青酸カリ(potassium cyanide)の毒性
金曜日, 8月 17th, 2007対象物 | 青酸カリ(potassium cyanide) | ||
成分 | シアン化カリウム(KCN) | ||
一般的性状 | シアン化カリウムが正名で、青酸カリは俗称である。無色、潮解性の粉末。水によく溶け、水溶液 は強アルカリ性である。アルコールには僅かに 溶ける。酸と反応して猛毒シアン化水素(HCN)を発生する。 | ||
毒性 | ■シアン化水素(HCN):ヒト推定致死量:50mg-100mg、1L中シアンガス0.2- 0.3mgで即死。液状シアン化水素内服:60mg即死。シアン塩:経口致死量:200-300mg。 ■シアン化カリウム(KCN):ラット(経口)LD50:10mg/kg、CN による細胞呼吸阻害による致死作用である。 最小中毒量(TDL0)14mg/kg、最小致死量 (LDL0)170mg(成人)、致死量200- 300mg(成人)。 |
||
症状 | ◆急性意識喪失、痙攣と5分以内の死亡。シアン化アルカリは幾分作用開始は遅い。その速度は胃の酸度による。シアン化アルカリは粘膜腐食性である。少用量は頭痛、眩暈と悪心、眠気、呼吸数増加、頻脈と意識障害を起こす。4時間以上保てば回復にいたる。◆局所症状 *皮膚の汗ばみ、眼球突出、瞳孔散大と無反応、顔面紅潮、チアノーゼは顕著ではない。 *吐物、呼気にアーモンド臭あり。 ◆消化器症状:悪心、嘔吐。 ◆中枢神経症状 *頭痛、脱力、眩暈、意識消失。 *運動失調、てんかん様あるいは強直性痙攣。 ◆呼吸器症状 |
||
処置 | ■青酸として直ちに100%酸素を吸入させる。口対口人工呼吸は禁忌である。特異的治療としては亜硝酸アミルの吸入を行いつつ、メトヘモグロビン血症を作るために亜硝 酸ナトリウムを静注する。これで遊離したシアンと結合して腎から排泄させるため、チオ硫酸ナトリウムを投与する。 ◆対症療法 [1]バッグアンドマスクで100%酸素投与。 [2]amyl nitrite 1回0.25mL吸入 血圧低下に注意。 亜硝酸アミル吸入液0.25mL/管(三共) (保険適用外) [3]亜硝酸ナトリウム 成人:1回300mgを10mLに溶解したものを10分以上かけて緩徐に静注。小児:1回10mg/kg 10分以上かけて緩徐に静注(未発売・院内調製-緊急時→非滅菌製剤使用)。 [4]sodium thiosulfate 成人:12g/回 静注 小児:50mg/kg/回 静注 デトキソール注2g/20mL/管(万有) 以上で効果がなければ、亜硝酸ナトリウムとチオ硫酸ナトリウムを初回投与量の半量投与。過量投与で重篤なメトヘモグロビン血症発現時メチレンブルーの使用はシアン中毒を悪化させるので、血液透析実施。 |
||
事例 | 「知 りたいことがあるんだよ、先生。水中で誰かを毒殺しようと思ったら、どうやる?。」 「エディングスは水中で毒殺されたんじゃないかもしれないわよ」と、ルーシーが言う。 「ダイビングする前に青酸カリを飲んだのかも」 「いいえ、それはないわ。青酸カリは腐食性が強いから 、飲み込んだのなら胃が酷くただれているはず。食道と口の中もね」 「じゃあ何が起こったんだ?」と、マリーノが訊く。 「たぶん青酸カリの気体を吸ったのだと思う」マリーノはとまどったような顔をしている。「どうやって?、コンプレッサーを通じてか?」 「コンプレッサーはフィルターのついた吸い込み弁から空気を取り入れるの」と、説明した。「だから塩酸に青酸カリの錠剤を入れて、それを吸い込み弁に近づ けて、発生したガスを吸い込ませればいいわけ」 「エディングスが水中で青酸カリのガスを吸い込むと、どうなるの?」 「体の機能が停止して死ぬわ。数秒で」 [P.コーンウェル・相原真理子・訳:死因;株式会社講談社,1996 |
||
備考 | 統計を取ったわけではないが、推理小説で使用される毒物として最も多く眼に触れるのが、砒素と青酸化合物である。本来、推理小説で使用される毒物は、実際に死ぬ必要はないわけで、『猛毒X』でもいいようなものだが、書く方からすれば、物語に少しでも現実感を持たせようとすると、架空の毒物ではなく、実際にあ るものを使いたいということになるのだろう。しかし、本書はその青酸カリの使い方がガス体として使ったということで、若干の工夫がされているということである。更に服用したのでは腐食性が強くて口の中や食道、胃が酷くただれているというような描写もあり、青酸カリの性状を承知の上でお書きになっている様である。 ■国内で市販されていない『亜硝酸ナトリウム』は、院内製剤としてアンプル等に前もって充填して用意しておかなければ、緊急時の対応はできない。また、使用期限のある医薬品の場合、使用の当てもなく購入し、保管しておくことは、医薬品費の無駄ということになるのかもしれないが、保管しておかなければ、緊急時の救命には役立たない。 |
||
文献 | 1) 三橋 博・監修:原色牧野和漢薬草大図鑑;北隆館,1988 2)糸川嘉則:最新ビタミン学-基礎知識と栄養実践の手引き;フットワーク出版,1998 3)田中 治・他編:天然物化学 改訂第6版;南江堂,2002 4)内藤裕史:中毒百科 改訂第2版;南江堂,2001 5)西 勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル改訂6版;医薬ジャーナル,2001 6)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2004 7)白川 充・他共訳:薬物中毒必携;医歯薬出版株式会社,19898)山口 徹・総編集:今日の治療指針;医学書院,2004 9)薬科学大辞典 第2版;広川書店,1990 |
||
記録年月日 | 2004.5.9. | 記録者 | 古泉秀夫 |