トップページ»

エーテルの毒性

木曜日, 8月 16th, 2007
対象物 吸入麻酔薬
成分 麻酔用エーテル(anesthetic ether)、ジエチルエーテル(diethylether)。
一般的
性状
エーテルは1540年コーダス(Cordus V)により合成された。1842年になりクラーク(Clarke WE)やロング(Long CW)がエーテル麻酔に成功し、1846年モートン(Morton WTG・米国)がエーテル麻酔下に公開手術を行い成功を収めてから、世界的に使用されるようになった。血圧はよく保たれ、呼吸も抑制されにくい。麻酔導入と覚醒に時間がかかる。喉頭痙攣を起こしやすい。術後の嘔気、嘔吐が多い。高血糖を起こす。可燃性があるなどの欠点がある。
2個のアルコールないしフェノールから水がとれた構造をもつ化合物の総称。た だし、狭義にはエチルエーテルを指す。エチルエーテル(C2H5OC2H5)は無色澄明の流動しやすい液で特異な臭いがある。揮発しやす く、引火性。局方にはエーテルと麻酔用エーテルanesthetic ether)があり、ともにエチルエーテルである。[局]麻酔用エーテルは外科手術において、吸入麻酔薬として全身麻酔に使用する。安定剤を加えてあるが、容器から取りだした後、24時間以上経過したとき麻酔用に使用できない。エーテルガス及び空気の混合物は、引火すると激しく爆発する。麻酔用エーテルはC4H10O:96-98%を含む。本品は無色澄明、流動しやすい液で 特異な臭気があり、甘いようなまた灼ける様な味がする。本品は約35℃で沸騰し、極めて揮発しやすく、引火しやすい。空気、湿気及び光によって徐々に酸化され、過酸化物を生ずる。本品の蒸気と空気との混合物は引火するとき激しく爆発する。本品1ccは水約12ccに溶ける。本品はアルコール、ベンゼン、クロロホルム、石油ベンジン、精油又は脂肪油に混和する。貯法:遮光した気密容器に全満せずに入れ火気を避け、なるべく25℃以下で貯えなければならない
(光、熱によって aldehyde と peroxyde が生じるため密封して冷暗所保存が必要)。
薬理作用:中枢神経抑制、麻酔性、粘膜刺激性、クラーレ様筋弛緩作用
毒性 ヒ ト(経口)致死量30mL。急性毒性:LD50(ラッ ト)経口3560mg/kg。LD50(ラット)経口 1700mg/kg、LDL0(ラット)腹腔 2000mg/kg。LDL0:最小致死量。
症状 第 I 期:痛覚鈍麻
第II 期:意識混濁、自制心消失、うわごと、反射亢進
第III期:反射機能の消失、骨格筋弛緩
第IV期:呼吸中枢抑制、呼吸停止
処置 * 酸素吸入
*外部より保温
*酸素欠乏による痙攣にはチオペンタールナトリウム静注、他の痙攣にはグルコン酸カルシウム静注。
事例 「お まえさんは、去年の夏、江戸への初舞台を機会に、尾花新九郎をお茶の水の堀り割へ呼び出して、麻薬をかがせて眠らせたうえ、ぬれ紙を鼻の上に当てて呼吸の根を断った」
伝七は、まるで現場を見ていたのかのように、ずばりと、何のよどむところもなくいってのけるのでした。「わたしはついに、新九郎に会うことができました。新九郎の家の近くでです。さすがに新九郎は驚きましたが、わたしに旧悪を暴かれるのを恐れて、あの夜青山大膳様のお能の帰りに、お茶の水で会うことを約束しました。わたしは暗い掘り割りの岸で、新九郎に会うや、長崎のオランダ医からもらった、腑分け用の麻酔薬を新九郎にかがせ、その後でぬれ紙で鼻や口をふさいで完全に殺してしまいました、………………」 [陣出達郎:伝七捕物帖(一)-敵討ち蝉;信陽堂,1997]
備考 物 語は天保11年(1840年)頃の話しである。エーテル麻酔下の公開手術が米国で行われたのが1846年で、当時の時間経過からいえば、天保11年にエーテルが江戸で手に入れることができたかどうか。更に保存がやっかいであり、素人が取り扱うのはちょいと無理ではないかというのが感想である。原作は単に吸入麻酔薬と書かれているだけで、それを勝手に麻酔用エーテルと決めてしまったが、クロロホルムが吸入麻酔薬として初めて使用されたのは1847年ということで、麻酔用エーテルにしただけである。
文献 1) 伊藤正男・他総編集:医学書院医学大辞典,2003
2)薬科学大辞典 第2版;広川書店,1990
3)第六改正日本薬局方註解;南江堂,1954
4)西 勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル 改訂6版;医薬ジャーナル,2001
5)大阪府病院薬剤師会・編:全訂医薬品要覧;薬業時報社,1984
6)http://www.anesth.hama-med.ac.jp/004.10.7.
7)後藤 稠・他編:産業中毒便覧;医歯薬出版株式会社,1992
調査者 古泉秀夫 記入日 2004.10.7.