板、包丁、へら、食器、ふきん、タオル等は熱湯(85℃以上)1分以上の加熱が有効。

床等に飛び散った患者の吐ぶつやふん便を処理する祭には、使い捨てのマスクと手袋を着用し汚物中のウイルスが飛び散らないように、糞便、吐物をペーパータオル等で静かに拭き取る。拭き取った後は、0.02%-次亜塩素酸ナトリウム(塩素濃度約200ppm)で浸すように床を拭き取り、その後水拭きをする。おむつ等は、速やかに閉じてふん便等を包み込む。

おむつや拭き取りに使用したペーパータオル等は、ビニール袋に密閉して廃棄する(この際、ビニール袋に廃棄物が充分に浸る量の0.1%-次亜塩素酸ナトリウム(塩素濃度約1,000ppm)を入れることが望ましい。)。

また、ノロウイルスは乾燥すると容易に空中に漂い、これが口に入って感染することがあるので、吐物や糞便は乾燥しないうちに床等に残らないよう速やかに処理し、処理した後はウイルスが屋外に出て行くよう空気の流れに注意しながら十分に喚気を行うことが感染防御に重要である。

リネン等は、付着した汚物中のウイルスが飛び散らないように処理した後、洗剤を入れた水の中で静かにもみ洗いする。その際にしぶきを吸い込まないよう注意する。下洗いしたリネン類の消毒は85℃・1 分間以上の熱水洗濯が適している。ただし、熱水洗濯が行える洗濯機がない場合には、次亜塩素酸ナトリウムで消毒する。その際も十分すすぎ、高温の乾燥機などを使用すると殺菌効果は高まる。布団などすぐに洗濯できない場合は、よく乾燥させ、スチームアイロンや布団乾燥機を使うと効果的である。また、下洗い場所を洗剤を使って掃除をする必要がある。

今年はノロウイルスの爆発的な感染が起こっている。そこで気になるのが、新しいウイルスの爆発的な感染に対する対応策は大丈夫かということである。ノロウイルスは昔から知られたウイルスで、さほど毒性が強くないということで恐慌は避けられている。しかし、もしこれが毒性の強いウイルスの全国的な流行になったとき、適切な対応が出来るのかと疑念をもたざるを得ない。

envelopeをもたないウイルスは、エタノールに対する抵抗性があるといわれている。それでもなお、消毒用エタノールの使用に拘る医療機関がある。それでは止められる感染も止められない。なお、次亜塩素酸ナトリウムは金属を腐食し、着色した布等では脱色するので注意が必要である。更に塩素の毒性を気にする向きもあるが、空気の流通のよい解放空間で使用する限り心配はないはずである。

(2006.12.23.)


  1. ノロウイルスに関するQ&A(改定:平成18年12月8日):厚生労働省健康局・老健局;雇用均等・児童家庭局;社会・援護局;障害保健福祉部
  2. 読売新聞,第46972号,2006.12.15.
  3. 読売新聞,第46971号,2006.12.14.

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インフルエンザウイルスは何で…

火曜日, 11月 27th, 2007

魍魎亭主人

新聞に面白い記事が載っていた。

インフルエンザが、ウマ、アヒル、アザラシなどの動物とヒトに共通する感染症(人獣共通感染症)と解明されたのは十数年前。米セントジュード小児病院研究所や北海道大学などの研究で、インフルエンザウイルスは北極圏附近のツンドラ地帯に常在し、ここで営巣する渡りカモ類によって世界各地に搬送され、様々な種に感染させていることが解った。 ABC3種類のうち、病原性の高いA型ウイルスには135種の同類(サブタイプ)があるとされる。カモは感染しても発病しないが、1968年に大流行した香港風邪ウイルス(H3N2)は、中国南部でアヒルのウイルスとヒトのウイルスがブタに感染、その体内で遺伝子の組み換えを起こし、ヒトからヒトに感染する能力を獲得、多くの死者を出した

[読売新聞,第46632号,2006.1.9.]

というものである。

インフルエンザウイルスは何が嬉しくて北極圏のツンドラ地帯などに棲み付いているのか。更に何だってそんなところからカモになど乗って空気のよくない世界に出張ってきているのか。

それも昨日今日のことではなく、B.C.412年にヒポクラテスによってインフルエンザと推定される急性上気道炎が記録されているという。

1918年-1919年に大流行し、世界で2千万人以上の生命が奪われたとされるスペイン風邪(H1N1)は、その後約40年間、この亜型が少しずつ抗原性を変えながら流行し続けたが、1957年にアジア風邪(H2N2)が大流行を起こしている。

1968年にはH3N2亜型のウイルスが出現し、世界的規模の大流行を起こし、香港風邪ウイルスと呼ばれている。1977年には、1950年当時の流行ウイルスと同じゲノムを持つH1N1亜型のウイルスが再登場(ソ連風邪)し、20歳以下の若年層を標的として比較的大きな流行が引き起こされたとしている。

1997年5月香港に居住する3歳の男児が肺炎で死亡し、気道分泌液からH5N1ウイルスが分離された。H1N1、H2N2、H3N2以外の亜型のウイルスがヒトから分離された最初の例であるとされている。

今話題になっている高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)は、1997年に発見されたのと同じH5N1亜型を持つウイルスであり、爆発的な感染は見られていないが、鳥との濃密な接触がある地域では、鳥からヒトへの感染が報告されている。

北極圏のツンドラ地帯に巣くっているインフルエンザウイルスであるから、冬になると活動を開始するというのは解るが、わざわざカモに乗って全世界に向けて出てくるのはどういう訳なのか。

ツンドラから出てきたインフルエンザウイルスは、種本来の宿主であるカモには何等悪さをしていないとされる。とすると他の動物やヒトは、仮の住み家といおうか、攻撃すべき相手なのであろうか。

インフルエンザウイルスは、何年かに一度、大流行を起こす。インフルエンザウイルスは、共存関係にあるカモ以外の生物を殲滅し、世界を征服するという壮大な計画でも持っているのであろうか。

それにしてはスペイン風邪以降何度も野望は潰えており、そろそろあきらめたらどうかと思うが、まだ続ける気なんだろうか。大体インフルエンザウイルスは、ヒトに感染して何を手に入れようとしているのか。

ヒトの体内に入り増殖し、限りなく数を増やすことで、勢力の拡大を狙ってでもいるのだろうか。それにしても仲間を増やす目的で、ヒトに感染するのであれば、ヒトに対する悪影響を及ぼさない配慮ぐらいしたらどうなのといいたくなるが、いかがなものか。

今年、高病原性鳥インフルエンザが、万一ヒトに感染するように変貌すると面倒だということで、インフルエンザワクチンの接種を受けたが、先日背負い込んだ風邪は、多分インフルエンザだったのだろう。熱はさほど高くなかったが、喉が猛烈に痛み、引き続き気管支に痛みが移行し、咳が出まくり、腹周囲の筋肉が痛くなるほどの咳の酷さであった。インフルエンザウイルスの世界制覇の野望を潰すためにも、効果のあるワクチンの開発を期待したいところである。

ほんと毎年同じことをやってられん。

(2006.1.17.)


  1. 大里外誉郎・編集:医科ウイルス学 改訂第2版;南江堂,2002

医療事故の結末-最近の新聞から-その1

月曜日, 11月 26th, 2007

医薬品情報 21

古泉秀夫

*『手術中に輸血した血液製剤で、GVHD(移植片対宿主病;いしょくへんたいしゅくしゅびょう)を発症して死亡したのは、血液製剤が、放射線照射処理されていなかったのが原因である』として、死亡していた男性患者の遺族が、神奈川県鎌倉市の湘南鎌倉総合病院を運営する医療法人と血液製剤を製造した日本赤十字社に損害賠償を求めていた訴訟の判決が、2000年11月17日横浜地裁であった。

判事は『照射すべきかの判断は病院の医師がすべきで、日赤に義務はない』とする判断を示し、医療法人側に約5000万円の支払を命じ、日赤に対する訴えは棄却した。

GVHDは、輸血された血液のリンパ球(移植片)が増え、患者(宿主)の細胞を攻撃する病気で、発症すると、殆どの患者が1カ月以内に死亡する。しかし、血液製剤に放射線を照射して、リンパ球のDNAを死滅させておくと、発症を抑えられるとされている[読売新聞,第44760号, 2000.11.18.]。

地裁判決であり、医療機関側が上告すれば、この判決は確定しない。患者に対する輸血が、何時行われたのかの時期的な問題が、裁判の判決に大きく影響を及ぼすようであるが、『照射すべきかの判断は病院の医師がすべき』としていることからすれば、輸血によるGVHDの発症は既に知られていることであり、上告したとしても逆転勝訴するという保証はないということではないのか。

医療訴訟を現に継続中あるいは経験したという方々の声を聞く機会があったが、訴訟期間が長く、その間の精神的な苦痛は大変なものだという。既に学問的に確定した内容に基づく地裁判決の場合、それをそのまま受け入れるということも時には必要なのではないか。ただ、争うだけのために上告するという対応の仕方は避けるべきだと思うがどうであろうか。

あるい医療に係わる事故の場合、通常の裁判の手法ではなく、医療事故専門の調停機関を創り、そこで時間を掛けずに調停する方法を考えることも必要ではないかと思われる。更に患者あるいは家族が最も困るのは、医療機関の実施した医療内容の正当性・非正当性の判定を依頼する医師がなかなか見つからないことであり、事故当事者以外の施設内職員が、沈黙を守り、患者側の証人として事故内容についての証言をしてくれないことだという。

日本人の場合、自分が属する組織内の問題を、内部告発的に証言するということは多分困難であろう。少なくとも証人の匿名性を認め、証言を採用するという方式を導入しない限り、この問題は解決しない。しかし、裁判である限り、相手側の弁護士が、訴訟の不利益性を判断して、証人の匿名性を認めないとすれば、成立しない。いたずらに医療人の良識や良心に訴えるよりは、医療の専門家が調査委員として内部調査に入り、個別に調査するという方法を考えるべきであり、“医療内容判定医”についても、患者個人あるいは家族が探すのではなく、国選弁護人のような制度-“登録医制度”を導入すべきである。

人が係わる限り、医療事故を0にすることは不可能である。それならば事故が発生した後、誠意を持って迅速に処理することが出きる機関を創設することが必要だといえる。

勿論、この機関での判定に不服があれば、最終的には裁判で争うということになるが、現状よりは遙かに速く結論が得られるのではないか。

*都立墨東病院で治療を受けた男性が、多量の鎮静剤を投与されて植物状態になったとして、この男性と家族が都に1億600万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が、2000年11月24日東京地裁であった。

判決によるとこの男性は、1994年に墨東病院で“そううつ病”と診断され、通院しいたが、95年2月に自宅で暴れ出したため、同病院の神経科救急外来で治療を受けた。この際、興奮状態が収まらないため、医師が4回にわたって鎮静剤を投与。最後の投与から1時間40分後に心停止し、救命措置で命は取り留めたが意識は戻らなかった。

判決は『鎮静剤投与後に病院が男性の経過を観察していなかった』と指摘。『本来、要求される医療水準に基づいて注意義務を尽くしたとは言えない』と述べている。都衛生局は「判決内容を検討して対応を考えたい」としている[読売新聞,第44767号,2000.11.25.]

*大阪府箕面市は2000年11月28日、同市立病院が1989年に急性虫垂炎で緊急手術をした男性(当時中学1年性)が、多量の鎮静剤等を投与した医療ミスで植物状態となり、8年後に死亡したとして、男性の両親に慰謝料や面失利益として和解金約1億円を支払う方針を明らかにした。

男性の両親が昨年10月、市と執刀医を相手に調停を申し立て、今月27日に大阪簡裁で調停が成立した。

市によると、男性は89年5月に手術を受けた。執刀医(当時36歳)は成人と同量の鎮痛剤と抗不安剤の投与を指示。手術途中で呼吸が止まっているのに気付いた。人工呼吸と心臓マッサージを施し、自発呼吸が戻ったが、脳に重い障害が残った。男性は入院したまま、8年後の97年、心不全で死亡した。同病院は『鎮痛剤などは呼吸を抑える副作用があり、麻酔の補助として使うには(量が)多かった』としている[読売新聞,第44771号, 2000.11.29.]

上記の2件は、いずれも鎮静剤投与に関連する医療事故の裁判の結果である。東京都の方は一応更に争う構えでいるというべきか、「判決内容を検討して対応を考えたい」としている。箕面市の方は、裁判所の調停に従い、「鎮痛剤などは呼吸を抑える副作用があり、麻酔の補助として使うには(量が)多かった」として、和解金を支払うことを決定した。

医療訴訟の当事者である患者家族に対する医療機関の対応は、まず決して謝罪しないということのようである。更に結局は、『金』ではないのか?という対応をするという。家族の方は、兎に角『医療事故を起こしたという事実を認めて欲しい』という思いが第一で、『謝罪して欲しい』という思いが何よりも優先しているという。

医療機関が謝罪をしないということは、医療事故に係わる全ての情報を隠すということであり、事故情報を隠すということは、同様な医療事故が際限なく繰り返されるということであるとする意見も聞かれる。他の医療機関で起こった医療事故を参照して、自らの施設の事故防止策を確立する。自院の事故のみの対策を立てていたのでは、結局は新しい事故に遭遇する可能性が常にあるということのようである。

いずれにしろ医療機関における事故の発生は、常に患者が被害者の立場に立たされるということであり、事故に遭遇した患者やその家族が、怒るのは当然のことである。医療を行う場合のインフォームド・コンセントとは、「実施しようとする医療のプラス面の説明をするだけではなく、マイナス面の説明もすることである」とするある会合での弁護士の言葉は、医療事故を考える上で重要な提案であるといえる。

[2000.12.31]

医療事故の結末-最近の新聞から-その2

月曜日, 11月 26th, 2007

医薬品情報 21

古泉秀夫

*東京都立病院で、誤って消毒液を点滴された女性患者(当時58歳)が死亡した事件で、東京地裁は2000年12月27 日、業務上過失致死罪に問われた看護婦の一人に禁固1年、執行猶予3年、他の一人に同8カ月、執行猶予3年の判決を言い渡した。裁判長は『看護婦として不注意で初歩的な過誤』と指摘した。執行猶予にした理由として、事故直後にミスを正直に病院側に申告し、都の懲戒処分を受けていることなどを挙げた。

判決によると、1999年2月、看護婦が消毒液の入った注射器を血液凝固防止剤の入ったものと間違って用意し、次の看護婦も中身を確認せずに患者に点滴した。患者はその日のうちに死亡。この事件では、病院長だった被告と都衛生局副参事だった被告が、医療ミスを隠したとして、医師法違反などで公判中。当時の主治医も、ミス隠しで罰金刑を受けた。

都衛生局の話「判決を厳粛に受け止めている。全都立病院を挙げて医療事故防止に努め、信頼回復に全力を挙げていく」。

医師や看護婦などで組織する都区職員労働組合病院支部の話「事故の背景に、安全よりも収益を優先する病院経営があり、事故防止対策を国や自治体に求めていく」。[2看護婦に有罪判決;読売新聞,第4799号,2000.12.27.]。

裁判官の『不注意・初歩的なミス』の御指摘は最もであるが、それでもなお、不明な部分が残る。つまり『消毒剤を注射器に入れたのは誰か』ということである。“消毒液の入った注射器を、血液凝固防止剤の入ったものと間違って用意”としているが、消毒剤はアンプルにもバイアル瓶にも入っていない。にも係わらず、当の本人が“血液凝固防止剤”を吸引するつもりで、消毒剤の瓶から注射筒に消毒剤を吸引していたのであれば、それは単なるミスではなく、狂気である。

しかし、実際には、“ヘパリン生食”は前もって注射筒に吸引して用意してあり、冷所保存をして置いたものを出したということのようである。しかも、注射筒には“ヘパリン生食”と油性マジックで記載されていたという。

本来なら誤りが起こる話ではないが、ここで“ヘパリン生食”を用意した看護婦が、同一テーブルで消毒剤を注射筒に吸引し、メモに消毒剤の名称を記入、注射筒に貼付した。この時、注射筒の“ヘパリン生食”の記載を確認し、メモを貼付すれば何の問題も起こらなかったのに、確認せずにメモを貼付したため、消毒剤を吸引した注射筒には何の標記もなく、消毒剤と記載したメモは、“ヘパリン生食”と記載した注射筒に貼付されていたということである。

更に、もう一人の看護婦は、“中身を確認せずに患者に点滴” したということで禁固8カ月、執行猶予3年とされている。つまりこの段階で注射筒の“ヘパリン生食”を確認することをしていれば、何の記載もない注射筒を掴んでいることに気付いたはずであり、ルール上、注射筒に“ヘパリン生食”と記載することになっていたとすれば、何の記載もされていない注射筒の注射薬を使用することはない訳で、事故は防ぎ得たということのようである。

今回の事故発生の最大の問題点は、注射薬以外の物を秤取するために『注射筒』を使用したということである。どこの医療機関でも、院内感染対策マニュアルが作られており、各部位毎に使用する消毒剤の種類と濃度は決められているはずである。

その意味では、病棟で消毒剤を希釈する必要は全くなく、濃度別に調製された消毒剤を購入するか、使用濃度の消毒剤が市販されていなければ、薬剤部製剤室で調製することで対応可能なはずである。それが実施されていなかったという組織運営上の問題が、最重要課題であり、単に個人的な問題として処理したのでは、再度類似の事故が発生する。

薬を専門に取り扱う薬剤師は、その長年の経験から散剤・水剤等、混合してしまった場合に、後から確認することが困難な薬剤の調剤に際して『調剤を始めたら最終的に秤量・混合が終了するまでは持ち場を離れない』という鉄則を厳守する。

例えそれが緊急の電話であっても、折り返しかけ直すということで、調剤の途中で持ち場を離れてはならないという教育を受けている。しかし、病棟での最優先事項は、何よりも患者の側に走ることであるため、注射薬を調整中であれ何であれ、現に実施中の作業を中断してナースコールに対応する。

つまり注射薬の調整途中であってもそのまま持ち場を離れてしまうために、他の看護婦への作業の引き継ぎは不可能ということである(他の看護婦に、その都度業務の引き継ぎができるほどの人手が有れば、注射薬調整中の看護婦が持ち場を離れる必要はない訳である)。それにも係わらず、作業の継続性があるような対応を取るため、特に注射薬については、事故が起こる確率が高いということである。

各病棟において、任務として薬品を担当する看護婦を指名しているようであるが、薬品だけに責任を持つのではなく、他の仕事の片手間に対応するという状況があるため、責任のある対応ができないということであり、病棟における看護婦配置人員の少なさが、諸悪の根元であるということもできる。

  1. 病棟で薬を扱う看護婦-特に注射薬を扱う看護婦は業務を固定し、注射薬取扱中は、他の仕事をさせない。
  2. 注射薬取扱中は二重鑑査を実施する。
  3. 単品の薬剤を吸引した注射筒・注射薬を配合した補液瓶には、患者の名前あるいは薬の名前を記載したラベルを貼付する。
  4. 注射時には必ずラベルの記載内容を確認する。
  5. ラベルの貼付されていない注射薬は使用しない。

以上のことが徹底できれば、注射薬に関連する事故は限りなく0にできるはずである。しかし、これらの作業は、現有の看護婦配置人員では、はっきり申し上げて実施不可能である。

ところで注射薬の事故に関連し、特に補液への注射薬の配合(混注)は本来調剤である(国会答弁で厚生省は混注は調剤ではないという回答をしたことがあるが)ということから、薬剤師が処方せんに基づいて行うべきであるとする論議がされている。しかし、現状のまま薬剤師に業務を移管したとしても、結果的に『注射薬の事故を分散する』に過ぎない。

まず薬剤師の勤務体制は、日勤のみであり、現状の業務を行うのにギリギリ最低限の配置人員でしかない。従って新しい仕事を持ち込むためには、増員を行うことが絶対の必要要件である。更に注射薬の中には溶解し、他剤と配合した場合、短期間に力価が低下する製品が存在する。このような注射薬では、使用直前に混合することが必要であり、日勤のみの勤務体制では、夜間の混合は、従来通り病棟の業務として残ることになってしまう。

夜間の混注も、薬剤師が実施するとすれば、薬剤師の勤務態勢を2交代制にするのか、3交代制にするのかの判断が必要である。しかも、混注の事故防止ということで有れば、調剤者と鑑査者の配置は最低限必要であり、薬剤師の健康管理を考えれば、1カ月間の夜勤回数は当然制限せざるを得ない。

2名で8日以内の夜勤回数で有れば、管理職以外に18名の薬剤師数が最低限必要であり、3名で有れば24名の配置が必要である。夜勤回数を6日以内にするので有れば、更に多くの薬剤師の配置が必要ということである。

現状では、これだけの数の薬剤師を配置することは困難であり、全てを肩代わりすることは不可能である。更に単品で使用する薬剤や臨時投薬については、病棟で配合せざるを得ず、薬剤師を各病棟に配置するので有れば、看護婦の配置を3人夜勤・4人夜勤可能人員とすることの方がより効率的であるということである。

病棟における注射薬の事故が多発する。だからどさくさ紛れに薬剤師の仕事として、薬剤師に振るのではなく、注射処方箋の確立、定められた時間内の記載・提出、頻繁な変更の中止(治療方針の明確化)等、まず処方せんを記載する医師が、他の職種の業務が煩雑にならないよう注意することからはじめて、全ての業務の見直しを徹底的に行い、その後にそれぞれの専門職能に見合った業務として確立することが必要である。

『病院における業務の全ては、医師が行動することによって派生する。事故を起こす原因の一つは、医師の自己中心的な行動』にあることを銘記すべきである。

[2001.1.13.]

医療費抑制の方策

月曜日, 11月 26th, 2007

医薬品情報 21

代表:古泉 秀夫

医療事故が報道関係で取り上げられる度に痛切に感じるのは、日本の医療の貧しさである。自由主義経済の中で、医療費だけが厚生労働省の掌の上に乗っているという現状では、厚生労働省が医療費の抑制に懸命になるのは、財務省の手前もあり予算を費消するばかりの官庁といわれたくないという思いもあるのかと斟酌する次第だが、果たして医療を受ける側の国民は納得しているのであろうか。

“医療費抑制の手段”の一つとして、導入した方式の一つが、“医薬品を医療機関から切り離すための医薬分業”である。

最近でこそ厚生労働省も、医薬分業の意味付けを経済問題から患者の安全性問題にすり替えているが、当初は、薬価差益を稼ぎ出すために、医療機関が野放図に薬を出したがるのを抑制しない限り、医療費の抑制は困難だと考えていたはずである。現在、薬価差益の極端な抑制が進捗する中、本来であれば、薬剤師以外が調剤している処方せんを診療所等から発行させるという医薬分業とは異なり、技術的な分業の完成していた病院等が、院外処方せんの発行を図り、厚生労働省が当初意図した方向へと分業は進んでいる。

その結果、現在進行中の医薬分業は、患者にのみ多くの負担を強いるという変則的な医薬分業になっており、それを糊塗するために“患者サービスの強化”ということで調剤薬局に対し、“薬歴管理と情報の提供”を求めている。提供する情報の中身は“副作用情報・相互作用情報(OTCを含めて)等”としているが、調剤薬局にとって、この副作用情報の提供は、厚生労働省が思うほどに簡単ではないようである。

第一に副作用情報の提供に医師が何処まで理解を示しているかの問題である。従来の医療の実状は、医師が全てを請け負うという体制で進行しており、他の職能が治療に口出しをすることを認めないばかりか患者に治療の内容を伝えるなどということは、あり得ないこととして進められてきた。そこに薬剤師が口出しをし、患者に副作用を伝えるなどということになれば、殆どの医師が抵抗感を持つのは当然である。にもかかわらず、厚生労働省は、医師の抵抗感を払拭する手だてを抜きにして“患者サービスの強化”を口実に、調剤薬局に対し、情報提供を求めているということである。

ただ、最近の医療事故の報告を見るまでもなく、薬剤師が患者に副作用情報を伝達することは、医師自身の『医療訴訟回避』にも連動する問題だということを理解すべきである。特に重篤な副作用の前駆症状の患者への伝達は、薬によっては添付文書にも記載されるようになっており、明らかに処方する側は、意識の変革が求められているということである。

更に“医師からもらった薬が分かる本”等の薬剤関係の本が数多く出版されており、添付文書に収載されている副作用は全て記載されている。これらの薬の名称は、錠剤・カプセル剤に印刷されている識別記号から全て判明するようになっており、医師が患者の服用薬の名称やその副作用を隠蔽することに、何の意味もないということを知るべきである。

さて、『OTC薬と医療用医薬品』の相互作用についていえば、薬と薬の問題であり、簡単に済みそうな課題であると受け取られかねないが、実際にはそう簡単ではない。何故なら多くの医療機関あるいは調剤専門薬局にとって、OTC薬の情報を蒐集することは、甚だ困難な部類に属するからである。

そこで厚生労働省は、厚生省と名乗っていた時代に、あるべき薬局の姿として、『医療用医薬品+OTC薬の情報管理』=『OTC薬販売+調剤+福祉関係』等の総合的な情報発信基地としての役割を期待するとい考え方を示していたようである。

薬価差益の解消は、副次的な作用として、調剤専門薬局の運営を圧迫するものになり、OTC薬の販売を導入しないと経営が苦しいという状況を招いていると聞いている。その意味では、旧厚生省が画く薬局像に近くなったということのようである。