ツキヨタケ(月夜茸)の毒性
金曜日, 8月 17th, 2007対象物 | ツキヨタケ(月夜茸)。地方名:ヒカリキノコ、クマヒラ、ドクアガリ。和太利(ワタリ)、外打理(ワタリ)。権現茸。クマベラ、クマビラ。 | ||
成分 | イルジンS(illudin S)、イルジンM(illudin M)。ネオイルジンA(neoilludin A)、ネオイルジンB(neoilludinB)(細胞毒)。ジヒドロイルジンS(dihydroilludin S)。デオキシイルジンM(deoxyilludine M)、ランプテロフラビン(発光物質)。レクチン(抗菌物質)。アトロメチン、テレホール酸、ジロシアニン(色素)。 | ||
一般的性状 | ■ハラタケ目キシメジ科ツキヨタケ属ツキヨタケ(Lampteromyces japonicus (Kawam.) Sing.)。初夏-秋にブナなどの広葉樹の倒木や枯れ木などに多数が重なり合って発生する。中型-大型で、傘は半円形-腎臓型、表面は初め黄橙褐色で、やや濃色の小鱗片があるが、後に成熟すると紫褐色-暗褐色となり、多少鑞状の光沢を帯びる。ひだは垂生し、淡黄色のち白色で幅広く、暗所で青白く発光するのが確認できる。 ■柄は太短く、傘の殆ど側方、稀に中央に付き、隆起した不完全な鍔がある。縦に裂くと、柄の付け根の部 分には普通黒紫色、稀に淡褐色のシミ(但し、必ずしも明確な鑑別基準にはならないとされる)がある。肉は白で軟らかく、柄に近い部分は厚 い。 ■本種は食 用のヒラタケ、ムキタケ、シイタケなどと間違って食べることによる中毒例が多い。 ■マウスに対して致死性を示す。癌細胞に対して、細胞毒性を示すことから抗癌剤 として期待されたが、正常細胞に対する毒性も強いため、薬にはならなかった。 |
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毒性 | ■ツキヨタケ毒素群。 ■消化管出血性炎症惹起作用。 ■中毒は徐々に発現し、経過が長いのが特徴。特に小児や老人では少量の誤食でも 危険である。 illudin M・S類illudin S(ランプテロール:Lampterol、ルナマイシン:Lunamycin) 月夜茸に含まれるセスキテルペンの一種。我が国では初めlunamycin又はlampterolと命名されていた。米国の発光茸(Clitocybeilludens)から得られたilludin Sと同一の化合物であったため、先名権によってイルジンと呼ばれている。 illudin Sの毒性:LD50:マウス(腹腔 内)50mg/kg。 |
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症状 | ■消化器性障害中毒-亜急性型。
■摂食後数時間(摂食後30分-3時間)で発症。コレラ型。 |
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処置 | ■激しい下痢症状のため下剤の投与は一般に行わない。特に嘔吐、水溶性下痢が極度の場合、体液喪失によ る脱水、電解質異常に対する補液に十分気をつける。[1]催吐・胃洗浄。 [2]吸着剤投与。 [3]対症療法:補液。 [4]重症例には血液灌流(DHP:direct hemoperfusion)が有効と思われる。 ■治療法-参照- a.催吐:中毒量以上の毒物を摂取して1時間以内の意識正常患者に実施する。家 庭内で発生する低毒性物質の少量誤飲例に催吐の対応はない。 b.胃洗浄:毒物を経口的に摂取して1時間以内で、大量服毒の疑いがあるか、毒 性の高い物質を摂取した症例に実施する。処方例 微温湯:1回200-300mL(小児では生理食塩水10mL/kg)を注入し、排液が透明になるまで繰り返す。 c.活性炭・下剤投与:活性炭投与も薬毒物の摂取後1時間以内が有効である。た だし、次の特徴を有する薬毒物では、24-48時間にわたり、2-6時間毎に繰返し投与する方法が推奨されている。 [1]分布容量(Vd)が小さい。 [2]蛋白結合率の低い物質。 [3]脂溶性。 [4]血中でイオン化していない。 [5]腸肝循環する(若しくは腸溶錠=徐放剤) 処方例 |
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事例 | ■毒キノコ直売 長野のJAミス 長野県諏訪保健所は23日、JA信州諏訪の農産物直売所(岡谷市)で購入したキノコを食べた4-68歳の男女3人の家族が、おう吐などの食中毒症状を起こ したと発表した。3人は快方に向かっている。キノコは食用の「ヒラタケ」として販売されていたが、同保健所の調べで、毒キノコ「ツキヨタケ」と判明。同保 健所は直売所を4日間の野生キノコの販売停止処分にした。JA信州諏訪によると、キノコは組合員が山で採取したもので、「このようなことが二度とないよう に何等かの対応を考えている」としている。 [読売新聞,第46556号,2005.10.24.] |
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備考 | 殺人に使用される毒は、取扱が簡単で、確実性がなければ、犯人も使ってみようなどという気は起こさない。月夜茸は毒を持つ茸ではあるが、殺人に使用するに は、確実性のある毒物ではなく、医学の発達した現代では、致命的な毒性を示すほど強いともいえない。更に該当者に気付かれずに摂取させるとすると、茸汁に でもしなければならず、毒物としての使用性が高いとはいえない。 従って、月夜茸は物語の世界で殺人の道具として使用されることは無いと思われるが、実世界では最も誤食の多い茸の一つとされており、今回、その毒性と対処 法について調査した。 |
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文献 | 1)長沢栄史・監修:フィールドベスト図鑑 日本の毒きのこ;学習研究社,2004 2)奥沢康正・他:毒きのこ今昔-中毒症例を中心にして-;思文閣出版,2004 3)西 勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル 改訂6版;医薬ジャーナル,2001 4)石倉俊治:食中毒-その2-;薬局,43(4):569-573(1992) 5)吉村正一郎・他編著:急性中毒情報ファイル 第3版;廣川書店,1996 |
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調査者 | 古泉秀夫 | 記入日 | 2006. 1.1. |