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St.John’s wort含有食品と医薬品との相互作用

金曜日, 8月 17th, 2007

■セント・ジョーンズ・ワート(St.John’sWort.)=[学名: Hypericum perforatum L.和名:セイヨウオトギリソウ;西洋弟切草]は、オトギリソウ科の植物で、主にヨーロッパから中央アジアにかけて広く分布している多年生植物である。

■含有成分として0.1-0.3%のhypericin、特に pseudohypericin、isohypericin、protohypericin等のようなhypericin類似物質。DACによると少なくとも0.05%のhypericin、フラボノイド類、特にhyperoside(=hyperin)とrutin及びビフラボン類、特に13,II8- biapigenin、抗菌作用を有する成分中では、ホップの苦味質に構造的に似ているphloroglucin誘導体であるhyperforinを3% まで。0.05-0.3%の精油(n-アルカン、特にC29H60、その他α-pineneやその他のモノテルペン類)。10%強までのタンニン、少量のプロシアニジン類が報告されている。なお、hypericinはモノアミンオキシダーゼを阻害する。また、hypericin には光増感作用があるとする報告も見られる。

■St.John’sWort.含有製品は、米国や欧州で広く頒布されているが、 St.John’sWort.含有製品を摂取することにより薬物代謝酵素であるチトクロームP450、特にサブタイプであるCYP3A4及びCYP1A2 が誘導(活性化)されることが知られており、医薬品との相互作用が報告されている。

■発現機序としてSt.John’sWort.に含まれるヒペルフォリン (hyperforin)などが、主に消化管上皮細胞に存在するCYP3A4やP-糖蛋白質の誘導(活性増加・含量増加)を惹起し、薬物の代謝・排泄が促進されたものと考えられている。St.John’sWort.によるこれらの機能、蛋白質の誘導発現や誘導消失は、時間を要すると考えられるので、 St.John’sWort.の摂取中、摂取中止後において、投与量調節等に十分注意することが必要な事例も考えられる。また、多くの薬剤が、肝の薬物代謝酵素CYP3A4により代謝されるとする報告もされている。

■一方、St.John’sWort.はCYP3A4を誘導すると報告されているため、薬物治療中の者では、生命維持に必要とされる食品ではないSt.John’sWort.の摂取を、原則的には回避すべきである。また、医薬品を服用中の患者でSt.John’sWort.含有食品を既に摂取している患者は、St.John’sWort.含有食品の摂取を中止する必要があるが、 St.John’sWort.含有食品の急な摂取中止により好ましくない症状が現れるおそれがあるので、十分な注意を払いつつ St.John’sWort.含有食品の摂取を中止する必要がある。

■下表以外の医薬品についても、St.John’sWort.含有食品の薬物代謝 酵素誘導により影響を受ける可能性があることから、医薬品を服用する際にはSt.John’sWort.含 有食品を摂取しないことが望ましい。また、St.John’sWort.含有食品の表示や説 明書において、St.John’sWort.を含む旨を明示するとともに、医薬品を服用する場合には、本品の摂取を控える等の注意を表示するよ う各都道府県、各検疫所、関係団体を通じ、関係営業所等に周知、指導した [厚生省医薬安全局安全対策課・生活衛生局食品保健課新開発食品保健対策室.2000.5.10.]。

[112・113.抗てんかん薬]

[分類]一般名・商 品名(会 社名) St.John’sWort. による影響 摂取者に対する対応
carbamazepine
テグレトール錠・細粒
(ノバルティス)
St.John’sWort. は、肝の薬物代謝酵素CYP3A4を誘導(活性化)し、本剤の代謝を促進する→本剤効果の減弱。 抗 てんかん薬の血中濃度を測定し、St.John’sWort.の摂取中止。摂取中止により抗てんかん薬の血中濃度上昇の可能性。
phenobarbital
フェノバール錠・散(藤永-三共)
phenobarbital sodium
ルピアール坐薬(エスエス)
ワコビタール坐薬(和光堂)
phenytoin
アレビアチン錠・散・細粒・末(大日本)
phenytoin sodium
アレビアチン注(大日本)
phenytoin ・phenobarbital
複合アレビアチン錠(大日本)
phenytoin ・phenobarbital・caffeine and sodium benzoate
ヒダントールD・E・F (藤永-三共)

[211.強心薬]

[分類]一般名・商 品名(会 社名) St.John’sWort. による影響 摂取者に対する対応
aminophylline
ネオフィリン錠・末(エーザイ)アルビナ坐薬(エスエス)
アプニション注(エーザイ)
いずれも海外における研究であるが、主にCYP3A4及びCYP1A2で代謝される warfarin、主にCYP3A4で代謝される経口避妊薬、主にCYP1A2で代謝されるtheophyllineについて、
St.John’sWort.製品との併用により血中濃度の低下又は作用の減弱が見られた症例が報告されている。
薬 剤の血中濃度を測定し、St.John’sWort.の摂取中止。St.John’sWort.摂取により服用薬の血中濃度上昇の可能性。
choline theophylline
テオコリン錠・散(サンノーバ)
deslanoside
ジギラノゲンC注(アステラス)
*digitoxinは主にCYP3A4で代謝を受ける薬物であり、St.John’sWort 含有製品との併用により血中濃度が低下することが、独での研究によって報告されている。本報告によると、健常者25人をプラセボ群(12人)と
St.John’sWort 含有製品摂取群(13人)に分け、digoxinを5日間投与してdigoxinの血中濃度が定常状態になったところで、プラセボ又は市販の
St.John’sWort 含有製品(抽出物300mg含有)を1日3回摂取した結果、St.John’sWort 含有製品摂取開始10日後のdigoxinの血中濃度が、プラセボ群に比べSt.John’sWort
含有製品摂取群ではAUC(0?24)は 平均25%低下し、Cmaxは平均26%低下していた。
gigoxin の血中濃度を測定し、St.John’sWort.の摂取中止。St.John’sWort.摂取によりdigoxin濃度上昇の可能性。
digitoxin
ジギトキシン錠(塩野義)
digoxin
ジゴキシン錠(ノバルティス)
ジゴシン錠・散・エリキシル・注(中外)
lanatoside C
ジギラノゲンC錠(アステラス)
digoxin で血中濃度低下の報告。 St.John’sWort. の摂取回避。
metildigoxin
ラニラピッド錠(ロシュ)

[212.抗不整脈薬]

[分類]一般名・商 品名(会 社名) St.John’sWort. による影響 摂取者に対する対応
amiodarone
アンカロン錠(大正富山)
St.John’sWort. は、肝の薬物代謝酵素CYP3A4を誘導(活性化)し、本剤の代謝を促進する→本剤効果の減弱。 St.John’sWort. の摂取回避。
disopyramide
リスモダンカプセル(アベンティス)
disopyramide phosphate
リスモダンR錠・P注(アベンティス)
lidocaine hydrochloride
キシロカイン注(アステラス)
propafenon hydrochloride
プロノン錠(アステラス)
[212]qunidine sulfate
硫酸キニジン錠・末(日研)

[216.片頭痛治療薬]

[分類]一般名・商 品名(会 社名) St.John’sWort. による影響 摂取者に対する対応
eletriptan hydrobromide
レルパックス錠(ファイザー)
St.John’sWort. は、肝の薬物代謝酵素CYP3A4を誘導(活性化)し、本剤の代謝を促進する→本剤効果の減弱。 St.John’sWort. の摂取回避 [添付文書,2004.3.]

[219.エンドセリン受容体拮抗薬]

[分類]一般名・商 品名(会 社名) St.John’sWort. による影響 摂取者に対する対応
bosentan hydrate
トラクリア錠(アクテリオン)
St.John’sWort. に含まれる成分のCYP3A4誘導作用により、本剤の血中濃度が低下する可能性がある。 本剤の血中濃度が低下するお それがあるので、本剤投与時はSt.John’sWort.含有食品の摂取回避。

[225.気管支拡張薬]

[分類]一般名・商 品名(会 社名) St.John’sWort. による影響 摂取者に対する対応
[225]theophyllineテオドール錠・G顆粒・DS・Syl.        (日研)
テオロング錠・顆粒(エーザイ)
St.John’sWort. は、肝の薬物代謝酵素CYP3A4を誘導(活性化)し、本剤の代謝を促進する→本剤効果の減弱。
*その他の医薬品:いずれも海外における研究であるが、主にCYP3A4及び CYP1A2で代謝されるwarfarin、主にCYP3A4で代謝される経口避妊薬、主にCYP1A2で代謝されるtheophyllineについて、
St.John’sWort製品との併用により血中濃度の低下又は作用の減弱が見られた症例が報告されている。
St.John’sWort.含有食品の摂取回避。

[247.卵胞ホルモン製剤]

[分類]一般名・商 品名(会 社名) St.John’sWort. による影響 摂取者に対する対応
estradil
エストラダームM(キッセイ)
St.John’sWort. は、肝の薬物代謝酵素CYP3A4を誘導(活性化)し、本剤の代謝を促進する→本剤効果の減弱。 St.John’sWort.の摂取回避[エストラダームM添付文書,2004.7.]

[254.経口避妊薬]

[分類]一般名・商 品名(会 社名) St.John’sWort. による影響 摂取者に対する対応
ethinylestradiol・ desogestrel
マーベロン28(日本オルガノン)
-薬価未収載-
*その他の医薬品:いずれも海外における研究であるが、主にCYP3A4及びCYP1A2で代謝される warfarin、主にCYP3A4で代謝される経口避妊薬、主にCYP1A2で代謝されるtheophyllineについて、
St.John’sWort.製品との併用により血中濃度の低下又は作用の減弱が見られた症例が報告されている。
St.John’sWort.は、肝の薬物代謝酵素CYP3A4を誘導(活性 化)し、本剤の代謝を促進する→本剤効果減弱化及び不正性器出血の発現率増大のおそれ。
St.John’sWort. の摂取回避[トライディオール21添付文書,2003.12.]
[254]ethinylestradiol・ levonorgestrel
トリキューラ21(日本シエーリング)
リビアン28(アステラス)
トライディオール21(ワイス)
アンジュ28(帝国臓器)      -薬価未収載-
[254]ethinylestradiol・ norethisterone
エリオット21(明治製菓)
シンフェーズT28(モンサント)
ノリニールT28(第一)
オーソM-21(ヤンセン協和)
オーソ777-28(ヤンセン協和)
-薬価未収載-

[333.経口抗凝血薬]

[分類]一般名・商 品名(会 社名) St.John’sWort. による影響 摂取者に対する対応
[333]warfarin potassiumワーファリン錠(エーザイ) warfarinは主に CYP3A4及びCYP1A2で代謝される-抗凝血作用減弱[添付文書,2004.7.] INRを調べ、安定が得られ ない場合St.St.John’sWort. の摂取を中止する。

*INR(international normalized ration):プロトロンビン時間測定値の表現方法の一つ。

[399.免疫抑制剤]

[分類]一般名・商 品名(会 社名) St.John’sWort. による影響 摂取者に対する対応
ciclosporin
サンディミュンカプセル・内服液・注(ノバルティス)
*ciclosporinはCYP3A4で代謝を受ける薬物であり、St.John’sWort含有製 品との併用により血中濃度が低下した臨床例が、スイスで2例報告されている。1例は末期虚血性心疾患のため11カ月前に心移植した61歳の男性で、もう1
例は末期虚血性心疾患のため20カ月前に心移植した63歳の男性の例である。いずれの症例においても移植後ciclosporin、 azathioprine等の免疫抑制剤の投与でコントロールされ、ciclosporin濃度は安定していたが、市販のSt.John’sWort含有
製品(抽出物300mg)を1日3回摂取したところ、摂取開始3週間後にciclosporinの血中濃度の低下が見られ、生検の結果、急性拒絶反応が観
察された。両症例とも拒絶反応を疑われる他の要因は見あたらず、St.John’sWort含有製品の摂取を中止したところ、ciclosporinの血
中濃度は回復した。
薬 物の血中濃度を測定し、影響が見られる場合St.John’sWort.の摂取を中止する。摂取中止により薬物濃度上昇の可能性。
[399]tacrolimus hydrate
プログラフCap・注(アステラス)

[424・429.抗癌剤]

[分類]一般名・商 品名(会 社名) St.John’sWort. による影響 摂取者に対する対応
gefitinib
イレッサ錠(アストラ)
本 剤の代謝はCYP3A4が関与しているため、CYP3A4誘導性のあるSt.St.John’sWort.の摂取で本剤の代謝亢進-血中濃度低下の可能性 St.John’sWort.の摂取回避[イレッサ錠添付文書,2003.12.]
imatinib mesilate
グリベックCap.(ノバルティス)
irinotecan hydrochloride
カンプト注(ヤクルト)
tamibarotene
アムノレイク錠(日本新薬)

[625.抗HIV薬]

[分類]一般名・商 品名(会 社名) St.John’sWort. による影響 摂取者に対する対応
amprenavir
プローゼCap.(キッセイ)
*indinavirは主にCYP3A4で代謝を受ける薬物であり、St.John’sWort含有製 品との併用により血中濃度が低下することが、米国国立衛生研究所(NIH)の研究によって報告されている。本報告によると18歳以上の健常者8人に
indinavirを投与し、投与開始3日目からSt.John’sWort.含有製品(抽出物300mg含有)を1日3回摂取した結果、St.John’sWort.含有製品摂取開始2週間後のindinavir
の血中濃度が、非併用時に比べてAUC(0?8)は平 均43%低下し、Cmaxは平均28%低下していた。また、本報告においては、HIV感染者において、血中濃度の低下により耐性が生じる危険性があること
からindinavir の投与を受けている場合には、St.John’sWort.含有製品を摂取すべきではなく、CYP3A4で代謝される他のHIVプロテアーゼ阻害薬、非核酸
系逆転写酵素阻害薬投与時においてもSt.John’sWort.含有製品 の摂取を避けることが適当であると言及されている。
SSt.John’sWort.により誘導された肝薬物代謝酵素(チトクローム P450)が本剤の代謝を促進し、クリアランスを上昇させるため[レイアタック添付文書,2003.12.]
抗 HIV薬の耐性発現を避けるためSt.John’sWort.の摂取回避。
atazanavir sulfate
レイアタッツCap.(ブリストル)
delavirdine mesilate
レスクリプタ錠(ワイス)
efavirenzストックリンCap.(万有)
indinavir sulfate ethanolate
クリキシバンCap.(万有)
lopinavir・ ritonavir
カレトラ・ソフトCap.(大日本)
nelfinavir mesilateビラセプト錠(日本たばこ)
nevirapine
ビラミューン錠(ベーリンガー)
ritonavir
ノービアカプセル・ソフトCap.(ダイナボット)
saquinavir mesilateインビラーゼCap.(ロシュ)

参照:St.John’sWort.関連商品名(文献6より引用)

*Blutkraut、 *Feldhopfenkraut、*Herrgottablut、*Hexenkraut、*johannisblut、
*johanniskraut、*Konradskraut、*Mannskraft、*Sonnwendkraut、*T

Bitter almond(苦扁桃)の毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 ビター・アーマンズ(苦味扁桃)
成分 青 酸(HCN)・シアン化水素(HCN)
一般的性状 アー モンド(almond)、巴旦杏。Prunus amygdalus Batsch.=Amygdalus communis L.。バラ科サクラ属の植物。中央及び西南アジア原産で、紀元前からヨーロッパ、アジアで栽培され、現在では主に地中海沿岸と米国カルホルニア州で栽培さ
れている落葉高木。
甘扁桃(Sweet almond):Prunus amygdalus Batsch.var.dulcis Schneid.。
苦扁桃(Bitter almond):Prunus amygdalus Batsch.var.amaru(DC.)。
[薬用部分]種子。
[成  分]種子に脂肪油、蛋白質、酵素のエムルシン、ビタミンA、ビタミンB1、 ビタミンB2、ビタミンB5(パントテン酸)、ビタミンB6、ビタミンE、ニコチンアミドなどを含む。なお、苦扁桃は青酸配糖体を含み含み有毒である。[薬  効]
甘扁桃:圧搾して得た甘扁桃油は鎮咳、去痰薬の乳化剤、マッサージ用オイルの添 加剤として、また緩下薬として内服する。
苦扁桃:苦扁桃油は香料、リキュールの製造、製菓に使用し、また鎮咳、去痰にも 用いられる。
[使用法]苦扁桃4-8gを水で煎じて服用する。苦扁桃は水蒸気蒸留して苦扁桃水を作り、鎮咳薬として杏仁水と同様に使用する。苦扁桃は生食すると中毒を
起こすので注意を要する。
青酸配糖体は、対応するアミノ酸から生合成される。L- phenylalanine由来のものとして鎮咳生薬、苦扁桃の種子、アンズの種子(杏仁)、桃の種子(桃仁)、ウメの種子等に含まれるアミグダリン
(amygdalin)が知られている。アミグダリンは共存するエムルシン(emulsin)で加水分解され、benzaldehydeとHCNを生成す
る。
米国ではアンズ等の種子の核(仁)から抽出した青酸配糖体amygdalin を、『ビタミンB17』と称し、がんの予防に有効とし て「レトリル」の商品名で市販されていた。がん細胞はamygdalinを加水分解するβ-グルコシダーゼを高濃度に含むため、がん細胞で青酸が遊離し、
がん細胞が死滅するという理屈である。主に静注で使用されたが、内服すると腸内に大量に存在するβ-グルコシダーゼにより青酸が遊離し、シアン中毒が起き
る。1977年までに37人の中毒と17人の死亡が報告されている。1982年米国医学界は臨床的に効果がないことを明らかにした。

シアン化水素(HCN):無色の液体、アーモンド臭。肺、皮膚から速やかに吸収。チトクロームオキシダーゼの三価の鉄とCNが結合し、あらゆ る細胞のチトクロム酸化酵素系統を破壊する(組織中毒性低酸素症)。KCN、NaCNは胃液によってHCNを遊離する。

毒性 シアン化水素(HCN):ヒト推定致死量:50mg-100mg、1L中シアンガス0.2- 0.3mgで即死。液状シアン化水素内服:60mg即死。シアン塩:経口致死量:200-300mg。
シアン化カリウム(KCN):最小中毒量(TDL0)14mg/kg、最小致死量(LDL0)170mg(成人)、致死量200-300mg(成人)。
症状 急性意識喪失、痙攣と5分以内の死亡。シアン化アルカリは幾分作用開始は遅い。その速度は胃の酸度に よる。シアン化アルカリは粘膜腐食性である。少用量は頭痛、眩暈と悪心、眠気、呼吸数増加、頻脈と意識障害を起こす。4時間以上保てば回復にいたる。
局所症状
*皮膚の汗ばみ、眼球突出、瞳孔散大と無反応、顔面紅潮、チアノーゼは顕著ではない。
*吐物、呼気にアーモンド臭あり。
消化器症状:悪心、嘔吐。中枢神経症状
*頭痛、脱力、眩暈、意識消失。
*運動失調、てんかん様あるいは強直性痙攣。
呼吸器症状
*呼吸促迫、過呼吸、呼吸困難(吸気相が極端に短縮し、呼気相が延長する)。
*呼吸停止により死亡。
循環器症状:中毒初期に血管収縮により血圧上昇、心拍数減少、その後頻脈、微 弱脈、不整脈、胸部苦悶感、心悸亢進。
処置 青酸として
直ちに100%酸素を吸入させる。口対口人工呼吸は禁忌である。特異的治療としては亜硝酸アミルの吸入を行いつつ、メトヘモグロビン血症を作るために亜硝
酸ナトリウムを静注する。これで遊離したシアンと結合して腎から排泄させるため、チオ硫酸ナトリウムを投与する。
対症療法
(1)バッグアンドマスクで100%酸素投与。
(2)amyl nitrite  1回0.25mL吸入 血圧低下に注意。亜硝酸アミル吸入液0.25mL/管(三共) (保険適用外)
(3)亜硝酸ナトリウム 成人:1回300mgを10mLに溶解したものを10分以上かけて緩徐に静注。小児:1回10mg/kg  10分以上かけて緩徐に静注(未発売・院内調製-緊急時→非滅菌製剤使用)。
(4)sodium thiosulfate  成人:12g/回 静注 小児:50mg/kg/回 静注
デトキソール注2g/20mL/管(万有)
以上で効果がなければ、亜硝酸ナトリウムとチオ硫酸ナトリウムを初回投与量の半量投与。過量投与で重篤なメトヘモグロビン血症発現時メチレンブルーの使用
はシアン中毒を悪化させるので、血液透析実施。
事例 「エ イムズ先生!」と、わたしは叫んだ。「すぐ来て下さい」「どうしたんです?」と、医師はパジャマのまま、姿を現して言った。「わたしの友達が?わるいんです。死にかかっています。カミツレの茶です。キャンプか
らハッサンを出さないでください。」
稲妻のように、医者はわれわれのテントへ走ってきた。ポアロは、前の通りの状態で横たわっていた。
「全く変ですな」と、エイムズは叫んだ。「卒中のようでもあるが?それとも?何か飲んだと言われたのは?」彼は空の茶碗をつまみ上げた。
「ただ、わたしがそれを飲まなかっただけのことですよ」と、落ち着いた声がした。
われわれは面食らって振り向いた。ポアロがベッドの上に起き直ってほほえんでいた。
「そうです」と、彼は穏やかに言った。「わたしは飲みませんでした。友人のヘイスティングス君が夜に向かって話しかけている間に、わたしは、それをわたし
の喉にではなく、小さな壜に注ぎ込む機会をつかんだんです。その小壜は、分析化学者のところに送られるでしょう、いや」
?医者が動いたので?「分別のある人間として、あなたは暴力が何の得る得るところもないことはおわかりでしょう。あなたを呼んでくるために、ヘイスティン
グス君ちょっと留守にしたあいだに、わたしは壜を安全な場所にしまいました。ああ、早く、ヘイスティングス君、その人を抑えて!」
わたしはポアロの心配を誤解した。………。しかし、医師の素早い動作には、別の意味があったのだ。彼は片手を口にやった。ビター・アーマンズ(苦味扁桃)
の匂いが空中に充満し、彼は前方へよろよろして仆れた。[井上宗次・他訳:エジプト墓地の冒険-クリスティ短編集(一);新潮文庫,1960]
備考 『ビ ター・アーマンズ(苦味扁桃)の匂いが空中に充満』という記載は、推理小説で使用される毒薬の定番からいえば、『青酸』を服用したということで、何も『苦
扁桃』を服用したとか、苦扁桃から調製された『苦扁桃水』を服用したということではない。苦扁桃中には青酸が含まれているが、服用による即死状態を類推す
る資料はない。また、青酸の匂いがアーモンドと類似していたとしても不思議はないが、現実には青酸の匂いを確認していないので、参照文献の記載通りという
ことである。
国内で市販されていない『亜硝酸ナトリウム』は、院内製剤としてアンプル等に 前もって充填して用意しておかなければ、緊急時の対応はできない。また、使用期限のある医薬品の場合、使用の当てもなく購入し、保管しておくことは、医薬
品費の無駄ということになるのかもしれないが、保管しておかなければ、緊急時の救命には役立たない。
文献 1) 三橋 博・監修:原色牧野和漢薬草大図鑑;北隆館,19882)糸川嘉則:最新ビタミン学-基礎知識と栄養実践の手引き;フットワーク出版,1998
3)田中 治・他編:天然物化学 改訂第6版;南江堂,2002
4)内藤裕史:中毒百科 改訂第2版;南江堂,2001
5)西 勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル改訂6版;医薬ジャーナル,2001
6)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2004
7)白川 充・他共訳:薬物中毒必携;医歯薬出版株式会社,1989
8)山口 徹・総編集:今日の治療指針;医学書院,2004
調査者 古泉秀夫 記入日 2004.5.9.

Herbと医薬品の相互作用

金曜日, 8月 17th, 2007

*:原著論文中の評価『Likely・Possible・Unevaluable』は、それぞれ『ほぼ信頼できる情報(Likely)・可能性 がある情報(Possible)・評価不能(Unevaluable)』として記載した。

*:表中の商品名は、添付文書を参照する必要上記載したもので、添付文書の相互作用欄にherbとの相互作用が記載されていることを意味しない。

Herb 一般名・商品名(会社名) 報告の概要
aloe(アロエ)

[局]。ユリ科。蘆薈(ロカイ) 。
Aloe africana Miller又はこれとAloe africana Miller、Aloe spicata Bakerの雑種。葉の液汁の乾燥したもの、4-9.5%のaloin(barbaloin)、少量の遊離aloe emodin、樹脂、微量の精油含有。少量を苦味健胃薬とするが大腸刺激性下痢を起こす。

*血糖降下剤

* acarbose・グルコバイ錠(バイエル)
* acetohexamide・ジメリン錠(塩野義)
* buformin HCl・ジベストB錠(ガレン)
* chlorpropamide・アベマイド錠(小林化工)
* glibenclamide・オイグルコン錠(山之内)
* gliclazide・グリミクロン錠(大日本)
* glimepiride・アマリール錠(アベンティス)
* glybuzole・グルデアーゼ錠(協和醗酵)
* glyclopyramide・デアメリンS(杏林)
* metformin HCl・グリコラン錠(日本新薬)
* nateglinide・スターシス錠(山之内)
* pioglitazone HCl・アクトス錠(武田)
* tolazamide・トリナーゼ錠(ファルマシア)
* tolbutamide・ジアベン(中外)
* voglibose・ベイスン錠(武田)

*血糖降下剤の作用増強(2
*抗不整脈剤

* ajimaline・リトモス錠(旭化成)

* amiodaron HCl・アンカロン錠(大正)

* aprindine HCl・アスペノン(シエーリング)

* bepridil HCl・ベプリコール錠(オルガノン)

* cibenzoline succinate・シベノール(藤沢)

* disopyramide・リスモダン(アベンティス)

* disopyramide phosphate・リスモダンR

(アベンティス)

* flecainideacetate・タンボコール(エーザイ)

* lidocaine HCl・キシロカイン(アストラゼネカ)

* mexiletine HCl・メキシチール(ベーリンガー)

* nifekalant HCl・シンビット注(シエーリング)

* pirmenol HCl・ピメノール(大日本)

* pilsicainide HCl・サンリズム(サントリー)

* procainamide HCl・アミサリン(第一)

* propafenone HCl・プロノン錠(山之内)

* quinidine sulfate・硫酸キニジン(日研)

* sotaol HCl・ソタコール錠(ブリストル)

*抗不整脈剤の作用増強(2
betel nut(ビンロウジ)

[局]。ヤシ科。

英名:areca、areca nut、

betel nut。

別名:檳榔子。

東南アジア各地に産するビンロウ:Areca catechuL.の果皮を除いた種子。収斂、唾液分泌促進薬、条虫駆除薬等。また縮瞳薬臭化水素酸アレコリンの原料。

[成分]arecoline、 arecaidine等のアルカロイドとタンニン、脂肪油等。

flupenthixol *ほぼ信頼できる情報として「檳榔子との併用による硬直、振戦、アカシジア(1」の報告。
*fluphenazine

* fluphenazine decanoate・フルデカシン注

* (三菱ウェルファーマ)

* fluphenazine enanthate・アナテンゾールデポー

* (三菱ウェルファーマ)

* fluphenazine maleate・フルメジン錠

* (三菱ウェルファーマ)

*ほぼ信頼できる情報として「檳榔子とfluphenazine の併用による硬直、運動緩慢、振戦(1」の報告。
black cohosh(ショウマ)

[局]。キンポウゲ科。

英名:cimicifuga rhizome、black cohosh root。

別名:升麻。サラシナショウマ:cimicifuga simplex Wormskの根茎。漢方で頭痛、咽痛、麻疹、感冒、脱肛、子宮脱などを治療する方剤に配合する。成分はcimigenol、cimifugenin等の多数のトリテルペン類とクロモン誘導体が知られている。

*降圧剤

* alacepril・セタプリル錠(大日本)

* benazepril HCl・チバセン錠(ノバルティス)

* budralazine・ブテラジン錠(第一)

* bunazosin HCl・デタントール錠(エーザイ)

* cadralazine・カドラール錠(ノバルティス)

* captopril・カプトリル錠(ブリストル)

* cilazapril・インヒベース錠(ロシュ)

* clonidine HCl・カタプレス錠(ベーリンガー)

* delapril HCl・アデカット錠(武田)

* doxazosin mesilate・カルデナリン錠

(ファイザー)

* enalapril maleate・レニベース錠(万有)

* guanabenz acetate・ワイテンス錠(アズウェル)

* guanfacine HCl・エスタリック錠(ノバルティス)

* hydralazine HCl・アプレゾリン錠(ノバルティス)

* imidapril HCl・タナトリル錠(田辺)

* lisinopril・ゼストリル(アストラゼネカ)

* methyldoa・アルドメット錠(万有)

* nitroprusside sodium・ニトプロ注(丸石)

* perindopril erbumine・コバシル錠(第一)

* prazosin HCl・ミニプレス錠(ファイザー)

* quinapril HCl・コナン錠(三菱ウェルファーマ)

* rescinnamine・セルシナミンS錠(ケミファ)

* reserpine・アポプロン(第一)

* temocapril HCl・エースコール錠(三共)

* terazosin HCl・ハイトラシン錠(大日本)

* todralazine HCl・アピラコール錠(協和醗酵)

* trandolapril・オドリック錠(アベンティス)

* trimetaphan camsilate・アルフォナード注

(ロシュ)

* urapidil・エブランチン(科研)

*降圧剤の作用増強(2
cascara(カスカラ)

カスカラサグラダ。クロウメモドキ科。

Rhamnus purshiana De Candolleの幹及び枝の皮を乾燥したもの。少量の苦味質、タンニン、アントロン誘導体等の他、emodinを主とするアントラキノン配糖体を含有する。大腸刺激下剤で常習性便秘に使用。

*抗不整脈剤

* ajimaline・リトモス錠(旭化成)

* amiodaron HCl・アンカロン錠(大正)

* aprindine HCl・アスペノン(シエーリング)

* bepridil HCl・ベプリコール錠(オルガノン)

* cibenzoline succinate・シベノール(藤沢)

* disopyramide・リスモダン(アベンティス)

* disopyramide phosphate・リスモダンR

(アベンティス)

* flecainideacetate・タンボコール(エーザイ)

* lidocaine HCl・キシロカイン(アストラゼネカ)

* mexiletine HCl・メキシチール(ベーリンガー)

* nifekalant HCl・シンビット注(シエーリング)

* pirmenol HCl・ピメノール(大日本)

* pilsicainide HCl・サンリズム(サントリー)

* procainamide HCl・アミサリン(第一)

* propafenone HCl・プロノン錠(山之内)

* quinidine sulfate・硫酸キニジン(日研)

* sotaol HCl・ソタコール錠(ブリストル)

抗不整脈剤の作用増強(2
chili pepper(唐辛子)

[局]。ナス科。英名:red pepper、chilly pepper。

別名:蕃椒、辣椒(中国名)。

唐辛子:Capsicum annuum L.などの果実。食用の辛味量として用いられるが、薬用では辛味性健胃及び皮膚刺激薬。辛味成分としてcapsicine、他に色素の capsanthin、capsicosideやビタミンCを含む。

*ACE阻害剤

* alacepril・セタプリル錠(大日本)

* benazepril HCl・チバセン錠(ノバルティス)

* captopril・カプトリル錠(ブリストル)

* cilazapril・インヒベース錠(ロシュ)

* delapril HCl・アデカット錠(武田)

* enalapril maleate・レニベース錠(万有)

* imidapril HCl・タナトリル錠(田辺)

* lisinopril・ゼストリル(アストラゼネカ)

* perindopril erbumine・コバシル錠(第一)

* quinapril HCl・コナン錠(三菱ウェルファーマ)

* temocapril HCl・エースコール錠(三共)

* trandolapril・オドリック錠(アベンティス)

*可能性がある情報として「ACE阻害剤の併用による咳(1」の報告。
danshen(タンジン)

シソ科。別名:丹参。

中国に産するSalviae militiorrhiza Bge.の根。漢方で去痰、止痛、排膿薬、また月経不順、月経痛、産後腹痛、丹毒等に用いる。成分は赤色色素のtanshinone-I、 tanshinone-IIA、cryptotanshinone等が知られている。

*warfarin(INN)

* warfarin potassium・ワーファリン錠

(エーザイ)

*ほぼ信頼できる情報として「丹参との併用によるINR(国際標準比)上昇(1」の報告。
*warfarin(INN)

* warfarin potassium・ワーファリン錠

(エーザイ)

*丹参及びdong quai(ドンクアイ)とwarfarinの併用による抗凝固作用の増強(2
dong quai (ドンクアイ)

[局]。セリ科。英名:Japanese angelica root。

和名:当帰。

Angelica acutiloba Kitagawaの根。

別名:唐当帰A。

Angelica Sinensis Diels(Danggui)。

漢方では補血強壮、鎮静鎮痛薬として貧血、冷え症、月経不順などに用いられる。成分はbergapten、 butylphthalide、

butylidenephthalide、ligustilide等。

*warfarin(INN)

* warfarin potassium・ワーファリン錠

(エーザイ)

*ほぼ信頼できる情報として「唐当帰との併用によるINR(国際標準比)上昇(1」の報告。

*可能性がある情報として「唐当帰との併用による消化管出血(1」の報告。

*warfarin(INN)

* warfarin potassium・ワーファリン錠

(エーザイ)

*danshen(タンジン)及びwarfarinとの併用による抗凝固作用の増強(2
eleuthero(エゾウコギ)

ウコギ科。五加皮(ゴカヒ)。

本邦では山野に自生する落葉灌木ウコギAcanthopanax spinosum Miq.の根皮が用いられる。中国ではウコギ科の南五加Acanthopanax gracilistytus W.W.Smith、紅毛五加Acanthopanax giraldii Harms.及びカガイモ科の北五加Periploca sepium Bge.など10数種記載されている。特異の芳香を持つがやや苦い。腹痛、疝気痛などに鎮痛剤として用いる。特に五加皮酒の原料として多量用いられる。刺五加:ハリウコギ。Eleutherococcus Senticosus;

Acanthopanax Senticosus;

Siberian Ginseng。

*digoxin(INN)

* digoxin・ジゴシン(中外)

*ほぼ信頼できる情報として「五加皮との併用でdigoxin濃度上昇(1」の報告。
evening primrose oil

(マツヨイグサ油;)

アカバナ科。

別名:宵待草、待宵草。

南米チリの原産、Oenothera odorata Jacq. の根。日本産のものは殆ど薬用にされることはない。花に精油を含む。根は解熱薬となる。感冒、咽喉炎に用いる。

*phenytoin(INN)

* phenytoin・アレビアチン錠・散・細粒・末・注

(大日本)

*待宵草との併用によるけいれん発作のコントロール消失(2
*麻酔剤

* bupivacaine HCl・マーカイン注

(アストラゼネカ)

* dibucaine HCl・ペルカミンエス(ナガセ)

* doroperidol・ドロレプタン注(三共)

* enflurane・エトレン吸入液(大日本)

* halothane・フローセン吸入液(武田)

* isoflurane・フォーレン液(ダイナボット)

* Katamine HCl・ケタラール注(三共)

* lidocaine HCl・キシロカイン注(アストラゼネカ)

* mepivacaine HCl・カルボカイン注

(アストラゼネカ)

* oxybuprocaine HCl・ベノキシールゼリー

(参天)

* pentobarbital sodium・ネンブタール注

(大日本)

* procaine HCl・オムニカイン注(第一)

* propitocaine HCl・シタネスト注

(アストラゼネカ)

* propofol・ディプリバン注(アストラゼネカ)

* sevoflurane・セボフレン液(ダイナボット)

* tetracaine HCl・テトカイン注(杏林)

* thiamylal sodium・イソゾール注

* (三菱ウェルファーマ)

* thiopental sodium・ラボナール注(田辺)

*評価不能とされるが「待宵草と麻酔剤の併用によるけいれん発作(1」の報告。
garlic(ニンニク)

ユリ科。

英名:garlic。

Allium sativum Liliaceaeの多年草。

別名:大蒜。

中東の原産といわれる。地上部はネギに似るが、花序にはムカゴを生じる。鱗茎を香辛料とするほか、強壮薬とする。鱗茎にアミノ酸のalliinを含む。alliinは無臭であるが、分解して刺激臭のあるallicinを生ずる。

*warfarin(INN)

* warfarin potassium・ワーファリン錠(エーザイ)

*評価不能とされるが「大蒜とwarfarin(INN)の併用によるINR上昇(1」の報告。

*大量摂取による硬膜外血腫(2

ginkgo(イチョウ)

イチョウ科。

英名:ginkgo。

Ginkgo biloba L.の種子(銀杏)、白果及び葉を薬用とする。外種子にはフェノール性化合物のギンゴール酸、ビロボール、微量の青酸配糖体、澱粉、脂肪。葉にはフラボノイドのイソムネチン、ギンゲチンが含まれる。鎮咳、夜尿症に用いられる。

多食又は生食すると中毒を起こし、死亡することがあるので注意が必要。

イチョウの若木の葉の抽出物質で活性を持った物質はギンコライドで、若木の葉や根に多量に存在する。イチョウ葉エキスはギンコライド(テルペン分子)以外にも多種類のフラボノイド(ギンコ・フラボン配糖体:ギンコ・ヘテロサイト)を含んでおり、両者がともに作用して相乗効果をもたらすと考えられている。

記憶力減退、集中の困難、放心、錯乱、エネルギーの欠如、疲労、抑鬱、眩暈、耳鳴に対する治療効果確認。また、アルツハイマー病を含む痴呆症の治療にも効果が見られている。

*イチョウ葉エキスを摂取した1時間後に被験者の毛細血管の血流が57%増加している。

*抗酸化作用を有する。

*ギンコライドの働きの一つにPAFと略称される血小板活性化因子(platelet activatingfactor)を抑制する作用なので、血小板の凝集を抑えて血小板の粘度を下げ、血餅ができないようにし、危険な血栓のリスクを減らす。

*aspirin

* aspirin・アスピリン錠・末

*可能性がある情報として「イチョウとaspirinとの併用による前房出血(1」の報告。
*サイアザイド系利尿剤

* benzylhydrochlothiazide・ベハイド錠(杏林)

* hydrochlorothiazide・ダイクロトライド錠(万有)

* methyclothiazide-販売中止-

* penflutiazide・ブリサイド錠(ブリストル)

* trichloromethiazide・フルイトラン錠(塩野義)

*評価不能とされるが「イチョウとサイアザイド系利尿剤の併用による血圧上昇(1」の報告。
*trazodone

* trazodone HCl・デジレル錠(ファルマシア)

*可能性がある情報として「イチョウと抗うつ薬trazodone(INN)の併用による昏睡(Possible)(1」の報告。
*warfarin(INN)

* warfarin potassium・ワーファリン錠(エーザイ)

*可能性がある情報として「イチョウとwarfarin(INN)の併用によるPTT(部分トロンボプラスチン時間)延長、プロトロンビン時間延長(1」の報告。
*ginkgoによる手術前後合併症(2
ginseng(高麗人参)

ウコギ科。

英名:ginseng。

別名:朝鮮人参。

中国東北部、朝鮮半島北部に自生する多年 草オタネニンジンPanax ginseng C.A.Meyerの細根を除いた根又は軽く湯通ししたもの。コルク層を除き陰干しにしたものを白参、蒸して乾燥したものを紅参という。精油、 ginsenoside系サポニン、糖を含み強壮剤として使用されるが、特に胃の疾患による全身の新陳代謝機能の低下した者の諸疾患に

有効。漢方処方に繁用される。

phenelzine *可能性がある情報として「高麗人参とphenelzine(INN)の併用による躁症状(1」の報告。
*warfarin(INN)

* warfarin potassium・ワーファリン錠(エーザイ)

*ほぼ信頼できる情報として「高麗人参とwarfarinの併用によるINR(国際標準比)低下(1」の報告。

*高麗人参による血小板凝集(2

goldenseal(ヒドラスチス)

キンポウゲ科。ヒドラスチス、Hydrastis canadensis L.。Ranunculaceaeの多年草。北米大陸東部の林内に生じる。黄色の根茎をヒドラスチス根(golden seal root)。アルカロイドhydrastine、berberin等を含み、流エキスを子宮止血薬又は苦味健胃薬とする。

*降圧剤

* alacepril・セタプリル錠(大日本)

* benazepril HCl・チバセン錠(ノバルティス)

* budralazine・ブテラジン錠(第一)

* bunazosin HCl・デタントール錠(エーザイ)

* cadralazine・カドラール錠(ノバルティス)

* captopril・カプトリル錠(ブリストル)

* cilazapril・インヒベース錠(ロシュ)

* clonidine HCl・カタプレス錠(ベーリンガー)

* delapril HCl・アデカット錠(武田)

* doxazosin mesilate・カルデナリン錠

(ファイザー)

* enalapril maleate・レニベース錠(万有)

* guanabenz acetate・ワイテンス錠(アズウェル)

* guanfacine HCl・エスタリック錠(ノバルティス)

* hydralazine HCl・アプレゾリン錠(ノバルティス)

* imidapril HCl・タナトリル錠(田辺)

* lisinopril・ゼストリル(アストラゼネカ)

* methyldoa・アルドメット錠(万有)

* nitroprusside sodium・ニトプロ注(丸石)

* perindopril erbumine・コバシル錠(第一)

* prazosin HCl・ミニプレス錠(ファイザー)

* quinapril HCl・コナン錠(三菱ウェルファーマ)

* rescinnamine・セルシナミンS錠(ケミファ)

* reserpine・アポプロン(第一)

* temocapril HCl・エースコール錠(三共)

* terazosin HCl・ハイトラシン錠(大日本)

* todralazine HCl・アピラコール錠(協和醗酵)

* trandolapril・オドリック錠(アベンティス)

* trimetaphan camsilate・アルフォナード注

(ロシュ)

* urapidil・エブランチン(科研)

降圧剤の作用増強(2
  *カルシウム拮抗剤

* amlodipine besilate・アムロジン錠(住友)

* aranidipine・サプレスタ錠(大鵬)

* barnidipine HCl・ヒポカ(山之内)

* benidipine HCl・コニール錠(協和醗酵)

* cilnidipine・アテレック錠(味の素)

* diltiazem HCl・ヘルベッサー(田辺)

* efonidipine HCl・ランデル錠(ゼリア)

* felodipine・スプレンジール錠(ノバルティス)

* manidipine HCl・カルスロット錠(武田)

* nicardipine HCl・ペルジピン(山之内)

* nifedipine・アダラート(バイエル)

* nilvadipine・ニバジール錠(藤沢)

* nisoldipine・バイミカード錠(バイエル)

* nitrendipine・バイロテンシン錠

(三菱ウェルファーマ)

* verapamil HCl・ワソラン(エーザイ)

カルシウム拮抗剤の作用増強(2
kava(カバ)

コショウ科。

別名:kawa-kawa、kava-kava。Piper methysticum Forst.の根及び根茎。成分としてカバピロン、kavain、dihydrokavain、methysticin、 dihydromethysticin

、yangonin、demethoxyyangonin

等。適応として抗不安作用、抗ストレス作用。

kava-kavaに含まれている精神活性を持った物質は、かなりの数確認されており、カバラクトン類と呼ばれる特殊な種類の化学物質である。カバラクトンは鎮静、催眠、抗痙攣作用をもたらすことが脳波によって確かめられている。

kava-kavaを過剰に摂取すると、眩暈や知覚の麻痺が起こり、カバ・カバ乱用症候群と呼ばれてきた症状が発現する。

独逸の健康当局は長期摂取で皮膚、髪、爪の一過性の黄変が発現するとしている。また、極めて稀ではあるが、皮膚のアレルギー反応、瞳孔の拡大、身体的平衡の乱れが起こりうる。医師の指示なしに3カ月以上の摂取はしないことの注意を指示している。

*alcohol(飲酒) 中枢神経系に作用するアルコールとkavaの併用によりkavaの作用増強の可能性。
*alprazolam

* alprazolam・ソラナックス錠(ファルマシア)

*評価不能とされるが「カバと抗不安薬alprazolam(INN)の併用による嗜眠、見当識障害(1」の報告。
*levodopa

* levodopa・ドパストン(三共)

*ほぼ信頼できる情報として「カバとパーキンソン病治療薬levodopa(INN)の併用によるoff期延長と回数増加(1」の報告。
*phenobarbital

* phenobarbital・フェノバール(藤永)

*中枢神経系に作用するphenobarbitalとkavaの併用によりkavaの作用増強の可能性。
*St.John’s wort *中枢神経系に影響を及ぼすどの様な物質とも併用してはならない。
*valerian(カノコソウ) *中枢神経系に影響を及ぼすどの様な物質とも併用してはならない。
*抗うつ薬

* amitriptyline HCl・トリプタノール(万有)

* amoxapine・アモキサン(ワイス)

* clomipramine HCl・アナフラニール

(ノバルティス)

* dosulepin HCl・プロチアデン錠(科研)

* fluvoxamine maleate・デプロメール錠(明治)

* imipramine HCl・トフラニール錠(ノバルティス)

* maprotiline HCl・ルジオミール錠

(ノバルティス)

* mianserin HCl・テトラミド錠(三共)

* milnacipran HCl・トレドミン錠

(ヤンセンファーマ)

* nortriptyline HCl・ノリトレン錠(大日本)

* paroxetine hydrochloride hydrate・パキシル錠(GSK)

* setiptiline maleate・テシプール錠(持田)

* trazodone HCl・デジレル錠(ファルマシア)

*中枢神経系に影響を及ぼすどの様な物質とも併用してはならない。

licorice(甘草)

[局]。マメ科。

英名:glycyrrhiza、licorice、liquorice。

和 名:甘草。ロシアカンゾウGlycyrrhiza glabra L.var.glandulifera Regel et HerderやGlycyrrhiza uralensis

Fisher等多くの同属植物の根及びストロン。甘味料、緩和、解毒薬あるいは消炎薬などとして世界各国で使用される。成分は甘味トリテルペン配糖体の glycyrrhizinの他、liquiritin等のイソフラボン類も多く知られている。

 

[015.11.HER: 2002.5.9.古泉秀夫・2004.3.31.改訂]


  1. )Fugh-Berman,A.,etal:ハーブ医薬品の相互作用:システマティック・レビュー
    <抄録>;Br.J.Clin.Pharmacol.52(5):587-595(2001.11)[医薬品関連情報,2002.1.p.55-56]
  2. Betz,J.M.,etal:手術前のハーブ製剤の使用;既報告に対するコメントと応答
    <抄録>;JAMA,286(20):2542-2544(2001.11.28.)[医薬関連情報,2002.1.p.72]
  3. 薬科学大辞典 第2版;広川書店,1993
  4. 井上博之・監訳:西洋生薬;広川書店,1999
  5. www.nichiyaku.or.jp/news/n000310.html,2000.3.15.
  6. 三橋 博・監修:原色牧野和漢薬草大図鑑;北隆館,1988
  7. 薬用ハーブの機能研究;健康産業新聞社,1999
  8. 丸元淑生・訳:奇跡の食品;角川春樹事務所,1998
  9. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2002

『B12含有食品について』(改訂第二版)  

金曜日, 8月 17th, 2007

KW:健康食品・機能性食品・vitamin・ビタミンB12・cobalamin・コバラミン・cyanocobalamin・シアノコバラミン・食品・末梢神経障害改善効果・手足のしびれ感・疼痛・糖尿病性神経障害改善・覚醒リズム異常・男性不妊症・生活習慣病発症予防

vitamin B12 は、13種類あるvitaminの中で最も分子量が大きく、複雑な構造をした赤色の化合物である。

化学構造上の特徴は、コリン環の中心にコバルト原子を含む環状構造を持ち、下方から5,6-ベンズイミダゾール構造が配位しており、これらの二つの構造を有する化合物はcobalaminと総称されている。このうち上方配位子と呼ばれる部分がシアノ基(CN)、水酸基(OH)、アデノシル基(Ado)、メチル基(CH3)になっている4種類が、vitaminとしての生理活性を持つ。cobalamin化合物のうち最も安定かつ活性が高いのはcyanocobalaminである。この水溶性のvitamin は、1973年に化学合成された。

vitamin B12 は動物性食品に含まれ、植物には含まれない。cobalamin構造は、細菌や藻類等の微生物のみが合成でき、ヒトの摂取源としては、動物の肝臓や魚介類の動物性食品が寄与している。

通常、厳格な菜食主義者ではなく、普通の食生活をしているヒトでは、vitamin B12欠乏はみられない。

食品中のvitamin B12は、その殆どが蛋白質と結合している。結合しているのは胃内、小腸上部で、ペプシンや膵液のプロテアーゼの作用により、蛋白質と切り離される。分離されたvitamin B12は、内因子と呼ばれる胃液分泌中の蛋白質がvitamin B12と結合して、回腸での吸収を促進する。正常な条件下でのvitamin B12の吸収率は30%だが、内因子が存在しない場合、吸収率は1%未満となる。vitamin B12と内因子の結合のためには塩酸が必要である。

vitamin B12 の吸収は、加齢あるいは鉄又はvitamin B6欠乏によって低下し、妊娠中は増大する。体内では主に肝及び腎に最高2000μgまで貯蔵され、過剰分は尿に排泄される。vitamin B12は利用速度が遅く、組織貯蔵量もかなりあるので、欠乏 [組織貯蔵が0.1mg未満及び血清レベルが150pg/mL(110pmmol/L)未満]が起こるには通常多くの年月を要する。vitamin B12の肝臓での貯蔵は正常では十分であるので、内因子の欠如の場合は3?5年間生理的必要量を保持できるが、腸管循環による再吸収能全体の欠如の場合は、数カ月から1年しか保持できない。しかし、肝臓での貯蔵は限られており、成長の速さによる需要は高いので、血液学的及び神経学的変化はより速く起こる。

第6次改定日本人の栄養所要量-食事摂取基準-によれば、各年齢別のビタミンB12の1日摂取量は以下の通りである。

年齢(年) 男性所要量(μg) 女性所要量(μg)
0-(月) 0.2 0.2
6- (月) 0.2 0.2
1-2 0.8 0.8
3-5 0.9 0.9
6-8 1.3 1.3
9-11 1.6 1.6
12-14 2.1 2.1
15-17 2.3 2.3
18-29 2.4 2.4
30-49 2.4 2.4
50-69 2.4 2.4
70以上 2.4 2.4
妊婦 ? +0.2
授乳婦 ? +0.2

ビタミンB12 含有食品一覧(可食部100g当たり:μg)

含有量の範囲 食品名
77.6-44.4μg/100g アマ海苔(干し海苔)77.6、シジミ(生)62.4、アゲマキ貝(生)59.4、鮭筋子(塩蔵)53.9、牛(肝臓)52.8、浅蜊(生)52.4、ホッキ貝(生)47.5、白鮭(イクラ)47.3、鶏(肝臓)44.4
39.1-11.0 μg/100g 鮟鱇(肝)39.1、青海苔(素干し)31.8、ハマグリ(生)28.4、牡蠣(養殖生)28.1、豚(肝臓)25.2、ウルメ鰯(丸干し)24.7、豚(スモークレバー)24.4、
牛(腎臓)22.1、牛(小腸-ヒモ、生)20.5、キャビア(塩蔵品)18.7、鱈子(生)18.1、秋刀魚(生)17.7、鰊(生)17.4、烏賊(塩辛-赤作り)16.7、
豚(腎臓)15.3、ホタルイカ(生)14.0、片口鰯(生)13.9、イタヤガイ(生)13.1、ムロアジ(焼き)12.9、シャコ(茹で)12.9、ムロアジ(生)12.8、ソウダ鰹(生)12.4、烏賊(するめ)12.3、牛(心臓)12.1、ホタテ貝(生)11.4、数の子(生)11.4、イカナゴ(生)11.0
10.7-5.2 μg/100g ホッケ(生)10.7、鯖(生)10.6、鮎(天然、生)10.3、鯉(生)10.0、真鰯(生)9.5、紅鮭(生)9.4、桜マス(焼き)9.2、本もろこ(生)9.0、タイセイヨウ鮭(生)8.9、泥鰌(生)8.5、鰹(生)8.4、キビナゴ(生)8.3、カラフトマス(焼き)7.9、ワカサギ(生)7.9、バカ貝(内臓除く-生)7.9、桜マス(生)7.6、フォアグラ(茹で)7.6、柳葉魚(生干し、生)7.5、馬肉
7.1、山女(養殖、生)6.6、牛(舌)6.1、白鮭(生)5.9、イサキ(生)5.8、鱈場蟹(生)5.8、黄肌鮪(生)5.8、虹鱒(海面養殖、生)5.7、虹鱒(生)5.7、あまご-養殖(生)5.5、チカ(生)5.4、サワラ(生)5.3、銀鮭(生)5.2
4.7-3.0μg/100g ボラ(生)4.7、ウズラ卵全卵(生)4.7、牛(スモークタン)4.7、ワタリガニ(生)4.7、カラフトマス(生)4.6、牛(第三胃-センマイ、生)4.6、メバチ鮪(生)4.5、タカサゴ(生)4.4、シラス干し4.3、カジキ鮪(生)4.3、ずわい蟹(生)4.3、イワナ(養殖、生)4.2、マスノスケ(焼き)4.1、助任鱈(生)4.0、鱚(生)3.9、マダラ(焼き)3.9、紅鮭(焼き) 3.8、豚(子宮、生)3.8、ホヤ(生)3.8、鰤(天然、生)3.8、紅鮭(焼き)3.8、ハマフエフキ(生)3.7、黒鯛(生)3.7、牛(第四胃-赤センマイ、茹で) 3.6、タイセイヨウ鮭(焼き)3.6、鰻(生)3.5、牛(ビーフジャーキー)3.5、ハマチ(鰤-養殖、生)3.4、ニギス(生)3.4、マスノスケ(生)3.4、チーズホエーパウダー 3.4、飛び魚(生)3.3、おおさが[別名:こうじんめぬけ](生)3.3、トコブシ(内臓除く、生)3.2、プロセスチーズ 3.2、シマアジ(養殖、生)3.2、虹鱒(海面養殖、焼き)3.1、マガレイ(生)3.1、マダラ(シラコ)3.1、マフグ(生)3.0、鶏卵卵黄(生)3.0、イトヨリ(生)3.0、メゴチ(生) 3.0
2.9-1.5μg/100g マコガレイ(生)2.9、銀鱈(生)2.8、ビンナガ鮪(生)2.8、イボ鯛(生)2.7、鯊(生)2.7、シイラ(生)2.6、グチ(生)2.5、豚(心臓)2.5、甘エビ(生)2.4、赤烏賊(内臓除く、生)2.3、カマス(生)2.3、テラピア(生)2.3、なまこ(生)2.3、穴子(生)2.3、ホウボウ(生)2.2、アイナメ(生)2.2、南鮪赤身(生)2.2、豚-舌(生)2.2、ヒラマサ(生)2.1、甘鯛(生)2.1、オヒョウ(生)2.1、牛(第二胃-ハチノス、茹で)2.0、ホタテ貝貝柱(生)2.0、牛(第一胃-ミノ、茹で)2.0、鱸(生)2.0、綿羊(マトン-脂身付、生)
2.0、牛(第一胃-ミノ、生)2.0、メカジキ(生)1.9、虎フグ(養殖、生)1.9、ハモ(生)1.9、ムツ(生)1.9、車海老(養殖生)1.9、毛ガニ(生)1.9、脱脂粉乳(国産)1.8、メジナ(生)1.8、牛(尾)1.8、乳用肥育雄牛(ヒレ)1.8、牛(子宮-茹で)1.7、ハタハタ(生)1.7、乳用肥育牛(肩ロース脂身無)1.7、乳用肥育牛(肩ロース脂身)1.7、鶏(心臓)1.7、 鶏(筋胃-砂肝)1.7、コチ(生)1.7、牛(直腸-てっぽう、生)1.7、乳用肥育牛(脂身-肩ロース)1.7、アラスカめぬけ1.6、牛乳(全粉乳)1.6、クロカジキ(生)1.5、目張(生)1.5、南鮪脂身(生)1.5
1.4-1.0 μg/100g 真鯛-養殖(生)1.4、ウマズラハギ(生)1.4、カワハギ(生)1.3、牛(大腸-しまちょう、生)1.3、サザエ(内臓除く、生)1.3、ウニ(生)1.3、平目(養殖、生)1.3、黒鮪(赤身、生)1.3、カマンベールチーズ1.3、石鯛(生)1.3、マダラ(生)1.3、真だこ(茹で)1.2、真鯛(天然、生)1.2、鮟鱇(生)1.2、乳用肥育牛(もも脂身付)1.2、乳用肥育牛(もも脂身無)1.2、カサゴ(生)1.2、烏骨鶏(全卵生)1.1、芝エビ(生)1.1、合鴨肉(皮付き)1.1、金目鯛(生)1.1、豚(ウインナーソーセージ
)1.1、綿羊(ラム-ロース、脂身付) 1.1、本鮪(脂身、生)1.0、豚(大腸、茹で)
1.0、平目(天然、生)1.0、キチジ(生)1.0
0.9-0.1 μg/100g ブラックタイガー(養殖、生)0.9、太刀魚(生)0.9、豚(胃-ガツ、茹で)0.9、鶏卵(全卵、生)0.9、豚(胃腸、茹で)0.9、メルルーサ(生)0.8、鰺(生)0.7、アコウダイ(生)0.7、イノブタ肉(脂身付)0.7、豚(ベーコン)0.7、豚(軟骨-ふえがらみ、茹で)0.6、鹿肉(生)0.6、豚(生ハム長期熟成)0.6、オコゼ(生)0.6、助任鱈(すり身)0.6
、マジェラン鮎魚女(生)0.6、エスカルゴ(水煮缶詰)0.6、豚(生ハム促成)0.4、豚(生ソーセージ)0.4、牛乳(ジャージー種)0.4、鮑(内臓除く、生)0.4、若鶏(もも皮なし)0.4、豚足0.4、豚(ロースハム)0.4、牛(腱-すじ、茹で)0.4、豚(小腸-ヒモ、茹で)0.4、豚(もも脂身無)0.3、豚(もも脂身付)0.3、鶏(胸皮)0.3、豚(ロース脂身付)0.3、豚(ロース脂身無)0.3、豚(ヒレ)0.3、マヨネーズ(卵黄型)
0.3、イトヨリ鯛(すり身)0.3、伊勢エビ(生)0.3、ヨーグルト(脱脂加糖)0.3、ワカメ(生)0.3、
普通牛乳0.3、ヨーグルトドリンクタイプ0.2、乾燥ワカメ(素干し)0.2、塩クラゲ(塩抜き)0.2、若鶏(ムネ皮無、生)0.2、乾燥ワカメ(灰干し、水晒)0.2、クリーム(乳脂肪)0.2、米味噌(淡色辛味噌)0.1、米味噌(甘味噌)0.1、モズク(塩抜き)0.1、マヨネーズ(全卵型)0.1、果実酢(葡萄酢)0.1、なが昆布(素干し)0.1、液状乳脂肪
0.1、醗酵バター 0.1、無塩バター0.1 、バター(家庭用有塩バター) 0.1

vitamin B12 欠乏症:vitamin B12 の必要量は極微量であるため、動物性食品を適度に取り入れた通常の食事を摂取していれば、欠乏症を惹起することはない。稀に菜食主義者並びに胃腸疾患患者で、欠乏症が報告されている。胃切除、萎縮性胃炎、ピロリ菌の感染等によりvitamin
B12 の吸収に不可欠な内因子の分泌障害によるものと考えられている。典型的なvitamin
B12 欠乏症は『悪性貧血』である。その他、身体の痛み、脱力感、覚醒リズムの乱れ、神経機能障害がみられることもある。

vitamin B12 欠乏の原因として、コレステロール吸着剤、抗潰瘍薬、vitamin B12 の吸収又は代謝を阻害する薬剤を長期服用している患者も要注意。

vitamin B12 欠乏症状

見当識障害
[周囲の環境についての熟知感の喪失、方向感覚の喪失]
しびれ 四肢の刺痛 高齢者の痴呆 憂鬱 混乱
興奮 視力低下 妄想 幻覚 疲労感
活動性眩暈 吐気 白血球数低下 食欲低下 嘔吐
下痢 皮膚炎

[015.9.VIT:2003.4.8.古泉秀夫.第二改訂]


  1. 健康・栄養情報研究会・編:日本人の栄養所要量-食事摂取基準,第一出版,1999
  2. Otsuka Academy of Vitamin EXperts,1999
  3. 福島雅典・総監修:メルクマニュアル 第17版 日本語版;日経BP社,1999
  4. 和田政裕:フォローアップ成分の栄養学 第25回;食生活,94(10):48-51(2000)
  5. 香川芳子・監修:四訂食品成分表;女子栄養大学出版部,2000
  6. 香川芳子・監修:五訂食品成分表;女子栄養大学出版部,2003

硫酸アトロピン(tropine sulfate)の毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 硫 酸アトロピン(tropine sulfate)
成分 硫 酸アトロピン(tropine sulfate)
一般的性状 ア セチルコリン、ムスカリン様薬物に対し競合的拮抗作用を発現(抗コリン作用)。この作用は平滑筋、心筋及び外分泌腺のムスカリン受容体に対し特に選択性が
高く、消化管、胆管、膀胱、尿管等の攣縮を寛解するとともに、唾液、気管支粘膜、胃液、膵液等の分泌を抑制する。心臓に対し、低用量では通常徐脈が現れる
が、高用量では心拍数を増加させる。
吸収:皮膚、粘膜、腸管から速やかに吸収し、胃からは吸収しない。
分布:血中から速やかに消失して体内に分布する。蛋白結合率50%、分布容量2.3L/kg。
排泄:8時間で80%、24時間で94%が尿中に排泄される。30-50%が未変化体で、2%以下が肝で代謝される。
毒性 経 口推定致死量
小児:10-20mg(ただし、小児では10mg以下の致死例もある)。
成人:約100mg(成人では1gの服用でも回復例)。
症状 経 口:30分ほどで口渇が現れ、体のふらつき、嘔気、倦怠感、眠気、散瞳、遠近調節力や対光反射の消失(羞明感や眼のちらつき)。
発汗が抑制され、皮膚が乾燥し、熱感をもつ。特に小児の場合には、顔面、首、上半身に皮膚の紅潮を見る。また体温が上昇する。やがて興奮が始まり、痙攣、
錯乱、幻覚、活動亢進などが見られる。重篤な場合には昏睡から死に至る。
血圧上昇、頻脈が見られるが、末期には血圧低下、呼吸麻痺を来す。

過量等投与:アトロピン中毒
徴候・症状:頻脈、心悸亢進、口渇、散瞳、近接視困難、嚥下困難、頭痛、熱感、排尿障害、腸蠕動減弱、不安、興奮、譫妄等。
処置 医 療機関での処置
基本的処置:消化管の蠕動が抑制されるため、摂取後24時間以内であれば催吐、胃洗浄、活性炭と下剤の投与。
拮抗剤:フィゾスチグミン(未市販。院内製剤)2mgを緩徐に静注。追加投与が必要な場合、20分程度経過後1-2mg追加。小児では0.5mgを使用
(フィゾスチグミンは、気管支喘息、四肢などの壊死、心疾患、消化管や尿路の機械的狭窄を増悪させるので、使用に当たっては十分な注意が必要である)。
対症療法:膀胱の弛緩性麻痺が起こるため、尿閉となり、しばしば導尿の必要がある。処置:重度な抗コリン症状には、ChE阻 害薬(ネオスチグミン)0.5-1mgを筋注。必要に応じて2、3時間毎に繰り返す。
事例 「大 佐、あなたは永年インドに住んでいらっしゃったそうですが、薬を飲ませて人を発狂させたという事件に出会いませんでしたか」
フロビッシャー大佐の顔が得意げに輝いた。
「わたし自身は一度も目撃したことはないが、そういう話しはたびたび聞きましたよ。ダツラという植物から採った毒薬を少しずつ飲ませると、発狂してしまう
のです。」
「そのとおりです。ところで、そのダツラの毒物作用は基本的にはアルカロイド・アトロピンによるもので?これはベラドンナという植物からも採られていま
す。このベラドンナの調合剤は一般に市販されていますし、スルファ・アトロピンは目薬などに自由に調合されています。したがって、処方箋を複写したり、方
々の眼科医にそれを書かせたりすれば、怪しまれずにかなり大量の毒薬を手に入れることができるでしょう。それからアルカロイドを抽出して、それをひげそり
用のクリームに入れる。そしてそのクリームを常用していると、吹出物が出来ます。それらの吹出物はひげをそるたびにすりむけ、毒薬がたえず組織の中に入る
ようになるでしょう。そうするうちに、やがて一定の症状が現れてまいれます?口や喉が乾く。飲み込むことが困難になる。幻覚、複視など?これらはすべて、
ヒュー・チャンドラーくんが実際に経験した症状なのです」
かれは青年をふりかえった。
「きみの心からの疑惑をきれいに拭い去るために、仮定ではなくてれっきとした事実を教えてあげよう。きみの使っていたひげそり用のクリームは、大量のスル
ファ・アトロピンを含んでいた。ぼくはサンプルを取って分析してもらったのです」 [アガサ・クリスティー:ヘラクレスの冒険-クレタ島の雄牛-(高橋豊・訳);ハヤカワ文庫,2001
備考 硫 酸アトロピンは毒殺目的で使用したのではなく、錯乱、幻覚を利用して相手を追い込んでいくという、やや陰湿な使われ方がされている。しかも原料の硫酸アト
ロピンは点眼剤を利用して入手し、経皮吸収で効果を期待するという方法が取られている。
しかし、硫酸アトロピンによる錯乱、幻覚の発生は、中毒症状によるものであり、相当量の摂取が必要である。果たして、経皮吸収で中毒量を摂取させるとする
と、どの程度の濃度を必要とするのか、具体的な数値の報告は検索出来なかった。
文献 1) 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2004
2)鵜飼 卓・監修:第三版 急性中毒処置の手引き;薬業時報社,1999
調査者 古泉秀夫 記入日 2005.1.16.

リシン(ricin)の毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 トウゴマ(種子・種子抽出物)
成分 リシン(ricin)
一般的性状 トウダイグサ科トウゴマ(Ricinus communis:ヒマ、ヒマシ、蓖麻子)の種子に含まれる毒素蛋白質で、赤血球の凝集素の一種。生の種子を多量に食べたり、水抽出液を注射すると、消化
管やその他の臓器に出血を起こし死亡する。加熱により毒力は減弱する。リシンは経口毒の一種でヒマの種子から1890年代に分離された。脂溶性でないた
め、ヒマシ油中には存在せず、絞り滓の中に含まれる。
分子量:65,000の高分子蛋白である。大きい分子であるにもかかわらず胃 での加水分解がされ難く、腸でendocytosisの機作で体内に取り込まれる。蛋白はA鎖とB鎖から成立しており-S-S-結合でつながっている。経
肺ルートでも同様の機作で体内に取り込まれる。
リシンは、リボソームを標的とした毒素でもあり、酵素でもあるのでリボ毒 (ribotoxins)という。
毒性 * 青酸カリの10,000倍。ホスゲンの40倍の毒力。大気1m3 中に30mgのリシンがあれば、1分間で半数の人が死亡する。マウスLD50(腹 腔内)1μg/kg、ヒトの致死量は1-10μg/kgである。
*小児では種子1-3粒、成人では8粒で致命的といわれているが、24粒を砕いて食べても無症状というのがあり、経口摂取したときの毒性は不定である。た
だし、ギリシャ本草には30粒ほどの種子を洗って細かくたたいたものを内服すると、腹中の粘液、胆汁、水などを大便を通して駆逐する。また嘔吐も起こさせ
るの記載も見られる。
*最小致死量:0.03mg。リシンは経口投与でも強い毒性を有するが、非経口投与の場合の方が毒性は強い。これは腸管からの吸収が悪いからであるとされ
ている。リシンの中毒症状は、投与後数時間経ってから現れ大量投与しても10時間以上経過しないと死亡しないといわれている。
症状 蝙蝠傘の先で刺された例では、大腿後面にニキビ様の傷があり、数時間後高熱を発した。翌日入院時、高 熱と嘔吐があり、大腿後面に直径6cmの発赤腫脹、その中心に直径2mmの注射の後のような傷があった。血性の嘔吐が続き、翌日にはショック状態になり、
心電図に伝導障害が現れ、白血球数33220/mm3、腎不全となって11日目に死亡した。
中毒症状の発生は数時間であり速効性の生物毒ガスである。
症状が現れるまでに数時間の潜伏期があり、吐気、嘔吐、下痢、疝痛があり、重 症では血性嘔吐、血性下痢が見られる。腎臓、肝臓、脾臓に障害が現れる。体温は当初上昇後に下降する。初期には急性胃腸炎、末期には敗血症性ショックに似
る。
処置 抗生物質は無効。ワクチン無。抗毒血清無。
対症療法しかない。またそれが有効である。経口摂取4時間以内なら、催吐が有効と考えられる。活性炭によく吸着される。嘔吐と下痢で脱水が著しいので、水
と電解質の補給を行う。
尿中排泄は僅かであり強制利尿は効果がないと考えられている。透析はされない。遊離ヘモグロビンによる腎障害防止のため、尿のアルカリ化が有効と考えられ
るの記載が見られる。
事例 郵 便で送られてきたチョコレートに、砒素が入れられていたが、人が死ぬほどではなく、かなり重症に陥らせるほどのものであった。続いて謎のプトマイン中毒事
件がサーンリー農場で起こった。中毒の原因はサンドウィッチに入っていた無花果のペーストではないかと考えられている。
分析の結果により、使用された毒物は非常な猛毒を有する植物性蛋白質の一種、リチンと考えられます。まだこのことは、他言無用にお願いします。トミーは手紙を取り落とし、あわてて拾い上げた。
「リチンか」彼はつぶやいた。「リチンについて何か知っているかい、タペンス?きみはこういうことには詳しかったよね」
「リチンねえ」タペンスは考え込んだ。「たしかにヒマシ油から取れるんじゃなかったかしら」
「ヒマシ油はどうも好きになれなかったんだ。これからはますます嫌いになりそうだよ」
「ヒマシ油自体は大丈夫なのよ。ヒマシ油を採るヒマの種子からリチンを抽出するの。たしか今朝、庭にヒマが生えているのを見たわね?つやつやした葉っぱ
の、背の高い植物よ」 [アガサ・クリスティー(坂口玲子・訳)おしどり探偵-死のひそむ家;早川書房,2004]
更に実際に起きた事件として、次の報告がされている。
[1]1978年英国に亡命していたブルガリアからの亡命者ゲオルギ・マルコフ氏は、通勤の途中突然太股を何かで刺されたように感じた。振り返ると一人の男が
傘を拾いながら侘びを述べた。その晩マルコフ氏は発熱し、血圧も下がり2日後に死亡した。スコットランドヤードが解剖した結果、大腿部に先に針が付いた小
さな金属の入れ物が見つかった。
[2]フランスに亡命していたブルガリア人新聞記者コストフ氏が、パリの地下鉄に乗車中、背中をチクリと針の先で刺されたように感じた。その晩、コストフ氏は
高熱にうなされた。X線で検査した結果、背中の皮膚の下に小さい金属の入れ物が発見された。12日間入院したが、無事退院した。
備考 * ヒマシ油は下剤として使用される。
*両大戦を通じて英国では“W”という暗号名で知られていた。世界五大猛毒(テタヌストキシン、ボツリヌストキシン、ジフテリアトキシン、グラミシジン、
リシン)の一つ。
小説では『リチン』とされているが、英名の『ricin』をリチンとしたものと考えられる。いずれにしろヒマシ油の原料は蓖麻子で、ヒマシ油を絞った油糟
の方に『リシン』は含まれているとされている。従ってこの物語で『リチン』とされているものは、『リシン』で間違いないものと思われる。
米食品医薬品局(FDA)は30日、テロに使用される猛毒リシンに対するワク チンが開発され、安全性を確認する人間への臨床試験を承認したことを明らかにした。
承認を得たテキサス州立大が近く15人のボランティアに対して実施する。ワクチンは遺伝子操作された蛋白質で、投与された人のリシンに対する免疫力を高
め、中毒症状を防ぐ。リシンは植物のヒマの種子からヒマシ油を搾った滓から簡単に抽出され、猛毒をもつが、これまでワクチンや解毒剤はなかった。米国では
昨年11月にホワイトハウスあての郵便物から脅迫状とともにリシンの粉末が発見されるなど、テロや脅かしの目的で悪用される事件が相次いでいる。(ワシン
トン支局) [読売新聞,第46231号,2004.12.2.]。
文献 1) 薬科学大辞典 第2版;広川書店,1993
2)Anthony T.Tu:生物兵器、テロとその対処法;じほう,2002
3)内藤裕史:中毒百科-事例・病態・治療;南江堂,2001
4)大塚恭男:東西生薬考;創元社,1993
5)大木幸介:毒物雑学事典-ヘビ毒から発ガン物質まで-;講談社ブルーバックス,1999
6)舟山信次:図解雑学毒の科学;ナツメ社,2004
調査者 古泉秀夫 記入日 2004.12.6.

治葛(ヤカツ)の毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 胡 蔓藤(Gelsemium elegans Benth.)・鉤吻(コウフン)
成分 主なalkaloidは、gelsemine(ゲルセミン)、gelseverine(ゲルセベリ ン)、koumine(コウミン)、gelsemicine(ゲルセミシン)、gelsedine(ゲルセジン)、humantenirine(フマンテ
ニリン)など。
成分:鉤吻の根、茎、葉には、alkaloidとしてkoumine、コウミ ニシン(kouminicine)、コウミニジン(kouminidine)、ゲルセミン(gelsemine)、センペルビン、コウニジン
(kounidine)が含まれ、このうちkoumineの含有量が最も多い。kouminicineは劇毒で最も重要な有効成分である。別の報告による
と福建産の鉤吻の根にはgelsemine、koumine、kouminidine、コウミシン(koumicine)、コウミジン (koumidine)が、広東産鉤吻の根にはkoumine、コウミニジン(kouminidine)、コウミシン(koumicine)、コウミジン
(koumidine)が含まれると報告されている。
一般的性状 胡蔓藤はマチン科ゲルセミウム属の植物で、中国南部の広東、広西、福建省に分布している。学名: Gelsemium elegans Benth.。根と根皮を鉤吻(コウフン)と称し、薬用に用いる。根は周年取ることができ、根を洗浄して乾燥する。根は円柱状でやや湾曲し、ひげ根は少な
く、質は硬く折れ難い。リウマチの痛み、湿疹、でき物、打ち身などに外用される。Gelsemium属には3種類の植物が属し、 G.sempervirens(センピルヴィレンス)、G.rankinii(ランキニ)は北アメリカに分布し、elegansのみが中国から東南アジア
にかけて隔離分布する。sempervirens、rankiniiについて成分的には近似であるが、エレガンスほどに猛毒ではないとされている。根を含
む全草にGelsemium alkaloidを含む。
基原:フジウツギ科の植物。胡蔓藤の全草。原植物:Gelsemium elegans Benth.常緑の蔓草。枝は光沢を帯びなめらか。日当たりのよい山の斜面、道端の草むら、低木の茂みに生える。分布は浙江、福建、広東、広西、貴州、雲
南。
同意語:胡蔓草、シュア・ノーツア(タイ少数民族:食べれば死ぬからの呼 称)、野葛、秦鉤吻、毒根、冶葛、黄野葛、除辛(ジョシン)、吻莽(フンモウ)、断腸草、黄藤、爛腸草、朝陽草、大茶薬、虎狼草、黄花苦晩藤、黄猛菜、大
茶藤、大炮葉、苦晩公、荷班薬、発冷藤、大茶葉、藤黄、大鶏苦蔓(ダイケイクマン)、羊帯帰、(ヨウタイキ)。「神農本草経」に冶葛、鉤吻等の名称で記載されている。アルカロイドを含み、 elegans(優美な)という名前に反して猛毒で、毒殺に用いられたという。現在では神経痛、リウマチや打ち身などに外用されるだけである。日本には奈
良時代に唐から胡蔓藤の根が冶葛の名で渡来し、奈良の正倉院には冶葛の現物とその専用容器の冶葛壺が残っている。
胡蔓藤の民間での使用は煎汁を解熱に、妊娠時の腰痛に温めた葉を1日2回、3-4日間継続して貼付する。
毒性 Gelsemium alkaloidは毒性が強いことで知られているが、gelsemine、gelsemicineが毒性の本体と考えられているが、いずれもN-メトキシ
オキシインドールであって、この部分構造が毒性発現に必須のように思われる。gelsemicineの致死量は0.05mgである。
南米で発見されたクラーレ、インド・東南アジアに分布するマチンから産するス トリキニーネと類似の神経毒。
「葉3枚とコップ1杯の水で死ぬ」という民間伝承がある。本品は劇毒で、根と 葉(特に若葉)の毒性が最も大きい。Gelsemium alkaloidの動物実験の結果、注射・経口摂取により致死的結果を及ぼすことが確認されている。また、矢毒として使用した場合、動物体内で毒成分は長
期にわたって効力を持続するの報告がある。コウミニシンのウサギに対するMLDは0.8mg/kgである。
症状 Gelsemium alkaloidの毒性は、中枢神経に作用し、特に呼吸中枢に対する直接作用であって、迷走神経には作用しない。また、心臓の機能に影響を与えることもな
い。末梢血管への作用も認められない。
致死量を2回注射し、呼吸が停止しているにもかかわらず、心臓はしばらくの間 動くという。
中毒の主な症状は呼吸麻痺で、軽度のものは呼吸困難、重度のものは呼吸停止で 死に至る。致死量のgelsemicineで動物の呼吸が停止後も、心臓はなお鼓動し続けるため、呼吸抑制は中枢性のものではない。エフェドリン、ピクロ
トキシンも顕著な解毒作用はない。その他、動物が中毒すると全て眼瞼下垂・頭部下垂・軟脚・全身筋肉の弱化が現れることから、その作用は脊髄運動ニューロ
ンの麻痺にあるものと推測される。またgelsemineはマウスに対し鎮痛作用を持つが、その有効薬剤量は中毒量とほぼ同じである。gelsemine
は循環器系統には顕著な作用がない。gelsemineにはクラーレ様の作用はなく、神経節も麻痺せず、中枢の鎮静作用もない。
中毒の主な症状[1]神経筋肉症状:眩暈、言語含糊(舌のもつれ)、筋肉弛緩、無力、嚥下困難、呼吸筋周囲の神経麻痺、運動失調、昏迷(失神)など。
[2]眼部症状:複視、視力減退、眼瞼下垂、瞳孔散大など。
[3]消化器症状:口腔や咽喉の灼熱、悪心、嘔吐、腹痛、下痢、便秘、腹脹など。
[4]循環器及び呼吸器系症状:初期は心臓拍動が緩慢だが、次第に速くなり、呼吸困難、呼吸麻痺、虚脱など。
症状の出方の遅速は服用方法と関係がある。根の煎汁又は新鮮な幼芽を摂食すると症状は直ぐに出ることが多い。根本体を摂食した場合、症状の出方は遅く、2
時間経過後に初めて症状が発現するものがある。
処置 胡蔓藤の毒性成分に特効的拮抗薬は報告されていない。胃洗浄、催吐、瀉下。
輸液及び対症療法。
事例 「こ れは冶葛だな」
犯行現場の座敷で、但馬屋彦兵衛の死骸を改めた検屍の役人に、そう言われて、五郎八は眉を寄せた。
「何です、そりゃあ」
治葛………中国の広東省や福建省一帯に分布する、フジウツギ科コマンキョウの根のことだ。
コマンキョウは、アルカロイドを含有する猛毒植物である。断腸草ともいうが、これは、治葛の毒にあたった者の苦しみの凄まじさから来た命名であろう。「以前に、薬種問屋の子供が蔵で遊んでいて、間違って治葛を口にしたな。可哀想に死んでしまったのだが、同じだよ、銚子の中からも、わずかに溶け残った治
葛が見つかっている」
「日本の毒じゃないんですね」と、お藤。 [鳴海 丈:柳家お藤捕物暦-心の毒;光文社,2003]
備考 原 作では『フジウツギ科コマンキョウ』と書かれているが、最近の分類では『マチン科』に分類され、名称は『胡蔓藤』あるいは『鉤吻』とされている。名称につ
いては同意語中にも『コマンキョウ』とする呼称は見られない。
『胡蔓藤』の根が、『冶葛(ヤカツ)』として今も正倉院に保存されているというが、現在では入手困難とする報告が見られるため、江戸時代の薬種商が、日常
的に取り扱うことができた生薬原料なのかどうか、疑問であるが、根が医薬品として利用できるということから、あるいは乱獲された結果、最近は入手困難な植
物ということかもしれない。
文献 1) 三橋 博・監修:原色牧野和漢薬草大図鑑;北隆館,19882)http://www.nippon-shinyaku.co.jp/ns07/ns07_04/index.html,2004.6.25.
3)植松 黎:毒草の誘惑;講談社,1997
4)田中 治・他編:天然物化学 改訂第6版;南江堂,2002
5)上海科学技術出版社・編:中薬大辞典第二巻;小学館,1985
調査者 古泉秀夫 記入日 2004.7.1.

有機ヒ素化合物の毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 井戸水-有機ヒ素化合物(Diphenylcyanoarsine)
成分 三塩化砒素誘導体でフェニル基を持つジフェニルクロロアルシン (diphenylchloroarsine)
とアダムサイト(ジフェニルアミンクロロアルシン;diphenylaminchloroarsine)、シアンとフェニル基を持つジフェニルシアノアル
シン(diphenylcyanoarsine)は、嘔吐・くしゃみ性ガスとして知られている。diphenylcyanoarsine
(DC)は、旧陸軍が日中戦争中、武漢攻略戦などで使用した赤筒(あか1号)である。
その他、本品は有機化合物であるジフェニルアルシン化合物(殆どがジフェニルアルシン酸;diphenylarsinic acid)である。ジフェニルアルシン酸は、diphenylcyanoarsineが分解して生成したものである。 diphenylcyanoarsineは旧陸軍が、毒ガスとして使用する目的で、製造したもので、くしゃみ剤・嘔吐剤として使用された。
一般的性状 -Diphenylcyanoarsine の物理的化学的性状-
US code: DC。CAS 番号:23525-22-6。分子量:255.0、化学式:(C6H5)2AsCN。沸点:
350℃(分解)、比重/密度:1.3、蒸気密度:8.8 (空気=1)、蒸気圧:0.0002
mmHg (20℃)、揮発性:2.8 mg/m3 (20℃)。性状:無色固体、ニンニク、苦みのあるアーモンドの臭い。水に不溶。有機溶媒に可溶。融点:
31.5 - 35℃。
毒性 暴露経路:吸入、経口摂取、皮膚や眼への局所刺激。
diphenylchloroarsine(DA)より毒性が強い。通常、使 用濃度では、効果は暴露が中止後約30分間持続。高濃度の場合は効果が数時間持続する。作用速度はきわめて迅速。300℃で約25%分解。爆発させて空中
で微粒子化し散布するが、爆発によって大部分が分解する。
最小刺激濃度:0.25 mg/m3
砒素(arsenic)は原形質毒であり、SH基系酵素活性阻害作用。平滑筋 麻痺、末梢神経への毒作用。皮膚・粘膜の刺激・腐食作用。ヒト(経口)推定致死量200-300mg/kg。三酸化砒素(arsenic trioxide)は消化液に溶け吸収されやすい。皮膚・粘膜からも吸収される。刺激作用、腐食作用。急性中毒は、大量摂取後30分-数時間で症状出現。
細胞代謝障害、消化管の血管透過性亢進。ヒトLD50 (経口)143mg/kg、ヒトTCL10(吸入) 0.11mg/m3。
症状 diphenylcyanoarsineに曝露されると、上気道、眼を刺激し、咳、鼻汁、唾液、気管
分泌物の増加、流涙、前頭部・上顎部・歯の疼痛、胸痛、吐き気、嘔吐が著しいが、曝露から隔離されれば、30分から2時間で回復する。
その他、嘔吐剤は、上部気道や目を刺激し、催涙効果も示すが、激しい制御不能
のくしゃみ、咳、吐き気、嘔吐、不快感を引き起こす。主な物質としては、アダムサイト
(DM)、diphenylchloroarsine (DA) 、diphenylcyanoarsine (DC) がある。これらはくしゃみ剤としても分類される。症状は、眼や粘膜の刺激、鼻汁。くしゃみ、咳、頭痛、胸部圧迫感、吐き気、不快感。
処置 砒 素(arsenic)として
胃洗浄(温水、重曹水)は本品の不溶性化合物を摂食してから4時間以内は有効
である。しかし、有毒な溶解物に対してはおそらく無効である。塩類下剤。ジメルカプロールの筋肉注射(2-3mg/kg、成人で約200mg)が絶対に必
要である。4時間毎に48時間投与。次いで1日2回にする。痛みと疝痛にはモルヒネ20mgを皮下注射。保温。ショックはデキストラン又はブドウ糖食塩水
を静脈注射してして治療し、電解質が必要なら加える。1週間保てば通常は回復するが、完全回復には6カ月以上かかる。
組織沈着、血中へ再分布されるので血液透析、血液吸着の有効性は少ないと考えられる。
事例 茨城県神栖町の井戸水から旧日本軍の毒ガス兵器に由来すると見られる高濃度の有機ヒ素化合物が検出さ
れた問題で、住民の健康被害を調査していた茨城県の専門委員会(座長・下条信弘前筑波大社会医学系長)は7日、現場周辺の幼児2人に言葉の遅れや運動能力
の障害が見られると発表した。健康調査には、水質基準の450倍のヒ素が検出された井戸水を使用していた住 民32人のうち、29人が協力した。この中で障害が見つかった幼児は、5歳以下の男児と女児。妊娠中に母親が井戸水を飲んでいたり、出生後に井戸水を与え
られたりしていた。有機ヒ素化合物は、言葉や運動に障害を引き起こすとされており、県は幼児の障害は井戸水との関連が強いと見て、更に詳しく調べる。
この他6歳以上60歳までの27人のうち
[1]バランスよく歩けない共調運動障害 が10人、
[2]立ち上がって真っ直ぐ歩けない起立歩行障害が5人、
[3]手などのこまかなふるえや痙攣が8人に見つかった。
また尿検査に応じた28人全員から、通常は尿には含まれない有機ヒ素化合物「ジフェニルアルシン酸」が検出された。「ジフェニルアルシン酸」は毒ガス兵器の成分「ジフェニルシアノ
アルシン」などが分解して生成されたと見られる。専門委員会では「遺伝子障害などの後遺症が残る可能性もある。幼児は特に、今後も専門医による詳細な健康
調査が必要」としている。
備考 アダムサイトは1964-65年に米国がベトナムで使用したの報告。
文献 1) 読売新聞,第45658号,2003.5.8.
2)薬科学大辞典 第2版;広川書店,1990
3)白川 充・他共訳:薬物中毒必携;医歯薬出版株式会社,1989
4)http://www.nihs.go.jp/c-hazard/bc-info/cagent/riot.html,2004.2.19.5)西 勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル;医薬ジャーナル社,2001
作成年月日 2003.5.10.・ 2004.2.19. 作成者 古泉秀夫

モルヒネ(morphine hydrochloride)の毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 塩 酸モルヒネ(morphine hydrochloride)
成分 morphine hydrochloride(塩酸モルヒネ)
一般的性状 白 色の結晶。水に溶ける。アヘン中に含まれるalkaloidの一種。[局]収載。鎮痛薬、強力な中枢抑制薬。鎮痛、鎮静、鎮咳、止瀉などの目的に錠剤、注
射薬として用いられる。依存性がある。毒薬・麻薬。
Tmax:15.5分(筋注)、T1/2:1.9-3.1時間。血中濃度: 56ng/mL(10mg 筋注)。蛋白結合率:35%。排泄:尿中へ10%(遊離モルヒネ)、抱合体として75%。
消化管から速やかに吸収され、各組織への移行は極めてよいが、脳には殆ど移行 しない。極量:20mg/回、60mg/日(経口)、30mg/日(皮下)。
薬理作用として中枢神経系の抑制、呼吸抑制、鎮静・鎮咳作用、消化管運動抑制 作用、心血管系への作用等が見られる。
毒性 ヒ ト(経口)LD50:120-250mg、 500mg。非経口中毒量:30mg。ヒト経口致死量:70-500mg、マウス皮下注(LD50)456mg/kg、マウス静注(LD50)258mg/kg。耐性獲得者では1gでも耐える。乳児・ 小児では感受性が高い。
症状 中毒症状:縮瞳、意識障害、呼吸抑制が三大徴候である。この症状は橋出血などの脳幹障害と類似してい るが、過呼吸、不規則呼吸、四肢麻痺などにより鑑別される。悪心、嘔吐、口渇、胃腸運動減少、便秘、眩暈、顔面紅潮、発汗。
神経症状:眠気、幻覚、感覚鈍麻、意識障害、針穴瞳孔、低酸素状態になると散大、昏睡。小児・女子では時にてんかん様痙攣。
呼吸症状:呼吸数減少、チアノーゼ、呼吸がいびき様となり不規則。肺水腫(肺毛細血管の透過性亢進による)。6-12時間で呼吸停止による窒息死。
循環器症状:徐脈・血圧下降、ショック。
その他:体温下降。
処置 治療は呼吸管理と拮抗薬の使用による。ナロキソンは麻薬受容体と競合結合するが、受容体に対する親和 力は麻薬より強く、25mgのへロインは1mgのナロキソンで遮断される。効果発現に約1分、臨床効果は45-70分間持続する。塩酸ナロキソン注(0.2mg)   1回0.2mg  静注
効果が出るまで3分毎 総量10mgまで
毒物の除去:催吐又は摂取後数時間経過していても胃洗浄。吸着剤と塩類下剤投与。
排泄促進:透析、血液灌流等は無効。
維持管理
呼吸管理:気管内挿管、酸素吸入
循環管理:血管確保、輸液
解毒剤
ナロキソン投与(静注)成人:0.4-2mg・小児:0.03mg/kh/hr.(静注出来ない場合は筋注)。呼吸数の増加と 知覚反応を見ながら2-3分おきに0.2mgを追加。

(点滴静注)成人:0.4-0.8mg/hr.・小児:0.03mg/kg/hr.。必要に応じて15mgかそれ以上を投与する。

事例 そ こで、古井戸の死骸ですが、出家二人と虚無僧二人が、一度に身投げをするのはおかしい。おまけに、その死骸が水を飲んでいなかったと云いますから、身投げ
ではないように思われます。しかし他人が殺して投げ込んだのならば、からだに何かの疵あとが残っていなければならない。たとい毒殺にしても、やっぱり何か
の疵が残って、検屍の役人達にも知れるはずです。他人が殺して、なんにも痕跡が残らないのは、睡り薬の他は無いということを、私はかねて医師から聞いてい
ました。睡り薬というのはモルヒネです。今日ではどうだか知りませんが、江戸時代の検視では睡り薬で死んだのを鑑定することは出来なかったようです[岡本
綺堂(北原亜以子・編):半七捕物帖-十五夜御用心;大衆文学館講談社,1995]
備考 小 説の流れから行けば、モルヒネで殺したのではなく、深睡眠状態に陥った者を井戸に落とし、窒息死したということのようである。この当時といえどモルヒネが
そう簡単に手に入れられるとは思えないが、その辺の疑問は深く追求しないということのようである。本来からいえば、当時簡単に手に入れることのできる毒物
を使用すればいいようなものであるが、あえてモルヒネを使用した作者には何か思いがあったのかも知れない。しかし、捕物帖の殺人に使用する薬物としては、
甚だ珍しい薬物であり、あるいは岡本綺堂という著者のモダニズムの発露かも知れない。
文献 1) 薬科学大辞典 第2版;広川書店,1990
2)大木幸介:毒物雑学事典-ヘビ毒から発ガン物質まで;講談社ブルーバックス,1999
3)山口 徹・総編集:今日の治療指針;医学書院,2004
4)西 勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル 改訂6版;医薬ジャーナル,2001
5)吉村正一郎・他編:急性中毒情報ファイル第3版;廣川書店,1996
調査者 古泉秀夫 記入日 2004.9.16.

モラクセラ属(Moraxella(Branhamella) catarrhalis)の感染防御

金曜日, 8月 17th, 2007
感染症分類 特に規定されていな い。
一 般的性状 Moraxella catarrhalisは、従来Branhamella catarrhalisとして分類されていた。臨床現場では、Moraxella
catarrhalisよりBranhamella catarrhalisの呼称が定着しているため、現在もこの名称が使用されている。オキシダーゼ陽性、カタラーゼ陽性、非運動性、好気性のブドウ糖非発
酵グラム陰性双球菌である。普通寒天培地に発育する。なお、モラクセラ属にはMoraxella(Moraxella)とMoraxella (Branhamella)という二つの亜属が存在する。芽胞は形成しない。一部の菌は莢膜を有する[non
fermenters-gram negative rod:NF-GNR・(ブドウ糖非発酵菌=ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌:non-fermentative
rod;NFR)]。
本菌は嘗てはナイセリアあるいはBranhamella属として扱われてい た。
棲息部位 ヒトや他の温血動物の粘膜に寄生する。ヒトの正常細菌叢として、鼻腔を中心とした呼吸器系や泌尿生殖 器系の粘膜に存在し、臨床材料中にしばしば混入する。
上気道、皮膚、泌尿・生殖器の常在菌である。健康人から分離されることは少な いが、子供や老人の鼻咽頭にしばしば生息している。
病原性・感染経路 耳鼻科領域、呼吸器科領域の重要な感染症の起炎菌である。急性中耳炎、急性気管支炎、肺炎などの急性 感染症及び慢性下気道感染症急性増悪期、また日和見感染の起炎菌としても増加傾向にある。βラクタマーゼ産生菌も増え、臨床上注意が必要な菌として報告さ
れている。小児では中耳炎、副鼻腔炎などの起炎菌になり、成人の呼吸器感染症の場合、複数菌感染のことがある。
一般的な肺炎と同様、37℃以上の発熱、膿性喀痰の排出、白血球増加、CRP 上昇などの炎症反応の存在、胸部X線上浸潤影の存在及び喀痰培養で107/mL以上の本菌の検出により診断する。
易感染性宿主に対して病院内感染症、日和見感染症の原因菌の一つ。ただし、市 中肺炎の起炎菌として増加傾向が見られる。
菌の侵入に関しては、Branhamella菌は他の呼吸器感染症起炎菌とは異なりIgAプロテアーゼを産生しないとされ、これは菌の粘膜内侵入が困難で
あることを示唆する。健康成人より基礎疾患として慢性呼吸器疾患を保有している患者に菌の付着率が高く、慢性呼吸器疾患を保有している患者で冬に高く、夏
に低い季節変動が明らかに認められ、この現象は肺炎の他の主要な起炎菌である肺炎球菌、黄色ブドウ球菌、インフルエンザ菌には見られない現象である。
治療 本菌の60-70%はペニシリナーゼを産生することから治療には本酵素に安定な抗菌薬を選択すべきで ある。ペニシリン系ではβ-ラクタマーゼ阻害薬との合剤であるオーグメンチン(添付文書中の有効菌種に本菌の記載無し)、第3世代セフェム系抗菌薬、
ニューキノロンが効果的である。本菌は抗菌剤使用にともない急速に耐性化しつつある。
1)levofloxacin  200-300mg/日・分2-3 難治性・重症600mg/日・分3
クラビット錠100mg/錠(第一製薬)
2)tosufloxacin tosilate  450mg/日・分3 難治性・重症600mg/日
オゼックス錠150mg/錠(大正富山)・トスキサシン錠150mg/錠(アボット)
3)lomefloxacin hydrochloride 200-600mg/日・分2-3ロメバクトカプセル100mg/Cap.(塩野義)
4)sparfloxacin   100-300mg/日・分1-2
スパラ錠100mg/錠(大日本)
5)fleroxacin    200-300mg/日・分1
メガロシン錠100mg・150mg/錠(杏林・中外)
6)cefodizime sodium   1-2g/日・分2 静注・点滴 難治性・重症4g/日
ケニセフ注1g/瓶(大鵬)
7)cefpirome sulfate  1-2g/日・分2 静注   難治性・重症4g/日分2-4
ブロアクト注1g/瓶(アベンティス-塩野義)

8)cefozopran hydrochloride 1-2g/日・分2 静注・点滴 難治性・重症4g/日 分2-4
ファーストシン注1g/瓶(武田)

感染防御 *抵抗性:至適生育 温度は 33-35℃、25℃で生育。
手洗いの励行・消毒の徹底
滅菌・消毒 他の日和見感染症原因菌との混合感染を回避するためにも感染防御の徹底を図る。
(1)衛生的手洗い(hygienic handwashing):医療行為の前、手指が細菌により汚染された可能性のある場合、石鹸と流水により行うが、汚染が甚だしいときは消毒薬を併用す
る。通常、10-20秒間手洗いし、ペーパータオルで拭き取る。眼に見える汚れや有機物で汚染されていない場合には、速乾性エタノールローションを用いる
消毒法も可能であるが、速乾性エタノールローションには洗浄作用がないため、明らかな汚染がある場合には予め除去する。
(2)器  具:0.1w/v%-benzalkonium chloride、0.1w/v%-両性界面活性剤、0.1w/v%-benzethonium
chloride、0.01-0.1%(100-1000ppm)-次亜塩素酸ナトリウム液等へ30-60分浸漬、若しくは消毒用エタノールによる清拭。
熱を利用した消毒では、通常、湿熱80℃-10分間で行う。内視鏡はグルタラールを使用した通常の処理。
(3)患者環境:手術室・病室の床は日常の湿式清掃でよいが、清掃回数を増やして清潔に心がける。消毒を行う場合には、0.1w/v%-両性界面活性剤、
0.1w/v%-benzalkonium chloride、0.1w/v%-benzethonium chlorideで清拭消毒する。カート・ドアノブ・トイレの便座等は消毒用エタノールで清拭消毒する。浴槽の消毒は0.2w/v%-両性界面活性剤で清
拭後、熱水でリンスする。
(4)リネン類:カーテン・シーツ等は特別な汚染がない場合、日常の洗濯を行う。本菌による汚染が明らかな場合には、水溶性ランドリーバッグ(水で濡れたもの
は不向き)か指定のビニール袋に入れて運搬する。80℃-10分間、熱水洗濯機で洗濯する。通常の洗濯を行った後、濯ぎ水の中に0.01-0.1% (100-1000ppm)-次亜塩素酸ナトリウム液を入れ、5分間浸漬する方法(使用温度注意)もあるが、脱色に注意する。
(5)看護用具:血圧計(清拭後、消毒用エタノールで拭く)、点滴スタンド(清拭後、消毒用エタノールで拭く)。
(6)分泌物・排泄物: 本菌感染症患者の分泌物が附着した汚染物は感染性廃棄物として密閉し処理する。オムツなどは焼却するが、便器、尿器は専用のflashing
disinfector(90℃-1分間の蒸気)。洗浄後に0.1w/v%-両性界面活性剤、0.1w/v%-benzalkonium chloride、0.1w/v%-benzethonium
chlorideへ30分浸漬又は0.05%(500ppm)-次亜塩素酸ナトリウム液に30分間浸漬。
(7)糞  便:排便後に水洗トイレ槽へ第4級アンモニウム塩又は両性界面活性剤を注ぎ(最終濃度0.2-0.5w/v%)、5分間以上放置後流す。[10%
-原液100mLを水洗トイレ槽へ注ぐ]。-参照-
*高圧蒸気滅菌:適当な温度及び圧力の飽和水蒸気中で加熱することによって、微 生物を殺滅する方法をいう。
*通例、高圧蒸気法の場合は、次の条件で滅菌を行う。
115-118℃  30分間・121-124℃  15分間・126-129℃  10分間
[主としてガラス製、磁製、金属製、ゴム製、紙製若しくは繊維製の物品、水などで熱に安定なものに用いる。]
*煮沸消毒:沸騰水中に沈め、加熱することによって微生物を殺滅する方法をい う。高圧蒸気法によって変質するおそれのあるものに用いる。通例当該物を、沸騰水中に沈め、15分間以上煮沸する(発芽後の栄養型)。
[主としてガラス製、磁製、金属製、ゴム製若しくは繊維製の物品など。]

*流通蒸気消毒:加熱水蒸気を直接流通させることによって微生物を殺滅する方法 をいう。乾熱法又は高圧蒸気法によって変質するおそれのあるものに用いる。通例、当該物を100℃の流通蒸気中で30?60分間放置。
[主としてガラス製、磁製、金属製、ゴム製若しくは繊維製の物品、水、液状医薬品など。]
*化学的消毒法:化学薬剤を用いて微生物を殺滅する方法をいう。化学薬剤の微生 物を死滅させる機序及び効果は、使用する化学薬剤の種類、濃度、作用温度、作用時間、消毒対象物の汚染度、微生物の種類・状態などによって異なる。本法を
適用するに当たっては、調製化学薬剤の無菌性及び有効貯蔵期間、適用箇所からの耐性菌出現の防止、残存化学薬剤の製品に与える影響等について注意を要す
る。
[主としてガラス製、磁製、金属製、ゴム製、プラスチック製若しくは繊維製の物品、手指、無菌箱又は無菌設備など。]
*アルデヒド類(グルタルアルデヒド、フタラール)
*塩素化合物(次亜塩素酸ナトリウム・ジクロロイソシアヌール酸ナトリウム)
*過酸化物(過酸化水素)
*アルコール類(エタノール・イソプロパノール)

*フェノール類(フェノール・クレゾール)
*陽イオン界面活性剤(塩化ベンザルコニウム・塩化ベンゼトニウム)
*ヨウ素化合物(ヨードチンキ・ポビドンヨード)
*両性界面活性剤(塩酸アルキルジアミノエチルグリシン)
*ビグアニド剤(グルコン酸クロルヘキシジン)
等の利用も可能である。

[015.11.MOR:2003.2.25.古泉秀夫]


  1. 山西弘一・他編:標準微生物学 第8版;医学書院,2002
  2. 吉田眞一・他編:戸田新細菌学 改訂32版;南山堂,2002
  3. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2003
  4. 内海 爽・他:第4版エッセンシャル微生物学;医歯薬出版株式会社,2000
  5. 三浦 洋:ブランハメラ肺炎;別冊日本臨床<領域別症候群23>感染症症候群I:362-365(1999)
  6. 東京都感染症マニュアル;東京都政策報道室都民の声部情報公開課,2000

メソミル(methomyl)の毒性

金曜日, 8月 17th, 2007

象物
農薬-殺虫剤。メソミル(methomyl)
成分 メソミル(methomyl)

般的性状
methomylは、米国のデュポン社が開発したオキシムカーバ
メート系の殺虫剤で、我が国では1970年4月20日に登録された。ユニオン・カーバイド・インド社の農薬工場で漏れ出し、20万人もの死傷事故を起こし
たメチルイソシアネートが原料に使用される。
S-methyl
N-[(methylcarbamoyl)oxy]thiacetimidate。本品は白色結晶性の物質で、かすかな硫黄臭がある。融点:78-
79℃、水に溶ける(5.8g/100mL:25℃)、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトンに可溶。分子式:C5H10N2O2S=
162.21。別名:ランネート
(lannate)、ランネート45(45%)、複合剤でキーデックス、ホスクリン、ランダイヤ。CAS-16752-77-5。
用途:殺虫剤。カーバメイト系の薬剤で、キャベツ
のアブラムシ、コナガ、アオムシ、ヨトウムシ、稲のニカメイチュウ、ウンカ等に適用される。米や麦に浸して畑や果樹園にまいておくと、鳩や雀、その他の野
鳥が死ぬというので、鳥害対策に転用されている。また、野犬退治のための毒餌として使われることもある。
毒性 劇毒区分=劇物。魚毒性=B類。
残留農薬研究所は変異原性なしと報告しているが、
動物細胞を用いた実験で、染色体異常が報告されている。またmethomylのようなカーバメイト剤は胃液のような酸性条件下では、ハムなどの添加剤であ
る亜硝酸塩と結びついて容易にニトロソ体に変化する。ニトロソ体については、サルモネラ菌や大腸菌で変異原性が認められている。真鴨の受精卵に注入すると、雛の首に異常を来した
り、水腫や成長抑制を起こした。ラットで甲状腺から分泌されるチロキシンや下垂体からの成長ホルモンであるソマトロピンのレベルに影響を与えるため、環境
ホルモンの疑いがある。
1975年に静岡県掛川市の茶畑でmethomylを散布していた主婦が中毒死したが、methomylは吸気毒性が強い
めと考えられる。
急性毒性
ラット(♂)LD50 経口
50mg/kg。マウス(♂)LD50
口17mg/kg

ラットLD50
経皮3,600mg/kg以上
魚毒性
コイTLm 2.6ppm
作用機作はcholinesterase
(ChE)活性阻害。接触毒、食毒作用がある。殺虫幅が広く、咀嚼性害虫、吸汁性害虫共に有効。速効性で残効性は小さい。カーバメイト剤そのものがChE
と結合し、その活性を阻害することにより、AChが分解されず蓄積し、コリン作動性神経の過剰刺激が起こる。ChEとの結合は有機リン剤より弱く、ChE
の復活も速やかである。また、カーバメイト剤そのものの代謝は早く、慢性中毒の危険がない。


1981年7月13日午後3-5時まで、梨の防虫作業としてラン
ネート(三共)を手動噴霧器で2時間程度散布した。当日は晴天で暑い日であった。慣れっこになってその日は防護マスク、防護眼鏡はしなかった。その間ラン
ネートが少量頭に付着したという。その後草取りを1時間くらいした。その頃から頭痛、吐き気、眩暈が現れたが、自分で車を運転して6時頃帰宅した。帰宅
後、水溶性胃液の嘔吐が頻発し、更に手足の倦怠脱力感が著しく、歩行困難となり救急車で入院した。中毒症状は有機リン剤と同じであるが、回復は比較
的急速である。
軽 症:頭痛、眩暈、悪心、嘔吐、多量の発汗、縮瞳、流涎。
中等症:縮瞳の亢進、失禁、筋線維性痙攣、歩行困難、言語障害。
重 症:意識混濁、対光反射消失、全身痙攣。

a.対症療法:(気道分泌物、気管支痙攣、呼吸停止などによ
る)呼吸不全:気管挿管して人工呼吸管理を行う。
痙攣:ジアゼパム5-10mgを静注する。ミダゾラム注2.5-15mgを静注又はくん注する。痙攣を繰り返す場合は、ミダゾラム又はプロポフォールの持
続注入により痙攣をコントロールした上で、フェノバルビタールを筋注する。
b.吸収の阻害:服用後1時間以内であれば、胃洗浄を考慮する。活性炭を投与する。
c.排泄の促進:血液浄化法は無効である。
d.解毒薬・拮抗薬:atropine:ムスカリン作用による症状の中でも(気管支痙攣による)喘鳴と大量の気道分泌物を目安に投与する。腸管の運動を減
弱させ吸収の阻害を妨げるので、ルーチンに投与してはならない。
atropineの投与量
初期量:硫酸アトロピン注(0.5mg/1mL)1-4管を静注。
維持量:1-4管の繰返し静注。

“公
園の米粒から殺虫剤成分 大阪、猫の餌に劇薬か”
『大阪府摂津市の公園に置かれた米を食べたとみられる鳥や犬が相次いで死んだ事件で、摂津署は7日、米粒から殺虫剤成分の劇薬メソミルが検出されたと明ら
かにした。
同署は器物損壊容疑で捜査。数年前から近所の60代の女性が野良猫の餌を公園内に置き、6日夕方も
いた米
と卵焼きを置いたことも分かり、同署は餌付けをめぐるトラブルがなかったか調べている。
調べでは、摂津市鳥飼本町のさくら公園とその付近で7日、ハトやスズメ計20羽と猫1匹の死骸が見つかった。近所の男性(60)が公園で散歩させていた犬
2匹も、落ちていた米粒を食べけいれんを起こし死んだ。米は炊いてあり、公園の南側入り口付近のクスノキの根元に置かれた新聞の上にあった。同署などによ
ると、メソミルは手足のけいれんなどを引き起こす成分があり、農業用の殺虫剤に多く含まれる(共同通信社)。[東奥日報ニュース;http:
//www.toonippo.co.jp/news_kyo/news/20070207010006331.asp,2007.2.7.]
備考 「米を食べた、米を食べた」というTV放送を見ていて、ネコの
餌付けをするために、何で生米を公園に撒かなければならないのかと不思議に思っていたが、“炊
いた米”
なる言葉が出てきた。普通、米というのは生米のことで、“炊
いた米”
は“御飯”とか“めし”というのではなかったのか。それとも関西は“炊
いた米”
も米という表記で統一されているのかどうか。第一猫の餌付けをするのに、如何に物好きでも生米はまかないだろう。それにしても猫餌付け派との永年の葛藤があるとはいえ、小さな子供も遊びに来るであろ
う公園に、劇物に分類される農薬を撒くという神経は理解できない。この農薬の毒性は、動物だけに致命傷を与えるわけではなく、人にも致死的な作用を及ぼす
のである。あまり短絡的な行動を取らないようにしないと、殺人者の汚名を被ることになりかねない。

1)
三共農薬手帳 第39版;三共株式会社, 1992
2)植村振作・他:農薬毒性の事典改訂版;三省堂,2002
3)西  勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル 改訂7版;医薬ジャーナル,2005
4)相馬一亥・監修:急性中毒診療ハンドブック;医学書院,2005
調
査者
古泉秀夫 分類 63.009.MET
入日
2007.2.9.

ムカデの毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対 象物 ムカデ
成 分 毒成分の詳細は不明。hemolysine、 saccharase、蛋白分解酵素、histamine、hyaluronidase、serotonine、p-benzoquinone誘導体等。
一般的性状 毒成分の詳細は不明
毒 性 ムカデ類は肉食であり、捕殺用の毒液を毒腺から排出する。毒成 分は酸性。毒成分の詳細は不明であるが、hemolysine、saccharase、蛋白分解酵素、histamine、hyaluronidase、 serotonine、p-benzoquinone誘導体である。アカズムカデの毒性が最も強力で、serotonineが殆ど無く、 histamine及び局所透過性を高めるポリペプチドを含む。
症状はムカデの種類より個人差により異なるとする報告がある。
症 状 殆どが局所症状のみで、全身症状のでることは稀である。
局所症状:激しい疼痛、しびれ、灼熱感、発赤、紅斑、腫脹。
重症では咬傷部が潰瘍化する(リンパ管炎、リンパ節炎)。
全身症状:発熱、頭痛、嘔吐、心悸亢進、眩暈、譫妄。
処 置 1) 一般に予後は良好で、数日中に治癒する。
2)拮抗剤、解毒剤はないので、対処療法を行う。 *現場で可能な処置:アンモニア水塗布(直後であれば有効の報告:酸性毒であり中和作用)。抗ヒスタミン軟膏の塗布。
*医療機関での処置
重曹、硫酸マグネシウム飽和溶液の湿布(冷却)。
抗ヒスタミン剤含有ステロイド軟膏の塗布
疼痛には局麻剤(キシロカインスプレー等)とステロイド剤の皮内注 射。
セファランチン10mgの局所注射が有効との報告もある。

セファランチン10mgをブドウ糖液20mLに溶解して静脈注射。

事 例 『ム カデに刺された場合の処置について』の質問を受けて、調査した事例である。従って推理小説とは何等関係ないが、同じような事例に行き合ったときに参照でき るように検証したものである。
備 考 1.トビズムカデ(Scolopendra subspinipes mutilans Koch):体長約8cm。頭と頸は黄褐色、背板暗緑。本州、四国、九州、沖縄に棲息。
2.アオズムカデ(Scolopendra subspinipes japonica Koch):体長約6cm。歩肢は21対、触覚及び体の背面は全て暗緑色。本州、四国、九州、沖縄に棲息。
3.アカズムカデ(Scolopendra subspinipes multidens Newport):体長約8cm。触覚、頭、頸は赤褐色、背面は緑褐色。本州、四国、九州に棲息。 4.タイワンオオムカデ(Scolopendra morsitans Linne):体長12cm。体色は黄褐、各背板後縁に沿って太い暗緑の一帯があり、頭部と第一背板は鳶色。沖縄に棲息。
文献 1) 西 勝英・監修:薬・毒物中毒-救急マニュアル 改訂3版;医薬ジャーナル社,1986 2)鵜飼 卓・監修:第三版 急性中毒処置の手引き;薬業時報社,1999
調 査者 古泉秀夫 記入日 2002.7.10.

ミオグロビン尿を惹起する薬剤一覧 第3改訂

金曜日, 8月 17th, 2007

■ミオグロビン尿(myoglobin uria):myoglobin(Mb)は、筋肉ヘモグロビンとも呼ばれる。骨格筋、心筋中に見出されるヘム蛋白質。血中濃度が15mg/dL程度までは血清中のmyoglobin結合蛋白に結合するため、尿中に排泄されないが、筋ジストロフィ、皮膚筋炎、横紋筋融解等の原因で、一時に200g以上の大量の骨格筋が崩壊すると尿中に排泄されるようになる → ポートワイン色尿(コカコーラ色様尿)。

■筋組織の崩壊が広範囲にわたるような場合、色素円柱による尿細管閉塞が原因で、急性腎不全を生じることもある。試験紙法による尿潜血反応は、 myoglobinがヘムを有するため陽性を呈するが、沈渣は赤血球は殆ど認められない。

■心筋、骨格筋組織の障害の判定やその重症度の判定 → 血中・尿中のmyoglobin測定

■急性心筋梗塞・狭心症(胸痛発作時)

■骨格筋疾患[筋ジストロフィ・筋炎(多発性筋炎・皮膚筋炎)・その他(筋変性を生ずる甲状腺機能低下症、低カリウムによる筋障害を生じる高アルドステロン症、腎不全、悪性高熱)

■マラソンなどの激しい運動、出産時 → 上昇

■重症心不全・筋肉内注射時 → 骨格筋から流出したmyoglobinの影響を受ける。

□myoglobin 尿に関連する副作用


連副作用名
薬効群・薬剤 副作用の解説
悪性高熱症(悪性高体温症) 全身麻酔剤 全身麻酔中に急激に体温が上昇し、40℃を超す高体温を生じ、アシドーシス、高炭酸ガス血症を呈し
循環虚脱に陥る症状をいう。多くの場合、筋強直を伴うが、筋強直を伴わない症例もあり、最近では精神科領域の悪性
症候群や、運動中に突然発生して死亡するmalignant hyperthermina on
effortも本症と関連あるとする考えもある。原因は不明であるが、Ca代謝に関係した筋小胞体の異常、ミトコンドリアの異常、自律神経・内分泌系の異
常等の説があり、誘因としてハロタン、スキサメトニウム等の薬物、ストレスも挙げられている。

性症候群(syndrome malin)□無動緘黙、強度の筋強剛、嚥下困難、頻脈、血圧の変動、発汗等が発現し、引き続き発熱)。本症発症時、白血球の増加や血清CPKの上昇が多く、
myoglobin尿を伴う腎機能の低下。
抗精神病薬等 精神疾患で、butyrophenone系あるいはphenothiazine系などの向精神病薬の投与
中に発症する。希ではあるが重篤な合併症であり、1950年代頃に仏・米国で報告されて以来、多数の報告がある。主要症状は異常高熱、蒼白、発汗亢進等の
自律神経症状、振戦、筋強剛、ミオクローヌス等の垂体外路症状、意識障害、血清クレアチニンホスホキナーゼ
(CPK)の高値等で、死亡率は20-30%ないしそれ以上ともいわれている。本症候群の発症機序については未だ不明な点が多いが、薬物のドーパミン受容
体遮断による視床下部、基底核、脳幹機能の障害あるいはクリーゼとする考え方が有力である。最近ではL-ドーパ等の抗Parkinson病薬の急激な中止
により本症と類似の症状を発症することも分かっている。なお、悪性症候群の臨床像は、全身麻酔時の重篤な副作用である悪性高熱と極めて類似しており、発症
機序の異同が論じられている。治療は、向精神薬は原則として即時中止、脱水、栄養障害に対し輸液等による全身状態の改善処置、高体温に対しては体冷却、薬
物的にはL-ドーパ、ブロモクリプチン、アマンタジン等の中枢性ドーパミン賦活剤、筋弛緩薬のダントロレンの投与が有効とされている。
横紋筋融解症□筋肉痛、脱力感、CK上昇、血中・尿中myoglobin上昇等 clinofibrate、clofibrate系薬剤、シンフィブラート、ベザフィブラート、
pravastatin sodium、シンバスタチン、vasopressin等
横紋筋と呼ばれる筋肉は骨格筋と心筋である。しかし、横紋筋融
解症は骨格筋だけを対象とした病名。本症は骨格筋細胞の融解や壊死の結果、細胞成分が血液中に流出した病態であるとされ、致命的となりうる疾患である。本
症は原因により外傷性(過度の運動、痙攣、熱射病など)と非外傷性(先天性代謝性心筋疾患、感染症、薬剤、麻薬など)に大別される。本症が発生すれば、細
胞内物質の血中濃度が異常値を示すが、特にmyoglobin、クレアチンホスホキナーゼ(CPK又はCK)、アルドラーゼ、LDH、GOT等が上昇す
る。中でもmyoglobinはその代謝産物とともに、腎尿細管細胞を著しく障害し、腎不全を起こす可能性が高い。
急性ニューロパシー-急性末梢神経障害- 高カロリー輸液 末梢神経障害の総括的名称。原因は遺伝、外傷、中毒、炎症、代謝異常、悪性腫瘍、末梢神経腫瘍圧迫など多
彩。症状は知覚障害、運動障害、筋緊張低下、反射喪失、自律神経障害など。筋電図では神経原性パターンを示し、末梢神経伝導速度低下を認める。病理所見
は、軸索変性、節性脱髄、Waller変性等の非特異的変化である。近縁語には多発性神経炎、神経炎がある。
偽性アルドステロン症-特発性アルドステロン症;本態性アルドステロン症- glycyrrhizin レニンアンジオテンシン、ACTH、カリウム等の既知のアルド
ステロン分泌刺激因子以外の未知の因子によって、両側の副腎皮質に過形成をきたし、二次性高血圧症を呈する。原発性アルドステロン症と違って次の特徴があ
る。(1)高齢者に多く、性差がない、(2)血清K値は、正常-やや低値にすぎない、(3)AC-THの影響は少なく、アルドスロン分泌に日内リズムはみられ
ず、デキサメサゾンによって抑制されない、(4)Na負荷、立位負荷で、アルドステロン値が上昇する等、本態は不明であるが、未知のアルドステロン分泌刺
激因子による過形成と考えられている。

壊死
colchicine 生体における一部の細胞又は組織の死を壊死といい、全身の死と
区別する。細胞が壊死に陥る病理学的変化は、細胞に酵素欠乏や栄養障害が起こると、細胞は変性し、細胞内の水解酵素が活性化されて細胞の融解をきたし、死
滅すると考えられている。壊死には凝固性が高まる凝固壊死と液化(融解)壊死が区別されている。

肢麻痺
steroid大量療法、長期筋弛緩薬使用後 四肢の運動麻痺をいう。傷害部位は頚髄が最も多い。両大脳半球、脳幹、末梢神経の障害でも起こり、神経に
障害がなくとも神経接合部及び骨格筋自体の麻痺によっても起こりうる。片麻痺が両側性に起こったとみられる場合と、対麻痺が更に上方へ広がったとみられる
場合がある。前者は垂体外路障害による麻痺であり、痙性となることが多いが、弛緩性の場合もある後者は末梢運動ニューロンの障害によるもので、常に弛緩性
四肢麻痺の形をとる。その他、筋萎縮性側索硬化症に見られるように中枢性運動ニューロン(垂体外路)と末梢運動ニューロンの両者が同時に侵されて、両者の
性質を持った四肢麻痺を呈する場合もある。

身筋強直(筋緊張)-ミオトニー;myotonia-
theophylline 筋最大収縮後の急速な弛緩が障害された状態をいう。この現象は
筋収縮運動を繰返しているうちに、次第に軽減する。筋細胞膜におけるClイオンの透過性の減少で起こるとされている。
低カリウム血性筋症-血清K欠乏性myopathy;低K血症性(壊死性)myopathy- glycyrrhizin 重度の低カリウム血症が持続したときに出現する
myopathy、血清K
0.6-2.3mEq/Lが持続すると出現する。血清Naはほぼ正常範囲。しばしば低Ca血症を伴う。血清CPKは正常の30-200倍と上昇し、Kの低
下とある程度相関している。臨床症状は骨格筋に限局した筋力低下があり、近位筋に著名である。深部反射は減弱することが多い。筋生検所見は、筋壊死が中心
で、空胞変性も見られる。血清K低下の原因は、原発性アルドステロン症、下剤の乱用、尿細管性アシドーシス、慢性alcoho中毒、
amphotericin B療法等。

オパシー(myopaty)-筋症、筋障害-
glycyrrhizin、procainamide他。
利尿剤
筋肉自体が侵されて生じる疾患の総称。大別して次の10種類に
分類される。(1)遺伝性筋変性疾患(進行性筋ジストロフィー症)、(2)先天性ミオパシー及び関連疾患、(3)ミオトニア(筋緊張症)、(4)代謝性筋
疾患
(1.糖尿病、2.脂質代謝異常、3.その他のエネルギー代謝異常、4.電解質代謝異常、5.その他)、(5)内分泌障害によるmyopathy、(6)
炎症性筋疾患、(7)その他の内科疾患に伴うmyopathy、(8)外傷・中毒に伴うmyopathy、(9)筋組織の腫瘍、(10)原因不明の
myopathy。


付文書中に副作用としてmyoglobin尿の記載されている薬剤

*一般名赤字は新規追加分

[1997.7.23.古泉秀夫・2005.10.4.第2 訂・2006.8.8.第3訂]


  1. 最新医学大事典 第2版;医歯薬出版株式会社,1996
  2. 第4版広範囲血液・尿化学検査・免疫化学的検査(上巻);日本臨床,683<増刊号>,(1995)
  3. 日本薬剤師会雑誌,47(2):210-216(1995)
  4. アキネトン細流・錠添付文書,1996.11.改訂
  5. パーキン散添付文書,1996.11.改訂
  6. ヒベルナ散添付文書,1996.11.改訂
  7. ペントナ錠・散添付文書,1996.11.改訂
  8. 芍薬甘草湯エキス顆粒添付文書,1996.2.改訂
  9. 小柴胡湯エキス顆粒添付文書,1996.2.改訂
  10. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2005
  11. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2006

ミッキー・フィンの毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 ミッキー・フィン(Mickey Finn)
成分 抱水クロラール(chloral hydrate)。 [米]chloral hydrate、[仏]Hydrate dechloral、[独]Chloralhydrate、[ラ]Chloralis
hydras。
別名:トリクロロアセトアルデヒド(trichloroacetaldehyde)。
一般的性状 劇薬
本品は抱水クロラール(C2H3O2Cl3=165.42)99.5%以上を含む。本品は無色透明又は白色の結晶で、刺激性の芳香を有し、味は腐食性でやや苦い。空気中では徐々に揮散する。本品1gは水0.25cc、アルコール1.3cc、 クロロホルム2cc又はエーテル1.5ccに溶け、テレビン油には溶け易く、オリブ油には極めて溶け易い。
安定性:水溶液は紫外線照射により速やかに塩酸及びトリクロル酢酸に分解する。通常の保管条件では、徐々に分解が起こり、1%-溶液では室温で20週後、 約5%が分解する。
貯法:気密容器。
常用量:1回0.5g、1日1.5g。極量:1回2g、1日6g。
基原:1832年Liebigが初めて本品を発見し、1834年Dumasはクロラールの組成を決定し、Stadelerは澱粉をMnO2及びHClと蒸留するときクロラールの生成することを知った。 1869年Liebreichは初めて本品を催眠薬として用いた。日局には初版以来収載されている。

応用:1.0-2.0gを経口投与するとき、徐々に倦怠感を増し、約30分で睡眠し、1時間で極点に達し、数時間持続する。本品は分子自体が睡眠作用を有
し、一部は不変のままで、一部は体内でCCl3・CH2OHに還元され、glucuronic acidと結合しurochloralic acid C7H11Cl3O7となって、他は徐々に分解されて尿中に排泄される。抱水クロ ラールが主に注腸、坐薬として使用されるのは、経口投与時の口腔・胃に対する刺激、筋注したときの神経・筋に対する障害、静注による血栓形成などを避ける
ためである。
本品は精神興奮状態、酒客譫妄、破傷風、ストリキニーネによる痙攣、癲癇、急癇、子癇、舞踏病に用いる。

内服には1日量1.0-2.5-3.0gを大量の水で稀釈し、あるいは粘漿、牛乳及び卵黄に和して投与する。酒客譫妄などには大量1日7.0-8.0
(!)を与えることもあるが、数回に分服させる。大量の頓服はしばしば死因となる。小児は比較的大量に耐える。鎮静薬としては1-2時間毎に1回0.2-
0.5-1.0-2.5(!)を用いる。
外用には粘漿(サレップ漿、ゴム漿)と和して潅腸料とし、1回量を成人(3.0-5.0:200);小児(0.1-0.6:60);乳児0.25として反
復する。テタニーには鎮痙薬としてなお多量を用いる。
注射は刺激が大きいため、痔核並びに海綿様血管腫の治療に使われることがあるに過ぎない。その他歯科で局所麻酔に、また皮膚科では毛生え液原料とする。
本品は水で分解するから用に臨んで冷水で配剤する。
副作用:特異体質の患者では、薬用量で呼吸及び血行障害、昏睡、悪心、嘔吐、蕁麻疹、紅斑、皮下溢血等を起こす。ことに呼吸器又は心臓の疾患ある患者には 危険で、肺浮腫又は心臓麻痺を起こして死ぬことがある。
習慣性があるので、連用すれば大量を要し、大量の連用は、消化不良、下痢、発疹、羸痩(ルイソウ)、精神機能減退、臓器の変性を起こす。
慢性中毒患者には、一時に使用を中止すると禁断現象が起こるため、徐々に減量する。

毒性 致死量は約10gとされるが、4gで死亡した例がある。また30gを摂取しても障害を見なかったという報告もある。致命的血中濃度:通常 25mg/100mL。
急性毒性:LD50ラット(経口) 500mg/kg。・(経口)800mg/kg。ヒト経口中毒量:約10g。
症状 重 篤な昏睡及びチアノーゼ症状に続きショック状態、不整脈を呈する。多量投与は体温と血圧低下、遅く弱い呼吸を伴う心臓衰弱を起こす。アルコールは協同作用を持つ。慢性作用は腎と肝の障害で、中毒性精神病を伴う。被刺激性
と性格荒廃。眠気、精神錯乱と歩行の協同運動失調、浅い呼吸で昏睡、弛緩、後に肺水腫が現れ、気管支肺炎にいたる。脳浮腫、長く続く昏睡の肺への作用で死
亡。本品の蒸気は眼や鼻を刺激する。濃厚溶液は皮膚を刺激する。
中枢・末梢神経症状:痙攣発作、譫妄、振戦、不安、頭痛、眩暈、興奮、運動失調、抑鬱、構音障害。
消化器症状:悪心、嘔吐、胃痛。
循環器症状:低血圧、チアノーゼ、心臓麻痺、ショック、不整脈。
呼吸器症状:呼吸緩徐、呼吸麻痺。
皮膚症状:発疹、紅斑、掻痒感。
その他:発汗、体温下降、肝障害、腎障害。
処置 急性中毒には人工呼吸、胃洗滌、興奮薬の注射を行う。又は胃洗浄。人工呼吸と酸素吸入。血圧を維持するために、血管収縮剤。予防的ペニシリン。
毒物の除去:催吐又は胃洗浄。吸着剤と塩類下剤。
排泄促進:血液透析、血液灌流
維持管理:気道確保、人工呼吸。正常体温維持。心電図モニター(心疾患素因のある患者)。
対症療法
低血圧にはα-アドレナリン作動薬。不整脈に対してリドカイン(本剤による不整脈にはβ-遮断薬が有効である)
事例 「要するに、この事件のトリックなるものは」と、この家の主は続けた。「ミッキー・フィンと称する強力飲物があるな。麻酔薬のまざった、飲むと頭がくらくらっ
とするやつだ。あれにヒントをえたものなのなのさ。いい気持ちで、あいつを飲んでおると、とつぜん、頭がひっぱたかれたみたいな感覚に見舞われる。いきな
り、猛烈な痛みがはじまって、耳ががんがん鳴り出す。酷いときは、そのまま意識を失ってしまうことがあるものだ。
ミルズのやつ、例のサイフォンに、この飲物を仕掛けたんだが、あの日のうちに、チャンスはいくらもあった。彼は必要な時刻を心得ておったのだから、その
時までに、仕事をすませればよかったのだ。いや、彼ばかりじゃない。きみたちもみんなが知っていることで、フランシス・シートンがウイスキー・ソーダを飲
む時刻は、1日にわずか1回、それもきちんときまっておる」 [宇野利泰・訳(ディクスン・カー):カー短編全集2-妖魔の森の家-ある密室;創元推理文庫,1970]。
備考 『ミッ キー・フィン』という名称の毒薬はない。しかし、辞書で検索したところ『Mickey Finn=睡眠薬入りの酒』と書かれている位であるから英国当たりではそれなりに認知されているということなのだろう。
Mickey Finn=仕込み酒。本来はアイルランド系の人の名前あるいは酒場の名前だという紹介も見られる。酒場のおやじが嫌みな男で、酒に下剤を入れられたという
ことから来ているようである。
その他、『Mickey』だけで、通例アルコール飲料に麻酔剤や下剤をこっそり混ぜたもので、何も知らずに飲んだものを無力にするという解説も辞書中に見
られる。酒に入れられた下剤は『クロトン・オイル(croton oil)=ハズ油』であるとされている。その後仕込み酒に仕込まれる薬物は、バルビツール剤あるいは抱水クロラールになったということであるが、本編の場
合、その書きぶりからすると抱水クロラールであろうと考えられる。
文献 1) 小学館ランダムハウス英和大辞典;小学館,1979
2)第六改正日本薬局方解説書;南江堂,1954
3)大阪府病院薬剤師会・編:全訂医薬品要覧;薬業時報社,1984
4)内藤裕史:中毒百科-事例・病態・治療;南江堂,2001
5)西 勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル 改訂6版;医薬ジャーナル,20016)白川 充・他:薬物中毒必携 第2版;医歯薬出版株式会社,1989
調査者 古泉秀夫 記入日 2005. 11.9.

マムシの毒性

金曜日, 8月 17th, 2007
対象物 マムシ・蝮・蝮蛇(フクダ)
成 分 血液毒が主体で、神経毒性分は極く僅かである。ヘビ毒は数十種の異なった蛋白質で構成され、一つ一つの蛋白質が異なった作用を示す。
毒成分 作用機序 病理と症状
キニナーゼII阻害因 ブラジキニンの作用増強 血圧低下、疼痛、毛細血管透 過性亢進
プロテイナーゼ フィブリノーゲンの分解 出血、線溶亢進
出血因子 血 管内皮細胞の間隙の解放と赤血球の漏出及び形質膜の破壊 出血
ホスホリパーゼA2
(間接溶血因子)
リン脂質の加水分解とアラキドン酸の生成 溶血、血小板破壊、ヒスタミ ン・セロトニンの遊離
毛細血管透過性亢進因子 浮腫
一般的性状 マムシ(mamushi)。学名:Agkishodon halys blomhoffii。朝鮮半島、中国、イラン、カスピ海にもA.halysは棲息している。日本のマムシは神経毒の含量は少ないが、中国マムシは神経毒
を含んでおり、実際に単離された。マムシ科はアジア、北米、中米、南米に棲息している。その中のAgkistrodonという属の蛇は広く分布しており、
東南アジア、インドア大陸、北米大陸にも棲息しているが、南米にはいない。マムシ科(Crotalidae)とクサリヘビ科(Viperidae)は相似
点が多いので、この2科を纏めてクサリヘビ科に分類することもある。
左右の眼の前下方に赤外線に敏感なピット器官を持ち、毒牙は注射針と同じ構造の管牙で、毒腺は両頬部にあるため頭部は幅広くほぼ三角形をしている。頸部は
細くくびれている。体色は茶褐色から赤褐色まで変異が多く、暗褐色の銭形斑紋が並ぶが、赤みの強い個体は属にアカマムシといわれ八丈島産に多く、黒化型も
ある。夜行性で、昼間は薄暗い場所に潜む。動作は鈍いが、ヒトが接近しても逃げることはなく、その場で防御・攻撃姿勢を取る。更に接近すると体長の1/3
程を伸ばして攻撃する。
毒性 毒 の主成分は出血毒で、ハブ毒よりも強い。実験によりハツカネズミが死ぬ毒の量はハブ毒の1/5だとされている。ただ平均注入量が少ないため致命率は低い。
致死率:0.5%以下(論文報告されたマムシ咬傷患者1,339例中死亡は10 例で致死率0.75%とする報告)。
ニホンマムシ(平均体長60cm)
採毒量15mg・LD50 静注:31μg(20gマウス)・最小出血量0.5μg・最小腫脹量(?)マムシの毒作用は腫脹、出血、壊死など、局所作用が主であるから半致死量(LD50) だけではその毒性は比較できない。そのため最小出血量、最小腫脹量という指標が併用されている。
症状 受 傷直後に灼熱感があり、20-30経過後に腫脹が発現し、次第に中枢側に進展する。腫脹が高度になると、皮膚の色は暗赤色になり、水疱形成を見る。更に腫
脹が進行すると末梢動脈は触れなくなり、知覚障害もでる。放置すれば壊死に陥る。約一昼夜で浮腫はピークを迎える。毒の直接作用による筋肉の壊死は、牙痕
の周辺の小範囲に止まるのが普通である。また眼筋麻痺による複視が見られることがある。
発熱、眩暈、意識障害を来すこともある。重症例では循環血液量減少性ショック、血小板減少、DIC(播種性血管内凝固症候群)を来たし、更に進行すれば横
紋筋融解症、急性腎不全を発症する。
処置 A. 応急処置:毒の吸収阻止のため、安静を保ち咬傷部より中枢側を軽く緊縛する。創部を洗浄後、 切開して毒素(浸出液)を吸引又は絞り出す。
応急措置としての素人による切開・毒素の吸引は行わない(咬傷跡の確認困難・ 破傷風感染等)。
B.全身管理:疼痛・腫脹が局所に局限している軽症例以外は入院させ経過を観察する。静脈路を確保し十分な輸液を行う。
Rx.処方例
ラクテック注 100-200mL/時 点滴静注(尿量1mL/kg/時以上を目標)
適宜血液検査(血算、生化学、凝固系など)を施行し、血液濃縮(ヘマトクリット値の上昇)や横紋筋融解症(CPK上昇)、腎不全(BUN、クレアチニン)
の有無をチェックする。C.抗毒素療法
腫脹が手関節又は足関節までの軽症例やアレルギーで抗毒素を投与できない症例では、セファランチンを投与して経過を観察する。
但しセファランチンの使用の有効性を示すevidenceはないとする内藤 (2001)が見られる。
Rx.処方例
下記の薬剤を症状に応じて適宜用いる。
1)セファランチン注(10mg)  1日1-2回静注
中等症から重症例(腫脹が肘関節又は膝関節以上に及ぶ症例)に対しては、乾燥まむし抗毒素を6時間以内に投与する。
2)乾燥まむし抗毒素 1回6,000単位 添付の注射用水20mLに溶解し、更に生理食塩水で10-20倍に稀釈して点滴静注。

*アナフィラキシー・ショックに十分注意し、添付文書に従ってウマ血清過敏症試験を行ってから投与する。なお、抗毒素のヒトにおける有効性を示す臨床上の
evidenceはないとする内藤(2001)の報告が見られる。
D.感染予防
抗破傷風ヒト免疫グロブリン、抗生物質を投与する。
1)テタノブリン注  1回250U  筋注

事例 ほ どなく、笛の低い音がぴーひょろろと短く鳴って止まると、天井から短く茶色の太い紐が落ちてきた。
畳の上で紐は巻き上がって、更に短く縮んだ。まむしの頭と舌が見えている。まむしはまた紐のようになって、するすると勘三の枕元まで這った。
「へ………」
鋼次は、危うく叫びだしそうになった。
お房は操られるように、半身だけ床の上に起きあがった。その目はまむしに注がれてはいたが、恐怖の色はなかった。まむしに取り憑かれたかのようにまばたき
一つしない。まむしとお房が見合っている。
「いけない」
そういって、桂助がお房のもとに急ごうとした時、まむしがするりと動いた。甘えるかのように、勘三の首に巻き付いたのであった。それを泥酔している勘三
は、
「うーん」
といって振り払った。
そのとたん、まむしの口がくわっと開いて、毒針が飛び出した。まむしががっぷりと勘三の首に噛みついて、跳ねている。

ひーっという断末魔の悲鳴が上がった。
桂助と鋼次はすぐにかけつけたが、噛まれた場所が場所だけに、すでに勘三はこと切れていた。
[和田はつ子:口中医桂助事件長-南天うさぎ;株式会社小学館,2005.11.1.]

備考 主 人公で探偵役の桂助は商家の長男ではあるが、家は継がず、長崎で蘭方を納めた歯医者、仲間の一人は飾り職人、後の一人は医師の娘で、桂助が栽培している漢
方の面倒を見ている。更に著者が連作を考えていると思われる節も見られるが、今回までのところ主人公は腕力には無縁と思われるので、切った張ったの場面に
遭遇したらどうするのか。些か期待したい部分でもある。
ところでこの当時の歯科の治療がどうであったかは知らないが、一応、調べてはあるようである。漢方処方の中味も出てくるが、特に間違っているとは思えな
い。
しかし、蝮を飼い馴らすというのは果たしてできるのかどうか。最低でも毒牙を抜いておかなければ、野生を抑えて馴らすというのは危険ではないか。最も毒牙
を抜いて飼っていたとしても、殺人の道具としては使えない。本書の発行年月日は2005年11月1日となっているが、購入したのは10月の10日前後である。単なる誤植なのか、意図的な設定なのか、よく解らない
が、多分誤植なんだろうね。
文献 1)Anthony T.Tu・編著:毒物・中毒用語辞典;化学同人,2005
2)小川賢一・他監修:危険・有毒生物;学研,2003
3) Anthony T.Tu:中毒概論-毒の科学-;薬業時報社,1999
4)内藤裕史:中毒百科-事例・病態・治療;南江堂,2001
5) 山口徹・他総編:今日の治療指針;医学書院,2005
調査者 古 泉秀夫 記入日 2005.10.16.