Archive for 8月, 2007

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タリウムの毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 タリウム(thallium)
成分 硫酸タリウム(thallium sulfate)
一般的性状 硫酸タリウムは殺鼠剤として使われ、入手し易い毒物である。タリウム化合物は無味、無臭である。タリウムはかって水俣病の原因物質として疑われたが、有機水銀に似た神経障害を示す。また催奇形性が強く、ニワトリの受精卵に注入すると短指などの障害を起こす。タリウムは放射線に不透過なので、腹部X線撮影により確認できる。
毒性 劇毒区分=劇物(0.3%以下は指定しない)。魚毒性=A類。ヒト経口致死量:1g、ヒト経口最小致 死量:3mg/kg。服用による血中濃度のピークは2時間後、血球に取り込まれる。分布容量は1-5L/kg。尿便中に緩徐に排泄される。半減期は1.7日(17g服用例)。組織細胞内でカリウムと置換し、細胞膜を低カリウムの状態で分極させる。スル フィドリル(SH基)酵素と結合し、その酵素活性を阻害する。システィンなどの蛋白合成を阻害。
タリウムは消化管、皮膚、呼吸器から吸収される。消化管からの吸収は速やか で、全身の臓器に分布する。ゴム手袋の装着に係わらず経皮吸収されるので、取扱いには十分注意する。
症状 通常、12-24時間後に発症し、初期症状は主として消化器症状と神経症状。
少量摂取では嘔気、嘔吐、食欲不振、上腹部痛、感覚障害、筋力低下、運動失 調、ことに失調歩行、振戦、多発性神経炎(下肢の疼痛)。重篤な場合、上記症状に加え、発熱、譫妄、痙攣を起こし、肺炎、呼吸抑制、循 環障害で死亡。
その他の症状として、脱毛(1-3週間後)、腎障害(蛋白尿、円柱、血尿、乏 尿)。
ヒトにおける中毒症状は、経口摂取直後から1-2日目は吐き気、嘔吐、食欲不 振、口内乾燥感、口内糜爛、口内炎、歯齦(肉)炎、鼻漏、結膜炎、眼と顔面腫脹、下痢、腹痛、不眠症、難聴、視野暗転、手足の刺痛及び疼痛。
経口摂取から数日後に重い口内炎、筋肉麻痺、3週間目には爪の萎縮、神経及び 精神障害、譫妄、痙攣、昏睡、窒息死が起こる。タリウム中毒に特徴的な症状として脱毛がある。
硫酸タリウムは極めて危険である。鼠にのみ選択的に毒性を現すのではなく、多 くのヒトもタリウムにより中毒症状を惹起されるので、その使用は現在多くの国で厳重に規制されている。急性中毒では、消化管の痛み、運動麻痺、呼吸障害による死亡が見られる。一定時間以上の間、致死量に近い量を与えると、皮膚が赤みを帯び、タリウム中毒の特徴である脱毛が起こる。
病理上の変化では血管周囲への白血球集合、脳、肝、腎の退行性の変化があげら れる。神経症状は顕著で、振戦、足の痛み、手足の知覚異常、特に足の多発性神経炎が見られる。また精神病、譫妄、痙攣、その他の脳疾患も見られる。
処置 家 庭で可能な処置:催吐。
医療機関での処置
基本的処置:催吐、胃洗浄の後活性炭(薬用炭)0.5g/kgを1日4-6 回、5日間)と塩類下剤の投与。皮膚・粘膜接触部位は徹底した洗滌。
対症療法:呼吸・循環管理、痙攣対策、腎障害時の血液透析、タリウムの排泄促 進剤として次のものが挙げられる。[1]塩化カリウム3-5g/日、5-10日間。腎からのタリウムの再吸収と競合して排泄を増加。
[2]プルシアンブルー250mg/kg/日、2-4回に経鼻チューブを介して分割投与(24時間尿中のタリウムが0.5μg以下になるまで)。
治療上の注意点
a)塩化カリウム投与時、組織内プールからタリウムが遊離されるため、一時的に神経症状が悪化するかもしれない。
b)prussian blue療法中はカリウム塩の不可は必要ない。
c)急性期に低カルシウム血症を発症する可能性があるので、血清カルシウム値を厳重にモニターする必要がある。
d)血中からのタリウム除去のために、血液透析や血液還流が施行された例があるが、その効果については明らかでない。
-参照-
タリウム中毒の治療は、フェロシアン化鉄(prussian blue)の経口投与及び輸血、強制利尿によって行われる。

応急処置:吐根シロップにより速やかに催吐を行って摂取されたタリウムを除去 する。その後、活性炭(薬用炭)による胃洗浄を行う。50gの活性炭(薬用炭)を胃内に残す。出来れば5?10gのpottasium
ferric hexacyanoferrate(ベルリン青=prussian blue)を胃腸管捕捉剤として与える。
プルシアンブルーは腸管内でタリウムに結合し、タリウムの吸収を抑制する。キ レート剤はタリウムの脳内への取込を増加するので、避けるべきである。
解毒剤:ジメルカブロール、ジチゾン、塩化カリウムは無効であり、危険であ る。ベルリン青(pottasium ferric hexacyanoferrate[II])は、腸内に排泄されたタリウムを吸着し、再吸収を防ぐという点で活性炭より効果的である。1日3回1gずつ経口で、又は十二指腸にカニュレを通して与える。

事例 「……… 髪の毛なんてね、そう簡単に抜けるものじゃないのよ、マーク。やってみるといいわ?自分の髪を引っ張ってみて、ほんのちょっとでいい、根っこから引き抜くのよ! いいからやりなさい!。ほらねそれで分かったでしょ。あの人たちにしたって、髪の毛が根っこから抜けるなんて不自然じゃないの。不自然きわまりないわよ。きっと何か新種の病気にちがいないわ?そこにはなにか意味があるのにちがいないのよ」ぼくは受話器を握り締めた。いろいろなことが、忘れかけていた知識の断片が、まとまってきた。
………………
「えーと?言われてみればたしかにそうだ。高熱のせいだとおもうが」
「熱なんかじゃありませんよ」ぼくは言った。「ジンジャーの病気は、みんながかかっていた病気は、タリウム中毒です。ああ、神さま、どうか間に合いますよ
うに………」 [アガサ・クリスティー,高橋恭美子・訳:蒼ざめた馬;ハヤカワ文庫,2004]
備考 プルシアンブルー(prussian blue)は、紺青(Iron blue)の別名とされている。その他の別名:パリスブルー、ベルリンブルー(berlin blue)、アントワープブルー、チャイニーズブルー、ミロリブルー等。
フェロシアン化第二鉄を主成分とする顔料である。紺青独特の深みのある青色 で、無機顔料としては着色力も大きい。比重1.7?1.9、吸油量32?72、pH:4?6,粒子径0.05?0.2μm。酸には強いが、アルカリには著しく弱い。製造時にニッケルを導入することにより耐アルカリ性を改良したグレードも上市されている。 一般に耐熱性はやや弱く、140℃以上に加熱すると変色が起きる。
用途:印刷インキ、塗料(油性塗料、ラッカー)、絵具、クレヨン、紙染、加硫 ゴムの着色剤、合成樹脂。
本品を必要とするなら国内では試薬として上市されている。
文献 1) 井上尚英:中毒学概論-毒の科学-;薬業時報社,19992)植村振作・他:農薬毒性の事典 改訂版;三省堂,2002
3)12394の化学商品;化学工業日報社,1994
4)藤原元始・他監訳:グッドマン・ギルマン薬理書[下];広川書店,1992
5)山村秀夫・監訳:中毒ハンドブック 第11版;広川書店,1990
6)鵜飼  卓・監修:第三版急性中毒処置の手引き;薬業時報社,1999
調査者 古泉秀夫 記録日 1999.10.5.・ 2004.9.9.

ストリキニーネの毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 ストリキニーネ(strychnine)
成分 ストリキニーネ(strychnine)・硝酸ストリキニーネ(strychnine nitrate)
一般的性状 ストリキニーネ:[英]strychnine、マチン属類植物の種子から抽出されるアルカロイド、そ の他ホミカの種子、イグナチウス豆にも存在する。別名:ストリキニン。無色柱状結晶。1gは熱湯3100mL、アルコール150mL、クロロホルム5mLに溶ける。水、エーテルに難溶。インドールアルカロイドの一つ。極めて強い苦味を持ち、猛毒 である。中枢神経系の反射亢進による筋硬直、テタヌス、反弓反射を起こし、呼吸停止、窒息にいたる。猛獣の殺傷、殺鼠剤に用いられる他、神経の興奮剤としても使用される。
硝酸ストリキニーネ:[英]strychnine nitrate、[独]strichninnitrat、 [仏]nitrate de strychnine、[ラ]strychnini nitras。興奮薬。無色又は白色の結晶又は結晶性粉末だ、味は苦い。水、グリセリン、クロロホルムにやや難溶、エタノールに難溶、エーテルには殆ど不溶。ホミカの種子から得られるアルカロイドで、反射機能亢進、延髄興奮、大脳皮質興奮作用がある。弱視、脚気、消化障害、胃アトニー、強心剤として用いられていたが、最近は殆ど用いられない。毒薬。
毒性 strychnine:ラット経口毒性(LD50)16mg/kg。ヒトに対する致死量:30-100mg。致死量:0.3mg/kg。主成分のstrychnineは最も毒性の強い天然毒の一つとして知られている。脊髄、脳幹、視床では、介在ニューロンを介した抑制機構が働いているが、strychnineは、そのシナプス後抑制を遮断する。
strychnine nitrate:致死量(イヌ)経口1.2-3.9mg/kg、皮下0.3-0.42mg/kg・致死量(マウス)皮下3.0-3.5mg/kg。
症状 strychnineは脊髄に対する強力な中枢興奮作用を持つ。初めに筋の緊張が上昇し、反射興奮性 が増大、中毒症状が進むと呼吸困難、強直性痙攣が起こり始め、甚だしくなると全身の骨格筋が強縮を起こし、酸素欠乏で死に至る。
激しい強直性痙攣、後弓反張、痙笑、刺激による痙攣誘発、呼吸麻痺、5時間が 勝負。
脊髄前角の運動ニューロンの抑制系の神経伝達物質グリシンと拮抗作用を持つこ とから、伸展筋の緊張が持続し、典型的な強直性痙攣、opistho-tonus(弓なり緊張)を示す。心循環系、消化器系には影響を与えない。痙攣に伴い、横紋筋融解が起き、ミオグロビン尿がでる。
strychnineは吸収が非常に速いので、中毒症状は30分以内、全身痙攣は15-60分で現れる。痙攣の前に筋の強直や興奮、risus sardonicus(痙笑:ひきつり笑い)が見られることがあるが、突然の痙攣で始まることもある。重症の場合は3-6時間で死亡するが、strychnineは分解も排泄も速いので、痙攣が24時間以上続くことはまずない。24時間持てば、生命に対する予後は良好。死因は痙攣による呼吸麻痺である。
strychnine nitrateは筋肉痛、振戦、知覚過敏、手足の強直、不安、次いで反射亢進、チアノーゼ、強直性痙攣、反弓緊張、呼吸停止、循環障害。
処置 strychnine
初期治療で重要なのは、痙攣の防止である。極く僅かな刺激に対しても誘発されて痙攣が持続するため、刺激を 与える行為は全て禁忌である。従って、催吐、胃洗浄をしてはならない。吸収が 非常に速いため、催吐、胃洗浄をしても意味がない。低酸素さえなければ意識は清明であるため、活性炭をソルビトールに懸濁させて飲ませるのはよい。下剤(硫酸マグネシウム30g)も飲ませる。強制利尿を行うと、ミオグロビンが尿細管に詰まって腎不全を来すおそれがある。strychnineは、酸性利尿により排泄が促進されるといわれるが、尿を酸性にするとミオグロビンが無尿細管に沈着しやすい。
治療の主眼は、気道と喚起の確保である。痙攣の治療にはジアゼパムを静注す る。刺激を絶対に与えない。ベッドのシーツに触れただけで、痙攣が誘発された例がある。
以上の治療で痙攣が止められないときは、筋弛緩薬であるパンクロニウム([商]ミオブロック)を静注し、気管内挿管をして、人工呼吸器で人工呼吸を続ける。意識がある場合には、ペントバルビタール注射液を静注する。本剤には抗痙攣作用もある。
strychnine nitrate
暗所での安静、酸素吸入、チオペンタールナトリウム [商:ラボナール注]又は中枢性筋弛緩剤(メシル酸プリジノール;コンラックス注)の投与、内服に対しては2%-タンニン酸液で胃洗浄、薬用炭の投与、バルビツール酸系催眠剤の静注を行う。
事例 エ ルシー・マクノートンの顔は青白くひきつっていた。「医師は呼んでくださったのでしょうか?」彼女はたずねた。
「ああ」そしてパイン氏はいった。「ストリキニーネだね?」
「ええ。あのけいれんで明白です。ああ、あたし信じられない!」彼女は椅子に泣き崩れた。パイン氏が肩を軽くたたいてやった。
そのとき、彼は何か思いついたようだった。急ぎ足で船室を出ると、ラウンジへ行った。灰皿の中に燃え残りの紙切れがあった。ほんの数語だけ見分けがつい
た……… [アガサ・クリスティー(乾信一郎・訳):パーカー・パイン登場-ナイル河の殺人;早川書房,2004]
備考 strychnine は『馬銭子』に含まれる成分である。アガサ・クリスティーの作品に比較的しばしば登場する毒物。国内では犬の飼育業者が、金銭問題の争いから硝酸ストリキニーネを使用した殺人事件を起こしたとされている。ただし、毒性は強いが、甚だしく苦味が強いので、殺人の道具としては、扱いにくい代物である。国内の例ではカプセルに詰めて服用させているが、険悪な状況下で、栄養剤といわれても飲まないのではないかと思うが、飲まなければ殺人事件にならないはずなのに事件が成立したということは、飲んだということである。よほど口先の巧い人間だったということのようである。
文献 1) 薬科学大辞典 第2版;広川書店,1990
2)植松 黎:毒草を食べてみた;文春新書,2004
3)志田正二・代表編:化学辞典;森北出版株式会社,1999
4)第六改正日本薬局方注解;南江堂,1952
5)曾野維喜:続東西医学 臨床漢方処方学;南山堂,1996
6)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2004
7)山口 徹・総編集:今日の治療指針;医学書院,2004
8)鵜飼 卓・監修:第三版 急性中毒処置の手引き;薬業時報社,1999
9)大阪府病院薬剤師会・編:全訂医薬品要覧;薬業時報社, 1984
10)医学書院医学大辞典,2003
調査者 古泉秀夫 記入日 2004.11.20.

手術前後の投与に注意を要する薬剤 第3改訂    

金曜日, 8月 17th, 2007

*新規追加薬剤は一般名を赤字表記。

*収載範囲は2000年12月末までに薬価収載された薬剤。

分類 一般名・商品名(会 社名) 対応 注意事項等

aspirin

アスピリン末(各社)

ミニマックス腸溶顆粒

(塩野義)

一般的注意-慎重投 与 *手術前1週間以内にaspirinを投与した例で、失血量が有意に増加 したとの報告。術前の投与は慎重に行うこと。

§.aspirinには血小板凝集抑制作用があり、1回の服用で血小板凝集能の抑制は48時間以 上持続する。aspirinの1g以下の少量あるいは少量間歇投与ではプロスタサイクリン(PGI2)産生は 抑制されない(12。

  sasapyrine

サリナ錠(日本化薬)

慎重投与 *手術前1週間以内の患者:aspirinにおいて、手術前1週 間以内に投与した例で失血量有意に増加の報告。
  dimetotiazine mesilate

ミグリステン錠(塩野義)

禁忌 *バルビツール酸誘導体・麻酔剤等の中枢神経抑制剤の強い影響下にある患者:中枢神経抑制剤の作用を延 長・増強させる。

§.本剤はプロメタジンと同程度あるいは強力な抗セロトニン・抗ヒスタミン・抗アナフィラキシー作用が認められているほか、中 枢神経抑制作用、強化麻酔・鎮痛・体温下降・制吐作用、軽度の交感神経抑制・副交感神経抑制、局所麻酔・鎮痙・血圧下降作用を有しているの報告(1。

  salicylamide・ acetaminophen・anhydrous caffeine・promethazine methylenedisalicylate

PL・幼児用PL顆粒(塩野義)

禁忌 *本剤中のメチレンジサリチル酸プロメタジンは、昏睡状態の増強・持続、中枢神経抑制作用の増強、麻酔 剤の作用時間延長を来すおそれ。
β

acebutolol hydrochloride

アセタノールカプセル(中外)

一般的注意 *手術前24時間は投与回避。

§.外科大手術を予定されている患者において、開業医の中には、β-遮断剤を手術する48時間前に徐々に中止す ることを勧める医師がいる。これは心臓への反射刺激や麻酔薬への反応性を高めるためである。しかし、この勧告は依然として論争の的である。なぜなら他の開 業医は突然の中止により連続治療していた心筋梗塞の危険性が増すこと、また、麻酔技術により薬物効果を補うことができると信じているからである(15。

alprenolol hydrochloride

アプロバールカプセル・注

(藤沢)

amosulalol hydrochloride

ローガン錠(山之内)

一般的注意 *褐色細胞腫の患者に投与する場合を除き手術前24時間は投与回避。
arotinolol hydrochloride

アルマール錠(住友)

一般的注意 *手術前48時間は投与回避。

半減期

arotinolol:約10時間

atenolol :約10時間

betaxolol :約17時間

bevantolol:約10時間

bisoprolol:約 7時間

bopindolol:約14時間

atenolol

テノーミン錠(ゼネカ)

betaxolol hydrochloride

ケルロング錠(ウェルファイド)

bevantolol hydrochloride

カルバン錠(ケミファ)

bisoprolol fumarate

メインテート錠(田辺)

bopindolol malonate

サンドノーム錠(ノバルティス)

bufetolol hydrochloride

アドビオール錠

(ウエルファイド)

一般的注意 *手術前24時間は投与回避。

半減期

bufetolol :約1.5時間

bunitrolol :約6 時間

bupranolol:約1.3時間(外国例)

bucumolol:約2.4-4.6時間

carteolo :約5  時間

bunitrolol hydrochloride

ベトリロール錠・L錠

(ベーリンガー)

bupranolol hydrochloride

ルーサー錠(科研)

bucumolol hydrochloride

ブクマロール錠(三共)

carteolol hydrochlotide

ミケラン錠・LA錠(大塚)

carvedilol

アーチスト錠(第一)

一般的注意 *手術前48時間は投与回避。

半減期

carvedilol:約8時間

celiprolol :約4-6時間

celiprolol hydrochloride

セレクトール錠(日本新薬)

indenolol hydrochloride

プルサン錠(山之内)

一般的注意 *手術前24時間は投与回避。
labetalol hydrochloride

トランデート錠(グレラン)

一般的注意 *褐色細胞腫の患者に投与する場合を除き手術前24時間は投与回避。
metoprolol tartrate

セロケン錠・L錠(藤沢)

一般的注意 *手術前24時間(徐放錠は48時間)は投与回避。

§.大手術中は慎重に投与。手術前の患者に本剤を麻酔薬として投与した場合には、術中及び術後に低血圧を来すことがあるので、 記録をよく調べ確認しておくべきである(13。§.術前不安に対する本薬とdiazepamの併用投与例が報 告されており、抗不安薬の術前投与の併用薬として有用であり、更に不安に伴う血圧上昇、頻脈も改善することが認められている。しかし、β- 遮断薬は術前24?48時間は投与しないことが望ましいとされており、安易な投与がされないよう注意[C.J.Jakobsen et al:メトプロロール及びジアゼパム併用投与の術前不安に対する効果(抄録);Anesthesia,45:40-43(1990)]

nadolol

ナディック錠(大日本)

一般的注意 *手術前48時間は投与回避。

半減期

nadolol :約20時間

nipradilol

ハイパジール錠(興和)

一般的注意 *手術前24時間は投与回避。

半減期

oxprenolol:約2時間

penbutolol:約2時間

pindolol :約3.6時間

oxprenolol hydrochloride

トラサコール錠(ノバルティス)

penbutolol sulfate

ベータプレシン錠(アベンティス)

pindolol

カルビスケン錠・R錠

(ノバルティス)

propranolol hydrochloride

インデラル錠・LAカプセル

(アストラゼネカ)

一般的注意 *褐色細胞腫以外の手術を除き、手術前24時間(LA製剤は48時 間)投与回避。

尿

azosemide

ダイアート錠(三和化学)

一般的注意 *手術前の患者:昇圧アミンに対する血管壁の反応性を低下させることがある。ツボクラリン等の麻痺作用 を増強することがある。→『相互作用』参照

§. 相互作用

benzylhydrochlorothiazide

ベハイド錠・散(杏林)

chlortalidone

ハイグロトン錠(ノバルティス)

cyclopenthiazide

ナビドレックス錠(ノバルティス)

furosemide

ラシックス錠・散・注

(アベンティス)

hydrochlorothiazide

ダイクロトライド錠・散(万有)hydroflumethiazide

ロンチル錠・散(三共)

昇圧アミン(ノルエ ピネフリン等) 昇圧アミンの作用を 減弱するおそれがあるので、手術前の患者に使用する場合には、一時休薬等の処置を講ずること。 本剤が昇圧アミンに 対する血管壁の反応性を低下させるためと考えられている。
  indapamide

ナトリックス錠(住友)

  ツボクラリン及びそ の類似物質(塩化ツボクラリン) 麻痺作用を増強する ことがあるので、手術前の患者に使用する場合には一時休薬等の処置を講ずる 血清カリウム値の低 下により、これらの薬剤の神経・筋遮断作用が増強
mefruside

バイカロン錠(ウェルファイド)

methyclothiazide

エンデュロン錠・散(大日本)

meticrane

アレステン錠(日本新薬)

metolazone

ノルメラン錠(ノバルティス)

penflutiazide

ブリザイド錠(旭化成)

piretanide

アレリックス錠・注(アベンティス)

torasemide

ルプラック錠(富山)

trichlormethiazide

フルイトラン錠・散(塩野義)

tripamide

ノルモナール錠(エーザイ)

spironolactone

アルダクトンA錠(大日本)

相互作用記載無

*acetazolamide[ダイアモックス錠・注(レダ リー)]

*bumetanide[ルネトロン錠・注(三共)]

*ethacrynic acide [エデクリル錠(万 有)]

*triamterene[トリテレンカプセ

ル(住友)]

*potassium canrenoate[ソルダクトン注 (大日本)]

betanidine sulfate

ベンゾキシン錠(三和化学)

一般的注意-相互作 用 *中枢神経抑制薬(バルビツール酸誘導体、麻酔剤、麻薬性鎮痛薬、鎮静薬、精神安定薬等)、飲酒:相互 に作用が増強されることがある。

*guanethidine:手術前数日間は投与回避。緊急手術 を要する場合、過度の徐脈を避けるため、術前にアトロピン処置を十分に行うこと。

§.guanethidine sulfate(イスメリン)は、少なくとも術前2週間は、投与を中止するか減 量する(13。

guanabenz acetate

ワイテンス錠(アズウェル)

guanethidine sulfate

イスメリン錠(ノバルティス)

guanfacine hydrochloride

エスタリック錠(ノバルティス)

methyldopa

アルドメット錠(万有)

相互作用 *麻酔剤:本剤の作用が増強され、低血圧があらわれることがあるので、本剤の投与を受けていた患者に は、麻酔剤を減量するなど注意すること。この低血圧は、通常、昇圧剤の投与により回復する。
hydrochloride・ reserpine

ダイクロトライドS(万有)

相互作用 *ノルエピネフリン等のカテコールアミン:血管壁の反応性を低下させることがあり、手術前の患者に使用 する場合には本剤の一時休薬等の処置を行うこと。
reserpine・ hydralazin hydrochloride・hydrochlorothiazide

エシドライ錠(ノバルティス)

reserpine・ benzylhydrochlorthiazide・carbazochrome

ベハイドRA(杏林)

  *ツボクラリン及びその類似作用物質:麻痺作用を増強させることがあ

るので、手術前の患者に使用する場合には一時休薬等の処置を行うこと。

§.ラウオルフィアアルカロイド(レセルピン等)は、患者に急激なストレスを与えると急性の心血管虚脱を起こすことがあるの で、手術の2週間前には投与を中止すべきである。麻酔薬投与の間は合併症に注意する(13。

A

C

E

alacepril

セタプリル錠(大日本)

一般的注意 *手術前24時間は投与回避。

§.最近の文献によれば、外科手術に先立って降圧療法を中止する必要はないが、麻酔医はそのことを知っていなければならないと 提案されている。手術中に血圧降下が起きた場合は輸液療法により調整することができる(15。

benazepril hydrochloride

チバセン錠(ノバルティス)

captopril

カプトリル錠・細粒・R           (BMS)

cilazapril

インヒベース錠(エーザイ)

delapril hydrochloride

アデカット錠(武田)

enalapril maleate

レニベース錠(万有)

imidapril hydrochloride

タナトリル錠(田辺)

lisinopril

ゼストリル錠(ゼネカ)

perindopril erbumine

コバシル錠(第一)

quinapril hydrochloride

コナン錠(ウェルファイド)

trandopril

オドリック錠(アベンティス)

temocapril hydrochloride

エースコール錠(三共)

AII抗

受薬

candesartan cilexetil

ブロプレス錠(武田)

重要な基本的注意 *手術前24時間は投与しないことが望ましい:手術時には、出血や麻酔剤等の使用による血圧低下に対 し、レニン-アンジオテンシン系が代償性に賦活するなどして血圧が維持されるが、術前に本剤を使用するとこの代償機転が作用せず、血圧維持が困難になるお それがある。
valsartan

ディオバン錠(ノバルティス)

高用

脂 薬

ethyl icosapentate

エパデールカプセル300・S300

(持田)

慎重投与 *手術を予定している患者:出血を助長するおそれがある。

§.本薬は血小板凝集抑制作用・血小板粘着能を抑制する作用が報告されている。

尿

acarbose

グルコバイ錠(バイエル)

禁忌 *重症感染症、手術 前後、重篤な外傷のある患者:インスリンによる血糖管理が望まれるので本剤の投与は適さない。

§.糖尿病患者の緊急手術や急性重症感染症は、例えケトアシドーシスを起こしていても、直ちに対処できる。血糖が高いという理 由で、糖尿病患者の緊急手術を延期、放置することは許されない。これは静脈内インスリン持続注入で対処すべきものである(14。

§.重篤な火傷、重篤な感染症、大手術又は重篤な外傷→この状態で必要である。以前用いていたいかなる経口糖尿病剤も通常中止 する(15。

acetohexamide

ジメリン錠(塩野義)

buformin hydrochloride

ジベトスB(ガレン)

chlorpropamide

ダイヤビニーズ錠

(ウェルファイド)

glibenclamide

オイグルコン錠(山之内)

gliclazide

グリミクロン錠(大日本)

glimepiride

アマリール錠(アベンティス)

glybuzole

グルデアーゼ錠(協和醗酵)

glyclopyramide

デアメリンS錠(杏林)

metformin hydrochloride

グリコラン錠(日本新薬)

nateglinid

スターシス錠(山之内)

ファスティック錠(アベンティス)

pioglitazone hydrochloride

アクトス錠(武田)

tolazamide

トリナーゼ錠(住友)

torbutamide

ラスチノン錠(アベンティス)

troglitazone

ノスカール錠(三共)

voglibose

ベイスン錠(武田)

batroxobin

デフィブラーゼ注(ケミファ)

禁忌 *手術時・手術直 後:止血が困難。
alteplase

アクチバシン注(協和醗酵)

禁忌
nasaruplase

トミーゼ注(ウェルファイド)

nateplase

ミライザー注(シエーリング)

慎重投与
tisokinase

ハパーゼ注(興和)

pamiteplase

(genetical recombination)ソリナーゼ注射用(山之内)

慎重投与 *大手術、臓器生 検、血管穿刺(動注療法、動脈穿刺等)後、日の浅い患者(10日以内):出血を惹起する患者。
urokinase

ウロキナーゼ(興和)

慎重投与 *出血している患 者:手術等外科的処置時(肝、腎生検等を含む)、糖尿病性出血性網膜症等の出血性眼疾患、消化管出血、尿路出血、流早産、分娩直後、月経期間中等:出血を 助長し、止血が困難になるおそれがある。

ethl icosapentate

エパデールカプセル(大日本)

慎重投与 *手術を予定してい る患者:出血を助長。
ticlopidine hydrochloride

パナルジン錠・細粒(第一)

*手術を予定してい る患者:出血を増強→10?14日前に投与中止。但し、血小板機能の抑制が求められる場合を除く。
cilostazol

プレタール錠(大塚)

慎重投与 *出血傾向並びにそ の素因:出血を助長。
limaprost alfadex

オパルモン(小野)

sarpogrelate hydrochloride

アンプラーグ錠(三菱東京)

heparin calcium

ヘパカリン(エーザイ)

原則禁忌 *手術時:その作用 機序より出血の助長、時に致命的。
heparin sodium

ヘパリンナトリウム(清水)

dalteparin sodium

フラグミン注(キッセイ)

原則禁忌 *高度な出血症状: 出血症状の助長。
parnaparin sodium

ローヘパ注(清水)

aspirin

バイアスピリン錠100mg

(バイエル)

慎重投与 *手術前1週間以内 の患者:手術時の出血量が有意に増加したとの報告がある。

§.aspirinには血小板凝集抑制作用があり、1回の服用で血小板凝集能の抑制は48時間以 上持続する。aspirinの1g以下の少量あるいは少量間歇投与ではプロスタサイクリン(PGI2)産生は 抑制されない(12。

aspirin・aluminum glycinate

アスファネート錠81mg(中北)

クレイチェ錠81mg(陽進堂)

ニトギス錠81mg

(シオノ-ファルマー)

バッサミン錠81mg(大洋)

バファリン81mg(ライオン)

ファモター81mg錠

(メルクホエイ)

warfarin potassium

ワーファリン錠(エーザイ)

禁忌 *手術時:出血を助 長→時に致命的。

*中枢神経系の手術又は外傷後、日の浅い患者:出血を助長→時に致命的。

§. 最近又は予定された脳手術・眼科手術・他の大きな外科手術、特に手術野が広い→抑制できない出血の危険性が増加。

抗凝固剤は一般に大手術には禁忌である。整形(腰部)外科手術後血栓の危険性を減少させるために必要なことがある(15。

血阻

液止

凝剤

danaparoid sodium

オルガラン注(オルガノン)

原則禁忌 *脳、脊椎、眼科手 術又は頭部外傷後日の浅い患者:出血を助長することがある。

VII

eptacog alfa(activated)

(genetical recombination)

注射用ノボセブン

(ノボノルディスク)

慎重投与 *大手術及び進行性 アテローム硬化症、挫滅創のある患者:これらの患者では組織因子が循環血中に正常とされる範囲を超えてあるいは凝固障害が発現しやすくなっていることか ら、血栓形成あるいはDIC誘発の危険性が高くなっている可能性がある。本剤の投与により過剰な凝固系活性化又は血栓を示す徴候・症状があらわれた場合に は注意深く観察を行い適切な処置を行うこと。

*血液凝固第IX因子に対するインヒビターを保有する患者においては、本剤の手術時での使用経験は外国における小手術のみである。

*手術時における本剤の有効性は、国内では証明されていない。

§. 本剤は損傷部位に局所的に発現される組織因子と特異的に複合体を形成し、第X因子を活性化することにより止血作用を発 現する。この作用は組織因子依存性であり、通常の状態では循環血液中でこれらの凝固因子を活性化させることはないため、全身的な凝固系の活性化を惹起する 可能性は少ないと考えられる。しかし、例えばアテローム硬化症のプラーク中では組織因子が高濃度に存在し、進行性アテローム硬化症でプラークの破裂が発生 している患者に対して本剤が投与された場合、循環血液中に放出された高濃度の組織因子が血中の活性型血液凝固第VII因子(本剤)と接触可能な状態になる ことも考えられる。また、大手術や挫滅創のある患者でも、組織因子が正常とされる範囲を超えて発現することが予測される。

levonorgestrel・ethinylestradiol

アンジュ28(帝国臓器)

トライディオール21

(ワイスレダリー)

トリキュラー21(シエーリング)

リビアン28(山之内)

禁忌 *手術前4週以内、 術後2週以内、産後4週以内及び長期安静状態の患者:血液凝固能が亢進され、心血管系の副作用の危険性が高くなることがある。

§. 外国において経口避妊薬を6カ月間服用後に中止し、服用前、服用6カ月目(服用中止時点)、中止後1、4、6、8、 12週間に血液凝固系検査を行った結果、凝固系検査値の服用前への回復時期は服用中止後4週間は必要であり、大きな手術の少なくとも4週間前には、経口避 妊薬を服用すべきではないとする報告がある。また、外国において、経口避妊薬服用により手術後の合併症である血栓塞栓症発症の危険性が2-4倍に増加する ことも報告されており、手術後の血液凝固能・線溶能の異常は2週間でほぼ正常閾値内に改善すると考えられている。更に239例の剖検における静脈血栓症発 生頻度の検討では、ベッド安静期間が1週間以内で15%、1週間以上で80%と報告されている。

以上のことから手術を予定している場合及び手術後や分娩後に、直ちに経口避妊薬を服用することは避ける必要がある。

norethisterone・ethinylestradiol

オーソM-21(持田)

オーソ777-28(持田)

エリオット21(明治製菓)

シンフェーズT28(モンサント)

ノリニールT28(第一)

[1998.3.13.古泉秀夫・1998.5.26.改訂・2000.1.30. 第3改訂]


  1. 高久 史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,1998
  2. グルコバイ錠インタビューフォーム,1995.12.作成
  3. ミグリステン錠添付文書,1997.1.改訂
  4. ミニマックス添付文書,1995.10.改訂
  5. PL顆粒添付文書,1996.12.改訂
  6. アドビオール錠添付文書,1995.9.改訂
  7. フルイトラン錠・酸添付文書,1997.3.改訂
  8. アルドメット錠添付文書,1997.3.改訂
  9. ワイテンス錠添付文書,1996.10.改訂
  10. ウロキナーゼ6万添付文書,1995.7.改訂
  11. ハパーゼコーワ注添付文書,1995.9.改訂
  12. 梅津 剛吉:医薬品と処方と調剤;南山堂,1991.p.29
  13. 斉藤太郎・他監訳:臨床看護薬剤マニュアル;医学書院,1984.p.286,p.297,p.303
  14. 平田 幸正:糖尿病と合併症;臨床医,17(4):368-371(1991)
  15. 堀岡 正義・他監訳:医薬品情報 1-薬剤投与情報;同朋社,1985,p.148,p.169,p.92,p.88
  16. エパデールカプセル添付文書,1998.4.改訂
  17. コバシル錠添付文書,1999.12.改訂
  18. アクトス錠添付文書,2000.10.改訂
  19. スターシス錠添付文書,2000.1.改訂
  20. リビアン28添付文書,2000.5.改訂
  21. オーソ777-28添付文書,1999.7.改訂
  22. ブロプレス錠添付文書,2000.6.改訂
  23. プロブレス錠インタビューフォーム,1999.6.作成
  24. アンジュ28インタビューフォーム,1999.8.改訂
  25. ルプラック錠添付文書,2000.4..改訂
  26. ソリナーゼ注射液添付文書,2000.4.改訂
  27. バファリン81mg錠添付文書,2000.10. 作成
  28. アマリール錠添付文書,2000.1.作成
  29. ディオバン錠添付文書,2000.9.作成
  30. オルガラン注添付文書,2000.11.作成
  31. 注射用ノボセブン添付文書,2000.5.作成
  32. 注射用ノボセブンインタビューフォーム,2000.5.作成
  33. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2001

細菌の消毒剤耐性

金曜日, 8月 17th, 2007

黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の消毒剤耐性菌に対する報告はMRSA(methicillin-resistant Staphylococcus aureus)の出現以前には認められず、1984年黄色ブドウ球菌の消毒剤耐性株の存在が初めて報告された。その後、1985年に消毒剤耐性遺伝子がクローニング(cloning:遺伝的に均一な集団を得る技術)された。細菌の消毒剤耐性機構はいずれも膜蛋白質による細菌細胞からの薬剤の排出であり、化学構造の異なる各種消毒剤に対して多剤耐性を示すことが特徴であると報告されている。

黄色ブドウ球菌に消毒剤高度耐性を与えるqacA/qacB遺伝子群は、ともに幅広い薬剤に対して耐性を示し、大きな伝達性プラスミド(細胞から細胞に移っていくことの出来る遺伝子の集合体)から検出されている。

薬剤名 消毒剤高度耐性株 消毒剤低度耐性株 感受性株
消毒
acriflavine 0.02% 0.0025% 0.000625%
acrinol 0.01% 0.005% 0.0025%
benzalkonium chloride 0.000625% 0.000313% 0.000156%
benzethonium chloride 0.00125% 0.000313% 0.000078%
chlorhexidine gluconate 0.000313% 0.000313% 0.000078%
glutraldehyde(glutaral) 0.16% 0.08% 0.04%
色素
acridine orange 0.01% 0.005% 0.0025%
crystal violet 0.000313% 0.00002% 0.00001%
safranin O 0.02% 0.0025% 0.000625%


butyl p-hydroxybenzoate
(butylparaben)
0.02% 0.02% 0.01%
methyl p-hydroxybenzoate     (methylparaben) ≧0.32% 0.16 % 0.08%

*最少発育阻止濃度(μg/mL)を%表記に改変。

消毒剤高度耐性株に対するbenzethonium chlorideの最少発育阻止濃度は0.00125%であり、常用濃度との比較では、低値であるとすることが出来るが、臨床現場での消毒剤の使用実態- 短時間接触→洗滌・清拭・乾燥+消毒物の汚染-力価の長時間保持困難等を考慮した場合、最少発育阻止濃度と実使用濃度の間に開きがあったとしても、細菌からみた場合、低濃度下で長時間生存可能であるということは、自然環境下では十分生存可能であるとする報告もみられる。

セラチアは、グラム陰性通性嫌気性桿菌のSerratia属に属する菌で、代表種はSerratia marcescens(霊菌)である。Serratia liquefaciens、Serratia rubidaea等も知られているが、多剤耐性菌が多く、日和見感染の原因菌となり得る。

周毛性のグラム陰性桿菌で、莢膜のある菌種もある。DNase活性が強い点で他の腸内細菌と区別される。 Serratia marcescensとSerratia rubidaeaは赤?桃色の色素(prodigiosin)を産生するが、色素非産生株もある。

Serratia属の棲息部位は、空気中、塵埃中、水中等にしばしば存在し、食物に附着して増殖し、これを赤変することがある。腸内常在菌である。

本菌の感染部位について、従来、非病原菌として扱われてきたが、近年創傷感染、肺炎、肺化膿症膿胸、髄膜炎、尿路感染症、敗血症、骨髄炎、腹膜炎等種々の感染症の原因となり得る。院内感染も見られ基礎疾患を有する患者に菌交代症として発現する可能性が考えられるとする報告がされている。

本菌の感染経路として、尿路カテーテル、静脈カテーテル、腹腔カテーテル、輸液。

なお、補液を経由しての感染経路として、次の実験報告がされている。

[1]点滴静注用のボトルの注入口(ゴムキャップ)にSerratia marcescensを附着させ、注射針で注入口を通過させると、菌は瓶中に侵入することが確認されている。

[2]病院で使用する輸液-ブドウ糖注射液、総合電解質液、静注用脂肪乳剤、血漿増量・体外循環灌流液、糖・電解質・アミノ酸液20mL中に菌液10μLを添加、室温放置、6時間・24時間後の菌量を測定した。この結果、静注用脂肪乳剤中では24時間後で10万倍以上増加し、血漿増量・体外循環灌流液中では1万?10万倍、総合電解質液、糖・電解質・アミノ酸液 、ブドウ糖注射液中では100?10万倍に増加した。

この結果、輸液ボトル調製中に菌が混入し、室温に10時間以上おかれた場合、輸液中では菌は相当数まで増殖し、大量の菌の曝露源となり得ることが示唆された。

*病棟における輸液準備は、概ね準夜帯(16時?18時)の看護婦が処置室において混合準備し、室温に静置し(調製から点滴開始まで10時間以上)、翌日投与する方法が一般的である。調製時汚染された場合、感染原因となりうる等の注意がされている。

なお、酒精綿調製後のアルコールの残存力価を測定した資料として、次の報告がみられる。

[1]医療現場で実際に使用される酒精綿保管容器を用い、酒精綿を保存、一定時間毎に10分間ずつ保管容器の蓋を開放し、経時的に残存力価を測定した。

容器名称 材質 外径×高さ(mm) 容量(mL) 脱脂綿量 アルコール液量
六単瓶 ガラス 60×55 130 10g 34g
万能壺(中) ステンレス 75×75 250 25g 85g
万能壺(大) ステンレス 85×90 500 50g 170g
湿布缶 ステンレス 123×166 1900 150g 510g

上記の実験の結果、50%-isopropanol(規格濃度:47.3?53.3v/v%)では、六単瓶の場合1日後に47.12%の規格濃度以下となり、2日目後では湿布缶以外全て規格濃度以下となっている。湿布缶については、7日目後でも47.89%の残存力価を示している。70%- isopropanol(規格濃度:67.8?72.2v/v%)では、万能壺(中)保存-7日後の事例のみで67.20%の規格濃度以下の値を示した。

消毒用エタノール(ethanol for disinfection)(規格濃度:76.8?81.4v/v%)では7日後に六単瓶76.45%・万能壺(中)74.27%の規格濃度以下の測定値が得られたと報告されている。

以上の報告からisopropanol・ethanolともに、保存条件によっては、有効成分が蒸発し期待する殺菌効果が得られないという結果を招くが、70%-isopropanol・ethanol for disinfectionでは、

[1] 液量が十分であること。

[2] 酒精綿が汚染されない取扱いがされていること。

[3] 酒精綿保管容器の密閉性が確保されていること。

の3点が実施可能であれば、1週間を限度としての使用は可能であると判断される。

但し、50%-isopropanolについては、酒精綿調製目的での使用は不適である。

[615.28.RES:2000.11.13.古泉秀夫]


  1. 笹津備規:細菌の消毒剤耐性,医学微生物学の最先端,中野昌康・編,pp.173180,菜根出版,東京,1997
  2. 笹津備規:院内感染起因菌-MRSAを中心に-薬局,48(8):1246-1251(1997)
  3. 森良一・他:戸田新細菌学;南山堂,1985
  4. 川名林治・他編:標準微生物学;医学書院,1982
  5. 水口康雄・他:ナースのための微生物学;南山堂,1987
  6. 武田美文・監修:院内感染防御マニュアル;薬業時報社,1996
  7. 遠藤美代子・他:セラチアの輸液中での増殖実験<抄録>;IASR,21(8):166-167(2000)
  8. http://idsc.go.jp/iasr/246/inx246-j.hyml
  9. 福島雅典・総監修:メルクマニュアル 第17版 日本語版;日経BP社,1999
  10. 第十三改正日本薬局方解説書;広川書店,1996
  11. 日本病院薬剤師会・編:院内における消毒剤の使用指針;薬事日報社,1987
  12. 日本病院薬剤師会・編:院内における消毒剤の使用指針 改訂版;薬事日報社, 1994
  13. 藤原 泉・他:消毒用エタノール、70%、50%イソプロパノールのアルコール綿保管容器中における経日的な濃度変化について;環境管理技術,13(4):188-193(1995)

抗コリン作用を有する薬剤  第3改訂

金曜日, 8月 17th, 2007

*抗コリン作用(アトロピン様作用)により発現する副作用で、著明なものとしては唾液分泌減少がある。これに鼻閉が加わると口呼吸となるため、結果として口渇を生じる。ただし、口渇は次第に慣れが生じる副作用である。近くのものを見るとき、焦点が合わなくなる視力調節障害もよく見られる。毛様体筋を緊張させているアセチルコリンニューロンが拮抗されて弛緩し、水晶体の彎曲が不十分になることによって起こる副作用で、狭隅角(閉塞隅角)緑内障が悪化することがある。便秘と排尿障害は抗コリン性副作用のうち注意しなけれ ばならない副作用である。

慢性患者ではしばしば慢性便秘が放置され、巨大結腸、小腸拡張が生じ、更に麻痺性イレウスを発症することもあり、死に至ることもある。排尿障害が続くと、溢流性尿失禁(排尿障害によって残尿が多くなり膀胱内圧が高まり、括約筋がその圧に耐えられなくなって尿が漏れる状態)を見る。中枢のムスカリン性アセチルコリン受容体が強く遮断されると意識障害を生じる。軽い譫妄が起こることが多い。

*その他、抗コリン作用により房水通路が狭くなり眼圧が上昇し緑内障悪化、上昇した眼内圧の結果生じる散瞳効果が、狭隅角緑内障を促進させることがある等の報告がされている。また、抗コリン作用による膀胱平滑筋(排尿筋)の弛緩、膀胱括約筋の緊張により排尿障害が悪化するとされている他、前立腺肥大では、排尿障害を来していない場合でも抗コリン薬投与で排尿障害を惹起する等の報告が見られる。

*その他、散瞳、起立性低血圧、頻脈等の心臓毒性が発現する。閉塞性黄疸等の発現が報告されている。

*緑内障について、次の報告がされている。

[015.11.GLA:2001.3.6.古泉秀夫・第 3 改訂2003.8.28.・2005.6.21.・2005.8.8.修正]


  1. 高野智美・他:抗コリン作用を有する薬剤;THPA,44(3):155-160(1995
  2. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2001
  3. 融 道男:向精神薬マニュアル;医学書院,1998
  4. 仮家公夫・他:疾患別薬理学;廣川書店,1988
  5. 矢野啓子:緑内障を理解する;都薬雑誌,22(11):13-19(2000)
  6. 最新医学大辞典 第2版;医歯薬出版株式会社,1996
  7. 河野眞一郎:原発閉塞隅角緑内障の治療指針;薬局,48(2):215-219(1997)
  8. 東 郁郎・編:緑内障の薬物療法;株式会社ミクス,1990
  9. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2002
  10. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2003

鶏冠石の毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 鶏冠石(Realgar)
成分 硫化ヒ素(As4S4)、(AsS )
一般的性状 独特な赤い色が特徴。光に長く曝露されると黄橙色のパラ鶏冠石(結晶構造が鶏冠石と若干異なる)に変化する。透明あるいは半透明の短柱状結晶を示す。熱水変質した岩石中に粒状、鉱染状で産する。熱するとニンニク臭がする。又は、金属光沢を帯びた鮮やかな赤で、透明感のある美しい結晶塊。成分は硫黄と砒素。
保存も困難で、光や湿気、振動などに弱い。光と湿度に弱い鉱物で、乾燥した暗い場所に保存しないと数年で黄色く変質する。
毒性 致死量・中毒量(三酸化砒素として)経口(ヒト)LD50:1.43mg/kg。吸入(ヒ ト)TCL0:0.11mg(As)/m3。
経口(マウス)LD50:45mg/kg。皮下(マウ ス)LD:11-13mg/kg。
砒素化合物は無機性あるいは有機性のものでも、SH酵素系に対する代謝障害作用によって微生物の生活過程に干渉する性質のあることが知られている。
常用量:1日1-5mg・極量:1回5mg 1日15mg
慢性骨髄性白血病に対して内服。各種慢性疾患に対して変質剤として用いられた。
鉛、シアン化物と並んで砒素は昔から中毒の多い物質である。大量を一度に摂取した場合にみられる急性中毒については、大人に対する中毒量は5-50mg、致死量は100-300mgといわれ、大量しかも吸収が甚だ速い場合には、著しく急激な経過をたどり(電撃型)、血圧低下、頻脈、浅脈など虚脱症状を示す循環障害と、痙攣、麻痺、昏睡など中枢神経障害を起こして、速いものでは24時間以内に死亡する。急性中毒の定型的なものは胃腸型と呼ばれるもので、摂取後速いものでは2-3時間、遅い場合には数日後から発症するが、頑固な嘔吐、下痢が現れ、この嘔吐、下痢は甚だ激しくてコレラに類似するのでコレラ型とも称される。頻回の下痢によって体内水分の消失を来たし、蛋白尿が現れて腎障害を思わせ、また横断などの肝障害の徴候を現す。

少量の砒素を長期連用して起こる慢性砒素中毒では、発熱、消化管の慢性炎症による嘔吐、下痢、腹痛などを訴え、特異な皮膚の変化すなわち黒皮症、発疹、角化などがみられ、骨髄が障害されて貧血、無顆粒細胞症(agranulocytosis)を起こす。また神経が侵されて多発性神経炎の起こることもある。
肝臓、腎臓、心臓など重要臓器の変性を起こす。

症状 急性及び亜急性中毒の症状として、刺激作用及び腐食作用があり、呼吸器系症状として咳嗽、呼吸困難、胸痛の他、眩暈、頭痛、四肢脱力感、その後、嘔気、嘔吐、腹部疝痛、下痢、全身疼痛、麻痺などがある。三酸化砒素を含む粉塵、フュームに曝露することによりしばしば皮膚及び粘膜の刺激症状が伴い、“亜砒まけ”、“砒素まけ”と俗称される接触性及びアレルギー性皮膚炎、鼻炎、喉咽頭炎、気管炎、気管支炎及び結膜炎を示す。
一般に成人で70-180mgの三酸化砒素が致死量と考えられている。
主症状
ニンニク臭、嚥下困難、頸部絞扼感、咽頭・食道・胃の灼熱感は、服毒直後から出現。嘔吐、激しい下痢、眩暈、不穏、昏睡、脱水による循環障害。痙攣、末梢神経麻痺。
全身性金属味、口腔・咽頭の乾燥感。
嚥下困難、嘔気、嘔吐、腹部疝痛、下痢、腹鳴、数時間-1日後にコレラ様便、 脱水、黄疸、乏尿。
咳嗽、呼吸困難、胸痛。
眩暈、頭痛、四肢脱力感、四肢疼痛、痙攣、昏睡、精神異常。
循環不全。
局所性

接触性・アレルギー性皮膚炎。
鼻炎、喉咽頭炎、気管炎、気管支炎。
結膜炎。

処置 胃洗浄の後、塩類下剤投与。腹痛にモルヒネ筋注。BAL 5mg/kg/4時間を時間続ける。輸液、呼吸管理、腎機能障害高度なら人工透析。
全身管理低血圧が伴っていることが多く、まず酸素吸入、大量輸液とともに必要に応じてカテコラミンを投与して血圧の維持を図る(意識清明で重症感がないことがあり注意を要する)。
砒素体内からの排泄
経口摂取の場合、一般の薬物中毒に準じて胃洗浄、活性炭及び下剤の投与を行うが、悪心・嘔吐が強く胃洗浄が必要ないこともある。砒素は尿中への排泄が良好であり、腎不全の徴候が見られない限り血液透析は必要ない。
薬物療法
BAL(British anti-Lewisite dimercaprol バル注)を用いたキレート療法を行う。症状がある場合は、砒素の測定結果を待つことなく可能な限り早期から使用する。
バル注 :1回2.5-5mg/kg  4時間毎に筋注、2日目からは1回2.5mg/kg4時間毎に1-2日間投与、以降は、症状と尿中への砒素排出量をみながら減量していく。

キレート療法
は尿中の砒素排出量が50μg/日以下になるまで継続する。
バル注の副作用として、悪心・嘔吐、高血圧、頻脈、頭痛、発汗などがあり、中毒症状との鑑別に注意。

事例 「砒素でやられたんです」
「なんだと………」
「鶏冠石から採れるものです」
「いったい、なんだってそんなものが………」
「桃庵の処方です」
「なに」
「毒も使いようによっては薬になるんです」[平岩弓枝:御宿かわせみ(16)ひゆたらり;文藝春秋,1997]
備考 三酸化砒素(arsenic rioxide)、As2O3。 [別名]亜砒酸。
本で見たが、鶏冠石の原石は鶏の鶏冠(トサカ)のように赤いものも見られるが、中には何で鶏冠石の名称が付いたのか分からないような石も見られる。いずれにしろ鉱石としては保存が難しいようである。
文献 1) 松原 聰:日本の鉱物;学習研究社,2003
2)http://member.nifty.ne.jp/Gaia/collec/coll2.html,2004.2.25.
3)薬科学大辞典 第2版;広川書店,1990
4)第7改正日本薬局方解説書;広川書店,1961
5)後藤 稠・他編:産業中毒便覧(増補版);医歯薬出版株式会社,1992
6)西 勝英・監:薬・毒物中毒救急マニュアル改訂第6版;医薬ジャーナル社,2001
7)山口 徹・総編集:今日の治療指針;医学書院,2004
調査者 古泉秀夫 記入日 2004.8.7.

クロロホルム(chloroform)の毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 クロロホルム(chloroform)
成分 クロロホルム(chloroform)
一般的性状 [英] chloroform、[独]chloroform、 [仏]chloroforme、 [ラ]chlorofor-mium。別名:トリクロロメタン(Trichloromethane)。CHCl3=119.39。クロロホルムはCHCl3 99-99.5%を含む。本品は無水のアルコール0.5- 1%を含む。本品は麻酔用に供することが出来る。
本品は無色澄明な揮発性の液で、特異な臭いを有し、味は微かに甘く、灼くようであり、光によって変化する。引火性はないが、加熱した蒸気に点火すると緑色
の炎を上げて燃える。本品1gは水210mLに溶け、アルコール、エーテル、ベンゼン、石油ベンジン、脂肪油又は精油に混和する。沸点60-62℃。
貯法:遮光した気密容器に入れ、なるべく30℃以下で貯えなければならない。基原:1831年Liebig、Soubeiranが殆ど同時に発見し、1834年Dumasがその組成を明らかにした。また1847年英国人 Simpsonが初めて吸入麻酔薬として使用し、外科手術に新紀元を開いた。
吸収・排泄:肺上皮より殆ど直ちに吸収され、反対の経路で排泄される。あらゆる体液中に微量見いだされる。胎盤壁を容易に通過する。幾らかは組織中で軽い
分解を受ける。他の組織表面で吸収される。
応  用
内用に1日数回0.15-1.0-1.5g(2-10-20滴)を白糖に混和 し、頑固な嘔吐、胃痛、胃潰瘍等に鎮痙剤とし、また5-6滴を氷片に滴下し、10-15分毎に用い良い結果を得ることがある。日局では極量を定めていない
が、Ger.は1回0.5、1日1.5(Fr.は3.0)と定めている。
外用には歯痛、神経痛、胆石疝痛、鉛毒疝痛、関節炎、睾丸炎等に、局所的に適 用するほか、洗顔料(0.3-0.5:水25)、点耳料、潰瘍の繃帯料、塗擦料として各種鎮痛の目的で使用し、帯状疹、神経痛、陰部掻痒、直腸潰瘍等に軟膏(1:5-10)として用い、また潅腸料(鉛毒疝痛に5-10滴)とする。その他、製剤、製薬原料、溶剤、尿の防腐等用途が広い。
本品の空気中における含量1.0-1.5v/v%で麻酔を起こし、深麻酔の際 の血液内含量は0.035v/v%、0.06%に至と呼吸麻痺を起こす。深麻酔を起こすと運動、知覚は完全に麻痺し、大手術も痛覚を与えず行える。随意運動並びに反射運動の麻痺だけではなく、意識も消失、全身筋肉の弛緩と、瞳孔の収縮を起こす。呼吸運動は緩徐になるが乱れず、心臓搏動も多少減少するが、心力旺盛で整然としている。麻酔前にモルヒネ及びアトロピンを注射し、呼吸及び心臓の静止を防止し、あるいは催眠剤を投与する。
□麻酔には吸入マスク又はガーゼを鼻腔前に置き、滴瓶から1分間20滴、漸次60滴に増加滴下す る。標準は30滴(0.6mL)である。深麻酔を得れば、吸入を中止又は減少する。中止すれば5-30分で覚醒する。本品は心臓病、動脈硬化、衰弱、高度糖尿病等の患者には禁忌。現在本品は単独で用いられることは少なく、エーテル、アルコール等と混和して用いる。

中枢神経抑制作用。皮膚・粘膜の刺激、肝・腎尿細管・心臓に対して細胞毒とな る。循環器系に対する抑制作用が強く、血圧下降や突然の心停止を来すことがあり、安全域は狭い。また、肝障害や腎障害を起こすので、現在では臨床に用いない。

毒性 麻酔覚醒後、頭痛、眩暈、倦怠、悪心、嘔吐等の後症状を起こすことがあり、稀に死亡、黄疸、高度貧 血、肺炎、気管支肺炎、虚脱を起こすことがある。
本品による吸入麻酔死亡率1/2655、エーテルとの混合麻酔で1/8014 である。
ヒト(経口)致死量約10-15mL、ヒト(吸入)40mL、大気中許容量10ppm(50mg/m3)。ラット経口 LD50:695mg/kg、
ラット吸入 LC50: 47702mg/m3/4hr、
ラット腹腔 LD50:894mg/kg
マウス経口 LD50:36mg/kg
マウス腹腔 LD50:623mg/kg

マウス皮下 LD50:704mg/kg  (RTECS)

症状 麻酔作用、皮膚粘膜腐食、低血圧、呼吸抑制。
皮膚接触が長引けば、紅疹、痛み、化膿性水疱を起こす。経口摂取は口腔・食道、胃の灼熱感を起こす。嘔吐と循環虚脱:恐らく心室細動がある。吸入は興奮、次いで意識消失と呼吸停止。心不全。アドレナリンに対し心筋の過敏症。肝障害が遅く起こった場合は、昏睡を起こすことがあり、尿中にアセトンと胆汁色素が排泄される。高い血中尿素、習慣作用が起こることがあり、規則的吸入は不安、刺激興奮性、筋肉協同機能失調、不眠及び精神荒廃を起こす。本品投与中止で、幻覚と痙攣を生ずることがある。習慣作用は重症の性格欠陥をもつヒトに通常起こる。
処置 一般的処置、対症療法。
経口摂取:吐根催吐剤、胃洗浄、腎障害と肝障害の監視。
吸  入:呼吸、心臓及び循環の補助。*10%-グルコン酸カルシウム溶液(8.5%-カルチコール:大日本住友)10mL静注。塩酸メトキサミン(メキサン注:日本新薬)20mgの静脈注射で、低血圧抑制。アドレナリンは不可。心室細動はディクノカイン(調査不能)1g/kgで抑制。もし必要なら繰り返す。緩徐に皮下注射あるいは塩酸プラクトロール(β-遮断薬・プラクトロール症候群と呼ばれる失明・死亡等報告)5mgを2分以内に静注。必要なら2分毎にこれを繰り返し、全量25mg。肝保護にビタミンB複合体(酵母、肝臓、米糠などに含まれて共存する水溶性ビタミンの1群→ビタミンB群)の静注又は筋注。
事例 「ど うして口笛なんか吹くんだ?」彼は鋭くつめよった。
「わたしは吹いていませんよ」ディムチャーチはひどく驚いたようにいった。「あなたが吹いたんだと思った」
「ふーん、するとだれかが?」トミーがいいかけた。
それ以上はいえなかった。強靱な腕によって後ろから羽交い締めにされ、叫び声を上げる暇もなく、気分の悪くなるような甘ったるい脱脂綿が口と鼻に押し当て
られた。
勇猛に闘おうとしたが無駄だった。クロロホルムが効いてきたのだ。頭がくらくらし目の前の床が上下に大きく揺れた。呼吸が苦しくなり、次第に意識が薄れて
ゆく……… 。 [アガサ・クリスティー(坂口玲子・訳)おしどり探偵-怪しい来訪者;早川書房,2004]
備考 毒殺目的で使用されたわけではなく、麻酔薬として使用されている。ある意味定番で使用される薬物である。ただし探偵小説でクロロホルムが使用される場合、瞬きをする程度の時間で効果を発揮しているが、実際には若干時間が必要なようである。文献等では『麻酔の導入は速い』とする報告も見られるが、嘗て行われていた臨床での実施例からすると、1分以上の時間が必要なようである。
中毒発生時の対処法については、それぞれの文献で記載内容が異なり、併記せざるを得なかった。特に外国の文献を翻訳した図書に出てくる薬剤は、副作用の発現から製造が中止されているであろう薬剤と薬品名からは調査できなかったものが見られた。
クロロホルムは現在医療用としては使用されておらず、誤用による事故は発生しないと考えられるが、事故等で急患が出た場合、対応に困惑することがあるかも
知れない。
文献 1) 薬科学大辞典 第2版;広川書店,19902)縮刷第六改正日本薬局方註解;南山堂,1954
3)西 勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル 改訂6版;医薬ジャーナル,2001
4)山口 徹・総編集:今日の治療指針;医学書院,2004
5)中井健五・他編:薬理学 第2版;理工学社,1984
6)白川 充・他共訳:薬物中毒必携-医薬品・化学薬品・動植物による毒作用と治療指針 第2版;医歯薬出版株式会社,1989
7)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2004
8)http://www.chemlaw.co.jp/,2005.

9)福島雅典・総監修:メルクマニュアル 第17版 日本語版;日経BP社,1999

調査者 古泉秀夫 記入日 2005.1.14.

クラーレ(curare)の毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 クラーレ(curare)
成分 クラーレアルカロイド(curare alkaloid)としてd-tubocurarine、d-chondocurine、d-isocond-odenrine等
一般的性状 南米の原住民が矢毒に用いたツヅラフジ科、フジウツギ科植物の樹皮、材の水製エキス。 tubocurarine等のalkaloidを主成分とし、骨格筋終板の選択的遮断作用、骨格筋弛緩作用及び麻痺作用を有する。
クラーレは部族語で“鳥を殺す”という意味で、貯蔵容器によって分類され、竹 筒に入れられたものをツボクラーレ(アマゾン川流域)、瓢箪に入れられたものをカラバシュクラーレ(オリノコ川流域)及び土器に入れられたものをポットクラーレ(ギアナ地方)という。基本的にはツヅラフジ科、フジウツギ科の蔓性植物群から作られる。
別名:クラリン(curarine)、ツバリン(tubarine)。運動神経の神経線維は、脊髄を出て末梢の骨格筋を支配するが、この神経線維の 末端部からはアセチルコリンが分泌され骨格筋を収縮させる。クラーレの成分はアセチルコリンの分子が二つ結合したような大きな分子で、アセチルコリンが作用する骨格筋の受容体に、アセチルコリンに変わって結合し、アセチルコリンの作用を抑制する。そのため運動神経の作用が失われ、骨格筋は動かなくなる。またクラーレは分子が大きいので血液脳関門を通過しない。
コンドデンドロン・トメントスム(Cbondodendron tomentosum):ツヅラフジ科。南米のペルーやブラジル地方に分布する蔓性の低木。クラーレのalka-loid成分であるツボクラリンは、直径10cm以上もある丈夫そうな茎から採られ、竹筒クラーレの主原料にされる。
ストリキノス・トキシフェラ(Strychnos toxifera):マチン科。ベネズエラのオリノコ川流域からギアナにかけて分布。花や茎全体に細かい産毛が密生している。蔓性で、毒成分は樹皮だけにある。薬理作用はコンドデンドロン属とやや異なり、瓢箪クラーレの主原料にされる。
tubocurarineとして
作用:神経筋肉遮断薬。副交感神経遮断性
吸収・排泄:急速に注射部位から吸収され、また恐らく舌下粘膜から吸収される。大用量が投与されない限り、経口投与では不活性である。その理由は不明。体組織に広く分布する。恐らく肝臓で分解され、腎臓から排泄される。用量の約1/3が最初の2-3時間で排泄される。作用は静注3-5時間後に最高に達し、
約20分間継続する。
毒性 ク ラーレの毒成分d-tubocurarineの最小致死量は0.3mgである。成人の致死量は約50mg。
症状 クラーレを射込まれた動物は、痛みのような目立った症状は示さず、筋肉が弛緩して動かなくなり、呼吸 麻痺で死ぬ。これはクラーレの作用が骨を動かす骨格筋を支配している運動神経の活動だけを抑えるため、骨格筋が麻痺するからである。クラーレは消化管からは殆ど吸収されず、クラーレで倒した動物を直ちに摂食しても中毒しない。
顔と首の紅潮、疲労、随意筋の脱力と麻痺:これは眼にはじまり、顔、頸、手足 及び腹部に進行し、最後に肋間筋と横隔膜に至る。全呼吸麻痺が起こるには注射後7-10分を要する。血圧は低下し、頻脈が起こる。大用量は中枢神経を刺激し、全身痙攣を起こす。
処置 [1] 作用が消失するまで呼吸の維持。
[2]メチル硫酸ネオスチグミン5mg及びアトロピン1mgの静注。
[3]酸素吸入と人工呼吸。
[4]膀胱導管法。
フィゾスチグミン及びエフェドリンはクラーレの拮抗体である。
事例 「あ、 それは?」
「雪の道でひろったんだが、壺の様子が異国風なので、もしやと思って」
二の字二の字の下駄の女に逃げられたが、その雪の上におちていた小壺が、なんとなく異国帰りの六兵衛につながりがあるように銀二郎には想像されてならなかった。
「この壺の中には、クラレという毒液が入っています。竹の筒にはいっているのを竹クラレ、焼き物の壺にはいっているのを壺クラレといって、セルモス島では
猛獣を捕るときに用いております。
セルモスの土人は、猛獣狩りをするとき、この壺のなかの液をとがった矢のさきへ少量ぬって矢を放つ。矢が猛獣の皮膚にささると、たちまち猛獣は運動神経を
やられ倒れてしまう。そして一時間か二時間のうちに毒が消えて猛獣はもとへもどるが、そのときには猛獣はすでに檻のなかという訳」?六兵衛は説明をし、
「このクラレは、口から飲んでもなんの害もありません。が、肌からはいるとほんの少しでもたちまちやられてしまうという不思議なくすりで」 [陣出達朗:投げ縄お銀捕物帖-昆崙白魔;春陽文庫,1990]
備考 投げ縄お銀捕物帖に登場する奉行は“筒井和泉守”とされているが、それは“筒井和泉守改憲”のことであると考えられるので、文政4年(1821年)から天保
12年(1841年)まで、南町奉行を務めた方のことであると考えられる。ところで矢毒としてのクラーレがヨーロッパに伝わったのはスペインが南米を侵略
した1540年頃だったとされるが、その当時の伝承内容は甚だ曖昧な内容であったようである。1815年にロンドンで獣医・外科医・冒険家(チャールズ・ウォータートン)の3人の男が驢馬を用いてクラーレの作用について検討し、クラーレの作用の一部について科学的な光を当てたとする報告がされているが、1821年当時既に日本に輸入されていたとすれば、甚だ凄い話しになるが、何に使おうと思って輸入したのか、それを考えると、上手く作った話かなという気もしないでもない。最も捕物帖はお話であり、あまり毒の輸入にこだわることはないといえば、ない話しである。
文献 1) 薬科学大辞典 第2版;広川書店,1990
2)大木幸介:毒物雑学事典-ヘビ毒から発ガン物質まで;講談社ブルーバックス,19993)植松 黎:毒草の誘惑;講談社,1997
4)植松 黎:毒草を食べてみた;文春新書,2000
5)白川 充・共訳:薬物中毒必携 第2版;医歯薬出版株式会社,1989
調査者 古泉秀夫 記入日 2004.8.29.

感染症の類型(感染症予防法)

木曜日, 8月 16th, 2007

*感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染予防・医療法=感染症予防新法)

分類 感染症名・感染症の 概要 性格
[主な対応・措置]
一類感染症 エボラ出血熱:エボラウイルスの感染により多臓器が侵され、出血傾向を示す。特異的な治療法はなく、死 亡率が高い。患者の血液、体液の接触により感染するが、手術用手袋等による接触感染予防により感染拡大を予防できる。
クリミア・コンゴ出血熱:ウイルスによる出血傾向を示す感染症。ウイルスを保有した成熟ダ ニの刺咬による。未成熟ダニは保有動物宿主から感染し、卵巣内で継代されると考えられている。患者の血液・体液の接触により感染し、人から人の感染が多数
報告されている。罹患後少なくとも1年間は免疫が残る。特異的な治療法なく、死亡率高い。*重症急性呼吸器症候群(病原体がSARSコロナウイルスであるものに限る):SARSコロ ナウイルスの感染による重症急性呼吸器症候群である。多くは2-7日、最大10日間の潜伏期間の後に、急激な発熱、咳、全身倦怠、筋肉痛などのインフルエ
ンザ様の前駆症状が現れる。2-数日間で呼吸困難、乾性咳嗽、低酸素血症などの下気道症状が現れ、胸部CT、X線写真などで肺炎像が出現する。肺炎になっ
た者の80-90%が1週間程度で回復傾向になるが、10-20%がARDS(Acute Respiratory Distress Syndrome)を起こし、人工呼吸器などを必要とするほど重症となる。致死率は10%前後で、高齢者での致死率はより高くなる。
痘そう:痘そうウイルスによる急性の発しん性疾患である。現在、地球上では根絶された状態 にある。主として、飛沫感染によりヒトからヒトへ感染する。患者や汚染された物品との直接接触により感染することもある。エアロゾルによる感染の報告もあ
るが稀である。潜伏期間はおよそ12 日(7-17 日)で、感染力は病初期(ことに4-6病日)に最も強く、発病前は感染力はないと考えられている。すべての発しんが痂皮となり、これが完全に脱落するまで
は感染の可能性がある。皮(かさぶた)の中には、感染性ウイルスが長期間存在するので、必ず滅菌消毒処理をする。
ペスト:黒死病。腸内細菌科に属するグラム陰性桿菌であるYersinia pestis の感染によって起こる全身性疾患である。リンパ節炎、敗血症等を起こし、重症例では高熱、意識障害等を伴う急性細菌性感染症であり、死に至ることも多い。
臨床的に腺ペストと肺ペストの2型に分類される。我が国では大正8年以後発生していない。
マールブルグ病:ウイルス感染により多臓器が侵され、出血傾向を示す。特異的治療法なく、 死亡率高い。患者の血液・体液の接触により感染するが、手術用手袋等による接触感染予防により感染拡大を予防できる。看護婦の院内感染例報告。
ラッサ熱:ウイルス感染。ウイルス血症により肝臓をはじめ多臓器が侵される。多彩な症状を 示し、重篤なものでは出血傾向がある。腎不全、ショック等で死亡することもある。昭和61年1例報告。
*感染力、罹患した場合の重 篤性等に基づく総合的な観点から見た危険性が極めて高い感染症。
*患者、疑似症患者及び無症状病原体保有者について入院等の措置を講ずることが必要。
[主な対応・措置]
*原則入院
*消毒等の対物措置(例外的に、建物への措置、通行制限等の措置も適用対象とする)。
患者・疑似症患者及び無症状病原体保有者:診断医師は速やかに保健所に届出。

医師の届出:直ちに
(法律)
二類感染症 急性灰白髄炎(ポリオ):ポリオウイルス1-3 型感染による急性運動中枢神経感染症である。潜伏期は3-12日で、発熱(3日間程度)、倦怠感、頭痛、嘔気、項部・背部硬直などの髄膜刺激症状を呈する
が、軽症例(不全型)では軽い風邪症状または胃腸症状で終わることもある。髄膜炎症状だけで麻痺を来さないもの(非麻痺型)もあるが、重症例(麻痺型)で
は発熱に引き続きあるいは一旦解熱し再び熱発した後に、突然四肢の随意筋(多くは下肢)の弛緩性麻痺が現れる。罹患部位の腱反射は減弱ないし消失、知覚感
覚異常を伴わない。
コレラ:コレラはコレラ毒素(CT)産生性コレラ菌(Vibrio cholerae O1)またはV. cholerae O139に汚染された飲料水や食品を介した経口感染により、激しい水様性下痢と嘔吐、著しい脱水と電解質の流失をきたす疾病である。コレラの潜伏期間は数
時間から5日、通常1日前後である。近年のエルトールコレラは軽症の水様性下痢や軟便で経過することが多いが、まれに“米のとぎ汁”様の便臭のない水様便
を1日数リットルから数十リットルも排泄し、激しい嘔吐を繰り返す。その結果、著しい脱水と電解質の喪失、チアノーゼ、体重の減少、頻脈、血圧の低下、皮
膚の乾燥や弾力性の消失、無尿、虚脱などの症状および低カリウム血症による腓腹筋(ときには大腿筋)の痙攣がおこる。胃切除を受けた人や高齢者では重症に
なることがあり、また死亡例もまれにみられる。
細菌性赤痢:赤痢菌(Shigella dysenteriae、S.flexneri、S.boydii、S.sonnei )の経口感染で起こる急性感染性大腸炎である。1-5日の潜伏期の後に、発熱、腹痛、下痢、時に嘔吐によって急激に発症し、重症例では頻回の便意とともに
粘血便を排泄する。志賀菌では重症例が多く、ソンネ菌では軽症例が多い。*ジフテリア:ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)の感染による急性感染症である。ジフテリア菌が咽頭などの粘膜に感染し、感染部位の粘膜や周辺の軟部組織の障害を引き起こし、扁
桃から咽頭粘膜表面の偽膜性炎症、下顎部から前頚部の著しい浮腫とリンパ節腫張(bullneck)などの症状が出現する。重症例では心筋の障害などによ
り死亡する。
腸チフス:腸チフスはチフス菌(Salmonella serovar Typhi)の感染による全身性疾患である。
腸チフスの潜伏期間は7-14 日で発熱を伴って発症する。患者、保菌者の糞便と尿が感染源となる。39℃を超える高熱が1 週間以上も続き、比較的徐脈、バラしん、脾腫、下痢などの症状を呈し、腸出血、腸穿孔を起こすこともある。重症例では意識障害や難聴が起きることもある。
健康保菌者はほとんどが胆嚢内保菌者であり、胆石保有者や慢性胆嚢炎に合併することが多く、永続保菌者となることが多い。
パラチフス:パラチフスはパラチフスA菌(Salmonella serovar Paratyhi A)の感染によって起こる全身性疾患である。(Salmonella
Paratyphi B、Salmonella Paratyphi Cによる感染症はパラチフスから除外され,サルモネラ症として取り扱われる)。臨床的症状は腸チフスに類似する。7-14
日の潜伏期間の後に38℃以上の高熱が続く。徐脈、脾腫、便秘、時には下痢、等の症状を呈する。症状は腸チフスと比較して、軽症の場合が多い。
*感染力、罹患した場合の重 篤性等に基づく総合的な観点から見た危険性が高い感染症。
*患者及び一部の疑似症患者について入院等の措置を講ずることが必要。[主な対応・措置]
*状況に応じて入院
*消毒等の対物措置
患者・政令で定める感染症の疑似症患者及び無症状病原体保有者:診断医師は速やかに保健所に届 出。

医師の届出:直ちに
(法律)
三類感染症 腸管出血性大腸菌感染症:ベロ毒素(Verotoxin ,VT)を産生する腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic E.coli,EHECあるいはShigatoxin-producing
E. coli ,STEC)の感染によっておこる全身性疾病である。臨床症状はその血清型により差異があるが、一般的な特徴は腹痛、水様性下痢および血便である。嘔吐や
38℃台の発熱を伴うこともある。さらにベロ毒素の作用により溶血性貧血、急性腎不全をきたし、溶血性尿毒症症候群( Hemolytic Uremic
Syndrome, HUS ) をひきおこすことがある。小児や高齢者では痙攣、昏睡、脳症などによって致命症となることがある。
*感染力、罹患した場合の重 篤性等に基づく総合的な観点から見た危険性が高くないが、特定の職業への就業にによって感染症の集団発生を起こし得る感染症。
*患者及び無症状病原体保有者について就業制限等の措置を講ずることが必要。
[主な対応・措置]*特定職業への就業制限
*消毒等の対物措置
患者・無症状病原体保有者:診断医師は速やかに保健所に届出。
医師 の届出:直ちに
(法律)
四類感染症 E型肝炎:E型肝炎ウイルスによる急性ウイルス性肝炎である。我が国では、これまでの報告のほとんどは 発展途上国などの流行地域での海外感染例であったが、2002
年から国内感染例の報告が増加している。途上国では主に水系感染であるが、我が国では汚染された食品や動物の臓器や肉生食による経口感染が指摘されてい
る。潜伏期間はA型肝炎より長く、平均6週間といわれている。臨床症状はA型肝炎と類似しており、予後も通常はA型肝炎と同程度で、慢性化することはな
い。しかし、妊婦(第3三半期)に感染すると劇症化しやすく、致死率も高く20%に達することもある。特異的な治療法はなく、対症療法が中心となる。
ウエストナイル熱(ウエストナイル脳炎を含む):フラビウイルス科に属するウエストナイル ウイルスによる感染症で、蚊によって媒介される。2-14日の潜伏期の後に高熱で発症する。発熱は通常3-6日間持続する。同時に頭痛、背部の痛み、筋肉
痛、食欲不振などの症状を有する。約半数で発しんが胸部、背、上肢に認められる。リンパ節腫張通常認められる。症状は通常1週間以内で回復するが、その後
倦怠感が残ることも多い。特に高齢者においては、上記症状とともにさらに重篤な症状として、激しい頭痛、方向感覚の欠如、麻痺、意識障害、痙攣等の症状が
出現し、脳炎、髄膜脳炎を発症することがある。特に米国では重篤な例で筋力低下が約半数に認められている。
A型肝炎:A型肝炎ウイルスによる急性ウイルス性肝炎である。我が国では衛生状態の向上と ともに患者数は減少したが、最近でも年間500 例近い報告があり、そのほとんどは国内感染例である。汚染された食品や水などを介して、通常経口感染により伝播する。しかし、一部には性感染症として伝播
する例もある。潜伏期間は平均4週間程度である。感染期間は、ウイルスが便に排泄される発病の3-4週間前から発症後数週間にわたることもあり、数ヶ月に
わたって便からウイルスが排出されるという報告もある。主な臨床症状は全身倦怠感、食思不振で、黄疸、肝腫大などの肝症状が認められる。一般に予後は良
く、慢性化することはないが、まれに劇症化することがある。小児では不顕性感染や軽症のことが多い。特異的な治療法はなく、対症療法が中心となる。
エキノコックス症:エキノコックス(Echinococcus) による感染症で、単包条虫(Echinococcus granulosus)と多包条虫(Echinococcus
multilocularis)の2種類がある。ヒトへの感染はキツネやイヌなどから排泄された虫卵に汚染された水、食べ物、埃などを経口的に摂取した時
に起こる。体内に発生した嚢胞は緩慢に増大し、周囲の臓器を圧迫する。多包虫病巣の拡大は極めてゆっくりで、肝臓の腫大、腹痛、黄疸、貧血、発熱や腹水貯
留などの初期症状が現れるまで、成人では通常10 年以上を要する。放置すると約半年で腹水がたまり、やがて死に至る。
黄熱:フラビウイルス科に属する黄熱ウイルスの感染によるウイルス性出血熱である。南米や アフリカの熱帯地域にみられる。潜伏期間は3-6日間で発症は突然である。悪寒または悪寒戦慄とともに高熱を出し、嘔吐、筋肉痛、出血(鼻出血、歯齦出
血、黒色嘔吐、下血、子宮出血)、蛋白尿、比較的除脈、黄疸等を来す。普通は7-8病日から治癒に向かうが、重症の場合には乏尿、心不全、肝性昏睡など
で、5-10 病日に約10%が死亡する。*オウム病:クラミジアChlamydia psittaci を病原体とし、オウムなどの愛玩用のトリからヒトに感染し、肺炎などの気道感染症を起こす疾患である。1-2週間の潜伏期の後に、突然の発熱で発病する。
軽い場合はかぜ程度の症状であるが、老人などでは重症になることが多い。初期症状として悪寒を伴う高熱、頭痛、全身倦怠感、食欲不振、筋肉痛、関節痛など
がみられる。呼吸器症状として咳、粘液性痰などがみられる。胸部レントゲンで広範な肺病変はあるが理学的所見は比較的軽度である。重症になると呼吸困難、
意識障害、DIC などがみられる。発症前にトリとの接触があったかどうかが報告のための参考になる。
回帰熱:シラミ或いはヒメダニ(Ornithodoros 属:ヒメダニ属) によって媒介されるスピロヘータ(回帰熱ボレリア)感染症である。コロモジラミ媒介性Borrelia
recurrentis やヒメダニ媒介性B.duttonii 等がヒトに対する病原体である。菌血症による発熱期、菌血症を起こしていない無熱期を3
ないし5 回程度繰り返す、いわゆる回帰熱を主訴とする。感染後5-10 日を経て菌血症による頭痛、筋肉痛、関節痛、羞明、咳などをともなう発熱、悪寒がみられる(発熱期)。またこのとき点状出血、紫斑、結膜炎、肝臓や脾臓の
腫大、黄疸もみられる。発熱期は3-7日続いた後、一旦解熱する(無熱期)。無熱期では血中から菌は検出されない。発汗、倦怠感、時に低血圧や斑状丘しん
をみることもある。この後5-7日後再び発熱期に入る。上記症状以外で肝炎、心筋炎、脳出血、脾破裂、大葉性肺炎などがみられる場合もある。
Q熱:リケッチアの一種であるCoxiella burnetii の感染によって起こる動物由来感染症である。急性感染ではインフルエンザ様で突然の高熱、頭痛、筋肉痛、全身倦怠感、眼球後部痛の症状で始まる。未治療の
場合、有熱期間は5-57 日とされるが、多くは14日以内に解熱する。肺炎や肝機能障害を起こすこともあるが、予後は一般に良い。慢性感染では心内膜炎を起こし死亡率が高くなる。
急性症例の20-40%に慢性疲労症候群に類似した症状がみられたという報告もある。
狂犬病:ラブドウイルス科に属す狂犬病ウイルスの感染による神経疾患である。狂犬病は狂犬 病ウイルスを保有するイヌ、ネコおよびコウモリ、キツネ、スカンク、コヨーテなどの野生動物に咬まれたり、引っ掻かれたりして感染し、発症する。潜伏期は
1-3カ月で、まれに1年以上に及ぶ。臨床的には咬傷周辺の知覚異常、疼痛、不安感、不穏、頭痛、発熱、恐水発作、麻痺と進む。発症すると致命的となる。
感染動物の唾液中にはウイルスが存在していることがある。米国ではアライグマやコウモリにおける狂犬病の増加が問題となっているが、狂犬病ウイルス感染動
物との接触が明らかでないヒトの感染事例が時々報告され、コウモリが原因と推測される場合がある。ワクチン接種により防御免疫を確立できる。狂犬病ウイル
ス暴露後であっても、ワクチン接種により発症予防が可能である。
高病原性鳥インフルエンザウイルス:高病原性鳥インフルエンザウイルスによるヒトの感染症 をいう。鳥インフルエンザウイルスのうち、特にH5及び(又は)H7亜型のヘマグルチニンを持つものはニワトリに対する病原性が強い。ヒトに対しても強い
病原性を獲得する可能性が高い。H5N1ウイルスの感染により、1997 年に香港で6名が死亡し、さらに2003 年に2名が死亡した。2003 年にオランダでニワトリにH7N7ウイルスの感染症が発生、流行した際に、獣医師が1名死亡した。現在のところ、我が国では家禽類からは、H5及びH7ウ
イルスは検出されていない。感染した家禽あるいは野生鳥などからヒトにH5またはH7ウイルスが感染することがごく稀にある。オランダでのA/H7N7に
よる事例では、ヒトからヒトへの感染も起こったと報告されている。潜伏期間は通常のインフルエンザと変わりなく、1-3日と考えられており、症状は突然の
高熱、咳などの呼吸器症状の他、重篤な肺炎、全身症状を引き起こす。A/H7N7ウイルスの感染では結膜炎を起こした。過去の香港でのA/H5N1ウイル
スによる事例では、感染拡大防止のために大規模な家禽の屠殺処分が行われた。上述の症状のごとくインフルエンザを疑わせる症状があり、A型インフルエンザ
ウイルスが分離同定されるものの、A/H1N1あるいはA/H3N2に対する抗血清と反応せず、亜型判別不能の場合には本疾患を疑う。

コクシジオイデス症:カリフォルニア州、アリゾナ州、ニューメキシコ州をはじめとする米国 西南部各州、メキシコの太平洋側の半乾燥地帯、ベネズエラのコロ地方、アルゼンチンのパンパ地域に発生する風土病で、原因菌は真菌で
Coccidioides immitis である。北アメリカ、特にカリフォルニア州のサンホアキン渓谷で患者が多発している。強風や土木工事などにより土壌中のC.
immitis の分節型分生子が土埃と共に空中に舞い上がり、これを吸入することにより肺感染が起こり、そのうち約0.5%の患者が全身感染へと進み、約半数が死亡する
最も危険な真菌症である。特に皮膚病巣は特徴があり、結節、潰瘍を繰り返し、花キャベツ状の腫瘤を形成する。
サル痘:サル痘ウイルス(Monkeypox virus)による急性発しん性疾患である。野生動物との接触が多い、西アフリカ、中央アフリカの熱帯雨林で多く見られる。げっ歯類やサルなどの野生動
物、あるいはそれらから感染したペットに咬まれる、あるいは血液、体液、発しんなどに触れることで感染する。ヒトからヒトへの感染は稀ではあるが、飛沫に
よる感染、あるいは体液、衣類・寝具などとの接触による感染がありうる。潜伏期間は7-21 日(大部分は10-14 日)である。発熱、不快感、頭痛、背部痛、発しんなど、痘そうとよく似た症状がみられるが、傷などから入るので、局所リンパ節の腫脹がある。致死率は低
い。
腎症候性出血熱(HFRS):ハンタウイルス(ブニヤウイルス科ハンタウイルス属)による 熱性・腎性疾患で、極東アジアから東欧、北欧にかけて広く分布する。HFRS ウイルスとも称する。ネズミに咬まれたり、排泄物(エアロゾルの吸入を含む)に接触することによりヒトにウイルスが伝播する。このウイルスはヒトに感染す
ると状況により重篤な全身感染、あるいは腎疾患を生じ、以下の型が知られている。
1) 重症アジア型:ドブネズミ、高麗セスジネズミが媒介する。潜伏期間は10-30日で、発熱で始まる有熱期、低血圧期(ショック)(4-10 日)、乏尿期(8-13
日)、利尿期(10-28日)、回復期に分けられる。全身皮膚に点状出血斑が出ることがある。発症から死亡までの時間は4-28日で尿素窒素は50-
300mgに達する。常時高度の蛋白尿、血尿を伴う。
2) 軽症スカンジナビア型:ヤチネズミによる。ごく軽度の発熱、蛋白尿、血尿がみられるのみで、極めてまれに重症化する。
炭疽:本症は炭疽菌(Bacillus anthracis)によるヒトと動物の感染症で、温血動物、主にウシなどの草食獣に急性敗血症死を起こす。ヒト炭疽には4つの主要な病型がある。国内の
動物の発生はほとんどがウシで、感染の機会は農業従事者、獣医師、動物産品処理従事者などに多い。

1)皮膚炭疽:全体の95-98%を占める。潜伏期は1-7日である。初期病変はニキビや虫さされ様で、かゆみを伴うことがある。初期病変周囲には水疱が
形成され、次第に典型的な黒色の痂皮となる。およそ80%の患者では痂皮の形成後7-10 日で治癒するが、20%では感染はリンパ節および血液へと進展し、敗血症へと進展し致死的である。2)肺炭疽:上部気道の感染で始まる初期段階はインフル
エンザ等のウイルス性呼吸器感染や軽度の気管支肺炎に酷似しており、軽度の発熱、倦怠感、筋肉痛等を訴える。数日して第2の段階へ移行すると突然呼吸困
難、発汗およびチアノーゼを呈する。この段階に達すると通常、24 時間以内に死亡する。3)腸炭疽:本症で死亡した動物の肉を摂食した後2-5日で発症する。腸病変部は回腸下部および盲腸に多い。初期症状として悪心、嘔
吐、食欲不振、発熱があり、次いで腹痛、吐血をあらわし、血液性の下痢を呈する場合もある。毒血症へと移行すると、ショック、チアノーゼを呈し死亡する。
腸炭疽の死亡率は25-50%とされる。4)髄膜炭疽:皮膚炭疽の約5%、肺炭疽の2/3 に引き続いて起こるが、稀に初感染の髄膜炭疽もある。髄膜炭疽は治療を行っても、発症後2-4日で100%が死亡する。
つつが虫病:ツツガムシ病リケッチア(Orientia tsutsugamusi)に感染した「つつが虫(恙虫)」の幼虫がヒトを刺すことによって経皮感染する急性感染症である。5-14
日の潜伏期の後に、全身倦怠感、食欲不振とともに頭痛、悪寒、発熱などを伴って発症する。体温は段階的に上昇し数日で40 度にも達する。刺し口の所属リンパ節は発熱する前頃から次第に腫脹する。第3-4病日より不定型の発しんが出現するが、発しんは顔面、体幹に多く四肢には
少ない。治療が適切に行われると早期に消退する。重症になると肺炎や脳炎症状を来す。刺し口は皮膚の柔らかい隠れた部分に多い。発生は初夏および晩秋から
冬で、初夏の発生は主として東北・北陸である。
デング熱:フラビウイルス科に属するデングウイルス感染症で、蚊によって媒介される。2- 15 日(多くは3-7日)の潜伏期の後に突然の高熱で発症。頭痛、眼窩痛、顔面紅潮、結膜充血を伴う。発熱は2-7日間持続(二峰性であることが多い)。初期
症状に続いて全身の筋痛、骨関節痛、全身倦怠感を呈する。発症後3-4日後胸部、体幹からはじまる発しんが出現し、四肢、顔面へ広がる。症状は1週間程度
で回復する。血液所見では軽度の白血球減少、血小板減少がみられる。出血やショック症状を伴う重症型としてデング出血熱*があり、全身管理が必要となるこ
ともある。ヒトからヒトへの直接感染はないが、熱帯・亜熱帯(特にアジア、オセアニア、中南米)に広く分布する。日本国内での感染はないが、海外で感染し
た人が国内で発症することがある。*デング出血熱:デング熱とほぼ同様に発症経過するが、解熱の時期に血液漏出や血小板減少による出血傾向に基づく症状が
出現し、死に至ることもある。
ニパウイルス感染症:ニパウイルスによる感染症であり、発熱、倦怠感など、インフルエンザ 様症状を呈し、一部は重症の脳炎を発症する。1999 年にマレーシアで大きなアウトブレイクを起こし、死者105
人を数えた他、直接の感染源と考えられるブタ100 万頭規模の殺処分を招いたことにより、同国の養豚業に壊滅的な打撃を与えた。感染経路は感染動物の体液や組織との接触によると考えられている。ヒトからヒ
トへの感染例は報告されていない。通常、発熱と筋肉痛などのインフルエンザ様症状を呈し、その一部が意識障害、痙攣などを伴い、脳炎を発症する。
日本紅斑熱:新型の紅斑熱リッケチア(Rickettsia japonica)による感染症である。マダニに刺されることで感染すると考えられている。刺されてから2-8日頃から頭痛、全身倦怠感、関節痛、発熱な
どを伴って発病する。発熱とほぼ同時に紅色の斑丘しんが四肢末端から求心性に多発する。リンパ節腫脹はあまりみられない。CRP 陽性、白血球減少、肝機能異常などはツツガムシ病と同様である。発生は主として夏である。

日本脳炎:フラビウイルス科に属す日本脳炎ウイルスの感染による急性脳炎である。ブタが増 幅動物となり、蚊が媒介する。感染後1-2週間の潜伏期を経て、急激な発熱と頭痛を主訴として発症する。その他、初発症状として全身倦怠感、食欲不振、嘔
気、嘔吐、腹痛も存在する。その後、症状は悪化し、項部硬直、羞明、意識障害、興奮性の上昇、仮面様顔貌、筋硬直、頭部神経麻痺、眼振、四肢振戦、不随意
運動、運動失調、病的反射が出現する。知覚障害はまれである。発熱は発症4-5日に最も高くなり、発症後1週間程度で死亡する例が多い。熱はその後次第に
低下する。致命率は約25%、患者の50%は後遺症を残して回復、25%はほぼ完全に回復する。
ハンタウイルス肺症候群:ブニヤウイルス科、ハンタウイルス属のウイルス(Sin Nombre virus)による急性呼吸器感染症で、現在米国あるいは一部南米の国で発生がある。前駆症状として発熱と筋肉痛が100%にみられる。次いで咳、急性に
進行する呼吸困難が特徴的で、消化器症状及び頭痛が70%以上に伴う。最もありふれた症状は頻呼吸(100%)、頻拍である。半数に低血圧等を伴う。発
熱・悪寒は1-4日続き、次いで進行性呼吸困難、酸素不飽和状態に陥る(肺水腫、肺浮腫による)。早い場合は発熱等発症後24 時間以内の死亡も頻繁にみられる。肺水腫等の機序は心性ではない。X線で肺水の貯留した特徴像が出る。死亡率は約60%という報告もある。感染経路として
は、手足の傷口からウイルスに汚染されたネズミの尿、唾液が接触して入る、ネズミに咬まれる、ウイルスを含む尿、唾液により汚染されたほこりを吸い込む
(これが最も多い)等による。媒介動物は、米国ではシカシロアシネズミ(Permyscus maniculatus)がウイルス保有動物として最も一般的である。ウイルスを媒介するこの群のネズミは米国、カナダ、南米(チリ、アルゼンチン等)に
も存在する。このネズミとウイルスは日本では見つかっていない。
Bウイルス病:マカク属のサルに常在するBウイルス(ヘルペス群ウイルス)による熱性・神 経性疾患である。サルによる咬傷後、症状発現までの潜伏期間は早い場合2日、通常2-5週間である。早期症状としてはサルとの接触部位(外傷部)周囲の水
疱性あるいは潰瘍性皮膚粘膜病変、接触部位の疼痛、掻痒感、所属リンパ節腫大を来し、中期症状としては発熱、接触部位の感覚異常、接触部位側の筋力低下あ
るいは麻痺、眼にサルの分泌物等のはねがとんだ際に結膜炎を来す。晩期には副鼻腔炎、項部強直、持続する頭痛、悪心・嘔吐、脳幹部症状として複視、構語障
害、目まい、失語症、交差性麻痺及び知覚障害、意識障害、脳炎症状を来し、無治療での死亡率は70-80%で、生存例でも重篤な神経障害が後遺症としてみ
られる。感染経路は実験室、動物園あるいはペットのマカク属サルとの接触(咬傷、擦過傷)及びそれらのサルの唾液、粘液とヒト粘膜との接触(とびはね)の
経過があることが重要な点である。また実験室ではサルに使用した注射針の針刺し、培養ガラス器具による外傷によっても感染する。
ブルセラ症:本症はウシ、ブタ、ヤギ、イヌおよびヒツジの感染症であるが、原因菌 (Brucella abortus、B. suis、B. melitensis、B.
rangiferi、およびB. canis)がヒトに感染して発症する。波状熱、マルタ熱、地中海熱などの名前でも呼ばれる。感染源は感染動物の組織、乳汁、血液、尿、胎盤、膣排泄物、
流産胎児などである。B. canisに感染したイヌの尿も感染源になるとされる。潜伏期間は1-18 週、通常2-8週との報告がある。感染によって誘導される所見として比較的共通のものは脾腫、リンパ節特に頚部および鼠径部リンパ節の腫脹、および関節の
腫脹と痛みがあり、その他に20-50%の患者に、進行の時期によって泌尿器生殖器症状があらわれる。B. melitensis の感染では約70%の患者に肝腫大が認められる。本感染による死亡率は一般的には低率であるが、心内膜炎を併発している場合には致死率は上昇し、ヒトのブ
ルセラ症による死亡の多くはこれが原因である。ヒトブルセラ症の3-5%に神経症状や精神神経的な症状との関連性があるとされる。
発しんチフス:Rickettsia prowazekii による急性感染症で、シラミによって媒介される。発熱、頭痛、悪寒、脱力感、手足の疼痛を伴って突然発症する。熱は39-40
度に急上昇する。発しんは発熱第5-6病日体幹から全身に拡がるが、顔面、手掌、足底に出現することは少ない。発しんは急速に暗紫色の点状出血斑となる。
患者は明らかな急性症状を呈するが、発熱からおよそ2週間後に急速に解熱する。重症例の半数に精神神経症状が出現する。初感染後潜伏感染し数年後に再発す
ることがある( BrillZinsser病)。症状は軽度である。

ボツリヌス症:ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)が産生するボツリヌス毒素、またはC. butyricum、C. baratii などが産生するボツリヌス毒素により発症する神経、筋の麻痺性疾患である。ボツリヌス毒素またはそれらの毒素を産生する菌の芽胞が混入した食品の摂取など
によって発症する。潜伏期は、毒素を摂取した場合(食餌性ボツリヌス症)には、5時間-3日間(通常12-24 時間)とされる。神経・筋接合部、自律神経節、神経節後の副交感神経末端からのアセチルコリン放出の阻害により、弛緩性麻痺を生じ、種々の症状(全身の違
和感、複視、眼瞼下垂、嚥下困難、口渇、便秘、脱力感、筋力低下、呼吸困難など)が出現し、適切な治療を施さない重症患者では死亡する場合がある。発症機
序の違いにより、1) 食餌性ボツリヌス症(ボツリヌス中毒)(食品中でボツリヌス菌が増殖して産生された毒素を経口的に摂取することによって発症)、2)
乳児ボツリヌス症(1歳以下の乳児が菌の芽胞を摂取することにより、腸管内で芽胞が発芽し、産生された毒素の作用によって発症)、3) 創傷ボツリヌス症(創傷部位で菌の芽胞が発芽し、産生された毒素により発症)、4)
成人腸管定着ボツリヌス症(ボツリヌス菌に汚染された食品を摂取した1歳以上のヒトの腸管に数ヶ月間菌が定着し毒素を産生し、乳児ボツリヌス症と類似の症
状が長期にわたって持続する)の4つの病型に分類される。
マラリア:マラリアはPlasmodium 属原虫のPlasmodium vivax(三日熱マラリア原虫)、Plasmodiumfalciparum(熱帯熱マラリア原虫)、Plasmodium
malariae (四日熱マラリア原虫)、Plasmodiumovale(卵形マラリア原虫)などの単独または混合感染に起因する疾患であり、特有の熱発作、貧血および
脾腫を主徴とする。最も多い症状は発熱と悪寒で、発熱の数日前から全身倦怠や背痛、食欲不振など不定の前駆症状を認めることがある。熱発は間隔をあけて発
熱期と無熱期を繰り返す。発熱期は悪寒を伴って体温が上昇する悪寒期(1-2時間)と、悪寒がとれて熱感を覚える灼熱期(4-5時間)に分かれる。典型的
には三日熱及び四日熱マラリアでは悪寒期に戦慄を伴うことが多い。発熱期には頭痛、顔面紅潮や嘔気、関節痛などを伴う。その後に発汗・解熱し、無熱期へ移
行する。発熱発作の間隔は虫種により異なり、三日熱と卵形マラリアで48 時間、四日熱マラリアで72 時間である。熱帯熱マラリアでは36?48 時間、あるいは不規則となる。他の症状としては脾腫、貧血、血小板減少、低血糖、腎肺機能不全、錯乱などがあげられるが、原虫種、血中原虫数及び患者の免
疫状態によって異なる。未治療の熱帯熱マラリアは急性の経過を示し、中枢神経(マラリア脳症)、急性腎不全、重度の貧血、DIC や肺水腫を併発して発病数日以内に重症化し、致死的となる。
野兎病:野兎病菌(Francisella tularensis )による発熱性疾患である。哺乳類の100種以上、鳥類30種以上、両生類、魚類、更に約100種類の節足動物から菌検出例が報告されている。野生鳥獣類
の間で、吸血性節足動物(ダニ類や昆虫類)をベクターとして維持されている。保菌動物の解体や調理の時の組織あるいは血液との接触、あるいはマダニ、アブ
など節足動物の刺咬により感染する。また、汚染した生水からも感染する。ヒトは感受性が高く、健康な皮膚からも感染する。ヒトからヒトへの感染の報告はな
い。潜伏期間は3日をピークとする1-7日である。初期症状は菌の侵入部位によって異なり、潰瘍リンパ節型、リンパ節型、眼リンパ節型、肺炎型などがあ
る。一般的には悪寒、波状熱、頭痛、筋肉痛、所属リンパ節の腫脹と疼痛などの症状がみられる。
ライム病:マダニ(Ixodes 属)刺咬により媒介されるスピロヘータ(ライム病ボレリア;Borreliaburgdorferi sensulato)感染症である。北米、欧州、ロシア、本邦を含む極東地域で広くみられ、患者は皮膚症状、神経症状、心筋炎など多様な症状を示す。本邦
では国内例、輸入例ともに見られる。感染初期(stage I)には、マダニ刺咬部を中心として限局性に特徴的な遊走性紅斑を呈することが多い。随伴症状として、筋肉痛、関節痛、頭痛、発熱、悪寒、倦怠感などのイ
ンフルエンザ様症状を伴うこともある。紅斑の出現期間は数日から数週間といわれ、形状は環状紅斑または均一性紅斑がほとんどである。播種期(stage
II)には、体内循環を介して病原体が全身性に拡散する。これに伴い、皮膚症状、神経症状、心疾患、眼症状、関節炎、筋肉炎など多彩な症状が見られる。感
染から数カ月ないし数年を経て、慢性期(stage III)に移行する。患者は播種期の症状に加えて、重度の皮膚症状、関節炎などを示すといわれる。本邦では、慢性期に移行したとみられる症例は現在のとこ
ろ報告されていない。症状としては、慢性萎縮性肢端皮膚炎、慢性関節炎、慢性脳脊髄炎などがあげられる。
リッサウイルス感染症:狂犬病ウイルスを除くリッサウイルス属のウイルスによる感染症であ る。主にヨーロッパ、オーストラリア、アフリカに分布している。本ウイルスを保有する野生のコウモリとの接触により感染すると考えられている。リッサウイ
ルス感染症の中で最も患者発生数が多いのは狂犬病(狂犬病の項を参照)で、それ以外のリッサウイルス感染症の情報は非常に少ない。潜伏期間は狂犬病ウイル
スに準じた期間と考えられる(20-90日が基本的な潜伏期間。咬傷部位や数によって潜伏期間も異なってくると思われる)。臨床症状としては、頭痛、発
熱、倦怠感、創傷部位の知覚過敏や疼痛を伴う場合があり、興奮、恐水症状、精神錯乱などの中枢神経症状を伴う場合もある。一般的に、発症後2週間以内に死
亡する。

レジオネラ症:Legionella 属菌(Legionella pneumophila)が原因で起こる感染症の総称である。在郷軍人病(レジオネラ肺炎)とポンティアック熱が主要な病型である。免疫不全者に感染する
と、時に心内膜炎や腹膜炎など全身の化膿性病変を起こす。臨床症状で他の細菌性肺炎と区別することは困難である。
レプトスピラ症:病原性レプトスピラ(Leptospira interrogans など)により生じ、黄疸・出血・腎障害などを主徴とする重症型のものから、軽症のものまで、多様な症状を示す急性の熱性疾患である。病原性レプトスピラに
は230 種以上の血清型が存在する。病原性レプトスピラを保有しているネズミ・イヌ・ウシ・ウマ・ブタなどの尿で汚染された下水や河川、泥などにより経皮的に、時
には汚染された飲食物の摂取により経口的にヒトに感染する。重症型の黄疸出血性レプトスピラ病(ワイル病)と、軽症型の秋季レプトスピラ病やイヌ型レプト
スピラ病などがある。ワイル病は黄疸・出血・蛋白尿を主徴とし、最も重篤である。潜伏期間は3-14 日で、突然の悪寒・戦慄・高熱、筋肉痛、眼球結膜の充血が生じ、4-5病日後、黄疸や出血傾向が増強する場合もある。

*動物、飲食物等の物件を介 して感染し、国民の健康に影響を与えるおそれがある感染症(人から人への伝染はない)。
*媒介動物の輸入規制、消毒、物件の排気筒の物的措置が必要。[主な対応・措置]

*感染症発生状況の収集、分析とその結果の公開、提供。

医師の届出:直ちに
(政令)

五類感染症 アメーバ赤痢:赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)の感染に起因する疾患で、消化器症状を主症状とするが、それ以外の臓器にも病変を形成する。病型は腸管アメーバ症と腸管外アメー
バ症に大別される。腸管アメーバ症は下痢、粘血便、しぶり腹、鼓腸、排便時の下腹部痛あるいは不快感などの症状を伴う慢性腸管感染症であり、典型的にはイ
チゴゼリー状の粘血便を排泄するが、数日から数週間の間隔で憎悪と寛解をくり返すことが多い。潰瘍の好発部位は盲腸から上行結腸にかけてとS字結腸から直
腸にかけての大腸である。まれに肉芽腫性病変が形成されたり潰瘍部が壊死性に穿孔することもある。腸管外アメーバ症は多くは腸管部よりアメーバが血行性に
転移することによるが、肝膿瘍が最も高頻度にみられる。成人男性に多い。発熱(38-40℃)、季肋部痛、嘔気、嘔吐、体重減少、寝汗、全身倦怠などを伴
う。膿瘍が破裂すると腹膜、胸膜や心外膜にも病変が形成される。その他、皮膚、脳や肺に膿瘍が形成されることがある。*ウイルス性肝炎(E型肝炎及びA型肝炎を除く):ウイルス感染が原因と考えられる急性肝炎 (B 型肝炎、C 型肝炎、その他のウイルス性肝炎)である。慢性肝疾患、無症候性キャリア及びこれらの急性増悪例は含まない。一般に全身倦怠感、感冒様症状、食思不振、悪
感、嘔吐などの症状で急性に発症して、数日後に褐色尿や黄疸をともなうことが多い。発熱、その他の全身症状を呈する発病まもない時期には、感冒あるいは急
性胃腸炎などと類似した症状を示す。臨床病型は、黄疸をともなう定型的急性肝炎のほかに、顕性黄疸を示さない急性無黄疸性肝炎、高度の黄疸を呈する胆汁
うっ滞性肝炎、急性肝不全症状を呈する劇症肝炎などに分類される。
急性脳炎(ウエストナイル脳炎及び日本脳炎を除く):ウイルスなど種々の病原体の感染によ る脳実質の感染症である。ただし、病原体が特定され、他の届出基準に含まれるものを除く。炎症所見が明らかではないが同様の症状を呈する脳症もここには含
まれる。多くは何らかの先行感染を伴い、高熱に続き意識障害やけいれんが突然出現し、持続する。髄液細胞数が増加しているものを急性脳炎、正常であるもの
を急性脳症と診断することが多いが、その臨床症状に差はない。
クリプトスポリジウム症:クリプトスポリジウム属原虫(Cryptosporidium spp.)のオーシストを経口接種することによる感染症である。潜伏期は4-5日ないし10
日程度と考えられ、無症状のものから、食思不振、嘔吐、腹痛、下痢(水様性下痢や粘血便)などを呈するものまで様々である。患者の免疫力が正常であれば通
常は数日間で自然治癒するが、エイズなどの各種の免疫不全者には重篤な感染を起こすことがあり、1日に3-5リットル、時に10 リットルをこえる下痢によって脱水死することもある。
クロウイツフェルト・ヤコブ病:クロイツフェルト・ヤコブ病(以下、「CJD」という。) は、脳内に異常なプリオン蛋白(蛋白性感染粒子、プリオン、proteinaceous
infectious particle、prion)が蓄積し、脳が海綿状となる「伝達性海綿状脳症(transmissible spongiform
encephalopathy、TSE)」又は「プリオン病」と呼ばれる疾患の代表的な疾患。本疾患の有病率は100 万人に1人前後、その8割は孤発性CJD
で、地域差、男女差はない。発病は50-70 歳代が多い。約2割に遺伝性CJD があり、発病が早い(40 歳代)ものもある。また、医原性感染が疑われるものに、ヒト由来脳下垂体製剤(成長ホルモン等)、ヒト乾燥硬膜移植等がある。孤発性CJD
では、初老期以降に不定の精神・神経症状が生じ、急速に憎悪し、数ヶ月で無動性無言状態となり、全経過は1-2年といわれている。家族性CJD では、プリオン蛋白遺伝子の変異に応じて臨床症状、経過が異なる。この場合は、静脈血から遺伝子診断が可能である。新変異型CJDは、近年、英国で報告さ
れ、20 歳代の若年に発症し、不安、感覚障害等で初発し、経過が従来のCJD よりやや長い。この新変異型CJD は、異常なプリオン蛋白の泳動パターンが牛海綿状脳症(狂牛病)のものと類似していることが指摘されている。この他、亜型として、GSS(ゲルストマン・
ストロイスラー・シャインカー症候群、GerstmannStrausslerScheinkersyndrome)、FFI(致死性家族性不眠症、
Fatal Familial Insomnia)がある。
劇症型溶血性レンサ球菌感染症:突発的に発症し、急激に進行するA群レンサ球菌による敗血 症性ショック病態である。初発症状は咽頭痛、発熱、消化管症状(食欲不振、嘔気、嘔吐、下痢)、全身倦怠感、低血圧などの敗血症症状、筋痛などであるが、
明らかな前駆症状がない場合もある。後発症状としては軟部組織病変、循環不全、呼吸不全、血液凝固症状、腎肝症状など多臓器不全を来し、日常生活を営む状
態から24 時間以内に多臓器不全が完結する程度の進行を示す。A群レンサ球菌による軟部組織炎、壊死性筋膜炎、上気道炎・肺炎、産褥熱は現在でも致命的となりうる疾
患である。

後天性免疫不全症候群:レトロウイルスの一種であるヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus; HIV)の感染によって免疫不全が生じ、日和見感染症や悪性腫瘍が合併した状態。感染からエイズ発症まで通常約10
年の無症候期がある。感染症新法における発生動向調査においては、HIV 感染症を診断した時点から報告することが求められている。HIV に感染した後、CD4
陽性リンパ球数が減少し、無症候性の時期(無治療で約10 年)を経て、生体が高度の免疫不全症に陥り、日和見感染症や悪性腫瘍が生じてくる[サーベイランスのためのHIV
感染症/AIDS 診断基準(厚生省エイズ動向委員会、1999)抜粋]。
ジアルジア症:ジアルジア(消化管寄生虫鞭毛虫の一種)による原虫感染症である。糞便中に 排出された原虫により食物や水が汚染されることによって経口感染を起こす。糞便中に排出された原虫により食物や水が汚染されることによって経口感染を起こ
す。健康な者の場合には無症状のことも多いが、食欲不振、腹部不快感、下痢等の症状を示すこともあり、免疫不全者では重篤となることもある。
髄膜炎菌性髄膜炎:Neisseria meningitidis による急性化膿性髄膜炎で、ヒトからヒトへ飛沫感染し、ときに流行性発症があるので流行性髄膜炎ともいわれる。突然の発症がみられ(潜伏期は2-4日)、
髄膜炎症状(頭痛、発熱、痙攣、意識障害、髄膜刺激症状、乳児では大泉門膨隆)を示す。点状出血斑がみられることもある。敗血症例ではショックならびに
DIC を来し(WaterhouseFriderichsen症候群)、細菌性の関節炎を伴うこともある。世界各地に散発性または流行性に発生し、温帯では寒い
季節に、熱帯では乾季に多発する。本邦では稀である。
先天性風しん症候群:風しんウイルスの経胎盤感染によって起こる先天異常である。先天異常 の発生は妊娠週齢と明らかに相関し、妊娠12 週までの妊娠初期の初感染に最も多くみられ、20
週を過ぎるとほとんどなくなる。三徴は、難聴、白内障、動脈管開存症であるが、その他知能障害、小頭症、緑内障、角膜混濁、脈絡網膜炎、小眼球、斜視、心
室中隔欠損症などを来しうる。
梅毒:スピロヘータの一種である梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum )の感染によって生じる性感染症である。I期梅毒として感染後3-6週間の潜伏期の後に、感染局所に初期硬結や硬性下疳、無痛性のそけい部リンパ節腫脹が
みられる。II期梅毒では、感染後3カ月を経過すると皮膚や粘膜に梅毒性バラしんや丘しん性梅毒しんなどの特有な発しんが見られる。感染後3年以上を経過
すると晩期顕症梅毒としてゴム腫、梅毒によると考えられる心血管症状、神経症状、眼症状などが認められることがある。なお、感染していても臨床症状が認め
られない無症候梅毒もある。先天梅毒は、梅毒に罹患している母体から出生した児で、胎内感染を示す検査所見のある症例、II期梅毒しん、骨軟骨炎など早期
先天梅毒の症状を呈する症例、乳幼児期は症状を示さずに経過し学童期以後にHutchinson3徴候(実質性角膜炎、内耳性難聴、Hutchinton
歯)などの晩期先天梅毒の症状を呈する症例がある。

破傷風:破傷風毒素を産生する破傷風菌(Clostridium tetani)が、外傷部位などから組織内に侵入し、嫌気的な環境下で増殖した結果産生される破傷風毒素による神経刺激伝達障害を起こす。外傷部位などで
増殖した破傷風菌が産生する毒素により、運動神経終板、脊髄前角細胞、脳幹の抑制性の神経回路が遮断され、感染巣近傍の筋肉のこわばり、顎から頚部のこわ
ばり、開口障害、四肢の強直性痙攣、呼吸困難(痙攣性)、刺激に対する興奮性の亢進、反弓緊張(opisthotonus)などの症状が出現する。
バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌感染症:獲得型バンコマイシン耐性遺伝子を保有し、バン コマイシン耐性を示す黄色ブドウ球菌による感染症である。バンコマイシンの長期間投与を受けた患者の検体などから検出される可能性がある。
バンコマイシン耐性腸球菌感染症: バンコマイシン耐性遺伝子(vanA, vanB など)を保有する腸球菌(VRE)による感染症である。主に悪性疾患などの基礎疾患を有する易感染状態の患者において、日和見感染症や術後感染症、カテー
テル性敗血症(line sepsis)などを引き起こす。発熱やショックなどの症状を呈し、死亡することもある。

* 国が感染症の発生動向調査を行い、その結果等に基づいて必要な情報を国民一般や医療関係者に情報提供・公開していくことによって、発生・まん延を防止すべ
き感染症。
[主な対応・措置]
後天性免疫不全症候群、梅毒、マラリアその他厚生労働省令で定めるものの患者。但し、後天性免 疫不全症候群、梅毒その他厚生労働省令で定める感染症については、無症状病原体保有者を含む。
医師の届出:7日以 内
(省令)
□ペニシリン耐性肺炎球菌感染症、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症又は薬剤耐性緑膿菌感染 症に係るものにあっては、診断した日の属する月の翌月の初日に最寄りの保健所に届出。
五類感染症
・定点把握対象
RSウイルス感染症:RSウイルス(respiratory syncytial virus)による急性呼吸器感染症である。乳児期の発症が多く、特徴的な病像は細気管支炎、肺炎である。2日-1週間(通常4-5日)の潜伏期間の後
に、初感染の乳幼児では上気道症状(鼻汁、咳など)から始まり、その後下気道症状が出現する。38-39 度の発熱が出現することがある。25-40%の乳幼児に気管支炎や肺炎の兆候がみられる。1歳未満、特に6ヵ月未満の乳児、心肺に基礎疾患を有する小児、
早産児が感染すると、呼吸困難などの重篤な呼吸器疾患をひき起こし、入院、呼吸管理が必要となることがある。乳児では、細気管支炎による喘鳴(呼気性喘
鳴)が特徴的である。その後、多呼吸、陥没呼吸などの症状あるいは肺炎を認める。新生児期あるいは生後2-3か月未満の乳児では、無呼吸発作の症状を呈す
ることがある。再感染の幼児の場合には、細気管支炎や肺炎などは減り、上気道炎が増える。中耳炎を合併することもある。
咽頭結膜熱:発熱・咽頭炎および結膜炎を主症状とする急性のアデノウイルス感染症である。 潜伏期は5-7日、症状は発熱、咽頭炎(咽頭発赤、咽頭痛)、結膜炎が3主症状である。アデノウイルス3型が主であるが、他に7、11、4型なども本症を
起こす。発生は年間を通じてみられるが、さまざまの規模の流行的発生をみる。とくに夏季、プールを介して流行的発生をみるので、プール熱の病名がある。
A群溶血性レンサ球菌咽頭炎:レンサ球菌のうち、Lancefield の血清型分類のA群に分類されるものによる上気道感染症である。乳幼児では咽頭炎、年長児や成人では扁桃炎が現れ、発赤毒素に免疫のない人は猩紅熱といわ
れる全身症状を呈する。気管支炎を起こすことも多い。リウマチ熱や急性糸球体腎炎などの二次疾患を起こすこともある。
感染性胃腸炎:細菌あるいはウイルスなどの感染性病原体による嘔吐、下痢を主症状とし、そ の結果種々の程度の脱水、電解質喪失症状、全身症状が加わるものである。1才以下の乳児は症状の進行が早い。乳幼児に好発し、主症状は嘔吐と下痢である
が、嘔吐または下痢のみの場合、嘔吐の後下痢がみられる場合とさまざまで、症状の程度にも個人差がある。37-38℃の発熱がみられることもある。年長児
では嘔気や腹痛がしばしばみられる。嘔吐や下痢、発熱で脱水症状を来すことがあるので注意が必要である。原因はウイルス感染(ロタウイルス、小型球形ウイ
ルス(SRSV)など)が多く、毎年秋から冬にかけて流行する。また、エンテロウイルス、アデノウイルスによるものや細菌性のものもみられる。*水痘:水痘・帯状疱しんウイルスの初感染による感染症である。冬から春の感染症であるが、 年間を通じて患者の発生をみる。飛沫あるいは接触感染で感染し、潜伏期は2-3週間である。乳幼児や学童いずれの年齢でも罹患する。母子免疫は麻しんほど
強力ではなく、新生児も罹患することがある。症状は発熱と発しんである。それぞれの発しんは紅斑、紅丘しん、水疱形成、痂皮化を順次約3日で経過するが、
次々の発しんが出現するので新旧種々の段階の発しんが同時に混在する。発しんは体幹に多発し、四肢に少ない。発しんは頭皮及び粘膜にも出現する。健康児の
罹患は軽症で予後は良好であるが、免疫不全状態の小児の罹患は重症で、致死的経過をとることもある。
手足口病:主として乳幼児にみられる手、足、下肢、口腔内、口唇に小水疱が生ずる伝染性の ウイルス性感染症である。コクサッキーA16 型、エンテロウイルス71
型のほか、コクサッキーA10 型その他によっても起こることが知られている。典型的なものでは、軽い発熱、食欲不振、のどの痛み等で始まり、発熱から2日ぐらい過ぎた頃から、手掌、足
底にやや紅暈を伴う小水疱が多発し、舌や口腔粘膜に浅いびらんアフタを生じる。この水疱はやや楕円形を呈し、殿部、膝部などに紅色の小丘しんが散在するこ
ともある。皮しんは1週間から10 日で自然消退するが、ごくまれに髄膜炎や脳炎などが生じることがあるので、発熱や嘔吐、頭痛などがある場合は注意を要する。
伝染性紅斑:ヒトパルボウイルスB19 型の感染による紅斑を主症状とする発しん性疾患である。幼少児(2-12 歳)に多いが、乳児、成人が罹患することもある。潜伏期は4-15
日。顔面、とくに頬部に境界明瞭な紅斑が突然出現し、鼻背で融合して蝶型の紅斑になる。つづいて四肢に対側性に小紅斑が出現し、環状又は融合して地図状に
なる。消退後さらに日光照射、外傷などによって再度出現することがある。発しんの他に発熱、関節痛、咽頭痛、鼻症状、胃腸症状、粘膜しん、リンパ節腫脹、
関節炎を合併することがある。予後は通常、良好である。
突発性発しん:乳幼児がヒトヘルペスウイルス6、7型の感染による突然の高熱と解熱前後の 発しんを来す疾患である。乳児期とくに6-18 カ月の間に罹患することが多い。突然、高熱で発症、不機嫌で大泉門の膨隆をみることがある。咽頭部の発赤、とくに口蓋垂の両側に強い斑状発赤を認めること
がある。軟便もしくは下痢を伴うものが多く、発熱は3-4日持続した後に解熱する。解熱に前後して紅色の丘しんが出現し、散在性、時に斑状融合性に分布す
る。発しんは体幹から始まり上肢、頚部の順に広がるが、顔面、下肢には少ない。発しんは1-2日で消失する。
百日咳:Bordetella pertussis によって起こる急性の気道感染症である。かぜ様症状で始まるが、次第に咳が著しくなり百日咳特有の咳が出始める。この咳込みは、顔を真っ赤にしてコンコン
と激しく咳込み、最後にヒューッと音を立てて大きく息を吸う発作でレプリーゼと呼ばれる。嘔吐も伴い、眼瞼の浮腫や顔面の点状出血がみられることがある。
乳児では重症になり、特に新生児がかかると無呼吸となり、致死的となることがある。

風しん:風しんウイルスによる急性発しん性疾患である。潜伏期は2-3週間で、 経気道飛沫感染により、冬から春に流行する。症状は、斑状の紅丘しん、リンパ節腫脹(全身とくに頚部、後頭部、耳介後部)、発熱を三主徴とする。リンパ節
腫脹は発しん出現数日前に出現し、3-6週間で消退する。発熱は38-39℃で3日程度続くため、三日はしかの病名があるが、無熱のものも存在する。妊婦
の風しん感染が、先天性風しん症候群(出生児に白内障、心疾患、難聴などを来す)の原因となることがある。
ヘルパンギーナ:コクサッキーウイルスA群による口峡部に特有の小水疱と発熱を主症状とす る夏かぜの一種である。潜伏期は2-4日、初夏から秋にかけて、乳幼児に多い。突然の38-40℃の発熱が1-3日間続き、全身倦怠感、食欲不振、咽頭
痛、嘔吐、四肢痛などがある場合もある。咽頭所見は、軽度に発赤し、口蓋から口蓋帆にかけて1-5mmの小水疱、これから生じた小潰瘍、その周辺に発赤を
伴ったものが数個認められる。コクサッキーウイルスA群1-10、17、22 型、まれにコクサッキーウイルスB群、エコーウイルスも病原として分離されることがある。
麻しん(成人麻しんを除く):麻しんウイルスによる赤い発しんを呈する急性発しん性疾患で あり、ここでは成人を除く。潜伏期は9-11 日であり、症状はカタル期(2-4日)には38℃前後の発熱、咳、鼻汁、くしゃみ、結膜充血、眼脂、羞明などであり、熱が下降した頃に頬粘膜にコプリック
斑が出現する。発しん期(3-4日)には一度下降した発熱が再び高熱となり(39-40℃)、特有の発しんが出現する。発しんは耳後部、頚部、顔、体幹、
上肢、下肢の順に広がる。回復期(7-9日)には解熱し、発しんは消退し、色素沈着を残す。
流行性耳下腺炎:ムンプスウイルス感染による耳下腺の腫脹する感染症である。上気道を介す る飛沫感染をし、好発年齢は乳児や学童である。潜伏期は2-3週間で、両側又は片側の耳下腺が腫脹し、ものを噛むときに顎に痛みを訴えることが多い。この
とき数日の発熱を伴うものが多い。耳下腺腫脹は有痛性で、境界不鮮明な柔らかい腫脹が耳朶を中心として起こる。他の唾液腺の腫脹をみることもある。耳下腺
開口部の発赤が認められるが、膿汁の排泄はない。合併症としては、髄膜炎、脳炎、膵炎、難聴などがあり、その他成人男性には睾丸炎、成人女子には卵巣炎が
みられることがある。
インフルエンザ(高病原性鳥インフルエンザを除く):インフルエンザウイルス感染による急 性気道感染症である。上気道炎症状に加えて、突然の高熱、全身倦怠感、頭痛、筋肉痛を伴うことを特徴とする。流行期(我が国ではおおむね例年11
月?3月)にこれらの症状のあったものはインフルエンザと考えられるが、非流行期での臨床診断は困難である。

急性出血性結膜炎:エンテロウイルス70 型及びコクサッキーウイルスA24 亜型の感染によって起こる急性結膜炎である。潜伏期は1日で強い眼の痛み、異物感で始まり、結膜の充血、とくに結膜下出血を伴うことが多い。眼瞼の腫脹、
眼脂、結膜浮腫、角膜表層のび慢性混濁などがみられ眼痛、異物感がある。約1週間続いて治癒することが多いが、この疾患に罹患したのち6-12 カ月後に四肢の運動麻痺を来すことがある。
流行性角結膜炎:アデノウイルス8、19、37、4型などによる眼感染症である。約1-2 週間の潜伏期の後、急性濾胞性結膜炎の臨床症状を示して発病する。結膜の浮腫や充血、眼瞼浮腫が強く、流涙や眼脂を伴う。耳前リンパ節の腫脹と圧痛を来
す。角膜にはび慢性表層角膜症がみられ、異物感、眼痛を訴えることがある。偽膜を伴うことも多い。発病後2-3 週間で治癒することが多い。
性器クラミジア感染症:Chlamydia trachomatis による性感染症である。男性では、尿道から感染して急性尿道炎を起こすが、症状は淋菌感染症よりも軽い。さらに、前立腺炎、副睾丸炎を起こすこともある。
女性では、まず子宮頚管炎を起こし、その後、感染が子宮内膜、卵管へと波及し、子宮内膜炎、卵管炎、骨盤内感染、肝周囲炎を起こす(しかし女性の場合、症
状が軽く自覚のないことも多い)。また、子宮外妊娠、不妊、流早産の誘因ともなる。妊婦が感染している場合には、主として産道感染により、新生児に封入体
結膜炎を生じさせることがある。また、1-2カ月の潜伏期を経て、乳幼児の肺炎を引き起こすことがある。淋菌との混合感染も多く、淋菌感染症の治癒後も尿
道炎が続く場合にはクラミジア感染症が疑われる。
性器ヘルペスウイルス感染症:単純ヘルペスウイルス(HSV1型または2型)が感染し、性 器またはその付近に発症したものを性器ヘルペスという。性器ヘルペスは、外部から入ったウイルスによる初感染の場合と仙髄神経節に潜伏しているウイルスの
再活性化による場合の二つがある。初感染では、感染後3-7日の潜伏期の後に外陰部に小水疱または浅い潰瘍性病変が数個ないし集簇的に出現する。発熱など
の全身症状を伴うことが多い。2-4週間で自然に治癒するが、治癒後も月経、性交その他の刺激が誘因となって、再発を繰り返す。再発しんは外陰部のほか、
臀部、大腿にも生じる。病変部位は男性では包皮、冠状溝、亀頭、女性では外陰部や子宮頚部である。HSV2 型による場合はより再発しやすい。
尖圭コンジローマ:尖形コンジローマは、ヒトパピローマウイルス(ヒト乳頭腫ウイルス、 HPV)の感染により、性器周辺に生じる腫瘍である。ヒトパピローマウイルスは80
種類以上が知られているが、尖形コンジローマの原因となるのは主にHPV6型とHPV11 型であり、時にHPV16 型の感染でも生じる。感染後、数週間から2-3カ月を経て、陰茎亀頭、冠状溝、包皮、大小陰唇、肛門周囲等の性器周辺部に、イボ状の小腫瘍が多発する。腫
瘍は、先の尖った乳頭状の腫瘤が集簇した独特の形をしており、乳頭状、鶏冠状、花キャベツ状等と形容される。尖形コンジローム自体は、良性の腫瘍であり、
自然に治癒することも多いが、時に癌(悪性の腫瘍)に移行することが知られている。特に、HPV16、52、58、18 型などに感染した女性の場合、子宮頚部に感染し、子宮頚癌の発癌要因になると考えられている。

淋菌感染症:淋菌(Neisseria gonorrheae)による性感染症である。男性は急性前部尿道炎として発症するのが一般的であるが、放置すると前立腺炎、副睾丸炎となる。後遺症とし
て尿道狭窄が起こる。女子は子宮頚管炎を起こすが、自覚症状のない場合が多い。感染が上行すると子宮内膜炎、卵管炎、骨盤内感染症を起こし、発熱、下腹痛
を来す。後遺症として不妊症が起きる。その他、喉頭や直腸などへの感染や新生児結膜炎などもある。
クラミジア肺炎(オウム病を除く):Chlamydia trachomatis, Chlamydia pneumoniae の感染による肺炎である。いずれも発熱に乏しい下気道感染症である。Chlamydia
trachomatis は新生児乳児に多く、主に産道感染で間質性肺炎像を呈することが多く、C. pneumoniae は飛沫感染により異型肺炎像を呈することが多い。
細菌性髄膜炎:種々の細菌感染による髄膜の感染症である。発熱、頭痛、嘔吐を主な特徴とす る。項部硬直、Kernig 徴候、Brudzinski 徴候などの髄膜刺激症状が見られることがあるが、新生児や乳児などではこれらの臨床症状が明らかではないことが多い。
ペニシリン耐性肺炎球菌感染症:ペニシリンGに対して耐性のある肺炎球菌による感染症であ る。小児及び成人の化膿性髄膜炎や中耳炎で検出されるが、その他、副鼻腔炎、耳炎、髄膜炎、心内膜炎、心嚢炎、腹膜炎、関節炎、髄膜炎、まれには尿路生殖
器感染から菌血症を引き起こすこともある。
マイコプラズマ肺炎:Mycoplasma pneumoniae の感染によって発症する肺炎である。好発年齢は、6-12 歳の小児であり、小児では発生頻度の高い感染症の一つである。潜伏期は2-3週間とされ、飛沫で感染する。異型肺炎像を呈することが多い。頑固な咳嗽と発
熱を主症状に発病し、中耳炎、胸膜炎、心筋炎、髄膜炎などの合併症を併発する症例も報告されている。

成人麻しん:18 歳以上の成人に見られる急性麻しんウイルス感染症である。小児の麻しんと同様で、発熱、カタル症状、咳嗽、コプリック斑、色素沈着を残す発しんが特徴であ
る。
無菌性髄膜炎:種々のウイルス感染による髄膜の感染症である。発熱、頭痛、嘔吐を主な特徴 とするが、新生児や乳児などでは臨床症状が明らかではないことが多い。項部硬直、Kernig
徴候、Brudzinski 徴候などの髄膜刺激症状が見られるが同じく新生児や乳児などではこれらが明らかではないことも多い。
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症:メシチリンなどのペニシリン剤をはじめとして、β- ラクタム剤、アミノ配糖体剤、マクロライド剤などの多くの薬剤に対し多剤耐性を示す黄色ブドウ球菌による感染症である。外科手術後の患者や免疫不全者、長
期抗菌薬投与患者などに日和見感染し、腸炎、敗血症、肺炎などを来し、突然の高熱、血圧低下、腹部膨満、下痢、意識障害、白血球減少、血小板減少、腎機能
障害、肝機能障害などの症状を示す。
薬剤耐性緑膿菌感染症:ペニシリン剤、β-ラクタム剤等多くの薬剤に対して耐性を示す緑膿 菌による感染症である。感染防御機能の低下した患者や抗生物質長期使用中の患者に日和見感染し、敗血症や骨髄、気道、尿路、皮膚、軟部組織、耳、眼などに
多彩な感染症を起こす。

[DID-0062.INF:2000.9.4.古泉秀夫・2003.12.9.改訂]


  1. 桜山豊夫:感染症予防新法の概要;都薬雑誌,20(8):4-8(1998)
  2. 基本医療六法 平成12年版;中央法規,2000
  3. 厚生省保健医療局結核感染症課・監修:改訂・感染症マニュアル;株式会社マイガイア,1999
  4. 森 良一・他編:戸田新細菌学;南山堂,1985
  5. 改正感染症法・検査法が施行される;日本医事新報,No.4150:72-73(2003.11.8.)
  6. 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律及び検疫法の一部を改正する法律:官報号外第239号;24(平成15年10月16 日)

横紋筋融解症を惹起する薬剤

木曜日, 8月 16th, 2007

横紋筋融解症は、骨格筋細胞の融解、壊死により筋体成分が血液中に流出した病態である。その際、流出した大量のミオグロビンにより尿細管に負荷がかか るため、急性腎不全を併発することが多い。また、稀ではあるが、呼吸器筋が障害され、呼吸困難になる場合もあるとする報告が見られる。

従って血液透析などの適切な処置が必要となる。初期症状に気付いた場合、直ちに服用を中止し、主治医に受診する。

発症時の自覚症状として『四肢の脱力感、腫脹、しびれ、痛み、赤褐色尿(ミオグロビン尿)などがあり、これに腎不全症状として無尿、乏尿が見られる場合もある。発症 は急性、亜急性、緩徐発症を示し、筋痛、筋力低下は、下肢、大腿部等に局限することが多いが、全身性のこともあり、呼吸筋、嚥下筋が障害される場合もある。症状として歩行障害、運動障害、呼吸障害、意識障害等様々な症状を呈することがある。検査所見として 『ミオグロビン、CPK等の筋逸脱酵素の急激な上昇』が認められる。

横紋筋融解症を発現する薬剤としては、高脂血症治療剤やニューキノロン系薬剤 などがよく知られているが、最近ではそれ以外にも多種多様な薬剤による横紋筋融解症の報告が続いている。ここの薬剤による横紋筋融解症発現のメカニズムは明確でないものが多いが、直接的な筋障害を起こす可能性の低い薬剤であっても、低リン血症、低K血症、糖尿病性ケトアシドーシスなどの代謝障害や悪性高体温、痙攣発作などを誘発する薬剤は、二次的に横紋筋融解症を発現する可能性があるため、注意が必要である。

対処法

横紋筋融解症の症例の多くは、入院加療が必要となる。速やかな対応(薬剤の中 止、輸液療法、血液透析等)により筋力の回復、腎機能の回復が見られるが、腎不全が進行し透析導入に至った事例もある。また、高カリウム血症による死亡例も報告されているとの報告が見られる。

副作用として横紋筋融解症の発現が添付文書に記載されている薬剤を服用中の患 者では、次の点に注意するよう前もって患者に伝えておく。

『手足がしびれる、手足に力が入らない、手足・肩・腰・全身の筋肉が痛んだり、こわばったりする。又は全身がだるい、尿の色が赤褐色になる』な どの症状に気付かれた場合には、服薬を中止し、直ちに主治医に受診すること。

[分類]一般名・商 品名(会社名) 発生頻度 概要
[394]allopurinol
ザイロリック錠(GSK)
横紋筋融解症 *発症機序不明。 allopurinolはキサンチンの尿酸への転換を阻害するので、キサンチンの尿中排泄が増加する。その結果、尿路系・筋肉内にキサンチン結晶形成の危
険性を生じうるとされており、過剰のキサンチンが影響する可能性。
[218]aluminium clofibrate
アルフィブレートカプセル(日研)
横 紋筋融解症 * フィブラート系薬剤で、腎機能障害を有する患者において横紋筋融解症が発現し、急激に腎機能が悪化。
*HMG-CoA還元酵素阻害薬では服用後1年以内の発症が殆どであり、4カ月以内が50%以上とする報告が見られる。
*発症原因として、薬剤の筋への直接的障害と薬剤により誘発された低K血症、痙攣発作などが原因する二次的なものが考えられている。高脂血症薬では、筋細
胞膜中のコレステロール含量低下、細胞中ユビキノンの低下、膜のClイオンの透過性低下が考えられている。
[218]atorvastatin calcium hydrate
リピトール錠(アステラス)
[211]aminophylline
ネオフィリン末・錠・注
(エーザイ)
横紋筋融解症 *発症原因として、薬剤の筋 への直接的障害と薬剤により誘発された低K血症、痙攣発作などが原因する二次的なものが考えられている。キサンチン系薬剤では、細胞内カルシウムイオンの
流入増加などが関与していると報告されている。
[218]bezafibrate
ベザトールSR(キッセイ)
横紋筋融解症0.01%又は 0.1% *発症原因として、薬剤の筋 への直接的障害と薬剤により誘発された低K血症、痙攣発作などが原因する二次的なものが考えられている。高脂血症薬では、筋細胞膜中のコレステロール含量
低下、細胞中ユビキノンの低下、膜のClイオンの透過性低下が考えられている。
*服用後1日?2年の間での発症が報告されている。2週間以内が50%以上の報告。
[117]bromperidol
インプロメン錠
(三菱ウェルファーマ)
横紋筋融解症(自主報告6 例) *発症機序不明。抗精神病薬 投与中に発症する横紋筋融解症には、抗精神病薬の過量投与、薬剤による直接的な筋障害、多飲による水中毒、悪性症候群、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群
等、様々な要因が関与していると考えられる[JPA-DI,2(5):6-9(1999)]。
*抗精神病薬により悪性症候群が発症し、これに引き続き横紋筋融解症が惹起されることは従来よりよく知られていた。今回報告された症例の中に水中毒、
SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)に引き続いて横紋筋融解症が発現した事例が見られており、注意が喚起される[JPA-DI,2(5):6-
9(1999)]。
[214]candesartan cilexetil
ブロプレス錠(武田)
横紋筋融解症(市販後6例) *アンジオテンシンII受容 体拮抗剤による発症機序は不明。一般的に薬剤による横紋筋融解症の発症機序は、薬剤の筋細胞への直接的障害と、薬剤により誘発された低K血症、痙攣発作な
どが原因で発症する二次的なものが考えられている[JPA-DI,5(9):18(2002)]。
[613]cefcapenepivoxil hydrochloride
フロモックス錠(塩野義)
横紋筋融解症(頻度不明) *発症機序不明。ただし、動 物実験(イヌ)でCPKの上昇を伴う筋細胞障害(骨格筋の病理組織学的検査)が認められているの報告[IF,1997.6]
[624]ciprofloxacin hydrochloride
シプロキサン錠(バイエル)
横紋筋融解症(0.1%未 満) *発症機序不明。ニューキノ ロン系薬剤では服用後1-6日間と短期間の服薬で急激に発症するの報告がされている。
[614]clarithromycin
クラリス錠(大正富山)
横紋筋融解症(頻度不明) *発症機序不明。本症の発症 には原因が何であれ骨格筋の障害が必須である。筋組織内のミトコンドリアにおけるATPの障害、過度の運動後のK欠乏などが原因と考えられているが定説は
ない。
[218]clinofibrate
リポクリン錠(住友)
横 紋筋融解症 * フィブラート系薬剤で、腎機能障害を有する患者において横紋筋融解症が発現し、急激に腎機能が悪化[添付文書,1999.6]。
*発症原因として、薬剤の筋への直接的障害と薬剤により誘発された低K血症、痙攣発作などが原因する二次的なものが考えられている。高脂血症薬では、筋細
胞膜中のコレステロール含量低下、細胞中ユビキノンの低下、膜のClイオンの透過性低下が考えられている。
[218]clofibrateヒポセロールカプセル(扶桑)
[117]clomipramine hydrochloride
アナフラニール錠・注
(ノバルティス)
横紋筋融解症 *発症機序不明。抗精神病薬 投与中に発症する横紋筋融解症には、抗精神病薬の過量投与、薬剤による直接的な筋障害、多飲による水中毒、悪性症候群、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群
等、様々な要因が関与していると考えられる[JPA-DI,2(5):6-9(1999)]。
[211]choline theophylline
テオコリン錠(エーザイ)
横紋筋融解症 *発症原因として、薬剤の筋 への直接的障害と薬剤により誘発された低カリウム血症、痙攣発作などが原因する二次的なものが考えられている。キサンチン系薬剤では、細胞内Caイオンの
流入増加などが関与していると報告されている。
[399]ciclosporin
サンディミュンカプセル
(ノバルティス)
横紋筋融解症 *発症機序不明。本剤に起因 するmyopathyの症例報告が最近見られるの報告。
[114]diclofenac sodiumボルタレン錠(ノバルティス) 横紋筋融解症 *本剤による横紋筋融解症の 発症機序は不明。本剤投与患者で、本剤との関連を否定できない横紋筋融解症の症例報告が、1994年以降6例(自発報告5例、学会報告1例)報告されてい
る。
*非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)による横紋筋融解症発症の機序は明確ではない。しかし、NSAIDsをエンドトキシンなどと一緒に動物に投与す
るとNSAIDsの濃度の上昇に伴ってTNF-α(腫瘍壊死因子)が増加することが知られている。従って、感染症の解熱目的でNSAIDsを使用すると一
端は解熱するが、 TNF-αを増加してサイトカイン類が増加し、多臓器不全を起こしやすくなる危険があると考えられ、多臓器不全の一つとして筋肉障害を起こす可能性がある
[JPA-DI,5(4):16-20(2002)]
[211]diprophylline
ネオフィリンM末・注(エーザイ)
横紋筋融解症 *類薬 (theophylline)で報告。
*発症原因として、薬剤の筋への直接的障害と薬剤により誘発された低カリウム血症、痙攣発作などが原因する二次的なものが考えられている。キサンチン系薬
剤では、細胞内カルシウムイオンの流入増加などが関与していると報告されている。
[119]donepezil hydrochloride
アリセプト錠・D錠・細粒(エーザイ)
横紋筋融解症 *発症機序不明。本剤投与に 起因すると思われる横紋筋融解症の患者発現。死亡例1例報告[PMDSI,No.214,2005.6.]
[624]enoxacin
フルマーク錠(大日本)
横紋筋融解症 *発症機序不明。ニューキノ ロン系薬剤では服用後1-6日間と短期間の服薬で急激に発症するの報告がされている。
[117]etizolam
デパス錠(三菱ウェルファーマ)
横紋筋融解症 *発症機序不明。抗精神病薬 投与中に発症する横紋筋融解症には、抗精神病薬の過量投与、薬剤による直接的な筋障害、多飲による水中毒、悪性症候群、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群
等、様々な要因が関与していると考えられる[JPA-DI,2(5):6-9(1999)]。
[232]famotidine
ガスター錠・注(アステラス)
横紋筋融解症 *発症機序不明。国内におい て横紋筋融解症の副作用が報告された。
[613]faropenem sodium
ファロム錠(アステラス)
横紋筋融解症(頻度不明) *発症機序不明。本症の発症 には原因が何であれ骨格筋の障害が必須である。筋組織内のミトコンドリアにおけるATPの障害、過度の運動後のK欠乏などが原因と考えられているが定説は
ない。
[218]fenofibrate
リパンチルカプセル(グレラン)
横紋筋融解症 *発症原因として、薬剤の筋 への直接的障害と薬剤により誘発された低カリウム血症、痙攣発作などが原因する二次的なものが考えられている。高脂血症薬では、筋細胞膜中のコレステロー
ル含量低下、細胞中ユビキノンの低下、膜のClイオンの透過性低下が考えられている。
[624]fleroxacin
メガロシン錠(杏林)
横紋筋融解症 *発症機序不明。ニューキノ ロン系薬剤では服用後1-6日間と短期間の服薬で急激に発症するの報告がされている。
[112]flunitrazepam
サイレース錠・注(エーザイ)
横紋筋融解症(市販後報告) *発症機序不明。一般的に薬 剤による横紋筋融解症の発症は、薬剤の筋細胞への直接的障害と、薬剤により誘発された低K血症、痙攣発作などが原因で発症する二次的なものが考えられてい
る[JPA-DI,5(7):24-25(2002)]。
[218]fluvastatin sodiumローコール錠
(ノバルティス)
横紋筋融解症 *HMG-CoA還元酵素阻 害薬では服用後1年以内の発症が殆どであり、4カ月以内が50%以上とする報告が見られる。
*発症原因として、薬剤の筋への直接的障害と薬剤により誘発された低K血症、痙攣発作などが原因する二次的なものが考えられている。高脂血症薬では、筋細
胞膜中のコレステロール含量低下、細胞中ユビキノンの低下、膜のClイオンの透過性低下が考えられている。
[625]foscarnet sodium hydrateホスカビル注(アストラゼネカ) 横紋筋融解症(頻度不明) *発症機序不明。本症の発症 には原因が何であれ骨格筋の障害が必須である。筋組織内のミトコンドリアにおけるATPの障害、過度の運動後のK欠乏などが原因と考えられているが定説は
ない。
[624]gatifloxacin hydrate
ガチフロ錠(杏林)
横紋筋融解症(外国) *発症機序不明。本症の発症 には原因が何であれ骨格筋の障害が必須である。筋組織内のミトコンドリアにおけるATPの障害、過度の運動後のK欠乏などが原因と考えられているが定説は
ない。
[117]haloperidol
セレネース錠・注(大日本)
横紋筋融解症(文献報告7 例) *発症機序不明。抗精神病薬 投与中に発症する横紋筋融解症には、抗精神病薬の過量投与、薬剤による直接的な筋障害、多飲による水中毒、悪性症候群、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群
等、様々な要因が関与していると考えられる[JPA-DI,2(5):6-9(1999)]。
[117]haloperidol decanoate
ハロマンス注(大日本)
横紋筋融解症(類薬) *類薬 (haloperidol等)で報告。
*発症機序不明。抗精神病薬投与中に発症する横紋筋融解症には、抗精神病薬の過量投与、薬剤による直接的な筋障害、多飲による水中毒、悪性症候群、抗利尿
ホルモン不適合分泌症候群等、様々な要因が関与していると考えられる[JPA-DI,2(5):6-9(1999)]。
[232]lafutidine
プロテカジン錠(大鵬)
横紋筋融解症 類薬(他のH2受 容体拮抗剤)で報告[添付文書,2002.8]。
[625]lamivudineエピビル錠(GSK) 横紋筋融解症(頻度不明) *発症機序不明。本症の発症 には原因が何であれ骨格筋の障害が必須である。筋組織内のミトコンドリアにおけるATPの障害、過度の運動後のK欠乏などが原因と考えられているが定説は
ない。
[624]levofloxacin
クラビット錠(第一)
横紋筋融解症 *発症機序不明。ニューキノ ロン系薬剤では服用後1-6日間と短期間の服薬で急激に発症するの報告がされている。
[117]lithium carbonate
リーマス錠(大正富山)
横紋筋融解症 *発症機序不明。抗精神病薬 投与中に発症する横紋筋融解症には、抗精神病薬の過量投与、薬剤による直接的な筋障害、多飲による水中毒、悪性症候群、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群
等、様々な要因が関与していると考えられる[JPA-DI,2(5):6-9(1999)]。
[624]lomefloxacin hydrochloride
ロメバクトカプセル(塩野義)
横紋筋融解症(頻度不明) *発症機序不明。ニューキノ ロン系薬剤では服用後1-6日間と短期間の服薬で急激に発症するの報告がされている。
[214]losartan potassium
ニューロタン錠(万有)
横紋筋融解症 *アンジオテンシンII受容 体拮抗剤による発症機序は不明。一般的に薬剤による横紋筋融解症の発症機序は、薬剤の筋細胞への直接的障害と、薬剤により誘発された低K血症、痙攣発作な
どが原因で発症する二次的なものが考えられている。
[117]maprotiline hydrochlorideルジオミール錠(ノバルティス) 横紋筋融解症 *発症機序不明。抗精神病薬 投与中に発症する横紋筋融解症には、抗精神病薬の過量投与、薬剤による直接的な筋障害、多飲による水中毒、悪性症候群、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群
等、様々な要因が関与していると考えられる[JPA-DI,2(5):6-9(1999)]。
[391]monoammonium glycyrrhizinate・DL-methionine・aminoacetic acid
グリチロン錠(ミノファーゲン)
横紋筋融解症の症状 *脱力感、筋力低下、筋肉 痛、四肢痙攣・麻痺等の横紋筋融解症の症状発現[添付文書,2001.3]。
*本剤に含まれる甘草の成分であるグリチルリチンにより、偽アルドステロン症が起こる可能性があることは知られているが、添付文書改訂の根拠となった4症
例ではCPKの上昇を伴った横紋筋融解症を併発している[JPA-DI,1(3):13-14(1998)]。
[232]nizatidine
アシノンカプセル(ゼリア)
横紋筋融解症 類薬(他のH2受 容体拮抗剤)で報告。
[624]norfloxacin
バクシダール錠(杏林)
横紋筋融解症 * 発症機序不明。ニューキノロン系薬剤では服用後1-6日間と短期間の服薬で急激に発症するの報告がされている。
[624]ofloxacin
タリビット錠(第一)
横紋筋融解症(頻度不明)
[232]omeprazole
オメプラール腸溶錠
(アストラゼネカ)
横紋筋融解症 *発症機序不明。本症の発症 には原因が何であれ骨格筋の障害が必須である。筋組織内のミトコンドリアにおけるATPの障害、過度の運動後のK欠乏などが原因と考えられているが定説は
ない。
[122]pancuronium bromide
ミオブロック注(三共)
横紋筋融解症 *発症機序不明。本症の発症 には原因が何であれ骨格筋の障害が必須である。筋組織内のミトコンドリアにおけるATPの障害、過度の運動後のK欠乏などが原因と考えられているが定説は
ない。
[624]pazufloxacin mesilate
パシル注(大正富山)
横紋筋融解症 *発症機序不明。本症の発症 には原因が何であれ骨格筋の障害が必須である。筋組織内のミトコンドリアにおけるATPの障害、過度の運動後のK欠乏などが原因と考えられているが定説は
ない。
[613]piperacillin sodium
ペントシリン注(大正富山)
横紋筋融解症 *発症機序不明。本症の発症 には原因が何であれ骨格筋の障害が必須である。筋組織内のミトコンドリアにおけるATPの障害、過度の運動後のK欠乏などが原因と考えられているが定説は
ない。
[232]pipethanate hydrochloride・甘草抽出物・magnesium aluminometasilicate
ゲシュウル(テイコクメディックス)
横紋筋融解症
の症状(1例報告)
*脱力感、筋力低下、筋肉 痛、四肢痙攣・麻痺等の横紋筋融解症の症状発現[添付文書,2002.2]。
*本剤に含まれる甘草の成分であるグリチルリチンにより、偽アルドステロン症が起こる可能性があることは知られているが、添付文書改訂の根拠となった4症
例ではCPKの上昇を伴った横紋筋融解症を併発している[JPA-DI,1(3):13-14(1998)]。
[449]pranlukast hydrate
オノンカプセル(小野)
横紋筋融解症 *発症機序不明。本症の発症 には原因が何であれ骨格筋の障害が必須である。筋組織内のミトコンドリアにおけるATPの障害、過度の運動後のK欠乏などが原因と考えられているが定説は
ない。
[218]pravastatin sodiumメバロチン錠・細粒(三共) 横紋筋融解症 *HMG-CoA還元酵素阻 害薬では服用後1年以内の発症が殆どであり、4カ月以内が50%以上とする報告が見られる。
*発症原因として、薬剤の筋への直接的障害と薬剤により誘発された低カリウム血症、痙攣発作などが原因する二次的なものが考えられている。高脂血症薬で
は、筋細胞膜中のコレステロール含量低下、細胞中ユビキノンの低下、膜のクロールイオンの透過性低下が考えられている。
[218]probucol
シンレスタール錠・細粒(第一)
横紋筋融解症 *発症原因として、薬剤の筋 への直接的障害と薬剤により誘発された低K血症、痙攣発作などが原因する二次的なものが考えられている。高脂血症薬では、筋細胞膜中のコレステロール含量
低下、細胞中ユビキノンの低下、膜のClイオンの透過性低下が考えられている。
[259]propiverine hydrochloride
バップフォー錠(大鵬)
横紋筋融解症 *発症機序不明。本症の発症 には原因が何であれ骨格筋の障害が必須である。筋組織内のミトコンドリアにおけるATPの障害、過度の運動後のK欠乏などが原因と考えられているが定説は
ない。
[111]propofol
ディプリバン注(アストラゼネカ)
横紋筋融解症(0.1%未 満) *発症機序不明。麻酔薬の作 用によって骨格筋細胞内の筋小胞体からCaイオンが異常に遊離されて細胞内Ca2+濃度が異常に上昇し、骨格筋が過度に収縮して筋原性の発熱が生ずるとす
る報告が見られる。
[211]proxyphylline
モノフィリン錠・注(日医工)
横 紋筋融解症 * 類薬(theophylline)で報告。
*発症原因として、薬剤の筋への直接的障害と薬剤により誘発された低K血症、痙攣発作などが原因する二次的なものが考えられている。キサンチン系薬剤で
は、細胞内Caイオンの流入増加などが関与していると報告されている。
[222]proxyphylline・ ephedrine hydrochloride・phenobarbitalアストモリジンM錠(マルホ)
アストモリジンD錠(マルホ)
[232]ranitidine hydrochloride
ザンタック錠・注(GSK)
横紋筋融解症 *発症機序不明。国内におい て横紋筋融解症の副作用が報告された。1996-2000の注射剤・経口剤の報告例7例[JPA-DI,4(12):16-18(2001)]。
[117]risperidone
リスパダール錠(ヤンセン)
横紋筋融解症 *発症機序不明。抗精神病薬 投与中に発症する横紋筋融解症には、抗精神病薬の過量投与、薬剤による直接的な筋障害、多飲による水中毒、悪性症候群、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群
等、様々な要因が関与していると考えられる[JPA-DI,2(5):6-9(1999)]。
[259]ritodrine hydrochloride
ウテメリン錠(キッセイ)
横紋筋融解症(注:6例、 錠:3例) *詳細は不明であるが、一般 的に横紋筋融解症発現原因の一つとして低K血症が挙げられていることから本剤のβ2 刺激作用による血清Kの低下が一部関与している可能性が推定される[JPA-DI,2(39:6-7(1999)]。
[232]roxatidine acetate hydrochlorideアルタットカプセル(帝国臓器) 横紋筋融解症(頻度不明) 類薬(他のH2受 容体拮抗剤)で報告[添付文書, 2001.4]。
[118]salicylamide・ acetaminophen・anhydrous caffeine・chlorpheniramine maleate
ペレックス顆粒(大鵬)
横紋筋融解症(3例集積) * 発症機序不明。ただし国内症例のうち1例はDLST陽性であったことから、アレルギー性の機序による発症も考えられる。*国内において本剤との因果関係が否定できない横紋筋融解症が3例集積(過量服用症例1例含む)。また、海外ではacetaminophenによる横紋筋
融解症が1例報告されている[JPA-DI,5(5)19-20(2002)]
[118]salicylamide・ acetaminophen・anhydrous caffeine・promethazine methylenedisalicylate
PL顆粒(塩野義)
横紋筋融解症
(頻度不明)
[111]sevoflurane
セボフレン液(ダイナボット)
横紋筋融解症 *発症機序不明。麻酔薬の作 用によって骨格筋細胞内の筋小胞体からCaイオンが異常に遊離されて細胞内Ca2+濃度が異常に上昇し、骨格筋が過度に収縮して筋 原性の発熱が生ずるとする報告が見られる。
[218]simfibrate
-製造中止-
横 紋筋融解症
(類薬)
* フィブラート系薬剤で、腎機能障害を有する患者において横紋筋融解症が発現し、急激に腎機能が悪化
*HMG-CoA還元酵素阻害薬では服用後1年以内の発症が殆どであり、4カ月以内が50%以上とする報告が見られる。
*発症原因として、薬剤の筋への直接的障害と薬剤により誘発された低K血症、痙攣発作などが原因する二次的なものが考えられている。高脂血症薬では、筋細
胞膜中のコレステロール含量低下、細胞中ユビキノンの低下、膜のClイオンの透過性低下が考えられている。
[218]simvastatin
リポバス錠(万有)
[113]sodium valproate
デパケン錠・細粒(協和醗酵)
横紋筋融解症 *発症機序不明。本症の発症 には原因が何であれ骨格筋の障害が必須である。筋組織内のミトコンドリアにおけるATPの障害、過度の運動後のK欠乏などが原因と考えられているが定説は
ない。
[624]sparfloxacin
スパラ錠(大日本)
横紋筋融解症(0.1%未 満) *発症機序不明。ニューキノ ロン系薬剤では服用後1-6日間と短期間の服薬で急激に発症するの報告がされている。
[629]sulfamethoxazole・ trimethoprimバクタ錠・顆粒(塩野義) 横紋筋融解症(頻度不明) *発症機序不明。本症の発症 には原因が何であれ骨格筋の障害が必須である。筋組織内のミトコンドリアにおけるATPの障害、過度の運動後のK欠乏などが原因と考えられているが定説は
ない。
[122]suxamethonium chloride
サクシン注(アステラス)
横紋筋融解症 *発症機序不明。本症の発症 には原因が何であれ骨格筋の障害が必須である。筋組織内のミトコンドリアにおけるATPの障害、過度の運動後のK欠乏などが原因と考えられているが定説は
ない。
[613]tazobactam・ piperacillin hydrateタゾシン注(大鵬-大正富山) 横紋筋融解症(頻度不明) *発症機序不明。本症の発症 には原因が何であれ骨格筋の障害が必須である。筋組織内のミトコンドリアにおけるATPの障害、過度の運動後のK欠乏などが原因と考えられているが定説は
ない。
[225]theophylline
テオロング錠・顆粒(エーザイ)
横紋筋融解症 *発症原因として、薬剤の筋 への直接的障害と薬剤により誘発された低K血症、痙攣発作などが原因する二次的なものが考えられている。キサンチン系薬剤では、細胞内Caイオンの流入増
加などが関与していると報告されている。
[624]tosufloxacin tosilate
オゼックス錠(大正富山)
横紋筋融解症(頻度不明) *発症機序不明。ニューキノ ロン系薬剤では服用後1-6日間と短期間の服薬で急激に発症するの報告がされている。
[214]trandolaprilオドリック錠(アベンティス) 横紋筋融解症 *発症機序不明。本症の発症 には原因が何であれ骨格筋の障害が必須である。筋組織内のミトコンドリアにおけるATPの障害、過度の運動後のK欠乏などが原因と考えられているが定説は
ない。
[241]vasopressin
ピトレシン注(三共)
横紋筋融解症 *発症機序不明。横紋筋融解 症の発症原因として水中毒に続発する症例が報告されている。本剤による横紋筋融解症も同様の理由によることが推定される。
[122]vecuronium bromide
マスキュラックス静注用(三共)
横紋筋融解症 *発症機序不明。本症の発症 には原因が何であれ骨格筋の障害が必須である。筋組織内のミトコンドリアにおけるATPの障害、過度の運動後のK欠乏などが原因と考えられているが定説は
ない。
[625]zidovudine・ lamivudine
コンビビル錠(GSK)
横紋筋融解症 *発症機序不明。本症の発症 には原因が何であれ骨格筋の障害が必須である。筋組織内のミトコンドリアにおけるATPの障害、過度の運動後のK欠乏などが原因と考えられているが定説は
ない。
[520]芍薬甘草湯エキス 顆粒
(ツムラ)
横 紋筋融解症の症状(各1例報告) * 脱力感、筋力低下、筋肉痛、四肢痙攣・麻痺等の横紋筋融解症の症状発現[添付文書,1998.10]。
*本剤に含まれる甘草の成分であるグリチルリチンにより、偽アルドステロン症が起こる可能性があることは知られているが、添付文書改訂の根拠となった4症
例ではCPKの上昇を伴った横紋筋融解症を併発している[JPA-DI,1(3):13-14(1998)]。
[520]小柴胡湯エキス顆 粒(ツムラ)

[015.11.RHA:2003.6.2.古泉秀夫・2005.6.27.訂正]


  1. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2003
  2. 日本病院薬剤師会・編:重大な副作用回避のための服薬指導情報集[1];薬業時報社,1997
  3. 真木正博・他監修:メイラー医薬品の副作用大事典;西村書店,1998
  4. 高橋隆一・責任編:第2版 薬の副作用チェックマニュアル;中外医学社,1998

塩酸モルヒネ(morphine hydrochloride)の毒性

木曜日, 8月 16th, 2007
対象物 塩酸モルヒネ(morphine hydrochloride)
成分 morphine hydrochloride;モルヒネ塩酸塩。毒薬。麻薬。
一般的性状 アヘン中に含まれるalkaloidの一種。C17H19NO3・3H2O=375.84。本品は定量するとき、換算した脱水物に対 し、塩酸モルヒネ(C17H19NO3・HCl=321.80)98.0-102.0%を含む。本品 は白色の結晶又は結晶性の粉末である(本品は麻薬であるため味の試験はしていない)。水分含量の理論値は14.3%である。本品は蟻酸に溶け易く、水にやや溶け易く(1g→17.5mL)、メタノールにやや溶け難く、エタノール(95)に溶け難い。本品は稀水酸化ナトリウム試液に溶ける。本品は光によって変化する。保存条件:気密容器、遮光保存。モルヒナン系鎮痛薬。
名称:morphine hydrochloride[英]、morphinhydrochlorid、morphine(chlorhydrate
de)[仏]。
morphineについては、一般的には1805年独逸の薬剤師 Sert

エチルクロライド(ethyl chloride)の毒性

木曜日, 8月 16th, 2007
対象物 クロルエチル(ethyl chloride)
成分 クロルエチル(ethyl chloride)
一般的性状 [英] ethyl chloride。[独]chlor

エーテルの毒性

木曜日, 8月 16th, 2007
対象物 吸入麻酔薬
成分 麻酔用エーテル(anesthetic ether)、ジエチルエーテル(diethylether)。
一般的
性状
エーテルは1540年コーダス(Cordus V)により合成された。1842年になりクラーク(Clarke WE)やロング(Long CW)がエーテル麻酔に成功し、1846年モートン(Morton WTG・米国)がエーテル麻酔下に公開手術を行い成功を収めてから、世界的に使用されるようになった。血圧はよく保たれ、呼吸も抑制されにくい。麻酔導入と覚醒に時間がかかる。喉頭痙攣を起こしやすい。術後の嘔気、嘔吐が多い。高血糖を起こす。可燃性があるなどの欠点がある。
2個のアルコールないしフェノールから水がとれた構造をもつ化合物の総称。た だし、狭義にはエチルエーテルを指す。エチルエーテル(C2H5OC2H5)は無色澄明の流動しやすい液で特異な臭いがある。揮発しやす く、引火性。局方にはエーテルと麻酔用エーテルanesthetic ether)があり、ともにエチルエーテルである。[局]麻酔用エーテルは外科手術において、吸入麻酔薬として全身麻酔に使用する。安定剤を加えてあるが、容器から取りだした後、24時間以上経過したとき麻酔用に使用できない。エーテルガス及び空気の混合物は、引火すると激しく爆発する。麻酔用エーテルはC4H10O:96-98%を含む。本品は無色澄明、流動しやすい液で 特異な臭気があり、甘いようなまた灼ける様な味がする。本品は約35℃で沸騰し、極めて揮発しやすく、引火しやすい。空気、湿気及び光によって徐々に酸化され、過酸化物を生ずる。本品の蒸気と空気との混合物は引火するとき激しく爆発する。本品1ccは水約12ccに溶ける。本品はアルコール、ベンゼン、クロロホルム、石油ベンジン、精油又は脂肪油に混和する。貯法:遮光した気密容器に全満せずに入れ火気を避け、なるべく25℃以下で貯えなければならない
(光、熱によって aldehyde と peroxyde が生じるため密封して冷暗所保存が必要)。
薬理作用:中枢神経抑制、麻酔性、粘膜刺激性、クラーレ様筋弛緩作用
毒性 ヒ ト(経口)致死量30mL。急性毒性:LD50(ラッ ト)経口3560mg/kg。LD50(ラット)経口 1700mg/kg、LDL0(ラット)腹腔 2000mg/kg。LDL0:最小致死量。
症状 第 I 期:痛覚鈍麻
第II 期:意識混濁、自制心消失、うわごと、反射亢進
第III期:反射機能の消失、骨格筋弛緩
第IV期:呼吸中枢抑制、呼吸停止
処置 * 酸素吸入
*外部より保温
*酸素欠乏による痙攣にはチオペンタールナトリウム静注、他の痙攣にはグルコン酸カルシウム静注。
事例 「お まえさんは、去年の夏、江戸への初舞台を機会に、尾花新九郎をお茶の水の堀り割へ呼び出して、麻薬をかがせて眠らせたうえ、ぬれ紙を鼻の上に当てて呼吸の根を断った」
伝七は、まるで現場を見ていたのかのように、ずばりと、何のよどむところもなくいってのけるのでした。「わたしはついに、新九郎に会うことができました。新九郎の家の近くでです。さすがに新九郎は驚きましたが、わたしに旧悪を暴かれるのを恐れて、あの夜青山大膳様のお能の帰りに、お茶の水で会うことを約束しました。わたしは暗い掘り割りの岸で、新九郎に会うや、長崎のオランダ医からもらった、腑分け用の麻酔薬を新九郎にかがせ、その後でぬれ紙で鼻や口をふさいで完全に殺してしまいました、………………」 [陣出達郎:伝七捕物帖(一)-敵討ち蝉;信陽堂,1997]
備考 物 語は天保11年(1840年)頃の話しである。エーテル麻酔下の公開手術が米国で行われたのが1846年で、当時の時間経過からいえば、天保11年にエーテルが江戸で手に入れることができたかどうか。更に保存がやっかいであり、素人が取り扱うのはちょいと無理ではないかというのが感想である。原作は単に吸入麻酔薬と書かれているだけで、それを勝手に麻酔用エーテルと決めてしまったが、クロロホルムが吸入麻酔薬として初めて使用されたのは1847年ということで、麻酔用エーテルにしただけである。
文献 1) 伊藤正男・他総編集:医学書院医学大辞典,2003
2)薬科学大辞典 第2版;広川書店,1990
3)第六改正日本薬局方註解;南江堂,1954
4)西 勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル 改訂6版;医薬ジャーナル,2001
5)大阪府病院薬剤師会・編:全訂医薬品要覧;薬業時報社,1984
6)http://www.anesth.hama-med.ac.jp/004.10.7.
7)後藤 稠・他編:産業中毒便覧;医歯薬出版株式会社,1992
調査者 古泉秀夫 記入日 2004.10.7.

漆(varnish-bearing sumach)の毒性

木曜日, 8月 16th, 2007
対象物 ウルシ(varnish-bearing sumach)
成分 フェノール性化合物のウルシオール(urushiol)、ハイドロウルシオールの他、マンニトール、ゴム質を含む。その他、urushiolはデヒドロウルシオールと共に存在する。構造式中のRはC15の飽和及 び不飽和アルキル基。無色粘稠な液対。ウルシの成分はこの他にもあり、安南ウルシやビルマウルシの主成分はlaccol及びthitsiolであるとする報告が見られる。
一般的性状 ウルシ(学名:Rhus verniciflua Stokes):ウルシ科ウルシ属の落葉高木。
分  布:中国、インド、ヒマラヤの原産で、日本には奈良時代に渡来し、各地で栽培される。
形  態:幹は太く、樹高は10m位。樹皮は灰色で、老生すると裂け目を生じる。雌雄異株。葉は奇数複葉で枝の先に互生し、秋に紅葉する。6月頃葉腋の円
錐花序に多数の黄緑色の小さな花が咲く。
別  名:漆樹、漆
薬用部分:樹脂(乾漆<カンシツ>)。生漆(キウルシ)は樹幹に切傷を付け浸出した液汁で、暗褐色濃稠の液体。乾漆(カンシツ)は生漆を乾燥したもの。漆は漆性皮膚炎で知られている。薬効・薬理:urushiolはラッカーゼによって酸素と結合し、黒色樹脂状に変わり、急性皮膚炎を起こさせる成分となる。urushiolは大量に投与すると脳中枢神経系の原繊維を強く傷つける。乾漆を駆虫、通経、鎮咳薬に応用する。
使用法:扁桃腺炎には、乾漆を火にくべて煙を吸入する。処方に配合するときは、胃腸壁を損なわないために乾漆を搗き砕いて炒り熱して用いるが、生漆を煎じ
て乾燥させたものの方が安全とされている。
その他:生漆は漆器に塗られるが、そのままでは薬用、服用に向かない。日本では薬用の乾漆は生産されていない。
塗料としての漆は主成分であるurushiolが空気中の酸素と接したとき、 漆中に含まれるラッカーゼと呼ばれる酵素の作用で酸化縮重合することにより、乾燥・硬化する。漆かぶれは、このurushiol原因となって生じるアレル
ギー性接触皮膚炎である。
漆が乾燥・硬化するためには酸素との接触が必須であるが、高湿度であるほど ラッカーゼ活性が高まり、乾燥・硬化が速くなる。漆器製造工程では、漆風呂(ムロ)と呼ばれる高湿度環境(15-25℃・65-85%RH)を保った乾燥室で乾燥が行われる。高温である方が乾燥が速くなるが、高温になりすぎると表面性状・色合い・透明性に不良が生じる。乾燥・硬化して完成した漆器製品表面には、微量の未反応urushiolが残存しているため、漆器製品によるかぶれが報告されている。ただし、高温で乾燥した物ほど、残存urushiolは減少しており、かぶれは生じ難い。また生漆中に蛋白質加水分解物を添加することにより、かぶれ難くした漆が開発されている。
毒性 漆中のurushiolが接触性皮膚炎の原因であり、生漆中に約60-70%が含まれる。パッチテス ト用のurushiolは0.002%であるが、漆かぶれのテストに使用した場合、強陽性を呈する者がある。ただし、仕事で生漆を常時使用する者では、当
初、漆かぶれを経験する事例があるが、その後継続使用することでかぶれに対する耐性あるいは慣れ(hyposensitization)が起こる。漆を経口摂取した場合、全身性の皮膚炎や消化管で吸収されなかった漆により肛 門周囲にかぶれを生じた例も報告されている。
症状 接 触性皮膚炎(漆性皮膚炎):顔面、両上肢、両手などの露出部皮膚に、痒みを伴う激しい紅斑・浮腫・水疱・糜爛を生じる。また、漆皮膚炎を惹起した者では、
マンゴー、ギンナン、カシューナッツによって同様の皮膚炎を惹起する。
処置 かぶれの程度にもよるが、副腎皮質ホルモン剤の使用により、局所の皮膚炎応を抑え、痒みの強い場合に は抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤の内服を行う。
漆が手に付いた場合[1]ラッカーシンナー、アセトン、エタノール等の溶剤で十分に拭き取る。
[2]その後漆付着部をサラダオイルあるいは天ぷら油を付けて揉むように油で洗い、石鹸と流水で洗い流す(溶剤で殆ど取れるが、一部の漆は皮膚に浸透し、かぶ
れの原因となるため油で漆をとる)。
[3]漆を洗浄した後、皮脂の脱落が見られ、乾燥肌になり易い。 白色ワセリン、アズノール軟膏等を塗布し、肌荒れを予防する。
事例 「東吾さんじゃありませんか」
店の奥から、畝源三郎の声がした。
その隣に長助と、蒼白になった若者の顔が見える。「さては、おるいさんが心配しておられるのですな」
源三郎が苦笑し、東吾は傘をつぼめて、上がりかまちに腰を下ろした。
「宮越屋に、なにがあったんだ」
訊かなくとも、青くなっている若者が新助だと想像がつく。
「それが………どうやら、漆でかぶれたらしいですよ」
いささか当惑げに、源三郎がいう。
「漆………」 [平岩弓枝:御宿かわせみ(11)-二十六夜待の殺人-錦繍中山道;文春文庫,2003.1.25.]
備考 殺人目的の毒物として使用されたわけではない。
物語は世話物の世界で、特に殺人の必要はない作品であるが、『漆』が重要な意味を持っているので、毒薬の一つとして参照させていただいた。更に接触性アレルギーの原因として重要な対象物であり、その治療法を調べておくことは、情報を必要とするときに直ちに役立つと思われるので、それなりに意味があるだろうということである。
文献 1) 薬科学大辞典 第2版;広川書店,1990
2)三橋 博・監修:原色牧野和漢薬草大図鑑;北隆館,1988
3)河合敬一:漆器製造従事者にみられる漆かぶれ;日本医事新報,No.4183:92-93(2004.6.26.)
4)河合敬一:漆かぶれの処置と予防;日本医事新報,No.3957(2000.2.26.)
調査者 古泉秀夫 記入日 2004.8.11.

一酸化炭素(carbon monoxide)の毒性

木曜日, 8月 16th, 2007

象物
炭(練炭)燃焼ガス、炭火。
成分 一酸化炭素、[英]carbonmonoxide、[独]Kohlenmonoxyd、[仏]monoxyde de carbone。分子式:CO:28.01。
一般的性状 炭素又は可燃性炭素化合物が不完全燃焼するとき発生する。また家庭に現在供給されている都市ガスの中にも数%含まれている。燃料、有機合成工業では水素との混合物のまま使用されることが多い。無色・無味・無臭の気体。空気に対する比重は0.967。融点:?205℃、沸点:?191.5℃、水に難溶、20℃で100mLの水に2.3mL(STP)。活性炭に容易に吸着される。空気中で点火すれば燃えて二酸化炭素になる。還元性を有し、各種の重金属酸化物を還元して金属にする。鉄、ニッケル、コバルトなどの遷移金属又はその塩と反応して揮発性の金属カルボニル化合物を作る。触媒の存在下で塩素と反応してホスゲンを生じる。
アルカリ水溶液と反応させるとギ酸塩を生じる。
血液中のヘモグロビンと結合してカルボニルヘモグ
ロビンとなり、ヘモグロビンの機能を阻止するので、極めて有毒であり、空気中10ppmでも中毒を起こす。
ヘモグロビンとの結合力は酸素の200-210倍
(約250倍とする報告)の強さを示すので、一酸化炭素を吸入すると中毒を起こし、血液の酸素運搬能力を失わせ、細胞の呼吸を止める。
毒性 空気中10ppmの存在で中毒発現。職場環境気中の許容濃度は50ppm。一酸化炭素がヘモグロビンと結合するため、血液による酸素運搬が障害されることによる。
血液中のCO-Hb(carboxyhemogrobin)が20-40%で重篤な障害が生じ、60-66%になると死亡する。空気中に10-100ppm程度以上あると中毒症状が起こり、1000ppm程度で死に至る。

低濃度で息切れ、頭痛、頭重感、皮膚血管拡張、嘔気、嘔吐、脱力感、疲労感、注意散漫、悪心、眩暈、視力障害、呼吸促進、頻脈等の症状が発現する。
高濃度で失神する。
急性一酸化炭素中毒で死亡した場合、死斑はCO-Hbにより特徴的な鮮紅色を呈する。中毒死したヒトの肌は、体表面から見て鮮やかなピンク色を呈する。
処置 初期治療
速やかに非再呼吸式リザーバ付きフェイスマスクで、又は気管挿管して、100%酸素を投与する。
意識障害、神経症状、一酸化炭素ヘモグロビン(CO-Hb)濃度の高値があれば高圧酸素療法を施行する。
*症状が消失するかCO-Hb濃度が5%以下になるまで、CO-Hb濃度を2-4時間毎に測定する。来院時のCO-Hb濃度で重症度を評価しない。来院時のCO-Hb濃度が正常値であってもCO中毒を否定しない。
対症療法
痙攣・昏睡については対症療法を行う。

「しかし橘屋の佐兵衛どの、口裂け女の噂など、おそらくただの噂に過ぎまい。それらしいことがあったとしても、だいたい幽霊の正体見たり枯れ尾花の、たとえの類であろう。見た者の度胸の程度と語り具合で、小さなことが大きくなり、さらに尾鰭がつき、世の中に広まってしまうのよ。この世で起きている奇怪なできごとを突き詰めれば、謎めいた事件の原因が、ほぼ解明できるはずじゃ。例えば冬には心中が多かろう。心中せねばならぬ理由のない男女が、なんの毒を飲んでやら、待合で心中しておる」
「去年の暮れからこの春までに、京の待合で17組も、心中があったそうどすなあ」
「町奉行所では、簡単に心中と片付けてしまっておるが、寒いからと申し、狭い部屋の障子戸や襖を、ぴたっと閉めているのがよくないのじゃ。夢中で睦み合っているうち、身動きがとれなくなる。土御門家のお屋形さまは、手焙りの炭火の中から、人を死にいたらしめるなにかが、放出されているのではないかともうされておる。くだいていえば悪い気、呪毒じゃな。障子戸を少し開けておけば、呪毒は外に出て人に害を与えない。不可解な心中のもそれだけのことじゃ」
平九郎のいう呪毒とは、一酸化炭素であった。
「なるほど、赤く燃えている炭火が、呪毒を持っているのでございますか」
「さればこそ、火は尊ばねばならぬ。あれほどありがたいものでありながら同時に恐ろしいものはないわ」
「ほんまにそうでございますなあ」
橘屋佐兵衛は、感心した顔でつぶやいた [澤田ふじ子:土御門家・陰陽事件簿-大盗の夜;光文社,2005.12.20.]
備考 一酸化炭素を用いた殺人が行われた訳ではなく、話題として取り上げられただけで、しかも『呪毒』なる言葉で表されている。勿論この当時一酸化炭素中毒者が出たとしても手の施しようはなかったはずである。
しかし、江戸時代の庶民の住居である長屋では、空気の流通が良すぎるのと、暖房に炭や豆炭を使うなどということが出来たのかどうか。ただ今回の例え話は、待合の話で、建物は相当頑丈に造られており、密閉性が高いということと、暖房完備ということなのかもしれない。
今までに読んだ推理小説の中で、一酸化炭素が殺人の道具として使用されたのは、煙突に鳥が巣を作り、その巣の材料で詰まった煙突のおかげで不完全燃焼が起
こり室内に居た人間が死ぬというものである。
一酸化炭素中毒に対する治療法は限定されており、殺人目的で利用された場合には、あるいは救命は難しいかもしれない。
文献 1)薬科学大事典 第2版;廣川書店,1990
2)志田正二・代表編:化学辞典;森北出版株式会社,1999
3)Anthony T.Tu・編著:毒物・中毒用語辞典;化学同人,2005
4)相馬一亥・監修:急性中毒診療ハンドブック;医学書院,2005
調
査者
古泉秀夫 分類 015.11.CAR 記入日 2007.1.4.