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「微生物殺滅法」(日本薬局方一般試験法)

金曜日, 8月 17th, 2007

*用語の定義

殺  菌 微生物を死滅させるこ と。
滅  菌 物質中のすべての微生 物を殺滅又は除去することをいう。
消  毒 人畜に対して有害な微 生物又は目的とする対象微生物だけを殺滅することをいう。

1.消毒法

*生存する微生物の数を減らすために用いられる処置法で、必ずしも微生物を全て殺滅したり除去するものではない。一般に、消毒法は化学薬剤(消 毒剤)を用いる化学的消毒法と湿熱や紫外線を用いる物理的消毒法に分けられる。

紫外線を用いる物理的消毒法に分けられる。

消毒法 消毒条件 消毒対象物
(1)
化学的消毒法
主な消毒剤
*アルコール類(エタノール・イソプロパノール)
*アルデヒド類(グルタルアルデヒド)
*塩素化合物(次亜塩素酸ナトリウム・ジクロロイソシアヌール酸ナトリウム)
*フェノール類(フェノール・クレゾール)
*陽イオン界面活性剤(塩化ベンザルコニウム・塩化ベンゼトニウム)
*ヨウ素化合物(ヨードチンキ・ポビドンヨード)
*両性界面活性剤(塩酸アルキルポリアミノエチルグリシン)
*ビグアニド剤(グルコン酸クロルヘキシジン)
*過酸化物(過酸化水素)
化学薬剤を用いて微 生物を殺 滅する方法をいう。化学薬剤の微生物を死滅させる機序及び効果は、使用する化学薬剤の種類、濃度、作用温度、作用時間、消毒対象物の汚染度、微生物の種
類・状態などによって異なる。本法を適用するに当たっては、調製化学薬剤の無菌性及び有効貯蔵期間、適用箇所からの耐性菌出現の防止、残存化学薬剤の製品
に与える影響等について注意を要する。化学薬剤選択時の注意
1)抗菌スペクトルの範囲
2)微生物の死滅に要する作用時間
3)作用の持続性
4)蛋白質存在下での効果
5)人体に対する影響
6)水に対する溶解性

7)消毒対象物への影響
8)臭気
9)使用方法の簡便性
10)廃棄処理方法の容易性
11)廃棄に伴う環境への影響
12)耐性菌の出現頻度

主としてガラス製、 磁製、金 属製、ゴム製、プラスチック製若しくは繊維製の物品、手指、無菌箱又は無菌設備など。
(1)物




1]流通蒸気 *加熱水蒸気を直接 流通させ ることによって微生物を殺滅する方法をいう。*乾熱法又は高圧蒸気法によって変質するおそれのあるものに用いる。
*通例、当該物を100℃の流通蒸気中で30?60分間放置。
*一般細菌(栄養型)・真菌を殺滅することは可能。しかし、芽胞を形成した細菌は死滅せず、一部生存している恐れがあるので注意。
主としてガラス製、 磁製、金 属製、ゴム製若しくは繊維製の物品、水、培地、試薬・試液又は液状医薬品など。
2]煮沸法注]常圧下煮沸では100℃以上にならないから全ての微生物を完全に死滅させる ことはできない。] *沸騰水中に沈め、 加熱する ことによって微生物を殺滅する方法をいう。*高圧蒸気法によって変質するおそれのあるものに用いる。
*通例当該物を、沸騰水中に沈め、15分間以上煮沸する。
*一般細菌(栄養型)・真菌を殺滅することは可能であり、沸騰水中に炭酸ナトリウム1-2%添加することによって殺菌効力は更に増加する。しかし、芽胞を
形成した細菌は死滅せず、一部生存している恐れがあるので注意。
主としてガラス製、 磁製、金 属製、ゴム製若しくは繊維製の物品、水、培地、試薬・試液又は液状医薬品など。
3]間けつ法(間歇 法) *80?100℃の 水中又は 流通水蒸気中で1日1回、30?60分間ずつ3?5回加熱を繰り返すことによって微生物を殺滅する方法をいう。
*本法は高圧蒸気法により変質するおそれのあるものに用いる。
*なお、60?80℃で同様に加温を繰り返す低温間けつ法もある。加熱又は加温の休止中は20℃以上の微生物の発育に適切な温度に保つこと。
主としてゴム製の物 品、培 地、試薬・試液又は液状の医薬品など。
4]紫外線法 *通例、254nm 付近の波 長を持つ紫外線を照射することによって微生物を殺滅する方法をいう。
*本法は比較的平滑な物品表面、施設、設備又は水、空気などで、紫外線照射に耐え得るものに用いる。
*本法は化学的消毒法で見られる耐性菌出現の心配もなく、細菌、真菌及びウイルスに対して殺菌効果を示すが、人体に対して直接照射すると眼や皮膚に障害を
受けるので注意。
*本法による殺菌効果は、一般細菌(栄養型)や酵母に対して認められるが、芽胞形成菌やカビに対しては殺菌効果が不確実であり、一部生存しているおそれが
ある。
*紫外線は浸透力が強くないため、その照射表面だけしか殺菌効果がなく、照射の死角となる影の部分までは殺菌作用が及ばない。
*紫外線の照射する環境条件(温度、湿度など)や消毒対象物にあった適切な照射条件(照度、照射距離、照射線量、照射方向及び照射時間など)を予備試験に
基づいて設定しておいた方がよい。
主としてガラス製、 金属製の 比較的平滑な物品表面、施設、設備、空気、水など。

2.滅菌法

滅菌法 滅菌条件 滅菌対象
(1)


  加熱法を行うとき、 温度又は 圧力などが規定の条件に至るまでの加熱時間は、本法が適用されるものの性質、容器の大きさ及び収納状態などにより異なる。なお、本法を行う時間は、本法が適用されるものの全ての部分が規定の温度 に達してから起算する。 ?
1)高圧蒸気法 *適当な温度及び圧 力の飽和 水蒸気中で加熱することによって、微生物を殺滅する方法をいう。
*通例、高圧蒸気法の場合は、次の条件で滅菌を行う。
115-118℃  30分間121-124℃  15分間
126-129℃  10分間
*本法は急速に加熱でき、滅菌対象物質の深部にまで速く熱が浸透し、殺菌が困難とされている耐熱性の強いBacillus属やClostridium属な
どの芽胞形成細菌に対して、他の滅菌法や消毒法より短時間で殺菌効果が確実に期待できる。
*他の加熱滅菌法に比較して滅菌対象物の材質変化(劣化や変質など)があまり認められない。
主としてガラス製、 磁製、金 属 製、ゴム製、紙製若しくは繊維製の物品、水、培地、試薬・試液又は液状の試料などで熱に安定なものに用いる。
2)乾熱法 *乾燥空気中で加熱 すること によって微生物を殺滅する方法をいう。
*乾燥高温に耐えるもでのに用いる。*ガス又は電気によって直接加熱するか、加熱した空気を循環させる方法がある。
*通例、直接加熱の場合は次の条件で行う。
160-170℃   120分
170-180℃    60分
180-190℃   30分
*本法は高圧蒸気法に比べて、殺菌効果は劣る。
*一般細菌(栄養型)、真菌、芽胞形成菌まで殺菌が一応可能。ただし、芽胞形成細菌中には300℃-30分間の乾熱処理を必要とするものも存在しているの
で、対象菌によっては、滅菌に要する温度・時間を別途設定することが必要。
主としてガラス製、 磁製、金 属製の物品、鉱油、油脂類又は粉体の試料など、熱に安定なものに用いる。
(2)


1)放射線法 *放射線同位元素か ら放出す るガンマ線又は電子加速器から発生する電子線や制御放射線を照射することによって微生物を殺滅する方法をいう。
*放射線照射に耐えうるものに用いる。*本法が適用されるものの材質、性状又は汚染状況などによって線量を調節して行うが、適用後の品質の変化に特に注意
する。
*本法は加熱法と異なって低温下で殺菌できるので冷滅菌(cold sterilization)ともいわれる。
主としてガラス製、 磁製、ゴ ム製、プラスチック製又は繊維製の物品など。
2)高周波法 *高周波を直接照射 し、発生 する熱によって微生物を殺滅する方法をいう。
*高周波の照射に耐えるものについて用いる。
*通例、2450±50MHzの高周波が用いられる。
主として水、培地、 試液な ど。
(3) ガス法 *滅菌用ガスを用い て微生物 を殺滅する方法をいう。
*滅菌用ガスとしては酸化エチレンガス、ホルムアルデヒドガス、過酸化水素ガス及び二酸化塩素ガスなどが用いられる。
*ガスの種類によって、滅菌時の温度、湿度、ガス濃度、滅菌時間が異なり、更に人体に悪影響をもたらすものもある。
*使用環境及び残留ガス濃度については厳重な注意が必要である。
*ガス法の中には滅菌後の微生物の死滅を定量的に測定又は推測できないものがある。
*過酸化水素ガス:滅菌温度は約45℃、処理時間約75分デカ温、加湿は必要なく、過酸化水素濃度として0.2-10mg/L(低温・低湿度下で短時間処
理で滅菌可能)。滅菌後のエアレーション不要。毒性も他の滅菌用ガスと比較して低い。最終生成物は水と酸素。
*二酸化塩素ガス:約2%の塩素ガスと塩化ナトリウムの反応で二酸化塩素を発生させ、二酸化塩素の強い酸化作用によって微生物を殺滅。処理温度30-
35℃。湿度75-80%。二酸化塩素濃度10-40mg/L。僅かに減圧下で滅菌。処理後は二酸化塩素ガスを中和・排気する。処理後ガスは容易に脱気す
るためエアレーション不要。
主としてガラス製、 磁製、金 属製、ゴム製、プラスチック製、施設、設備など。
(4) ろ過法 *適当なろ過装置を 用いてろ 過し、微生物を除去する方法をいう。
*通例、滅菌用フィルターには孔径0.22μm以下のフィルターが用いられる。
*本法においては孔径0.45μm以下のフィルター使用も許容される。
*本法は微生物を殺滅するのではなく、滅菌対象物質(被滅菌物)中に存在する微生物をろ過によって除去(除菌)することを目的とする。
*ろ過装置として陶土製(シャンベラン型)、珪藻土製(ベルケフェルド型)、多孔性半融ガラスのものやメンブランフィルター等を装着したものがある。
主として気体、水、 可溶性で 熱に不安定な物質を含有する培地、試液などに用いる。

3.無菌操作法

滅菌法 条   件 対象
無菌操作法 *無菌操作法は、無 菌医薬品 を製造する場合、医薬品を最終容器に充填した後、滅菌する方法である最終滅菌法を適用しない医薬品を製造するために用いる技術であり、ろ過滅菌後、又は原
料段階から一連の無菌工程により無菌医薬品を製造するために用いる方法をいう。
*本操作法を用いて無菌医薬品を製造する場合は、通例、あらかじめ使用する全ての器具及び材料を滅菌した後、環境微生物数及び微粒子数が適切に管理された
無菌設備内において、適切な無菌操作法を用いて一定の無菌性保証水準を得られるように行う。
主として前記の滅菌 法によっ て滅菌した医薬品などの調製、充填、密封、開封及び分注などの操作に用いる。

4.超ろ過法

滅菌法 条   件 対象
超ろ過法 *全ての種類の微生 物及びエ ンドトキシンを除去する能力を持つ逆浸透膜、限外ろ過膜又はこれらの膜を組み合わせた膜ろ過装置を用い、十字流ろ過方式で水をろ過する方法である。
*超ろ過法により「注射用水」を製するときは、通例、前処理設備、注射用水製造設備及び注射用水供給設備を用いる。
主として水。

[615.28.DIS:1998.6.1.古泉秀夫]

[第2改訂:2002.2.12.古泉秀夫]


  1. 第十三改正日本薬局方解説書;廣川書店,1996
  2. 第十四改正日本薬局方解説書;広川書店,2001