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「Torcetrapibについて」

水曜日, 9月 12th, 2007

KW:薬名検索・CP-529,414・Torcetrapib・トルセトラピブ・CETP阻害剤・コレステリルエステル転送蛋白阻害剤・JTT-705・JTT-302

Q:最近、善玉コレステロールを上昇させる新薬(torcetrapib)が、国外で開発されているというが、このような特性を持った既存のコレステロール薬はあるか。この新薬が注目される理由は何か。また、配合剤として開発されている意味

A:トルセトラピブ(torcetrapib)は、血液中のCETP(cholesteryl ester transfer protein:コレステリルエステル転送蛋白)阻害剤として開発された薬物である。

CETPは末梢のHDL-コレステロールを肝に逆転送して代謝させる蛋白で、高HDL血症を呈している場合、CETP欠損が疑われるとされている。

CETPは血管壁などの末梢組織から肝臓へコレステロールを逆転送して、処理・排泄に働く蛋白である。

HDL(高比重リポ蛋白)内の余剰コレステリルエステルは、CETPを介してapoB含有リポ蛋白(LDL、 VLDL)に転送され、LDL(低比重リポ蛋白)レセプターを介して肝細胞に取り込まれる。家族性CETP欠損症患者では、この転送系が欠損しているためほぼ例外なく高 HDL血症となることが知られている。

torcetrapibは、CETP欠損症を発見した金沢大の馬渕宏教授(脂質研究講座)らの研究成果を元に、米国・ファイザー製薬が開発したCETP抑制作用を有する薬物である。従来のLDL-コレステロールを低下させる薬剤との比較でいえば、torcetrapibはHDL-Cを増やす、画期的な効果があるという。

CEPT阻害剤として開発段階にあるものとして、次の薬剤が報告されている。

薬品名

会社名

概要

torcetrapib/atorvastatin配合剤

(米・ファイザー)

新配合医薬品。コレステロールエステル転送蛋白(CETP)阻害剤のtorcetrapibとスタチン系高脂血症剤atorvastatinの配合剤。適応は高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症、アテローム性動脈硬化症の治療に用いる。HDL-C値が低い患者に対しtorcetrapibを用いてCETPを阻害するとHDL-Cが著しく増加し、LDL-C値が低下した。この効果はatorvastatinと併用した場合にも認められた。高コレステロール血症患者19例に120mgを4週間投与した結果、血漿中HDL-Cが46%増加した。また本剤とatorvastatin併用投与では、HDL-Cが61%増加LDL-Cが17%減少した。米では2008年に発売を予定していた。国内では2008年に申請、2010年発売を予定している

JTT-302

(日本たばこ)

日本たばこ産業で創薬されたHDL中のコレステロールをLDLに転送するCETPを阻害することにより、血中HDLを増加させる高脂血症治療剤。経口剤。2005年海外で臨床治験開始

JTT-705

(日本たばこ)

日本ではphese I、海外ではphese IIまで治験が進行(2005年)軽症な高脂血症患者に1日量300mg、600mg、900mgを経口投与すると4週後にHDL-Cが用量依存性に最大33.9%迄増加した。日本たばこ産業で創薬されたHDL(高密度リポ蛋白)中のコレステロールをLDL(低密度リポ蛋白)に転送する蛋白質(コレステリルエステル転送蛋白)の活性を阻害する高脂血症治療剤。経口剤。CETPの活性を阻害することで、VLDL、HDL-C値を上昇させる一方、LDL値を低下させて、血管内の脂質低下を防ぐこと、抗動脈硬化作用のかなりの部分をHDL-L増加作用が担っていることを動物実験で確認した

CP-529,414

(torcetrapib)

(米・ファイザー)

本剤を10-120mg投与するとHDL-Cが16-91%上昇。また高用量投与ではLDL-Cも低下(42%)した。

CETP阻害剤は、確実にHDL-Cを増加させる。しかし、CETP欠損症で動脈硬化が多いという報告と、少ないという報告があり、CETP阻害剤の使用について慎重な意見もある。従って、我が国でCETP阻害剤が臨床応用されるまでに、まだかなり時間がかかると考えられている。

torcetrapib/atorvastatin配合剤の開発について、『新薬が販売承認される時、承認される対象疾患、用法用量などは、基本的に第III相比較臨床試験で用いられた対象疾患、用法用量などに従って決められる。新薬の第III相比較臨床試験デザインは、そういう意味で非常に重要な位置を占めている。そのことを悪用して特許切れが近い自社の主力製品を、注目されている自社新薬に併用させて特許切れ後も強引に用いさせようとする露骨な営業戦略が、世界最大の製薬企業ファイザーによってとられ、これを批判する論説が米国のNEJM誌に掲載された(NEJM352,2573- 76,2005.6.23)。』とする報告が見られる。

FDA(米国食品医薬品局)には、ファイザーからtorcetrapibの単独データや他の後発品スタチンとの併用データでなく、torcetrapib/atorvastatin配合錠のデータのみが提出されるので、FDA(米国食品医薬品局)はこの上乗せ効果が実証されれば、本剤をatorvastatin(リピトール)に上乗せして用いる用法・用量のみで承認すると見られている。

atorvastatinは、現在世界で最も売上高の大きい医薬品として知られる、コレステロール低下剤[LDL-C低下剤]で、ファイザーの年間全利益の半分は、本品で得られている。本品は2010年に特許が切れる。今回のtorcetrapibの比較臨床試験のデザインは、それを見越してのファイザーの営業戦略と見られている。

一方、ファイザー社は、同社の科学者が長年かけてCETPの働きを阻害する化合物を見出す努力を続けてきた。その初期段階で発見された最も有望な化合物が、今ではtorcetrapibとして知られているCP-529,414である。ファイザー社は更に数年を費やし、その化合物の物理的特性の改善およびtorcetrapibの作用機序の解明にあたり、その結果、1999年にはヒトに投与することが可能になった。しかし、torcetrapib単独ではLDL-C値を十分に下げることはできなかったため広範囲に研究されLDL-C値の低下に非常に効果的であることが実証されているatorvastatinとの併用が決定されたとしている。

現在、第III相臨床試験段階ある薬剤であり、今後どのような結果が得られるか不明であるため、単独あるいは配合剤の優位性を判断することは困難であるが、少なくともatorvastatinの副作用を抑制し効果を増大できるのであれば、配合剤として開発する価値はあるといえる。

追記:治験薬使用患者群の死亡と心臓血管イベント(収縮期血圧上昇)が対照のプラセボー群との比較で、不均衡が見られるとして、全開発プログラム打ち切りを速断したの報道がされた。

1)三井田孝・他:新薬展望2005第III部治療における最新の新薬の位置付け-新薬の広場-高脂血症治療薬;医薬ジャーナル,41(S-1):483-491(2005)

2)治験薬一覧表;New Current,17(14):64(2006.20.)

3)http://www.yakugai.gr.jp/attention/attention.php?id=100,2006.11.9.

4)http://www.pfizer.co.jp/pfizer/company/press/2005/2005_06_29.html,2006.11.9.

5)米ファイザー「トルセトラピブ」を開発中止 リピトール配合用の期待の新薬 収縮期血圧予想以上の上昇で;RIS-FAX,?第4755号,2006.12.4.

[011.1.TOR:2006.11.9.古泉秀夫]

「ラウレス硫酸ナトリウムについて」

水曜日, 9月 12th, 2007

KW:薬名検索・ラウレス硫酸ナトリウム・sodium laureth sulfate・SLES・ラウリルエーテル硫酸ナトリウム・sodium laurylether sulfate・ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム・sodium polyxyethylene laurylether sulfate

Q:ラウレス硫酸ナトリウムについて

A:ラウレス硫酸ナトリウム(sodium laureth sulfate:SLES)は、別名としてラウリルエーテル硫酸ナトリウム(sodium laurylether sulfate)。化学名としてポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム(sodium polyxyethylene laurylether sulfate:SPLES)等が報告されているが、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムのINCI名が『sodium laureth sulfate(ラウレス硫酸ナトリウム)』である。

本品は定量するとき、表示量の90-110%に対応するポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム[C12H25NaO4・(C2H4O)n]を含む。本品は無色-淡黄色の液又はワセリン様の物質で、僅かに特異な臭いがある。

1933年にUlrich、Saurweinによる報告が最初である。ポリオキシエチレン基を持つ非イオン界面活性剤の末端水酸基を硫酸化して得られ、疎水基の種類、オキシエチレン鎖長、対イオンの種類により数多くの化学構造が考えられるが、この型のものが液体シャンプー用原料を中心に洗浄剤、起泡剤として1950年代中頃から市販品が登場し広く普及するに至っている。

ラウリルアルコールに酸化エチレンを付加重合して得られるポリオキシエチレンラウリルエーテルをクロルスルホン酸、又は無水硫酸で硫酸化し、水酸化ナトリウム液で中和して製造する。硫酸化はラウリル硫酸ナトリウムの製法に準じる。

性状:市販品は主として23-30%水溶液、若しくは60-70%ワセリン様で無色-淡黄色である。pH:7.5(1%水溶液)。水に溶解する。エタノールに溶ける。キシレンには不溶。一般性状は酸化エチレンの付加モル数により異なり、モル数が増大すれば水溶性が上昇し、溶液粘度は減少する。未反応のラウリルエーテルや無機塩の存在は粘度を上昇させる。酸化エチレンの付加モル数が2-4の硫酸塩が刺激性、溶解性、粘度、泡立ちの点から適当とされ、広く用いられている。本品は硫酸エステル塩であるため、酸性では分解する。

付加モル数 SPLES分子量
1 332.44
2 376.49
3 420.54

作用:本品はラウリル硫酸Naよりも皮膚に対する作用が温和で刺激が少なく、シャンプーとして使用した場合、比較的しなやかな感触を髪に残す。

応用:本品の高濃度水溶液は、粘稠なゲルとなり、また曇り点が低いために透明な高粘度のシャンプーの配合に適している。

有害性:皮膚を刺激する。眼に重大な障害を及ぼす危険性がある。

環境影響:調査した範囲では、環境への悪影響を示す情報はない。

廃棄:産業廃棄物取扱業者に委託する。

物理的・化学的危険性:通常の取扱いでは危険性は低い。

応急措置

1]吸入した場合:被災者を新鮮な空気の場所に移動させ、必要に応じて医師の受診を受ける。

2]皮膚に付着した場合:多量の水及び石鹸を用いて洗い流し、症状が出た場合等、必要に応じて医師の診断を受ける。

眼に入った場合:即座に目蓋を開いて流水で15分間以上洗浄し、直ちに医師の処置を受ける。

3]飲み込んだ場合:水で口の中を洗浄し、コップ1-2杯の水又は牛乳又は生卵を飲ませ、医師の処置受ける。被災者の意識がない場合は、上記の経口摂取は禁忌である。

ラウレス硫酸Naの毒性

急性毒性:ラット経口(LD50):>2000mg/kg

眼刺激性:強い刺激性が認められた(ウサギ,OECD405法)

皮膚腐蝕性:non data

皮膚刺激性:non data

変異原性:陰性(Ames試験(サルモネラ菌 TA98、TA100)

癌原性:non data

水棲生物毒性:コイ稚魚LC50範囲:107-143mg/L(48時間)

1)湯浅正治・他編著:化粧品成分ガイド第3版;フレグランスジャーナル社,2005

2)日本化粧品工業連合会・編:日本汎用化粧品原料集夢第4版;株式会社薬事日報社,1997

3)化粧品原料基準 新訂版;株式会社薬事日報社,1999

4)日本公定書協会・編:化粧品原料基準 第二版註解[I];株式会社薬事日報社,1984

5)花王株式会社-製品安全データシート;http://chemical.kao.co.jp,2007.1.29.

[011.1.SLE:2007.1.29.古泉秀夫]