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ラロニダーゼについて

月曜日, 8月 13th, 2007

KW:薬名検索・ラロニダーゼlaronidase・I型ムコ多糖症・MSP-I・Hurler症候群・ハーラー症候群・α-L-iduronidase・α-L-イズロニダーゼ

Q:ラロニダーゼについて

A:ラロニダーゼ(laronidase)は遺伝子組換えα-L-iduronidaseで、最も重症例の場合Hurler症候群(ハーラー症候群)と呼ばれるI型ムコ多糖症(MSP-I)に対する補酵素補充目的に使用される医薬品として開発された。剤型:静注。

同意語:BM-101、α-L-iduronidase(recombinant)、rh α-L-iduronidase、α-L-イズロニダーゼ(遺伝子組換え)。[商]Aldurazyme(BioMarin Pharmaceutical)。

本症は常染色体劣性遺伝による稀な疾患で、α-L-iduronidase欠損によりリソソームへの蓄積障害が起こる。本症は小児にみられ、症状としては成長及び発育遅延、脾臓及び肝臓の肥大、骨格形成異常、視力障害、脱毛及び水頭症などが認められる。

本剤はI型ムコ多糖症の適応で、米国においてfist track(早期承認)指定を受けた。米国及びEUでオーファンドラッグの指定を受けている。米国では2002年4月に申請が出され、優先審査の対象に指定されたが、2003年1月追加情報の提出を求められたと報告されている。2003年4月30日FDAで承認され、EUでは2003年6月に承認されたとされる。日本ではムコ多糖症-I型患者の諸症状の緩和の適応について、1999年8月25日オーファンドラッグの指定を受けたの報告がされている。

米国のバイオ医薬企業Genzyme General 社は、本剤について日本国内の臨床試験データなしに承認申請する方針を固めた。国内の患者数が20人程度と極めて少なく、厚生労働省も申請を後押しする。これまで国内の臨床試験なしに承認申請するケースは抗エイズウイルス(HIV)薬以外ではなかった。

Genzyme General 社では、日本国内における臨床治験について検討していたが、極端に患者数が少ないことから作業は進まなかった。しかし、厚生労働省が患者や医療現場での要望が強い薬の早期承認を検討する中で、アルドラザイム(Aldurazyme)が対象薬に浮上。厚労省が近くGenzyme General 社に申請作業を要請する見通しとする新聞報道がみられる。

2005年4月27日に開かれた厚生労働省の第4回「未承認薬使用問題検討会議」で、ボルテゾミブ(対象疾患:多発性骨髄腫)、ラロニダーゼ(対象疾患:I型-ムコ多糖症)、ジアゾキサイド(対象疾患:高インスリン血症による低血糖症)の3剤について、ワーキンググループでの検討結果を基に議論がされた。その結果を受け、3剤とも、患者が早期に薬を使用できるよう、厚生労働省から企業に対応を求めていくことになった。今回検討された3剤はいずれも、過去5年間に学会や患者団体などから早期承認・早期保険適用の要望があり、かつ2005年3月までに欧米4カ国(米、英、独、仏)のいずれかで承認済みの薬物である。

ムコ多糖症は、酵素α-L-iduronidase先天的に欠損する病態である。α-L-iduronidaseの欠損により糖質が細胞内に蓄積し、この糖質の蓄積が心臓・肺機能不全や発育遅延・骨・関節変形、持久力減少等の症状を惹起する。ムコ多糖症患者の大部分は、成人までの成長が困難であるとされている。 laronidaseは、ムコ多糖症患者に不足しているα-L-iduronidaseのヒト組替蛋白質で、laronidaseは、α-L- iduronidaseと同じ作用により細胞内の糖を処理すると報告されている。

なお、副作用として5例で一過性の蕁麻疹、4例で血清中にα-L-iduronidaseに対する抗体が検出された。

[011.1.LAR:2005.5.9.古泉秀夫]


  1. 明日の新薬CD-ROM版:Technomics社,2005.5.9.
  2. 日本経済新聞,2005.5.3
  3. http://dextromethorphan.blog6.fc2.com/,2005.5.9.
  4. http://www.biotoday.com/view.php?n=7200,2005.5.9

ヨモギローションについて

月曜日, 8月 13th, 2007

Q:ヨモギローションとは何か。またその入手法について

A:医療法人洛和会丸太町病院(京都市中京区七本松通丸田町下ル)内科病棟・高橋圭子らが、寝たきり老人の皮膚掻痒感解消の目的で検討した、以下の処方による製剤である。

乾燥ヨモギ50gを水2Lを用いて20分間煎じる。煎じたヨモギ液を用いて

  • ヨモギ液…………20mL
  • メントール………0.5g
  • エタノール………10mL

以上全量

  • 用法:掻痒感を訴える場合、本ローションを用いてパッティングする。日中で最高9時間の鎮痒効果がえられる。

尚、本品の扱いについては、かぶれ止めの成分を配合すると共に、濁りをなくす工夫を加え、大阪市天王寺区の化粧品会社が厚生省から製造許可を得たとされているが、取扱い窓口は「よもぎ友の会」(〒604京都市中京区西ノ京車坂町九医療法人洛和会・丸太町病院内。 TEL.075-801-0315)が窓口となっている。500mL容器入り。なお、問い合わせ及び申込みは郵便によることとしている。

ヨモギ(ArtemisiaprincepsPampan.)の成分・作用については、次の報告がされている。

葉に精油成分としてシネオール、ツヨシ、β-カリオフィレン、ボルネオール、カンタァー、脂肪油のパルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、臘質のセチルアルコール、トリコサノールの他、コリン、アデニン、塩化カリウム、ビタミンA、B1、B2、Cが含まれている。

鎮痛、収斂止血作用があるとされ、腹痛、腰痛、止血、腫れ物、下痢等に用いられる。

[510.FD9.011.1ART][1990.7.30.・1999.3.30.一部修正.古泉秀夫]


  1. 寝たきり老人すっきり<ヨモギ液でかゆみ退治>;中川安医薬情報,No.96:1(1988)
  2. 看護婦さん考案のかゆみ止めに人気;朝日新聞,1989.12.23.
  3. 三橋博・監修:原色牧野和漢薬草大図鑑:北隆館,1988,p.538
  4. 国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:FAX.DI-News,No.83,1991.5.21.より転載

ユーパスタの配合変化

月曜日, 8月 13th, 2007

KW:物理化学的性状・配合変化・ユーパスタ・精製白糖・ポビドンヨード・ Povidone-Iodine

Q:ユーパスタに他剤(軟膏剤・外用散剤)を配合することの可否について  

A:両剤の性状等について、次の通り報告されている。

商品名(会社名) ユーパスタ(興和)
組成 100g中精製白糖70.0g・ポビドンヨード3.0g
性状 *精製白糖(Sucrose):白色の結晶性の粉末、又は光沢のある無色あるいは白色の結晶であ る。水に極めて溶け易く、エタノール(95)に溶け難くい。

*ポビドンヨード(Povidone-Iodine):暗赤褐色の粉末 で、僅かに特異な臭いがある。水又はエタノール(99.5)に溶け易い。

適用上の注意 他剤と混合して使用しないこと。

ユーパスタ軟膏は、従前『イソジンシュガー軟膏』の名称で院内製剤として調製されていたものである。イソジンシュガー軟膏はpHの低下、白糖からの転化糖の生成、ポビドンヨードの分解促進等、安定性が悪く、更に調製が困難である等の問題があった。

本剤は白糖・ポビドンヨードの双方に安定なpH域の選定、緩衝剤及び基剤の選択など、製剤設計上の検討を加え、製品化が可能となった製剤である。なお、添付文書中に『他剤と混合して使用しないこと。』の適用上の注意が記載されている。

本剤の製剤上の均衡が崩れることによって、安定性上問題が起こるとの認識によるものと思われる。

次に参照資料として、報告されている本剤の配合変化について紹介する。

ユーパスタの配合量は30gとし、室温25℃、2週間保存した。

配合剤 配合直後 特記事項
配合量 外観 硬度 pH 残存沃素 残存白糖
ユーパスタ 30g 褐色 78 3.5-5.5 100% 100%
アクトシン軟膏 30g 褐色 27 6.03 93.0 99.1
アクリノール液 1mL 分離 4.7 4.77 ? ? 硬度低下、外観変
アズノール軟膏 30g 褐色 18.3 5.18 16.6 ? 沃素低下
硫酸アミカシン注 1mL 褐色 19.0 5.21 95.8 100.7 ○2週間保存-安定
イソジン液 1mL 褐色 11.7 4.69 108.5 101.3 ○2週間保存-安定
イソジンゲル 30g 褐色 14.7 4.10 212.2 92.5 ○2週間保存-安定
エレース軟膏 30g 褐色 5.0 4.75 47.1 88.2 沃素・白糖低下
エレースC 30g 褐色 5.0 4.87 52.5 90.2 沃素低下
オルセノン軟膏 30g 褐色 2.0 4.32 93.8 98.5 硬度低下、流動性
キシロカイン注 3mL 分離 1.0 ? ? ? 硬度低、外観変化
ゲーベンC 30g 褐色 13 6.48 10.3 94.4 沃素低、不溶性塊
ゲンタシン軟膏 30g 褐色 56.3 4.48 6.7 ? ×沃素力価低下
ゲンタシンC 30 褐色 2.0 4.69 39.9 ? 硬度、沃素低下
ゲンタシン注 1mL 褐色 8.0 4.34 104.0 103.3 ○2週間保存-安定
ジルダザック軟膏 30g 褐色 39.7 4.19 7.6 ? 沃素低下
ソルコセリル軟膏 30g 褐色 9.3 ? ? ? 外観変化
ダラシンP注 2mL 褐色 2.7 5.98 71.8 98.7 硬度、沃素低下
バリダーゼ 2mL 褐色 2.0 ? 100.4 ? 硬度低下、液状化
バリダーゼ 10g 褐色 ? 5.15 99.4 99.9 白糖2w後70.2%
ヒビテン液 1mL 褐色 4.7 5.05 49.3 99.4 硬度、沃素低下
リドメックス軟膏 30g 褐色 29.3 4.88 5.8 92.3 沃素低下
リドメックスC 30g 褐色 3.0 4.55 48.0 ? 沃素低下
リフラップ軟膏 30g 褐色 18.0 5.10 0.0 ? 沃素低下
リフレットゲル 30g 褐色 4 ? ? ? ダマ発生・不均一
リラシリン注 2mL 褐色 5.0 ? ? ? 外観変化

[014.4.POV:2005.3.8.古泉秀夫]


  1. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2005
  2. ユーパスタ軟膏添付文書,2004.11.改訂
  3. ユーパスタコーワIF,1995.2..
  4. 国立国際医療センター医薬品情報管理室・編:医薬品情報,27(5): 418-419(2000)
  5. ユーパスタコーワIF,1997.12.

油水分配係数について

月曜日, 8月 13th, 2007

KW:語彙解釈・分配係数・n-オクタノール/水分配係数・水溶性薬物・脂溶性薬物・薬物代謝酵素

Q:添付文書中に見られる「有効成分に関する理化学的知見」の項に記載されている油水分配係数について

A:油水分配係数とは、『n-オクタノール/水分配係数』のことである。これは個々の薬物について、油に溶解する割合が多いか、水に溶解する割合が多いかを示した数値で、『油水分配係数が1より大きければ脂溶性薬物、1より小さければ水溶性薬物』に分類される。 通常、分配係数の対数(logP)で示されているが、『水溶性薬物はマイナスになり、脂溶性薬物はプラス』で表記され、その薬物の脂溶性が高いほど、大きな値になる。水溶性薬物はその殆どが腎排泄型薬物であり、脂溶性薬物は肝排泄型薬物である。

薬品名 分配係数 logP 油/水
cimetidine(タガメット) 1.5 0.17 脂溶性
ranitidine hydrochloride(ザンタック) 0.03 -1.52 水溶性
famotidine(ガスター) 0.15 -0.82 水溶性
nizatidine(アシノン) 0.70 -0.15 水溶性
roxatidine acetate hydrochloride(アルタット) 29.6* 1.47* 脂溶性
lafutidine(プロテカジン) 2.48** 0.39** 脂溶性

*クロロホルム/緩衝液  **pH:6

脂溶性の薬物は肝臓で代謝され、血中から消失するが、水溶性の薬物は未変化体として腎臓から排泄され、消失する。脂溶性の薬物は薬物代謝酵素阻害や薬物代謝酵素誘導など、代謝に関係した相互作用が起き易いが、水溶性の薬物では薬物代謝酵素阻害や薬物代謝酵素誘導はあまり起きないとされている。

油水分配係数の相違を尿中未変化体排泄率(fu)で分類すると、脂溶性薬物は尿中未変化体排泄率(fu)が低い肝排泄型の薬物に、水溶性薬物は尿中未変化体排泄率(fu)が高い腎排泄型の薬物に相当する。

項目 脂溶性薬物 水溶性薬物
胃腸管吸収 良い 悪い
初回通過効果 受け易い 受け難い
組織移行 良い 悪い
体外への消失 肝臓で代謝 腎臓から排泄
肝障害時血中濃度 上昇? 変化無し
肝障害時投与量 減量 不変
腎障害時血中濃度 変化無し 上昇
腎障害時投与量 不変 減量
酵素誘導・阻害 影響大 影響少
透析による除去
中枢性副作用 頻度大 頻度少

[615.8.DIS:2005.1.25.古泉秀夫]


  1. 菅野 彊・編著:薬剤師のための添付文書の読み方;協和醗酵工業株式会社,2001
  2. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2004
  3. 菅野 彊:薬物動態値からくすりの違いを比較し評価してみよう;都薬雑誌,22(5):38-41(2000)

輸血後肝炎の検査時期

月曜日, 8月 13th, 2007

KW:副作用・輸血・輸血後肝炎・検査・血液製剤使用指針・輸血療法実施指針・急性型副作用・遅発型副作用

Q:日本赤十字社から入手した血液を輸血した際、輸血後肝炎の発症を確認するための検査の時期について

A:厚生省医薬安全局長から都道府県知事宛に発出された『血液製剤の使用指針及び輸血療法の実施に関する指針について』(医薬発第715号 平成11年6月10日)に『VIII.輸血に伴う副作用・合併症』として次の記載が見られる。

*輸血副作用・合併症には、免疫学的機序によるもの、感染性のもの及びその他の機序によるものとがあり、さらにそれぞれ発症の時期により即時型(あるは急性型)と遅発型とに分けられる。輸血開始時及び輸血中ばかりでなく輸血終了後にも、これらの副作用・合併症の発生の有無について必要な検査を行う等経過を観察することが望ましい。

*これらの副作用・合併症を認めた場合には、遅滞なく輸血部門あるいは輸血療法委員会に報告し、その原因を明らかにするように努め、類似の事態の再発を予防する対策を講じる。特に人為的過誤(患者の取り違い、転記ミス、検査ミス、検体採取ミスなど)による場合は,その発生原因及び講じられた予防対策を記録に残しておく。

  1. 急性型副作用: 輸血開始後数分から数時間以内に発症してくる急性型(あるいは即時型)の重篤な副作用としては、型不適合による血管内溶血、アナフィラキシ?ショック、細菌汚染血輸血によるエンドトキシンショック(菌血症)、播種性血管内凝固症候群、循環不全などがある。このような症状を認めた場合には、直ちに輸血を中止し、輸血セットを交換して生理食塩液又は細胞外液類似輸液剤の点滴に切り替える。
  2. 遅発型副作用:遅発型の副作用としては、輸血後数日経過して見られる血管外溶血や輸血後紫斑病などがある。
  3. 輸血後植片対宿主病:本症は輸血後7?14日頃に発熱、紅斑、下痢、肝機能障害及び汎血球減少症を伴って発症する。本症の予防には放射線照射血液の使用が有効である。
  4. 輸血後肝炎:本症は、早ければ輸血後2?3週間以内に発症するが、肝炎の臨床症状あるいは肝機能の異常所見を把握できなくても、肝炎ウイルスに感染している場合がある。特に供血者がウインドウ期にあることによる感染が問題となる。このような感染の有無を見るためには、輸血後最低3カ月間、できれば6カ月間程度、定期的に肝機能検査と肝炎ウイルス関連マーカーの検査を行う必要がある。
  5. ヒト免疫不全ウイルス感染: 後天性免疫不全症候群(エイズ)の起因ウイルス(HIV)感染では、感染後2?8週で、一部の感染者では抗体の出現に先んじて一過性の感冒様症状が現われることがあるが、多くは無症状に経過して、以後年余にわたり無症候性に経過する。特に供血者がウインドウ期にある場合の感染が問題となる。感染の有無を確認するためには、輸血後2?3ヶ月以降に抗体検査等を行う必要がある。
  6. その他:輸血によるヒトTリンパ球向性ウイルスI型(HTLV-I)などの感染の有無や免疫抗体産生の有無などについても、問診や必要に応じた検査により追跡することが望ましい。
  7. その他、我が国では従来、『厚生省吉利班あるいは日本輸血学会の診断基準に基づき、輸血後引き続き2回以上GPT 100単位を超えるものを肝炎とした例が多いが、外国における報告では、輸血2週以後の引き続く2回以上の検査でGPTが正常の2倍あるいは2.5倍以上を示す場合』としたものが多く、いずれの場合も他の肝障害をきたす原因は全て除かれることが条件であるとする報告がされている。

『血液製剤の使用指針及び輸血療法の実施に関する指針』では、輸血後肝炎は速ければ『輸血後2-3週間以内に発症』とされていることから他家血輸血の場合、輸血2週経過後により肝機能検査を実施し、更に3-6カ月にわたって『肝炎ウイルス関連マーカーの検査を行う』ことが必要ではないかと考えるが、実施の最終的な判断は『主治医の判断』による。

[065.BLO:2003.8.26.古泉秀夫]


  1. 関口定美:輸血後肝炎の発症頻度;日本医事新報,No.3200,1985.8.24.

優克竜について

月曜日, 8月 13th, 2007

Q:日本で製造し、中国で販売されている「優克竜」とは何か

A:「優克竜」→ウロカルンカプセル(日本新薬)

本品は、古くから尿路結石の治療目的で民間薬として使用されてきた「うらじろがし」を製剤化した製品で、1Cap.中にウラジロガシエキス(quercus stenophylla extract)225mgを含有する製剤である。

尿路結石の発育抑制作用、溶解作用、抗炎症作用、利尿作用を有するとされている。

[1998.10.26.古泉秀夫]


  1. 国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・私信,1998.10.26. 2)高久 史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,1998

ヤエヤマアオキについて

月曜日, 8月 13th, 2007

Q:ヤエヤマアオキの果実のジュースが体にいいと聞いたが、どの様な効果があるのか

A:和名:ヤエヤマアオキ(八重山青木)は、アカネ科の高さ8m程度の常緑小高木で、樹皮から赤色染料、根から黄色染料(根の木質部:赤色染料、樹皮:黄色染料とする報告もある)を取るためボルネオ等では広く栽培されている。メンクデュ(Mengkudu)、学名: Morinda citrifolia Rubiaceae。

本品はインドからマレー、東インド諸島、太平洋諸島、オーストラリア東部及びフィリピン、台湾、沖縄等に亘って広く分布している。

ボルネオでは本品は二次林や荒廃地に自生しているが、木の実を野菜として食べるため栽培も行われている。果実は種子が多く味もなく、決して美味とはいえないが、旱魃で食糧の欠乏時にはこれを食用とする。

ボルネオでは、ヤエヤマアオキの葉と果実を薬用として使用している。完熟した果実は糖尿病の進行を制御する働きをしたり、女性の身体の血液を浄化する作用もあると伝えられている。解熱や腹痛を治療するときは、葉を乾燥して温布にして胸部や腹部に張り付ける。新鮮な果実は、シャンプーとして洗髪に使用し、鉄鍋を磨くためにも使用されている。

その他、本品についてフレンチポリネシア諸島で「神からの贈り物」といわれ古くから幅広く利用されている果実があり「ノニ」と現地ではいわれているとする報告も見られる。ノニ中に含まれる成分については、次の資料を入手したが、各成分の含有量については記載されていない。

なお、含有成分について、原資料は日本名で記載されているが、調査の都合上、該当する英名を調査し、調査不能な物質については、確認された物質の英名から一部類推した。

各成分のうち既に合成され、食品添加物等として使用されている物、あるいは医薬品原料とされているもの等、その一部について資料の捕捉はできたが、本品固有の成分と考えら物質では、現段階では検索不能のものも見られる。

従って、本品の摂取と服用中の薬品に対する影響等については、不明であるとすることになるが、医薬品の服用に際し、ジュースでの服用は避けるとするのが原則であり、同時に摂取しない限り、特に問題はないのではないかと判断する。

ヤエヤマアオキの果実を商品化したものとして「タヒチアンTMジュース(モリンダ社)が市販されている。

商品化されたジュースには、ブルーベリーとグレープが配合されているとされる。 なお、本品はフルーツジュースとして市販されており、薬効は標榜されていない。

[015.9.MOR:2000.4.12.古泉秀夫]


  1. 深井 勉:素材を探る14-ボルネオ先住民の植物利用;健康産業流通新聞,10.3.12.
  2. 花城良廣:染料植物;www.ryukyushimpo.co.jp/,2000.3.17.
  3. village.infoweb.ne.jp,2000.3.17.
  4. http://www.nttl-net.ne.jp/boxtree/nonitop.htm,2000.3.17
  5. 薬科学大辞典 第2版;廣川書店,1990
  6. 中薬大辞典;上海科学技術出版社,1979
  7. 13599の化学商品;化学工業日報社,1999
  8. The Merck Index 12Ed.,1996

モダフィニルについて

月曜日, 8月 13th, 2007

KW:薬名検索・モダフィニル・modafinil・adrafinil・ Olmifon・α1-agonist・興奮剤・覚せい剤・中枢神経用薬・神経筋疾患治療薬・抗うつ剤・国際陸連・IAAF・禁止 薬物・ドーピング

Q:世界陸上選手権パリ大会の女子 100m・200m優勝者のドーピング(禁止薬物使用)検査で興奮剤の一種であるモダフィニルが検出されたとする報道がされていたが、これはどの様な薬剤か。

A:現時点でモダフィニルは、国際陸連(IAAF)禁止薬物のリストに収載 されていないとされているが、国内での市販もされていない。

modafinilはα1-agonistであり、 薬効として興奮剤、覚せい剤、中枢神経用薬、神経筋疾患治療薬、抗うつ剤とする報告がされている。

modafinilはadrafinil(Olmifon@)の誘導体で、 中枢系のα1刺激作用を有する。特発性過眠症、ナルコレプシーを適応として、フランスでは1994年に上市されたほか、数カ国で上 市されている。注意欠陥多動性障害に対しても有用と考えられる。多発性硬化症、うつ病、アルツハイマー病、パーキンソン病の適応での臨床治験も行われている。

英国では、睡眠時無呼吸に伴う日中の過度の眠気の適応で2002年3月に申 請され、同年11月に承認された。米国ではナルコレプシーにおける長時間の傾眠傾向の適応で、オーファンドラッグに指定された。ナルコレプシー、閉塞型睡眠時無呼吸症候群、交代勤務睡眠障害などの、成人における睡眠と覚醒の障害による過度の眠気への適応拡大が、2002年12月に申請された。

日本では2000年1月ナルコレプシーの適応でオーファンドラッグに指定さ れた。

臨床試験段階の副作用として頭痛、悪心、口渇、胸焼け、眩暈。

同意語:CN-801、CEP-1538、CRL-40476。

[商]provigil、alertec、modiodal、 mediodal、lafon(Cephalon社)。

カナダ Draxis Health社
ドイツ・東欧諸国 Merckle社
アメリカ、メキシコ、イギリス、アイルランド、スイス Cepalon社
オランダ Nourypharma社(Akzo社)
スペイン、ポルトガル CEPA社
イタリア Dompe社
韓国 Choongwae社
日本 アズウェル社

[011.1.MOD:2003.9.9.古 泉秀夫]


  1. 興奮剤検出 ホワイト「シロだ!」;読売新聞,第45774号, 2003.9.1.
  2. 明日の新薬CD-ROM版,2003.9.1.

メサラジンの服用と葉酸の併用について

月曜日, 8月 13th, 2007

KW:副作用・併用療法・メサラジン・葉酸・サラゾピリン錠・フォリアミン錠・ペンタサ錠・salazosulfapyridine・sulfasalazine・mesalazine

Q:サラゾピリン錠とフォリアミン錠が併用投与されていた患者が、今回、サラゾピリン錠からペンタサ錠に処方変更されたのに伴い、フォリアミン錠の服用は必要ないのではないかといっているが、どう対応すべきか。

A:両薬剤の作用機序、副作用等は下記の通り報告されている。

一般名 salazosulfapyridine(sulfasalazine) mesalazine
商品名

会社名

サラゾピリン錠・坐薬

(三菱ウェルファーマ)

ペンタサ錠・注腸

(日清キョーリン)

適応症 経口:潰瘍性大腸炎、限局性腸炎、非特異性大腸炎。

挿入:潰瘍性大腸炎

経口:潰瘍性大腸炎(重症を除く)、クローン病。

注腸:潰瘍性大腸炎(重症を除く)

作用 投与の約1/3は小腸でそのままの形で吸収されるが、大部分は大腸に移行し、腸内細菌で5-アミ ノサリチル酸とスルファピリジンに分解・吸収される。

その治療活性部分は5-アミノサリチル酸である。

5-アミノサリチル酸は組織学的に変化の認められる粘膜上皮細胞の結合組織に対して特異な親和力を示し、この5-アミノサリチル酸の抗炎症作用により効果を現す。

本剤は5-ASAを有効成分として炎症性細胞から放出される活性酸素を消去し、炎症の進展と組織 の障害を抑制すること及びロイコトリエンB4の生合成を抑制し、炎症性細胞の組織への浸潤を抑制することが考えられている。

マクロファージや好中球などの炎症性細胞から放出される過酸化水素や次亜 塩素酸イオンなどの活性酸素を消去し、炎症の進展と組織の障害を抑制する。

副作用 重大:1)再生不良性貧血、汎血球減少、無顆粒球症、血小板減少、貧血 [溶血性貧血、巨赤芽球性貧血(葉酸欠乏)等] 重大:4)再生不良性貧血、汎血球減少、無顆粒球症、血小板減少症
その他 葉酸の吸収低下(大赤血球症、汎血球減少を来す葉酸欠乏症のおそれ)→欠乏症が疑われる場合に は、葉酸を補給。 葉酸の吸収阻害等に関する報告は見られない。

salazosulfapyridine(sulfasalazine) は、腸内細菌によりスルホンアミドのスルファピリジンと5-アミノサリチル酸に分解される。

スルホンアミド類は構造上、細菌のジヒドロ葉酸(DHF)合成の構成要素であるパラアミノ安息香酸(PAB)に類似する。偽の基質としてスルホンアミド類は競合的にパラアミノ安息香酸の利用を妨げ、ジヒドロ葉酸合成を阻害すると報告されている。

その意味では5-アミノサリチル酸を単独の有効成分とするmesalazine製剤では、葉酸欠乏を惹起せず、葉酸欠乏を原因とする巨赤芽球性貧血等は発現しないと考えられる。

mesalazineによる副作用としての貧血は、国内における治験段階では1例の報告もなく、1999年9月段階での市販後の報告として4例の貧血と1例の再生不良性貧血が報告されているが、葉酸欠乏による副作用とは確認されていないとされる。 salazosulfapyridine(sulfasalazine) は、その薬理作用上、葉酸欠乏の可能性があり、葉酸の補充が必要であったが、mesalazineではその必要性はないと考えられる。

従ってサラゾピリン錠の副作用防止目的で、葉酸製剤が投与されていたのであれば、サラゾピリン錠からペンタサ錠に処方変更された段階で、葉酸製剤は不要ということになるが、処方内容の変更は医師の専権事項であり、医師に相談するよう患者に伝えることが必要である。

[065.ASA:2005.3.8.古泉秀夫]


  1. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2005
  2. 名尾良憲・他編著:臨床医薬品副作用ハンドブック;南山堂,1999
  3. 福原武彦・監訳:薬理学アトラス;文光堂,1998
  4. 国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:医薬品情報,27 (4):323-324(2000)

メチルスルフォニルメタンについて

月曜日, 8月 13th, 2007

KW:健康食品・メチルスルフォニルメタン・ methylsulfonylmethane・MSM・DMSO ・ジメチルスルホキシド・dimethl sulfoxide・イオウ・硫黄

Q:健康食品中に加えられているメチルス ルフォニルメタンとは何か

A:非金属性ミネラルである硫黄は、全ての体細胞に含まれており、多くの体 機能に不可欠であるとされている。硫黄の中でも吸収率が極めて高いといわれる有機イオウのメチルスルフォニルメタン (methylsulfonylmethane:MSM)は、その有用性が最近見直されているとする報告がある。

MSMは植物、肉類、卵、乳製品などに含まれており、人間の体内で酵素や抗 体、グルタチオン、その他軟骨やコラーゲン、毛髪、爪、皮膚を作るのに必要な物質である。またアミノ酸の生成に不可欠で、MSMや他の硫黄化合物がなければ、蛋白質は分子構造を持つことができないとされている。

MSMの形状は白色、無臭でわずかに苦味がある結晶状の物質であり、硫黄元 素の含有量は34%で水溶性である。構造は簡単で、硫黄の原子1個に酸素が2個、メチル基(炭素1個と水素3個)が2個付いたもので化学式はCH3SO2CH3(C2H6O2S)である。

MSMはあらゆる生物体に存在する硫黄の85%を供給していることが示唆されてい る。自然界にあるMSMは海から始まり、微小なプランクトンが、ジメチルスルフォニウム塩(dimethylsulfoniumsalts)と呼ばれる硫黄化合物を放出する。これらの塩類は海洋中で揮発性の高い化合物DMS (dimethylsulfide)に変化し、気体となって大気圏の上層に達する。DMS と異なり、DMSO (ジメチルスルホキシド:dimethl sulfoxide)と MSM は、水溶性で雨により地面へと吸収される。植物は根からそれらを吸収し、最高 100倍まで濃縮する。MSMは、鎮静作用や抗炎症作用などの機能が科学的に立証されている。

MSMについて、我が国では、2001年3月付けで「医薬品の範囲に関する 基準改正について」および、同年6月の「厚生労働省医薬局食品保健部基準課長名の食基発第20号」の通達で「医薬品的効能効果を標榜しない限り、食品と認められる成分リスト」に硫黄が収載されたことで、健康食品への使用が可能になった。

MSMの代表的な機能として、鎮痛作用(神経線維を伝わる痛みのインパルス を抑制)、抗炎症作用があり、副次機能として血管拡張、血流を促進、筋肉の痙攣が減少することから、関節炎の緩和、筋肉痛の緩和、外傷性晩期の痛みや炎症の緩和、ケラチン形成促進作用(髪及び爪の成長促進)などがあるといわれている。

また、MSMがヒスタミン受容体と結合するのを阻止する働きから、アレルギー抑制効果があるのではないかとする報告がされている。

なお、Lignisul MSM(リグニサル エムエスエム)について、北米原産のテーダ松のリグニンより造られたMSM99.9%の高純度を持つ植物性製品である。特に石油系の無機物質を原料とする MSMとは異なるため、安全性は高いと報告されている。

MSMをサプリメント目的に生産を始めたのは最近のことで、1989年頃か らである。もともとMSMは、製紙工場の副産物として生まれた。製紙は木のチップを硫酸処理し、圧縮して行われるが、廃棄物として生まれる液体は、木の細胞間に存在するリグニン(Lignin)が混入し、DMSO(ジメチルスルホキシド)を形成している。

[015.9.MET:2004.6.22. 古泉秀夫]


  1. 丸元康生・監修:サプリメントバイブル;株式会社ネコ・パブリッシン グ,2003
  2. 株式会社東洋発酵・資料(愛知県大府市追分町3丁目89番地 TEL0562-46-7677・FAX0562-46-8122),2004.5.15.
  3. http://www.toyohakko.com/MSM.pdf, 2004.5.15.

メシマコブについて

月曜日, 8月 13th, 2007

Q:健康食品として取り扱われているメシマコブとはどの様なものか

A:「メシマコブ」は学名Phellinus linteus(Berk.et Curt)Aoshimaとされるタバコウロコタケ科キコブタケ属の担子菌類である。

学名中のAoshimaは発見者の青島清夫氏の名前に因むとされている。

桑の古木に寄生し、こぶ状から次第に扇状に育ち、傘の直径は8?12cm、最大で30cm程度になるとされている。

傘の裏側が黄色を示すことから漢方薬として『本草綱目』に収載されている「桑黄(ソウオウ)」がこれに相当するのではないかとされている。和名「メシマコブ」の由来は、長崎県男女群島の女島(メシマ)に多くの野生株が見られることによるとされる。

但し、『桑黄』については、

  • 別名:桑臣(ソウシン)、桑耳(ソウジ)、胡孫眼(コソンガン)。
  • サルノコシカケ科の植物、針層孔(シンソウコウ)の子実体。
  • 原植物:Phellinus igniarius(L.ex Fr.)Ouel.菌蓋は木質、扁平な半球形あるいは馬蹄形、浅肝褐色ないし暗灰色あるいは黒色。カワヤナギ、ヤナギ、シラカバ、クヌギなどの樹幹に生える。分布は中国東北、華北、西北及び四川、雲南等。
  • 成分:アガリシン酸(粗製品名:アガリシン)を約4%(菌糸体はアガリシン酸を含まない)、脂肪酸(主なものは C22・C24の飽和脂肪酸)、C23・C25の飽和炭化水素、アミノ酸(主要なものはグリシン、アスパラギン酸)、蓚酸、トリテルペン酸、芳香族酸、エルゴステロール及びキシローズ酸化酵素、カタラーゼ、ウレアーゼ、エステラーゼ、スクラーゼ、マルターゼ、ラクターゼ、セルラーゼ等多種の酵素を含む。
  • 薬理:アガリシン酸には汗腺の分泌を抑制する作用があり、海外ではかって盗汗(寝汗)の治療に使用された。数時間以内に作用が発現し、24時間持続する。投与量は30mg/回あるいは100mg/日を超過してはならない。
    通常、連続して1?5日間用いる必要があり、比較的良い治療効果が見られ、甚だしい副作用はない。唾液腺の分泌を抑制しない。局部に対して刺激性があり、大量に経口服用すると嘔吐、下痢を惹起し、また皮下注射はできない。
    ジギタリス様の作用があり、低濃度で平滑筋を興奮させ、大量では抑制作用を起こす。中毒量は延髄の血管運動中枢・呼吸中枢をまず興奮させた後麻痺させる等の報告がされている。
  • 性味:味は甘辛、無毒。
  • 適応:血崩、血淋、脱肛瀉血、帯下(こしけ)、月経閉止を治す。

以上の報告を見る限りメシマコブと桑黄は、全く別種の茸である可能性が推定できる。

メシマコブの薬効に初めて注目したのは元国立ガンセンター研究所の池川哲郎氏と東京大学薬学部の柴田承二氏の研究グループである。

1968年に国立ガンセンター研究所で行われた実験でマウス癌サルコーマ180に対する担子菌類・食用菌類の熱水抽出物による癌増殖阻止率の検討の結果メシマコブは96.7%の阻止率を示し、茸類で最も高い癌増殖阻止率を示した。

和名 腫瘍阻止率(% )
アラゲカワラタケ 65.0
ウスバシハイタケ 45.5
エノキタケ 81.1
オオシロタケ 44.8
オオチリメンタケ 49.2
カイガラタケ 23.9
カワラタケ 77.5
カンタケ 72.3
キクラゲ 42.6
コフキサルノコシカケ 64.9
シイタケ 80.7
チャカイガラタケ 70.2
ナメコ 86.5
ヒラタケ 75.3
ベッコウタケ 44.2
マツタケ 91.8
メシマコブ 96.7

メシマコブはその栽培・培養が困難であったため、簡単に入手することができなかったが、韓国の(株)韓国新薬と韓国科学技術省の共同研究により栽培に成功。メシマコブに少量含まれる抗ガン成分を有効量にまで高める培養法を確立した。

メシマコブの菌株中から最も強力で人体に無害な抗ガン免疫増強効果を発揮する画期的な物質としてメシマPL2・PL5の存在を確認。更にメシマコブ培養菌糸体の熱水抽出物から制ガン免疫賦活剤「Mesima」を開発した。

  • 作用機序:茸の多糖体を用いた癌治療用薬としてクレスチン(カワラタケ)、レンチナン(シイタケ)が既に実用化されているが、植物由来の抗腫瘍性多糖体に共通している特徴は癌細胞に直接作用する細胞毒ではなく、人が本来持っている免疫機能を活性化させる作用を示すということである。メシマコブには多種類の多糖類、核酸、脂肪酸、アミノ酸、酵素等が含まれている。現在までに解明されている作用機序は、マクロファージの活性を介し、T細胞を活性化し、インターロイキンを始め数種の免疫活性物質を放出することである。

メシマコブの培養菌糸体抽出物は、強力な抗腫瘍免疫増強作用を発揮し、免疫機能を担うリンパ球のB細胞やT細胞、 NK細胞等の働きを増大させ、サイトカイン産出を高める働きを示す。その結果、人体の免疫機能が高まり、抗ガン作用を発揮、癌に対しては予防効果が期待される他、化学療法剤との併用により副作用の発現を抑制する飲みでなく、抗ガン効果を増強する等の報告がされている。

[015.9MES.2000.4.7.古泉秀夫]


  1. 奥田拓道・監修:改訂新版 健康・栄養食品事典;東洋医学社,2000
  2. 上海科学技術出版・編:中薬大辞典 第3巻;小学館,1985
  3. 新しい免疫活性素材「メシマコブ」;健康産業流通新聞,1999.1.7.
  4. 山名征三:免疫アジュバント-メシマコブ多糖体の各種癌患者に対する使用経験;診療と新薬,27(6):1101-1106(1990)

目薬の木について

月曜日, 8月 13th, 2007

Q:民間薬として使用されている目薬の木の薬効、使用方法等について

A:メグスリノキ(和名:目薬木)は、学名をAcerNikoenseMaximowiczといい、カエデ属かえで科に属する落葉広葉樹である。日本特産であるため、漢名はない。学名に「Nikoense」があるのは最初に発見されたのが「日光」だからである。

本州山形、宮城県以南、四国、九州に分布し、湿気のある谷間、山の中腹などの暖傾斜地生え、時に植栽される落葉高木。『長者木』、『三ツ葉花木(ミツバハナノキ)』、『千里眼の木』の別称がある。

  • 薬用部分:樹皮・小枝。春?夏に樹皮、小枝を採集し、水洗いした後、日干しにする。
  • 成分:樹枝、小枝にフェノール配糖体のエピロードデンドリンを含む。
  • 薬効・薬理:薬理効果の詳細については不明であるが、民間で目薬として内服、外用するほか、肝臓疾患等に効果があるとされている。その他、利尿作用が報告されている。
  • 使用法:目薬に、樹皮3?5gを煎じて洗眼する。また1日量15?20gに300mLの水を加え、1/3量になるまで煎じつめて服用してもよい。この煎剤は肝臓疾患にもよいといわれる。
葉部 木部 樹皮
tripenoide α-アミリン

β-アミリン

  α-アミリン
sterol β-sitosterol配糖体 β-sitosterol及びその配糖体 β-sitosterol及びその配糖体
flavonol quercetin及びその配糖体[フラボン配糖体のアグリコンである。]    
安息香酸誘導体 エラーグ酸    
タンニン成分 ゲラニイン(ゲンノショウコ含有成分:葉成分の全体の3%)   catechin[多くの植物中に見いだされ、タンニンの母体である。]
クリマン誘導体   scopoletine scopoletine
配糖体   アセロサイドIエピーロトデンドリン アセロゲニン

エピーロトデンドリン

  ロドデンドロール   メチールヘアトマット

ロドデンドロール

以上の成分は調査の範囲内であり、有効成分として「ロドデンドロール」を挙げる資料も見られるが詳細は不明であるとされている。

なお、民間薬として注目されていたメグスリノキを利用した健康飲料、煎じ用の小枝チップ、お茶等が平成6年群馬県中之条町沢田農協-中之条営林署との共同開発で製品として市販されている。

  • 「肝太くん」:健康飲料-メグスリノキエキス+ローヤルゼリー等を配合したドリンク剤(原材料:メグスリノキエキス・アカシヤハチミツ・甘草エキス・ローヤルゼリー)。
  • 「肝太くん(新茶)」:メグスリノキの新葉を採取し、緑茶に加工し、ティーバックにしたお茶。(原材料:メグスリノキ新葉)
  • 「カンコちゃん」:苦い味の「肝太くん」にリンゴ果汁、梅果汁を加えマイルドに加工したドリンク(原材料:メグスリノキエキス・リンゴ果汁・梅果汁・アカシアハチミツ・ブドウ糖・果糖液糖・甘草エキス・ローヤルゼリー)

[015.9.ACE:2000.3.3.古泉秀夫]


  1. 三橋博・監修:原色牧野和漢薬草大図鑑;北隆館,1988
  2. 伊澤一男:薬木<ログスリノキ>;マキノ出版,1995
  3. 林野庁財団法人林野弘済会HP,1998.9.25.

滅菌・消毒法に関する基本的注意事項

月曜日, 8月 13th, 2007

KW:滅菌・消毒・滅菌法・消毒法・感染防御・基本的事項・物理的消毒法・化学的消毒法

Q:滅菌・消毒法に関する基本的事項について

A:感染防御とは、感染症の発生を 事前に防止(prevention)することと、発生した感染症が拡散しないように管理 (control)することを意味する。

なお、感染症の発生には、次の諸条件が全て満たされることが必須の条件である。

  1. 原因病原微生物の存在
  2. 生体の感受性部位の存在
  3. 感染症を惹起するのに十分な接触量
  4. 感染経路の成立

感染防御とは、これらの要件の一つ以上を遮断するための対策を意味する。

滅 菌

滅菌とは、全ての微生物を殺滅あるいは除去する方法である。

(1)滅菌法

[1]加熱法:高圧蒸気法・乾熱法

[2]照射法:放射線法・高周波法

[3]ガス法:酸化エチレンガス法・過酸化水素ガスプラズマ法等。

(2)濾過法

消 毒

生存する微生物の量を減少させるための方法であり、必ずしも微生物を全て殺滅したり除去するものではない。

(1)物理的消毒法

[1]流通蒸気法

[2]煮沸法

[3]間歇法(流通蒸気)

[4]紫外線法

(2)化学的消毒法

[1]気体(オゾン殺菌法等)

[2]液体(各種消毒薬)

化学的消毒法(熱が利用できない場合に消毒薬を利用)

熱消毒の設備がない場 合、生体及び環境及び非耐熱性の医療用具等が対象となる。

薬液消毒に影響する因子

 a.消毒対象物に附着する有機物

b.消毒薬の濃度

c.消毒薬使用時の温度

d.消毒薬との接触時間

e.消毒対象物の物理的かつ構造的特性

f.pH(水素イオン濃度)

g.希釈用水の水質

消毒薬にはそれぞれ多くの特性がある。各消毒薬の特性を理解し、正しい用法を守らなければならない。

  1. 微生物に対する抗菌スペクトルがあり、全ての微生物に有効な消毒薬はな い。効果の及ばない微生物が必ず存在する。
  2. 消毒薬が殺菌作用を示すためには微生物との適切な接触時間が必要であ り、必ずしも速効的でない。効果発現時間は微生物の抵抗性と消毒薬の種類により異なる。通常は3分以上の接 触時間を要する。
  3. 血液等の有機物が混入すると消毒薬の殺菌効果は減弱する。
  4. 器具や環境消毒に使用する消毒薬には生体毒性があり、皮膚、呼吸器、中 枢神経系等に対して障害作用を示す。
  5. 消毒薬は化学的に不安定な物質であり、保存による効果の低下がある。使用中に揮発して濃度が低下するものがある。
  6. 消毒対象物に対して金属腐食作用、素材の劣化等の悪影響を及ぼす事例が ある。
  7. 使用方法が複雑なものが多い。決められた通りの希釈を行い、正しい濃度 で使用する。
  8. 不快な臭気や異常な着色がある。衣類等の脱色、腐蝕を起こす消毒薬がある。
  9. 廃棄により環境に対する悪影響がでるものがある。
  10. 消毒薬のなかでも生息できる微生物が存在する。
1.保存容器 定期的な滅菌処理を行う。
2.希釈液 滅菌精製水の使用。 滅菌精製水精製装置の定期的点検。
3.調製量 必要量のみ調製。新 しい消毒薬の継ぎ足しは禁止する。
4.濃度と調製 基準濃度を守る。
5.表示と保存 分かり易い表示で誤 用を避ける。誤用を避けるため保存場所を定める。
6.廃棄処理 規定の廃棄方法を守る。

殺菌力に影響する因子

消毒薬の効果は、『使用濃度・使用温度・作用時間』によ り規定される。

  1. 使用濃度:濃度が高くなれば殺菌効果は強くなる。ただし、人体に対する安全性は低下する。薬剤濃度がどの範囲にあれば、有効性があるかに ついては、消毒薬の種類により異なる。消毒薬は使用中に有機物や酸素、温度、紫外線等の影響により濃度が低下する。従って消毒終了時点においても有効濃度を確保するよう注意する(添付文書参照)。
  2. 使用温度:消毒薬の作用は一種の化学反応であり、温度が高くなれば殺菌力は強くなる(消毒薬によっては分解等に注意)。消毒薬の種類によ りその程度は異なるが、通常20℃以上で使用する。
  3. 作用時間:微生物と接触して瞬時に殺菌できる消毒剤はない。一定の作用時間が必要である。消毒薬と接触した微生物の生残菌数は、正確な対 数減少を示さない場合も多い。従って実際の消毒に際しては、十分な余裕を持って消毒時間を設定する必要がある。
  4. その他:消毒効果に影響する因子として、上記3項の他に消毒対象物の物理的特性及び構造的特性が上げられる。表面構造が粗の場合には、予備洗浄が十分行えず、消毒薬との接触も不良となる。また、構造的に細管構造や先端が盲端となっている場合には、消毒薬やガスが先端まで到達できず、消毒不良を起こす。予備洗浄が十分されているかどうかは、その後の消毒が有効にできるかどうかの鍵 となる重要な処置である。内視鏡の洗浄を確実に行えば、附着菌数を約10?4 減少させることができる。

消毒薬の濃度表示と希釈

消毒薬の濃度表示は、容積に対する成分の重量(w/v %:重量/容積%)で現される。特殊なものとしてアルコール類はv/v%、次亜塩素酸ナトリウム等はppmが使用される。

次亜塩素酸Na 10%溶液 (100,000ppm)、1%溶液(10,000ppm)、0.1%溶液(1,000ppm)
有効ヨウ素 10%ポビドンヨー ド原液(100,000ppm)→有効ヨウ素1/10(10,000ppm)
0.2w/v%希釈 液 10w/v% 原液を50倍希釈。10L滅菌精製水中に10w/v% 原液200mL添加。1Lの希釈液を調製する場合は980mLの精製水中に10w/v% 原液20mLを入れる。

消毒薬の希釈は、通常、精製水を使用し、希釈後に高圧蒸気滅菌をする。ポビドンヨードを希釈する際には、クリーンベンチ内で注射用蒸留水若しく は滅菌水を使用し、高圧蒸気滅菌は行わない。口腔内の含嗽等に使用する場合には、希釈液に水道水などの上水を使用してもよい。

希釈消毒液の保存

希釈して使用 する消毒薬は用時調製が原則であり、保存しないよう注意する。

希釈調製後滅菌する消毒剤として、クロルヘキシジン・塩化ベンザルコニウム・塩化ベンゼトニウム等がある。これらの消毒剤の希釈・滅菌後の安定 性は比較的よいので、未開封の場合は遮光保存で通常3カ月は安定である。開封後は『滅菌した消毒薬では、開 封時点で滅菌状態は解除されるため、使用残液は廃棄』する。開封後清潔な取扱いがされたばあい7日以内に使用とする報告もあるが、創傷部位 等の消毒には使用しない。

消毒剤の希釈に際して水道水、新鮮な蒸留水で調製したものは、調製後24時間以内に使用を完了する。次亜塩素酸ナトリウムは不安定であり、希釈 後8時間以内に使用を完了する。

細菌 真菌*1 ウイルス *2
増殖型 結核菌 芽胞 脂質無-小型サイズ 脂質有-中型サイズ
高水準消毒薬 ±*3
中水準消毒薬   ±*4 ±
低水準消毒薬 ?   ? ?

*1:糸状菌を含まない。

*2:肝炎ウイルスを除く

*3消毒剤と長時間接触した場合のみ有効

*4:殺芽胞効果を示すものもある。

細菌 芽胞菌(熱・消毒剤 抵抗性)。

結核菌の細胞壁は多量の鑞様物質(脂質)を含むため、色素の通過が妨げられる。

消毒薬の一部に抵抗性を示す。

その他の栄養型細菌は消毒薬に対し比較的抵抗性を示さないが、一部に抵抗性を示す細菌が報告されている。

ウイルス ウイルスによって capsidの外側にenvelopeと呼ばれる糖蛋白と脂質の膜を被るものがある。

virusの中にはnucleocapsidが、感染によって修飾された宿主細胞の細胞膜(envelope)を被って、完全なvirionとなるものがある。

envelope の表面には、糖蛋白の突起が認められ、spike(スパイク)と呼ばれる。

envelopeは糖蛋白と脂質よりなり、virusが細胞に吸着し感染する際に重要である。

糖蛋白に対する抗体は、中和抗体として感染防御に働き、脂質に対して作用するエーテルや胆汁 酸成分はvirusを失活させる

従ってenvelopeをもつvirusは、エーテル感受性である。envelopeをもつvirus は、envelopeが糖蛋白と脂質から構成されているため、消毒剤との親和性(易浸透)がよく、逆にenvelope をもたないvirusは消毒剤に抵抗性である。

virusの消毒法を考える場合、envelopeをもつvirusを中型・ envelopeをもたないvirusを小型に分類する方法が利用されている。

区分 消毒薬 一般細菌 緑膿菌 結核菌 真菌* 芽胞 B型肝炎virus
高水準 グルタラール
フタラール
中水準 次亜塩素酸ナトリウ ム
消毒用エタノール ×
ポビドンヨード ×
クレゾール石鹸 × ×
低水準 第四級アンモニウム 塩 [benzalkonium chloride]

[benzethonium chloride]

× × ×
クロルヘキシジン × × ×
両性界面活性剤 × ×

*糸状菌を含まない

○:有効・△:効果得られ難い。高濃度・接触時間延長で有効な場合がある・×:無効。

滅菌・消毒の基本原則

滅菌・消毒の基本原則は、滅菌の確実性・安全性を考量すれば、加熱滅菌が基本であり医療器具・用具等で加熱滅菌可能な材質のものは高圧蒸気滅菌を行う。また、院内感染防止対策として『石鹸を用いた流水による手洗い(ペーパータオル使用)。』も重要である。緊急の場合あるいは明らかな汚染がない場合『速乾性手指消毒剤』による手指消毒も可能である。

[615.28.STE:2003.6.17.古泉秀夫・2003.11.9.改訂]


  1. 厚生省保健医療局結核感染症課・監修:消毒と滅菌のガイドライン;へるす出版,2000
  2. 武田美文・監修、古泉秀夫・編:院内感染防御マ ニュアル;薬業時報社,1996
  3. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2003
  4. 日本病院薬剤師会・編:院内における消毒剤の使用指針;薬事日報社,1987

無塩醤油について

月曜日, 8月 13th, 2007

KW:薬物療法・無塩醤油・減塩醤油・塩化カリウム・腎障害・食事制限・人工透析

Q:無塩醤油を透析患者に使用することの可否について

A:無塩醤油(理研化学株式会社)の配合成分について、次の通り報告されている。

  • 100mL中
  • リンゴ酸1.5g
  • 塩化カリウム9.0g
  • 塩酸リジン200mg
  • L-アスパラギン酸600mg

以上の他「その他の調味料」が含まれるとされるが、本品中のNaCl含有量は3%と報告されている。 一般に市販されている醤油のNaClの含有量が平均で18-19%、減塩醤油中のNaCl含有量が9%とされている量からみると、NaCl量は遙かに少ないといえる。

ただし、無塩醤油については、平成13年9月(2001年)に製造中止されたの報告がされており、現在は減塩醤油以外入手できないようである。

また、透析患者に対する『無塩醤油』の使用は、カリウム含有量が多いため、不適であるとされている。

保存期慢性腎不全の食事指導(日本腎臓学会:腎疾患患者の生活指導・食事療法に関するガイドライン)

  Ccr≦70mL/min
総エネル ギー

(kcal/kg*/日)

35が基準

ただし、年齢や運動量によって、適正エネルギー量は28- 40の範囲になりうる。

蛋白質

(g/kg*/日)

0.6以上0.7未満

ただし、Ccr50mL/min以上で尿蛋白1g/日以下 であれば、0.9前後で開始することも可

食塩

(g/日)

7以下
カリウム 低蛋白食が実行されていれば通常制限しないが、血清カリウム 5.5mEq/L以上の時、カリウム制限を加える。
水分 ネフローゼ症候群及びCcr 15mL/min以下では尿量+不感蒸泄量とする。
リン

(mg/日)

低蛋白食が実行されていれば制限無し。

ただし、尿中リン排泄量500mg/日以上の時はリン制限 を加える。

*標準体重

腎障害時の食事療法の注意点は、

  1. カロリーを十分に摂取する
  2. 蛋白質の制限
  3. 塩分の制限
  4. カリウム・リンの制限
  5. 適切な水分量の摂取

等である。しかし、その程度は慢性腎不全の原因となった病気や合併症あるいは年齢によって異なるとされている。

カリウムの制限

腎不全患者が、一度に多くのカリウムを摂取すると、直ちにカリウムを尿中に排泄することが出来ず、高カリウム血症をきたす可能性が考えられる。尿素やクレアチニンは正常値の10倍になっても、すぐに生命に関わることはないが、カリウムが正常値の2倍(正常値約4mEq/L)に上昇すると、危険な不整脈が出現し、生命に関わることがあるとされる。従って5.5mEq/L以上にならないよう、カリウムの制限が必要であるとされている。

蛋白質の多い食品はカリウムも多いので、蛋白制限をしている場合には、カリウムを制限していることにもなる。カリウム制限で問題となるのは、野菜や果物である。いずれもカリウム含有量が多く、食べ過ぎると高カリウム血症の原因となる可能性が考えられる。透析患者に対し、NaClの代わりにKClを主成分とした『無塩醤油』を使用することは、高カリウム血症を来しやすいので注意が必要である。

[035.1.KCL:2005.4.26.古泉秀夫]


  1. 古泉秀夫・代表編著:医薬品情報Q&A[2];株式会社ミクス,1990
  2. http://www.riken-kagaku.co.jp/company/history.html,2005.4.14.
  3. 大阪府立急性期・総合医療センター腎臓内科:
    http: //plaza.umin.ac.jp/~kidney/manseijinfuzen_shokuji.html,2005.4.14.

無水エタノールの止血効果について

月曜日, 8月 13th, 2007

KW:臨床薬理・無水エタノール・95%-エタノール・無水アルコール・止血効果・エタノール・アルコール・エチルアルコール

Q:無水エタノールを止血目的で使用していると医師に言われたが、無水エタノールに止血効果はあるか

A:無水アルコール(absolute alcohol)=無水エタノール(absolute ethanol)、エチルアルコール(ethyl alcohol)。CH3CH2OH。

アルコールは15℃で、C2H5OH 85.80-87.35%又は90.09-91.29v/v%を含有する。

  • 性状:本品は無色澄明、揮発性の液で特異な臭いと灼くような味を有し、点火すると淡藍色の炎を上げて燃える。本品は水、エーテル又はクロロホルムと混和する。

    通常の含水エタノールを何回蒸留しても、5%の水を含む95%-エタノールしか得ることができない。この95%-エタノールから水を除いたものが、無水エタノールである。

    普通、95%-エタノールにベンゼンを加えて蒸留し、共沸混合物として水を除く。

    極めて純粋な無水アルコールは殆ど臭いがない。無色澄明の液で引湿性が強い。

    水とは任意の比例で混じり、その際熱を生じ且つ収縮して容積を減ずる。この容積の減少は15℃でアルコール53.94ccに水49.83ccを混和するときが最大で混和液100ccを得る。これはC2H5OH+3H2Oを生成するためである。

  • 応用:アルコールの殺菌力はその濃度により左右される。70%が最高力を有し、60% のものに比べて30倍、80%のものの40倍も強力である。60%以下及び80%以上は消毒、殺菌力はないと同様である。また殺菌剤のアルコール溶液における効力は、例外もあるが、アルコール含有量に逆比例する。
25% 50% 70% 80% 99%
四連球菌 60分 30分 10分 60分 9時間
霊菌 60分 30分 30分 9時間 24時間
黄色ブドウ状球菌 18時間 60分 60分 >3日 >3日
大腸菌 24時間 60分 60分 24時間 12時間
脾脱疽菌 >50日 >50日 >50日 >50日 >50日

本品は外用防腐殺菌剤として、あるいは手、皮膚等の消毒にまた器具類の消毒殺菌に用いる。これには70%に稀釈したものがよい。その他興奮剤とし、皮膚刺激の目的で掻痒、足汗に塗布し、丹毒、せつ等の皮膚炎症、湿疹に罨法料、伝染性炎症の繃帯料、溶剤、製剤の製造に用いられる。

その他、本品の刺激性は濃度の高いときに強く、殺菌力は約70%の濃度において強い。脂肪族麻酔薬に属し、麻酔薬の他麻酔初期の発揚期を利用して興奮薬、種々の濃度でチンキ剤、酒精剤、エリキシル剤、エキス剤などの製剤原料として使用される。またアルコール性飲料として食欲増進剤にも利用される。局所的に蛋白質を凝固させるため消毒、滅菌、局所刺激剤として用いられる。

その他、無水エタノールの利用について、出血性潰瘍に対する緊急内視鏡による止血術の手技の一つとして『99.5%エタノールの強力な脱水固定作用により血管が収縮、更に血管内に血栓が形成され止血する。露出血管周囲1-2mmの3-4カ所に、0.1-0.2mLずつ注入し、血管が白色に変化した時点で終了する。1回の注入量は1-2mL以下、合計の注入量もなるべく少なくする。注入量が多くなると潰瘍が拡大することがある。』の報告が見られる。

上記は、確かに無水エタノールによる止血効果についての報告ではあるが、無水エタノールを小壜に入れておいて、頻回に使用するという今回の質問の内容の範囲で、止血効果があるかどうかの確認をすることはできない。無水アルコールは『引湿性が強い』とされており、頻回の蓋の開閉の間に環境中の水分を吸湿し、含水量は通常のエタノールと同等程度まで増加するものと考えられる。

[015.4.ABS:2004.7.26.古泉秀夫]


  1. 伊藤正男・他総編集:医学大辞典;医学書院,2003
  2. 南山堂医学大辞典 18版,1998
  3. 縮刷第六改正日本薬局方注解;南江堂,1952
  4. http://www.dokidoki.ne.jp/home2/shiminhp/ulcerbleeding.htm,2004.7.15.