ニス(ワニス)の毒性
金曜日, 8月 17th, 2007対 象物 |
ニス(ワニス: Varnish) | ||||||
成分 | *油性ワニス:天然樹脂又は加工樹脂、乾性油、乾燥剤、脂肪族系溶剤。 *セラックニス:セラックゴム、アルコール系溶剤。 *水性ワニス:アクリル樹脂、可塑剤、乳化剤、水。 *速乾性ニス等の溶剤(シンナー):主成分はトルエンで、酢酸エチル、酢酸メチル、キシレン、メタノール、その他を含む。 |
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一般的性状 | 油ワニス(Oil varnishes):乾性油と天然樹脂、加工樹脂を加熱融合し、これに乾燥剤を加え溶剤で薄めたもので、樹脂と乾性油の割合で次表の分類がされている。ただし、特殊な用途を除き、フタル酸樹脂系ワニス、ポリウレタン樹脂系ワニス等の合成樹脂ワニスに殆ど置き換えられている。 | ||||||
ワニスの種類 | 乾性油/樹脂重量比 | 特性 | |||||
短油性ワニス (Short Oil Varnish) |
0.6-1.0 | ゴールドサイズ=短油性ワニスで、木材の油ワニス仕上げの下塗 用、また砥の粉と練って油性目途止剤として使用。比較的濃色のワニスであるが、乾燥時間は油ワニスの中で最も早く(約7時間)、塗膜が硬い。 |
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中油性ワニス(Medium Oil Varnish) | 1.0-1.5 | コーパルワニス=コーパル樹脂を用いた中油性ワニスで、家具・屋内用に使用されたが、現在は殆ど合成樹脂塗料が用いられている。 | |||||
長油性ワニス (Long Oil Varnish) |
1.5-3.0 | スパーワニス=長油性ワニスで、樹脂としては油性フェノール樹脂、エステルガム、乾性油としては中国キリ油と亜麻仁油の混合物を、また溶剤としてはミネラル・スピリット、HAWSを用いる。比較的淡色で乾燥時間が早い。塗膜は硬く耐水性、耐薬品性、耐溶剤性がよい | |||||
黒ワニス(ジャパンブラック):瀝青質(タール)、樹脂及び乾性油を加熱融合し、これに乾燥剤及び溶剤を加えて作る。瀝青質ワニスとも呼ばれる耐酸塗料、防水塗料、耐薬品塗料などに用いる。 精ワニス(Spirit varnishes):樹脂、瀝青質のような固体の塗膜形成剤を炭化水素系溶剤に溶かしたものである。 *ダンマルワニス=ダンマルゴムをミネラル・スピリット(軽油)などの溶剤に溶かしたものであるが、生産量は殆ど無い。 *フェノール樹脂精ワニス:アルキルフェノール・ホルムアルデヒド縮合樹脂を炭化水素系溶剤に溶かしたものである。 樹脂ワニス:溶剤には主としてアルコールが用いられるため、酒精ワニス又は揮発性ワニスともいわれる。セラック、ロジン、コパール等の天然樹脂をアルコールやベンジンで溶解した安価な塗料。含まれる溶剤の蒸発が早く、しかも溶剤の蒸発によって乾燥するタイプの塗料であるから、乾燥時間は非常に早く、速いものは5-6分、長くても1時間程度である。一般的な用途として木製品、建材の内部塗装等に用いられるが、刷毛塗が用意で、乾燥が速いので多量に使用されている。塗膜性能はあまり上質ではなく、耐候性、耐水性、耐熱性等もよくない。これらの範疇に入る木製品塗料としては『セラックワニス・速乾ワニス・ダンマルワニス』がある。 ■乾性油(drying Oil):植物油をヨウ素価の大小によって、乾性油、半乾性油、不乾性油に分類する。乾性油はヨウ素価130以上でゴマ油、アマニ油、キリ油などがこれに属する。 ■炭化水素系溶剤:炭素及び水素のみからなる有機化合物。石油、コールタール、植物などから得られる。 ■ミネラル・スピリット(軽油:lightl):原油を蒸留して得られる留分(石油軽油)→燃料に用いる。コールタールを蒸留して得られる留分(タール軽油)。ベンゼン類、ナフタリン、フェノール類、ピリジン類等が含まれる。 |
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毒 性 |
塗料は、塗料膜形成成分(主として合成樹脂25-45%、顔料30%前後含有)とその溶剤(25-35%)からなり溶剤の種類により水性塗料と油性塗料に分類できる。樹脂・顔料は一般に毒性が低いので、水性塗料の場合、急性中毒は起こりにくい。大量(5mL/kg以上)では嘔気、嘔吐。油性塗料の場合、含有有機溶剤による中毒が考えられる。メチルエチルケトン:ラット経口(LD50):2,737mg/kg メチルブチルケトン:ラット経口(LD50):2,590mg/kg イソプロピルアルコール:ヒト経口最小致死量:3,570mg/kg メタノール:ヒト経口致死量:30-100mL(100%メタノールとして) ベンゼン: ヒト経口最小致死量:50mg/kg(57mL/kg) トルエン: ヒト経口最小致死量:50mg/kg キシレン: ヒト経口最小致死量:50mg/kg中毒学的薬理作用:有機溶剤として、粘膜刺激作用、中枢神経抑制作用。ベンゼンの場合、反復暴露により造血毒性(骨髄障害が発現)。 |
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症状 | *水性塗料:大量では嘔気、嘔吐。ただし、エチレングリコール等のグリコール類が含有されている場合、大量では悪心、嘔吐、腹痛、酩酊、眩暈、中枢神経抑制、運動失調、代謝性アシドーシス、腎障害。 *油性塗料:有機溶剤により粘膜刺激作用(悪心、嘔吐、咳嗽、嗄声、流涙、皮膚炎)・中枢神経抑制(頭痛、眩暈、酩酊、興奮、意識障害、呼吸抑制)・気道への誤嚥(化学性肺炎)。 |
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処 置 |
誤飲物質 | 対応 | |||||
心配ない | 様子を見る | 医師へ | 禁 忌 |
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合成樹脂塗料 | 1mL未満 | 10mL | 強制催吐不可 | ||||
速乾ニス | 1mL未満 | 1mL以上 | 強制催吐不可 | ||||
塗料薄め液 | 1mL未満 | 1mL以上 | 強制催吐不可 | ||||
油性塗料 | 1mL未満 | 10mL以上 | 強制催吐不可 | ||||
ラッカー | 1mL未満 | 5mL以上 | 強制催吐不可 | ||||
□基本的処置:催吐(ただし、油性塗料の場合、気道への誤嚥により化学性肺炎を惹起する可能性があるため原則禁忌)。誤嚥に十分注意し、胃洗浄をした後、活性炭と塩類下剤の投与。 □対症療法:呼吸管理、循環管理が中心。 ケトン類(50%近くが未変化体で呼気中に排泄される)が含有されている場合、強制過換気が有効。 *カテコールアミンの投与は要注意:不整脈誘発の恐れ。 □治療上の注意点 ?油性塗料誤飲の場合:胃洗浄施行時、気道に誤嚥しないよう注意して実施。 ?トルエン・キシレンを含有する場合:カテコールアミンの投与は、心筋の感受性を高め、致死的不整脈誘発の恐れがあるため要注意。 |
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事例 | ニスをなめたという小児が救急車で移送されてくる。前もって処 置に要する情報を探しているが、探しきれない。そちらに資料はないか。 |
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備 考 |
『ニス』は『ワニス』の略称である。varnish。樹脂類を溶剤に溶かした塗料の総称。透明で光沢がある。家具・建具等に用いる。 | ||||||
文 献 |
1)14303の化学商品;化学工業日報社,2003 2)http://www2.plala.or.jp/tosou.htm,2003.2.25. 3)http://www1.odn.ne.jp/,2003.2.25 4)西 勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル 改訂6版;医薬ジャーナル社,2001 5)薬科学大辞典 第2版;広川書店,1993 6)鵜飼 卓・監修:第三版急性中毒処置の手引き;薬業時報社,1999 7)内藤裕史:中毒百科 改訂第2版;南江堂,2001 |
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調 査者 |
古泉秀夫 | 記入終了日 | 2003.2.26. |