トップページ»

シキミの毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 シキミ・樒。別名:ハナノキ、コウノキ。英名: japanese anise-tree。
成分 枝葉にはサフロールを豊富に含む。有毒成分はアニサチン(anisatine)で、全草に含まれるが特に実に多い。anisatine: 0.12-0.14%。
一般的性状 モクレン科シキミ属。学名:Illicium religiosum Sieb.et Zucc.。果実が有毒なので悪シキ実、臭き実、重実などの説がある。葉や幹を燃やすと、死体の悪臭を消すほどの強い臭いを放つ。本州関東から沖縄、及び 朝鮮半島南部、中国の暖帯に分布。中華料理に使用される大茴香は同属のトウシキミ(Illicium verum)の果実で、トウシキミには有毒成分は含まれていないが、実の形や香りがシキミと似ている。日本から独逸に輸出したシキミの実が大茴香に混ぜら れて食品として販売され、多数の独逸人が中毒を起こしたことがある。
毒 性 アニサチン(anisatine)は抑制性神経伝達物質γ-ア ミノ酪酸(GABA)の作用と拮抗することにより中毒症状を発現する。痙攣性神経毒。 マウスLD50:1mg/kg。 樒実30個以上約100個で症状出現。シキミ種子:人推定経口中毒量:60-120個。

シキミ果実粉末:イヌ・ネコ経口致死量:400mg/kg。

anisatine:イヌ致死量:12mg(約1.2-2mg/kgに相当)。

各部位の毒性比(マウスに流動エキスを腹腔内投与し求めたLD50値 で比較):果被の毒性を1とした場合、種子1/4、根部1/7、葉1/9、樹皮1/10。

1990年11月12日山で拾った椎の実などでパンケーキを作って食べたところ、2時間経過後5人が嘔吐、全身痙攣を起こし、12人が入院した。シキミの 実は毒物及び劇物取締法で劇物に指定されている。

症状 中枢興奮・強直性痙攣。 消化器症状として嘔気、嘔吐、下痢をもたらし、中枢神経症状として顔面蒼白、発熱、催眠、全身痙攣、意識障害をもたらす。中毒症状:1-6時間の潜伏期の後に発現し、嘔吐、下痢、眩暈、痙攣、意識障害、呼吸障害、血圧上昇など。シキミは種子より果皮の方が危険。
処置 特 異的解毒薬・拮抗薬はない。 *基本的処置:胃洗浄、活性炭、下剤投与(処置時痙攣発作に注意)。*対症療法:呼吸管理。

*抗痙攣剤投与(ジアゼパム投与、無効であればフェノバルビタール、又はフェニトイン)。

*強制利尿。

事例 若だんなは苦笑いだ。居間の中を小鬼達がちょろちょろと逃げ まどう。それを仁吉が追う。目まぐるしい働きに、止めかねている若旦那の前に不意に、横から一本の緑の枝が差し出された。 「これはなんだい、屏風のぞきや」「しきみさね。仏壇に供えてあるのを、若だんな見たことがあるだろう?」

小枝を片手に屏風から現れた派手な付喪神は、にやりとした笑いを浮かべると、若だんなの側に座り込んだ。

「こいつは九兵衛の隠居所に植わっていたものだ、知っているかい、若だんな。しきみには、大層な毒があるんだよ」

「九兵衛さんはこいつで殺されたって言うの?」

目を見張る若だんなに、屏風のぞきの顔は得意げだ。

「盛られた毒が石見銀山鼠取り薬だったら、医者だってすぐにそれと分かるんじゃないかい?。未だに毒の見当がつかないってことは、こういうものが使われた のさ、きっと」[畑中 恵:ぬしさまへ;新潮文庫,2001]。

備 考 甚だおかしな小説で、最初手にした時には、如何に何でも妖怪が出てくるお話しはないだろうということで、通りすぎたが、2冊目(本書)が出たときに本屋で 2冊が山積みにされていたので、ホー、もしかしたら面白いのかも知れないと思って手に入れた。 本書も色々な付喪神や妖怪が活躍するが、彼らが死因として持ち出してくるのが、その死者の家の庭に無闇に植えられている草花のうち毒のあるものである。その中の主役として屏風覘きが推薦したのが『樒』である。但し、彼らが活躍した江戸時代なら『樒』もおどろおどろしい毒草になるかも知れないが、医療技 術の発達した今日では、死亡するところまではいかないようである。事実、樒実を椎の実と間違えてパンケーキにして食した15人は酷い目にあったようである が、死者は報告されていない。

しかし、樒という木はよほど防御本能の発達した木だと見えて、昆虫や動物に葉であれ実であれ、食べられるのは嫌だという偏屈さを持ち合わせているようで 全体に毒がある。そのうち最も毒性が強いのは実で、中華料理に使用される八角に類似しているため、中毒症状が起こったとする報告も見られる。

文献 1)牧野富太郎:コンパクト版I 原色牧野日本植物図鑑;北隆 館,2003 2)清水矩宏・他編著:牧草・毒草・雑草図鑑;(社)畜産技術協会,20053)海老原昭夫・編著:知っておきたい毒の知識;薬事日報社,2001

4)Anthony T.Tu・編著:毒物・中毒用語辞典;化学同人,2005

5)内藤裕史:中毒百科-事例・病態・治療-;南江堂,2001

6)西  勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル 改訂7版;医薬ジャーナル,2005

7)鵜飼 卓・監修:第三版 急性中毒処置の手引き;薬業時報社,1999

調 査者 古泉秀夫 記入日 2006.8.24.