Archive for 8月, 2007

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医薬品情報管理学[1]

水曜日, 8月 15th, 2007

情報とは何か

情報とは断片的な事柄を蒐集し、評価し、再構築することによって、一つあるいは複数の思考を発展させるための道具である。

又は個々の断片の意味を解析し、集積することによって、自らの意志決定を、あるいは行動の決定をするための判断の材料であるとすることが出来る。

山に降る雨の一粒一粒が、散り積もった腐葉土に染み込み、一定の年限を経て、小さなしたたりとなる。滴りはやがて細流となり、大河へと変貌する。情報とは、その水の流れと同様に、個々に発信された断片が、集積することによって、大河へと変貌する。情報を利用する側は、その膨大な情報の流れの中から情報蒐集のための規則を確立し、自らに役立つ情報を選別し、利用する。しかし、自然の大河が放置すれば、暴走するのと同様に、情報の大河も暴走する。

従って護岸工事をし、ダムを造って流出する水流を調節する。更に、その水を発電に利用する、農業用水に利用する、飲料用水に使用する等、利用目的別に細流化し、奔流を管理しようとする。つまり情報の管理とは、水の管理と同様に、情報の洪水に溺れることを避けるために、如何に歯止めを掛けるかの技術であるとすることが出来る。

従って、医薬品情報の管理を考える場合、その基本となるのはあくまで総合的な情報管理の技術であって、医薬品の情報に限定した固有の管理技術があるわけではない。いってみれば、総合的な情報の集合体であるダムからの放流水の一部を、医薬品に特化して、管理しているに過ぎない。

その意味では、医薬品情報管理学に限定した入門書として特別のものを考えるのではなく、一般的な情報管理学の入門書を読むことを推奨する。

参考までに、情報管理業務を行う際、最初に手にした本は、『梅棹忠夫:知的生産の技術;岩波書店,1969』である。

医薬品とは何か

薬事法第2条に医薬品の定義が記載されている。

(2003年7月30日現在)

  1. 日本薬局方に収められている物
  2. 人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされる物であって、器具器械(歯科材料、医療用及び衛生用品を含む。以下同じ。)でないもの(医薬部外品を除く。)
  3. 人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であって、器具器械でないもの(医薬部外品及び化粧品は除く。)

(2005年施行)

  1. 日本薬局方に収められている物
  2. 人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされている物であって、機械器具、歯科材料、医療用品及び衛生用品(以下「機械器具等」という。)でないもの(医薬部外品を除く。)
  3. 人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であって、機械器具等でないもの(医薬部外品及び化粧品は除く。)

上記は、法律としての医薬品の定義であるが、医薬品情報管理学の立場から見た医薬品は、若干この定義とは異なった視点で見ることが必要である。

医薬品原料として使用されるものとして、鉱物・生物成分・植物成分・魚類を含む海産物成分等の多くの物質と共に、人本来が持っている生物学的機能を利用する方法等も検討されている。

これらの成分を医薬品とすべく、最初に実施されるのが『基礎的研究』である。

従来、我が国で行われてきた漢方治療では、原体そのままを粉末化あるいは浸煎剤等とすることにより医薬品としての利用がされてきたが、現在ではそれらの原体に含まれる成分を単離することによって、より有効な薬物の創製が追求されている。また、構造化学的な分析から新たな化合物が合成され、医薬品としての創製も検討される。

動物実験等を含めた『基礎的研究』の結果を受け、健康人を対象とした『第I相臨床試験』が開始され、人における安全性等の検討が実施される。更にその結果を受けて『第II相前期臨床試験』・『第II相後期臨床試験』が少数の患者群によって実施される。『第II?相臨床試験』では主として安全性・有効性・至適投与量等の確認が行われる。

図2.医薬品情報管理学から見た医薬品

以上の各試験の結果、安全性・有効性の確認がされた段階で本格的に治療薬としての検討をするために『第III相臨床試験」が実施される。

患者を対象として実施される各種の臨床試験は、現在ではGCP(Good Clinical Practice)により規制がされている。これは平成9年3月27日(厚生省令 第28号)『医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令』として法制化された。

臨床試験は『臨床試験成績の信頼性確保』のために『科学的に』、『適正に実施』することが求められており、更に臨床試験結果の信頼性・患者の人権擁護の立場から『Informed consent』(十分に説明された上での患者の自由な意思に基づく同意)を求めるべく、実施する医療機関が遵守すべき事項が厳しく定められている。

医薬品にとって、この各段階は『物』に対する『医薬品』としての情報集積期間であり、各種試験結果の総合的な判定を受けて医薬品としての製造承認がされることになる。

つまり『医薬品』とは、『物』に『付加価値としての情報』が加えられることによって初めて『医薬品』として承認・使用されるもので、薬剤師が医薬品の管理を行うということは、これらの情報を含めて管理するということである。

また、発売された医薬品のうち通常の医薬品については、GPMS(Good Post-Marketing Surveillans)により承認のあった日後原則6年(医療用具は4年)に満たない範囲内において厚生大臣の指定する期間に、市販後調査を実施するよう義務付けられている。また、PMSは『医薬品の市販後調査の基準に関する省令』(平成9年3月10日)として法制化されたが、これらは患者の安全性を確保するための努力義務であり、本質的には医薬品に関する情報の蒐集業務であるということが出来る。

更に平成13年10月1日からは『医療機関において使用される医療用の新薬』について、『市販直後6カ月』の市販後調査が実施されることになっている。

*希少疾病用医薬品及び厚生省令で定める医薬品等では、『その製造の承認のあった日後6年を超え10年を超えない範囲内(医療用具では4年を超え、7年を超えない範囲)』とされている。

以上に述べた観点からしても、薬剤師の業務として『医薬品情報管理業務』があるのは当然であり、従来片手間に行われていた業務が、情報量の増加に伴って、独立・専門化せざるを得なくなったということである。

その意味では全ての医療機関に、『医薬品情報管理室』が設置されるのは当然のことであり、情報管理のために選任の薬剤師が配置されるのは極く当然のことでなのである。

[2001.9.23.作成・2003.5.28.一部改訂]


  1. 古泉秀夫:医薬品情報管理学[1];THPA,44(3):161-163(1995)
  2. 財団法人日本公定書協会・編:薬事衛生六法;薬事薬事日報社,1998
  3. 財団法人日本公定書協会・編:薬事衛生六法;薬事薬事日報社,2003

E型肝炎ウイルス(hepatitis E virus)の不思議

水曜日, 8月 15th, 2007

1955年以来、インド国内数カ所で雨期あるいは洪水後に肝炎の爆発的な流行が繰り返されてきた。この肝炎の疫学的、臨床的特徴は、

  1. 糞便に汚染された飲料水を介する経口感染である。
  2. 既に幼児期にHAV(hepatitis A virus)に感染して抗体陽性の若年成人(15-40歳)に好発する。
  3. 潜伏期が約40日でA型肝炎より長い。
  4. 死亡率が1-2%でA型肝炎の約10倍であり、特に妊婦の死亡率は高く、10-20%に達する。
  5. ペア血清がHAVとHBVのいずれとも反応しない。

等である。

従って、この肝炎は流行性肝炎(epidemic)あるいは便口伝播型(enterically transmitted) 非A非B型肝炎と呼ばれてきた。最近、その伝播様式に因んでeをとり、E型肝炎と呼ばれるようになった。E型肝炎は、A型肝炎と同様に一過性の黄疸を伴う急性肝炎を発症したのち速やかに回復し、慢性化することはない。小児は通常不顕性感染で発症しない。感染後はほぼ終生続く免疫が成立する。

E型肝炎ウイルスhepatitis E virus(HEV)は、肝細胞で増殖して胆汁中に分泌され、糞便とともに排泄される。HEVのvirionは、直径32-34nmの球形であり、 envelopeを持たない。viral genomes(ウイルスゲノム)は7.5kbの一本鎖、プラス鎖のRNAであり、poly Aをもっている。HEVは分類上はカリシウイルス(科)とされている。

HEVは、インドの他、パキスタン、ネパール、ミャンマー、旧ソ連、中国、アフリカ、メキシコなどに広範に常在しており、これらのHEV浸淫地への旅行者の増加と、それらの地域からの労働者の急増により、輸入肝炎として日本へも持ち込まれる危険性が高い

[天児和暢・他編:戸田新細菌学;南山堂,1997]。

■インド、パキスタン、バングラディシュ、ネパール、ミャンマー等の東南アジア諸国をはじめ、アフリカ、中南米等の熱帯・亜熱帯地域の発展途上国に広く分布し、流行を繰り返している。好発年齢は15-40歳の壮年期で、小児や老人には少ない。  我が国にはE型肝炎ウイルスは常在していないが、発展途上国との交流の拡大とともに、輸入感染症として患者が発生することが予測される

[山西弘一・他編:標準微生物学 第8版;医学書院,2002]。

ほぼ我が国の細菌学の教科書では、E型肝炎ウイルスは輸入感染症とされていた。つまりE型肝炎ウイルスは国内には存在せず、専ら生存地は衛生状態の悪い後進国ということになっていた。しかし、北海道でエゾシカの肝臓の刺身を食した人がE型肝炎を発症し、神戸では猪に肝臓の刺身を食した人が発症した。更に北海道では、焼き肉屋で豚の肝臓の生焼けを摂食してE型肝炎を発症した。

北海道の事例については、旧ソ連から輸入されて定着したのではないかとする意見もあったようだが、それでは神戸のウイルスの説明がつかない。更に猪は雑食性であり、人と同じような食性を示すと考えられるため、糞口感染の機会があったことは予測できるが、エゾシカの食性は雑食性ではないはずで、草や木の葉を食していながらどういう経路で感染が起こったのか、若干分かり難いところがある。

しかし今回、従来の教科書を全面的に書き直すことが必要となる事実が新聞報道された。

最近になって存在が確認され、ときおり集団感染を引き起こすE 型肝炎ウイルスは、既に約100年前には国内に侵入し、”土着化”していたことが厚生労働省研究班(主任研究者・三代俊治東芝病院研究部長)の調査研究で解った。富国強兵政策の一環で、軍人の体力をつけるため英国から輸入したブタによって持ち込まれ、肉食文化の普及で全国に拡大したらしい。

E型肝炎ウイルスは遺伝子の特徴から1-4型があることが知られ、時間の経過とともに変化していく。遺伝子の変化を調べることで、ウイルスの歴史、移動、系統関係が解る。同班の溝上雅史・名古屋市大教授らは、国内と世界各地で見つかったE型肝炎ウイルスの遺伝子を比較した。国内のウイルスは大きく分けて3型と4型の二つのグループが混在し、いずれも約100年前に、起源となるウイルスが国内に侵入したことが解った。

国内で主流の3型は、ヨーロッパや米国など、19世紀に英国と交流が盛んだった国々に多い。日本も1900年頃に、軍人の体力強化のために英国からブタを大量に輸入した。ブタのE型肝炎ウイルス保有率は非常に高いことから、研究班はブタがウイルスを持ち込んだ可能性が高いと断定。肉食文化の普及で、ウイルスが土着したと見ている。 E型肝炎ウイルスの感染経路は、ブタやシカ、イノシシなどの肉の生食によるものと解ってきた。

しかし数年前まで日本のE型肝炎の殆どは、インドなど海外で感染したものと考えられていた

[読売新聞,第46722号,2006.4.9.]。

E型肝炎ウイルスが我が国に上陸して100年。既に本邦に土着化していたというが、それなら現在までに報告されたE型肝炎ウイルスの感染者が、何故、輸入感染症の患者であるとされてきたのか。感染者の全てが、海外旅行経験者だったとでもいうのであろうか。いずれにしろ国内に存在しないとされてきた理由がよく解らない。

E型肝炎ウイルスの存在そのものが未確認という時代が続いたということもあるのかもしれないが、長いこと非A非B型肝炎として扱われて来た症例の中に、本来はE型肝炎ウイルス感染者とされなければならない患者がどの程度いたのか。

相手が眼に見えないということ以外に、重症化する患者が少ないということが、E型肝炎ウイルスを深く静かに潜行させた原因なのかも知れない。

しかし昔から「豚肉の生は喰うな」といわれ続けてきたが、最初の感染源は豚だということからすれば、その口伝は正しかったということである。

(2006.4.16.)

Compliance-薬剤師の責任

水曜日, 8月 15th, 2007

大衆薬(市販薬:OTC薬)について、厚生労働省は薬のリスクを3ランクに分けて、店側がきちんと消費者に説明し、買う側にも薬の副作用の度合いなどが分かるように販売ルールを改めるため、2006年1月20日からの通常国会に薬事法の改正案を提出する。1960年以来となる大改革は2008年から実施される予定。

現在の薬事法は、医師の処方せんを基に調剤ができる薬局と、薬店の中でも薬理作用が強い大衆薬(指定医薬品)を扱える薬店(一般販売業)に薬剤師の常駐を義務付けている。国内の薬剤師は24万人。薬剤師が常駐しなければならない薬局・薬店(一般販売業)は6万店余で、数字上は全店に常駐させることができる数ではあるが、実際は、就職先として病院や製薬会社の方が圧倒的に多く、薬局・薬店(一般販売業)は薬剤師の確保が困難な現状があるとされている。

2002年の厚労省の全国調査では、指定医薬品を売る薬店の16%、薬局の2%弱で薬剤師が不在だったとする報告がされている。

新制度が導入されると、大衆薬はリスクに応じてA-Cに3分類される。医療用医薬品から大衆薬に転用された胃腸薬「H2ブロッカー」など、高リスク薬はランクA。販売できるのは薬局のみで、薬剤師による対面販売が義務化される。解熱鎮痛薬の「アスピリン」など中程度のリスクの薬はランクB、ビタミン剤など低リスクの薬はランクCに分類。これらは全ての薬局、薬店で扱われるが、販売従事者としての資質確認のため、薬事法や副作用に関する知識を問う試験を新設し、合格者でなければ販売できなくなる。

B・Cランクの薬だけを扱う店では薬剤師の常駐は必要なくなる。A-Cのランクは全ての大衆薬の外箱、容器に表示されるようになる。

全身がケロイド状態になる「スティーブンス・ジョンソン症候群」をはじめ、大衆薬が原因と見られる副作用報告は、2004年だけで約300件に上る。サリドマイド薬害の被害者らで作る財団法人「いしずえ」の間宮清事務局長は「薬の販売を職業ベースで考えず、『かかりつけ医』のような存在に変わることが薬局・薬店には求められている」と話している。

  成分 主な製品名
A シメチジンなどH2ブロッカー(胃腸薬) ガスター10(ゼファーマ)
パンシロンH2ベスト(ロート製薬)
三共Z胃腸薬(三共)
ミノキシジル(発毛薬) リアップ(大正製薬)
塩酸ブテナフィン(水虫・たむし用薬) ブテナロック液(久光製薬)スコルバダッシュ(武田薬品工業)
B アスピリン
イブプロフェン(解熱鎮痛薬)
バファリンA(ライオン)
イブ(エスエス製薬)
ナロンA(大正製薬)
スクラルファート(胃腸薬) イノセアプラス錠(佐藤製薬)
インドメタシン(鎮痛消炎剤) バンテリンコーワ(興和)
パデックスID(第一製薬)
ビタミンA・D キューピーコーワゴールドA(興和)
チョコラA、D(エーザイ)
漢方処方製剤 葛根湯
C ビタミンB・C アリナミンA(武田薬品工業)
ハイシー1000(同)
尿素(外用薬) ワムナールプラスローション(ゼリア新薬工業)オイラックス潤乳液(ゼファーマ)

大衆薬はOTC薬と略称されることがある。これはOver the Counter Drugの略称であり、客と接するカウンター内の薬剤師が、その背にする棚に薬を置き、患者の容態を聞きながら、薬剤師が薬を選択し、患者に用法等の説明をしながら販売する薬ということの意味である。

いつの間にか、薬局も薬店も客が勝手に掴み出せるところに薬を陳列し、客が自ら選択する薬をただ売るだけという商売に成り下がってしまった。更に悪いことに、薬剤師は『セルフメディケーション』なる思想を我田引水的に解釈し、薬は客が客の責任で選択するものだということで、薬の説明をしなくなってしまった。

客は客で、薬局での説明に抵抗を示す傾向が見られていた。しかし、その原因を作ったのも多くは薬剤師なのである。薬局協励会の研修会等では、来客の客単価を上げるための研修会などが大流行で、如何に併売するかの接客術が伝達講習され、風邪薬を買いに来た客に、ビタミンCや総合ビタミン剤、時にはドリンク剤の抱き合わせ販売をするようにという話を微に入り細を穿ち講義されていた。つまり薬局に行って黙って付き合っていると、1回に数千円の薬を買わされるということで、薬局での説明に耳を貸さなくなったということである。

薬局で薬剤師が実施すべきことは、過去の服薬歴と副作用発現状況の把握、薬の相互作用を避けるための他の薬の服薬状況の把握、いわゆる健康食品の摂取状況、女性であれば妊婦・授乳婦への注意等である。

最も当人が高熱で、体調不良が極まれりという状況の中では、何よりも素早く的確な薬を渡すということが最優先される事項であり、このような場合の長広舌は、最も避けなければならないことである。将に余計なお世話になりかねない。更に客の体調によっては、医師への受診をすすめるべきであり、可能であれば、優秀な医師を紹介するところまで行くのが理想である。

これをするためには普段から近隣の医療関係者と付き合いがなければ不可能であり、人間関係の構築に努力することが求められる。地域の薬剤師会が支援すべきは、医師会等との連携構築ということである。

いずれにしろ今回の薬事法改正により、OTC薬の取扱がより明確にされる。更に新しい資格制度も導入される。それぞれの立場に立つ諸氏が、薬事法の法令遵守をすることが最重要課題であり、法律の主旨を曖昧にすることがあってはならない。

(2006.2.12.)

SPD外部委託の矛盾点

水曜日, 8月 15th, 2007

日本病院薬剤師会は2001年2月10日の理事会で、『院内の医薬品の搬送、補充、在庫管理などを一元管理する「SPD(Supply Processing & Distribution)」の外部委託が広がっていることについて協議、薬剤師の業務が侵されかねない重要な問題ととらえ、会員への周知が急務だとした』とする報道がされていた。

『SPD請負い業者の仕事は、調剤室への出庫、病棟での定数配置薬品の数量チェックや補充、個人注射薬と輸液の取り揃えの準備など多岐にわたり、その範囲や方法は病院によって異なる。その中で薬剤師とSPD請負業者との業務分担が不明確になっている。要所要所で薬剤師が点検するが、薬剤師の点検という形式の下で薬剤師の手間を省くことが第一となり、職能の縮少になるとしている。病院にとっては経営や物流の効率化を図ることができ、卸の参入も相まって急速に広がる可能性があり、SPDの導入時には適正使用の点から薬剤師が主導権を握ることが重要とだ』とする意見が出されたという。

しかし、皮肉な見方をすると、現在、日本病院薬剤師会が推奨している病棟での『服薬指導業務』の実践が、薬剤業務にSPDの導入を促進しているという見方も可能である。『服薬指導業務』を導入する際、一定数以上の入院患者を要する医療機関において、最も体力を要する部分が『注射薬についても原則として処方せんに基づく個人渡し』という部分で、この部分を実行しなければ、『服薬指導業務』に突入できないという自家撞着に陥るのである。もし、薬剤師の増員が可能であれば、何等問題なく片付く話であるが、薬剤師の定員削減に抵抗するための『服薬指導業務』の導入であれば、新たな仕事が増えるからということで増員がされる訳ではない。そこで人員増なしに『注射薬の個人渡し』をしようとすれば、手近なところで業者の手を使うということである。

ただし、問題なのは、『注射薬を原則として処方せん』ということであれば、その行為はあくまで調剤行為であり、薬剤師でもない業者に任せることの是非を問う前に、既に違法行為である。例えば最終的に、施設の薬剤師が鑑査を実施したとしても、薬剤助手制度の確立していない我が国において素人に調剤を委託するのは問題だといえる。更に問題なのは処方鑑査をし、注射薬を調剤し、鑑査するという一連の流れは、薬剤師による二重・三重の鑑査がされていることを意味する。それにも係わらず各部門での鑑査を排除して、如何に最終鑑査に力を入れたにしても、見逃しは必ず起こるというのが、長年の経験からいえることである。通常行われる調剤薬の鑑査もそれぞれ分担調剤を行う薬剤師が完璧を期して仕事を行い、その完成品を鑑査するからこそ薬局の窓口から外に出る誤薬がなかったということが出来る。注射薬調剤についても同様であり、最終1回の鑑査では、完璧は期しがたいということである。

また、注射薬は、急性期の入院患者に使用されるということで、頻繁に変更が行われる。特に土・日曜日あるいは連休中の払出し分は、休日明けに大量に返戻されるという宿命を担っている。これを避けるためには、薬剤師が土・日に出勤しあるいは連休に出勤し、通常業務を実施する以外にないが、これでは薬剤師の労働条件が守られない。

薬剤師の配置人員を決定する論議の中で、薬剤師の収益性が論議になり、病院薬剤師が期待する定員配置がされなかったことから、現状で最も収入に繋がる早道として『服薬指導業務』が喧伝される結果になったが、ある意味で、あまりにも短絡的な発想ではなかったのかという疑念を持たざるを得ない。

日本病院薬剤師会が大号令を掛けるまで、『服薬指導業務』が思ったほどの前進を見せなかったのは、それなりの理由があったからで、その原因の解明なしに促進のかけ声を掛けられれば、流行に乗り遅れるなとばかりに、あらゆるものを捨てて電車に乗ろうとするのが日本人の悪い癖である。

電車の先頭車両に乗るのか、最終車両に乗るのか、到着する駅が同じであれば急ぐことはないと考えるが、先頭車両に乗りたがるのが国民性ということであろう。しかし、SPD請負業者による注射薬調剤の代行は、ますます薬剤師の存在感を失わせるものであり、人件費に見合うことのない『服薬指導業務』の実践が、薬剤師の定数増に貢献しないばかりか、更に配置人員の削減の口実に利用されはしないかと危惧する次第である。

薬剤師の配置人員を考える場合、単に金銭的な利益の追求ではなく、院内薬品管理の全般に対する貢献度を再度検討することが必要ではないか。

嘗て“竹槍で戦争を仕掛けるタイプ”だといわれたことがあるが、『人が先か仕事が先か』といわれれば、やはり仕事をした上で増員を要求するといわざるを得ない。

[2003.7.29.]

労働条件の悪化を容認するのか?

水曜日, 8月 15th, 2007

鬼城竜生

2005年3月24日、厚生労働省で開催された第7回社会保障審議会医療部会において、日本病院薬剤師会会長が「医薬品安全対策の総合的推進について」の中で、参考人として発言の機会を得て、「医薬品の安全使用体制の確立に向けて」と題して病院薬剤師が取り組む課題を説明したという [薬事新報,第2363号:22-23(2005)]。

その中で

「薬剤管理指導業務の完全実施」、

「夜間・休日における薬剤業務体制の充実」

について触れたというが、いずれも基本的には薬剤師の員数の問題と関わってくる。特に「夜間・休日における薬剤業務体制の充実」に関しては、別の会議の場でも『病院薬局で宿日直業務の実施率が低いのは、薬剤師の増員を求める際に悪影響を及ぼす』とする会長発言をしているが、薬剤師の労働条件の悪化を前提とした業務の改善は、真の改善とはならない。

第一、宿日直の導入は、病院薬剤師の決意だけで、解決できる話ではない。

宿日直手当の問題、宿直室の整備の問題、特に女性を含めて宿直業務を行うとすれば、宿直室の防犯対策、宿直室と調剤室の防犯対策、更に日直・宿直業務の交代要員の確保等、一定の財源確保が求められる。

宿日直業務を含めた勤務時間については、労働基準法の遵守は最低の範囲であって、それ以下にすることは間違いなく経営者の責任問題とされる。例えば土・日に日直で出勤した場合、振り替え休日で処理するのか、休日出勤手当で対応するのか。土曜日の夜間、日曜日の夜間は、同一薬剤師による連続勤務にするのか、他の薬剤師との交代勤務とするのか。対応の仕方によっては薬剤師に長時間勤務を強いることになる。

年休の保証、病休の保証、学会出張、研修会の参加等を保証するとすれば、元々3人や 4人の薬剤師の配置で、宿日直業務をやれという方に無理がある。実施可能な薬剤師が配置されていながら、実施していない施設が無闇にあるというのであれば問題であるが、そうでなければ、発想の転換が必要である。

日直を実施するとすれば、1施設当たり何人の薬剤師が必要なのか。当直をするとすれば、1施設当たり何人の薬剤師が必要なのか。各施設毎の必要数を具体的に、例えばベッド数別に算出し、提案することも必要ではないか。

もし、薬剤師がいうように、薬剤に関連する医療事故をなくすために、365日24時間体制で薬剤師の配置が必要である。薬剤師を配置することで眼に見えて医療事故の大部分は減少させることが出来、医療事故発生に伴う、人的時間の浪費、財政的負担の軽減が可能だと経営者が認識すれば、薬剤師の一定数を直ちに採用するという決断を得られるかも知れない。

いずれにしろ病院薬剤師の世界に過酷な労働条件が導入されれば、病院薬剤師自身が実調剤、薬品管理で過誤を起こす可能性が増大し、過酷な労働条件が更に継続すれば、病院薬剤師の退職、就職拒否という事態を招きかねない。改善を急ぐあまり、足元の見えない感情論を持ち出すのは避けなければならない。

(2005.4.15.)

倫理的な判断はできるか?

水曜日, 8月 15th, 2007

鬼城竜生

「人間の心を学び、倫理的に間違っていると思った時は、『NO』と言える判断力、決断力を磨いてほしい。よく観て、よく聴き、信念を持って発言してもらいたい』  この言葉は、東京都立広尾病院の点滴ミス・隠蔽事件の被害者の夫である永井裕之氏の講演中の言葉であるとされている。

都立広尾病院の医療事故は、1999年2月、左手の指関節の軟骨をとる手術を受けた永井氏の妻が、その後、看護師に誤って消毒薬を点滴注射され、死亡したというものである。死亡の原因は、注射筒を用いて消毒薬を秤取するという、病棟の悪しき習慣によるもので、その後、多くの病院で、消毒薬の秤取に注射筒を用いないという至極当たり前のことを禁止する茶番劇が演じられたが、正確に必要な薬液を秤取するという目的のために、多くの病院で行われていたということである。

更に都立広尾病院の事例は、その失敗を組織ぐるみで隠蔽しようとした病院側の対応のまずさから、社会の医療不信を拡大する一因となったと批判されている。点滴を実施した看護師は、当初からその可能性を報告していたが、主治医は「心筋梗塞や心疾患の可能性が強い」と説明。当時の病院長も医師法に基づく警察への届け出を渋り、死因の説明も不十分だった。

当時、都が作成していた『医療事故・医事紛争予防マニュアル』では、患者が死亡した時、過失が極めて明確な場合を除いて警察には届けず、病理解剖を勧めると記載されていたという。当時の都立広尾病院の院長は、マニュアルの作成責任者で、都衛生局も隠蔽に加担していたとされている [読売新聞,第46215号,2004.11.16.]。

医師法に基づく警察への届け出については、次の通り定められている。

第19条:診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。

2.診察若しくは検案をし、又は出産に立ち会つた医師は、診断書若しくは検案書又は出生証明書若しくは死産証書の交付の求があつた場合には、正当の事由がなければ、これを拒んではならない。

第21条:医師は、死体又は妊娠4月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。

第23条 医師は、診療をしたときは、本人又はその保護者に対し、療養の方法その他保健の向上に必要な事項の指導をしなければならない。

第24条 医師は、診療をしたときは、遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない。

上記の新聞報道でも触れられているが、「遺体に異常を認めながら警察への届け出で義務を怠ったのは医師法に違反しているとして、訴えられていた当時の院長に対する上告審判決が、 2004年4月14日、最高裁第三小法廷で出され、同被告の上告は棄却されたという。

被告側は「検案とは死体検案書を作成する場合に限られ、診療中の患者の場合は検案書を作成しないので届け出義務はないと」主張。「業務上過失致死などの刑事責任を問われる恐れがあるときに、届け出義務を負わせるのは憲法違反」と主張していた。

これに対し第三小法廷は、「検案とは死因を判定するために死体を検査することで、診療中の患者か否かを問わない」とし、「届け出義務は犯罪を構成する事項の供述まで強制するものではない」と違憲の主張も退けた。被告は1999年2月、入院中の主婦が消毒薬を点滴されて死亡するという事故の後、遺体を検案した医師らと共謀し、異常を警察に届け出ず、後日、病死とする虚偽の死亡診断書などを作成したとされている。

医療事故の裁判を争ったことのある弁護士と同席した時、病院の職員が真実を述べないとする苦言を呈していたが、その意図するところは、永井氏の冒頭の発言と同様の趣旨であると思われる。

ところで我が身を顧みて、果たして倫理的に間違っていると思った時『NO』と言えるのかを自らに問えば、直ちに『応』とする結論を出すことは難しい。院内における事故調査委員会で、正論を述べることは可能だとしても、組織として結果が出された場合、果たしてその決定を無視して、外部に公表することができるのか。ことの善悪は別にして、自ら参加した会議の結論である。会議で常識的な結論を得ることができないからといって、会議の内容を他所で覆すというのでは、会議における決定の意味をなさなくなる。

内部委員会で、事故を事故として認識し、その原因を含めて外部に公表すべきであるという主張を行うことは可能である。更に強力に主張し、委員会の結論を意図するところに誘導する努力も厭う気はない。しかし、委員会で結論が出され、方針が決定された場合、個人の社会正義を貫くために、それを乗り越えて内部告発に走れるのかということになると、逡巡せざるを得ない。

ことの善悪は別にして、結論が出てしまえば、その結果に従うというのが組織人としてのありようではないのか。従って、組織として医療事故は隠蔽しないという、基本的な姿勢を明確にしていない組織に属したことの不幸を嘆くとしても、個人としての正義には限界があるということではないのか。

しかし、この問題は常に考え続けていなければならない命題であり、咄嗟に結論を出せといわれても、普段から考えていなければ、簡単に結果の出せる問題ではないようである。ただし、今回の判決で、医師の警察への届け出義務は明確にされた。その意味では判断に混乱を起こす問題の一つは、分かり易くなったということのようである。

(2004.11.20.)


  1. 薬事衛生六法;薬事日報社,2004

横浜事件

水曜日, 8月 15th, 2007

魍魎亭主人

神奈川県の特高警察が1942年7月、太平洋戦争に批判的な編集者ら約60人を治安維持法違反で逮捕し、拷問で4人を獄死させた事件。政治学者細川嘉六氏が富山県で開いた宴会を「共産党の再建準備」とでっち上げたものとされている。

約30人が終戦直後の1945年8月-9月、拷問による自白を唯一の証拠として懲役2年、執行猶予3年の有罪判決を横浜地裁で受けた。関係者は自白は特高警察の拷問によるもので、事実ではないと主張したが、即決裁判で審理を終結、治安維持法違反で有罪とされていた。

元被告らは1986年から三次にわたって再審を請求。2003年4月横浜地裁は再審開始を決定し、東京高裁の抗告審で再審開始が確定した。

第二次大戦中に雑誌編集者ら約60人が治安維持法違反で逮捕された言論弾圧事件、「横浜事件」で有罪判決を受けた元被告5人(全員死亡)の再審判決が、2006年2月9日横浜地裁であった。

松尾昭一裁判長は「治安維持法は廃止され、被告人も大赦を受けている』として、検察側の主張通り、実態審理を行わず訴訟を打ち切る「免訴」を言い渡した。

無罪判決求めていた元被告側は「不当な判決でとうてい承服できない」として、来週にも控訴する。

耳慣れない言葉である『免訴』について、次の説明がされている。

刑事訴訟法337条は、犯罪後に刑が廃止されたり、大赦とされたりした場合には、『免訴』の言い渡しをしなければならないと定めている。訴訟を打ち切る意味を持つ。天皇への名誉毀損罪で有罪判決を受けた被告が、大赦の後に無罪判決を求めた「プラカード事件」では、最高裁大法廷が1948年「大赦で公訴権が消滅したため審理ができず、免訴の判決をしなければならない」との判断を示した。

しかし、『大赦』は恩赦の一つ。政令によって罪の種類を定め、その刑罰の赦免を行うこと。有罪の言い渡しを受けた者は、刑の執行が赦免されて前科とならない。言い渡しを受けない者は免訴になったり不起訴になったりするの説明がされており、『赦免』は罪を許すこととされている。

法律の専門家には『無罪』も『免訴』も同じように見えているのかもしれないが、罪はあるけれども許すというのと犯罪は行われなかったという無罪とは大きな違いがある。

治安維持法は、戦後直ちに廃止された法律で、無辜の民を国家の都合により犯罪人にするための法律であったはずである。“悪法もまた法なり”という言葉がある。しかし、治安維持法は国家が国民に対して行った犯罪であり、国民のためには何の役にも立たない法律であったはずである。その意味では“悪法もまた法なり”は該当しない。

その当時、検事も裁判官も、報道機関でさえ、特高が拷問によって、自白を強制していたのは知っていたはずである。その意味では、裁判官も眼を瞑り、耳を塞ぎ、悪法を使って犯罪人をでっち上げることに加担してきたといわれても仕方がない。現在在籍している裁判官は、この先輩の過ちを、今までどの様に検証し反省してきたのか。

今回『横浜事件』で、再審請求した方々は、明らかに誤った法律に基づき、拷問という非日常的な手段により自白を強要されたものである。少なくとも国家に許しを請う立場ではなく、明確に無罪という判断を下すべき方々であり、許しを請わなければならないのは、誤った法律に基づき、死人が出るほどの拷問を行わせた国家である。

(2006.2.11)

有効と無効の間

水曜日, 8月 15th, 2007

魍魎亭主人

薬の効果の判定は難しい。プラセボであっても服用する患者が、処方する医師を信頼していれば、十分な睡眠効果が得られ、鎮痛効果が得られるのみならず、副作用も発現する。

しかし、原則論をいえば、100%の有効率を保証する薬は存在せず、副作用の発現率0等という薬は存在しない。その意味からすると、一体薬の有効率とは、どの程度の率を確保すれば、薬として一人前であると評価されるのか。ここに脳循環代謝剤の『再評価の臨床試験における試験薬及びプラセボの改善度比較』なる資料がある。

成分名 評価項目 有意差 改善率
試験薬投与群 プラセボ投与群
イデベノン 精神症状全般改善度改善以上 なし 32.4% 32.8%
塩酸インデロキサジン 自発性全般改善以上 なし 14.9% 20.9%
塩酸インデロキサジン 情緒改善度改善以上 なし 21.6% 24.9%
塩酸ビフェメラン 意欲・情緒全般改善度改善以上 なし 37.5% 30.8%
プロペントフィリン 精神症状全般改善度改善以上 なし 25.6% 30.0%

プラセボとの比較からいえば、有用性のある薬とはいえず、製造中止もやむを得ないが、むしろ問題なのは、これらの薬が、臨床治験によって得られたデータに基づいて、薬としての承認を得た上で、薬価基準に収載されたということである。

臨床治験段階で有効の評価を得た薬が、後から行われた二重盲検試験で、評価を逆転されたとすれば、それは明らかに臨床治験段階での試験デザインの失敗だということであり、如何に評価が困難であれ、40%を超えない程度の有効率の薬を、有効と評価することに無理があるのではないか。いずれにしろ治験段階のデータが、後から否定されるということでは、我国における治験の正当性が疑われる。

[2000.7.8.]

薬学教育の規範となることを期待する

水曜日, 8月 15th, 2007

魍魎亭主人

2006年4月の入学生から薬科大学の6年制が始まり、いよいよ臨床に軸足を移した薬剤師教育が実施されることになった。しかし、臨床とは何かを考えた場合、患者の存在しない臨床がないとすれば、単科の薬科大学では臨床現場での教育は不可能である。

その意味では、単科の薬科大学が、今後の薬学教育にどう対応するのかを考えていたところ、一つの答えとして、今回の合併話が報道された。何と早ければ2008年4月にも、慶應義塾と共立薬科大が合併するための合併協議に入るという。

薬科大学が6年制になり、臨床教育に軸足を移すことになった時点での思い切った判断だということができる。共立薬科大学の理事長は「実務実習の際、病院や医学部があると、(薬剤師育成などに)絶大な力を発揮する」と説明したというが、将にその通りである。

共立薬科大の名称を残すかどうかは今後協議するとされているが、名称問題に拘泥するのは後向きの発想である。名称問題について、何れにするのかの論議に労力を費やすよりは、教育の質、教育するための仕組みの完成度を高めることに精力を費やすべきである。今後の薬学教育の模範となるものが創設されることを期待したい。

ところで多くの単科大学あるいは薬学部は、人を対象とした販売や調剤のできる薬局を持っているところさえ数える程である。つまり臨床薬学教育とはいうものの、全てが既設の病院・薬局をあてにして、他人の褌で相撲を取る話なのである。

あまつさえ何を思ったのか分からないが、薬科大学、薬学部の新設、増設が続き、他人の褌も、場合によっては使えない事態を招きかねない現状になりつつある。一体何を考えて、薬剤師教育などに乗り出してきたのか。現在、薬剤師が不足気味で、調剤薬局等の賃金はよいと聞くが、それも売り手市場であるから起こっている現象で、薬剤師の数が増加して買い手市場になれば、現在の条件は吹き飛んでしまう。

更に6年制になれば、薬剤師の労働条件がよくなり、待遇も改善されると期待している向きもあるようであるが、商品価値がなければ、単に6年掛けて卒業してきた程度では、処遇改善が図られるわけではない。

病院・薬局を教育機関として考えた場合、病院・薬局の設置目的は本来教育を前提としたものではない。教育機関として学生の教育に携わる以上、同一水準の知識を与えることができることが前提条件で、病院・薬局であれば、何処でもいいというわけにはいかない。教育するための計画を明確に示すことができ、更には教育するための人材が揃っていなければならない。更に教育する側は、医療人としての自覚を持った薬剤師でなければならないはずである。

今後、薬剤師教育の水準を確保するためには、病院を自前で持つ薬科大学の数が増えることを期待したい。ただし、薬剤師教育だけで病院を経営するのは難しい。看護学科、臨床検査学科・放射線技師学科、理学療法学科等を含めた医療関連職種を糾合した医療総合大学を目指すか、さもなければ既設の医科大学との合併あるいは提携等を模索すべきである。更に既存の病院・薬局を考えるのであれば、教育現場としての水準の維持と、現場で教育する人材の待遇等の整備に努めなければ話にならない。

臨床現場(患者)を身近に持たない学校での臨床薬剤師教育という、無謀にも近い試みを実践しなければならない日は直ぐそこに近づいている。あらゆる知恵を絞って対応しなければ、薬剤師教育は大きな失敗をしかねない。

慶應・共立薬科大学と合併へ  2008年目指し協議

慶応義塾(東京・港区)と共立薬科大(同)は2006年11月20日、合併を前提に協議を行うことで合意したと発表した。慶応は2008年4月に大学に薬学部、大学院に薬学研究科を新設する方針。予定通りに合併が行われれば、4年制私大の学校法人では1951年日本大、東京獣医畜産大、1952年の日本医大、日本獣医畜産大の合併以来、3例目となる。大学の志願者数と入学者数が一致する「大学全入時代」が来年度に迫り、大学の生き残り競争が激しくなる中で、今回の合併は注目を集めそうだ。

合併は共立薬科大側が持ちかけ、昨年10月、慶応大に非公式に打診した。水面下で協議を進めた後、今月6日に正式に合併を申し入れ、慶応大が20日の評議員会で受け入れを決定した。2007年3月、両大が合併協定書を締結する予定。

共立薬科大では、今年度から薬学部薬学科が4年制から6年制に変わったことで、学生離れが進み、今年度入試の志願者数が前年度比で14%も減少していた。また、6年制の変更に伴い、病院実習の期間が大幅に増えたため、「病院を持たない薬科大学としては限界がある。」と判断、医学部、病院、研究施設を備える慶応大との合併を希望した。

一方、慶応大には、医学部や理工学部、看護医療学部などがあるものの、薬学部はなかった。このため合併による新学部設立を新たな目玉とすることで、質の高い学生確保できると判断したと見られる。

私大の合併ではこの他に、関西学院大(兵庫県西宮市)と聖和大(同)が2009年4月の合併を予定している[読売新聞,第46948号,2006.11.21.]。

共立薬科大の橋本理事長は「実務実習の際、病院や医学部があると、(薬剤師育成などに)絶大な力を発揮する」と説明した。共立薬科大の名称を残すかは今後協議する。

理事長によると、具体的な他大学との合併の検討は約2年前から学内で行い、薬剤師がより高度な知識が求められるようになった最近の社会的背景などを踏まえて決断したという。「落ち着いた環境で、質の高い薬剤師を育てたい」と教育効果を強調した。一方、薬学部の受験者減などを背景にした経営不安については「収支も黒字で、学生の応募も高い率を維持している。経営は何ら不足はない」と否定した。

薬学部は2006年度から薬剤師の国家試験受験資格の在学年数が4年制から6年制に延長された。この影響で、大手予備校・河合塾の調べでは、薬学部全体の志願者は2005年度の121,534人から、2006年度は前年比65.4%の79,427人と大幅に減った。その半面、来年度には五つの大学が薬学部新設を申請している「供給過多」の状況にあり、「共立薬科大の経営者には危機感があったのだろう」とみる。私立大を持つ学校法人の合併は、関西学院大と聖和大が2009年4月に予定している。

過去には、1995年に南山大を持つ南山学園と名古屋聖霊学園が合併した例がある。また、東京水産大と東京商船大が東京海洋大となるなど国立大学でも統合の動きが進んでいる。


  1. 毎日新聞:http://www.excite.co.jp/News/society/20061120203600/20061121M40.086.html, 2006.11.21.

薬害

水曜日, 8月 15th, 2007

魍魎亭主人

薬害に関する訴訟が起こる度に、二度とこのようなことが起こらないように厳正に対応するというのが厚生労働省の言いぐさではなかったのか。現在、血液製剤を経由したC型肝炎ウイルス感染症の患者が国と製造会社を訴えている。大阪地裁判決、福岡地裁判決では、血液製剤のうち「フィブリノゲン製剤(非加熱)」については、国の責任を認め患者側が勝訴した。しかし、同じ感染原因となった血液製剤「クリスマシン」については、国、製造会社に責任はないとする判断が示された。

ところで薬害に関する司法判断の基準は、1995年に出されたクロロキン訴訟の最高裁判決に置かれているという。

『医薬品は本来人体にとって異物であり、副作用は避け難く、医学、薬学分野は知見の変化が著しい。このため効果が副作用(危険性)を上回るかどうか(有用性)は、その時々の医学水準で比較考量して判断すべきである』。つまり国の責任について

  • その時点の医学的知見の下で副作用を上回る有用性がある場合は製造承認は適法。
  • 副作用防止のため権限を行使しなかったことが著しく合理性を欠く場合は違法。

ということだとされる。

薬害肝炎における九州訴訟では、血液製剤「フィブリノゲン製剤(非加熱)」等について、C型肝炎ウイルス(HCV)感染の危険性が高まって、有用性が否定されたのは何時の段階なのかが問題にされた。福岡地裁は、1978年には、米国・食品医薬品局(FDA)によるフィブリノゲン製剤(非加熱)の承認取り消しが公示され、また、当時の知見としてもフィブリノゲン製剤(非加熱)の有効性に疑問が生じていたのであるから、医薬品の安全性の確保等について、第一次的な義務を有するミドリ十字だけでなく、厚生大臣としても、その詳細を含めた情報を得た上で、フィブリノゲン製剤(非加熱)について調査し、検討を行うべきであった。

この時点において調査、検討を行えば、遅くとも1980年11月までには、有効性及び有用性についての判断を行うことが出来たし、厚生大臣については、仮にそうでないとしても、ミドリ十字に対して緊急安全性情報を配布するよう行政指導すべきであった。

一方、2006年6月21日に行われた大阪地裁判決では、薬害判断の基準を薬事行政の経過に適用した場合、フィブリノゲン製剤(非加熱)の使用による薬害発生の責任は、青森県で集団感染の発生が報告された1987年4月以降に生じると認定した。また、製薬会社に責任が生じるのは、C型肝炎ウイルス(HCV)の感染力をなくすために施した処理法を変更した結果、逆に危険性を高めた1985年8月以降とした。クリスマシンについては、有用性は否定できないとして、賠償責任はどの時点においても認定しなかった。

原告側は、血液製剤の製造が承認された1964年、1976年の時点で、C型肝炎ウイルス(HCV)に感染する危険性やC型肝炎が重い症状になることが知られており、ずさんな方法で承認された製剤に、有用性は確認できないと主張。被告の国側は当時から有用性はあり、違法性や過失はないと反論。

更に肝炎感染の原因となったフィブリノゲン製剤(非加熱)の危険性が明らかになり、製造を承認した国の責任が認定された時期について、大阪地裁判決は「1987年以降」、福岡地裁判決は「1980年以降」と判断が分かれた点について「医薬品行政の根幹に触れる問題だ」と述べたとされている。

何れにしろ医薬品の原料がvirusに汚染されていたことによって、医薬品を使用した結果、思いもしない感染という被害を被ったのである。医薬品原料の微生物汚染を検査することが行われていれば、感染は起こらなかったわけで、国は製薬会社に検査を義務付け、製薬会社が実施するという体制を作っておけば、このようなことは起こりえなかったのではないか。

更に出産時の止血目的で使用した結果感染したなどというのは、当人に何等責任のないことであり、例えそれが医師の適応外使用から始まったとしても、厚生労働省が適応外使用を見過ごしていたのは事実ではないのか。裁判は裁判として、継続するとしても、医療行政としての失敗は失敗なのである。厚生労働省は速やかに救済処置を講じることが求められる。訴訟は訴訟として、治療費の援助をするぐらいのことは、あってもいいのではないかと思うのである。

  (2006.9.6.)


  1. 読売新聞,第46867号,2006.9.1

薬剤師は無能な専門職能なのか?

水曜日, 8月 15th, 2007

魍魎亭主人

静岡県伊豆の国市の県立高校1年生の女子生徒(16)が母親(47)に劇物のタリウムを摂取させて殺害しようとしたとされる事件で、三島署などは女子生徒にタリウムを販売した同市、薬局経営の男性薬剤師(65)と法人としての薬局を毒劇物取締法違反の疑いで静岡地検沼津支部に書類送検していたことが15日分かった。 調べによると男性は8月と9月の2回、女子生徒が注文書類に16歳と書いたのに見過ごしタリウムを各25g販売した疑い。4月にも劇物のアンチモン化合物500gを販売した疑い。 女子生徒は「化学部の実験に使う」などと説明していたという。同法は18歳未満への毒劇物販売を禁じている

[読売新聞,第2005.12.15.]

本件に関しては、4日付の報道ではこう書かれている。

女子生徒が薬局で購入したタリウムは、毒劇物取締法で18歳未満に販売が禁じられており、同県健康福祉部は県薬剤師会など関係団体に毒劇物を適正に販売するよう通知を出した。身分証明書で身元確認を徹底することや、使用目的・量が適切か確認するよう求めている。販売した薬剤師は女子生徒が化学部に属し、薬物の知識が豊富だったことから信用していた。

女子生徒は8月9日に同市の薬局で、「化学部の実験で使う」と使途を説明し、名前と住所を書面に記入して注文、2度に分けて50g(致死量 1g)を入手したことが分かっている。応対した薬剤師は、女子生徒が化学部に所属していて薬物の知識も豊富だったことや、「前にも(劇物を)買いに来た者です」と落ち着いて話したことなどから、信用してしまったという。女子生徒は高校に入学したばかりの4月にも、劇物「ビス」を同じ薬局で大量購入している。取り寄せたタリウムを渡す際も、薬剤師は「気をつけて使ってください」と注意を促しただけだった。

タリウムなど劇物を購入するには、「毒物及び劇物譲受書」に購入する者の名前、職業、住所の記入が求められている。同法は爆発性や引火性が強い劇物を除くと身分証明書の提示は義務づけていない。 タリウムや猛毒のシアン、トルエンなどについては、受け渡し時に必ず身元を確認するよう行政側は指導している。

女子生徒はブログの中で、「眩しいほどに晴れ、酢酸タリウムが届きました。薬局のおじさんは、医薬用外劇物の表示に気付かず」と記し、販売した薬局の対応についても記載している [読売新聞,第46567号,2005.11.14.]。

また、何故に法規制の枠の中からすり抜けたのかという検証をした記事では、

だが、毒物及び劇物取締法は、18歳未満への販売を禁止し、購入時には氏名、住所、職業や購入数量などを記入した書類の提出を求めている。厚生労働省は身分や使用目的を確認するよう指導しているが、女子生徒にタリウムなどを販売した薬局は「化学部の実験に使うという話を信用してしまった」と話しており、県警は、18歳未満と気づきながら売ったと見ている。

毒劇物の販売には毒物劇物取扱責任者の資格が必要。ただし、薬剤師は、試験を受けなくても、都道府県知事へ登録すれば資格が得られる。静岡県薬剤師会は「殆どの薬局が登録しているはずだ」と話しており、同県内の毒劇物販売業者は約2,700に上る。 日本中毒情報センター前理事長の杉本侃・大阪大名誉教授は「そもそも、街の薬局でタリウムなどの劇物を売る必要があるのか」と首をかしげる。同県薬剤師会も「農薬の需要も減り、毒劇物販売のメリットはない」と話す。

過去に事件が起きる度に、法改正により規制が強化されたり、販売時の手続き厳守を促す局長通知が出されたりした。だが、時間が経つと、それを無視した販売や、新たな毒劇物を使った事件が起こる。厚生労働省は「高1に簡単に毒劇物が売られるとは想定外だ」と困惑している。

厚生労働省や都道府県は、定期的な立入検査の他、講習会などを行うが、「参加者は1割あるかないか」(伊豆の国市を管轄する東部保健所)。現場からは「客を疑うことを前提に出来ず、売れる体制にある以上は求められれば………」(静岡県内の薬局)との声も上がる。杉本名誉教授は「タリウムを始め必要性の少ない大多数の毒劇物の一般への販売を禁止するなど、規制の枠組みを抜本的に見直すべきだ」と問題提起する

[読売新聞,第46576号,2005.11.13.]。

今回の事例、稼げれば何でもいいということで、タリウムを売ったとは考えたくない。第一タリウムを売ってなんぼの稼ぎになるか知らないが、高校一年生に買える金額である。大した金額になるわけがない。薬剤師は薬物を取り扱う専門職能であり、薬物に関連する法令については精通していなければならない。更には専門職能として、法令を順守するのは当然の義務だといえる。

更に『毒物及び劇物取締法』は、薬剤師のために制定されているわけではなく、国民の安全を守るために順守すべき事項として、制定されているものであり、薬剤師がその規定を知らないなどということがあってはならない。

知らないというのであれば、公に行われる研修会に参加するのが義務であり、参加しない薬剤師がいるとすれば、最低限県薬会誌等に不参加者名と店名を公表する等の罰則を科すべきであり、場合によっては新聞等に公開するという枠の拡大を図るべきである。 更に今回の事例で不思議なのは、酢酸タリウムを使用して行う高校生の実験として、薬剤師は何を想定したのかということである。実験内容について詳細に質問をしていれば、多分高校生には人を納得させるだけの説明は出来なかったのではないかと思われる。

簡単に人が殺される世の中である。販売した劇物があるいは殺人者の手に渡らないという保証はない。あらゆる状況を想定し、国民の安全を確保するために努力することが、専門職能としての役割のはずである。それぞれの専門職能が、専門職能としての力量を発揮できないとすれば、国民の安全は甚だしく脆弱な基盤の上に乗っているといわなければならない。

<毒物又は劇物の交付の制限等>

第15条 毒物劇物営業者は、毒物又は劇物を次に掲げる者に交付してはならない。

一 18歳未満の者

二 心身の障害により毒物又は劇物による保健衛生上の危害の防止の措置を適正に行うことが出来ない者として厚生労働省令で定めるもの

三 麻薬、大麻、あへん又は覚せい剤の中毒者

2 毒物劇物営業者は、厚生労働省令の定めるところにより、その交付を受ける者の氏名及び住所を確認した後でなければ、第三条の四に規定する政令で定める物を交付してはならない。

3 毒物劇物営業者は、帳簿を備え、前項の確認したときは、厚生労働省令の定めるところにより、その確認に関する事項を記載しなければならない。

4 毒物劇物営業者は、前項の帳簿を、最終の記載をした日から5年間、保存しなければならない。

今回の新聞報道に見られる表面的な違反は、明らかに毒物及び劇物取締法第15条1項に対する違反であり、甚だ分かり易い条項の違反である。従って今回書類送検したということは、第15条1項という単純な違反ではなく、複合的な違反なのかもしれないが、少なくともこの時点で薬剤氏名・店名の公開を行うべきでなかったのか。専門職能である薬剤師として、ある意味でいえば地域住民を危険に巻き込む可能性があったということであり、社会的責任を取らなければならない。

参照資料として、以下に厚労書の通知文書等を添付する。

薬食化発第1114001号

平成17年11月14日

社団法人日本薬剤師会会長 殿

厚生労働省医薬食品局審査管理課

化学物質安全対策室長

毒物及び劇物の適正な販売等の徹底について

 今般、静岡県において、劇物である酢酸タリウムを用いた傷害事件が発生し、これまでの静岡県東部保健所の調査等から、同県内の薬局が当該劇物を 18歳未満の学生に販売したこと(毒物及び劇物取締法(法律第303号、以下「毒劇法」という。)第15条違反)が明らかになったことから、平成17年 11月14日付け薬食審査発第1114001号医薬食品局審査管理課長・薬食監麻発第1114001号監視指導・麻薬対策課長通知により、各都道府県等に対し毒物及び劇物の適正な販売等の再徹底について通知されたところです(別添参照)。 つきましては、貴会会員に対し、毒物及び劇物の適正な販売の徹底について、特段の御配慮をお願いいたします。

*        *

薬食審査発第1114001号

薬食監麻発第1114001号

平成17年11月14日

都道府県

各 保健所設置市 衛生主管部(局)長殿

特別区

厚生労働省医薬食品局審査管理課長

厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課長

毒物及び劇物の適正な販売等の徹底について

毒物及び劇物(以下「毒劇物」という。)の適正な販売等の徹底については、平成11年1月13日付け医薬発第34号厚生省医薬安全局長通知(別添)によりお願いしているところです。 今般、静岡県において、劇物である酢酸タリウムを用いた傷害事件が発生し、これまでの静岡県東部保健所の調査等から、同県内の薬局が当該劇物を18歳未満の学生に販売したこと(毒物及び劇物取締法(法律第303号、以下「毒劇法」という。)第15条違反)が明らかになりました。 貴職におかれましては、特に下記の内容について再度の指導徹底を図っていただきますようお願いいたします。 なお、今後当該事件に係る新たな事実が判明した場合、更に通知を発出する等必要な対応を採ることがありますので、御承知おきください。

1.毒物劇物営業者に対して、毒劇物の譲渡に当たっては、毒劇法第14条及び第15条の規定を遵守するとともに、身分証明等により譲受人の身元(法人にあっては当該法人の事業)並びに毒劇物の使用目的及び使用量が適切なものであるかについて、十分確認を行うよう指導すること。

2.家庭用劇物以外の毒劇物の一般消費者への販売等を自粛するよう引き続き指導すること。

*       *

(別添)

医薬発第34号

平成11年1月13日

   都道府県知事

各 政令市市長   殿

特別区区長

厚生省医薬安全局長

毒劇物及び向精神薬等の医薬品の適正な保管管理及び販売等の徹底について
(通知)

毒物及び劇物(以下「毒劇物」という。)並びに向精神薬等の医薬品の監視取締りについては、かねてより種々ご配慮を煩わせているところである。 毒劇物の適正な保管管理及び販売については、平成10年7月28日付けの当職通知によりその徹底を図っていただいているところであるが、今般、シアン化合物を北海道下からの配送により無許可で譲渡したと見られる事件や、東京都下においてクロロホルムを使用したと見られる事件が相次いで発生するなど、毒劇物の適正な保管管理及び販売の徹底には一層の万全を期すことが求められている。

また、神奈川県下においては向精神薬及び劇薬を使用したと見られる事件が発生したところであり、これら保健衛生上特段の注意を要する向精神薬、毒薬及び劇薬(以下「毒劇薬」という。)及び要指示医薬品についても、その適正な保管管理及び販売の徹底に万全を期すことが求められている。 こうした点にかんがみ、貴職におかれては、下記のとおり、貴管下業者等に対する指導等をよろしくお願いいたしたい。

1.毒物劇物営業者、特定毒物研究者及び業務上取扱者に対して、毒物及び劇物取締法(以下「毒劇法」という。)第11条に基づき、毒劇物が適正に保管管理されているか早急に点検するよう改めて指導すること。

2.毒物劇物営業者に対して、毒劇物の譲渡に当たっては、毒劇法第 14条に定められた手続を遵守するとともに、身分証明書等により譲受人の身元(法人にあっては当該法人の事業)について十分確認を行った上で、さらに、毒劇物の使用目的及び使用量が適切なものであるかについて十分確認を行うよう指導すること。その上で、譲受人等の言動その他から使用目的に不審がある者、使用目的があいまいな者等安全な取扱いに不安があると認められる者には交付しないようにするとともに、この種の譲受人等に係る不審な動向については速やかに警察に通報するよう指導すること。また、毒劇物販売業者に対して、家庭用劇物以外の 毒劇物の一般消費者への販売を自粛するよう引き続き 指導すること。

3.向精神薬取扱者に対して、麻薬及び向精神薬取締法(以下「麻向法」という。)第50条の21に基づき、向精神薬が適正に保管管理されているか早急に点検するよう指導すること。

4.向精神薬小売業者に対して、向精神薬の譲渡に当たっては、麻向法第50条の17の規定を遵守するよう指導するとともに、薬剤師法第24条に基づき、処方せん中に疑義があるときには、当該処方せんを交付した医師等に問い合わせて疑義を確認した後に調剤を行うよう指導すること。

5.薬局及び医薬品販売業者に対して、薬事法第48条に基づき、毒劇薬が適正に保管管理されているか早急に点検するよう指導すること。

6.薬局及び医薬品販売業者に対して、毒劇薬の販売等に当たっては、薬事法第46条に定められた手続を遵守するとともに、身分証明書等により譲受人の身元(法人にあっては当該法人の事業)について十分確認を行 うこと。その上で、譲受人等の言動その他から使用目的に不審がある者、使用目的があいまいな者等安全な取扱いに不安があると認められる者には交付しないようにするとともに、この種の譲受人等に係る不審な動向については連やかに警察に通報するよう指導すること。

7.薬局及び医薬品販売業者に対して、要指示医薬品が盗難にあい、又は紛失することを防ぐのに必要な措置を講じるよう指導すること。

8.薬局及び医薬品販売業者に対して、要指示医薬品の販売等に当たっては、薬事法第49条第1項の規定を遵守するよう指導するとともに、薬剤師法第24条に基づき、処方せん中に疑義があるときには、当該処方せんを交付した医師等に問い合わせて疑義を確認した後に調剤を行うよう指導すること。また、指示による要指示医薬品の販売等に当たっては、同条第2項及び第3項に定められた手続を遵守するとともに、身分証明書等により譲受人の身元(法人にあっては当該法人の事業)について十分確認を行い、その上で、譲受人等の言動その他から使用目的に不審がある者、使用目的があいまいな者等安全な取扱いに不安があると認められる者には交付しないようにするとともに、この種の譲受人等に係る不審な動向については速やかに警察に通報するよう指導すること。

9.近時、インターネット等を活用して医薬品や毒劇物の広告を行っている事例が見受けられるが、虚偽・誇大な医薬品の広告や承認前医薬品の広告に該当するか否かという観点に加え、無許可・無登録販売を前提とした広告ではないかという観点からも、こうした広告に対する十分な監視を行い、薬事法又は毒劇法に違反する事実が確認された場合には、販売の中止を指導するとともに、必要に応じて厳正な対応を行うこと。

*        *

日薬業発第147号

平成17年11月9日

都道府県薬剤師会会長 殿

日本薬剤師会

会長 中西 敏夫

毒物及び劇物の適正な販売の徹底について

標記については、平成15年2月19日付、目薬業発第376号「テロの防止に向けた警察諸対策に対する協力要請について」において、国際テロ事件に関連した劇物等の盗難防止並びに毒物劇物譲渡の際の毒物及び劇物取締法(以下、法)に定められた手続きの遵守を平成16年6月11日付、日薬業発第 40号「毒物及び劇物の適正な販売等の徹底について」において、不正軽油製造のおそれのある硫酸並びに手製爆弾製造のおそれのある過酸化水素に係る適正な販売の徹底について会員へのご指導方をお願いしたところです。

ところで今般、静岡県内において、酢酸タリウム等の劇物による傷害事件が発生し、当該劇物を18歳未満の者が薬局から入手したとの報道がなされています。 本事件につきましては、現在警察において捜査継続中で、事実関係の詳細がはっきり致しておりませんが、毒物及び劇物の適正な販売の更なる徹底のため、法の規定を再確認するよう改めて貴会会員へ周知いただきたくお願い中し上げます。

特に販売に当たっては、身分証明書等により譲受人又は交付を受ける者の身元について十分確認を行うと共に、合わせて毒物及び劇物の使用目的及び使用量が適切であるかについても十分確認を行うことが重要でありますので、この点も含めてご指導方お願い申し上げます。

(2005.12.18.)

やっぱり情報はタダじゃない

水曜日, 8月 15th, 2007

薬と情報は切っても切れない関係にある。

物+情報=医薬品

の定式が成立するほど、医薬品にとって情報は重要で、情報がなければ、単なる危険物に過ぎない可能性も出てくる。

中でも薬事法第52条に規定される添付文書は、医薬品の情報源として唯一法的に定められたものであり、最も重要な情報源である。つまり医薬品の世界では、最も重要な情報源が製品に添付されており、医薬品の価格は、この情報も含められた価格であるといえる。

しかし、添付文書は、その判型と頁数が制限されており、多くの情報を集約したとしても収載しきれない。そこで製薬企業は、添付文書以外に種々の情報源を医薬品販売を目的として無料で配布している。つまり薬の情報については、法律で添付が義務づけられた情報以外に、添付文書を補填する情報の無料提供がされており、その習慣に慣れ親しんだ医師、薬剤師は、文献複写等も含めて、製品に関連する資料は、製品を販売している企業のMRに依頼すれば、全て無料で手に入ると考えられている。つまり情報はただだという世界に住んでいたということである。

その意味ではInternetの世界も似たようなもので、情報は無料だという感覚があるようである。なるほどサイト(site)を覘いてみると、誰に頼まれたのでもないのに、あらゆるsiteが公開されており、玉石混淆、時には反社会的とも思われるsiteも見られる。その多くは無料であるが、中には有料のsiteで各新聞社のニュースの表題を羅列し、そこから記事本体に飛ぶようなsiteが提供されていた。

当然元ネタを配信している新聞社は、情報のただ乗りは違法だという訴訟を起こすことになるわけだが、今回、『ネット記事 見出し無断配信違法』『知財高裁判決 本社逆転勝訴』『初の司法判断』と8段抜きの記事が発表された [読売新聞,第46539号,2005.10.7.]。 記事の解説によると『ネット上に公開された情報は誰もが自由に利用できるという、ネット世界の “常識”に対し、知財高裁は、例えネット上でも、情報の商業利用には一定のルールがあることを示した。

ネットでは情報は全てタダという意識が一部のネット関連会社などにある。一審判決も、ネット上に公開した記事見出しは、第三者が無断で使っても問題ないと判断した。しかし、新聞・通信社の記事の有料配信が国際的に受け入れられてきたのは、その正確性と迅速性に経済的価値が認められてきたためだ。

ネットというだけで、配信直後の鮮度の高い見出しを丸写しし、営利目的に使ってもかまわないということになれば、報道機関は成り立たなくなり、国民の知る権利も損ないかねない。

知財高裁は、記事見出しには経済的価値、即ち財産権があり、それは法的保護に値すると認め、「ただ乗りビジネス」に歯止めをかけた。まだルールの定まっていないネットの世界について、司法が規範創造の役割を果たした判決といえそうだ。

ところで配信直後の鮮度の高い見出しの丸写は問題だとして、古くなれば使用は自由なのか。更に営利目的で使用することは問題があるということであるが、営利の範囲は何処まで含まれるのか。あるいは全く無料で公開している趣味のsiteであれば、利用することは自由ということなのか。更に種々検討されるべき課題が含まれているのではないか。

また、著作権侵害について「一般的にニュース報道における記事見出しは、報道対象となる出来事などの内容を簡潔な表現で正確に読者に伝えるという性質から導かれる制約があるほか、使用できる字数にもおのずと限界があり、表現の選択の幅は広いとは言い難い。創作性を発揮する余地が比較的少ないことは否定し難く、著作物性が肯定されることは必ずしも容易ではないと考えられる。

しかし、 ニュース報道における記事見出しが、直ちに著作物性が否定されるものと即断すべきものではない。表現いかんでは、創作性を肯定しうる余地もないわけではないのであって、結局は各記事用見出しの表現を個別具体的に検討し、創作的表現であるといえるかを判断すべきである。

白鳥の写真 本件で主張された読売新聞のウエッブサイト「ヨミウリ・オンライン(YOL)」の365個の見出しは、いずれも事件、事故など社会的出来事、あるいは政治的・経済的出来事などを報道するニュース記事に付された記事見出しだが、個々に検討しても、いずれも各見出しの表現が著作物として保護されるための創作性を有するとはいえない。」とする判断が示されている。

果たして、新聞等の記事の見出しに創作性のある見出しというのはあるのだろうか。あるというのであれば具体的な実例を示して貰わなければ、甚だしく理解し難いというのが本当のところである。

新聞の記事は事実を事実として報道する。そこに創作性など入り込む余地はないのではないか。創作性が入るということは、そこに作為が入るわけで、正確な報道とは相反することのように思われる。本体の記事に創作性がない以上、見出しに創造性を持たせるのは無理なのではないか。

新聞等の記事について、著作権をいうよりは、その記事を作るために掛けた経費の対価を払えという今回の決定は、それなりに説得力があるような気がするのである。

(2005.11.5.)

薬害根絶の日

水曜日, 8月 15th, 2007

『8月24日』が何の日なのか、知っている医療関係者はどの程度いるのか。中でも薬剤師、医師はどの程度承知しているのであろうか。

1999年8月24日、サリドマイド・スモン・薬害エイズなどの悲惨な薬害を引き起こした反省と謝罪の意味を込めて、旧厚生省が省内の前庭に「薬害根絶誓いの碑」を建立した。

これを契機として、被害者団体等が例年『8月24日』に「薬害根絶デー」として国への要望活動などを行っているが、その中で今年は、サリドマイド・スモン・薬害エイズ・ヤコブ病等の薬害訴訟に係わってきた弁護士が、組織的に薬害問題に取り組むための『薬害対策弁護士連絡会(薬害弁連)』を発足させるとともに総会を実施した。

日常的に処方せんを書く医師、その処方せんに基づいて調剤する薬剤師は、当人の意識は別にして、常に何等かの形で薬害に関与してきたことは間違いない。ただ薬剤師の場合、処方せんという物理的な物体による間接的な患者との接触であり、自分の患者という認識は持ちきれない。それだけに自分が勤務する病院の患者が薬害の被害者であったとしても、直接的な罪悪感は持ち得ない。

つまり薬剤師は、自分が薬を直接投与したわけではないという意識が潜在的に存在するため、自らを塀の外において、被害者の痛みを痛みとして受け入れず、係わりのない世界の出来事として見てしまうのである。それはある意味で、薬剤師に社会性がないということであり、薬剤師教育の中で、薬害につて、その発生の背景や原因についての詳細な分析がされておらず、伝達もされていないということに原因があるのかもしれない。

更に薬害に対して薬剤師の係わり、対応の仕方を教育していないということも、薬剤師が薬害を他人事としてみる原因になっているのかもしれない。更にいずれの薬害の場合も、それぞれの関係者の対応のまずさが原因の大きな部分を占め、薬害の発生が人害として取り沙汰されるため、自分とは関係のないこととして、観客席から出ようとしないのかも知れない。

しかし、薬害というほどには集団的な事例ではないとしても、医療現場で働く限り、薬による副作用の発現は避けられず、薬剤師も加害者になり得るということを常に認識しておかなければならない。

現在、薬剤師は、調剤した薬について、発現が予測される重篤な副作用の前駆症状を、印刷した用紙を患者に配布している。しかし、記載されている内容は、業者が電子媒体化した添付文書の内容そのままなのである。その意味では、患者にとっては単なる記号の羅列であり、具体性のない情報の提供を受けているということである。ただし、これは薬剤師も同じであり、前駆症状として紹介されている個別症状について具体的な説明を求めると沈黙してしまう。

薬剤師は、添付文書に記載されている副作用の前駆症状について、より具体的な症状を把握し、その内容の詳細を伝達する責任があるといえる。そのためには重篤な副作用を経験した患者の症状の詳細を、生の声として集める努力しなければならない。残念ながら発現した症状がどの様なものであったのかは、経験者以外は分からないというのが実情なのである。

(2005.9.9.)


  1. 全国薬害被害者団体連絡協議会;http://homepage1.nifty.com/hkr/yakugai/,2005.8.25.
  2. 読売新聞,第46496号,2005.8.25.

薬害エイズ 一つの終焉

水曜日, 8月 15th, 2007

鬼城竜生

 薬害エイズ事件で業務上過失致死罪に問われ、一審東京地裁で無罪判決を受 けた安部英(あべ・たけし)元帝京大副学長が死去したとする新聞報道がされていた。88歳だったという [読売新聞,第46377号,2005.4.28.]。

安部氏は血友病治療の権威として知られ、非加熱製剤の投与で患者がエイズ ウイルス(HIV)に感染することが予見できたのに投与を続けて死亡させたとして、1996年9月に起訴された。2001年3月、東京地裁で無罪判決を受け、検察側が控訴。その後、持病の心臓疾患で入退院を繰返し、東京高裁は2004年2月、認知症による心神喪失を理由に公判を停止した。安部元副学長の死去を受け、東京高裁は控訴棄却を決定する見通しで、同事件のうち、血友病患者が被害者となった事件は、刑事責任が認定されずに終わることになったとされている。

氏は当初から“魔女狩り”だとして、御当人の責任を認めてはこなかった。 正直にいえば、非加熱製剤の使用に固執したのは、何故なのか………。その当たりのことは、御当人にしか解らないが、何か書き残した文書でも出てこない限り、闇の中ということであろう。

その道の第一人者と周りから持ち上げられ、当人もその気になってしまった 時点で、身に纏う鎧の飾りが気になり始める。製薬企業は“第一人者”の名前を利用し、開発する薬の権威付けを図ろうとし、更には承認手続きの際に、規制当局に対して、便宜を図らせようとする。規制当局は、各種委員会における代弁者として“権威”を利用する。“権威者”は、自らの“権威”を利用されることで、“権威”の限りない増殖を図ろうとする。

“権威者”は、人の意見に耳を貸さない。“権威者”は、反省することしな い。“権威者”は、人の意見を否定する。“権威者”は、あらゆる場面で自らの判断を唯一のものとして強制する。

人は“権威者”に迎合する。そのことが世間を丸く回らせるための大人の知 恵だと考えている。無用な波風を立てず、風が直接当たらないように身を避けていさえすれば、特に生活に影響はしないと考えるからである。

しかし、臨床医が斯界の権威などといわれるようになれば、本当はおしまい なのである。“権威者”には、患者の心を理解する治療などできない。他人の意見に耳を貸さない、そのこと自体が、患者の立場に立った医療からは遠く離れたものであることに気付かなければならない。

斯界の権威などといわれるようになったら、人として危険な状況にあることに気付くべきなのである。

氏も若い頃は、あまりやり手のない血友病の専門医として、懸命な努力をし てきたと思われる。その疾病を選択したのは、やり手が少ないから速く目立つと考えたのか、純粋に患者のことを考えた結果なのか、その辺のことは解らないが、少なくとも臨床医として患者に寄り添った治療・研究をしてきたはずである。

それだけにHIV感染で訴えられた時は、自らの真面目な対応に対する裏切り行為だとして、TVの取材等に対して、攻撃的な物言いをしていたのであろうが、権威といわれるようになってから後、本当に患者に寄り添っていたと言い切れるのか。常に患者の立場に立って判断してきたといえたのであろうか。

それだけが、是非とも聞きたかったことである。

(2005.4.30.)

薬科大学乱立-即定員割れか

水曜日, 8月 15th, 2007

魍魎亭主人

文部科学相の諮問機関である中央教育審議会(中教審)の試算によると、2007年には『大学全員入学時代』がやってくるという。少子化で大学・短大への進学希望者は2007年度に約699,000人まで減少、全校の合格者数と同数となることが、20日に解ったという。文部科学相の諮問機関である中教審が試算したもので、数字の上では3年後に志願者全員が入学できる『全入時代』に突入するという。

進学率の頭打ちにより、当初予想より2年早まるという。中教審は23日から始まる大学分科会で、8月中にまとめる予定の大学行政などの将来構想である『高等教育のグランドデザイン』の中間報告に反映させる。いずれにしろ各大学は経営の見直しを迫られることだけは間違いない。試算によると、来春は現役の 676,000人に、浪人生を加えた791,000人が大学・短大を志願。これに対し、各校の入学者総数は704,000人とみている。

とはいえ、どうしても入りたい人気の大学はあるわけで、入学試験がなくなるわけではないであろうが、大学によっては定員割れや経営難に拍車がかかり、大学は淘汰の時代を迎えるということである。

ところで、我が陣営を振り返ると、平成15年度には薬科大学2校が新設され、平成16年度に8校が新設の認可を得たという。無闇に薬学部の新設が続いているが、更に平成17年度の新設を目指して、5から7校が平成16年度中に申請を予定しているという。薬科大学が無闇に作られる傾向について、医科大学に比べて安上がりにできる。汚れ仕事ではないということで、女性に人気がある。

薬剤師としての資格を手に入れておけば、何かの時に安心だという保険感覚が、女性の人気を下支えしている。つまりあまり経費をかけずに設立することが可能であり、一方で学生の確保がし易い等々の利点があるため、新たに大学を作るなら薬科大学ということになるようなのである。

さて、2004年5月14日「学校教育法の一部を改正する法律」がに成立した。法案は13日の参議院文教科学委員会で可決された後、翌日の参院本会議に上程、全会一致で可決されたもの。これによって、薬剤師の悲願とされてきた薬学教育6年制の実現が確定した。

また、文科委では採決に際し、13項目(うち薬学教育関連は6項目)の附帯決議が共同提案され、採択された。附帯決議では、4年制と6年制の学部・学科が並立することについて混乱が生じないように、編入制度も活用して弾力的運用に努める措置などを講じるよう政府や関係者に求めた。

学校教育法一部改正法は、医療技術の高度化や医薬分業の進展を背景に、薬剤師養成を目的とする大学学部段階の修業年限を、現行の4年から6年に延長することを趣旨としたもので、2006年4月1日の施行を予定しているとされている。

薬科大学の修業年限が、4年制のままであれば、安上がりな大学ということですむかもしれないが、従来の5割増しの6年制になっても、安上がりな大学等といっていられるのであろうか。内部的には6年分の学生を入れる教室を確保しなければならず、教員も増やさなければならない。外部的には実務実習を行うべき医療機関あるいは薬局を探さなければならない。2年間の修学年限の延長は、医療人としての実務教育の充実が求められてのものであり、医療現場での実習が中心である。

附属病院を持たない単科の薬科大学では、病院実習を実施する医療機関を探さなければならないが、教育機関としての設備、教育体制の確立された施設でなければならない。下手をすれば、嘗ての学生実習同様、安い労働力として使われて終わるという結果になりかねない。

最低限でも300床以上のベッド数をもつ地域中核病院であって、手抜きのない調剤業務はもとより、服薬指導、医薬品情報管理業務、注射薬調剤、院内製剤、実務に即した試験研究等の病院薬局が行うべき業務を十全に実施している医療機関でなければならない。

調剤薬局についても、同時にOTC薬を扱っていなければならず、医師の処方せんに忠実な調剤を実施している薬局でなければならない。患者の私的機密を守ることのできる服薬指導のための区分された区画を持ち、患者のための必要情報を直ちに検索できる仕組みを持った薬局でなければ、学生実習のための場としては相応しくない。

これらの病院薬局あるいは調剤薬局では、教育訓練に習熟した人材の確保がされていなければならず、調剤過誤等に対応するための文書化された危機管理基準が作成されていなければならない。

考えただけでも気の遠くなるような準備が必要であるが、それ以前に受験する側の学生諸君は、4年制から6年制への延長を納得するのであろうか。真に医療人として働きたいという思いのある学生であれば、修学年限の2年間の延長に理解を示すと思うが、単に安全牌として薬剤師免許を取得しようと考えている学生達には、無意味な延長と思われるかもしれない。

つまり従来通り女子学生に人気のある学校ということになるのかということである。

少子化社会を迎え、専門学校を含めた選択肢の広がり、その中での6年制導入である。6年間の勉強の後、薬剤師となった後の待遇がたいしたことはないということになれば、薬学を専攻する学生は限りなく減少する。

新しく設立された薬科大学の多くが、閑古鳥が鳴くような状況になれば、いずれは閉鎖するという事態になりかねない。今後の新規開設は、将来を十分に見通した上で、決定してもらいたいものである。

(2004.7.28.)


  1. 河北新報,2004年07月23日(金曜日)