毒キノコ(4)-毒網代傘茸の毒性
金曜日, 8月 17th, 2007対 象物 | ドクアジロガサタケ(Galerina fasciculata)。和名:毒網代傘茸。別名:コレラタケ(虎列刺茸) | ||
成 分 | ◆毒網代傘茸の有毒成分は、ファロトキシン類 (phallotoxin)、ファロイジン(phalloidin)、アマトキシン類(amatoxin)、アマニチン類(α・β-amanitin)である。 | ||
一般的性状 | ◆毒網代傘茸は、アマニタトキシン群(amanitatoxin)に分類される。卵天狗茸による中毒と同様な中毒症状を呈する。◆ハラタケ目(Agaricales)フウセンタケ 科(Cortinariaceae)ケコガサタケ属(Galerina)。
◆秋やや遅く、杉などの朽ち木や古いおが屑の上、ご み捨て場などに単生-群生する。傘は小型-中型、まんじゅう型からほぼ平らに開き、中央が盛り上がることがある。表面は平滑、湿っているとき暗ニッケイ色で周辺にやや条線を表すが、乾けば中央部から明るい淡黄色となる。ひだは初めクリーム色後にニッケイ色、縁は微粉状、やや密で柄に直生する。柄は細長く、中空、表面は淡黄土色-汚褐色、白色の菌糸で覆われることがあり、上部に不完全な鍔がある。 ◆非常に似た茸が複数あり、鑑別には顕微鏡で胞子表 面の微い疣などを確認する必要がある。致命的な猛毒菌なので、類似の茸の摂食は回避する。 |
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毒 性 | phallotoxinは経口摂取では分解されやすいため、中 毒の本体はamanitatoxin類であるとされている。amanitinは加水分解されず、比較的安定で加熱しても分解しない。従って、加熱調理しても毒性はなくならない。amanitinは“腸肝循環”するという特性を有しており、長時間体外に排泄されない。amanitatoxin群
α-amanitin:マウス腹腔内(LD50): 0.3mg/kg。 β-amanitin:マウス腹腔内(LD50):0.5mg/kg γ-amanitin:マウス腹腔内(LD50):0.2mg/kg ε-amanitin:マウス腹腔内(LD50):0.3mg/kg amanullin・amanullinic acid・proamanullin・amanin amanitinの致死量:0.1mg/kg。 毒成分には硫黄を含み、成熟した白卵天狗茸を1本以上の摂食で致死的。 |
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症 状 | amanitinには粘膜刺激作用がないため、毒茸を摂取して も直後に症状が見られることはない。摂食後6-24時間経過後、嘔吐、腹痛、下痢が発現する。卵天狗茸による下痢は、大量の水性便で、コレラ様の水性便を呈する。その後、黄疸、腎機能障害、肝機能障害が発現する。amanitinはRNAポリメラーゼと結合し、RNAの合成、更には蛋白合成を阻害して肝障害をもたらす。劇症肝炎に似た症状で死亡する者が多く、死亡率50%以上とされる。*潜伏期を経て突然激しい嘔吐、下痢、腹痛で発症。 粘液便、血便を排泄するコレラ様症状。 脱水・脱塩(低カリウム血症)
*筋肉硬直、痙攣、頭痛、低血糖、嚥下困難、傾眠、 精神錯乱、抑うつ状態。 *溶血、黄疸、肝機能障害、出血、尿閉、血尿、中毒 性腎炎、内臓浮腫と疼痛。 *衰弱、血圧低下、チアノーゼ、中枢神経障害、心筋 障害、血管運動中枢障害、肺水腫、循環不全 *遅延性肝炎・腎不全(48-72時間後に起こる) *意識不明・昏睡・死亡。 |
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処置 | [1]胃洗浄摂食後6時間以内であれば催吐し、胃洗浄を行う。
[2]活性炭・下剤投与(下痢がない場合) 摂食後6時間以上経過している場合、活性炭と下剤投与。肝及び腎機能の検査を数日間は行う。 活性炭投与は4時間毎に2日間にわたって投与する。 その他、十二指腸チューブによる胆汁の除去も有効。 *処方例 活性炭 50gを微温湯300-500mL(小児では1g/kgの活性炭を生理食塩水10-20mL)に溶解し、服用させる。 その後、半量を3時間毎に24時間まで繰り返し投与。 下剤としてD-ソルビトール液(75%)2mL/kgを投与し、6時間後に排便がなければ半量を繰り替えし使用(保険適用外)。 [3]強制利尿 amanitinは48時間以内に大部分が尿中に排泄される。従って強制利尿が有効。 [4]血液吸着 活性炭カラムによる血液吸着によるamanitin除去。肝障害予防のため実施。血液透析は、amanitinが膜を通過し難いので、無効とされているが、腎障害のある場合は適用となるの報告。 ◆対症療法 [5]輸液:脱水・電解質異常・低血糖の改善。肝保護剤の同時投与を行う。 [6]呼吸管理:酸素吸入、人工呼吸等 [7]循環管理 |
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事 例 | 甲比丹エルセラックの容態は二日経っても思わしくなかった。その話を伝えてきたのは杵屋半右衛門である。彼もエルセラックが毒を盛られたことに衝撃を受けてきた。「出島では初音が残って看病しているが、容態は一進一退ということですたい」
毒はきのこから採ったことが判明した。だが、それを抹茶に混ぜるため細かい細工を施したというのが医者の見解だった。 「もうもたないかも知れないと、初音は伝えてきた。あの文面からすると、そうとうひどいらしい」 十次郎は眉間に深い皺を刻んだ。もしエルセラックがこのまま死んでしまえば、風説書の謎は永遠に失われてしまうかも知れない。暗殺はそれを狙って仕掛けられたと考えてよい。 [庄司圭太:紅毛-十次郎江戸陰働き;集英社文庫,2006.2.25.] |
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備 考 | 茸とだけ書かれており、茸そのものを特定することはできない。 更に被害者が外国人であり、外国の茸である可能性もあるが、事件の根っこは江戸にあるため、甚だ乱暴ではあるが、国産の茸であると勝手に決めさせていただいた。茸を粉末化した上で抹茶を加えて味を誤魔化したものと思われるが、お茶を飲み慣れた日本人であれば、おかしな味がするとして、飲まなかったかも知れない。いずれにしろどの様な処置がされたのか知らないが、最終的には死亡しており、相当毒性の強い茸だったと思われる。 | ||
文献 | 1) 古泉秀夫:毒キノコ中毒時の中毒症状・処置;DID-0037,1998.10.19.2)舟山信次:図解雑学 毒の科学;ナツメ社,2004
3)長沢英史・監修:日本の毒きのこ;株式会社学習研究社,2003 4)成田傳蔵・編集協力:Field Selection-きのこ;北隆館,1997 5)海老原昭夫・編著:知っておきたい毒の知識;薬事日報社,2001 6)(財)日本中毒情報センター・編:改訂版 症例で学ぶ中毒事故とその対策;じほう,2000 7)吉村正一郎・他編著:急性中毒情報ファイル第3版;廣川書店,1996 8)鵜飼 卓・監修:第三版 急性中毒処置の手引き;薬業時報社,1999 |
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調 査者 | 古泉秀夫 | 記入日 | 2006. 3.8. |