便色調に影響する薬剤
金曜日, 8月 17th, 2007*糞便(feces)の組成は水分65-85%で、固形物にはカルシウム、リン酸塩、鉄、マグネシ ウムなどの無機質が15%、窒素5%、脂肪酸などエーテル抽出物が15%程度含まれる。具体的には脱落腸粘膜細胞や腸内細菌、繊維類など不消化物、粘液、コレステロール、胆汁色素誘導体、栄養素の分解物、白血球、消化残渣などである。pHは6.9-7.5。排便の遅延や加速などにより水分含有量が異なり、便の硬度は変わる。
病気が原因となって糞便の色調に影響するものとして、次の報告がされてい る。
表1.病気が原因となる便色調の変化
血便 [bloody stool] |
血液の付着又は混入が肉眼で確実に認められる糞便。広義には上部消化管出血時のタール樣便も含む が、狭義には下部消化管出血時、特に直腸・肛門病変時の新鮮血便を指す。出血源が肛門に近いほど鮮紅色になる。 |
脂肪便 [steatorrhea] |
脂肪の消化吸収が不完全なため、白っぽい脂肪でギラギラした便を脂肪便という。少量の脂肪は消化 管内で鹸化されて石けん便となるが、脂肪便では鹸化されない脂肪が便に含有されている。膵液の分泌不全の起こる疾患。 |
石けん便 [soap stool] |
未吸収の脂肪酸がカルシウムやマグネシウムと結合、石鹸となる。白っぽい又は灰白色で光沢があり 均質でかなり硬い塊状。石けん便は牛乳栄養児に多い。それ自体は特に病的ではないが、硬度から排便困難であり、便秘の原因になりやすい。 |
タール樣便 [tarry stool] |
黒色便、メレナ(melena)。血液の混ざった黒色便。上部消化管出血では血液は胃内に貯留 し、塩酸とヘモグロビンの反応により塩酸ヘマチンに変化し黒色となる。下部消化管出血でも停滞時間が長ければ、血液は腸管内で発生する硫化水素により硫化 ヘモグロビンを生じ黒色となる。 |
表2.薬物の化学的性状に起因する便色調変化(副作用に由来 する便色調の変化は除外)
分類・一般名・商品名(会社名) | 原体の色調 | 便色調 | 発現機序 |
[721] barium sulfate バリトゲンHD等(伏見) バリトップP等(カイゲン) |
白色の粉末 | 白色 | 硫酸バリウムは胃腸管から吸収されない。未吸収の本剤の糞便中排泄による。従って、硫酸バリウム 製剤では同様の機序により白色便発現。 |
[231] bismuth subnitrate 次硝酸ビスマス(各社) |
白?類黄白色無定型粉末 | 黒色 | bismuthが黒色のbismuth sulfide(硫化物)に変化。次硝酸ビスマス配合剤では、類似の機序により黒色便発現の可能性 |
[237] bismuth subcarbonate 次炭酸ビスマス(メルクホエイ) |
白?類黄白色無定型粉末 | 黒色 | bismuthが黒色のbismuth sulfide(硫化物)に変化。 |
[237]bismuth subgallate 次没食子酸ビスマス(各社) |
黄色粉末 | 黒色 | bismuthが黒色のbismuth sulfide(硫化物)に変化。 |
[237] bismuth subsalicylate -製造中止- |
白色粉末 | 黒色 | bismuthが黒色のbismuth sulfide(硫化物)に変化。 |
[613] cefdinir セフゾン(アステラス) |
白色?淡黄色結晶性粉末 | 赤色 | 鉄の存在で本剤と腸管内において錯体を形成し、糞便を赤色化させる。 |
[231] charcoal 薬用炭[活性炭] |
黒色の粉末 | 黒色 | 本剤の糞便中排泄に由来する。 |
[235] danthron -製造中止- |
橙褐色粉末 | 帯褐色 | anthraquinon系薬剤では特有な色調があるため、糞便中に排泄された本剤の色調に由 来。 |
[234]dried aluminum hydroxide アルミゲル(中外) |
白色の無晶性の粉末 | 白色又は白い斑点 | 糞便中に排泄された乾燥水酸化アルミニウムゲルの色調に由来する。 |
[721] ferric ammonium citrate フェリセルツ(大塚) |
赤褐色、深赤色、褐色又は帯褐黄色結晶又は結晶性粉末 | 黒色 | 本剤はクエン酸鉄アンモニウムの製剤であり、鉄剤服用時と同様の作用機序により糞便の着色が見ら れると考えられる。 |
[322] ferrous sulfate フェロ・グラデュメット (大日本住友) |
淡緑色の結晶又は結晶性粉末 | 黒色 | 硫酸化鉄の生成により尿が黒変するの報告。同様の機序に基づき糞便の黒変化が起こると考えられ る。 |
[114] indometacin インダシン(萬有) |
白色?淡黄色の微細な結晶性粉末 | 緑色 | 立証する情報は得られていない。 |
[232] methaphyllin<配合剤> メサフィリン末(エーザイ) |
青黒色 | 濃緑色 | 配合剤中のsodium copper chlorophylinの便中排泄に起因する。銅クロロフィリン配合製剤では、同様の理由により糞便が濃緑色を呈する。 |
[235] phenovalin -製造中止- |
白色結晶性粉末 | 赤色 | 加水分解によりphenolphtaleinのquinoide型Na塩が生じ糞便中に排泄され る。 |
[391] protoporphyrin disodium -製造中止- |
暗赤色-赤紫色結晶性粉末 | 黒色 | 本剤代謝産物の糞便中排泄によると推定されている。 |
[235] rhubarb大黄末 | 褐色粉末 | 黄褐色 | 有効成分のsennoside Aに関連しanthraquinone配糖体に起因 |
[616] rifampicin リマクタン(ノバルティス) |
橙赤色結晶性粉末 | 橙赤色 | 本剤の未変化体及び代謝産物の糞便中排泄に起因する。本剤及びその代謝産物により橙赤色に着色す る。 |
[642] santonin サントニン(日本新薬) |
無色又は白色結晶性粉末 | 黄色 | santoninの酸化生成物の糞便中排泄に起因する。 |
[235] senna extract アジャストA(興和) |
黄褐色?褐色の粉末 | 黄色?褐色 | 主成分であるanthraquinoneに特有の色である。糞便中に排泄されることにより着色。 |
[333] sodium citrate 輸血用チトラミン(扶桑) |
無色の結晶又は白色の結晶性の粉末 | 緑褐色便 | 副作用欄に小児に限定してビリルビン尿とともに添付文書中に記載。主薬クエン酸ナトリウムとの因 果関係は不明。 |
[322] sodium ferrous citrate フェロミア(エーザイ) |
緑白色?緑黄白色の結晶性の粉末 | 黒色 | 硫酸化鉄の生成により尿が黒変するの報告がされているが、同様の機序に基づき糞便の黒変化が起こ る。 |
[113] sodium valproate デパケンR錠(協和醗酵) |
白色の結晶性粉末 | 白色の残渣が糞便中に排出 | 本剤はマトリックスを核とし、その上を徐放性皮膜でコーティングした製剤。糞便中に排泄されたマ トリックス核が白色の残渣として認識。 |
[615] tetracycline アクロマイシン(ワイス) |
黄色-暗黄色の結晶又は結晶性粉末 | 赤色 | 立証される情報は得られていない。 |
[第三改訂.1997.6.25.古泉秀夫・ 第四改訂.2003.9.11.・第五改訂.2005.10.3.]
- 国立国際医療センター薬剤科・編:医薬品情報Q&A’83;朝倉書店, 1983
- 国立国際医療センター薬剤部・編:尿・便の色調に影響する薬剤;医薬品 情報,23(5):576-579(1996)
- 吉利 和・他監・訳:薬の副作用と臨床;(広川書店)
- 斎藤 太郎:副作用ハンドブック改訂3版(薬事日報社)
- 岩本多喜男:薬物投与が臨床検査成績に及ぼす影響(完);薬局,21 (11):1409(1970)
- 日本医薬品情報センター・編:日本医薬品集;薬業時報社,1995.8
- デパケンRインタビューフォーム,1995.11作成
- 伊藤正男・他総編集:医学書院医学大辞典:医学書院,2003
- 医学大辞典;南山堂,1998