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『患者様』は究極の尊敬語か?

火曜日, 8月 14th, 2007

医薬品情報21

代表 古泉秀夫

『患者』という言葉は、医師の側から見れば、自分の手によって『病気やけがの治療を受ける人』の意である。受診する側からしても同様に、『病気やけがの治療を受ける人』なのである。つまり『患者』という呼称は、人が人として正常ではない状態におかれていることを意味しており、最近、医療関係者がとってつけたように『患者様』なる呼称を多用し始めたが、正常人とは異なる病人だということの念押しをしているだけで、患者の立場に敬意を表していることにはならない。

第一、旧国立医療機関は、厚生労働省が指示しているからということで、日本語として正しい用い方ではない『患者様』を無批判に導入しているが、上級機関が指示すれば、誤った指示であっても、何の疑問も持たずに導入してしまうという、その主体性のなさが恐ろしいのである。

この点に関して、厚生労働省の「医療サービス向上委員会」が2001年11月、「国立病院等における医療サービスの質の向上に関する指針』なるものを打ち出し、患者に対する言葉遣いや応対の仕方を改めるため、当時の国立病院に「患者の呼称の際、原則として、姓(名)に『様』を付ける」ことを求めたとされている。つまり患者の個人名を呼ぶときに「○○さん」ではなく、「○○様」と呼ぶことを求めたものであって、『患者』という普通名詞に様を付けることを求めたのではないとしている[日本語の現場-職場で30「患者に「様」付け“行政指導”;読売新聞,第46034号,2004.5.19.]。

ある日突然、『病人様』といわれた患者側にすれば、医療関係者と患者との関係が何ら改善されることなく、いきなり呼び方を変えられたとしても、その医療機関で、患者中心の医療が行われるようになったという認識を持つことは多分ないはずである。むしろ胡散臭い言葉の魔術で、さも親切な扱いをしていると見せながら、従来と全く変わらない不親切さを提供しているというのが認識の筈である。事実、患者1000人を対象としたある雑誌のアンケートでは

  • 違和感を覚える      38.1%
  • 当然だと思う       15.7%
  • 何とも思わない      40.1%

という回答結果が報告されている。また、市立総合病院で実施した患者アンケートでも、入院患者では「さん」の支持者が69%、「様」の支持者は4%と、圧倒的に「さん」の支持者が多いという結果が出ている [日本語の現場-職場で31「サマにならない「患者様」;読売新聞,第46035号,2004.5.20.]

厚生労働省が「医療サービス向上委員会」で、国立医療機関における患者サービスの向上を目指したというが、厚生労働省が国立医療機関で目指すべきは、各医療職員の人員増であって、竹槍で戦車と戦う精神論ではないはずである。

“衣食足りて礼節を知る”は現代でもなお真理であり、国立医療機関のサービスの悪さの最大の問題点は、不足する人員にあるということである。精神的な余裕がないところに、ゆとりのあるサービスは生まれない。ゆとりのあるサービスのできないところから、患者が安心や満足を得ることはできない。

医療制度の異なる外国の医療機関の配置人員と比較する気はさらさら無いが、国内の地方自治体立の病院との比較でも、明らかに国立医療機関の配置人員は少ないといえる。働いている職員は、口元に笑いを浮かべて患者サービスにこれ務めている風に見えるが、眼は笑っていないという怖い状況にある。安上がりに、『患者様』という言葉だけで、医療機関のサービスが向上するわけではない。また、病院の管理者も、『患者様』を振り回すことで、自分の管理する病院のサービスが向上したと考えていたとすれば、大いなる誤謬である。

他を引き合いに自説の正しさを証明する気はないが、『言葉を丁寧な形にしても、けっして丁寧な意味にならないという例はほかにもある。病院へ行くと、「患者さま駐輪場」「患者さま待合室」と書かれていることがある。「患者さま」といわれるのは何となく落ち着かない。なぜなら「患者」という言葉自体がすでに悪い印象を与えるため、いくら「さま」をつけてもらってもうれしくない。

「病人さま」「怪我人さま」「老人さま」など、いくら頑張っても敬うことにならないのである。「ご来院の方」「外来の方」などというように変えた方がいいと思われる。』 [金田一春彦:日本語を反省してみませんか-日本語-;角川oneテーマ21,角川書店,2002]

金田一氏は、我が国を代表する日本語学者である。その氏が、おかしいといっているいじょう『患者様』は敬語になっていないということである。最近、薬剤師が書く文書に、本来は『患者』とすべきであるところを『患者様』あるいは『患者さん』としているものが見受けられる。何の意味があってそのような言葉を使用しているのか知らないが、それらの言葉を見るたびに背中がむずがゆくなる。もし、そのような言葉を書くことで、患者を敬っていると考えているとすれば、それは誤った判断に基づく考えだといわなければならない。

(2004.6.24.)

お粗末-情報管理の不備

火曜日, 8月 14th, 2007

鬼城竜生

民主党の永田寿康衆議院議員(比例南関東ブロック)が使った、武部自民党幹事長の次男への送金指示メールなるもの、前原誠司民社党代表と野田佳彦国会対策委員長が対応して、間違いなくライブドア前社長の堀江貴文被告のだしたものであると判断したということであるが、お粗末としかいいようがない。一体、本物と判断した根拠は何だったのか、甚だ不思議である。

電子媒体を利用したメールの内容を、単純に真性のものと判断したのであれば、国家の運営に参加する政治家としてお粗末、情報管理能力は零に等しいといわなければならない。ましてそのレベルの政治家が代表や国会対策委員長を務める民主党では、危なくて政権を担当させるとなどというわけにはいかないといわれても仕方がない。

電子メールなるもの、手書きの手紙と違って、書いた人間の筆跡鑑定にも使えず、発信人を特定したとしても、それは発信した器械を特定しただけであって、第三者がその器械を使用して文書を発信することも可能なのである。

更に始末に負えないことは、その電脳を使用した個人を特定しようとしても、特定ができないということである。また他の電脳を使用して、あたかも当事者が発信したように見せることも可能であり、今回のようなメールの印刷した文面を見ただけで、信用してしまったとすれば、初歩的な情報管理もできていないということである。

一つには日常的に多量のメールでやり取りをする会社の前社長だったということ。壮大な金の話がメールで飛び交う世界だったということ。前社長が自民党から立候補したこと。当然それに伴って金が動いたのではないかという予測がされたこと。ネタ元がマスコミ関係者だったということ。それらもろもろのものが複合して、メールの内容を真実らしく見せたのかもしれないが、より冷静な眼で、提供された情報の評価をすべきであったといえる。

喧嘩を仕掛けるなら仕掛ける態勢作りが必要なのである。まして相手の死命を制する程に重要な情報であれば、その情報の裏付けを徹底的に抑え、何処からも反論のでないように態勢を構築しなければならない。

今回の民主党の情報の処理は、稚拙としかいいようがなく、更に当事者が責任を取って議員を辞職するといっている(マスコミ情報)のに、党主導で入院させた等というのは一時代前の自民党議員が逮捕を逃れるために入院した手法を参照したのか。いずれにしろ速いところ責任を明確にし、責任者は役職を降りて襟を正さなければ、政党としての存在まで危うくなるのではないか。

高い授業料を支払うことになるが、後処理を素早く、分かり易くすることが、世間の理解を得るための早道である。

(2006.2.25.)


  1. 前原代表 永田議員を当面慰留 自民は批判「入院は前代未聞」;読売新聞,第46678号<夕刊>,2006.2.24.
  2. 民主「永田進退」先送り メール問題 休養扱い、入院 本人「思いこみ行動」;読売新聞,第46678号,2006.2.24.

隠蔽の付け

火曜日, 8月 14th, 2007

医薬品情報21

古泉秀夫

決定版“失敗学の法則”(畑村洋太郎・文春文庫)なる本が出版されているというのは知らなかった。

しかし、考えてみると、よくまあ何でも出版されている国だと感心する次第だが、その“失敗学の法則”によると、「付けの大きさは大体、予兆や事実を無視したり、隠したりして得をしたつもりになっている金額の300倍位になる」あるいは「失敗を隠そうというときには、多大な付けを払わなければならないことを覚悟しておかなければならない」との記述があるそうである。

但し、これは大手菓子メーカ「不二家」(本社・東京)の埼玉工場が、消費期限切れの原材料を使った洋菓子を製造・出荷していた問題についての寸評氏からの孫引き[読売新聞,第47002号,2007.1.15.]である。

不二家は消費期限切れの牛乳を使ってシュークリームを製造していた。同社はこの事実を直ちに把握していたにもかかわらず、調査を続ける必要があるとして2カ月以上も公表しないでいた。社内調査によれば、埼玉工場ではこの他にも期限切れの牛乳を7回使用、アップルパイなどに使うリンゴの加工品「アップルフィーリング」も4回期限切れを使用していたという。

またプリンの消費期限を社内基準より1日長く表示したことや、細菌検査で基準に満たない洋菓子「シューロール」を出荷していたことも判明していたとされる。

一般の家庭であれば、消費期限が切れていたとしても、1日ぐらいであれば、腐敗していないことを確認した上で、食べてしまうということがあるかもしれないが、食品を製造する会社では、万一の事態が起きたとき、影響する範囲が広すぎる。

更に食品を製造して利益を得るということは、消費者に安全な食品を提供するという責務をになっている。その責務に対する対価として、消費者は金を払っているのである。

1月15日になって、新たに消費期限切れが判明した15件の原料は、牛乳・生クリームが9件、卵類が6件、消費期限の社内基準の改竄は、明らかに意図的にやっていたと思われる。更に国の基準の10倍以上の細菌数が検出された洋菓子が出荷された問題について、埼玉工場では実際は約60倍だったことが判明したとしている。

それだけではなく食品中の細菌検査で検査結果を数値ではなく無限大と記載していたとされるが、人の口に入る食べ物を製造しているという認識が全くないといわれても仕方がない。社員教育等という、しゃれたことは何にもやっていなかったのではないか。

7年前の雪印乳業事件と同様、安全を軽視した製造・販売が会社全体に広がる様相を見せ始めたことに、消費者から改めて怒りの声が上がったとされている。

雪印乳業事件とは『雪印集団食中毒事件といわれるもので、2000年6月から7月にかけて、近畿地方を中心に発生した、雪印乳業(当時)の乳製品(主に低脂肪乳)による食中毒事件のことである。本事件は、認定者数13,420名の過去最大の食中毒といわれている。』

『本事件が起こった原因は、大阪工場(大阪市都島区、事件後閉鎖)で生産された低脂肪乳であるが、その原料となる脱脂粉乳を生産していた北海道の大樹工場(北海道広尾郡大樹町)の生産設備で停電が発生し、病原性黄色ブドウ球菌が増殖して毒素が発生したことも原因と推定された。同社は、1955 年にも八雲工場で同様な原因による集団食中毒事件を起こしており、事故後の再発防止対策にも不備があったと推測される。

なお、同時に大阪工場での原材料再利用の際における、不衛生な取り扱いも暴露された。また、この事件をきっかけに、再利用そのものに対する問題も露呈される形となってしまった[フリー百科事典・ウィキペディア(Wikipedia),2007.1.16.]。』というものである。

不二家のやるべきことは雪印乳業事件を他山の石として、身を正すことではなかったかとする論調も聞かれる。しかし、この他山の石というやつ、簡単なようで実際に実行するとなると多大の労力を要することなのではないか。事実、何か事故がある度に、他山の石が出てくるが、万全の策として実行されているとは思えない。

更に1月17日のTV報道では、物品管理の鉄則である『先入れ先出し』が行われておらず、納入された原料はそのまま積み上げ、上から順番に取り出して使用していたとされていた。しかも、使用残については消費期限の確認もせず、使用していたという。これがもし事実であるとすれば、管理無き工場ということであり、そこで製造される製品には何の信頼もおけない。ここまで綱紀が弛んでいたのでは、建て直しは難しいのではないか。

ところで“他山の石”ということでいえば、医療機関内における危機管理は大丈夫なのであろうか。何日か新聞に出ないと思っていると、似たような内容の医療事故が報道されている。何故これ程同じ過誤が起こるのかと首を捻りたくなるほど類似の事故が報道されるが、これこそ将に“他山の石”が“石” に成っていないということの証明ではないか。例えば終焉を迎えつつあるノロウイルスの感染症、院内感染事例が出た場合に全て報告し、公表されたのか。

人が virusの運び屋となるノロウイルスは、人の集まるところで感染は拡大する。院内感染が額面通り少なかったのであれば、問題はないが、もし隠蔽した施設があるとすれば、我が国の防疫体制は完成度が低いということになってしまう。

(2007.1.22.)

医療費問題は全て患者の責任か  

火曜日, 8月 14th, 2007

医薬品情報21

古泉秀夫

2005年7月5日付の読売新聞、論陣論客の『医療費どう抑制』の丹羽雄哉氏との対論で、本間正明氏(大阪大学大学院経済研究科教授)は、次 の意見を述べている。

『適正な医療費は何か、が問題だ。医療費は現状で年率約3%ずつ伸びているが、これが真に適正か根拠はない。医療サービスには、他の消費財と は違って、過大な需要を生む特性がある。その一因は、国民が医療費全体のうち、自己負担を除く保険料や公費 の部分を自覚せず、医療費は安いと錯覚していることだ。事実、風邪薬を買うより医師にかかる 方が負担が少ない

また、医療は供給側と受給側で情報が非対称なため、患者は医師の勧める治療法に委ねることが多 く、施設が新しい機器を導入した時など、「医師誘発需要」が顕著になる。放置 すれば医療費は膨張する習性がある。

本間氏は、医療サービスには過大な需要を生む特性があるとして、『国民が医療費全体のうち、自 己負担を除く保険料や公費の部分を自覚せず、医療費は安いと錯覚している』ことが原因だとしている。

しかし、考えていただきたいことは、治 療内容を詳細に明記した請求書も出さなければ、領収書も出さないという、通常では考えられない商習慣を放置していた責任はどうするのか。

患者は自分がどの様な治療を受け、それぞれが幾らだったのか、全くわからない状況におかれてきた。それを患者の責任といわれても、患者の方は困るのである。

医療機関が、治療明細や領収書を発行するよう、指導するのは厚生労働省であり、国民に責任を転嫁されても困るのである。

更に『保険料を自覚せず』とのたまっているが、僅かな給料の中から立ち飲み屋の コップ酒代を捻出しなければならない給料取りが、自分の給料袋の中身が増えるか減るかということに無関心でいると考える感覚が信じられない。

大学の教員は相当の高給取りで、保険料程度は袋のゴミということで、御自身が気にならないからといって、全ての給料取りが同様の感覚でいると思われるのも困るのである。多分、給料取りの多くが、月々の保険料の額を正確にいえない、だから無関心だというのであろうが、正確な金額を記憶していたところで、返戻されるわけでもなく、否応なしに持って行かれるから、気に掛けても仕方がないということで、金額を記憶していないだけである。

医療費について批判する諸氏は、常に『風邪薬を買うより医師にかかる方が負担が少ない』 とおっしゃるが、検査費等を含めた総経費として見た場合、医療機関への支払いがOTC薬より安上がで済むなどということはあり得ない。

更に一方で、OTC 薬の価格が適正な価格なのかどうかという点を無視した意見の進め方は納得がいかない。医療費が適正か否かをOTC薬の価格との比較で論ずるなら、OTC薬の価格が適正であるか否かの論議をつめておかなければならないと考えるがどうであろうか。

少なくとも医療の側は統制価格であり、OTC薬は自由価格である。

『医療は供給側と受給側で情報が 非対称なため、患者は医師の勧める治療法に委ねることが多く、施設が新しい機器を導入した時 など、「医師誘発需要」が顕著になる。放置すれば医療費は膨張する習性がある。』としているが、医療だけが『情報が非対称』な訳ではなく、あらゆる分野に専門家対比専門家は存在する。特に医療関係で『情報の非対称』が顕著であることは事実であるが、これも国民の側に責任があるのではなく、情報公開に全くそっぽを向いてきた医療機関、ひいてはその体制を容認してきた厚生労働省の責務であって、国民に責を転嫁されても困るのである。

国民が自ら受ける治療について、医療担当者が説明することを拒否したことはない。それどころかより理解しやすい言葉で、詳しい説明を求めたにもかかわらず、それを拒否してきたのは医療関係者であり、日常的に医療内容に国民の眼を向ける工夫をしてこなかったのは厚生労働省である。

おっしゃるように『新しい機器を導入した時など、「医師誘発需要」が顕著』にな ることは事実である。高額な医療機器の導入がされれば、それの減価償却を考えるのは、当然のことであり、それを非難することは当たらない。

むしろ共同利用可能な仕組みを導入し、患者の検査を専門に実施する施設に高額機器を集中させるなどの方策を検討すべき時期があったはずである。共同利用の仕組みを確立しない限り各医療機関が競争で新しい医療機器を導入するのは、患者集約のために当然起こることである。

しかし、一方でその競争が各施設の診断技術、治療内容の高度化を生んできたのである。一方的に医師誘発需要が増大する等という切り分けではなく、この点については新たな方策を考案すべきではないか。

(2005.7.16.)

医療行為一部解禁

火曜日, 8月 14th, 2007

医薬品情報21

古泉秀夫

厚生労働省は2004年10月19日、重い障害のある児童生徒のたんの吸引など一部の医療行為を、全国の盲・ろう・養護学校の教員にも認めることを決めたとする報道がされていた [読売新聞,第46187号,2004.10.19.]。

厚生労働省は今月中にも通知を出し、態勢の整った学校から実施するという。

教員に認められた医療行為は、

  1. 管によるたんの吸引。
  2. 鼻などに管を通して栄養分のある液体を流し込む経管栄養。
  3. 管を使って尿を体外に排出する導尿。

いずれも『咽頭より手前の吸引』など、安全性の確保できる範囲に限られている。教員への研修の実施、保護者と主治医の同意、看護師との連携などの条件も設けているとされる。

国が医師や看護師、家族以外に医療行為を認めたのは、2003年7月に『在宅のALS(筋萎縮性側索硬化症)患者のたんの吸引をヘルパーに解禁』したのに続いて2例目。今回は病気や障害の種類にかかわらず認める。

養護学校には、重度の脳性麻痺などで、日常的に医療的ケアを必要とする子が少なくない。盲学校やろう学校にも、重複障害のため同様のケースがある。文部科学省の調査によると重度の障害を持つ児童生徒は、2003年5月段階で公立の盲・ろう・養護学校(計935校)の在学者約95,000人の5.7%に当たる約5,300人いると報道されている。

医療の発達で、重い障害を持って生まれた子の生存率が高まり、通学する子の数は増えつつあるという。本来ならそのような施設では、看護師等の配置を義務づけるべきであるにもかかわらず、法的な整備がされないままに見過ごされてきた。このため多くの施設では保護者が同伴し、30分おきにたんの吸引を行うなどの医療行為を行う例が多い。

文部科学省では保護者の負担軽減などを目的に、1998年度から学校現場での実践研究や大規模モデル事業を実施していたという。その結果、無事故だった上に、授業がスムーズに進む等の効果が見られたとされる。これを受けて厚生労働省解禁の是非を検討『許容可能な段階』との結論を出したということのようである。

しかし、どういい訳をしようとも、医療の世界に素人を引きずり込む愚行にしか見えないというのが率直な感想である。なぜなら養護学校等で、重度障害児に対する医療的介護を必要とするなら、看護師等を配置するのが本筋であって、養護学校等の教員を教育して事に当たらせるなどというのは、甚だ筋違いな話である。

看護師を配置しろ等というと、厚生労働省は看護職員の不足をいうかも知れないが、多くの失業者がいる現在、新たに看護師学校への門戸を拡大するとともに、学費の補助金制度を確立するなどの手立てを立てるべきである。

学校現場での大規模モデル事業では、『無事故』だったというが、それは用心の上にも用心し、強度の緊張の中で実施されたからのことであって、日常業務に組み込まれた場合、医療現場での事故の状況を考えてみれば、『無事故』が継続するであろう保証は全くないのである。

ところでこれらの医療行為に携わる教員達には、何か新しい資格を与えるのであろうか。教員という資格要件は従来と全く変わらず、緊張を強いられる業務を追加されたのでは、たまったものではない。

当然、新たに追加される業務に見合う手当の支給も考慮されなければならない。更に今回の一部解禁は、単に重度障害児の問題として終わることはなく、後を引くことは間違いない。なぜなら医療関係者が配置されていない高齢者や障害者の介護現場では、ヘルパーにも日常的医療行為を許可して欲しいという思いが強く、しかもその欲求は、養護学校等の比ではないほどに強いからである。

[2004.10.20.]

『医薬品販売の規制緩和』

火曜日, 8月 14th, 2007

医薬品情報 21

代表 古泉秀夫

[1]新たに医薬部外品に移行した医薬品

厚生労働省は、医薬品販売の規制緩和のため一般用医薬品のコンビニエンスストアなどでの販売を検討していたが、2004年7月16日、整腸剤や殺菌消毒薬など371品目を一般小売店で販売できる「医薬部外品」に移行、7月30日から販売できるようにすると発表した。

その他、対象となるのは健胃薬やうがい薬、ビタミン含有保健薬など。

移行品目には、説明文書をよく読むことや過剰摂取への注意などを外箱などに表示するよう、政省令で規定。製造所の責任技術者は薬剤師とすることなど、製造や品質の管理については、従来の一般用医薬品と同じ基準を設けた。

『新指定医薬部外品』

『新指定医薬部外品』といわれる医薬部外品は、1999年に新たに指定された医薬部外品であり、『医薬品販売規制緩和に係る薬事法施行令の一部改正等について』(医薬発第280号,都道府県知事・ 政令市市長・特別区区長宛、厚生省医薬局長発出)においてその詳細が示されている。

第1.指定告示に関する事項(新たに医薬部外品として指定されたものについて)

薬事法第2条第2項の規定に基づき、指定告示において、次に掲げるもので あって人体に対する作用が緩和なもの(以下単に「新指定物」という。)が新たに医薬部外品に指定されたこと。

  1. すり傷、切り傷、さし傷、かき傷、靴ずれ、創傷面等の消毒又は保護に 使用されることが目的とされている物(外皮用剤、きず消毒保護剤)
  2. ひび、あかぎれ、あせも、ただれ、うおのめ、たこ、手足のあれ、かさ つき等を改善することが目的とされている物(ひび・あかぎれ用剤、あせも・ただれ用剤、うおのめ・たこ用剤、かさつき・あれ用剤)
  3. のどの不快感を改善することが目的とされている物(のど清涼剤)
  4. 胃の不快感を改善することが目的とされている物(健胃清涼剤)
  5. 肉体疲労時、中高年期等のビタミン又はカルシウムの補給が目的とされ ている物(ビタミン剤、カルシウム剤)
  6. 滋養強壮、虚弱体質の改善及び栄養補給が目的とされている物(ビタミ ン含有保険剤)なお、個々の製品が医薬部外品に該当するか否かについては、薬事法第2条第 2項各号及び指定告示に指定された品目の範囲において、その有効成分の種類と分量、効能又は効果、用法及び用量又は剤型等を総合的に判断して決定するものであるが、新指定物の具体的範囲については、本日付け医薬発第283号当職通知の別添「新指定医薬部外品の製造(輸入)承認基準」(以下「新基準」という。)を参照されたいこと。
    なお、個々の製品が医薬部外品に該当するか否かについては、薬事法第2条第 2項各号及び指定告示に指定された品目の範囲において、その有効成分の種類と分量、効能又は効果、用法及び用量又は剤型等を総合的に判断して決定するものであるが、新指定物の具体的範囲については、本日付け医薬発第283号当職通知の別添 「新指定医薬部外品の製造(輸入)承認基準」(以下「新基準」という。)を参照されたいこと。

『新範囲医薬部外品』

2004年7月末からコンビニなどでの販売が可能になるOTC薬から新たに医薬部外品に移行することになった対象品目。

新範囲医薬部外品の指定については、平成16年7月16日に関係政省令の公布が行われ、平成16年7月30日より施行された。

  1. 本件は平成15年6月27日付閣議決定「経済財政運営と構造改革に 関する基本方針2003」を受けて、医学・薬学等の専門家によって「安全上特に問題がないもの」として選定された一般用医薬品を医薬部外品に移行させることにより、一般小売店での販売を可能とするものである。
    (註)薬事法第 2条第2項にいう医薬部外品とは、次の各号に掲げることを目的とされており、かつ人体に対する作用が緩和なものであって器具器械でないもの及びこれらに準ずるもので厚生労働省の指定するものをいう(ただし、医薬品としての用途に使用されることもあわせて目的とされている根のを除く)。
  2. 今般、専門家による検討結果を踏まえて、これまで一般用医薬品とし て薬局等で販売されていた371品目を医薬部外品に移行することによって、一般小売店での販売を可能とすることにした。
  3. 医薬部外品に移行する品目の範囲については、次の措置により、その 明確化を図った。ア.医薬部外品に移行する品目(以下、「移行品目」という)について、別紙 1に掲げるものであって人体に対する作用が緩和なものを、新たに医薬部外品として指定した。

    イ.平成15年度において製造実績があることが確認された371品目をリス ト化し、一般小売で販売可能なものとして明確化するとともに、医薬部外品としての範囲を示した。

    ウ.今後、医薬部外品としての範囲に該当するものとして、新たに製造を開始しようとするものについては、事前に厚生労働 省に届け出を行うこととした。

[2]移行品目の表示等について 

  1. 移行品目の表示については、その有効成分の名称及びその分量等を直接の容器又は直接の被包に記載しなければならないこと。 「医薬部外品」の文字は、購入者等から見て販売名の表示をあわせて見ることが可能となるよう、販売名と同一面に記載すること。
  2. また、移行品目の外箱等に対して、一般用医薬品として表示されている事項に加え、移行品目の各区分毎に次に掲げる事項等のうち必要な事項の表示を行うものであること。ア.特定の状態にある使用者に対して、使用前(服用前)に医師又は薬剤師に相談すること。

    イ.使用(服用)に際しては、説明文書をよく読むこと。

    ウ.直射日光の当たらない(湿気の少ない)、涼しい所に(密栓して)保管すること。

    エ.用法用量を守り、他の製品との同時使用等による過剰摂取に注意すること。

    オ.使用(適応)部位に関する注意 等

医薬部外品としての区分 区分の範囲
1 健胃薬 胃のもたれ、食欲不振、食べ過ぎ、飲み過ぎ等の諸症状を改善することが目的とされているものであって、内用剤であるもの。
2 整腸薬 腸内の細菌叢を整え、腸運動を調節することが目的とされているものであって、内用剤であるもの。
3 消化薬 消化管内の食物等消化を促進することが目的とされているものであって、内用剤であるもの。
4 健胃薬、消化薬又は整腸薬のうちいずれか二以上に該当するもの 食欲不振、消化促進、整腸等の複数の胃腸症状を改善することが目的とされているものであって、内用剤であるもの。
5 寫下薬 腸内に滞留・膨潤することにより、便秘等を改善することが目的とされているものであって、内用剤であるもの。
6 ビタミンを含有する保健薬 ビタミン、アミノ酸その他身体の保持等に必要な栄養素の補給等が目的とされているものであって、内用剤であるもの。
7 カルシウムを主たる有効成分とする保健薬 カルシウムの補給等が目的とされているものであって、内用剤であるもの。
8 生薬を主たる有効成分とする保健薬 虚弱体質、肉体疲労、食欲不振、発育期の滋養強壮等が目的とされている生薬配合剤であって、内用剤であるもの。
9 鼻づまり改善薬(外用剤に限る) むね又はのど等に適用することにより、鼻づまりやくしゃみ等のかぜに伴う諸症状の緩和が目的とされているものであって、外用剤であるもの。
10 殺菌消毒薬 手指及び皮膚の表面又は創傷部に適用することにより、殺菌すること等が目的とされているもの。
11 しもやけ・あかぎれ用薬 手指、皮膚又は口唇に適用することにより、しもやけや口唇のひびわれ・ただれ等を改善することが目的とされているもの。
12 含嗽薬 口腔内又はのどの殺菌、消毒、洗浄等が目的とされているものであって、うがい用として用いるもの。
13 コンタクトレンズ装着薬 ソフトコンタクトレンズ又はハードコンタクトレンズの装着を容易にすることが目的とされているもの。
14 いびき防止薬 いびきの一時的な抑制・軽減を目的とされているものであって、点鼻的に適用するもの。
15 口腔咽喉薬 のどの炎症による痛み・はれの緩和等が目的とされているものであって、口中に含み徐々に溶かして使用する又は口腔内に噴霧・塗布するもの。
医薬部外品としての区分 品目数 具体的な製品の例
(1) 健胃薬 10 エビオス錠(アサヒフード)
センブリ錠(紀伊国屋漢薬局)
(2) 整腸薬 33 新ビオフェルミンS錠(ビオフェルミン製薬)
ヤクルトBL整腸薬(ヤクルト)
(3) 消化薬 3 新タカジア錠(三共)
新ビオヂアス(明治薬品)
(4) 健胃薬、消化薬又は整腸薬のうちいずれか二以上に該当するもの 16 強力わかもと(わかもと製薬)
ミネ消化整腸薬(常盤薬品)
(5) 寫下薬 7 リズムラン(備前化成)
ベストール(佐藤製薬)
(6) ビタミンを含有する保健薬 148 キューピーコーワゴールドA(興和)
ポポンS(塩野義)
(7) カルシウムを主たる有効成分とする保健薬 16 カタセ錠A小児用(全薬工業)
新カルエースA(ジェーピーエス)
(8) 生薬を主たる有効成分とする保健薬 7 高麗人参エキス(カネボウ)
強力オキソレヂン糖衣錠(理研化学)
(9) 鼻づまり改善薬(外用薬に限る) 10 ヴィックスヴェボラップ(大正製薬)
カコナールかぜパップ(救急薬品)
(10) 殺菌消毒剤 66 カットバン・AC(祐徳薬品)
キズタッチU(共立薬品)
(11) しもやけ・あかぎれ用薬 17 近江兄弟社メンタームメディカルリップ(近江兄弟社)
メンソレターム(ロート製薬)
(12) 含嗽薬 8 コルゲンコーワうがいくすり123(興和)
アルペンうがい(東洋ファルマー)
(13) コンタクトレンズ装着薬 2 マイティアハードレンズ装着液(千寿)
スマイルコンタクトファインフィット(日東メディック)
(14) いびき防止薬 2 アンスノール(エスエス製薬)
ホームチン(牛津製薬)
(15) 口腔咽喉薬 26 Gトローチ明治(明治製菓)
ベンザブロックのどスプレー(堺化学)
品目数              計 371

[3]規制緩和-これまでの経緯

これまで医薬品類は、薬事法による規制・指導対象として[1]医薬品、 [2]医薬部外品、[3]化粧品、[4]医療用具に分類されてきた。

この分類に対して、「医薬品のうち人体に対する作用が緩和で販売業者による情報提供の努力義務を課すまでもない」ものについて、スーパーやコンビニをはじめとする 一般販売店での販売を認めるとし、新たに「新指定医薬部外品」・「新範 囲医薬部外品」というカテゴリーを設けることになった。

医薬品については、薬事法により薬局、薬店でしか販売できないという規制がされていた。

◆1994年:医薬品の販売規制に対し、風邪薬などの自由な販売を求めて、チェーンストア業界から規制緩和の要望、第一期規制緩和推進計画で検討開始。

◆1997年(3月28日):「規制緩和推進計画の再改訂について」の閣議決定、医薬品のカテゴ リーの見直しが盛り込まれる。

◆1997年(9月22日):新カテゴリーへの移行検討対象として23薬効群選定。催眠鎮静剤、総合感冒剤、解熱鎮痛剤等が含まれる。医薬品販売規制緩和特別部会にて23薬効群の移行の可否を審議し、15薬効群を移行可能と決定。

◆1998年(3月12日):中央薬事審議会常任部会は、医薬品販売規制緩和特別部会の報告を受け、「現行の医薬品区分から医薬部外品類似カテゴリーへの移行可能な15製品群」を承認。 2004年(7月26日):整腸剤や殺菌消毒薬など371品目を一般小売店 で販売できる「医薬部外品」に移行、7月30日から販売できるようにすると発表。

[4]規制緩和の問題点

医薬品を規制緩和する際の最大の根拠は『安全性上特に問題がないもの』ということのようである。しかし、『安全性上特に問題がないもの』とい うのは、一体誰が、どのような根拠に基づいて、保証するというのか、よく解らない所がある。現在、既に医薬部外品として販売されている製品も、全くなんの問題もなく、使用可能かといえば、ヒトによっては過敏症等の副作用が出ないとは限らない。医薬品であれ医薬部外品であれ、本来人体にとっては異物である。ヒトの機能は異物として認識したとき、防御するための反応を示す。普段の使用で何事も見られなかったとしても、その時の体調や環境変化によっては、思わぬ結果を招くこともあるのである。

規制緩和のもう一つの根拠は、医薬品のうち人体に対する作用が緩和で『販売業者による情報提供の努力義務を課すまでもない』ものとされている。しかし、消費者の立場からすれば、個別商品の情報提供は、単なる努力義務ではなく、確実に実施してもらわなければ困る重要なものである。消費者が必ずしも全ての商品の利用に精通しているわけでなく、配合されている成分についても、耳慣れない成分の表記がされている場合、 遠くにいる製造業者よりは近くにいる販売業者に質問するのは当然のことであり、店員が情報提供できないような製品を取扱うのは、甚だ無責任だといわなければならない。

薬剤師がこのような意見を述べると、直ちにやれ既得権の擁護だ、OTC薬 の説明は薬剤師もしていないではないかという声が聞こえてくるが、単に既得権の擁護で声を出しているわけではない。過去の薬害の歴史に鑑みて、油断をしてもらっては困るということで申し上げているのである。しかし、過去の薬学教育の中で、OTC薬に関する講座を持っていた薬科大学はないはずであり、その意味では、OTC薬をないがしろにしていたといわれれば、それはおっしゃる通りであり、OTC薬に関する情報管理を確立してこなかったということは、素直に反省しなければならない。

(2004.8.19.)

いい加減すぎる健康娯楽番組

火曜日, 8月 14th, 2007

魍魎亭主人

2004年8月24日(火曜日)午後8:00にテレビ朝日で放送された『最終報告!本当は怖い家庭の医学・危険な薬の飲み方スペシャル!!』「▽親の解熱剤を子供に半分与える………▽親の解熱剤を子供に半分与える………▽微熱ですぐに風邪薬をのむ▽薬をのんだ後に謎の発しんが………▽古い置き薬の効果は」について、その一部に疑念があるので一言申し上げておきたい。 ビートたけしが院長、渡辺真理が案内役を務めている番組で、いみじくも“メディカル・ホラー・エンターティメント番組”と名付けられており、その意味では、当初から放送内容の真実性は保証しないと表明しているのかも知れない。しかし、24日に放送された内容の一部については、見ていた人に誤解を与える部分があったということである。当日の放送内容うち問題ありと考える部分の要約をテレビ朝日のホームページからそのまま引用する。

  『本当は怖い薬の飲み方(3)?薬と食べ物の飲み合わせ?』

S・Iさん(男性)/52歳(当時) 会社員 ガーデニングの最中に心筋梗塞で倒れたものの、一命を取り留めたS・Iさん。 病気の原因は心臓に血栓を作ってしまう濃縮型血液にありました。再発を防ぐため、血液をサラサラにする薬『ワルファリンカリウム剤』を処方された彼は、言われた通りに薬を欠かさず飲んでいました。

妻も、夫の健康を気づかい和食中心の食生活に、さらに健康な血液になると言われるものはすべて試し、S・Iさんの再検査の結果は良好でした。そんなある日、グレープフルーツが心臓の病気を予防するという記事を見つけた妻は、早速グレープフルーツを搾り飲ませるようになりますが、2週間後、S・Iさんの身体に異変が起こり始めました。

  1. 歯茎から出血
  2. 血豆が指先にできる

脳内出血(S・Iさんは死亡)

なぜ、『ワルファリンカリウム剤』を飲んで脳内出血に?

「脳内出血」とは、脳の動脈が何らかの原因で破裂、そこから大量の血液が脳内に流出し、最悪の場合死に至る病です。S・I さんが脳内出血を起こしてしまった原因は、妻がよかれと思って彼に飲ませていたあの搾ったグレープフルーツにありました。しかし健康に良いはずのグレープフルーツがなぜ?

実はS・Iさんがワルファリンカリウム剤を飲んでいた事に恐ろしい落とし穴があったのです。通常、薬の成分は、小腸で吸収され肝臓へ送られたあと、薬の一部が分解され、血液を伝って全身へと送りこまれていきます。

そして、役目を果たした薬は、再び肝臓に戻り、無毒化、つまり解毒が行われ、尿などと共に体の外に排泄されるのです。

S・Iさんの場合、ワルファリンカリウム剤は、吸収されてから徐々に効き始め、24時間で本来の効力を発揮、ほぼまる一日一定の効き目を保ち、血液を健康にしていました。

そして肝臓の働きによって、効き目が徐々に薄らぎ、服用から72時間ほどで効力は失われていました。1日1回、24時間ごとの服用は、それらのサイクルを計算し導き出されたものなのです。

しかし、S・Iさんは、その微妙なバランスをグレープフルーツによって崩してしまったのです。実はグレープフルーツの薄皮の部分には、「ナリジン」という特有の成分が含まれており、肝臓が薬を無毒化する働きを妨げてしまいます。それもS・Iさんの場合、大量に摂り続けてしまいました。

その結果、S・Iさんの肝臓は解毒作用が弱まってしまったのです。そうとも知らずワルファリンカリウムを服用し続けた体内には、どんどん薬が蓄積されていきました。つまり、大量に服用しているのと同じ結果になってしまったのです。

ワルファリンカリウム剤の効き目が、強くなっていったS・Iさんの血液は、極端に血液がサラサラの状態になり、粘着力ゼロの状態。あの歯茎からの出血も、歯ブラシによる小さな傷から粘着性を失った血液が漏れでたのが原因。

指先に出来た血豆も、粘着性を失った血液が指先など末端部分に洪水のように流れ込み、毛細血管の壁を破ったのが原因でした。そしてトイレで力んだ瞬間、もともと動脈硬化で傷んでいた脳の血管に亀裂が。止まることなく頭の中に流れ続けた血液は、周囲の細胞や神経を圧迫し、その機能を破壊。S・Iさんの呼吸は停止したのです。現在、ワルファリンカリウム剤を飲んでいる人は、国内でおよそ200万人。

日本人の60人に一人が服用しているのです。

多分、ここでおっしゃっているのは『warfarin potassium』と『grapefruit juice』との相互作用についてであろう。

薬を使用する際の基本的情報源として添付文書がある。『warfarin potassium』にも添付文書があるが、そこに書かれている食物と薬の相互作用は『アルコール、納豆、クロレラ食品、西洋弟切草(St.John’s Wort.)含有食品』で、grapefruit juiceに関する記載は何らされていない。薬の添付文書の記載は、その薬に関する事実を記載することになっており、放送でいわれるほど、重篤な結果を招く相互作用が報告されたとすれば、当然、添付文書に反映されているはずである。

warfarin potassiumと納豆・クロレラ食品との相互作用は、vitamin K含有量の多い食品ということで記載されているのであって、他に面倒な理由はない。なお、グレープフルーツ中のvitamin K含有量は、ほぼ0である。

さて、grapefruit juiceと薬の相互作用では、薬物の代謝酵素の一つであるCYP3A4がgrapefruit juiceにより阻害され、幾つかの薬物の体外排出を遅らせ、影響を及ぼすことがあるということになっている。当初はグレープフルーツの薄皮部分に多いとされる苦味配糖体naringin(フラボノイド)が肝臓のCYP3A4による薬物の代謝を阻害すると考えられていたが、naringinの純品による試験の結果、何ら影響が見られなかったということで、現在ではnaringinによる相互作用の発現は否定されている。

また、経口で相互作用の発現する薬物を静脈注射した場合、grapefruit juiceと何ら相互作用が見られないことから、肝臓に存在するCYP3A4の影響ではなく、大腸に存在するCYP3A4の影響ではないかということになっている。更にgrapefruit juice中に存在する物質でCYP3A4を阻害するのはフラノクマリン化合物ではないかとされている。

ところで『warfarin potassium』を代謝する酵素は、主にCYP2C9であるとされており、少なくともgrapefruit juiceは、CYP2C9に影響するとする報告はされていない。

grapefruit juiceと薬物の相互作用は、今までにも種々報告されているが、現在のところwarfarin potassiumについては、何ら報告されていない。従って、テレビの取り上げ方はある意味で意味不明な話しということになるが、何処で薬が入れ違ったのかはよく解らない。

ただ、例として挙げられた事例の場合、grapefruit juiceの摂取量は無闇に多かったのではないかと思われる。過食あるいは過飲は、何においても避けるべきである。各テレビ局も手を変え品を変え、健康娯楽番組を流している。

少しでも他局と異なる内容を出そうとすれば、過激な内容にならざるをえないのかも知れないが、扱っている内容が人の命に関わるものであることを忘れてもらっては困るということである。

(2004.8.27.)


  1. テレビ番組案内:読売新聞,第46131号,2004.8.24.
  2. ttp://asahi.co.jp/hospital/,2004.8.25.
  3. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2004
  4. 香川芳子・監修:五訂食品成分表;女子栄養大学出版部,2003
  5. 山口 徹・総編集:今日の治療指針;医学書院,2004
  6. 岡野善郎・他:スキルアップのための漢方薬の服薬指導;南山堂,2001

医原性疾患に速やかな対応を

火曜日, 8月 14th, 2007

医薬品情報21

古泉秀夫

1996年当時、血液製剤である『フィブリノゲン(乾燥人フィブリノゲン)』の承認適応症は『低フィブリノゲン血症の治療』であり、その他の適応での使用は認められていない。更に、フィブリノゲンの作用として『低フィブリノゲン血症に対する補充療法薬で、血漿中のフィブリノゲン濃度を高めることにより重篤な出血を阻止する。その作用機序はフィブリノゲンが蛋白分解酵素トロンビンに対する基質として働き、トロンビンの作用を受けてフィブリノペプタイドを遊離し、フィブリンに変わる』とする報告がされている。

『乾燥人フィブリノゲン』製剤が、『低フィブリノゲン血症』の患者にのみ使用されていたのであれば、患者自身が『低フィブリノゲン血症』の治療を受けていたということを承知しており、また、患者が受診していた医療機関に診療録(カルテ)が保存されているため、『乾燥人フィブリノゲン』に由来する感染症が起きたとしても、患者を見つけ出すことは比較的容易なはずである。

しかし、問題なのは、『血漿中のフィブリノゲン濃度を高めることにより重篤な出血を阻止する』という、本剤の作用機序を利用して、一部の施設で、本剤を『止血剤』として使用していた。つまり『承認適応外』の使用がされていたという点である。『適応外使用』の場合、医師が前もって説明でもしていなければ、使用された患者の側は全く知らないということになるわけである。

そこで厚生労働省は、血液製剤の納入されている医療機関名を公表し、止血剤を使用するような治療を受けた記憶のある者は、当該医療機関で感染の有無を検査してもらうことにした。今回、その判断に基づいて、医療機関名を公表しようとしたところ、医療機関の一部から異論が述べられたということである。その経過は次の記事の通りである。

『C型肝炎の感染が問題となっている血液製剤「フィブリノゲン」の納入先とされる全国469か所の医療機関名について、13日に開示を予定していた厚生労働省は同日「医療機関側から不服申し立てがあった」として、開示時期が今年11月から12月にずれ込む見込みとなったことを明らかにした。薬害被害者らからは「国の対応は遅すぎる」と批判の声が相次いだ。

この問題については、元大阪HIV訴訟原告団代表で前衆議院議員の家西悟さん(44)が情報公開法に基づき「厚労省が把握している納入先」について文書開示するよう請求。内閣府の情報公開審査会が2月、開示するよう答申していた。しかし、469か所の医療機関のうち、27の医療機関が「納入されていない」「風評被害につながる」などとして不服を申し立てたため、情報公開審査会で再審査されることになった。不服申し立てがあると文書全体が公開できず、この日開示された医療機関は一つもなかった』。

『風評被害につながる』等という異論を述べている医療機関には、いい加減にしたらと申し上げたい。原則的にいえば、安易に適応外使用を選択したことに問題があるのであって、それが原因で感染症に罹患した患者側からすれば、医療という名の暴力による傷害を受けたのと同じである。勿論、医師の側も、解っていてやったわけではない。しかし、悪気がなかったから免罪符が得られるという性質のものではない。

感染者の中には、自分で全く気付かずに病状が進行している患者もいるはずである。いま医療機関ができることは、直ちに情報を公開して、該当する者に検査を受けてもらい、もし感染していたとすれば、早急に治療に取り組むことである。手遅れにならないうちに治療を開始すれば、少なくとも感染症の進行を遅らせることはできるはずである。更に『納入されていない』と称している医療機関もあるが、その当時、血液製剤の取扱いは、現在ほどに厳しくはなかった。従って、正規に購入はしていなくとも、適応拡大のための予備治験と称して、プロパーが持ち込んだものを使用した可能性がないわけではない。その意味で、疑わしきは公表し、身に覚えがあるという者には直ちに検査を実施、感染の有無を確認すべきである。

感染していることを知らずに、治療をすることもなく過ごすことは、患者にとって致命的な結果を招く可能性もある。明らかな医原性疾患を隠蔽するために、公表に反対することだけは止めるべきではないか。

(2004.7.29.)


  1. 織田敏次・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,1996 2)読売新聞,第46029号,2004.5.14.

いすかの嘴

火曜日, 8月 14th, 2007

米国はイラクに攻め込む理由として、フセイン政権によるサリン、VXガスなどの化学兵器、生物兵器の保有、更には核兵器開発疑惑等をあげていた。しかし、イラク侵攻後、探せども探せども何も出ず、挙げ句の果てにフセインの身柄拘束もできない。しかも戦闘は終結せず、泥沼状態に陥っていた。何とかしなければ、何とかしなければの焦りが、捕虜の拷問や虐待に繋がったということではないのか。

ところで2004年5月18日付の読売新聞(第46033号)は、『イラク駐留米軍のキミット准将は17日、イラク国内で発見された砲弾一発から、神経ガス・サリンが微量、検出されたと発表した。旧フセイン政権崩壊後、米国がイラク戦争の根拠とした大量破壊兵器関連物質が実際に発見されたのは初めて』とする記事が報道された。

しかし、サリンは極めて少量で、曝露した爆発物処理担当者二名への健康への影響はないとされている。直径155ミリの砲弾内部は二つの部分で構成され、サリンを作り出す二つの化学物質がそれぞれに入っている旧式の「二種混合型」。准将は、旧政権時代から貯蔵されていたと考えられる兵器としているが、同政権が意図的に保有していたものなのか、同政権が1991年の湾岸戦争以前に保有していたサリン砲弾を、その後何者かが入手し、蓄えていたのかなどの詳細については明らかにしなかった。

米軍車列が通過した、イラク国内の道路脇で発見した手製爆弾の袋の中にあったという。イラクの大量破壊兵器探しを担う、米調査団が中の成分を調べ、17 日にサリンの存在を確認。砲弾は発見後、処理前に爆発、爆発処理担当者がサリンに曝露されたという。 もしガス弾として使用可能なものであれば、処理前に爆発した爆弾のガスに曝露した二人に、何も健康上の問題はないなどということはないはずである。それどころか近隣に居た他の人達にも影響があり、それこそ大騒ぎになっていたはずである。

幸いにというべきか、今回の砲弾は、何処かから拾ってきたほぼ空砲に近い砲弾で、鬼の首を取ったよう騒ぐほどの話しではなかったのかもしれない。いずれにしろ米国は最初の段階で大きな読み違いをしたということだろう。大アメリカが攻め込めば、イラクごときは木っ端のごとく吹き飛び、虐げられた民は諸手を挙げて解放軍、自由の戦士、救世主として迎えてくれると考えていたのだろう。

しかし、当初目標の大量破壊兵器は見つからず、フセインは拘束したものの、戦闘終結を宣言した後の方が、戦闘は激化している。完全にイラク人の国民感情からかけ離れたところで米国流の正義を果たしている。この戦闘の最終的な結末をどうする気なのか知らないが、サッサとイラク人に主権をわたし、引き上げる以外解決の方法はないのではないか。最初の出発点で、米国は大きく情報を読み間違った。一度曲がってしまった嘴は、最早正常には戻らない。

(2004.5.20.)

医療事故防止-医療労働組合の提言に何処まで応えられるかのか

火曜日, 8月 14th, 2007

医薬品情報 21

古泉 秀夫

国立病院・療養所に勤務する職員の多くが、加盟している全日本国立医療労働組合が、それぞれ勤務する医療機関の病院長に対して、『医療事故防止のための申し入れ書』を提出する運動を始めた。

国立病院・療養所の統廃合・移譲反対闘争を展開する中で、厳しい対決関係にある厚生省は、御多分に漏れず、労働組合の力を削ぐため、中間職制の研修会などを実施しつつ対決姿勢を強化している。

しかし、本来、医療機関内の労働組合は、専門職能の集団ということで、院内で行われる医療の質に対する監視機関としての役割を果たしているのである。医療機関における労働組合の役員のありようは、単に労働運動に精通しているというだけではなく、専門職能として、業務上も一流の匠でなければ、組合員の信頼を得られない。技術的に優れた専門集団が、先導する労働組合の存在は、施設内にいい意味での緊張感を生み出し、特に管理者の緊張感が持続することが、施設運営に好影響を与えるのである。

つまり労働組合から指摘される前に、問題点を改善しようとする目配りが十分にされることにより、患者サービスの向上にも貢献する。

医療事故の問題は、労働組合にとって扱いにくい課題の一つである。何故なら労働組合加入者の一人一人が、加害者になる危険を常にもっいるからであり、事故防止のために参加する検討会等では、事故の再発を防止する意味からも、仲間内の事故原因解明に積極的に参加せざるを得ないからである。

今回、全医労が提出した事故防止のための申入書は、次の通りである。

事故防止のための申入れ書

『国立病院・療養所内においても、痛ましい医療事故が相次いでいます。しかし「病院における人手不足があらゆる面で医療事故の陰に潜んでいる」(国立循環器病センター川島名誉総長)、「夜を日に継ぐ多忙な現場の人手不足は、安全基準のマニュアル化や安全意識の高揚だけでは事故の再発を防止できない限界まできている」(東北大学濃沼教授)と言われているように、多忙な医療現場においては、人間の注意力を喚起するだけでは限界があります。

とりわけ国立医療機関は、他の公的医療機関と比較しても、大きな看護力を要する患者さんが多く、その一方で医師・看護婦(士)をはじめとする職員の配置は少なく、夜勤体制も大半が2人夜勤となっています。そのような状況のなかで「複数での対応」や「ダブルチェック」などを指示しても、それだけの人員配置がなければ事故防止策としては機能しません。したがって増員によって、看護体制を強化するなど抜本対策を講ずるべきです。

同時に連続する医療事故の背景には、医療のチームワークをくずす「上位下達」の労務管理政策があります。いくら看護職員が、施設当局に増員を要求しても「増員は権限外事項」とはねつけ、経営効率のみを追求する。こうした施設運営にも大きな問題があります。

病院内で自由にものが言い合える雰囲気作りこそが、事故を防ぎ、医療の質を高めていきます。施設当局は医療事故防止のためにも、職員の意見や要望に、真摯に耳を傾けるべきです。

以上の立場から、貴職に対し医療事故防止のため、つぎの事項を申し入れ、その実現を要求します。』

1.患者の権利を守り、インフォームド・コンセントを徹底すること。

2.医師・看護婦(士)をはじめとする医療従事者の増員を行うとともに、夜間看護体制を最低でも3人以上とし、ダブルチェックをはじめ患者の安全確保に必要なチェック体制を確立すること。

3.看護職員に過度の緊張と疲労をもたらす長時間夜勤・二交替制勤務は導入せず、実施職場ではすみやかに中止すること。

二交替制を継続している間は、国立病院部政策医療課長通知「国立病院・療養所における看護婦等の二交替制勤務の実施について」(政医第332 号 平成8年10月17日)にもとづき、「夜勤回数は月間4回以内」や「週休日の連続取得」、休憩・休息時間の完全取得など「職員の健康管理」と「環境整備」を徹底すること。

4.超過勤務の縮減はもとよりサービス残業をなくし、働きやすい職場としていくこと。

5.増員により、各病院にリスクマネージャーを専任者で配置すること。

6.医療機器の保守・メンテナンスに必要な予算を充分保障するとともに、耐用年数を超えた機器は必ず更新すること。また専任の臨床工学技士を配置すること。

7.施設内に設置する「医療事故防止対策委員会」には、労働組合代表を加えるとともに、法律家、専門家など第三者も構成員とすること。

8.医療事故に対しては、個人責任の追及ではなく、組織(施設)全体の問題として対応すること。

9.「ヒヤリ・ハット体験報告書」(インシデント・レポート)は、自発的報告をはじめ事例を数多く集めるため、簡素化するとともに、無記名とすること。

「報告書」は「事故再発防止」のためであり、「個人の責任追及ではない」こと、「勤務評定の対象外」であることを徹底すること。「報告」の集積、分析、対策などの情報は公開すること。

10.複雑・高度化する医療に対応するための研修を、全職員が受けられるようにすること。

以  上

新聞報道によれば、厚生省は医療事故多発問題と人員問題は絡めないと発言しているようである。しかし、10年前の医療内容と現在の医療内容を比較検討した場合、明らかに現在の医療内容の方が、中身が濃くなっているはずである。にもかかわらず病院における人員の配置はむしろ減少傾向を見せており、看護婦等の職員の増員も『焼け石に水』程度のものである。

更に厚生省は、増員なしでの夜勤回数減を諮ろうと、二交代制などという非近代的な勤務体系を導入しようとさえしている。医療の高度化は24時間の治療・看護を要求される。夜間、患者は眠っていると考える厚生省の考え方は誤りである。下手をすると日勤と同様の濃密な看護を要求される患者さえいるのである。

『衣食足りて礼節を知る』は、医療の世界にも当てはまる。駆け足の日常勤務の中で、精神主義だけで医療過誤を防ぐことは不可能である。

医療の高度化と共に、利用される医療機器もその構造が複雑化し、操作に専門的な技術が必要になることはやむを得ない仕儀である。にもかかわらず医師と看護婦がいればそれらの機器も操作できると考えているところに問題がある。

医療の世界で医師が万能で有り得た時代は終わったことを明確に自覚すべきである。専門分化に対応すべく、臨床工学技士の増員を諮ると共に、業務の委任を行うべきである。

各職場にリスクマネージャーを配置するという発想は褒められるべきことではあるが、他の職務と併任であるとする発想は、決して褒められるべきものではない。真に医療事故の防止を考えているのであれば、他の職務と併任では、日常業務に追われてリスクマネージャー業務にまで手を伸ばすことは不可能である。

ましてリスクマネージャー業務を行うのであれば、今までに経験したことのない業務であり、十分な研修が必要である。最もこれから研修を行うのでは、『盗人を捕らえて縄を綯う』のと同じことであるが、例え次善の策であれ実施することが必要である。

甚だ不思議なことに、『incident report(事故寸前報告)』が既に『始末書』に名前を変えている施設もあり、廊下で転んでいる患者を助け起こし、入院病棟に送り届けたところ、見たのは貴方だから始末書を書けといわれた看護婦もいると聞く。

足下の不自由な患者を、肩を貸す看護婦もなしに病棟外に出した病棟婦長の判断こそ問われるべきで、このようなことが続くようであれば、廊下で倒れている患者の手助けをする病院職員がいなくなることになる。『事故寸前報告』の提出が、病院職員の心の荒廃を招くようでは本末転倒も甚だしい。

日本人の悪い癖で、その時代の高揚した話題に無批判に引きずられる傾向が見られるが、危機管理、危機管理が単なるお題目終わらないためにも、徹底した情報公開が必要であり、「医療事故防止対策委員会」に組合代表を入れることも一つの方法である。むしろ「医療事故防止対策委員会」に、彼らの要求通り、労働組合代表の参加を認めるか否かは、情報公開が口先だけで終わるのか実行されるのかを占うための、あるいは踏み絵であるといえるかもしれない。

[2000.11.10.]

生き様としての個性

火曜日, 8月 14th, 2007

鬼城竜生

弊衣破帽まで遡る気はないが、人より目立つ格好をするということは、それなりに強固な精神力が求められるということである。しかし、最近のルーズソックスや顔グロ、山姥などという流行物を見ていると、どうやらみんなで渉れば怖くない方式の、流れに身を委ねる浮遊物の様な生き方が見えてくる。

つまり一見個性的に見える格好をしていながら、個性喪失の時代だということが出来るかもしれない。

生き様として、強烈な個性が失われるということは、仕事の上でも強烈な個性が失われ、団栗の背比べ、没個性化した集団が出来上がってしまうのではないか。

元々、薬剤師の仕事はmg単位の仕事であり、桁数の大きな数字には馴染まない性格をしている。更に薬剤師が行う仕事は地味なものであり、調剤ミスでもない限り、派手に目立つことなどはあり得ない。しかし、性格的に地味でることと、没個性化して、仕事をないがしろにすることとは別の話である。

もし、組織的な崩壊があるとすれば、それは何故なのか。まず徹底的な分析が必要である。ただ嘆いているだけでは、組織の建て直しなどできるものではない。それぞれの構成員が、現状を打破するための率直な論議を行うことが必要である。その際にも、お為ごかしな上っ面な論議をしていたのでは、問題解決の糸口を見つけることは困難である。

まず一人一人が、自らの業務内容の分析を行い、その業務が、組織内においてどの様な役割を果たしているのかの認識を、明確にすることが必要なのである。組織が大きくなればなるほど、そこに属する個人が分担する業務は、細分化され、一見平凡な仕事に見えてきたとしても、その歯車の一つがきしんでいたとすれば、組織としての業務全体に歪みか生ずる。

歯車のきしんだ時計は、正確な時を刻まず、時計としての役割は果たさない。病院の薬剤部も、組織である以上、同様な結果を招くことは当然である。

長は明確にリーダとしての役割を果たし、副官は長を補佐すると同時に長と部下との緩衝剤としての役割を果たす。主任はそれぞれ預けられた室の業務に責任を持ち、預けられた部下の育成に専念する。各人が自らの仕事に専念することが、組織の正常化をもたらし、活性化をもたらす。

これらの作業を行う上での基本理念は、「患者への良い医療の提供」であり、医療を担う専門職能であることの自負でなければならない。

[2000.10.6]

いわれたくない話

火曜日, 8月 14th, 2007

魍魎亭主人

いささか古い話になるが、「育児をしない男を、父とは呼ばない。」という旧厚生省が作った育児キャンペーンの惹句ある。モデルになったのが安室奈美恵の亭主SAMとその息子ということで、マスコミにも取り上げられたが、正直に申しあげれば、この台詞、厚生省にだけは言われたくない台詞である。

少子化社会を迎え、女性も貴重な労働力。更に最近の餓鬼共は少し可笑しくはないかということで、父親も家庭生活に係わり、子供の躾に口を出せ。

父親が家庭に居る時間が少ないのは怪しからんということのようである。この意見、厚生省の省内事情を知らなければ、国を憂えて、知恵を絞ったポスターであると評価することが出来るが、省内事情を知っている立場としては、何のこっちゃとということになる。

国立病院に勤務する職員、特に医師以外の職員は、否応なしの転勤が宿命付けられている。しかもその転勤たるや個人の生活は全く無視、ただただ機械的に動かすというもので、例えば同一施設に5年以上勤務する職員は、転勤させる等という甚だ乱暴なものである。それでも昔はとりあえず意向打診があり、子供が小さいの、女房の勤務の関係で単身赴任になるの、年老いた親の面倒を見ているのと、何等かの理由があれば、転勤が除外されたが、最近の話を聞いていると、転勤出来ないなら退職していただく等という恫喝的な話がされているようである。

事務部門の長である事務部長などは、2年毎に施設を転々とし、本来その施設の医療に対する地域住民の要望や地域医療の中で何を期待されているかの意向を探る等という、地域密着型の医療機関としてのモニターの役割を果たすことができないのが実状である。

薬剤師も同じことで、薬剤部科長は2?3年で異動するため、地域の病院薬剤師会ひいては薬剤師活動に何ら貢献することもなく、薬剤師会の方も何か仕事を依頼しても継続性がないからということで、依頼のしようがないというのが実体であり、全く社会性のない生活を送るということになる。

しかも彼らの殆どは単身赴任であり、そのことが理由で体をこわす人間も出てくるということで、家庭における親の存在を示すなどということが出来ない仕組みになっている。

本来、技術職の転勤などというものは、新しい施設に新しい技術を移入する、そのために最新の技術を持つ人間を派遣する。あるいは最先端の技術を持つ施設に転勤させ、技術を取得した段階で元の施設に戻すというのがあるべき姿ではないか。

また、国の病院に勤務する技術屋には、常に最先端の技術の取得を義務づけ、それを広く地域に広げていく等の仕組みを作り、地域全体の技術の向上を図ることが、国民の奉仕者としての公務員の果たすべき役割ではないかと思うが、現状では、国民の税金で、単なるサラリーマンを養成しているといわれても仕方がないというのが実体である。

[2000.7.8.]

医療事故とはいわない

火曜日, 8月 14th, 2007

医薬品情報21

代表 古泉秀夫

東京慈恵会医科大附属青戸病院(東京都葛飾区)で、前立腺癌の摘出手術を受けた男性患者が、手術の1カ月後に死亡していたことが24日、明らかになった。警視庁捜査一課と亀有署は、この手術で医療ミスがあったとして、手術を担当した同病院泌尿器科の男性医師(37)ら医師6人を業務上過失致死容疑で立件する方針を固めた。医療ミスをめぐり、6人もの医師が業務上過失致死容疑で立件されるのは極めて異例だ[読売新聞,第45798号,2003.9.25]。

この後、次々と関連する報道がされたが、一連の報道で見る限り、この事件を“医療事故“の範疇に入れるのは、いささか問題があるとするのが率直な意見である。つまり医療事故以前の技術未熟、医師としての人間を見る眼の未熟ということである。

はっきり申しあげて、この事件は医療に名を借りた明らかな殺人である。高度先進医療である「腹腔鏡下手術」について、全くといっていいほど経験のない医師が、操作説明書を見ながら高度な技術を要する手術を実施したのである。人間はプラモデルではない。プラモデルを組み立てるように、図面を見ながら生身の人間の手術をするなどというのは言語道断である。

しかも上司である診療部長(助教授)も、相談を受けながら止めることが出来ず、院内倫理委員会に提示する指示もしていないということである。

また、新聞報道によれば、手術中に何回も手術法を変更する機会がありながら、開腹手術に変更するのが遅れ、あまつさえ用意した輸血までが不足する事態を招いている。この様な状況を見ると、病院全体が異常な状況-世間の常識の通用しない思い上がりが常態として存在していたのではないか。

自分たちは何でも出来るという思い上がりで、手術に手を出したとすれば、選ばれた患者はたまったものではない。

大学あるいは病院内での席取り争い、少しでも他人を引き離すためには、学内での優位性を示さなければならない。そのため最も手っ取り早いのが、難易度が高いとされる「腹腔鏡下手術」の実施だったのだろう。しかも今回の事例で恐ろしいのは、『院内倫理委員会』の許可を得ていないにもかかわらず、手術室が使用できたということである。

院内での手術室の運用について、これは手術室を管理している部署(手術室運営委員会等)が機能していないということであり、手術室でどの様な手術が行われているのか、当事者以外は承知していないということである。

今回の事例でも、倫理委員会の承諾書を手術室に提出をしなければ手術室の使用が出来ないような仕組みが作られていれば、この様な馬鹿げた手術は出来なかったはずである。また、手術室の看護師達も、それを理由にして「腹腔鏡下手術」の回避を求めることが出来たはずである。

いずれにしろ相互監視の仕組みを作ることが、医師の暴走を止める最大の手立てである。

[2003.10.15.]

アガリスク、プロポリス………抗癌効果、安全性?

火曜日, 8月 14th, 2007

魍魎亭主人

「がんが消えた」などと虚偽の体験談を載せた本を使い、キノコの一種、アガリクスの健康食品を販売した出版社と健康食品会社が薬事法違反容疑で摘発された。健康食品の市場は急成長している一方、肝心のがんなどへの効果ははっきりしないのが実態だ。だが、わらをもつかむ患者の心理につけ込む虚偽・誇大広告は後を絶たず、商品による健康被害の報告もある

[読売新聞,第46552号,10.20.2005]。

更に健康食品の売り上げは年々伸び、国内で年間1兆円を超えるとされる。多くのがん患者も使っており、厚生労働省研究班が 2002年度に患者約3000人に実施した全国調査では、4割強が健康食品を使用していた。今回問題になったアガリスクが61%と最も多く、次いでプロポリスの29%であった。

医師から「もう治療法がない」、「治らない」いわれ、最後の希望としてすがる患者も少なくない。患者は健康食品などの民間療法に月平均57,000円使っていた。こうした健康食品は「抗がんサプリメント」とも呼ばれるが、効果はあやふやだ。安全性や有効性の資料は、試験管内や動物実験が殆ど。実際に効果があるかどうかを調べるには、ヒトでの臨床試験が必要であるが、健康食品に関する臨床試験資料は極めて少ない。

健康食品による健康被害も起きている。国民生活センターによると、健康食品での「危害情報」は、中国製のダイエット食品での死亡例が相次いだ2000年度に1,200件と前年の3倍に達して以降、昨年度も622件と3年連続でトップだった。 昨年秋の日本肝臓学会では、中国製ダイエット食品を除く健康食品について、長期使用などにより黄疸や発熱等の肝障害を起こした例が89例が報告された。原因となったのはウコン(25%)、アガリクス(8%)の順。アガリクス服用者は全員がん治療中だった等の報告が見られる。

以上が新聞報道の内容であるが、ここで不思議に思うのは、これまで新聞各社は、アガリクスやプロポリスのバイブル本の広告は、一切掲載した経験はないとでもいうのであろうか。先日のTV報道では、『いわゆる健康食品』購入の動機は、バイブル本の新聞広告を見てという回答が最も多かったとされていたが、今頃になって効果がない等という報道をするというのは、バイブル本の広告を新聞に掲載して、効果のない『いわゆる健康食品』の効能を間接的に保証した格好になっていることへの懺悔の気持とでもいうのであろうか。

共同通信の2005年8月2日付の配信では

『「健康食品でがんが治る」などとうたう「バイブル本」には、虚偽誇大広告を禁じた健康増進法に抵触するものがあるとして、厚生労働省は1日までに、日本書籍出版協会、日本新聞協会、日本雑誌協会など7団体に慎重な取り扱いを求める異例の通知を出した。 5月に東京都内の出版社に初めて改善指導をしたが、その後も「バイブル本」が多く出回っていることから、宣伝や販売の過程で関連する主要な団体への大規模な通知に踏み切った。厚労省食品安全部長名の通知は「特定の食品や成分を摂取することで重篤疾病が自己治癒できるかのような情報は科学的根拠に乏しい」として虚偽誇大広告に当たると指摘。こうした内容を盛り込み、健康食品販売業者の連絡先を記載した「バイブル本」も、書籍の形を取った販売促進のための誇大広告としている。 書籍の巻末などに業者名を印刷せずしおりにして挟んだり、連絡先を架空の「研究所」名にしたりしているケースも該当するという。厚労省によると、新聞や雑誌などの媒体に書籍広告として掲載し、その媒体の「ブランド」を利用して消費者を信用させているが、広告掲載料を出版社ではなく健康食品業者が負担しているケースも確認された。』

としている。 厚生労働省が、日本新聞協会にも慎重な取扱とする通知を出したということは、日常的にバイブル本の広告が新聞に掲載されていたということの証明だろう。社会正義を標榜する新聞が、新聞社の信用性に依拠して商売をしようとするインチキ商売に手を貸しておきながら、恬然としているのはいかがなものか。

更に新聞の折り込みで入ってくるチラシの中にも、パーキンソン症候群、糖尿病・自律神経失調症、気管支喘息、坐骨神経痛・膝痛、子宮筋腫(粘膜下筋腫)等について、体験談もどきを掲載し、“頑固な慢性病でお悩みの方へ”なるものが印刷されたチラシが入れられているが、明らかに健康増進法に抵触する”いわゆる健康食品”の広告を、新聞社が配布に協力しているという図式は問題ではないか。

もしチラシの問題は新聞社の問題ではなく、販社の問題であるとおっしゃるのであるとすれば、新聞社には社会正義を振りかざすのを止めてもらはなければならない。

一般の読者には、全てまとめて新聞社なのである。更にいわせていただければ、新聞を購読する契約はしているが、チラシを受け取る契約はした覚えがない。にもかかわらず大量のチラシが入ってくるのはどういう仕組みによるものなのか。

(2005.12.29.)

当たり前といえば、当たり前のことで 

火曜日, 8月 14th, 2007

鬼城竜生

埼玉県川越市にある埼玉医大総合医療センターで、2000年10月に、高校2年生の女子(当時16歳)が、抗癌剤を過剰投与されて死亡した医療ミス事件で、業務上過失致死罪に問われた元同センター耳鼻咽喉科科長兼教授・川端五十鈴被告(70)に対し、最高裁第1小法廷(甲斐中辰夫裁判長)は、上告を棄却する決定をしたという [読売新聞,第46581号,2005.11.18.]。

決定は15日付で、禁固1年、執行猶予3年とした2審・東京高裁判決が確定した。

甲斐中裁判長は『被告は科長として、医師経験が4年余りしかない主治医に対し、投与計画が妥当かどうかをチェックし、副作用の発生を報告させる義務があったのに、怠った過失がある』との判断を示したようである。

医療チームに加わらず、管理者として治療方針を承認する立場にいた医師について、最高裁が刑事責任を認めたのは初めてとされる。

2審判決では、滑膜肉腫と診断された女子について、川端被告が主治医への必要な指導などを怠った結果、主治医は投与量が週1回と定められた抗癌剤を7日連続で投与し、多臓器不全で死亡させた。

1審では、「主治医より責任が格段に軽い」として罰金刑を言い渡したが、2審では禁固刑になっていたとされる。

従来論からすれば、既に医師免許を持っており、独立した医師である以上、医療行為に関しては、自己責任でおやりになるのが原則とする考え方が、一般的ではなかったか。その意味では、主治医の責任が全面に問われるべきであるとする、1審判決こそが従前の考え方であって、医師といえども僅か4年の経験しかない主治医に対して、科長には監督責任があるという最高裁判例は、医師にとって驚天動地の考え方だということが出来る。

本来医師は、徒弟制度的上下関係は得意とするが、組織としての上下関係は苦手である。

病院という組織の中で、病院長の管理責任について、認識している医師は甚だしく少数派であり、医長が平の医師を管理監督し、指導的役割を果たさなければならないという立場は失念しているのが普通である。従って、総合病院という器を外部から眺めると、組織だって仕事がされているように見えるが、実態は開業医の集団みたいな状況になっているのである。

第一病院長になった医師自身が、病院長に変身するまでに時間を要する。患者を診察するという、医師本来の業務に固執する余り、病院長業務が片手間仕事になってしまうのである。例えば院長決裁の書類を持参しても院長室におらず、外来で患者の診療をしているなどということになる。外来に行くと現在診療中であり、しばしお待ちを等ということになる。これをやられると院内の各種業務は明らかに遅れ始める。

しかも拙いことに、院長業務に専念していただきたいなどという意見を端でいう雰囲気はなく、当人が気付かなければ、そのままの状態が継続する。結果として、院長の判断なしに日常業務は進行し、事後報告なる独善が蔓延する。つまり医師というのは、自分が患者を診るということには熱心であるが、診療から手を引き、管理職としての立場に専念するというのは苦手なのである。その意味では、埼玉医大総合医療センターの事例も、科長という病院での立場で、管理権限を行使しなければならないということを、当人としてはさほど認識していなかったのではないかと思われる。しかし、最高裁判断が、科長の管理責任を認めたということは、従来の慣行に従い、経験の長短に関係なく、医師免許を持っている医師は、放り出しておけばいいというのではなく、組織として指導し、業務命令を明確に理解させておくことが必要だということなのである。

医師だから何をやっるのも勝手であるということではなく、治療計画を立て、上司の許可を得て、治療を行うという、通常の社会では当たり前のことを、今後は明確にしていくことが必要だということなのだろう。

それにしても世知辛くなったと感じるのか、今までがいい加減だったと感じるのか、そこのところの感覚の問題である。

(2005.11.26.)