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有機ヒ素化合物の毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 井戸水-有機ヒ素化合物(Diphenylcyanoarsine)
成分 三塩化砒素誘導体でフェニル基を持つジフェニルクロロアルシン (diphenylchloroarsine)
とアダムサイト(ジフェニルアミンクロロアルシン;diphenylaminchloroarsine)、シアンとフェニル基を持つジフェニルシアノアル
シン(diphenylcyanoarsine)は、嘔吐・くしゃみ性ガスとして知られている。diphenylcyanoarsine
(DC)は、旧陸軍が日中戦争中、武漢攻略戦などで使用した赤筒(あか1号)である。
その他、本品は有機化合物であるジフェニルアルシン化合物(殆どがジフェニルアルシン酸;diphenylarsinic acid)である。ジフェニルアルシン酸は、diphenylcyanoarsineが分解して生成したものである。 diphenylcyanoarsineは旧陸軍が、毒ガスとして使用する目的で、製造したもので、くしゃみ剤・嘔吐剤として使用された。
一般的性状 -Diphenylcyanoarsine の物理的化学的性状-
US code: DC。CAS 番号:23525-22-6。分子量:255.0、化学式:(C6H5)2AsCN。沸点:
350℃(分解)、比重/密度:1.3、蒸気密度:8.8 (空気=1)、蒸気圧:0.0002
mmHg (20℃)、揮発性:2.8 mg/m3 (20℃)。性状:無色固体、ニンニク、苦みのあるアーモンドの臭い。水に不溶。有機溶媒に可溶。融点:
31.5 - 35℃。
毒性 暴露経路:吸入、経口摂取、皮膚や眼への局所刺激。
diphenylchloroarsine(DA)より毒性が強い。通常、使 用濃度では、効果は暴露が中止後約30分間持続。高濃度の場合は効果が数時間持続する。作用速度はきわめて迅速。300℃で約25%分解。爆発させて空中
で微粒子化し散布するが、爆発によって大部分が分解する。
最小刺激濃度:0.25 mg/m3
砒素(arsenic)は原形質毒であり、SH基系酵素活性阻害作用。平滑筋 麻痺、末梢神経への毒作用。皮膚・粘膜の刺激・腐食作用。ヒト(経口)推定致死量200-300mg/kg。三酸化砒素(arsenic trioxide)は消化液に溶け吸収されやすい。皮膚・粘膜からも吸収される。刺激作用、腐食作用。急性中毒は、大量摂取後30分-数時間で症状出現。
細胞代謝障害、消化管の血管透過性亢進。ヒトLD50 (経口)143mg/kg、ヒトTCL10(吸入) 0.11mg/m3。
症状 diphenylcyanoarsineに曝露されると、上気道、眼を刺激し、咳、鼻汁、唾液、気管
分泌物の増加、流涙、前頭部・上顎部・歯の疼痛、胸痛、吐き気、嘔吐が著しいが、曝露から隔離されれば、30分から2時間で回復する。
その他、嘔吐剤は、上部気道や目を刺激し、催涙効果も示すが、激しい制御不能
のくしゃみ、咳、吐き気、嘔吐、不快感を引き起こす。主な物質としては、アダムサイト
(DM)、diphenylchloroarsine (DA) 、diphenylcyanoarsine (DC) がある。これらはくしゃみ剤としても分類される。症状は、眼や粘膜の刺激、鼻汁。くしゃみ、咳、頭痛、胸部圧迫感、吐き気、不快感。
処置 砒 素(arsenic)として
胃洗浄(温水、重曹水)は本品の不溶性化合物を摂食してから4時間以内は有効
である。しかし、有毒な溶解物に対してはおそらく無効である。塩類下剤。ジメルカプロールの筋肉注射(2-3mg/kg、成人で約200mg)が絶対に必
要である。4時間毎に48時間投与。次いで1日2回にする。痛みと疝痛にはモルヒネ20mgを皮下注射。保温。ショックはデキストラン又はブドウ糖食塩水
を静脈注射してして治療し、電解質が必要なら加える。1週間保てば通常は回復するが、完全回復には6カ月以上かかる。
組織沈着、血中へ再分布されるので血液透析、血液吸着の有効性は少ないと考えられる。
事例 茨城県神栖町の井戸水から旧日本軍の毒ガス兵器に由来すると見られる高濃度の有機ヒ素化合物が検出さ
れた問題で、住民の健康被害を調査していた茨城県の専門委員会(座長・下条信弘前筑波大社会医学系長)は7日、現場周辺の幼児2人に言葉の遅れや運動能力
の障害が見られると発表した。健康調査には、水質基準の450倍のヒ素が検出された井戸水を使用していた住 民32人のうち、29人が協力した。この中で障害が見つかった幼児は、5歳以下の男児と女児。妊娠中に母親が井戸水を飲んでいたり、出生後に井戸水を与え
られたりしていた。有機ヒ素化合物は、言葉や運動に障害を引き起こすとされており、県は幼児の障害は井戸水との関連が強いと見て、更に詳しく調べる。
この他6歳以上60歳までの27人のうち
[1]バランスよく歩けない共調運動障害 が10人、
[2]立ち上がって真っ直ぐ歩けない起立歩行障害が5人、
[3]手などのこまかなふるえや痙攣が8人に見つかった。
また尿検査に応じた28人全員から、通常は尿には含まれない有機ヒ素化合物「ジフェニルアルシン酸」が検出された。「ジフェニルアルシン酸」は毒ガス兵器の成分「ジフェニルシアノ
アルシン」などが分解して生成されたと見られる。専門委員会では「遺伝子障害などの後遺症が残る可能性もある。幼児は特に、今後も専門医による詳細な健康
調査が必要」としている。
備考 アダムサイトは1964-65年に米国がベトナムで使用したの報告。
文献 1) 読売新聞,第45658号,2003.5.8.
2)薬科学大辞典 第2版;広川書店,1990
3)白川 充・他共訳:薬物中毒必携;医歯薬出版株式会社,1989
4)http://www.nihs.go.jp/c-hazard/bc-info/cagent/riot.html,2004.2.19.5)西 勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル;医薬ジャーナル社,2001
作成年月日 2003.5.10.・ 2004.2.19. 作成者 古泉秀夫