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ADHD治療薬はドーピング対象薬に含まれるか

火曜日, 8月 14th, 2007

KW:臨床薬理・ドーピング対象薬・ADHD・attention-deficit hyperactivity disorder・注意欠陥-多動性障害・methlphenidate・pemoline・clonidine・ dexamethylphenidate・dextroamphetamine

Q:アテネオリンピックの100m競争で金メダルを得たジャスティン・ガトリン(米国)は、『過 去に「注意欠陥多動性障害」の治療のため処方された薬が原因で、ドーピングによる処分を受け、その後、病気治療の目的で処方された薬ということで、処分は解かれた。しかし、次に違反すると永久追放になるリスクも背負ってトラックに復帰した』という報道があったが、ADHDの治療薬は全てドーピング対象薬に含まれるのか。

A:1994年米国精神医学会の診断基準に初めてADHD(attention-deficit hyperactivity disorder:注意欠陥・多動性障害)は疾患名として登場した。落ち着きのなさ、注意の集中や持続困難、衝動的な言動の三症状を主とするが、原因は不明であるとされている。有病率は約5%、男児が女児の5倍以上多い。

多くの症例は学童期に学校での問題を契機に顕在化するが、実際は乳幼児期から多動や衝動性は見られるので、一般外来時に気になる児は、受診時に 経過観察する。

ADHDは症候群であり、発達障害(精神遅滞、広汎性発達障害、学習障害)の症状としてADHD様の症状が出現したり、またADHDに発達障害 が合併することもある。

ADHDは本人には特に肉体的な苦痛はないが、周囲とのトラブルを頻繁に起こすため、常に叱責を受けたり敬遠されやすい。そのため二次的に心理 面で自尊心が傷つき、時に抑鬱的や反抗的になり、症状が悪循環になる。

現在、国内でADHDの保険適用が認められた薬剤はない。精神刺激剤に分類される薬剤等が使用されている。精神刺激薬はADHD患児の70- 80%に有効であるが、包括的なプログラムの一部として用いられることが最も多い。

使用薬剤 使用量 注意事項等 doping
methlphenidate hydrochloride

リタリン錠
(ノバルティス)

0.3-0.5mg/kg/ 日分1朝 20mg/回まで増 量し効果 なき場合、無効判断。6歳以下原則禁忌。 禁止物質
pemoline

ベタナミン錠
(三和化学)

0.5-3.0mg/kg/ 日分1朝   禁止物質
atomoxetine

Strattera(米・Lilly)

  日本未開発 今後禁止対象物質?
clonidine hydrochloride

カタプレス錠(ベーリンガー)

  脳幹部のα2受容体に選択的に作用し交感神経緊張を抑制し、末梢血管を拡張 させることにより血圧降下を示すと考えられている。

また、血漿レニン活性低下作用、血漿CA濃度低下作用が認められている。

該当無
dexamethylphenidate   日本未発売。抗精神 薬、中枢 興奮作用をもつ。methylphenidateは禁止物質 禁止物質
dextroamphetamine   日本未発売。中枢興 奮薬、覚 せい剤。amphetamineは禁止物質。 禁止物質

成人における注意欠陥障害の残遺状態は増加しているが、診断も治療も困難を伴う。診断に当たっては多動の有無にかかわらず、小児期に注意欠陥障害の診断が確立されていることが必要で、更に成人期における注意障害と行動性を伴うことが必要とされる。

成人における注意欠陥障害の残遺状態における症状は単独では特異的ではないが、落ち着きのなさ、集中困難、易興奮性、衝動性、イライラなどである。これらの症状は就業率や学業成績の悪さ、不安、感情の爆発、反社会的行動、物質乱用などがある。

ADHDの成人患者にmethlphenidateを投与したところ、中等度から著明な症状の改善が見られたが、pemolineには明確な有 効性はないとする報告がされている。

以上の報告からADHDは、小児に固有の疾病というわけではなく、成人後にも残遺状態が見られるとされていることから薬物療法が必要であるとすれば、methlphenidateの投与が必要とされるが、カウンセリングによっても一定の対応が可能だとされており、競技を目指すという大きな目的を持っている場合、あるいは薬物療法の必要はないとも考えられる。

また、今回、何ら問題にならなかったとすれば、禁止物質以外の薬物の使用あるいは一定期間、薬物の使用はなかったと考えられる。

[015.4.ADH:2004.10.26.古泉秀夫]


  1. 山口 徹・総編集:今日の治療指針;医学書院,2004
  2. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2004
  3. 井上令一・他監訳:精神科薬物療法ハンドブック 第3版;メディカル・サイエンス・インターナショナル,2001
  4. 「彩の国 まごころ国体」も目前! 薬剤師のためのアンチ・ドーピングガイドブック;埼玉県薬剤師会雑誌,30(9):2-14 (2004)
  5. メルクマニュアル第17版<日本語版>;日経BP社,1999
  6. The Medical Letter <日本語版>,19(3):11(2003.2.3)
  7. 薬科学大辞典 第2版;広川書店,1990

gemfibrozilの副作用について

火曜日, 8月 14th, 2007

KW:副作用・gemfibrozil ・ゲムフィブロジル・CI-719・ジェムフィブロジル・横紋筋融解症・高脂血症用剤

Q:中性脂肪が高いということで、米国においてgemfibrozil  300mgを処方されているが、 服用4ヵ月で、両手薬指、小指の関節が赤く腫れてきた。その他に全身倦怠感、疲れ易さが見られるが、これは薬の副作用か

A:現在、国内で市販されていないが、gemfibrozilについて、次の報告がされている。

本品はフィブラート系の高脂血症用剤である。血清総コレステロール、トリグリセリド(TG)、低比重リポ蛋白(VLDL)、 IDL、LDLの低下作用及び高比重リポ蛋白(HDL)コレステロールの上昇作用の他、アポリポ蛋白異常値の改善作用が認められている。特にトリグリセリド低下作用は著明である。

海外では高脂血症・高トリグリセリド血症治療薬として上市されている。国内では、1997年3月に申請され、一時取り下げられたが、1998年12月に再申請された。その後海外でセリバスタチンナトリウム製剤との併用で重篤な副作用(横紋筋融解症)が報告され、安全性が問題視されたため、2002年12月に申請が取り下げられた。

報告されている副作用

gemfibrozilの冠動脈疾患の初発、再発防止に対する有用性並びに長期にわたる投与の安全性は、これまでの大規模臨床試験から支持されている。

しかしながら、その投与に際しては、これまでのフィブラート系薬剤の副作用として報告されている横紋筋融解症、肝機能障害、胆石、黄疸、胃腸障害、ミオパチー、頭痛、眩暈、発疹、白血球減少、線溶系亢進、不整脈、脱毛、関節痛、性欲低下などの発現に注意する必要がある。

我が国における治験成績では、胃部不快感、胃痛、腹部膨満感などの胃腸障害が副作用の大部分を占め、その他、体のほてり、背部掻痒、歯肉出血、脱毛、口内炎などが見られているが、副作用の発現率は4.5%以下であった。投与に伴う検査値異常は10%程度に見られ、大半がGOT、GPTなどの肝機能検査値異常であったが、CPK上昇が約1%に見られている。

以上の副作用のうち横紋筋融解症は重篤な副作用であり、急性腎不全に至ることもある。横紋筋融解症の続発を防ぐため、腎機能低下例への投与には特段の注意が必要であり、投与に際しては患者の腎機能を検査した上で投与の可否や薬剤の減量又は投与間隔の延長を決定する。

他のフィブラート系薬剤ではスタチン系薬剤との併用において横紋筋融解症の発症が多いため、本薬剤もスタチン系薬剤投与中の患者、あるいは高齢者への投与は慎重にすべきである。また、本剤使用中は、脱力感、筋痛などの自覚症状に注意し、CPK値を定期的に測定する必要がある。

また、投与開始後3-4ヵ月は少なくとも月1回は肝機能、腎機能、CPK測定の検査を行うべきである。

  • 同義語:ゲムフィブロジル・CI-719・ジェムフィブロジル・dimefibrozil。[商]Gevilon、Lopid(Pfizer)、Lipur、ロピッド(三共)。

質問の症状については、他の疾患、他に服用中の薬剤等の情報が不足しているため、直ちにgemfibrozilの副作用と断定することはできないが、『疑わしきは服用せず』が、副作用回避のための基本である。直ちに薬物の服用を中止し、主治医に相談するとともに、検査により正確な判断を求めるべきである。

[065.GEM:2004.7.31.古泉秀夫]


  1. 明日の新薬:Technomics Inc,2004
  2. 多田紀夫:高脂血症治療の進歩-ゲムフィブロジル;日本臨床,59<増刊3号>:625-630(2001)
  3. http://www.sankyo.co.jp/company/release/2002/1211.html,2004.7.22.

[参照]

 

2002年12月11日

CI-719(一般名;ゲムフィブロジル)の承認申請取り下げ

ファイザー製薬株式会社(本社:東京都新宿区)と、三共株式会社(本社:東京都中央区)は、CI-719*(一般名:ゲムフィブロジル)の承認申請を取り下げることに合意いたしましたのでお知らせします。

CI-719は、フィブラート系の高脂血症治療剤で、1982年米国で発売以来、世界各国で発売され、同系統の標準的な薬剤となっております。

日本においては、1985年に開発を開始し、1998年に承認申請を提出、審査段階にありましたが、昨年米国及び欧州にてセリバスタチンナトリウム製剤との併用例において重篤な副作用報告が確認されました。

その後、セリバスタチンナトリウム製剤は承認を取り下げましたが、上市前に同薬剤との併用による安全性が問題視されたことにより、CI-719を販売しても臨床での使用が敬遠されることが予想されること、複数のフィブラート系の薬剤が既に現場に供されていることなどから、ファイザー製薬、三共両社にて検討を重ね、日本では本剤の上市を断念するとの結論に至りました。

以上

*備考

開発コード番号:CI-719。一般名:ゲムフィブロジル(Gemfibrozil)

製品名(予定):ロピッド錠150mg・225mg(Lopid)

MDAについて

火曜日, 8月 14th, 2007

KW:薬名検索・MDA・amphetamine 系・メチレンジオキシアンフェタミン・methylenedioxyamphetamine・合成麻薬・麻薬・ラブドラック・love drug

Q:MDAの略号で標記される薬剤は何か。

A:MDAは、amphetamine 系のメチレンジオキシアンフェタミン(methylenedioxyamphetamine)で、1910年独逸において合成された。合成麻薬である。

本品の化学名は「3,4-メチレンジオキシアンフェタミン(3,4-Methylene-dioxyamphetamine)」で、『α-メチル-3・4 -(メチレンジオキシ)フェネチルアミン(α-methl-3・4-(methylenedioxy)phenetylamine)(別名MDA)及びその塩類』として「麻薬及び向精神薬取締法」の規制の対象となっており、本品の『所持のみで麻薬及び向精神薬取締法違反』の事犯が成立する。

本品は 性欲を増大させる効果があることからラブドラッグ(love drug:催淫薬)の俗称が付けられている。本品は白色粉末であるが、その純度によって黄色や茶色のものがあり、まれに琥珀色のものもある。

粉末状の MDAを100mg程度水と一緒に摂取する。全身が軽やかになり頭が冴え、性欲が増大し、感覚が鋭敏になる。効果持続時間は12時間。身体依存性、精神依存性があり、禁断症状はないとされているが、効果が見られなくなって以後、8?24時間の間脱力感が持続する。

MDAは、視覚、聴覚を変化させる作用があり、幸福な気分になったり、他人に対する近親感が増したりするといわれているが、その反面、不安、不眠等に悩まされることになるとされている。また、強い精神的依存性を持っており、乱用を続けると錯乱状態になり、腎・肝障害や記憶障害等の症状が発現する。

別名:EA-1298、SKF-5、アンフェドキサミン(商品名)。

米軍は第二次世界大戦直後、自白剤あるいは壊滅的な役割を果たす化学物質を開発するために、広範囲に化学物質を調査していた。その中の一つがEA- 1298という化学戦用コード番号を持つMDAであった。

その後医療用医薬品としてSKF-5の治験コードで食欲抑制剤として研究されていたが、結果的に精神神経的な『鬱』の治療に有効だということが見いだされた。本品は幻覚剤として爆発的に認知された1960年代後半に使用されていた乱用薬物の一つで、 “hug-drug”(抱擁ドラッグ)とされている。

[011.1.MDA:2004.2.5.古泉秀夫]


  1. 脱法ドラッグの成分※とその有害作用;東京都衛生局薬務部薬事指導課,平成13年8月16日
  2. 日本中毒情報センター:最近の中毒と医療;Japan Medicine,2001.7.16.
  3. 高久史麿・他監訳:ワシントンマニュアル 第9版;メディカル・サイエンス・インターナショナル,2002
  4. http://www.pref.ishikawa.jp/yakuji/yakuran/drug/page_02.html,2004.1.29.
  5. http://www.police.pref.chiba.jp/ranyoboshi/mdma.html,2004.1.29.
  6. 薬師寺美津秀:乱用薬物密造の化学;(株)データハウス,2002.5.

4-MTAについて

火曜日, 8月 14th, 2007

KW:薬名検索・4-MTA・4-methylthioamphetamine・4-メチルチオアンフェタミン・麻薬

Q:4-MTAの略号で標記される薬物について

A:4-MTAは4-methylthioamphetamineの略記である。いわゆる脱法ドラッグとして取り扱われてきた。本品は興奮、幻覚作用があり、毒性が強いことから、国内ではあまり使用されていなかったが、乱用が拡がる前に規制するとして、2001年10月22日厚生労働省は麻薬及び向精神薬取締法施行令の一部を改正し、4-MTAを麻薬とすることを決定した。

国連麻薬委員会から、締約国に対し、向精神薬に関する条約(Convention on Phychotropic Substances, 1971)への指定(麻薬及び向精神薬取締法における麻薬若しくは向精神薬に相当)に基づく国内法令等の措置が求められていた。対象はα-メチル-4-メチルチオフェネチルアミン及びその塩類(α-methyl-4-methylthiopheethylamine)。従って本品は『所持のみで麻薬及び向精神薬取締法違反』の事犯が成立する。

[011.1.MTA:2004.2.5.古泉秀夫]


  1. 野放しドラッグ2種を麻薬指定-使用すると7年以下の懲役;読売新聞,2001.10.23.
  2. http://www.kenkou.metro.tokyo.jp/yakumu/m-sitei/ghb.html,2004.2.5.
  3. http://www.houko.com/00/02/H02/238.HTM,2004.2.5
  4. http://www.34ch.net/cgibin/mental/,2004.2.5

GHBについて

火曜日, 8月 14th, 2007

KW:薬名検索・GHB・4-ヒドロキシ酪酸・4-hydroxybutyric acid・γ-hydroxybutalate・gamma hydroxybutyric acid・脱法ドラッグ・合法ドラッグ・脱法ドラッグ

Q:GHBの略号で標記される薬剤

A:GHBとは4-ヒドロキシ酪酸(4-hydroxybutyric acid)。γ-hydroxybutalate。gamma hydroxybutyric acidの略号である。

本品はいわゆる脱法ドラッグとして、裏流通していたものの一つである。

本品は、本来麻酔薬として開発されたが、睡眠薬、レクリエーションドラッグ等として使用されるようになった。米国では、乱用による死亡例を含む健康被害が多数報告されたため、1990年に製造販売が禁止された。また、「GHBは、哺乳類の神経システムの主要な神経伝達物質抑制剤であるGABA(ガンマアミノ酪酸)と密接な関係にあり、1960年仏蘭西において合成された。GHBは、従来アルコール中毒症/禁断症状、アヘン常用癖/禁断症状の治療等に使用される以外に、睡眠障害の治療にも使用されていたとされる。 GHBには催眠や鎮静効果の他、高揚感を惹起する作用もあり、乱用すると不安感や手の振戦等の禁断症状が発現する。

米国では既に死亡例が3例あり、国内でも、2000年9月インターネット上で販売されていたGHBを、大量に服用した女子高生の死亡が報告されている。本品の摂取により嘔吐、低呼吸、徐脈、妄想、意識消失、昏睡等の症状が見られる。

厚生労働省は2001年10月22日に麻薬及び向精神薬取締法施行令の一部を改正し、GHBを麻薬とすることを決定した。従って平成13年11月25日以降麻薬として規制、『その所持や使用が禁止』されている。この麻薬の指定は、平成13年6月11日の国連の条例に基づくものである。

その他、γ-ヒドロキシ酪酸について、「人体で自然に発生する内因性の短鎖脂肪酸である。薬物としては非合法物質であり、標準的な中毒スクリーニングでは検出されない。重要な中毒起因物質として認識されている。

レイブ(Rave;音楽の1ジャンル:ダンスパーティ)の参加者に販売され、集団中毒の原因ともなっている。また“デートレイプ薬”としても使用されている。」等の報告が見られる。別名:liqiid ecstasy、liqiid E、grievous bodily harm、georgia home boy、soap、salty water、organic quaaludes。

[011.1.GHB:2004.1.29.古泉秀夫]


  1. 野放しドラッグ2種を麻薬指定-使用すると7年以下の懲役;読売新聞,2001.10.23.
  2. 脱法ドラッグの成分※とその有害作用;東京都衛生局薬務部薬事指導課,平成13年8月16日
  3. 日本中毒情報センター:最近の中毒と医療;Japan Medicine,2001.7.16.
  4. 高久史麿・他監訳:ワシントンマニュアル 第9版;メディカル・サイエンス・インターナショナル,2002

2-CT-2について

火曜日, 8月 14th, 2007

KW:薬名検索・幻覚剤・2-CT-2・ホワイトラブ・2-CB・パフォーマックス・脱法ドラッグ・ケミカルドラッグ・麻薬・薬事法違反・未承認医薬品販売

Q:脱法ドラッグの一種であるとされる2-CT-2とはどの様な薬物か

A:脱法ドラッグについて、一般的な定義はないが、『多幸感・快感等を高める、幻覚作用、睡眠作用があるなどと称して販売されている製品の呼称であり、「合法ドラッグ」とも呼ばれる。』とする報告が見られる。なお、「合法」といわれるのは、麻薬や覚せい剤のように法律で所持・使用を禁止していないためであるとされるが、薬事法には抵触するため、東京都では「合法ドラッグ」の呼称は不適切であるとして、『脱法ドラッグ』としている。

脱法ドラッグ『2-CT-2』とは、2,5-ジメトキシ-4-チオエチルフェネチルアミン(2,5-dimethyoxy-4- ethylthiophenethylamine)の略称である。別名:『ホワイトラブ』。 2-CT-2は、幻覚サボテンに含まれるメスカリン(麻薬)と化学構造的に基本骨格が同一の物質である。phenethylamine系の化合物で、天然には存在しない物質である。

日本や欧米等では、医療用医薬品としての使用はされていないが、経口摂取される2-CT-2の製品は、医薬品に該当する。経口摂取すると『強烈な吐き気、頭痛、排尿困難等』を発現する。 2-CT-2の販売目的で、インターネット上に広告を掲載し、注文してきた客に代金引換郵便等を利用して販売していた事例で、薬事法違反(未承認医薬品の販売)で逮捕された事犯が見られる。

類似物質である『2-CB(4-bromo-2,5-dimethoxyphenethylamine)』は、米国で合成されたケミカルドラッグであるが、イギリス、アメリカ、オランダ、ドイツ等では麻薬に指定されている。また日本でも平成10年7月12月付で麻薬に指定された。

平成10年6月9日

麻薬、向精神薬及び麻薬向精神薬原料等を指定する政令の一部を改正する政令について

1. 今般の改正の概要

(1)麻薬及び向精神薬取締法に基づき、4-ブロモ-2,5-ジメトキシフェネチルアミン及びその塩類を麻薬に指定。

(2)公布の日(平成10年6月12日)から起算して30日を経過した日(平成10年7月12日)から施行。

2. 麻薬に新たに指定される物質の概要

(1)名称など

  • 化学名:4-ブロモ-2,5-ジメトキシフェネチルアミン
  • 通 称:2C-B(読み方は「に・シー・ビー」または「トゥー・シー・ビー」)
  • 性 状:白色針状結晶で、融点は237?239℃
  • 流通形態:米国では、粉末、カプセル剤及び錠剤に加えて、2C-B入りの角砂糖などが不法に流通しており、1製剤あたり約10mg程度の2C-Bが含まれている。日本でインターネットで販売されてい2C-Bは、直径4mm前後の白色の錠剤である。通常、経口摂取により乱用されている。(品名「パフォーマックス」等)

(2)精神毒性等

(本年4月に中央薬事審議会依存性薬物調査会(座長:風祭元・東京都立松沢病院長)で審議)

  1. 通常、8?10mgの微量で幻覚作用を発現させる。摂取して1時間以内に興奮が起こり、2時間後に強烈な幻覚、妄想を引き起こし、その持続は6?8時間である。
  2. 幻覚作用は「DOB」と同程度、「MDMA」の5倍程度、「メスカリン」の35倍程度であるとされている。(DOB、MDMA、メスカリンはいずれも麻薬として規制。)
  3. 依存性(薬物の摂取が自らの意思では止められなくなる作用)が認められる。
  4. 医療上の用途はない。
  5. 現在、我が国で販売されているものは、他国で密造等されたものであり、混入している不純物や不完全合成物の摂取による危険性も危惧される。

(3)世界各国における規制状況等

  1. 規制している国:イギリス(1977)、アメリカ(1994)、オランダ(1997)、ドイツ等
  2. 国際条約上の扱い:現時点では向精神薬条約における指定は行われていない。

3. 麻薬に指定された場合の規制等

  1. 所持、使用、販売、譲渡、譲受、製造、輸入、輸出などが禁止され、違反すると刑罰の適用対象となる。
  2. 2C-Bについて研究を行うには、麻薬研究者の免許が必要となる。
  3. 研究の目的等で輸入、輸出を行うためには、厚生大臣の特別の許可が必要となる。
  4. 新規指定の施行日以降は、2C-Bの所持等が法違反となることから、施行までの間に、現在、2C-Bを所持している者に対して、所有権放棄による国庫帰属の手続きなどの適切な措置をとるよう周知、指導を行う。

[011.1.2CT:2004.2.3.古泉秀夫]


  1. 乱用が懸念される薬物(いわゆる「脱法ドラッグ」)の発見・回収について;東京都衛生局薬務部薬事指導課,2001.8.16.
  2. 「合法ドラッグ」の現状と薬物の乱用防止;都薬雑誌,21(7):15-21(1999)
  3. http://www.kenkou.metro.tokyo.jp/anzen/news/2003/,2004.1.22.
  4. http://www.mhlw.go.jp/index.html,2004.1.22.
  5. http://www.pref.aichi.jp/police/taisaku/high-tech/jikenbo.html,2004.2.3.

MDMAについて

火曜日, 8月 14th, 2007

KW:薬名検索・MDMA・エクスタシー・ecstasy・合成麻薬・3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン・クラブドラッグ・club drug

Q:テレビ放映されていたMDMAとはどの様な物質か

A:MDMA→N,α-dimethyl-3,4- (methylenedioxy)phenethylamine。N,α-ジメチル-3,4-(メチレンジオキシン)フェネチルアミン。→メチレンジオキシ・メタンフェタミン(methylenedioxy-methamfetamine:MDMA)、エクスタシー(ecstasy)、『麻薬』

ecstasyは、混合興奮薬で、幻覚作用がある。本品の幻覚作用は、5HT放出で起こるものと考えられている。本品は気分転換薬として、広い範囲で乱用されているが、時に致命的な急性高体温反応を起こす。本品の長期使用は、5HT神経終末を破壊し、精神障害の危険性を増加することが証明されつつあるとする報告が見られる。

ecstasyは、比較的新規物質であるが、乱用薬物として大変よく知られており、“Rave文化”(レイブ:音楽の1ジャンル)に関連して登場してきた。長時間の活発なダンスに関連して高頻度に使用され、脱水を惹起し、高体温の引き金となる。

その他、通称ecstasy(MDMA)は、合成麻薬の一種である。本品は白色結晶性の粉末で、錠剤又はカプセル剤として密売されている。本品はは現在、“クラブドラッグ(club drug)”として流行している。

“Ecstasy”(3,4-methylenedioxymethamphetamine; MDMA;(+-)3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン)、および類似薬物は、大量に摂取すると、知覚および行動への作用に加え、高血圧、高熱、横紋筋融解症、低ナトリウム血症、脳梗塞、播種性血管内凝固障害、心不整脈、および肝・腎不全のような、アンフェタミン様作用を生じることがある(JV Pham and T Puzantian, Pharmacotherapy 2001; 21:1561; H Kalant, CMAJ 2001; 165:917)。

ecstasyの最大濃度到達時間は、経口摂取後約2-3時間であるが、作用は約20分で発現し、約4-5時間持続する(M Shannon, Pediatr Emerg Care 2000; 16:377)。ecstasy摂取者が救急医療サービスを受ける理由としては、発作が最も多い。ecstasyはセロトニン作動性神経の損傷を引き起こすことがあるため、典型的な娯楽目的の用量で、長時間持続性の認知障害および神経精神医学的障害を生じることがある(L Reneman et al, Lancet 2001; 358:1864; GA Ricaurte and UD McCann, Lancet 2001; 358:1831)。

ecstasyは、動物に対してはセロトニン選択性の神経毒であり、おそらくヒトにとっても同様であるというのが通説である。ヒトが用いる使用法に合わせて、ヒト以外の霊長類に数回連続して本品を投与したところ、比較的軽度のセロトニン作動性神経毒性に加えて、重度のドーパミン作動性神経毒性が誘発された。また、本品の神経毒性は、ドーパミンの枯渇により二次的に運動神経機能不全がおこる危険性が増大することと関連した。

以上の結果は、ecstasyの神経毒性発現機構に関して、種々の示唆を与えている。ecstasyの使用者は、知らず知らずのうちに、青年期若しくは後年になって、脳内のドーパミンやセロトニンの欠乏が関与する神経・精神疾患に罹患するという危険な状態に自らを追い込んでいる等の報告がされている。

本品は所持するだけで麻薬取締法違反』の事犯である。

[011.1.MDM:2003.8.4.古泉秀夫]


  1. 文部省学術用語集-薬学編;丸善株式会社,2000
  2. 麻生芳郎・訳:一目でわかる薬理学 第4版;メディカル・サイエンス・インターナショナル,2003
  3. 高久史麿・他監訳:ワシントンマニュアル 第9版;メディカル・サイエンス・インターナショナル,2002
  4. The Medical Letter<日本語版>,18(5),2002.3.4.
  5. http://www.police.pref.chiba.jp/ranyoboshi/mdma.html,2003.7.30.
  6. http://medical.tanabe.co.jp/public/science/2002_9_27/sci_jsumm.shtml,2003.7.30.

2C-Bの略号で記載される薬剤

火曜日, 8月 14th, 2007

KW:薬名検索・合法ドラッグ・脱法ドラッグ・2C-B・4-Bromo- 2,5-dimethoxybenzeneethan-amine・4-Bromo-2,5-dimethoxyphenethlamine・4-ブロモ -2,5-ジメトキシフェネチルアミン・BDMPEA・ツーシービー・合成麻薬

Q:合法ドラッグ規制の対象とされた2C-Bとはどのような薬剤か

A:『2C-B』は、平成10年7月12日から『麻薬及び向精神薬取締法で規制する対象の一つとされており、最早本品は『所持するだけで麻薬取締法違反』の事犯とされる。

『2C -B』は、化学名4-Bromo-2,5-dimethoxybenzeneethan-amine;4-Bromo-2,5- dimethoxyphenethlamine(4-ブロモ-2,5-ジメトキシフェネチルアミン);BDMPEA等と呼称される薬物で、 mescaline様の作用があるとする報告が見られる。

本品は化学的に合成された合成麻薬で、 LSDと同様の幻覚作用を惹起し、MDMAの5倍程度、メスカリンの35倍程度の幻覚作用があるといわれており、摂取後1時間以内に興奮が起こり、約2時間後には強烈な幻覚作用を惹起するとされている。米国では、粉末、カプセル、錠剤、角砂糖入りのものが流通しているとされる。

その他、本品には強力な幻覚作用があり、その強さは脱法ドラッグとされる非合法薬「エクスタシー(MDMA)」の5倍程度。また、phenethylamine analogue of DOB(2,5-Dimethoxy-4-Bromoamphetamine)とする報告も見られる。

その他、「ツーシービー[2C-B]」とは、幻覚薬・中枢興奮薬・血管収縮作用を持つ他、α-アドレナリン作動薬等とする報告もみられる。

本品は、ラット胸大動脈の濃度依存性的収縮を誘発した。その最大収縮はノルエピネフリン又はセロトニンが惹起する最大収縮よりも小さかった。プラゾシン又はケタンセリンで前処置すると、本品の用量-反応曲線の傾斜と最大収縮の減少をもたらした。本品はα1-アドレナリン受容体及び5-HT2セロトニン受容体の両者に対して、部分的作動薬として働くことが示唆されたとする報告がみられる。

なお、本品は、米国・オランダでは禁止薬物であり、非合法化薬物である。

[011.1.CBR:1998.6.3.古泉秀夫・2004.1.28.改訂]


  1. The Merck Index,1996
  2. 強力な幻覚作用持つ「2C-B」-合法ドラッグ規制-厚生省が来月販売や所持を禁止?:日本経済新聞,1998.5.31.
  3. Lobos M.,et al:ラット摘出胸大動脈に及ぼす精神活性薬2C-Bの作用(抄録); Gen Pharmacol,23(6):1139-1142(1992)
  4. ACURA;jah.ne.jp,1998.6.3 .

DHAの錠剤について

火曜日, 8月 14th, 2007

Q:3月19日付の朝日新聞にDHAが痴呆の改善に効果があったとする記事が収載された。このDHAの錠剤とは、治験薬か、OTC薬か。その入手法について

A:朝日新聞の内視鏡欄に収載された「鮪や鰹の眼に多くある脂肪酸のDHA(ドコサヘキサエン酸)に、老人性痴呆症の症状を改善する可能性があることが群馬大学医学部の宮永和夫講師(神経精神医学)らの研究でわかった。

脳血管性の痴呆症患者13人とアルツハイマー病の患者5人に6カ月間、服用していた脳の循環改善薬と合わせて、DHAの錠剤(DHA含有量95mg)を日に10-20錠飲んでもらった。その結果、意欲や対人関係などの症状で、脳血管性痴呆症では9人の症状が改善、アルツハイマー病では全員の症状がやや改善した。脳血管性痴呆症の24人に、脳の循環改善薬だけを同じ期間飲んでもらった場合、症状が良くなったのは2人だけだった」とするものである。

同記事の詳細について、調査した結果、次の報道が見られた。

魚の眼窩の脂肪組織に多く含まれる不飽和脂肪酸のドコサヘキサエン酸(DHA)を健康食品として老人性痴呆症患者に投与すると症状が改善することが明らかになったと、相模中央化学研究所(〒229 神奈川県相模原市西大沼4-4-1 TEL.0472-42-4791)の矢澤一良主任研究員、群馬大学神経精神科の宮永和夫講師らが26日名古屋で開かれている日本薬理学会で発表した。

この臨床試験を実施した宮永講師は、現時点でDHAの投与を中止すると症状は元に戻る傾向があるが、今後DHAが継続的に入手できれば、老人性痴呆だけでなく、多動性を伴う知能低下の子供に対する効果を見る臨床治験を計画したいとの意向を本紙に明らかにした。

宮永講師らによると、同大学に入院中の老人性痴呆症患者18人(脳血管性痴呆13人、アルツハイマー性痴呆5人)に富士薬品の健康食品カプセル(DHA70mg含有)を1日10-2 0カプセル半年間経口投与したところ、脳血管性痴呆13人の内10人は生活意欲が高まったり、妄想が減るなどの改善が見られた。またアルツハイマー性痴呆5人は、意欲や対人関係などがやや改善したという。矢澤氏らの研究グループは、DHAが生き残った神経細胞の働きを活発にし、痴呆症の根治薬ではないが、改善や予防に有効だとしている。

尚、DHAの健康食品は、富士薬品、ハリマ化成、大正製薬、バイオテックス、三共通商など約40社が製造・販売している。

以上の報告から分かるように、今回用いられたのは治験薬あるいはOTCではなく、健康補助食品である。

以下に健康補助食品として発売されている製品の概要の一部を紹介する。

商品名(会社名) 含有成分・量
ジョガーズDHA (佐藤製薬) 1粒200mg中DHA 27mg・EPA(エイコサ ペンタエン酸)5mg・α-リノール酸 55-70mg
DHAスペシャル
(ライフメイト)

[東京都港区 TEL.3584-0101]

1粒250mg中DHA 25%以上・シソ油 20mg(α-リノレイン酸)
ビオディナナチュラルDHA

(大正製薬)

1粒当たり精製魚油 198mg(DHA 53.4mg ・EPA 9.9mg・植物油抽出物 22mg [ビタミンE 17.6mg]
バイオックスDHA

DHAω-3 (バイオックス)

[東京都中央区 TEL.5687-5316]

レチシン配合・カテキン(酸化防止) 1球中DHA含有精製魚油 200mg [DHA 54mg]
フジニューマリン (富士薬品)

[埼玉県大宮市 TEL.048-649-6013]

1粒250mg中DHA 25%・EPA 6%・ビタミンE配合(酸化防止)

[1995.3.30.古泉 秀夫] [1998.10.20.一部修正]


  1. 痴呆症の改善DHAが効果;朝日新聞,1995.3.19.に
  2. 群大の宮永氏らDHA臨床は多動性知能低下小児で;日刊薬業-第9136号,1995.3.29
  3. 食品ニューウエーブ-新商品の素顔-ドコサヘキサエン酸;日経産業新聞,1991.7.24
  4. いなげ薬局・私信,1995
  5. 油摂取のあり方を見直す-DHA元年各社の動き;健康産業新聞,1991.10.10
  6. 国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:NHS.DI-News,No.1452,1997.1.9.収載

O-157と生野菜の調理

火曜日, 8月 14th, 2007

?KW:滅菌・消毒・O-157・生野菜・次亜塩素酸・強酸化水

Q:栄養科からの質問で、O-157に対し生野菜を消毒できる薬剤はあるか。特にレタス等、十分流水、洗剤で洗浄しているが心配なため。

A:「病原性大腸菌O-157による食中毒の発生防止対策について」として、厚生省から次の文書連絡がされている。

 

  1. 細菌検査(検便)を定期的に実施することとされている職員に対して、臨時に病原性大腸菌O-157を含めた検査を速やかに実施すること。
  2. 職員の定期的細菌検査にあたっては、当分の間、O-157を含めて検査を実施すること。
  3. 調理室内及び調理機器の拭き取り検査については、当分の間、月2回、病原性大腸菌O-157を含めた検査を速やかに実施すること。
  4. 調理に関する衛生管理について
  1. 献立作成において危険度の高い生食の献立は避けて、当面、加熱調理を主としたものにすること。
  2. ハンバーグ、ミートローフ等については、むら焼けによる危険性が高いため、当分の間、献立に入れることを中止する等の措置を講ずること。
  3. 原材料の下処理後は常温放置しないこと。また、調理を開始する際は食事時間から逆算して調理を開始すること。
  4. 原材料を保管する際は、害虫等の侵入を防止するため病院の容器に移し保管するよう努められたいこと。
  5. 納入業者の容器等の衛生管理について指導の強化を行うこと。

その他、O-157に関する次の調理上の注意が報告されている。

  1. 加熱前の食肉類などの食品から、加熱調理済みの食品が二次汚染されないよう手指や調理器具は十分に洗浄する。
  2. O-157は75℃-1分以上の加熱で死滅する。調理するときは十分に加熱する。
  3. .調理した食品は速やかに食べること。直ぐに食べない場合には冷蔵庫に入れ、低温で保存し、菌の増殖を防止する。
  4. 井戸水や受水槽の衛生管理に注意する。
  5. 生肉が触れたまな板、包丁、食器等は熱湯で十分消毒し、手洗いを励行する。 通常、大腸菌は塩素に対する感受性が高く、0.5?1.0ppmで死滅すると報告されている。
  6. その他、水道法施行規則第16条(衛生上必要な措置)として、給水栓における遊離残留塩素を0.1mg/L (0.1ppm)[結合残留塩素の場合は0.4mg/L(0.4ppm)]以上保持するように塩素消毒をすること。ただし、供給する水が病原微生物に著しく汚染されるおそれがある場合又は病原微生物に汚染されたことを疑わせるような生物もしくは物質を多量に含むおそれがある場合の給水栓における水の遊離残留塩素は0.2mg/L[結合残留塩素の場合は1.5mg/L]以上とするの規定が見られる。

今回の質問では「流水を用いて洗剤で洗浄し」とされているが、水道水の残留塩素の問題及び使用している洗剤の種類によっては、必ずしも十分な消毒効果が得られていると限らない。

従って、食品洗浄時の使用水に次亜塩素酸を添加し、洗浄するか強酸化水(活性塩素0.5-500ppmとされている)により洗浄することで生野菜の殺菌効果は得られるが、野菜中の有用成分に対する影響等は不明である。また、高濃度の次亜塩素酸を使用した場合、野菜に付着した残留塩素の濃度も検討しなければならない。

入院中の患者は、健康人とは異なり何等かの疾病を持っている状況下にあり、病原性大腸菌O-157による感染が生じた場合、生命に影響する重篤な状態に陥る可能性もあるため、現在のように病原性大腸菌O-157が蔓延する状況下では「冷野菜」によるメニューを「温野菜」のメニューに変更することが重要である。

また、国立病院等では厚生省からの上記文書が発出されているため、それに従うのが原則である。

[1996.7.29.古泉 秀夫] [1998.10.6.修正]


  1. 病原性大腸菌O-157による食中毒の関係について;厚生省政策医療課課長(政策医療第227号)通知,1996.7.19.
  2. 古橋 正吉:プリンシパル滅菌・消毒の実際;日本医事新報社,1977
  3. 実務衛生行政六法 平成7年版;新日本法規,1995
  4. 国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:NHS.DI-News,No.1347,1996.7.31.

St.john’s Wortについて

火曜日, 8月 14th, 2007

Q:英国で健康食品と医薬品の相互作用に関する注意事項がでたとされるが、その健康食品の内容はどの様なものか

A:「英国において医療関係者並びに市民に対し、セント・ジョーンズ・ワート製品と医薬品との相互作用について注意喚起がされた」の情報は、日本薬剤師会のホームページ上に収載されている(www.nichiyaku.or.jp/)。なお、同HOMEから英国において公表された原報の入手も可能である。

なお、St.john’s Wort は、セイヨウオトギリソウの英名として紹介されている。

次にセイヨウオトギリソウについて調査した結果を示す。

  • 原植物:オトギリソウ科のセイヨウオトギリソウ(Hypericum perforatum L.)である。ヨーロッパと西アジアの野生種(旧ソ連、ブルガリア、ハンガリー、旧ユーゴスラビア及びルーマニアからの輸入品)。
  • 含有成分:hypericin(0.1?0.3%)、特にpseudohypericin、isohypericin、protohypericin等の hypericin類似物。DACによると少なくとも0.05%のhypericin、フラボノイド類、特にhyperosideとrutin及びビフラボン類、特にI3,II8-biapigenin、抗菌作用を有する成分中では、ホップの苦味質に構造的に似ているphloroglucin誘導体である hyperforinを3%迄。0.05?0.3の精油(n-アルカン、その他α-pineneやその他のモノテルペン類)、10%強までのタンニン、少量のプロシアニジン類。
  • 作用:本生薬やその製剤については、多くの医師の経験報告があり、穏和な抗鬱作用があることを述べている。実験的所見によれば、hypericinはモノアミンオキシダーゼ阻害剤に加えられる。油状のヒペリクム製剤は消炎作用を示す。
  • :神経症の抑鬱状態の比較的軽度の事例(更年期、神経疲労等)。本品による効力はこれまでhypericin類によるものと考えられていたが、ビフラボン類(Taxus baccataから分離されたビフラボン類は中枢神経系を鎮静する)とhyperforinも鎮静作用に関与していることを考慮に入れなければならない。 hypericinはモノアミンオキシダーゼを阻害する。
  • 民間療法:止瀉剤(タンニン酸含有)、 利尿剤(フラボノイド含有)として、また夜尿症、リウマチ、痛風に用いる。ヒペリクム油(オリーブ油、ヒマワリ油、麦芽油を用いて調製したエキス)の形で創傷治療剤として、また火傷に用いる。
  • 副作用:hypericinには光増感作用がある。大量投与する際は、光線過敏症に注意(太陽光線又は太陽灯を避ける)。特に白人の場合に光増感作用の可能性がある。なお、長期連用時には副作用に注意。
  • 茶剤調製:2?4gの細切生薬に沸騰したお湯を注ぎ5?10分後に濾過する(約150mL)。他に指示のない限り、朝夕カップ1?2杯の用時調製した茶剤を毎日服用。茶匙1杯=約1.8g。
  • 茶剤製剤:ティーバック(通常2g)も市販されている。
  • 禁忌:光線過敏症であることが解っている場合には、セイヨウオトギリソウ製剤は用いてはならない。
  • 相互作用:従来は知られていないとされていた。今回、次の注意事項が公表された。 下記の医薬品とセント・ジョーンズ・ワート製品を併用中の方は注意

[セント・ジョーンズ・ワートに含まれる成分が薬の分解に関与する酵素の活性を高めるため、医薬品によっては血中濃度が十分に上がらず、治療効果か減弱されるおそれがある。また本品の作用機序がSSRIと同様に脳のセロトニン作動精神系を活性化するとされている。従って、SSRIと併用した場合、セロトニンによる作用が増強され、副作用が発現しやすくなるの至適がされている。]

HIVプロテアーゼ阻害剤(インジナビル、サキナビル、リトナビル、ネルフィナビル)、HIV逆転写酵素阻害剤(エファピレンツ、ネビラビン)[医薬品の血中濃度レベルが低下し、HIV抑制作用が減弱されているおそれがあるので、セント・ジョーンズ・ワートの中止について医師に相談して下さい。]。

ワルファリン、ジゴキシン、テオフィリン、シクロスポリン、抗てんかん薬(フェニトイン、カルバマゼピン、フェノバルビタール)[医薬品の分解が促進され、作用が弱まっているおそれがあるが、セント・ジョーンズ・ワートを急に中止すると分解促進作用が無くなるため、医薬品の血中濃度が高くなり過ぎる危険があります。医師の検査を受けながら中止の判断を相談して下さい。ときには薬の量の調節が必要になるかもしれません。

経口避妊薬[避妊効果が得られないおそれがありますので、セント・ジョーンズ・ワートの使用を中止して下さい]。

SSRI(マレイン酸フルボキサミン等)[副作用が現れやすくなるおそれがあります。セント・ジョーンズ・ワートの使用を中止して下さい]。

なお、国内では市販されていないが、個人輸入あるいは健康食品の場合、海外からの持ち込み等が考えられるため、以下に関連商品及び海外におけるセント・ジョーンズ・ワートの同義語を紹介する。

製品名 剤形
向精神薬 Hyperforat

Psychatrin-Jossa

Psychotonin

Neurapas

糖衣錠、滴剤、アンプル剤

糖衣錠

チンキ剤

被覆した錠剤

泌尿器 Enuresibletten

Inconturina

Rhoival

糖衣錠

滴剤

糖衣錠、滴剤

*Blutkraut

*Feldhopfenkraut

*Herrgottablut

*Hexenkraut

*johannisblut

*johanniskraut

*Konradskraut

*Mannskraft

*Sonnwendkraut

*Tupfelhartheu

*Waldhopfenkraut

*Walpurgiskraut

*Hardhay

*Saint Johns Wort

*Herbe de millepertuis

[015.9SAI:2000.3.16.古泉秀夫]


  1. 井上博之・監訳:西洋生薬;広川書店,1999
  2. http://www.nichiyaku.or.jp/news/n000310.html,2000.3.15.

VIRUS-SIN PLUSについて

火曜日, 8月 14th, 2007

KW:薬名検索・virus-sin plus・メキシコ・内服用懸濁液・健康補助食品

Q:メキシコの家族から患者宛に送付された「VIRUS-SIN PLUS」とはどのような薬剤か。資料とともに送付するので調査願いたい。

A:VIRUS-SIN PLUS(Industrias SIN・FIN) → 内用の懸濁液。

ラベルに記載されている成分は

  • aceites oue derivan del cartamo y soya →紅花・大豆油
  • cartamo:Caethamus tinetorius L.→紅花と推定。
  • miel de abejas →蜂蜜。
  • menta piperita →胡椒精(香料)
  • aceite de pino →松油(松ヤニ)

本品の輸出証「Food Complement“virus sin plus”(100%-natural)」より100%天然の植物成分等を用いた健康補助食品であると考える。

従って、本品は紅花油・大豆油を主体とした健康補助食品であり、 国内の同主製品と同様の効果を期待しているものではないかと考える。

[510.011.1VIR] [1996.11.14.古泉 秀夫]


  1. 国立国際医療センター国際協力局・私信,1996.10.21.

Orange Oilについて

火曜日, 8月 14th, 2007

Q:放射性物質による曝露に対する処理マニュアル中にオレンジオイルの記載が見られるが、これは何か。

A:Orange Oil;Sweet Orange Oil → Sweet Orange[Citrus auranitium var.sinesis=C.sinensis(Rutaceae)]の新鮮な果皮から得られた黄色?黄褐色の揮発性の油である。C10H20Oのアルデヒド含有率が1%(w/v)未満のもの。別名として『橙花油』、『オレンジ花油』。

特徴としてオレンジの香りと味を持つ。蝋様の非揮発性物質を含む。飽和限界温度は25℃。遮光して保存する。

オレンジオイルは風味付と香り付に使用される。これにはテルペンを除いたオレンジオイルが使用される。本品により光線過敏症を惹起するとする報告がされている。

その他、オレンジオイルについて、次の情報が公開されている。

オレンジオイルは化学名をリモネンといい、蜜柑・檸檬・オレンジなど柑橘類の皮に0.5%程度含まれる天然の精油成分である。特徴としてレモン・オレンジの芳香性を有し、鉱物油(石油系)などによく溶ける。

オレンジの皮から抽出されるオレンジオイルは、油性の汚れに対して強い洗浄力を持ち、特に焼き付いた油やカーボンの汚れなどに強力な洗浄力を発揮する。油水分離がよく、洗浄液と油分の分解が簡単、その為に洗浄液のリサイクルが可能で、廃水の負荷も極めて少ない。

テスト前の大腸菌数(mL中)
10億個 1000万個 10万個 1000個
48時間後の大腸菌数(mL中)

D-リモネン[D-limonene=d-p-mentha-1,8-diene;cajeputene(カヤプテン);cinene(シネン);carvene(カーベン);citrene(シトレン);hesperidene(ヘスペリデン); kautsschin(カウチ);dipentene(ジペンテン)=dl-limonene]

リモネンは右旋性(D)及び左旋性(L)の異性体があり、旋光性のない不活性(DL)リモネンをジペンテンという。リモネン(C10H16=136.24)はレモン様の香気がある液体。

  • ジペンテンの引火点:45℃。沸点:175?176℃。d-リモネンの沸点:177℃。
  • 用途:香料としてネロリ油、マンダリン油などの調合、レモン系精油の偽和にも使用される。
  • 製法:天然には植物性油中に広く分布している。その主なものはd-リモネンはミカン油、レモン油、オレンジ油、樟脳白油など、l-リモネンはハッカ油、その他dl-リモネンは橙花油、杉油、樟脳白油など。

以上の各報告から放射性物質曝露対応処理マニュアル中にレモンオイルの記載が見られるのは、汚染環境の洗浄目的で使用するために記載されていると考えられる。

[1999.10.6.古泉秀夫・栗原稔枝]


  1. Martindale 32Ed.,1999
  2. http://www.gumbo.ne.jp/orenge/(〒983-0852 仙台市宮城野区榴岡1-6-37-401 TWL.022-293-2340)
  3. http://www.digitalfact.co.jp/usc/abcase-6-098.htm
  4. http://www.nicca.co.jp/source/jigyo/tokuka.htm
  5. http://arc.pmall.ne.jp/dinos/doretoru/data/data1 2.html
  6. http://www.sekisuiplastics.co.jp/w2.html(積水化成品工業株式会社)
  7. 12394の化学商品:化学工業日報社,1994

Cerebrolysin又は脳活素の入手について

火曜日, 8月 14th, 2007

Q:中国大使館よりCerebrolysin又は脳活素の入手について問合わせがあったが、国内で該当する薬剤は市販されているか

A:Cerebrolysin(Minden)→[成]L-アラニン3mg・L-アルギニン0.3mg・L-アスパラギン酸3mg・L-グルタミン酸4.5mg・グリシン1.5mg・L-ヒスチジン1.3mg・L-イソロイシン2mg・L-ロイシン6mg・L-リジン 6mg・L-メチオニン0.5mg・L-フェニルアラニン2mg・L-プロリン2mg・L-セリン0.3mg・L-スレオニン0.3mg・L-トリプトファン0.5mg・L-バリン2mg・ペプタイド5.5mg(新鮮脳1g相当)/mL。1mL・5mL注とする報告が見られる。

その他、Cerebrolysin(Nordmark)とする報告もされており、西独においては市販されているが、国内での取扱いはされていない。

Nordmark社の添付文書による本剤の概略は次の通りである。

  • 組成:1mL中に豚の脳に由来する除蛋白加水分解物を、乾燥物質として40mgに相当する量を含んでおり、総窒素量は5.3mgである。この物質は新鮮脳1gに相当する。
  • 適用:脳震盪あるいは脳挫傷後の諸症状;脳卒中と手術による頭蓋介入後の脱落症状;内因性の抑欝状態;精神集中明確な能力停滞時の補助薬;小児脳遅延軽症例;偏頭痛補助薬。
  • 投与禁忌:てんかん大発作。
  • 妊婦への投与:禁忌。
  • 副作用:希に過敏反応が起こることがある。
  • 用法・用量:本剤は筋注又は静注される。等張の生食又はブドウ糖注射液と混注することもできる。1回量は通常5mLで、注入処置のときには10mLとなる。5mL/管を毎日、臨床効果が見られるまで注射することを推奨する。

改善のきざしが見られた場合、注射の間隔を2-3日ごととする。症状により5mL/管を5管から10管注射し治療効果を維持する方法もある。

小児及び症状によっては、低用量の投与を行うべきであり、1mL/管の使用が推奨される。場合によっては皮下投与も可能である。

本剤と共にtgl.の注射を行うべきである。

尚、脳活素については、検索不能であった。

[119.FD18.011.1CER][1991.9.24.・1999.4.5.一部修正.古泉秀夫]


  1. 男全精一・他編:薬名検索辞典;薬業時報社,1991
  2. RotteList,1990

Ca拮抗剤とグレープフルーツの相互作用

火曜日, 8月 14th, 2007

Q:ワソラン・アダラートL服用中の患者が治療食以外にかなりの量のグレープフルーツを摂食している。相互作用の関係からあまり摂食させない方がよいと看護婦に注意したところ、治療食にもグレープフルーツが付けられており、どのように対応したらよいかといわれた。ほんの一切れ程度の治療食であれば問題はないものと思われるが、毎日のようにグレープフルーツを大量に摂食するのは避けるよう伝えたが、対応としては、それでよいか。

A:ワソラン・アダラートLの添付文書の記載事項は、次の通りである。

一般名・商品名

(会社名)

verapamilhydrochloride

ワソラン錠(エーザイ)

[別名:塩酸イプロペラトリル

;iproveratril]

nifedipine

アダラートL錠

(バイエル)

適用上の注意 本剤とグレープフルーツジュースとの同時服用で、本剤の血中濃度が上昇したとの報告がある。 本剤とグレープフルーツジュースとの同時服用で、本剤の血中濃度が上昇したとの報告がある。

Ca拮抗剤とグレープフルーツジュースの相互作用について、次の報告がされている。

*nifedipine、felodipine(ムノバール錠;日本ヘキスト)及びnitrendipine(バイロテンシン錠;吉富製薬)のジヒドロピリジン系(dihydropyridine)カルシウム拮抗薬(DHP)は、グレープフルーツジュースとの同時服用により血漿中濃度が上昇することが報告されている。

本研究では、健康成人男性9名を対象に、グレープフルーツジュースの摂取時間がfelodipineの体内動態及び薬理作用に及ぼす影響について検討している。

felodipine10mg(徐放錠)を服用する1,4,10,24時間前あるいは服用と同時にグレープフルーツジュース200mLを摂取したときの felodipineの最高血漿中濃度(Cmax)は、水200mLで服用したコントロール群に比較して、32-99%の有意な上昇を示した。また血漿中濃度-時間曲線下面積(AUC)においても、服用間隔が1,4,10時間の場合、有意に増加した。24時間でも増加する傾向が認められ、何れの服用時間においても消失半減期(T1/2)と最高血漿中濃度到達時間(Tmax)には変化がなかった。

最高血漿中濃度(Cmax) 直後 1時間前 4時間前 10時間前 24時間前
32—————-↑—————-99%
血漿中濃度-時間曲線下面積(AUC)消失半減期(T1/2) -
未変化
有意増加未変化 有意増加未変化 有意増加未変化 増加傾向
未変化
最高血漿中濃度到達時間(Tmax) 未変化 未変化 未変化 未変化 未変化
血圧降下作用 未変化 未変化 未変化 未変化 未変化
心拍数の著しい変化 未変化 未変化 未変化 未変化 未変化
血管拡張に伴う頭痛等 増加傾向

更にfelodipineの酸化代謝物(不活化)であるdihydrofelodipineの体内動態について検討した結果、未変化体とほぼ同様であった。

一方、felodipineによる血圧降下作用や心拍数の著しい変化は認められなかったが、血管拡張に伴う頭痛などの副作用の発現が血漿中濃度の上昇に伴って増加する傾向にあった。

以上の結果より、グレープフルーツツジュースとfelodipineの相互作用は、同時服用のみならず、少なくとも服用間隔が24時間以内の場合に起こりうることが示された。

本相互作用の機序としてfelodipineの組織クリアランスの低下、消化管からの吸収率の増加あるいは小腸及び肝臓における代謝阻害が考えられるが、グレープフルーツジュース中の成分がCYP3A4によるDHPの酸化代謝を阻害することが示唆されており、また DHPの酸化代謝の場合には、肝臓よりも腸管壁による寄与が大きいことが報告されている。したがって、グレープフルーツジュース中のCYP3A4の阻害物質の消失半減期が長いか、消化管からの吸収が遅いこと、あるいはそれらがCYP3A4を不可逆的に阻害することなどが考えられる。

*felodipineはdihydropyridine系のカルシウム拮抗薬であり、肝臓のP-450系により代謝を受ける。近年、felodipineの血中濃度に対するグレープフルーツジュースの影響について報告がなされたが、その機序としてグレープフルーツジュース中のフラボノイドによるP-450の阻害が考えられている。

本研究では5mgのfelodipine錠(非徐放錠)単回経口投与時の薬物動態並びに効果に及ぼす影響を40?53歳の健常男性9名で検討した。

被験者に対し、5mg錠とともに水又はグレープフルーツジュース(濃縮果汁を4倍若しくは2倍希釈したもの) 200mLを投与した。被験者の食事はフラボノイドを多く含むものは避けた。採血は8時間まで行い、felodipine及びその主要代謝産物である dihydrofelodipineの血中濃度を測定するとともに、採血時に血圧及び心拍数を測定した。

グレープフルーツジュース飲用群では、felodipine濃度は投与1時間後以降で、水飲用群に比較して有意に高かった。

6nmol・L-1

16nmol・L-1

AUC Cmax t1/2 拡張期血圧 心拍数
水飲用群 23nmol・h・L-1 6nmol・L-1 ? ? ?
GFJ飲用群(4倍) 65nmol・h・L-1 16nmol・L-1 変化無 有意低下 有意上昇

一方、グレープフルーツジュースの飲用によりdihydrofelodipineのAUC及びCmaxも有意に上昇したが、その程度はfelodipineに比較して小さかった。また、dihydrofelodipineのAUCとfelodipineのAUCとの比較は、有意に低下した。

これらの影響は、グレープフルーツジュース中に含有されるフラボノイドが、felodipineからdihydrofelodipineへの酸化を阻害することによって引き起こされると考えられる。dihydropyridine類は、dihydropyridine環の酸化が主要な代謝経路であるため、このグレープフルーツジュースの影響は、他のdihydropyridine類においても起こりうるものと考えられる。しかし、こうした代謝阻害の臨床上の影響は、個体内・個体間変動や併用薬物などによって左右されるであろう。

*高血圧症の人々の30%以上が、ウロディオレノン(ステロイドホルモンと同様にA環にケトン構造が接合した二環のセスキテルペノイド)の排泄が高いことは既に実証済である。ウロディオレノンはグレープフルーツジュースの中にも見いだされ、生合成の連鎖は、多分ファルネゾール→バレンセン→ノートカトル→ ノートカトン→ウロディオレノンとと考えられている。

ノートカトルは、カルシウム拮抗作用を有する。ノートカトンはグレープフルーツジュース中に高濃度で存在し、チトクロームP450とエポキシゲナーゼを経てウロディオレノンに転化すると思われる。ウロディオレノン自体はモルモットの腎尿細管中のNa+K+-ATPアーゼを阻害する。

グレープフルーツジュースの効果は、フラボノイドというよりもこれらセスキテルペノイド化合物によるものであったと思われる。

*アルコールと薬物の相互作用についての研究の中で、偶然に柑橘果汁がある種の薬物の吸収率を非常に増加させることが見いだされた。柑橘果汁は一般に朝食時に摂取され、このときに薬も服用される可能性があるので、この植物-薬物の相互作用の研究を進めることは重要であろう。

非喫煙者の6人の白人(年令48-62歳)で境界域高血圧症(治療なしで座位の拡張期血圧が90-99mmHgで合併症を持たない)の人と、18-45歳で非喫煙の健康な白人6人とを対象とした(何等かの治療を受けている人はいない)。

ラテン方格法による交差試行で、高血圧症の被験者は250mLの水又は250mLの2倍濃厚グレープフルーツジュース(’OldSouth’製)すなわち125mLの凍結濃縮果汁+125mLの水)又は250mLの2倍濃厚オレンジジュース(’MinuteMaid’製)とともに5mgの felodipineを投与された。健康な被験者には、nifedipine10mgを250mLの水又は250mLの2倍濃厚グレープフルーツジュースで任意の交差試行のもとで与えられた。全ての被験者は48時間アルコールを避け、テストの前10時間は絶食とした。薬物の血漿濃度と第一代謝産物を8時間にわたって測定した。血圧、心拍は1分間立位になった後に測定し、3機器の平均を用いた。被験者は薬の服用後は何も食べず、3時間後の標準の昼食と、6時間後の軽食だけとした。カフェインを含む飲み物は禁止したが、薬の服用後3時間経過すれば、飲水は許可した。副作用も記録した。

薬物と第一代謝産物の血漿中濃度-時間曲線は0-8時間の血中濃度時間曲線下面積(AUC)、最高血中濃度(Cmax)、最高値に達する時間(Tmax)を及び半減期について分析された。

グレープフルーツジュースで飲んだfelodipineのAUCは、水の場合の284(SEM44;範囲164?469)%であった。 dihydrofelodipineのAUCも増加したが、dihydrofelodipine/felodipineのAUC比は水よりグレープフルーツジュースの方が低くなった(0.85対1.24)。これに対してオレンジジュースはfelodipineやdihydrofelodipineの薬物動態に影響しない。

AUC
(nmol.h.L-1)
Cmax
(nmol/L)
Tmax
(h)
半減期
(h)
F 41 13 1.1 3.0
Df 46 18 1.0 2.1
2倍濃厚GFJ 103 29 2.1 2.3
Df 80 26 2.1 1.9
2倍濃厚OJ 44 16 1.9 2.3
Df 58 25 1.8 1.9

felodipineは水よりもグレープフルーツジュースで摂取したときに、拡張期血圧や心拍により大きな効果を持つ。 felodipineのCmaxでは水よりグレープフルーツジュースのときに拡張期血圧はより低下し、(?20対?11%)心拍数はより増加(23対 9%)する。オレンジジュースでは効果が無い。副作用はグレープフルーツジュース(10例)がオレンジジュース(4例)や水(3例)よりも頻繁であった。主に頭痛、顔面紅潮、めまいであった。

健康人のグレープフルーツジュースによるnifedipineのAUCは水の場合の134(SEM10;範囲108-169)%であった。 dihydronifedipineのAUCは増加したが、dihydronifedipine/nifedipineのAUC比には影響がなかった。1 人の被験者は、実験の両日に中等度の頭痛を訴えた。

AUC
(nmol.h.L-1)
Cmax
(nmol/L)
Tmax
(h)
半減期
(h)
水250mL 464 222 0.8 2.0
Dn 199 111 0.8 2.2
2倍濃厚GFJ 627 250 1.2 1.8
Dn 242 114 1.2 1.8

今回、グレープフルーツジュースは2倍濃厚のものを用いた。しかし、200mLの濃縮しないグレープフルーツジュースでは、felodipine錠剤の吸収率を3倍にするが、長期にわたるfelodipineの効果はより少ない。オレンジジュースは、基本的には同量の栄養分を含んでいるのに、これらの相互作用はほとんど生じない。

felodipineの最高濃度は2時間で生じ、半減期は変わらないので、グレープフルーツジュースとの相互作用は、おそらく吸収によって起こると考えられる。Tmaxが長くなるに従って、消化管を空にするのを遅らせることができる。しかし、用いた錠剤は普通は完全に吸収され、溶液に対して吸収率は同等である。

felodipineの実際の吸収率は、全身をを循環する以前に代謝されてしまうため15%である。

グレープフルーツジュースでは dihydrofelodipine/felodipineのAUC比が減少することは全身循環以前の排出が悪くなることを示唆している。しかしこれは、 felodipine代謝が、飽和した結果であるとは考えられない。というのは40mgに経口投与量を増やしても最高血漿濃度は2倍にしかならず、投与量 -AUCの線上に乗っているからである。

食物による内臓-肝血流の増加は、約50%felodipineの吸収率を増加しうる。内臓-肝血流は食物中の蛋白質に刺激されるが、グレープフルーツジュースはほとんど含んでいない。それにも係わらずグレープフルーツジュースは、食物よりも felodipineの吸収率をより増加するのである。

felodipineの代謝の最初の段階はチトクロームP450による酸化である。

ここにおける直接の抑制はfelodipineの絶対濃度が高くなることやdihydrofelodipine/felodipine比が減少することで説明しうる。しかしdihydrofelodipineの絶対濃度は、むしろ低くなるはずである。

酸化におけるdihydrofelodipineのエステル分離にチトクロームP450が係わっている証拠が報告されている。この段階での更なるチトクロームP450の直接抑制は、我々の発見した変化を説明してくれるものである。ミクロソームの基質の変化は、ある種の生物フラボノイド(ケルセチン、カムフェロール、ナリンゲニン)で抑制されるが、これらはグレープフルーツジュースには含まれるがオレンジジュースには含まれない。

グレープフルーツジュースはnifedipineの吸収率を増すが、felodipineほどではない。この違いはnifedipineの全身循環以前の代謝がより少ないことによると思われる。

*ジヒドロピリジン型のカルシウム拮抗薬(フェロジピン、ニフェジピン、ニソルジピン、ニトレンジピン)は、グレープフルーツジュースの影響を受けるとされているが、同じカルシウム拮抗薬でもジルチアゼム(生物学的利用率45%)では影響されないとされる。グレープフルーツジュースによって影響を受ける薬物の多くは、

  1. 肝の薬物酵素のチトクロームP450のうちCYP3A4と呼ばれる分子種によって代謝される。
  2. .経口投与時の生物学的利用率が、静注に比べて著明に低い(5?30%)という特徴がある。

すなわちこれらは経口投与された薬物量の内、かなりの量が腸管における吸収及び肝での初回通過の際、代謝物に変換されるタイプの薬物である。

初回通過効果を免れた少量の薬物によって薬効が発揮されるタイプの薬剤であり、これらの薬物については当然のことことながら初回通過効果の僅かな変化が循環血流中に移行する薬物量に大きく影響することになる。

ただし、ジヒドロピリジン系のカルシウム拮抗薬とグレープフルーツジュースの相互作用が、全ての事例で発現するわけではない。最高薬物血中濃度の上昇及び循環血流への移行度の指標となるAUCの変化は個人差がかなり見られるため、比較的影響の少ない事例も見られる。

最近CYP3A4と呼ばれる分子種は、肝に発現し、小腸にも少量の発現が確認されている。

CYP3A4分子種の肝含量には個人間で著しい差があり、その含量差は日本人でも30倍以上に達することも解っている。これらのことからCYP3A4を中心とするチトクロームP450による酸化的代謝活性の個体差がジヒドロピリジン系のカルシウム拮抗薬の代謝に影響し、薬物相互作用の現れ方にもかなりの相違を生ずるものと考えられる。

ジヒドロピリジン型のカルシウム拮抗薬に対する相互作用は、オレンジジュースでは起こらず、グレープフルーツジュースに選択的なことから、特有の苦味成分が原因物質として当初から疑われ、柑橘類に大量に含まれるフラボノイドのうち特にグレープフルーツに多く含まれるナリンギンが原因物質の一つとして同定されている。

ナリンギンの糖鎖がはずれてできるアグリコンのナリンゲニンは、ヒト肝ミクロソームを用いたinvitro試験でニフェジピンの代謝をかなり強く阻害することが解っている。しかしながらグレープフルーツジュースの代わりにナリンギンそのものをジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬と同時投与してもカルシウム拮抗薬の血中濃度に明確な変化が起きないことからナリンギンのみでグレープフルーツジュースの影響を説明できず、相互作用の機序はまだ明確になっていない。

また、グレープフルーツジュースとカルシウム拮抗薬を同時ではなく、1.5時間の間隔を置いて摂取すると相互作用が認められないことからグレープフルーツジュースの影響は短命とする報告もされている。

  果実 天然果汁 濃縮果汁
廃棄率 38% 0 0
水分 89.6g 89.5g 44.1g
蛋白質 0.8g 0.6g 3.2g
脂質 0.1g 0.1g 0.2g
糖質 8.9g 9.4g 50.5g
繊維 0.2g 0 0
灰分 0.4g 0.4g 2.0g
カルシウム 18mg 9mg 55mg
リン 17mg 12mg 70mg
0.1mg 0.1mg 0.4mg
ナトリウム 1mg 1mg 3mg
カリウム 140mg 180mg 950mg
レチノール 0 0 0
カロチン 0 19μg 26μg
VA効力 0 11IU 14IU
B1 0.06mg 0.04mg 0.24mg
B2 0.03mg 0.01mg 0.07mg
(リボフラビン) 0.3mg 0.2mg 1.2mg
ナイアシン 40mg 38mg space
アスコルビン酸 space 230mg space

上表は、果実及び天然果汁・濃縮果汁の成分表である。食物としての成分表であるため、フラボノイドの測定値は、報告されていないが、参考までに示した。

グレープフルーツ1個は、約250gとされている。平均6?7割のジュースが絞れるということであり、グレープフルーツ1個から抽出できるジュース量は約 150mLと計算することができる。グレープフルーツジュース中のナリンジン量は0.8mg/mL?0.45mg/mL、ジュース200mL中のナリンジン量は約160?90mgであり約250gのグレープフルーツ1個中にナリンジン約67.5?120mgと計算することができる。

通常、病院給食で1回に提供されるグレープフルーツは約70gとされており、約0.28個に相当する。

ナリンジン量として単純計算すれば、18.9?33.6mgと計算できるが、この量とグレープフルーツ1個中のナリンジン量が、カルシウム拮抗薬に対する影響として、どの程度の作用差になるかは不明である。

何れにしろジヒドロピリジン型のカルシウム拮抗薬の生物学的利用率は低いとされており、極微量のナリンジンに影響される場合も考えられるので、この系統の薬剤服用患者では、グレープフルーツの喫食量には注意を払うことが必要である。

[2171.015.2NIF][1999.3.23.・1999.3.23.一部改訂.古泉秀夫]


  1. ワソラン錠添付文書,1996.6.改訂
  2. アダラートL錠添付文書,1995.9.改訂
  3. グレープフルーツジュースの摂取時間によるフェロジピンの体内動態及び薬理作用に及ぼす影響[抄録];月刊薬事,38(2):331-332(1996)[J.Lundahietal.,Eur.J.Clin.Pharmacol.,49:61-67(1995)]
  4. フェロジピンの動態に及ぼすグレープフルーツジュースの影響[抄録];月刊薬事,34(12):2607(1992)[Edgar,B.etal:Eur.J.Clin.Pharmacol.,42:313-317(1992)]
  5. フェロジピン及びニフェジピンと柑橘果汁の相互作用;ランセット日本語版,1991.9.
  6. 柑橘類ジュースとFelodipineおよびNifedipineとの相互作用[抄録];情報,No.925:339(1991)
  7. Bailey,D.G.,etal:フェロジピンおよびニフェジピンと柑橘果汁の相互作用;ランセット日本語版,7:16-18,1991
  8. 山添康:グレープフルーツジュースはCa拮抗薬以外には影響しないか;新薬と治療,45(8)(1995)