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ソラニンの毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対 象物 ジャガイモ、馬鈴薯(バレイショ)。学名:Solanum tuberosum。別名:ジャガタライモ。
成 分 ソラニン(solanine)。C45H73NO15=868.04。solanineは alkaloidのソラニジン(solanidine)と糖(グルコース、ガラクトース、ラムノース)が結合した配糖体である。α-solanine、β -solanine、γ-solanine、α-chaconine、β-chaconine、γ-chaconineの6個に別けられる。ジャガイモの 新芽に含まれる毒物。他にイヌホオズキ、ヒヨドリジョウゴにも含まれる。solanineは水溶性なので、煮たり茹でたりすることによって、減少するが、 焼いたものや生ものは除去できないので、摂取量によっては危険性がある。
一 般的性状 ナス科ナス属。南米ペルー、ボリビア国境にあるチチカカ湖周辺地域が原産とされる多年草である。16世紀にスペイン人によりヨーロッパに伝えられ、普及し た。草丈50-100cmで、地下茎の先端が肥厚して塊茎(ジャガイモ)になる。
原形質毒であり、強力な溶血作用を示す。その他、solanineはジャガイモの全ての部分に含まれており、特に光に当たって緑色になった部分や芽の周辺に濃厚に存在するとする報告がされている。
毒 性 芽・ 日光に当たって緑色に変色した芋。ジャガイモの芽の緑になったところには毒成分のsolanineが濃厚に存在する。solanineは acetylcholineを分解する酵素のacetylcholinesteraseを阻害する酵素阻害物質である。大量のsolanineを摂取する と血中にacetylcholineが蓄積し、中毒症状を発現する。但し、大量摂取でない限り、致命的になることは稀であるの報告が見られる。LD50(マウス):42mg/kg。

LD50 (mg/kg)

ラット経口 590 ウサギ経口 450 ウサギ静注 25
ウサギ(静注)最小致死量:0.5mg/kg。ウサギ(皮下)最小致死量:2mg/kg。
症 状 solanine 作用:12-24時間後に発現
嘔吐、下痢、腹痛、頭痛、徐脈、溶血作用、中枢抑制、呼吸困難等。
atropine様作用:2-3時間後に発現。 口渇、興奮、幻覚、痙攣、頻脈、発熱。
実際にはatropine様作用である痙攣、幻覚、昏睡、不整脈が強く現れる。
循環器系:頻脈。
呼吸器系:呼吸困難、昏睡から呼吸停止。
神経系:極度の疲労感、傾眠、錯乱、昏睡、脳圧亢進の報告。
消化器系:食欲不振、嘔吐、腹痛、下痢、時に出血性胃腸炎。

その他:重篤例では腎不全、高血糖、発熱、発汗、流涎。
□通常は7-19時間で下痢、嘔吐が発現するが、致 死例では症状発現に48時間経過した例もある。小児の誤食では、通常は嘔吐、頭痛、紅潮の報告。
□起立性低血圧があれば、少なくとも24時間の入院 観察が必要。
呼吸障害は後期に出現することがある。
□集団中毒患者で、78人中17人に胃腸症状がな く、発熱、傾眠、錯乱、興奮、頭痛、幻覚の為入院を要した。6-11日後に退院、数週間、視覚のぶれが残存したの報告。

処置 摂 取後4時間以内で、嘔吐や下痢がなければ胃洗浄、吸着剤と下剤の投与有効。
解毒剤・拮抗剤無。
電解質バランスのチェック。
対症療法。
事 例 授 業で育てたジャガイモ皮ごと……… 77人食中毒 江戸川の小学校 東京都は20日、江戸川区立鎌田小学校で、授業で栽培したジャガイモを食べた児童ら77人が食中毒を発症したと発表した。都健康安全 研究センターの検査で、ジャガイモの皮や芽に含まれる有毒物質ソラニン類*が原因と解った。いずれも症状は軽く、入院患者はいない。都福祉保健局による と、同校では18日昼、児童が収穫したジャガイモを調理員が皮付きのまま茹で、6年生の児童と教員計132人が食べた。このうち児童75人と教員2人が、 腹痛や吐き気、のどの痛みを訴えた。
このジャガイモは理科の授業で児童らが栽培し、今月13-14日に収穫。残っていた茹でジャガイモや生のジャガイモからソラニン類が検出された。ソラニン 類は皮の緑色の部分に多量に含まれ、同局では皮を取り除かないまま未成熟のジャガイモを食べたのが原因と断定した。
同局によるとソラニン類が原因の食中毒は1998年-昨年までに、全国で9件(幼稚園1件、小学校8件)発生。同局は、芽や皮をきちんと取り除き、調理す るよう呼びかけている[読売新聞,第46825号,2006.7.21.]。
*ソラニン類:ジャガイモ、トマトなどナス科植物の芽に多く含まれる。大人では0.2-0.4gを摂取すると吐き気や下痢、腹痛などの症状が現れ、子供は それ以下で発症する。
備 考 ソ ラニン(solanine)の結晶を精製しない限り、如何に小説といえど、人を殺すための毒物としてジャガイモの芽や太陽光によって緑化した部分を大量に 摂食させ、死に至らせるということは不可能である。
従って、今回は実際に食中毒として報告された事例に基づいて、solanineの毒性について検証した。ジャガイモの芽には毒があるので食べてはならない というのは、子供の頃、親からいわれて、ある意味常識的なことと思っていたが、今回の報告以外にも小学校の学習行事の中でジャガイモを摂食した事例が報告 されており、あまり知られていないことなのかと驚きを禁じ得なかった。
尚、文献によっては、乾燥したジャガイモの葉の煙により頭痛、悪心、嘔吐、直腸と結膜下の出血の症状発現が報告されているので、ジャガイモ収穫後の葉や茎 の処理には注意が必要である。 原形質毒:細胞が生きていくために細胞内に含まれる 物質を原形質という。その原形質の共通成分に変化を与える化学物質。その作用は選択的でなく、接触する全ての組織細胞に対して発現される。
文献 1) 海老原昭夫:知っておきたい身近な薬草と毒草;薬事日報,2003 2)海老原昭夫・編著:知っておきたい毒の知識;薬事日報社,2001
3)Anthony T.Tu・編著:毒物・中毒用語辞典;化学同人,2005
4)海老塚豊・監訳:医薬品天然物化学 原著第2版;南江堂,2004
5)西 勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル 改訂7版;医薬ジャーナル,2005
6)鵜飼 卓・監修:第三版 急性中毒処置の手引き;薬業時報社,1999
7)白川 充・他共訳:薬物中毒必携 第2版;医歯薬出版株式会社,1989

8)薬科学大事典 第2版;廣川書店,1990
9)南山堂医学大辞典 第19版;南山堂,2006

調 査者 古泉秀夫 記入日 2006.8.25.