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セラチア(Serratia)の感染防御

金曜日, 8月 17th, 2007
一般的性状 グラム陰性通性嫌気性桿菌。Serratia属に属する菌で代表種はSerratia marcescensである。Serratia liquefaciens、Serratia rubi-
daea等も知られている。多剤耐性菌が多く、日和見感染の原因菌となり得る。
周毛性のグラム陰性桿菌で、莢膜のある菌種もある。DNase活性が強い点で他の腸内細菌と区別される。 Serratia marcescensとSerratia rubidaeaは赤?桃色の色素(pro-digiosin)を産生するが、色素非産生株もある。
棲息部位 空気中、塵埃中、水中等にしばしば存在し、食物に附着して増殖、これを赤変することがある。腸内常在菌。
感染部位 従来、非病原菌として扱われてきたが、近年創傷感染、肺炎、肺化膿症膿胸、髄膜炎、尿路感染症、敗血症、骨髄炎、腹膜炎等種々の感染症の原因となり得る。院内感染も見られ基礎疾患を有する患者に菌交代症として発現する可能性が考えられる。
感染経路 尿路カテーテル、静脈カテーテル、腹腔カテーテル、輸液。
[1]点滴静注用のボトルの注入口(ゴムキャップ)にSerratia marcescensを附着させ、注射針で注入口を通過させると、菌は瓶中に侵入することが確認されている。
[2]病院で使用する輸液-ブドウ糖注射液、総合電解質液、静注用脂肪乳剤、血漿増量・体外循環灌流液、糖・電解質・アミノ酸液20mL中に菌液10μLを添加、室温放置、6時間・24時間後の菌量を測定した。この結果、静注用脂肪乳剤中では24時間後で10万倍以上増加し、血漿増量・体外循環灌流液中では1万?10万倍、総合電解質液、糖・電解質・アミノ酸液、ブドウ糖注射液中では100?10万倍に増加した。
この結果、輸液ボトル調製中に菌が混入し、室温に10時間以上おかれた場合、輸液中では菌は相当数まで増殖し、大量の菌の曝露源となり得ることが示唆された。*病棟における輸液準備は、概ね準夜帯(16時?18時)の看護婦が処置室において混合準備し、室温に静置し(調製から点滴開始まで10時間以上)、翌日投与する方法が一般的である。調製時汚染された場合、感染原因となりうる。
治療 β-ラクタマーゼを産生するので、第三世代セフェム、カルバペネム、モノバクタムを選択する。
ceftriaxone sodium・cefozopram hydrochloride・cefepime dihydrrochloride・ceftizoxime
sodium等
1回1g    1日2回 点滴静注
panipenem・betamiprom1回0.5-1g  1日2回 点滴静注
carumonam sodium
1回1g    1日2回  点滴静注
感染防御 高圧蒸気滅菌、煮沸消毒。薬液消毒については、通常の栄養型細菌と同様と考えられるが、菌の持つポンプ機能により低濃度の消毒剤等では菌体外に排出するとの報告もあるため、濃度注意。エタノールについて、60%前後の稀アルコールでは、霊菌(Serratiamarcescens)は30分で死滅とする報告もされているが、バイアル瓶等の注入口ゴム栓の消毒には時間がかかりすぎる。
なお、同一細菌による試験結果ではないが、消毒用エタノールとの比較でイソプロパノールは作用時間が遅いとする報告もされているため、『疑わしきは実施せず』の基本原則からすれば、濃度及び適用部位には注意が必要であると考える。
消毒剤 10?20% 60?90% 90%以上 備考
消毒用エタノール-70% 10分以上 約15秒 作用減弱 細菌芽胞に対する効力無。
イソプロパノール-70% 1分以上(60%濃度-対象ブドウ球菌) 細菌芽胞に対する効力無。多くのウイルスに効果期待できない。

[615.28. SER:2000.9.12.古泉秀夫]


  1. 森良一・他:戸田新細菌学;南山堂,1985
  2. 川名林治・他編:標準微生物学;医学書院,1982
  3. 水口康雄・他:ナースのための微生物学;南山堂,1987
  4. 武田美文・監修:院内感染防御マニュアル;薬業時報社,1996
  5. 遠藤美代子・他:セラチアの輸液中での増殖実験<抄録>;IASR,21(8):166-167(2000)
  6. http://idsc.nih.go.jp/iasr/21/246/dj2465.html
  7. 福島雅典・総監修:メルクマニュアル 第17版 日本語版;日経BP社,1999
  8. 第十三改正日本薬局方解説書;広川書店,1996
  9. 日本病院薬剤師会・編:院内における消毒剤の使用指針;薬事日報社,1987
  10. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2000
  11. 日野原重明・他監修:今日の治療指針;医学書院,1998
  12. 日本病院薬剤師会・編:院内における消毒剤の使用指針 改訂版;薬事日報社, 1994

スコポラミン(scopolamine)の毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 スコポラミン(scopolamine)
成分 臭化水素酸スコポラミン(scopolamine hydrobromide)
一般的性状 [英] scopolamine methylbromide、[独]scopolaminhydromide、[仏]bromhydrate de
scopolamine、[ラ]scopolamini hydrobromidum。[局]収載。副交感神経遮断薬。ヒヨス、チョウセンアサガオなどから得られるアルカロイド。無色又は白色の結晶あるいは白色の粉又は粉末。無臭、水に溶け易く、エタノールにやや溶け難く、クロロホルムに溶け難く、エーテルには殆ど溶けない。アトロピン様作用を示す。軽度の中枢抑制作用をもつ。内服又は皮下注射で躁状態、麻薬の禁断症状などに鎮痙薬として用いる。またパーキンソン症候群にも有効。無痛分娩に麻薬性鎮痛薬と併用する。散瞳の目的で点眼する。鎮静効果や唾液分泌抑制効果を現す。毒薬。極量:1回0.5mg、1日1.5mg。
*中枢神経系に対する作用は、アトロピンが興奮作用を呈するのに対して、スコポラミンは末梢作用発現の用量で軽度の中枢抑制作用がみられ、眠気、無感動、健忘、催眠等を起こす。
*ネコの網様体賦活系を抑制し、また光刺激に対する脳波覚醒反応を抑制する。末梢の副交感神経支配器官に対する遮断作用はアトロピンに類似している。
*鼻・口腔・咽頭・気管支等の分泌を抑制する。散瞳作用の発現は、アトロピンより速く、消失も速い。
毒性 急 性毒性:LD50(ラット)皮下3800mg/kg。 経口中毒量:3-5mg。
症状 経 口:30分ほどで口渇が現れ、体のふらつき、嘔気、倦怠感、眠気、散瞳、遠近調節力や対光反射の消失(羞明感や眼のちらつき)。
発汗が抑制され、皮膚が乾燥し、熱感をもつ。特に小児の場合には、顔面、首、上半身に皮膚の紅潮を見る。また体温が上昇する。やがて興奮が始まり、痙攣、錯乱、幻覚、活動亢進などが見られる。重篤な場合には昏睡から死に至る。血圧上昇、頻脈が見られるが、末期には血圧低下、呼吸麻痺を来す。

過量投与:呼吸中枢を抑制する。

処置 医療機関での処置
基本的処置:消化管の蠕動が抑制されるため、摂取後24時間以内であれば催吐、胃洗浄、活性炭と下剤の投与。
拮抗剤:フィゾスチグミン(未市販。院内製剤)2mgを緩徐に静注。追加投与が必要な場合、20分程度経過後1-2mg追加。小児では0.5mgを使用(フィゾスチグミンは、気管支喘息、四肢などの壊死、心疾患、消化管や尿路の機械的狭窄を増悪させるので、使用に当たっては十分な注意が必要である)。対症療法:膀胱の弛緩性麻痺が起こるため、尿閉となり、しばしば導尿の必要がある。

過量投与時の治療法:呼吸管理(酸素吸 入・人工呼吸等)を行い、興奮症状が強い場合はジアゼパムやフェノバルビタールを投与。フェノチアジン類は抗ムスカリン作用により中毒症状を悪化させるので、使用不可。
解毒剤:ChE阻害薬(ネオスチグミン等)。

事例 めがねや木綿の靴下などはポケットに入れられるけれども、がんじょうで不格好な編上靴や帽子は?これもがんこなイギリス風の帽子ですから?どこかへ片づけなければならなかった。で、それらは窓の外にほうり出された。その後ほんもののウィニーは海峡を渡り?麻薬を飲まされてぼうっとなっている女の子がイギリスからフランスへ運ばれるのを、警察もだれも捜していなかったのです?で、彼女は幹線道路の道ばたに車からそっと置き捨てられた。 もし彼女がスコポラミンでずっと眠らされていたのなら、その間に起こったことを記憶していないのは当たり前でしょう」
ミス・ホープはしばらくあっけにとられていたが、やがてふと思いついたように疑問を投げた。「でも、なぜそんなことをしたのかしら。そんなばかげた変装をした理由は、いったいなんなのです」ポアロは重々しく答えた。「ウィニーの荷物です! あの連中はあるものをイギリスからフランスへ密輸したかったのです?それは税関やあらゆる係官が目を光
らせているもの?盗品なのです。そこでかれらは妙案を思いついた?女学生のトランクほど安全な隠し場所はほかにあるだろうか! ミス・ホープ、あなたは著
名人ですし、あなたの学校もまた有名です。ノール駅では、生徒たちのトランクはひとまとめにして無検査で通りました。有名なミス・ホープ学院の名がそうさせたのです! そしてその後は?すでに誘拐事件が起きているのですから?パリ警視庁の者になりすましてあの子の荷物を取りに行っても、怪しまれるはずはないでしょう」
[アガサ・クリスティー:ヘラクレスの冒険-ヒッポリュトスの帯-(高橋豊・訳);ハヤカワ文庫,2001
備考 この物語で使われているスコポラミンは、殺人の目的で使用されたわけではなく、催眠目的で使用されたものである。現在医療用として使用されているスコポラミ
ンは、臭化水素酸スコポラミン(scopolamine hydrobromide:麻酔前投薬、特発性及び脳炎後パーキンソニズム→皮下注)、臭化ブチルスコポラミン(scopolamine
butylbromide:胃・十二指腸等の痙攣並びに運動機能亢進→経口・静注・皮下注・筋注・坐薬)、メチル硫酸N-メチルスコポラミン(N-methylscopolamine)
methylsulfate:胃・十二指腸潰瘍時の痙攣性疼痛→経口)の3種類であるが、物語で使用されたのは適応症から見て臭化水素酸スコポラミンであり、現在、我が国では錠剤の製造はされていないが、従前は錠剤の販売もされていた。
文献 1) 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,20042)薬科学大辞典 第2版;広川書店,1990
3)大阪府病院薬剤師会・編:全訂医薬品要覧;薬業時報社,1984
4)鵜飼 卓・監修:第三版 急性中毒処置の手引き;薬業時報社,1999
調査者 古泉秀夫 記入日 2005.1.19.

シキミの毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 シキミ・樒。別名:ハナノキ、コウノキ。英名: japanese anise-tree。
成分 枝葉にはサフロールを豊富に含む。有毒成分はアニサチン(anisatine)で、全草に含まれるが特に実に多い。anisatine: 0.12-0.14%。
一般的性状 モクレン科シキミ属。学名:Illicium religiosum Sieb.et Zucc.。果実が有毒なので悪シキ実、臭き実、重実などの説がある。葉や幹を燃やすと、死体の悪臭を消すほどの強い臭いを放つ。本州関東から沖縄、及び 朝鮮半島南部、中国の暖帯に分布。中華料理に使用される大茴香は同属のトウシキミ(Illicium verum)の果実で、トウシキミには有毒成分は含まれていないが、実の形や香りがシキミと似ている。日本から独逸に輸出したシキミの実が大茴香に混ぜら れて食品として販売され、多数の独逸人が中毒を起こしたことがある。
毒 性 アニサチン(anisatine)は抑制性神経伝達物質γ-ア ミノ酪酸(GABA)の作用と拮抗することにより中毒症状を発現する。痙攣性神経毒。 マウスLD50:1mg/kg。 樒実30個以上約100個で症状出現。シキミ種子:人推定経口中毒量:60-120個。

シキミ果実粉末:イヌ・ネコ経口致死量:400mg/kg。

anisatine:イヌ致死量:12mg(約1.2-2mg/kgに相当)。

各部位の毒性比(マウスに流動エキスを腹腔内投与し求めたLD50値 で比較):果被の毒性を1とした場合、種子1/4、根部1/7、葉1/9、樹皮1/10。

1990年11月12日山で拾った椎の実などでパンケーキを作って食べたところ、2時間経過後5人が嘔吐、全身痙攣を起こし、12人が入院した。シキミの 実は毒物及び劇物取締法で劇物に指定されている。

症状 中枢興奮・強直性痙攣。 消化器症状として嘔気、嘔吐、下痢をもたらし、中枢神経症状として顔面蒼白、発熱、催眠、全身痙攣、意識障害をもたらす。中毒症状:1-6時間の潜伏期の後に発現し、嘔吐、下痢、眩暈、痙攣、意識障害、呼吸障害、血圧上昇など。シキミは種子より果皮の方が危険。
処置 特 異的解毒薬・拮抗薬はない。 *基本的処置:胃洗浄、活性炭、下剤投与(処置時痙攣発作に注意)。*対症療法:呼吸管理。

*抗痙攣剤投与(ジアゼパム投与、無効であればフェノバルビタール、又はフェニトイン)。

*強制利尿。

事例 若だんなは苦笑いだ。居間の中を小鬼達がちょろちょろと逃げ まどう。それを仁吉が追う。目まぐるしい働きに、止めかねている若旦那の前に不意に、横から一本の緑の枝が差し出された。 「これはなんだい、屏風のぞきや」「しきみさね。仏壇に供えてあるのを、若だんな見たことがあるだろう?」

小枝を片手に屏風から現れた派手な付喪神は、にやりとした笑いを浮かべると、若だんなの側に座り込んだ。

「こいつは九兵衛の隠居所に植わっていたものだ、知っているかい、若だんな。しきみには、大層な毒があるんだよ」

「九兵衛さんはこいつで殺されたって言うの?」

目を見張る若だんなに、屏風のぞきの顔は得意げだ。

「盛られた毒が石見銀山鼠取り薬だったら、医者だってすぐにそれと分かるんじゃないかい?。未だに毒の見当がつかないってことは、こういうものが使われた のさ、きっと」[畑中 恵:ぬしさまへ;新潮文庫,2001]。

備 考 甚だおかしな小説で、最初手にした時には、如何に何でも妖怪が出てくるお話しはないだろうということで、通りすぎたが、2冊目(本書)が出たときに本屋で 2冊が山積みにされていたので、ホー、もしかしたら面白いのかも知れないと思って手に入れた。 本書も色々な付喪神や妖怪が活躍するが、彼らが死因として持ち出してくるのが、その死者の家の庭に無闇に植えられている草花のうち毒のあるものである。その中の主役として屏風覘きが推薦したのが『樒』である。但し、彼らが活躍した江戸時代なら『樒』もおどろおどろしい毒草になるかも知れないが、医療技 術の発達した今日では、死亡するところまではいかないようである。事実、樒実を椎の実と間違えてパンケーキにして食した15人は酷い目にあったようである が、死者は報告されていない。

しかし、樒という木はよほど防御本能の発達した木だと見えて、昆虫や動物に葉であれ実であれ、食べられるのは嫌だという偏屈さを持ち合わせているようで 全体に毒がある。そのうち最も毒性が強いのは実で、中華料理に使用される八角に類似しているため、中毒症状が起こったとする報告も見られる。

文献 1)牧野富太郎:コンパクト版I 原色牧野日本植物図鑑;北隆 館,2003 2)清水矩宏・他編著:牧草・毒草・雑草図鑑;(社)畜産技術協会,20053)海老原昭夫・編著:知っておきたい毒の知識;薬事日報社,2001

4)Anthony T.Tu・編著:毒物・中毒用語辞典;化学同人,2005

5)内藤裕史:中毒百科-事例・病態・治療-;南江堂,2001

6)西  勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル 改訂7版;医薬ジャーナル,2005

7)鵜飼 卓・監修:第三版 急性中毒処置の手引き;薬業時報社,1999

調 査者 古泉秀夫 記入日 2006.8.24.

ジギタリン(Digitaline)の毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 ジギタリン(Digitaline)
成分 digitoxin (ジギトキシン)
一般的性状 [原] Digitalis purpureaの種子の配糖体、100単位/g、Digitalinum purum Germanicum。
Digitaline(BPC,54)(Nativelle)→ジギトキシン0.1mg錠、0.2mg注。
ジギトキシン(digitoxin)は白色-淡黄白色の結晶性粉末。無臭、ク ロロホルムにやや溶け易く、エタノールにやや溶け難く、水又はエーテルに殆ど溶けない。 [毒]、JP10、USP20。digitoxinは消化管からの吸収は極めて良好で、経口投与後、速やかに また殆どが吸収される。尿中には未変化体のほか、糖質部分の加水分解と抱合を受けた代謝物が多く、ジゴキシンのような水酸化体の量は少ない。代謝において胆汁排泄の占める役割は多く、その腸肝循環はヒトや動物で認められ、生物学的半減期が比較的長いのは腸肝循環に由来する。即ち、常用量(1日0.1-0.3mg)程度の投与時には、24時間でその約10%が尿中に排泄されるにとどまり、糞中への排泄は尿中よりもやや大である。1回投与して10日後でも約半量が体内に残り、20日後でも一部が排泄を終了せず、蓄積される傾向を示す。排泄が遅いので、作用持続時間が長く、摂取後6-8時間でジギタリス作用が完全に認められる。
吸収:腸管からほぼ完全に吸収される。
分布容量:0.5L/kg。心筋内の濃度は血中の約7倍。
生物学的半減期:8-9日。
蛋白結合率(アルブミン):97%。
排泄:腸肝循環により再吸収される。16-30%が未変化体として排泄。
半減期:7-8日。
毒性 急 性毒性
マウス経口LD50:7.5mg/kg。
ラット経口 LD50:23750 μg/kg(23.75mg)
ラット皮下 LD50:16430μg/kg (16.43mg)ラット静注 LD50:3900μg/kg (3.9mg)
マウス経口 LD50:4950μg/kg (4.95mg)
マウス皮下 LD50:22180μg/kg (22.18mg)
マウス静注 LD50:4100μg/kg (4.1mg)(RTECS)
中毒発現血中濃度:2.5ng/mL以上。

推定致死量:5mg。

症状 強心配糖体含有植物の摂取により以下の報告
循環器:徐脈、第3度房室ブロック、心室性期外収縮、不全収縮、心房細動など各種の不整脈。徐脈や不整脈による二次的な血圧低下。
神経系:頭痛、易疲労性、倦怠感、錯乱、発語困難、痙攣。
消化器系:嘔気、嘔吐、口渇、疝痛性腹痛。その他:心電図上ではQ-T間隔の短縮、T波の平坦化あるいは逆転化、P-R間隔の延長が報告されている。

徴候・症状:過量投与時ジギタリス中毒が 起こることがある。以下の中毒症状が発現することがある。
1)消化器(食欲不振、悪心・嘔吐、下痢等)、
2)循環器(不整脈、頻脈、高度の徐脈等)
3)眼 [視覚異常(光がないのにちらちら見える、黄視、緑視、複視等)]
4)精神神経(眩暈、頭痛、失見当識、錯乱等)
5)血液(血小板減少)

処置 医療機関での処置
[1]基本的処置:催吐、胃洗浄、活性炭及び下剤の投与。腸洗浄。
[2]特異的治療:抗ジゴキシン抗体(DigibandTM:日本未発売)の投与。digitoxinの除去に血液灌流 が有効との報告がある。
[3]対症療法:不整脈対策。
活性炭・緩下剤の投与(参照)活性炭の投与は薬毒物の摂取後1時間以内が有効であるが、以下の特徴を持つ薬物では、24-48時間にわたり2-6時間毎に繰り返し投与する方法が推奨さ
れている。
活性炭を繰り返し投与の適応は、分布容量(Vd)が小さく、蛋白結合率の低い物質で、脂溶性、血中でイオン化していない、腸肝循環する、若しくは腸溶剤
(徐放剤)である物質(例:テオフィリン、三環系抗うつ薬、フェノバール、オピオイドなど)。
処方例
活性炭  50gを微温湯300-500mL(小児では1g/kgの活性炭を生理食塩水10-20mL)に溶解し、坐位で服用。
その後、半量を3時間毎に24時間まで繰り返し投与。
下剤としてD-ソルビトール液(75%)2mL/kgを投与し、6時間後に排便がなければ半量を繰り替えし使用(保険適用外)。

治療

1)過量投与の管理:連続的心電図モニターを行う。digitoxinによる調律異常が疑われる場合には投与を中止する。
2)気道を確保し、換気と灌流を維持する。バイタルサイン、血液ガス、カリウムとdigitoxin濃度をモニターする。
3)活性炭の投与で薬物の吸収を減らす。
4)徐脈や心ブロックにはアトロピンやペースメーカーを用いる。
*過量投与時の強制利尿、腹膜透析、活性炭による血液吸着の有効性未確立。

中毒治療上の注意
[1]強心配糖体による急性中毒の症状は、ジギタリス製剤を長期間服用していた時の慢性中毒の症状とは異なる。急性中毒では心疾患を伴わない正常人で起こり、嘔気、嘔吐が殆ど必発である。
心電図所見では、一般にブロックと徐脈を伴った上室性頻拍で、心室性不整脈は殆ど認めない。血清カリウム値は摂取量と経過時間によって正常又は増加してい
る。血中濃度は必ず高く、血清カリウム値上昇や不整脈の存在とほぼ相関すること等が特徴である。

[2]血液透析は高カリウム血症の補正には有効であるが、強心配糖体の除去には有効ではない。
血液灌流はジゴキシンの除去には無効であるが、digitoxinを10mg摂取した女性例では、活性炭による血液灌流で、血中半減期を145時間から20時間に短縮させ、8時間2回の施行で50%を除去したとの報告がある。
[3]低カリウム血症が存在し、心室性頻拍症や心室細動の危険があれば、KCL 40-80mEqを5%-ブドウ糖液500mLに添加し、20mEq/時以下の速度で投与する。
[4]抗不整脈薬の投与:徐脈や房室ブロックにはアトロピンが有効である。1回0.5mg(小児では10-30μg/kg、1回0.4mg迄)を静注し、必要があれば繰り返す。心室性期外収縮には房室伝導を抑制しないリドカイン、フェニトインの投与。プロカインアミドは上室性、心室性の両方の頻拍症に有効であるが、刺激伝導系の抑制が強いので注意。プロプラノロールなどβ-遮断薬は頻拍症に有効であるが、心不全を増強する危険がある。
[5]著しい徐脈や2度以上の房室ブロックがある時、又は薬物療法が無効な時は、経静脈的にペースメーカーを留置してペーシングを行う。
[6]心室細動や薬剤不応性の心室性不整脈に対しては電気的除細動を行うことになるが、通電によって心筋の被刺激性が亢進するので注意を要する。

事例 「エ ディスの考えるとおりだとぼくも思うな。ちょっと、ジョセフィンをこの家から遠ざけておく方が賢明だよ。だけどね、ソフィア、あの子の知ってることをなんとかして話させなければならない」
「あの子、きっとなんにも知らないわ。ただ知ったかぶりをしてみせているだけ。自分をさも偉そうに見せるのが、あの子好きなのよ」
「いや、それだけじゃないよ。ココアにどんな毒薬が入っていたか、警察では知っているのかな?」
「ジギタリンと見ているの。エディス伯母さん、心臓が弱いのでジギタリンを飲んでいるのよ。伯母さんの部屋には、小粒の錠剤のいっぱいはいっている瓶がお
いてあったけど、それが空になってしまって」
「そういうものには鍵をかけておくべきだったね」
「伯母さん、そうしておいたのよ。でも、ある人にとっちゃ、その鍵を探し出すなんてそう難しいことじゃないと思うわ」
「ある人?ね、だれのこと?」私はまた、積みあげられている荷物の山に目をやった。私は思わず大声で言った [アガサ・クリスティー(田村隆一・訳):ねじれた家;早川書房,2004]。
備考 Digitaline は、英国におけるdigitoxinの商品名であると推測したが、資料によっては原薬を疑わせる記載もされている。しかし、この項では成分はdigitoxinであるとして話を進める。digitoxinの推定致死量は5mgと報告されているが、これで間違いなく死ぬと仮定して1錠: 0.1mg含有の製剤では50錠が必要である。50錠をカップ1杯のココアに溶かしたとして、よほど大きなカップに大量のココアが入っていなければ、錠剤を成型するための賦形剤の関係で、汁粉状になってしまい、誰も飲む気はしないのではないか。更にdigitoxinは水に溶け難いとされており、致死量を水溶液とするためには、コップ1杯程度ではとても無理だと思われる。
従ってdigitoxinの錠剤を用いる方法は、実際的とはいえないが、物語の中で使用する分には、何の問題もないということである。探偵小説の中で使用される毒薬は、読者にそれらしく思わせればそれでいい訳で、『ねじれた家』も、digitoxinを使用したことが瑕疵になる等ということではないことを申し添えたい。しかし、これがdigitoxinの原末を使用したのであれば、怖い話である。
文献 1) 薬名検索辞典;薬業時報社,1984
2)大阪府病院薬剤師会・編:全訂 医薬品要覧;薬業時報社,1984
3)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,20044)鵜飼 卓・監修:第三版 急性中毒処置の手引き;薬業時報社,1999
5)白川 充・他共訳:薬物中毒必携-医薬品・化学薬品・動植物による毒作用と治療指針 第2版;医歯薬出版株式会社,1989
6)志田正二・代表編:化学辞典;森北出版,1999
7)http://www.chemlaw.co.jp/Result_Eng_D/Digitoxin.htm,2005.1.30.
8)山口 徹・総編集:今日の治療指針;医学書院,2005
調査者 古泉秀夫 記入日 2005.1.30.

朱砂の毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 朱砂(しゅしゃ)
成分 硫化水銀(II)。Mercury(II) Sulfide。(HgS)。硫化第二水銀。mercuric sulfide。純品ではHg(86.2%)、S(13.8%)を含み、その他亜鉛、微量のセレン、少量の粘土、有機質、Fe等を含んでいる。
一般的性状 別 名:朱、丹砂(たんしゃ)、辰砂(しんしゃ)、飛朱砂、銀朱、鏡面朱砂(きょうめんしゅしゃ)、真朱(しんしゅ)、赤色硫化水銀。硫化水銀。 mercuricsulfide。
鏡面朱砂の名称は辰砂を小さな乳鉢ですりつぶすと最初は鏡面のように銀色になるためである。また、辰砂の名称は、中国の辰州で採れた事から名付けられた。
水銀鉱物の天然辰砂鉱石(Cinnabar)砂石の粉末。薬理作用
[1]鎮静、催眠、抗不安作用。
[2]外用では抗菌、抗真菌作用がある。
適応症
[1]不眠、多夢、動悸、躁状態、熱性痙攣などの病態。
[2]口内炎、咽喉部の疼痛などは外用として用いる。
用量:0.3-0.5g。一般に丸薬、散剤として用いる。
注意
[1]毒性があるため、長期連用は避ける。[2]火で焼くと、水銀が析出するので、毒性が増強される。

辰砂(cinnabar)の毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 辰 砂(cinnabar)
成分 水 銀(mercury)
一般的性状 辰砂、[英]cinnabar、 [ラ]cinnabaris→朱。
朱(vermillion、chinese red)。別名:赤色硫化水銀、辰砂、丹薬、丹砂、硫化第二水銀(HgS)。水、アルコール、硝酸には殆ど溶けない。王水や硫化ナトリウム溶液には溶ける。深紅色。水銀の最も重要な鉱石鉱物で、古代から使用されていた。水銀製造の原料となる。漢方では精神安定薬として、不眠、眩暈、癲癇などに用いる。防
腐剤として軟膏を調製し寄生性皮膚疾患に用いられたことがある。丸剤の剤皮や朱肉、朱墨等の顔料にも用いられる。
奈良県大宇陀町大和水銀鉱山、変質母岩中に塊状、鉱染状をして産した。辰砂を空気中で400-600℃に熱し、生じた水銀の蒸気を冷却すると凝縮する。
水銀:[英]mercury、[独]quecksilber、 [仏]mercure、 [ラ]hydragyrum。Hg。周期表、遷移元素II族に属する金属の一つ。主に辰砂(HgS)として産出。酸化物を強熱して製する。銀白色で、常温で唯一液状の金属元素である。化合物には医薬として用いられるものも多いが、毒性が強い。アマルガム合金の材料。水銀は二価の金属であり、重金属に属する。二価の重金属は体内で重い非金属原子である硫黄と結合し易いため、長期間にわたって悪質な毒性を発揮する原因の一つである。
毒性 金属水銀:毒性はほとんど無い(体温計1本中に金属水銀0.8-1.2g含有。経口摂取しても消化管 からの吸収は極めて僅か)。
水銀蒸気:ヒト吸入中毒量1.2-8.5mgHg/m3、ヒト吸入無作用濃度 0.1mg/m3。
水銀が体内に入った場合の急性中毒としては、水銀蒸気の吸入によって口内炎や 下痢、肺炎、重篤な腎障害を生じ、回復は遅い。慢性の水銀中毒では貧血、白血球減少、更には肝障害、腎障害を生ずる。更に中毒が進むと歯の弛み、手足の知覚喪失、食欲不振、精神機能の低下や精神異常などの神経症状が生じる。
水銀蒸気は体内に良く取り込まれ、長期間にわたって毒性を発揮する。水銀蒸気 の作業環境における許容濃度は、0.05mg/m3である。水銀は気化し易く、室温に水銀を曝した時の飽和濃度は20mg/m3と許容濃度の400倍に上る。温度が高いほど気化し易く、こぼれて細粒化した水銀は表面積が大きくなるため更に気化し易くなる。
症状 金属水銀:体温計の水銀など、金属水銀を嚥下しても殆ど吸収されないので、何ら障害を来すことはない。
水銀蒸気:肺で70-80%が吸収され、肺に高濃度に沈着する。
金属水銀吸入時には悪寒、発熱、頭痛、痙攣。気管支刺激症状、数時間で呼吸困難、やがて肺炎、間質性肺炎、肺水腫を来す。
処置 金 属水銀の経口摂取では、経過観察でよい。
水銀蒸気吸入では呼吸管理(酸素吸入、人工呼吸など)を中心とした対症療法。
水銀蒸気呼吸管理を中心とした対症療法。
キレート剤投与:D-ペニシラミン経口投与(250mg/回、1日4回又は1g/日を限度として3-4回に分けて投与。小児は100mg/kg/日。3-10日で一旦中止し、尿中水銀量の変動を見て必要なら再投与)。
BAL筋注(3-5mg/kg、4時間毎に最初の2日間筋注。更に2.5-3mg/kgを6時間毎に2日間筋注。その後、同量を12時間毎に7日間筋注)。
腎不全の対症療法
事例 重兵衛は眼鏡をかけて紙包みを開いた。黒・黄色・緑とくすんだ色の草根木皮を刻んだ細粒が赤い粉にまみれている。重兵衛は小指の先でそれを掻き分けながら吟味した。
「そいつを煮立てて、湯気を口から吸うと咳が止まるというんだが」
五二半は老人の指の動きを見詰めた。重兵衛は指先についた赤い粉を舌先に載せて口をもぐもぐさせていたが、傍らの茶碗のお茶を含んでぺっと庭に吐き捨てた。「薬研で潰した粒は風邪のときに用いるものだが、赤いのは辰砂だな」
「しんしゃ?」
「ああ。大和の、奈良の南のあれはなんという所だったか、あっちの山で採れる。これで水銀を作る。楊梅瘡の薬としてある。梅毒、ほれ、瘡(カサ)ですよ。
しかし、いまどきこれを使う医師がいるかな。私も詳しいことは分からんが、ひどいときには苦しみぬいて死んでしまうそうだ。先ごろ『延寿丸』という薬ができてうちでも売っているが、梅毒は治りがたい病気だ。『延寿丸』では効かぬというので辰砂や水銀を使う医師もいるらしい。ところで半さん、それと御用の筋と何かつながりがあるのかね」 [和巻耿介:御府内隠密廻り同心 五二半捕物帖(五);春陽文庫,1997]
備考 『金属水銀は室温で蒸発して水銀蒸気が発生するので、体温計を壊して水銀が室内にこぼれた場合、放置せず、ガラス瓶中に水を入れその中に水銀保存し、化学薬品
処理業者に廃棄を依頼する』というのが、病院勤務時代の内規である。
金属水銀は、室温程度で気化するが、水銀の原料である辰砂を煮立てた程度では、水銀蒸気が発生するとは考え難い。ただし、水銀を飲まされて声がつぶされたという話は、伝承的な話として聞いた記憶があるが、中毒時に気管支系の症状が出ることを意味しているのかも知れない。
幼児が体温計を噛み砕いて水銀を飲んだとする急患室の利用が見られるという。水銀体温計の利用者は、幼児の手の届かないところに保存すること厳守すべきで
ある。水銀の経口摂取に毒性はなくとも、体温計のガラスで口腔内を切ることもあれば、ガラス片を飲み込む様なことになれば、重篤な状態に陥る可能性もあるということである。
文献 1) 薬科学大辞典 第2版;広川書店,1990
2)松原 聡:フィールドベスト図鑑 日本の鉱物;学習研究社,2003
3)大木幸介:毒物雑学事典-ヘビ毒から発癌物質まで-;講談社ブルーバックス,1999
4)舟山信次:図解雑学 毒の科学;ナツメ社,2004
5)志田正二・代表編:化学辞典;森北出版株式会社,1999
6)山口 徹・総編集:今日の治療指針;医学書院,2004
7)鵜飼 卓・監修:第三版 急性中毒処置の手引き;薬業時報社,19998)内藤裕史:中毒百科-事例・病態・治療-;南江堂,2001
調査者 古泉秀夫 記入日 2004.11.20.

ジギタリス(digitalis)の毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 ジギタリス(digitalis) 、キツネノテブクロ(foxglove)。ゴマノハグサ科ジギタリス属(Digitalispurpurea)又はキツネノテブクロ属。和名:狐手袋。英名:Common Foxglove。別名:Foxglove(fairies’gloveの転化:妖精の手袋)、fairythimble(妖精の指貫)。
成分 薬用部分:葉。葉には強心配糖体のジギトキシン(digitoxin)、ギトキシン (gitoxin)、ギタロキシン、プルプレアグリコシドA、B、グルコギタロキシンなどの他、フレグナン配糖体のプルプニン、ジギニン、ステロイドサポニンのF-ギトニン、フラボノイドのルテリンなどを含む。
一般的性状 digitalis。学名:Digitalis purpurea Linn

食物過敏症患者に投与禁忌とされる薬剤[改訂第4版]

金曜日, 8月 17th, 2007

食品に過敏症の既往歴のある患者に、投与禁忌とされている薬剤は、酵素系 の薬剤であり、消化酵素系では、ブタ膵臓が原料として使用されている『pancreatin』が標的薬剤 である。なお、配合組成中に『膵臓性消化酵素』と記載されている薬剤の場合も、標的薬剤は『pancreatin』 である。

その他、『孵化鶏卵』を用いてウイルスを増殖させることから、「influenza HA vaccine」では、鶏による過敏症の既往者では禁忌とされており、『lysozyme chloride』では、鶏の卵白から得られる塩基性ポリペプチドということで『卵白』アレルギーの既往者では、投与禁忌とされている。『lysozyme chloride』の場合、医療用医薬品よりは『OTC』に配合されているものが多いので注意が必要である。

『albumin tannate』では、全て タンニン酸と牛乳カゼインを原料として製造されていることから、『牛乳アレルギー』の既往患者では、 投与禁忌とされている。

牛乳に関しては『耐性乳酸菌』製剤の一部 について、医薬安第50号「医薬品の使用上の注意の改訂について」(平成11年5月12日)により、アナフィラキシー様症状の発現が追記された。但し、ビ オフェルミン、ビオフェルミン-R等の生菌製剤の一部は、今回の改訂指示からは除外されている。なお、本剤によるアナフィラキシー様症状の発現は、低年齢 層に限定されていないので注意する。

また『saccharated pepsin(含糖ペプシン)』では、その原料がブタ又はウシの『胃粘膜』から得た『pepsin』であることから、ウ シ及びブタ蛋白質に過敏症の既往患者では、投与禁忌とされている。

『interferon』製剤の一部では、その製造に際し、培養にウシ血清を用いており、「異種蛋白否定試験(陰性であ ることの確認)を行っているが、極微量の混入の可能性を完全には否定できないとして、『ウシ由来物質』 に過敏症の既往歴が記載されている。

従って、表中の薬剤を処方する場合、問診により患者のアレルギー歴を十分 確認することが必要である。

分類・一般名・商品名(会社名) 対象飲食物 概要
[639]IFNβ(持田)

成分:interferon-β

本剤及びウシ由来物質に過敏症の既往歴 ■本剤の製造に際し、培養にウシ血清を用いており「異種蛋白否定試験(陰性であることの確認)を 行っているが、極微量の混入の可能性を完全には否定できない。
[233]アクチムカプセル(三共)

組成:taka-diastase N 100mg・cellulase AP 20mg・lipase M.Y.50mg・pancreatin 100mg/Cap.

ウシ又はブタ蛋白質に過敏症の既往歴 ■本剤中に配合されているpancreatinは動物の膵臓から製した多種消化酵素の混合物で、プ ロテアーゼ、アミラーゼ、リパーゼ作用など多くの酵素作用を有する。従って原料動物による過敏症既往患者では、本剤投与により再度過敏症発現の可能性が予 測される。

■配合成分であるpancreatinは、くしゃみ、流涙、皮膚発赤等を起こすことがあるの報告。

■本品は食用獣、主としてブタ膵臓からから製したもので、澱粉消化力、蛋白消化力及び脂肪消化力が ある酵素剤で、1g当たり2800澱粉糖化力単位以上、28000蛋白消化力単位以上及び960脂肪消化力単位以上を含む。

[325]アミノレバンEN(大塚)

組成:L-isoleucine 1.9225g・L-leucine 2.037g・lysine hydrochloride 0.2425g・L-threonine 0.133g・L-valine 1.602g・L-arginine hydrochloride 0.302g・L-histidine 1875g・L-tryptophan 73.5mg・ゼラチン加水分解物6.5g・コメ油3.5g・デキストリン31.05g等/50g/包

牛乳に対しアレルギーのある患者 ■「肝不全用経口栄養剤」である本剤は、添加物としてカゼインを含有することから、牛乳に対しアレ ルギーのある患者に対する注意を喚起するために記載。

■本項が「禁忌」に追記されたのは、平成12年1月12日付事務連絡による。添加剤としてカゼイン 又はその塩類を含有する全ての医薬品が対象とされたた。

[231]アンチビオフィルス(日研)

成分:antibiotics-resistant lactics and bacteriae

牛乳に対してアレルギーのある患者 ■本剤によるアナフィラキシー様症状の発現は、「耐性乳酸菌等に起因するアナフィラキシー様症状で はなく、製剤化に際して『安定化剤として添加されている脱脂粉乳』によるものである。

参照

上記の「禁忌」追記は、大阪小児科学会( 大阪小児科学会会誌,16(1),1999)で報告された過敏な牛乳アレルギーを有する2歳男児の症例が根拠としてあげられている。

生後5カ月でアトピー 性皮膚炎、生後1年で気管支喘息発症。

食物アレルギーのため、牛乳、卵の厳格除去を実施していたが、食物中の微量な乳蛋白に対して反応し、全身じんま疹、 喘息発作が発現した。下痢、嘔吐が発現したため、抗生物質と耐性乳酸菌製剤を投与したところ、投与15分で全身じんま疹、喘鳴、呼吸困難が発現した。

原因 として、医師が処方した耐性乳酸菌製剤の、添付文書に記載のない微量牛乳成分が強度のアナフィラキシーショックを惹起したものと推定されている。

[631]インフルエンザHAワクチン

(化血研)

ビケンHA(阪大微研)

成分:influenza HA vaccine

本剤成分又は鶏卵、鶏肉その他鶏由来のものに対して、アレルギーを呈するおそれのある者 ■本品は孵化鶏卵で増殖させたインフルエンザウイルスの感染力を失活(不活化)させて作る。

製品中 に鶏卵由来の蛋白質が存在するため、鶏卵・鶏肉・鶏由来のアレルギーを発現する者では投与禁忌とされている。

[233]エクセラーゼ(明治製菓)

組成:サナクターゼ50mg・プロクターゼ100mg・オリパーゼ2S 20mg・メイセラーゼ50mg・膵臓性消化酵素TA 100mg/0.4g又は錠・Cap.

ウシ又はブタ蛋白質に過敏症の既往歴 ■膵臓性消化酵素剤(pancreatin)は、ブタ膵臓から精製したものであり、原動物の摂取に よる過敏症発現の既往者では、本剤服用により過敏症発現の可能性が予測される。
[233]エーザイム錠(エーザイ)

組成:pancreatin 300mg・cholic acid 20mg /錠

ウシ又はブタ蛋白質に過敏症の既往歴 ■本剤中に配合されているpancreatinは動物の膵臓から製した多種消化酵素の混合物で、プ ロテアーゼ、アミラーゼ、リパーゼ作用など多くの酵素作用を有する

従って原料動物による過敏症既往患者では、本剤投与により再度過敏症発現の可能性が予 測される。

[217]エマベリンL-Cap.(塩野義)

成分:nifedipine

牛乳に対しアレルギーのある患者 ■本剤は添加物としてカゼインを含有する。

■本項が「禁忌」に追記されたのは、平成12年1月12日付事務連絡により添加剤としてカゼイン又 はその塩類を含有する全ての医薬品が対象とされたため。

[325]エンシュア・リキッド

(明治乳業-大日本)

牛乳蛋白アレルギーを有する患者 ■本剤は半消化態栄養剤で-配合成分としてカゼインナトリウム・カゼインナトリウムカルシウムが配 合されている。

参照

カゼイン(casein):牛乳中でカゼインはカルシウム と結合しリン酸カルシウムの複合化合物(calciumcaseinate complex)を形成し、コロイド状で分散している。牛乳が白色の外観を呈するのはこのためである。食品添加物規格で取り扱うカゼインは酸カゼイン(脱 脂粉乳に酸添加又は乳酸醗酵により精製)のみで

種類 蛋白質 カゼイン
牛乳 3.25%  2.6%
山羊乳 3.3 2.5
水牛乳 3.78 3.2
豚乳  5.8 3.9
馬乳 2.2  1.0
人乳 1.16   0.51
食品添加物のカゼインナトリウムは乳化剤等として使用。
[325]エンシュア・H

(明治乳業-大日本)

牛乳蛋白アレルギーを有する患者 ■本剤は半消化態栄養剤で-配合成分としてカゼインナトリウム・カゼインナトリウムカルシウムが添 加されている。
[325]エンテルード(テルモ)

卵白加水分解物

記載無 ■1998年8月改訂添付文書に特に記載無
[231]エンテロノン-R(HMR)

成分:antibiotics-resistant lactics and bacteriae

牛乳に対してアレルギーのある患者 ■本剤によるアナフィラキシー様症状の発現は「耐性乳酸菌等に起因するアナフィラキシー様症状では なく、製剤化に際して『安定化剤として添加されている脱脂粉乳』によるものである。

参照

(1)73歳・男性。原疾患:下痢(脳出血後遺症:半身不 随)(気管切開後)。

本剤(1g/日)及びFOM服用2時間後呼吸困難、チアノーゼ、意識消失したが、自発呼吸有り。

服用2.5時間後呼吸改善。3時間後 開眼、4時間後反応有り。

翌日には経口摂取可能。血圧・脈拍正常。本剤による軽度の湿疹発現の既往。

他に併用薬としてフェノバルビタール、ニフェジピン。

(2)2歳・男性。原疾患:下痢(気管支喘息、急性咽頭炎、嘔吐)。

気管支喘息の管理は良好であったが、腹痛、嘔吐、咽頭発赤が発現したことからウイルス 感染の疑いでドンペリドン及びセフテラムピポシルの投与開始。翌日下痢が出現したため本剤(2g/日)及びロートエキスのみ服用したところ、1時間後に顔 面の発赤、喘鳴及びじんま疹が発現。

コハク酸ヒドロコルチゾンNa点滴、生理食塩液及び塩酸プロカテロール吸入により同日回復した。

患児は高度の牛乳アレ ルギー(接触するだけでじんま疹)、気管支喘息、アレルギー性鼻炎及びじんま疹があった。他の併用薬:テオフィリン、クロモグリク酸ナトリウム。

(3)31歳・男性。抗生物質投与時の下痢予防(急性扁桃腺炎)。

本剤(1g/日)及び併用薬を服用。10分後に喘息様症状、30分後に全身の痒み及び悪 寒、1時間後に下痢が発現した。プレドニゾロン、ベタメタゾンとマレイン酸クロルフェニラミン配合剤、硫酸オキシプレナリン及びシメチジン投与。翌日回 復。

DLST(リンパ球幼弱化試験)で本剤のみ陽性。他の併用薬:セフロキシムアキセチル、メキタジン。

[231]エントモール散(山之内)

組成:antibiotics-resistant lactics and bacteriae

牛乳に対してアレルギーのある患者 ■本剤によるアナフィラキシー様症状の発現は「耐性乳酸菌等に起因するアナフィラキシー様症状では なく、製剤化に際して『安定化剤として添加されている脱脂粉乳』によるものである。
[395]塩化リゾチーム

lysozyme chloride

アクディーム(グレラン)

アンフラーゼL(東洋製化-小野)

オペック錠(富山)

テラチームL(カネボウ)

ノイチーム錠(エーザイ)

レフトーゼ錠(日本新薬)

□OTCに配合・注意。

卵白アレルギー ■本剤の成分は卵白由来の蛋白質で、卵白アレルギーがある患者においてアナフィラキシーショックを 含む過敏症状の報告。

■塩化リゾチームは、鶏卵白から得られる18種129個のアミノ酸からなる塩基性ポリペプチドで、 ムコ多糖分解作用を有する。消炎酵素剤として、慢性副鼻腔炎、喀痰喀出困難、慢性結膜炎などに内服あるいは概要として用いられる。

[233]含糖ペプシン(各社)

成分:saccharated pepsin

ウシ又はブタ蛋白質に過敏症の既往歴 ■本品はブタ又はウシの胃粘膜から得たpepsinに「乳糖」を混和したもので、蛋白消化力が有る 酵素剤である。

従って、原料動物による過敏症既往歴患者では、本剤の服用により原動物に由来する過敏症の発現が予測される

[325]クリニミール

(森永乳業-エーザイ)

牛乳蛋白アレルギーを有する患者 ■本剤は半消化態栄養剤で-配合成分として牛乳由来のカゼインが配合されている[添付文書, 1999.8.改訂]。

■牛乳由来カゼインによるアナフィラキシーショック。

[231]コレポリー-R散(東和薬品)

成分:antibiotics-resistant lactics and bacteriae

牛乳に対してアレルギーのある患者 ■本剤によるアナフィラキシー様症状の発現は「耐性乳酸菌等に起因するアナフィラキシー様症状では なく、製剤化に際して『安定化剤として添加されている脱脂粉乳』によるものである。
[233]コンビチーム錠(マルホ)

組成:膵臓性酵素220mg・アスペルギルス・オリラーゼ産生酵素 120mg/錠

ウシ又はブタ蛋白質に過敏症の既往歴

牛乳に対しアレルギーのある患者

■膵臓性消化酵素剤(pancreatin)は、ブタ膵臓から精製したものであり、原動物の摂取に より過敏症発現の既往者では、本剤服用により過敏症発現の可能性が予測。

■本剤は添加物としてカゼインを含有する。

[233]ザイマ錠(田辺)

組成:ビオジアスターゼ700 100mg・膵臓性消化酵素TA 50mg・プロザイム620mg/錠

ウシ又はブタ蛋白質に過敏症の既往歴 ■膵臓性消化酵素剤(pancreatin)は、ブタ膵臓から精製したものであり、原動物の摂取に より過敏症発現の既往者では、本剤服用により過敏症発現の可能性が予測。
[233]ストミラーゼ(住友)

組成:ジアスメンSS 50mg・スタラーゼ50mg・モルシン25mg・リパーゼM.Y.50mg・セルロシンAP 30mg・パンクレアチン4倍品50mg/0.3g又はCap.

ウシ又はブタ蛋白質に過敏症の既往歴 ■本剤中に配合されているpancreatinは動物の膵臓から製した多種消化酵素の混合物で、プ ロテアーゼ、アミラーゼ、リパーゼ作用など多くの酵素作用を有する。従って原料動物による過敏症既往患者では、本剤投与により再度過敏症発現の可能性が予 測される。
[639]スミフェロン注(住友)

成分:interferon-α

本剤又は他のインターフェロン製剤及びウシ由来物質に過敏症の既往歴 ■本剤の製造に際し、培養にウシ血清を用いており「異種蛋白否定試験(陰性であることの確認)を 行っているが、極微量の混入の可能性を完全には否定できない。
[233]セブンイー・P(科研)

組成:モルシン40mg・ニューラーゼ30mg・ビオジアスターゼ 2000 20mg・オリパーゼ4S 50mg・セルラーゼAP3 15mg・プロナーゼ5 mg ・膵臓性消化酵素TA 100mg/ Cap.

ウシ又はブタ蛋白質に過敏症の既往歴 ■膵臓性消化酵素剤(pancreatin)は、ブタ膵臓から精製したものであり、原動物の摂取に より過敏症発現の既往者では、本剤服用により過敏症発現の可能性が予測。
[233]タフマックE(小野)

組成:ジアスメン50mg・ジアスターゼ40mg・オノテース10mg・ モルシン20mg・ボンラーゼ45mg・セルロシンAP 20mg・パンクレアチン120mg・ポリパーゼ30mg・オノプローゼA 40mg/0.5g又はCap.

ウシ又はブタ蛋白質に過敏症の既往歴 ■本剤中に配合されているpancreatinは動物の膵臓から製した多種消化酵素の混合物で、プ ロテアーゼ、アミラーゼ、リパーゼ作用など多くの酵素作用を有する。従って原料動物による過敏症既往患者では、本剤投与により再度過敏症発現の可能性が予 測される。
[231]タンナルビン(菱山)

成分:albumin tannate

牛乳アレルギーのある患者

『服用前』に牛乳アレルギーの有無を確認。

■ショック又はアレルギー様症状を起こすことがある。

■牛乳・卵アレルギーのある患児(1歳・男)に下痢治療目的で、ホスホマイシンDS、合成ケイ酸ア ルミニウム、耐性乳酸菌製剤等と本剤を併用1回投与(投与量不明)したところ薬剤服用直後にじんま疹、眼瞼等の血管浮腫、嘔吐、喘鳴等発現。2時間後から チアノーゼ、意識障害、血圧低下等が発現し入院。酸素吸入、輸液、ステロイド投与等の処置により回復。プリックテストで牛乳、albumin tannateに陽性。

■乳製品・卵・牛肉等の食物アレルギーのある患児(5歳・男)に下痢治療目的で 本剤を投与したところ、本剤服用後突然に全身の膨疹、呼吸困難が発現し、ショック状態になる。スクラッチテストでalbumin tannateに陽性。

■albumin tannate は、全てタンニン酸と牛乳カゼインを原料として製造されている。本剤服用によるアナフィラキシー様症状及びショックの発現は、albumin tannateの原料である牛乳由来の蛋白質『カゼイン』によるとされている。

[325]ツインライン(雪印乳業)

乳蛋白加水分解物

記載無 ■1998年7月改訂添付文書に記載無
[325]ハーモニック-M

(エスエス製薬)

低乳糖乳蛋白質

牛乳蛋白アレルギーを有する患者 ■本剤は牛乳由来のカゼインが含まれているため、アナフィラキシー様ショックを引き起こすことがあ る[添付文書,1999.6.改訂]
[325]ハーモニック-H

(エスエス製薬)

乳精蛋白質・低乳糖乳蛋白質

牛乳蛋白アレルギーを有する患者 ■本剤は牛乳由来のカゼインが含まれているため、アナフィラキシー様ショックを引き起こすことがあ る[添付文書,1999.6.改訂]
[233]パンクレアチン(菱山)

成分:pancreatin

ウシ又はブタ蛋白質に過敏症の既往歴 ■本品は食用獣、主としてブタ膵臓からから製したもので、澱粉消化力、蛋白消化力及び脂肪消化力が ある酵素剤であり、1g当たり2800澱粉糖化力単位以上、28000蛋白消化力単位以上及び960脂肪消化力単位以上を含む。

■pancreatinはくしゃみ、流涙、皮膚発赤等を起こすことがあるの報告がある。

[231]ビオスリー・同錠(鳥居)

成分:clostridium butyricum(酪酸菌)

牛乳に対してアレルギーのある患者 ■本剤によるアナフィラキシー様症状の発現は「耐性乳酸菌等に起因するアナフィラキシー様症状」で はなく、製剤化に際して『安定化剤として添加されている脱脂粉乳』によるものである。
[395]プロクターゼP(明治製菓)

組成:プロクターゼ10mg・パンクレアチン50mg/ Cap

ウシ又はブタ蛋白質に過敏症の既往歴 ■本剤中に配合されているpancreatinは動物の膵臓から製した多種消化酵素の混合物で、プ ロテアーゼ、アミラーゼ、リパーゼ作用など多くの酵素作用を有する。

従って原料動物による過敏症既往患者では、本剤投与により再度過敏症発現の可能性が予 測される。

[325]ベスビオン(雪印乳業-藤沢)

MCTカゼイン・ 低乳糖脱脂粉乳・全粉乳

牛乳蛋白アレルギーを有する患者 ■本剤は半消化態栄養剤で-配合成分として牛乳由来のカゼインが配合されている[添付文書, 1999.10.改訂]
[233]ベリチーム(塩野義)

組成:濃厚膵臓性消化酵素125mg・細菌性脂肪分解酵素25mg・アス ペルギルス産生消化酵素剤30mg・繊維素分解酵素15mg/0.4g又はCap.

ウシ又はブタ蛋白質に過敏症の既往歴 ■濃厚膵臓性消化酵素剤(濃厚pancreatin)は、ブタ膵臓から精製したものであり、原動物 の摂取により過敏症発現の既往者では、本剤服用により過敏症発現の可能性が予測される。
[233]ポリトーゼ(武田)

組成:ヒロダーゼ25mg・マミターゼ35mg・リパーゼA 12mg・セルラーゼAP320mg・濃厚パンクレアチン75mg/0.4g又はCap.

ウシ又はブタ蛋白質に過敏症の既往歴 ■本剤中に配合されているpancreatinは動物の膵臓から製した多種消化酵素の混合物で、プ ロテアーゼ、アミラーゼ、リパーゼ作用など多くの酵素作用を有する。従って原料動物による過敏症既往患者では、本剤投与により再度過敏症発現の可能性。
[231]ポリラクトン(吉富製薬)

組成:Lactobacillus acidophilus等耐性乳酸菌400mg含有

牛乳に対してアレルギーのある患者 ■本剤によるアナフィラキシー様症状の発現は「耐性乳酸菌等に起因するアナフィラキシー様症状」で はなく、製剤化に際して『安定化剤として添加されている脱脂粉乳』によるものである。
[233]ホルミラーゼ(第一)

組成:スタラーゼS 50mg・モルシン50mg・リパーゼM.Y.17mg・パンクレアチン100mg/Cap.

ウシ又はブタ蛋白質に過敏症の既往歴(誘発) ■本剤中に配合されているpancreatinは動物の膵臓から製した多種消化酵素の混合物で、プ ロテアゼ、アミラーゼ、リパーゼ作用等多くの酵素作用を有する。従って原料動物による過敏症既往患者では、本剤投与により再度過敏症発現の可能性が予測さ れる。
[233]ミニラーゼS(山之内)

組成:ビオジアスターゼ1000 25mg・ニューラーゼ30mg・リパーゼAP6 12mg・セルラーゼAP3 5mg・膵臓性消化酵素TA 60mg/0.3g 又はCap.

ウシ又はブタ蛋白質に過敏症の既往歴 ■膵臓性消化酵素剤(pancreatin)は、ブタ膵臓から精製したものであり、原動物の摂取に より過敏症発現の既往者では、本剤服用により過敏症発現の可能性が予測される。
[234]ミルマグ錠(阪急共栄物産)

組成:magnesium hydroxide 0.35g/錠

添加物:サッカリンナトリウム・香料・脱脂粉乳(カゼイン含有)

牛乳に対してアレルギーのある患者 ■本剤は添加物としてカゼインを含有する。
[613]メイアクト錠・小児用細粒

(明治製菓)

成分:cefditoren pivoxil

牛乳に対しアレルギーのある患者 ■本剤は添加物としてカゼインナトリウムを含有する。
[614]メデマイシンカプセル

(明治製菓)

成分:midecamycin

牛乳に対しアレルギーのある患者 ■本剤は添加物としてカゼインを含有する。
[233]モルマーゲン顆粒(東亜)

組成:塩酸ベタイン200mg・モルシン50mg・メイセラーゼ 50mg・サナクターゼ50mg・リパーゼM.Y.25mg・含糖ペプシン100mg/g

ウシ又はブタ蛋白質に過敏症の既往歴 ■本剤中に配合されているsaccharated pepsinは、ブタ又はウシの胃粘膜から得たpepsinに「乳糖」を混和したもので、蛋白消化力が有る酵素剤である。従って、原料動物による過敏症既 往歴患者では、本剤の服用により原動物に由来する過敏症の発現が予測される。
[325]ラコール(大塚-雪印)

組成:乳カゼイン・分離大豆蛋白・トリカプリンダイズ油・シソ油等

牛乳蛋白にアレルギーを有する患者 ■本剤には牛乳由来のカゼインが含まれているため、アナフィラキシーショックを惹起することがあ る。
[231]ラックビー(日研)

成分:lactbacillus biofidus(ビフィズス菌)

牛乳に対してアレルギーのある患者 ■本剤によるアナフィラキシー様症状の発現は「耐性乳酸菌等に起因するアナフィラキシー様症状」で はなく、製剤化に際して『安定化剤として添加されている脱脂粉乳』によるものである。
[231]ラックビー-R散(日研)

成分:antibiotics-resistant lactics and bacteriae

牛乳に対してアレルギーのある患者 ■本剤によるアナフィラキシー様症状の発現は「耐性乳酸菌等に起因するアナフィラキシー様症状」で はなく、製剤化に際して『安定化剤として添加されている脱脂粉乳』によるものである。

[1999.12.14.古泉秀夫・ 1999.12.17.第2改訂・2000.3.23.第3改訂・2000.3.24.第4改訂]


  1. 高久史麿・他監:治療薬マニュアル;医学書院,1999
  2. タンナルビン「ヒシヤマ」使用上の注意改訂のお知らせ,1999.8.
  3. アクチムカプセル添付文書,1996.12.改訂
  4. 第十三改正日本薬局方解説書;広川書店,1996
  5. 薬科学大辞典;広川書店,1990
  6. 国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・私信, 1999.12.16
  7. 活性生菌製剤の牛乳アレルギー患者への投与について;わかもと製薬株式 会社,1999.5.
  8. 添付文書改訂のお知らせ「メイアクト錠・小児用細粒」;明治製菓株式会 社,1999.12.
  9. 国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:医薬品情報,26 (6):543-545(1999)
  10. 鈴木郁生・他監修:第7版 食品添加物公定書解説書;広川書店, 1999
  11. クラヤ薬報,No.877:8-9(2000.3.17.)
  12. アミノレバンEN添付文書,2000.1.改訂
  13. 添付文書改訂のお知らせ(アミノレバンEN);大塚製薬株式会社, 2000.2.
  14. ミルマグ錠添付文書,2000.1.改訂
  15. エマベリンLカプセル添付文書,2000.1.改訂
  16. ポリラクトン-ヨシトミ添付文書,1999.5.改訂
  17. ラコール添付文書,1999.10.改訂

食品中のチラミン(tyramine)含有量

金曜日, 8月 17th, 2007

チラミン(tyramine)=4-(2-aminoethyl)phenol、p-hidroxyhenylethylamine。

チロキシンより芳香族L-アミノ酸デカルボキシラーゼの作用で生成する。動物、植物に広く分布する。動物では脳神経に微量に存在しており、い わゆる微量アミン(trace amine)の一種で、ニューロモジュレーター(neuromodulator)として神経伝達作用を調節している可能性が推定されている。 tyramineは、交感神経終末に取り込まれてnorepinephrinを遊離させるので、間接的に交感神経興奮様の作用を示す。モノアミン酸化酵素 (MAO)で酸化的脱アミノを受けてp-ヒドロキシフェニル酢酸となる。

tyramine高含有食品の摂取に引き続き、モノアミンオキシダーゼ阻害薬 (MAOI’s)で治療を行っていた患者に、高血圧の危険性のあることが報告されている。

MAO阻害薬は、胃腸管から吸収されるモノアミン(例えばtyramine)の解毒及び内因性アミン類(norepinephrin、epinephrine) の代謝に関連して、モノアミン酸化酵素の酵素的な作用を抑制する(MAOは体内に広く分布す る酵素)。食品中のtyramineは、通常は腸管壁や肝臓中のMAOにより破壊されてしま うが、患者がMAO阻害薬を服用している場合、tyramineは容易に循環系中に侵入し、 体内に蓄積される。やがてtyramineはMAOが抑制されているため、特別な神経終末部 (epinephrine産生神経単位)に集積したnorepinephrineの大量放出を惹起する。結果的に血圧の異常な上昇、高血圧の危険性が考え られる。

monoamineoxydase(MAO)

[モノアミン酸化酵素]

*モノアミン類[dopamine、noradrenaline(norepinephrine)、 adrenaline(epinephrine)、serotonin、tyramine等] の酸化酵素(脱アミノ酵素)。

*胃腸管からのmonoamine(例:tyramine)の解毒

*norepinephrinやepinephrineの様な内因性アミンの代謝

monoamine oxydase inhibitor(MAOI’s) *モノアミン酸化酵 素阻害薬

tyramine:動植物界に広く存在する生体amineの一つで、チロシンの 脱炭酸されたものである。epinephrineと類似しており、子宮収縮、血圧上昇などの作用がある。腸内の微生物によりチロシンから生成されると有害 である。

報告されている摂取量 報告されている症状
6mg(経 口) 血圧の徴候的な上昇
25mg(経口) 致命的結果
8mg(経 口) 収縮期圧を 30mgHg上昇させた。
20-80mg (皮下注) 血圧が目覚ましく上 昇し、重篤な頭痛が発症
500mg以 上 収縮期血圧を 30mgHg上昇させるに要する量

*食事制限:MAO阻害薬投与中止後最小2週間継続。薬物中断後アミン代謝が正常に回復するまで2週間を要すると考えられている。

飲食物名 含有量 飲食物名 含有量
チェダーチーズ(長期間醗酵) 153.0 ニシンの塩漬 47.0
チェダーチーズ(中期間醗酵品) 19.2 ニシンの塩漬 ND-47.0
チェダーチーズ(短期間醗酵品) 12.0 ニシンの塩漬の漬け 汁 1.51
プロセスチーズ 2.6 ホウボウ類の卵 0.44
ゴーダチーズ 2.0 牛の肉汁 0.0858
ブルーチーズ 9.3-25.6 鶏の肉汁 0.046
ロマノチーズ 23.8 肉エキス(3銘柄) 9.5-30.4
ポー・デュ・サン リュチーズ 111.6 サラミ 18.8
スチルトン・ブルー チーズ 217.0 ドライソーセージ 12.5
パルメザンチーズ 0.4-29.0 鶏肝臓(5日目) 5.1
ビール(4銘柄) 0.65-1.12 鶏肝臓(1日目) ND-0.5
ビール(4銘柄) 0.145-0.452 ソーセージ(経日) 2.9
ワイン(赤・白各2 品目) ND-0.06 コンビーフ 1.1
ワイン(赤6銘柄) 0.035-0.441 スモークソーセージ 0.1
ワイン(白3銘柄) 0.039-0.279 バナナの皮 5.17-6.5
パインジュース 0.04 バナナの果肉 ND-0.7
キャベツの塩漬 5.547 アボガド ND-2.3
醤油 0.176 イチジク ND
濃口醤油 35.6(平均) 米味噌 19.4(平均)
淡口醤油 24.0(平均) 麦味噌 14.6
牛(新鮮肝臓) 0.54 豆味噌 9.3
牛(経日保存肝臓) 27.4 鶏(新鮮肝臓) 0.05
  鶏(経日保存肝臓) 10.0

[015.4.TYR: 2003.10.27.古泉秀夫]


  1. 「飲食物・嗜好品と医薬品の相互作用」研究班・編:改訂3版 飲食物・嗜好品と医薬品の相互作用;じほう,1998
  2. 古泉秀夫:飲食物・嗜好品と薬の相互作用[6]-食品中のチラミン含有量;調剤と情報,5(6):826-827(1999)
  3. 伊藤正男・他総編集:医学書院医学大辞典:医学書院,2003
  4. 今堀和友・他:生化学事典 第3版;東京化学同人,1998

莨宕(ロウトウ)の毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 莨 宕(ロウトウ:トウは草冠)
成分 ロー ト根には毒性の強い約0.2%のトロパンアルカロイドを含み、その主成分はヒヨスチアミン、アトロピンで、その他ノルヒヨスチアミン、ノルアトロピン、スコポラミンなどが含まれている。
一般的性状 漢 名「莨宕」は、古く史記の倉公伝に分娩促進の目的での使用例が見られる。
別名:走野老、オニミルクサ、オメキグサ、サワナス、ユキワリソウ。
ハシリドコロ[Scopolia japonica Maxim.]:ナス科(Solanaceae)ハシリドコロ属。の多年草。葉は互生、長楕円形で全辺。早春、葉腋に紫褐色鐘状の花を単生する。本州、四国、九州に分布し、谷間の湿った木陰に生える。全草有毒。
薬用部分:根茎と根[莨宕根<ロウトウコン>、ロートコン(局)]。
薬効と薬理:ロート根は局方に収載されており、ロートエキス又は硫酸アトロピンの原料になる。ロートエキスは消化液分泌抑制、鎮痙作用があり、胃酸過多、胃痛、胃・十二指腸潰瘍などに内服される。
毒性 ハシリドコロは全草、特に根茎に有毒成分が多く、誤って食べると興奮、狂躁状態を引き起こし、遂に昏 睡して死に至る。ただし、植物中のアルカロイド含量は、生育条件や時期によって異なるので、摂取量と症状を関連付けることは難しい。
根茎にl-ヒヨスチアミンを主とするアルカロイド約0.3%、葉に約0.15 -0.4%含有する(ヒヨスチアミンのラセミ体がアトロピンで、アトロピンの抗ムスカリン作用はl-ヒヨスチアミンの約50%である)。
スコポラミン:経口中毒量 3-5mg
アトロピン:経口推定致死量 小児:10-20mg、成人:約100mg。マウス(経口)LD50:548mg/kg。
ただし、小児では10mg以下の致死例もあり、成人では1gの服用でも回復例あり。ハシリドコロの全草のアトロピン含有量は1.58mg、スコポラミンは0.33mgで推定摂取量9.6mg(5株)では口渇、まぶしがり、顔面紅潮、幻覚、意識障害、推定摂取量2.9mg(1.5株)では口渇、まぶしがり、顔面紅潮、推定摂取量1.9mg(葉1枚)では口渇。ネオスチグミンを投与したところ6時間後に、幻覚症状、意識レベルは改善した。
症状 経口:30分程度で口渇が発現し、体のふらつき、嘔気、倦怠感、眠気、散瞳、遠近調節力や対光反射の 消失(羞明感や眼のちらつき)。発汗が抑制され、皮膚が乾燥し、熱感を持つ。特に小児の場合には、顔面、首、上半身の皮膚の紅潮を見る。また体温が上昇する。やがて興奮が始まり、痙攣、錯乱、幻覚、活動亢進などが見られる。重篤な場合には、昏睡から死に至る。血圧上昇、頻脈が見られるが、末期には血圧低下、呼吸麻痺を来す。
眼:ハシリドコロに触れた手で眼をこすると、瞳孔が開き、眩しくて眼が開けら れなくなるときがある。
処置 分布容量が強く、肝による代謝と尿への排泄が速いため、血液透析や腹膜灌流は有効ではない。
基本的措置:消化管の蠕動が抑制されるため、摂取後24時間以内であれば、催 吐、胃洗浄、活性炭と下剤の投与。
拮抗剤:フィゾスチグミン(国内未発売-院内製剤)2mgを緩徐に静注。必要であれば20分程度経過後に1-2mg追加。小児では0.5mgを使う。
対症療法:膀胱の弛緩性麻痺が起こるため、尿閉となり、しばしば導尿の必要が ある。
硫酸アトロピン:皮膚、粘膜、腸管から速やかに吸収されるが、胃からは吸収されない。Tmax:1時間、T1/2:13-38時間、蛋白結合率:50%、
排泄:尿中85-90%/24時間。
事例 「そ りゃあ、医者にとっては便利な薬じゃないか」
「その通りなのですが、使い方を間違えるととんだことになる。例えば、これに似た薬草で莨宕というのが早くから漢方にはあるのですが、これは下手に使うと、とんでもないことになると書かれています」
明の時代に悪僧が張柱という者の女房に横恋慕し、食べ物の中に莨宕を混ぜて勧めると張の一家はみな、眠ってしまったので、悪僧はやすやすと、張柱の妻を犯し、その上、張柱の耳にその粉末を吹き込むと、張は気がおかしくなって一家を惨殺してしまったということが漢方の書物に出ていると、宗太郎は話した。[平岩弓枝:御宿かわせみ19-かくれんぼ-マンドラゴラ奇聞;文春文庫,1997]
備考 芽 生えの頃フキノトウと誤って天ぷらや味噌汁に入れたり、根茎をヤマノイモ科のトロロと誤って食べて中毒を起こすことがある。
文献 1) 薬科学大辞典 第2版;広川書店,19902)大塚恭男:東西生薬考;創元社,1993
3)松本 黎:毒草の誘惑;講談社,1997
4)三橋 博・監修:原色牧野和漢薬草大図鑑;北隆館,1988
5)鵜飼 卓・監修:第三版 急性中毒処置の手引き;薬業時報社,1999
6)西 勝英・監修:薬・薬物中毒救急マニュアル改訂6版;医薬ジャーナル社,2001
7)内藤裕史:中毒百科 改訂第2版;南江堂,2001
調査者 古泉秀夫 記入日 2004.8.7.

マンドラゴラ(mandragora)の毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 マンドラゴラ(mandragora)
成分 根にはアルカロイドのアトロピン、アポアトロピン、スコポラミン、ヒヨスチアミン、ベラドニン、クスコヒグリンなどと脂肪油を含む。種子には22.1%の蛋白質と、22.6%の脂肪を含む。その他根にソラヌムアルカロイドの一種、マンドラゴリンが含まれているとする報告。
ナス科植物に含まれるalkaloidは、トロパン骨格を持つalkaloidという意味で、tropane alkaloidといわれる。l-hyoscyamine、scopolamineは特に重要である。dl-hyoscyamineはatropineの
名前で知られている。
一般的性状 マンドラゴラ[学名:Mandragora officinarum L.]、ナス科(Solanaceae)コイナス属又はナス科マンダラゲ属。
分布:ヨーロッパの地中海沿岸地方に分布し、昔は貴重薬として栽培された多年草。
形  態:塊根は紡錘形で肥厚し、根はしばしば先端が人の足状に2分裂している。葉は大型で波状をなし、卵形で長さ30cm、根の基部から放線状に根生している。その中心に鐘型で黄色又は紫色の花を開く。果実は液果。
別名:european mandrake、マンドレイク、マンダラゲ。
英名:mandrake、loveapple。
薬 用 部分:根。昔は分岐した太い根を調製して人の形に作った。
薬効・薬理:マンドラゴラの作用はしゅとしてアルカロイドに由来するもので鎮痛、鎮静、瞳孔散大、瀉下などの作用がある。マンドラゴラは解熱、鎮痛、催吐、幻覚、寫下薬として使用されたが、毒性が激しいため現在薬用にされることはほとんどない。
毒性 マ ンドラゴラを直接摂食したことによる中毒の詳細は、確認できなかった。
l-hyoscyamine:アセチルコリン受容体に結合して副交感神経遮断作用を示し、分泌腺の分泌抑制、散瞳、消化器官・気管支の緊張低下、心拍数増加、血圧上昇を惹起する。大量投与では中枢作用が発現し、幻覚、錯乱、昏睡、呼吸急迫、血圧上昇、呼吸麻痺などを惹起する。
scopolamine:hyoscyamineと同様に副交感神経遮断作用 を持つが、遮断作用は全般的に弱い。一方、中枢抑制作用はhyoscyamineより強く、催眠・鎮痛・鎮痙作用を示す。経口中毒量:3-5mg。ラットLD50(皮下)3800mg/kg。ヒト致死量: 50mg。
atropine:副交感神経遮断薬で、アセチルコリン及びアセチルコリン様 薬物の可逆的拮抗物質である(抗コリンエステラーゼ薬)。分泌腺、平滑筋の機能を抑制する。また、瞳孔括約筋の弛緩により瞳孔が開く。投与量によって、中枢神経系の興奮及び抑制。大量投与時の副作用はhyoscyamine参照。経口推定致死量-小児:10-20mg、成人:約100mg。ただし、小児では10mg以下の致死例もあり、成人では1gの服用でも回復例がある。マウスLD50(経 口)548mg/kg。
症状 scopolamine
精神神経症状:錯乱、幻覚、言語障害、眠気、視力減退、大量で呼吸抑制。
その他:口渇、紅潮、嚥下困難、胸焼け、排尿困難、便秘。
atropine
精神神経症状:興奮、錯乱、幻覚と発熱、昏睡。
消化器症状:悪心、嘔気。
皮膚症状:皮膚の乾燥、紅潮、首、顔、身体に紅潮。
循環器症状:頻脈、心悸亢進。
呼吸器症状:速い呼吸、呼吸抑制。
その他:頻尿、尿閉、口渇、嚥下困難、瞳孔散大、光線忌避、視力障害。
処置 毒物の除去:消化管の蠕動運動が抑制されるため、摂取後24時間以内であれば、催吐、胃洗浄、活性炭と塩類下剤の投与。
維持 管理:気道を確保し、呼吸管理(酸素吸入・人工呼吸)。
対症 療法
1)モルヒネは呼吸抑制があるので避けること。
2)興奮が強いときは抱水クロラール(2%溶液を直腸内投与)又はジアゼパム投与。
3)口渇には氷水。
4)散瞳や眼圧上昇に塩酸ピロカルピン又はサリチル酸フィゾスチグミン(ウブレチド点眼液)点眼。5)発熱には冷罨法。
6)拮抗剤:フィゾスチグミン注(国内未発売-院内製剤調製)2mgを緩徐に静注。必要があれば20分程度経過後に1-2mg追加投与。小児では 0.5mgを使用。
7)膀胱の弛緩麻痺が起こるため、尿閉となり、しばしば導尿の必要がある。
分布容量が大きく、肝による代謝と尿への排泄が速いため、血液透析や腹膜灌流 は有効ではない。
事例 「よせやい。俺に人参の講釈をしたって、はじまらねえや」「人参は、まあ万能薬のようなものですが、これに似た形をしていて、下手をすると命取りになる植物があるのです」
「なんだと………」
「わたしは、一度、長崎でみたことがあるのですが、ペルシャのもっと南の方に生えているらしい。名はキルカエアとかマンドラゴラと申すようで、黄色い小さな実が成るようですが、それを食べると眠気をもよおす。また、その根の皮をぶどう酒に浸したのを飲むと更に深い眠りにおちて、体を切ったりしても痛みを感じることがない。それで、蘭法では、体を切開する手術の時に、これを用いて、患者の痛みをやわらげるのに役立てます」
東吾と嘉助が思わず顔を見合わせた。 [平岩弓枝:御宿かわせみ19-かくれんぼ-マンドラゴラ奇聞;文春文庫,1997]
備考 マンドラゴラの根は人の形に似ているため、様々な伝説や信仰が生まれた。マンドラゴラは催淫薬、睡眠 薬としても古くから知られていたもので、旧約聖書の創世記にも『恋なすび』の名で収載されている。ギリシャ、ローマでは医師達が手術の時の麻酔薬として使用し、またリウマチや吐き気に用いられた。中世の暗黒時代には、幻覚を生じる薬草として魔法の儀式にも乱用された。中近東では長い間、不妊の婦人が妊娠を望んで、家の軒にマンドラゴラの根を吊したという。
伝説の有毒植物としての評判は高いが、具体的にマンドラゴラを摂取したことに よる毒性発現の具体例は捕捉できなかった。参照としてtropane alkaloid含有植物として毒性及び処置についてまとめた。
文献 1) 薬科学大辞典 第2版;広川書店,1990
2)奥田裕昭・訳:イギリス植物民俗事典;八坂書房,2001
3)三橋 博・監修:原色牧野和漢薬草大図鑑;北隆館,1988
4)田中 治・他編:天然物化学改訂第6版;南江堂,20025)今堀和友・他監修:生化学辞典 第3版;東京化学同人,1998
6)西 勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル 改訂6版;医薬ジャーナル,2001
7)鵜飼 卓・監修:第三版 急性中毒処置の手引き;薬業時報社,1999
調査者 古泉秀夫 記入日 2004.7.8.

麻沸散の毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 麻沸散(マフツサン)・通仙散(ツウセンサン)
成分 tropane alkaloid(トロパンアルカロイド)=atropine(アトロピン)、 scopolamine(スコポラミン)、hyoscyamine(ヒヨスチアミン)等。
[l-hyoscyamine、dl-hyoscyamine。aconitine、mesaconitine、hypaconitine。byak-angelicin、byak-angelicol。bergapten、butylphthalide、butylidenephthalide、ligustilide。bergapten、butylphthalide、butylidene-phthalide、ligustilide。 homogentisic acid、3,4-dihydroxy benzaldehyde diglucoside、ephedrine。saponin、 benzoic acid、amino acid、d -mannito]。
一般的性状 華岡青洲が世界で最初の乳ガンの摘出手術(1804年)に際して用いた麻酔薬は通仙散で、主薬は曼荼 羅華と附子である。曼荼羅華8分・草烏頭2分・白止2分・当帰2分・川弓2分(天南星)を細かく砕き、熱湯に投じてかき混ぜ、滓を除き暖かいうちにのむ。2-4時間で効果あり。瞑暈昏睡し人事不省となる。
曼荼羅華(マンダラゲ):チョウセンアサガオの葉。ナス科植物。学名: Datura alba Nees、Datura metel L.(中国)。英名:datura leaf。和名:ダツラ。別名:曼荼羅葉。キチガイナスビともいう。熱帯アジア原産で江戸期に日本に伝えられたとされる。鎮痙、鎮痛薬とし、散瞳薬などに使用される硫酸アトロピンの原料にする。主成分はl-hyoscyamineなど。その他主成分としてアトロピン(dl-hyoscyamine)、スコポラミン。種名のmetelはアラビア語の「麻薬性」を現すmathelが語源とされている。向精神作用があることは、古くから知られている。
烏頭(トリカブト):トリカブトの根。キンポウゲ科の植物。英名: aconite root。中国産のカラトリカブト(Aconitum camiohaeli Debx.)及び日本産のオクトリカブト(Aconitum japonicum Thunb.)の根茎を用いる。成分はアルカロイド約0.5%。aconitine、mesaconitine、hypaconitine等がある。漢方では身体四肢関節の麻痺、疼痛、虚弱体質の腹痛、下痢などに用いる。ただし、全ての鳥兜が同じ質と量の毒性をもっているわけではない。産地や生育状況、季節によって同じ種類でも毒の割合は異なる。最も毒性が強いのはヨーロッパ産の洋種鳥兜とヒマラヤ・中国産の何種類かである。
白止(ビャクシ):[英]angelica dahurica root、[ラ]angelicae dahuricae radix。[局]収載。別名:白止(止は草冠)、カラビャクシ(Angelica
dahurica var.pai-chi Kimura,Hata et Yen)、ヨロイグサ(A.dahurica Benth.et Hook)などのセリ科の根。漢方で、鎮静、鎮痛、浄血薬などにされる。成分はクマリン類のbyak-angelicin、byak-angelicol等が知られる。
当帰(トウキ):[英]Japanese angelica root、 [ラ]angelicae radix。[局]収載。別名:当帰。トウキ(Angelicae acutiloba Kitagawa)、セリ科の根。漢方その他で補血強壮、鎮痛鎮静薬として貧血、冷え症、月経不順などの婦人病に使用される。成分はbergapten、butylphthalide、butylidenephthalide、ligustilide等。
川弓(センキュウ):[英]cnidium rhizome、[独]cnidium、 [ラ]cnidii rhizoma。[局]収載。別名:川弓(弓は草冠)。センキュウ(Cnidium officinale Makino)、セリ科の根茎。漢方で補血、強壮、鎮静、鎮痛の目的で婦人病などに用いられる。成分はcnidilide、neocnidilide、butylidenphthalide等が知られている。
半夏(ハンゲ):[英]pinellia tuber、[独]pinellia、 [ラ]pinelliae tuber、[局]収載。別名:半夏、カラスビシャク(Pinellia ternata Breit.)、サトイモ科等の塊茎の外皮を除いて乾燥したもの。漢方で鎮嘔、鎮吐薬とし、吐気、悪阻、胃内停水、眩暈等に応用される。成分はhomogentisic acid、3,4-dihydroxy benzaldehyde diglucosideやephedrine(0.002%)等。
天南星(テンナンショウ):サトイモ科(Araceae)のマイズルテンナン ショウ(Arisaema heterophyllum Blume)やその他同属植物の塊茎を用いる。含有成分は不詳であるが、去痰、鎮痙の目的で用い、民間伝承としては肩こり、リウマチなどに外用するの報告が見られる。中国の河北、河南、広西、陜西、湖北、四川、貴州、雲南、山西各省に分布、山地の樹林下に生える多年草。
生薬名:天南星(てんなんしょう)。ラテン名:arisaematis rhizoma。漢名:蝮蛇草。和名:マムシグサ。中国名:鬼蒟蒻・日本天南星。
薬用部分:球茎(天南星)。秋-冬にかけ球茎を掘り取り、余分の根を除き日干しにしたものを硫黄で漂白する。乾燥した薬材は扁球状で表面は白色ないし褐色で光沢がある。
成分:天南星の球茎にはトリテルペノイド系のサポニン(saponin)、安息香酸( benzoic acid)、アミノ酸(amino acid)、d-mannitol、澱粉を含有する。またコニイン類似の毒成分を含むといわれている。従って球茎を摂食すると強烈な刺激作用があって口腔粘膜を糜爛させる。
薬効薬理:天南星には鎮静、止痛作用、去痰作用、抗腫瘍作用があり、催眠剤、鎮痛剤、鎮静剤、止痛剤、去痰剤、抗がん剤などに用いる。
分=匁の1/10(375mg)。1匁=3.75g
毒性 曼荼羅華(チョウセンアサガオ)の成分はtropane alkaloid(atropine、scopolamine、hyoscyamine等)で、神経に作用し、幻覚や錯乱を惹起する。意識は混濁し、痛みは鈍化する。大量に飲めば昏睡状態に陥る。
烏頭(トリカブト)の毒成分は猛毒のアルカロイドで、aconitineの致 死量は0.308mg/kgで、60kgの成人でも約18mgで死に至る。毒成分は全草に含まれているが、特に根に多く、全アルカロイド含有量は約0.5-1%である。
atropineは神経伝達物質の一つであるアセチルコリンと部分的に類似し た化学構造をもっており、体内にはいると副交感神経のシナプスでアセチルコリン受容体に結合してしまい、神経の「興奮」の伝達を阻害する。すなわちatropineは副交感神経抑制薬としての作用をもっている。なお、治療量(1mg)の範囲では殆ど中枢作用を示さないが、atropineは血液-脳関門を通過するため、大量投与すると大脳(特に運動領域)の興奮を来たし、精神発揚、幻覚、錯乱、狂躁状態に陥らせる作用もある。
*atropine sulfateの毒性としてマウス(経口)LD50 548mg/kg。致死量は成人で100mg以上、小児では10mg以上の報告。atropineに対する感受性は大きく変動する。1g摂取で回復したのに際し、成人で100mg以下、小児で10mg以下で死亡した例が報告されている。Tmax:1時間、T1/2:13-38時間、蛋白結合率:50%、排泄:85-90%/24時間(尿中)。
症状 精 神神経症状:興奮、錯乱、幻覚と発熱、昏睡。
消化器症状:悪心、嘔気。
皮膚症状:皮膚の乾燥、紅潮。首、顔、身体に紅斑。
循環器症状:頻脈、心悸亢進。
呼吸器症状:速い呼吸、呼吸抑制。その他:頻尿、尿閉、口渇、嚥下困難、瞳孔散大、光線忌避、視力障害。
その他、主症状として口渇、皮膚紅潮、発熱、散瞳、頻脈、高血圧、大量では強い副交感神経遮断作用として中枢症状・循環不全・呼吸麻痺(気管支拡張作用)
の報告。
処置 毒物の排除:吸引と胃洗浄による胃内容物の排除。吸収防止のために活性炭の使用を胃洗浄の後に考慮す る。塩類下剤投与(硫酸ナトリウム30gを水250mLに溶解したものなど)。
[参考]活性炭の頻回投与:1g/kgの活性炭を4時間毎、又は20gの活性炭を20gの活性炭を2時間毎に緩下剤とともに経鼻胃管から24時間を限度として注入する。血中濃度が中毒域以下になるか、臨床症状が著明に改善するまで行う。
処方例:活性炭20gをマクロゴール250mLに懸濁し、2時間毎24時間まで。
atropineあるいはscopolamineの中枢効果と末梢効果の制御 に、かってはサリチル酸フィゾスチグミン(サリチル酸エゼリン)の使用がされていたが、現在は一般に進められない。
メチル硫酸ネオスチグミン(ワゴスチグミン)の使用は、末梢効果の制御のみで ある。
興奮はジアゼパムか短時間作用型バルビツール酸塩類により制御する。
支持療法は必要である。
呼吸抑制には酸素の適用、補助呼吸。
超高熱、特に小児ではアイスバッグあるいはアルコールスポンジを使用する。
膀胱カテーテルによる導尿。
補液の適用。
その他の治療法として、次の報告がある。
発熱に強力な低体温療法、水、電解質の補正。腸蠕動麻痺にはネオスチグミン*0.5-1.0mg皮下又は筋注。血漿交換や血液吸着は血中のアトロピン除去に有効である。
*ワゴスチグミン注(neostigmine methylsulfate)
事例 「風邪薬と称しておぬしに飲ませようとしたのは、麻沸散又は通仙散ともいい、飲めば人間は正気を失い、斬られようが刺されようが、その当人はまったく痛みを覚
えず、ただ昏々と眠っているそうな」兵助はさも不思議そうにいった。
「そんな薬物が………よくご存じですな」
「いや、こちらもある外療(外科)の医者から聞いたのだが」
だいぶ以前に、紀州の華岡青洲という医者が使い方を発見した薬だと兵助はいった。
「そういう恐ろしい薬を、よくお袖が持っていましたな。薬種屋へゆけばだれにでも売ってくれるのですか」[和巻秋介:御府内隠密廻り同心-新五二半捕物帖-泥の雛;春陽文庫,1989]
備考 麻沸散としての毒性については、配合剤としての動物実験がされている訳ではなく、不明である。また、この物語では、麻沸散を殺人目的で使用したわけではなく、一時的に意識を奪う目的で使用したものであるから、当初の目的は果たしたということである。
麻沸散の主薬を曼荼羅華にするか鳥兜にするか、あるいは両者の相乗効果にするかで、その毒性の評価は変わるが、曼荼羅華も鳥兜も個々の毒性については既に作成した資料を公開している。
その意味ではここで再度取扱う必要はないが、ここではatropineに限定して毒性を紹介する。
ところで本書の主人公である隠密廻り同心甲斐半次郎は、南町奉行筒井和泉守政憲直属の同心(五二半捕物帖;春陽文庫,1997)とされている。筒井和泉守政憲の奉行就任時期は文政4年1月29日(1821年)から天保12年4月28日(1841年)の間であるとされる。華岡青洲が通仙散を初めて使用したのは(1804年)であり、処方内容は門外不出とされていたという。その意味では江戸の眼科医に通仙散の処方が伝わっていたのかどうか、何ともいえないところである。
文献 1)山崎幹夫:毒の話;中公新書,1999
2)鍋谷 欣市:http://square.umin.ac.jp/jsco37/abstract/E50384.htm,2004.10.9.3)植松 黎:毒草を食べてみた;文春新書,2004
4)舟山信次:図解雑学 毒の科学;ナツメ社,2004
5)西 勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル;医薬ジャーナル社,2001
6)清藤英一・編著:過量投与時の症状と治療 第2版;東洋書店,1990
7)山口 徹・総編集:今日の治療指針;医学書院,2004
8)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2004
調査者 古泉秀夫 記入日 2004.11.16.

便色調に影響する薬剤

金曜日, 8月 17th, 2007

糞便(feces)の組成は水分65-85%で、固形物にはカルシウム、リン酸塩、鉄、マグネシ ウムなどの無機質が15%、窒素5%、脂肪酸などエーテル抽出物が15%程度含まれる。具体的には脱落腸粘膜細胞や腸内細菌、繊維類など不消化物、粘液、コレステロール、胆汁色素誘導体、栄養素の分解物、白血球、消化残渣などである。pHは6.9-7.5。排便の遅延や加速などにより水分含有量が異なり、便の硬度は変わる。
病気が原因となって糞便の色調に影響するものとして、次の報告がされてい る。

表1.病気が原因となる便色調の変化

血便
[bloody stool]
血液の付着又は混入が肉眼で確実に認められる糞便。広義には上部消化管出血時のタール樣便も含む が、狭義には下部消化管出血時、特に直腸・肛門病変時の新鮮血便を指す。出血源が肛門に近いほど鮮紅色になる。
脂肪便
[steatorrhea]
脂肪の消化吸収が不完全なため、白っぽい脂肪でギラギラした便を脂肪便という。少量の脂肪は消化 管内で鹸化されて石けん便となるが、脂肪便では鹸化されない脂肪が便に含有されている。膵液の分泌不全の起こる疾患。
石けん便
[soap stool]
未吸収の脂肪酸がカルシウムやマグネシウムと結合、石鹸となる。白っぽい又は灰白色で光沢があり 均質でかなり硬い塊状。石けん便は牛乳栄養児に多い。それ自体は特に病的ではないが、硬度から排便困難であり、便秘の原因になりやすい。
タール樣便
[tarry stool]
黒色便、メレナ(melena)。血液の混ざった黒色便。上部消化管出血では血液は胃内に貯留 し、塩酸とヘモグロビンの反応により塩酸ヘマチンに変化し黒色となる。下部消化管出血でも停滞時間が長ければ、血液は腸管内で発生する硫化水素により硫化
ヘモグロビンを生じ黒色となる。

表2.薬物の化学的性状に起因する便色調変化(副作用に由来 する便色調の変化は除外)

分類・一般名・商品名(会社名) 原体の色調 便色調 発現機序
[721] barium sulfate
バリトゲンHD等(伏見)
バリトップP等(カイゲン)
白色の粉末 白色 硫酸バリウムは胃腸管から吸収されない。未吸収の本剤の糞便中排泄による。従って、硫酸バリウム 製剤では同様の機序により白色便発現。
[231] bismuth subnitrate
次硝酸ビスマス(各社)
白?類黄白色無定型粉末 黒色 bismuthが黒色のbismuth sulfide(硫化物)に変化。次硝酸ビスマス配合剤では、類似の機序により黒色便発現の可能性
[237] bismuth subcarbonate
次炭酸ビスマス(メルクホエイ)
白?類黄白色無定型粉末 黒色 bismuthが黒色のbismuth sulfide(硫化物)に変化。
[237]bismuth subgallate
次没食子酸ビスマス(各社)
黄色粉末 黒色 bismuthが黒色のbismuth sulfide(硫化物)に変化。
[237] bismuth subsalicylate
-製造中止-
白色粉末 黒色 bismuthが黒色のbismuth sulfide(硫化物)に変化。
[613] cefdinir
セフゾン(アステラス)
白色?淡黄色結晶性粉末 赤色 鉄の存在で本剤と腸管内において錯体を形成し、糞便を赤色化させる。
[231] charcoal
薬用炭[活性炭]
黒色の粉末 黒色 本剤の糞便中排泄に由来する。
[235] danthron
-製造中止-
橙褐色粉末 帯褐色 anthraquinon系薬剤では特有な色調があるため、糞便中に排泄された本剤の色調に由 来。
[234]dried aluminum hydroxide
アルミゲル(中外)
白色の無晶性の粉末 白色又は白い斑点 糞便中に排泄された乾燥水酸化アルミニウムゲルの色調に由来する。
[721] ferric ammonium citrate
フェリセルツ(大塚)
赤褐色、深赤色、褐色又は帯褐黄色結晶又は結晶性粉末 黒色 本剤はクエン酸鉄アンモニウムの製剤であり、鉄剤服用時と同様の作用機序により糞便の着色が見ら れると考えられる。
[322] ferrous sulfate
フェロ・グラデュメット    (大日本住友)
淡緑色の結晶又は結晶性粉末 黒色 硫酸化鉄の生成により尿が黒変するの報告。同様の機序に基づき糞便の黒変化が起こると考えられ る。
[114] indometacin
インダシン(萬有)
白色?淡黄色の微細な結晶性粉末 緑色 立証する情報は得られていない。
[232] methaphyllin<配合剤>
メサフィリン末(エーザイ)
青黒色 濃緑色 配合剤中のsodium copper chlorophylinの便中排泄に起因する。銅クロロフィリン配合製剤では、同様の理由により糞便が濃緑色を呈する。
[235] phenovalin
-製造中止-
白色結晶性粉末 赤色 加水分解によりphenolphtaleinのquinoide型Na塩が生じ糞便中に排泄され る。
[391] protoporphyrin disodium
-製造中止-
暗赤色-赤紫色結晶性粉末 黒色 本剤代謝産物の糞便中排泄によると推定されている。
[235] rhubarb大黄末 褐色粉末 黄褐色 有効成分のsennoside Aに関連しanthraquinone配糖体に起因
[616] rifampicin
リマクタン(ノバルティス)
橙赤色結晶性粉末 橙赤色 本剤の未変化体及び代謝産物の糞便中排泄に起因する。本剤及びその代謝産物により橙赤色に着色す る。
[642] santonin
サントニン(日本新薬)
無色又は白色結晶性粉末 黄色 santoninの酸化生成物の糞便中排泄に起因する。
[235] senna extract
アジャストA(興和)
黄褐色?褐色の粉末 黄色?褐色 主成分であるanthraquinoneに特有の色である。糞便中に排泄されることにより着色。
[333] sodium citrate
輸血用チトラミン(扶桑)
無色の結晶又は白色の結晶性の粉末 緑褐色便 副作用欄に小児に限定してビリルビン尿とともに添付文書中に記載。主薬クエン酸ナトリウムとの因 果関係は不明。
[322] sodium ferrous citrate
フェロミア(エーザイ)
緑白色?緑黄白色の結晶性の粉末 黒色 硫酸化鉄の生成により尿が黒変するの報告がされているが、同様の機序に基づき糞便の黒変化が起こ る。
[113] sodium valproate
デパケンR錠(協和醗酵)
白色の結晶性粉末 白色の残渣が糞便中に排出 本剤はマトリックスを核とし、その上を徐放性皮膜でコーティングした製剤。糞便中に排泄されたマ トリックス核が白色の残渣として認識。
[615] tetracycline
アクロマイシン(ワイス)
黄色-暗黄色の結晶又は結晶性粉末 赤色 立証される情報は得られていない。

 

[第三改訂.1997.6.25.古泉秀夫・ 第四改訂.2003.9.11.・第五改訂.2005.10.3.]

  1. 国立国際医療センター薬剤科・編:医薬品情報Q&A’83;朝倉書店, 1983
  2. 国立国際医療センター薬剤部・編:尿・便の色調に影響する薬剤;医薬品 情報,23(5):576-579(1996)
  3. 吉利 和・他監・訳:薬の副作用と臨床;(広川書店)
  4. 斎藤 太郎:副作用ハンドブック改訂3版(薬事日報社)
  5. 岩本多喜男:薬物投与が臨床検査成績に及ぼす影響(完);薬局,21 (11):1409(1970)
  6. 日本医薬品情報センター・編:日本医薬品集;薬業時報社,1995.8
  7. デパケンRインタビューフォーム,1995.11作成
  8. 伊藤正男・他総編集:医学書院医学大辞典:医学書院,2003
  9. 医学大辞典;南山堂,1998

ヒヨスチン(hyoscine)の毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 ヒヨスチン(hyoscine)
成分 ヒヨスチン(hyoscine)、スコポラミン(scopolamine)。
一般的性状 ヒヨスチン(hyoscine)→スコポラミン(scopolamine)。ナス科のヒヨス、チョウ センアサガオ(Datula stramonium)、ハシリドコロ(Scopolia japonica)などにヒヨスチアミンとともに含まれるアルカロイド。トロパンアルカロイドの一つで、スコピンのトロパ酸エステルに当たる。ヒヨスチアミンと同様に副交感神経遮断作用をもつが、遮断作用は全般的に弱い。一方、中枢抑制作用はヒヨスチアミンより強く、催眠・鎮痛・鎮痙作用を示す。臭化水素酸塩として鎮痙剤、麻酔補助剤、散瞳用点眼薬として用いられる。ラセミ体をスコポラミン、生理活性本体のL-スコポラミンをヒヨスチン (hyoscine)と呼ぶこともある。
臭化水素酸スコポラミン、[英]scopolamine hydrobromide、[独]Scopolamin hydrobromid、[仏]bromhydrate de scopolamine、[ラ]scopolamine hydrobromidum。[局]収載。副交感神経遮断薬。ヒヨス、ヨウシュチョウセンアサガオなどから得られるアルカロイド。白色の結晶で水に溶ける。アトロピン様作用を示すが、散瞳作用の発現はアトロピンより速く、且つ消失も速い。軽度の中枢抑制作用をもつ。内用又は皮下注射で躁状態、麻薬の禁断症状などに鎮痙薬として用いる。またパーキンソン症候群にも有効。無痛分娩に麻薬性鎮痛薬と併用する。散瞳の目的で点眼する。毒薬。極量:1回 0.5mg、1日1.5mg。
臭化水素酸スコポラミン(scopolamine hydrobromide)→hyoscine hydrobromide、無色又は白色の結晶あるいは白色の粉又は粉末。無臭。水に溶け易く、エタノールにやや溶け難く、クロロホルムに溶け難く、エーテルに殆ど溶けない。
中枢神経に対する作用はアトロピンが興奮作用を呈するのに対して、 scopolamineは末梢作用発現の用量で軽度の中枢抑制作用が見られ、眠気、無感動、健忘、催眠等を起こす。
ネコの網様体賦活系を抑制し、また光刺激に対する脳波覚醒反応を抑制する。末 梢の副交感神経支配器官に対する遮断作用はアトロピンに類似している。
鼻・口腔・咽頭・気管支等の分泌を抑制する。散瞳作用の発現はアトロピンより 速く、消失も速い。
速やかに胃腸から吸収され、血液中で血清蛋白と結合する。授乳期の婦人に投与しても、授乳中に殆ど移行しない。経口摂取量の約1%のみが尿中に排泄され
る。
毒性 急 性毒性:LD50(ラット)皮下3800mg/kg。 経口中毒量:3-5mg。ヒト致死量:50mg。
症状 精 神症状:錯乱、幻覚、言語障害、眠気、視力減退、大量で呼吸抑制
その他:口渇、紅潮、嚥下困難、胸やけ、排尿困難、便秘
処置 毒物の排除:吸引と胃洗浄による胃内容物の排除。吸収防止のために活性炭の使用を胃洗浄の後に考慮す る。塩類下剤投与(硫酸ナトリウム30gを水250mLに溶解したものなど)。[参考]活性炭の頻回投与:1g/kgの活性炭を4時間毎、又は20gの活性炭を20gの活性炭を2時間毎に緩下剤とともに経鼻胃管から24時間を限度として注入する。血中濃度が中毒域以下になるか、臨床症状が著明に改善するまで行う。
処方例:活性炭20gをマクロゴール250mLに懸濁し、2時間毎24時間まで。
atropineあるいはscopolamineの中枢効果と末梢効果の制御 に、かってはサリチル酸フィゾスチグミン(サリチル酸エゼリン)の使用がされていたが、現在は一般に進められない。
メチル硫酸ネオスチグミン(ワゴスチグミン)の使用は、末梢効果の制御のみで ある。
興奮はジアゼパムか短時間作用型バルビツール酸塩類により制御する。
支持療法は必要である。
呼吸抑制には酸素の適用、補助呼吸。
超高熱、特に小児ではアイスバッグあるいはアルコールスポンジを使用する。
膀胱カテーテルによる導尿。
補液の適用。
その他の治療法として、次の報告がある。
発熱に強力な低体温療法、水、電解質の補正。腸蠕動麻痺にはネオスチグミン*0.5-1.0mg皮下又は筋注。血漿交換や血液吸着は血中のアトロピン除去に有効である。
*ワゴスチグミン注(neostigmine methylsulfate)
事例 「こういう毒薬があるのよ………白っぽい粉末でね。ほんのひとつまみで死ぬの。あなたも毒薬のことは少しは知っているでしょう?」
いくらかおののきながら彼女は訊ねた。もしも彼が毒薬のことを知っていたら、気をつけなければならない。
「いや」ジェラルドがいった。「毒薬のことはほとんど何も知らない」
彼女はほっと胸をなでおろした。
「ヒオスシンっていう名前はもちろん聞いたことがあるでしょう?効力はほとんど変わらないんだけれど、これは絶対に使ったことがわからないのよ。どんなお医者様だって、心臓麻痺という死亡診断書を書くはずだわ。わたし、その薬を少し盗んで、隠しておいたの」
気力を集中させるために、彼女はそこで一息入れた。
「つづけろよ」ジェラルドがいった。「いやよ。こわいわ。とても話せない。また別のときにしましょう」
[アガサ・クリスティー(田村隆一・訳):リスタデール卿の謎-ナイチンゲール荘;ハヤカワ文庫,2003]
備考 小説中に出てくる『ヒオスシン』は、『hyoscine』の日本語表記であると考えられる。薬の名前としては『ヒヨスチン』が正式な日本語表記であるが、関係者以外は知らないということは、世間一般によくあることである。ヒト致死量50mgとされているが、ラット皮下投与時の半致死量が3800mg/kgということからみると、ヒト致死量が少し低く設定されているのではないかと思うが、実際に実験するわけにはいかないので、あくまで推定値ではないかと思われる。
それにしてもAgatha Christieは、各作品中の使用毒薬数も多いが、『hyoscine』を使用するあたりは、こっているというべきか。更にこの『hyoscine』は心理的な使い方がされており、主人公は相当の演技派である。
文献 1)生化学辞典 第3版;東京化学同人,1998
2)薬科学大辞典 第2版;広川書店,1990
3)志田正二・代表編:化学辞典;森北出版,1999
4)大阪府病院薬剤師会・編:全訂医薬品要覧;薬業時報社,1984
5)西 勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル 改訂6版;医薬ジャーナル,2001
6)山口 徹・総編集:今日の治療指針;医学書院,2004
調査者 古泉秀夫 記入日 2004.12.1.

吐酒石の毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 吐酒石、antimony potassium tartrate(Tartar Emetic)。 [劇薬]
成分 (旧 局)酒石酸カリウムアンチモンの別名。Antimonii Potassii Tartras。Antimon.Pot.Tart.
C4H4O6K(SbO).1/2H2O=333.94。[米]Antimony Potassium Tartrate;Antimonyl Potassium Tartrate;Tartar Emetic、[英]Potassium
Antimonyltartrate、[仏]Antimoniotartrate acide de potassium、[独]Brechweinstein。
一般的性状 吐酒石は酒石酸カリウム・アンチモン 99%以上を含む。
本品は無色無臭の透明結晶又は白色粉末で、空気中で風化する。本品1gは水12ccに溶け、温湯約3cc又はグリセリン約15ccに溶け、アルコールに溶けない。本品の水溶液は微かに酸性である。
貯法:密閉容器に保存。
常用量:1回5mg、1日10mg(去痰);1回20mg、1日50mg(吐剤)。極量:1回0.1g、1日0.3g。基原:16世紀以来知られた医薬品であるが、1631年Adrian van Minsichtが本品の製法を公表。1648年Glauberが酒石とSb2O3とから製造した。本品の組成は1773年Bergmann以来 多くの学者によって研究された。臨床上には古来、吐剤、去痰剤、又は皮膚刺激用軟膏として用いられたが、1907年Plimmer及びThomsonの実験に基づき睡眠病、レイシュマニア症(leishmaniasis:リーシュマニア症)、カラアザール(黒熱病:内臓リーシュマニア症)等に用いられ、化学療法にSb(アンチモン)剤が応用される端緒となった。
性状:初めやや甘く、後金属製不快の味がある。加熱すれば100℃で結晶水1/2分子を失い200℃で更に水1分子を放出するが、水を加えて煮沸すれば再び吐酒石となる。大気中で加熱すると火花を飛ばしSb2O3の白色蒸気を発散し、焦臭物を残留する。密閉して灼熱するとき はSb、Kの合金を含む炭水化物が残留し後空気に触れて発火する。
応用:本品0.05gを内服すれば胃の末梢神経を刺激して嘔吐を起こすが、嘔吐が遅いのと腸で吸収されて下痢、虚脱等を起こしやすいので、吐剤としては吐根又はアポモルヒネに及ばない。特に動脈硬化症、虚弱者及び妊婦には禁忌とする。用量は0.02-0.05gを散薬として2-4回10-15分毎に与える。去痰剤として1日数回0.005-0.02gを用いるが稀である。皮膚に塗布すると軽い充血の後、膿胞を生じ、反復すれば皮下に及んで骨疽を起こす。
皮膚刺激の目的に弱軟膏(0.1-0.5:10.0)、膿胞発生用に強軟膏(0.5-2.0:10.0)を用いることがあるが、中毒と使用後に瘢痕を生じ
やすいから注意する。Kala-Azarには、0.02-0.1gを初め毎日、後隔日、終わりに1週2回静注して全量2.0gに達するとその多数を全治さ
せ、Bilharzia病にも1回0.06gから始め後0.12gを隔日注射し全量2.0gを与える。日本住血吸虫病、睡眠病、Filaria病にも同様使用する。
副作用:As(砒素)中毒に似て、激烈な剥脱性腸炎、大分泌腺の脂肪変性、心臓作用減弱、中枢神経系範囲の麻痺として現れる進行性無感覚と運動不全麻痺等 である。
静注では催吐しないが、鉱味を覚え、流涎、悪心、下痢、腹痛、皮疹が現れ、蛋白尿、黄疸を見れば休薬する。
*antimonyは胃腸管より徐々に吸収されるに過ぎない。肝と甲状腺に濃度が高い。5価化合物は主として腎より排出する。
毒性 0.2g で死亡した例が再三ある。最小致死量は大黒ネズミで0.016g prokg(静注)。粘膜刺激性、接触すると組織を壊死させる。推定経口致死量は200mgから2gの間。空気中の本化合物の最高許容濃度は0.5mg/m3である。stibine(水化antimony)の限界値は0.1ppm。急性毒性
ラット経口 LD50:115mg/kg
ラット腹腔 LD50:11mg/kg
マウス腹腔 LD50:33mg/kg
マウス皮下 LD50:55mg/kg
マウス静脈 LD50:45mg/kg
ウサギ経口 LD50:115mg/kg
ウサギ静脈 LD50:12mg/kg
モルモット腹腔 LD50:15mg/kg (RTECS)
酒石酸アンチモンナトリウム(antimony sodium tartrate)の連用投与例において、antimonyの心筋内蓄積によると思われる中毒死が報告されている。
症状 吸 入:鼻・喉・気管支を刺激し、粘膜が侵される。
皮膚接触:炎症を起こすことがある。
眼に入った場合:粘膜を激しく刺激する。
Antimony Compounds:頭痛,めまい,嘔吐等の自覚症状,皮膚障害,前眼部障害,心筋障害又は胃腸障害

参照-antimonyとして
*酒石酸アンチモンナトリウムの注射液は、筋肉・皮下に注射するとき、局所の壊死を生ず。
*化合物の経口摂取時:口腔と喉の火傷、喉の収縮と窒息、悪心と嘔吐を生じ、酷い出血性下痢を伴う。無尿、筋肉痙攣、譫妄、麻痺と昏睡。全身ショックと心
臓血管虚脱。中毒症が長引くと、肝障害を起こす。
*吸入時:頭痛、悪心、嘔吐、筋肉衰弱、黄疸、貧血を生ずる。
*皮膚接触時:煙霧と塵埃に慢性的に曝露されると、皮膚に掻痒性の膿疱性発疹、出血性歯肉炎、結膜炎及び咽頭炎を生じる。頭痛、体重減少、貧血が起こる。

処置 * 医師の処置を受けるまでの救急処置
吸入した場合:鼻をかみ、うがいをさせる。
皮膚接触:直ちに汚染された衣服や靴等を脱がせる。直ちに付着又は接触部を石鹸水で洗浄し、多量の水を用いて洗い流す。
眼に入った場合:直ちに多量の水で15分間以上洗い流す。
参照-antimonyとして
*経口摂取:胃洗浄は効力不明。牛乳と水を混ぜた卵白を保護剤として与えても良い。ショックは静脈内輸液で治療。保温、大量の液体摂取。BAL (dimercaprol)投与 1回2.5mg/kgを6時間毎に筋肉注射。48時間後は1日2回に減ずる。48時間経過すればほぼ救命される。
*吸入の場合:BAL投与。溶血に対しては輸血が必要。酸素吸入と人工呼吸。
事例 感傷家であるエドワード・プリッチャード博士は、それほどの利益も期待できぬのに、妻を殺してしまっておる。きき目のゆるやかな吐酒石を、4ヵ月の間与え続けたという周到なものだ。妻の母親を殺した場合にしても、僅か数千ポンドを得たに過ぎない。つまり彼は、自由を欲しておったのだ。自由だけが、どんなことをしても手に入れたかったのだ。
ここで毒殺犯の第二の特徴が問題となってくる。異常なまでの虚栄心だ。虚栄心はどんな殺人犯にもつきものだが、毒殺犯人の場合は、それが強烈な自尊心にまで高められている [宇野利泰・訳(ディクスン・カー):緑のカプセルの謎;創元推理文庫,2002]
備考 物 語の中で実際に行われる殺人に使用された毒薬は、ストリキニーネと青酸である。実際にあった事件の毒殺犯と使用された毒薬について、作中の探偵であるギディオン・フェル博士が蘊蓄を述べているが、その中に出てくる毒薬の一つが吐酒石である。
吐酒石は第六改正日本薬局方に医薬品として収載されており、劇薬である。吐剤と去痰剤として使用されていたようであるが、作用的には遅効性で、更に毒性が強いということで、使用性は悪かったのではないかと思われる。
文献 1) 第六改正日本薬局方解説書;南江堂,1954
2)南山堂医学大辞典第18版;南山堂, 1998
3)http://www.pref.shiga.jp/,2005.10.18.
4)http://www.chemlaw.co.jp/,2005.10.22.
5)西 勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル 改訂6版;医薬ジャーナル,2001
6)白川 充・他:薬物中毒必携 第2版;医歯薬出版株式会社,1989
7)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,1999
調査者 古泉秀夫 記入日 2005.10.23.