悪夢等を惹起する薬剤
木曜日, 8月 16th, 2007KW:悪夢・悪夢障害・nightmare disorder・夢不安障害・異夢・多夢・魔夢・浅眠多夢・REM睡眠・
悪夢:悪夢障害(nightmare disorder)[夢不安障害]。睡眠中に生命や安全を脅かす程の強い不安と恐怖を伴う、長く鮮やかで生々しい夢を見て覚醒する現象。常にレム睡眠(REM睡眠)から覚醒し、睡眠後半に多く、覚醒後は見当識も良好で、夢体験を詳細に述べることができる。
dreaming sleep(夢見る睡眠)→desynchronized sleep:非同期性睡眠。脳波は低電位で速く、急速眼球運動(REM)、不規則な心拍と呼吸、不随意運動、覚醒に対する高い閾値などを特徴とする睡眠期間。非同期性睡眠の持続時間は5-20分で、正常な夜間睡眠中には約90分間隔で出現する。この睡眠期間中にしばしば夢を見、学者によってはこの期間を最も爽快にする睡眠と考えている。
以上は睡眠時随伴症に属する一つの現象として報告されているが、薬原性に発生するものとして添付文書の精神神経系の項に『悪夢・異夢・多夢・魔 夢・夢不安障害・浅眠多夢』の記載がされている。
- 魔夢:悪夢の同意語。
- 多夢(浅眠多夢):入眠時のうとうとしたREM睡眠期に頻繁に発生する夢。
- 異夢:多夢の同意語。
β-遮断薬による悪夢の発現機序
- 血液脳関門を通過したβ-遮断薬がセロトニンレセプターを遮断する。
- 血液脳関門を通過したβ-遮断薬の非特異的な膜安定化作用による。
- 血液脳関門を通過したβ-遮断薬の部分的β-レセプター刺激作用による。
- 末梢のβ-遮断作用が自律神経系を介する中枢への反射機構に影響する。
等の報告がされているが、真の作用機序は解明されていない。また、β-遮断薬による悪夢を含む中枢神経作用は脂溶性が高いものほど脳内薬物濃度が高くなり、発現頻度が高くなるとされているが、海外の臨床研究の結果では、脂溶性の高いものほど悪夢の発現頻度は高くなる傾向にあるが、有意差は見られないとされていることから脂溶性は一つの目安とする方がよい等の報告がされている。
[分類]一般名・商品名(会社名) | 副作用 | 発現機序等 |
[116]amantadinehydrochloride シンメトレル錠・顆粒(ノバルティス) |
悪夢(頻度不明) | amantadineの血漿中濃度が1-5μg/mLになると中枢神経毒性が発現する。本剤による悪夢の発現は、本剤の中枢神経毒性に由来すると推定される(4。 |
[625]amprenavir プローゼカプセル(キッセイ) |
異夢 (1.6%) |
血液-脳関門通過性に関するデータはないとされるが、中枢神経毒性を類推する副作用が報告されている[IF,1999.10]。 |
[212]atenolol テノーミン錠(アストラゼネカ) |
悪夢 (0.1%未満) |
atenololは 極め親水性で、極く限られた程度しか脳内に移行しない(4。中枢に移行したβ-遮断薬がアミン作動性ニューロンの活性を抑制するため、コリン作動性ニュー ロンの脱抑制が生じ、NREM睡眠からREM睡眠への移行が誘発され易くなり、夢を見易くなると考えられる。 |
[214]benzylhydrochlorothiazide・ reserpine・carbazochromeベハイドRA錠(杏林) | 悪夢 (頻度不明) [大量・長期] |
reserpine による副作用の大部分は中枢神経系に及ぼす作用によって惹起される(4。本剤による悪夢の発現も同様の作用によるものと類推される。 |
[214]betaxolol hydrochloride ケルロング錠(田辺三菱) |
悪夢(0.1%未満) | 本剤はCNS (central-nervous-system:中枢神経系)作用を発現する(4。本剤による悪夢の発現は本剤のCNS作用によると類推される。 |
[214]bunitrolol hydrochloride ベトリロール錠(ベーリンガー) |
悪夢 (0.1%未満) |
|
[114]buprenorphine hydrochlorideレペタン注・坐薬(大塚) | 悪夢 (0.1%未満) |
buprenorphine は脂溶性の高いアヘン類である。本剤はCNS(central-nervous-system:中枢神経系)作用を発現する(4。本剤による悪夢の発現は 本剤のCNS作用によると類推される。 |
[114]butorohanol tartrate スタドール注(ブリストル) |
悪夢 (0.1-5%未満) |
本剤はCNS (central-nervous-system:中枢神経系)作用を発現する(4。本剤による悪夢の発現は本剤のCNS作用によると類推される。 |
[212]carteolol hydrochloride ミケラン錠・細粒(大塚) |
悪夢(0.1%未満) | 中枢に移行したβ- 遮断薬がアミン作動性ニューロンの活性を抑制するため、コリン作動性ニューロンの脱抑制が生じ、NREM睡眠からREM睡眠への移行が誘発され易くなり、 夢を見易くなると考えられる。 |
[117]clomipramine hydrochloride アナフラニール錠・注(ノバルティス) |
悪夢 (頻度不明) |
clomipramine は若干の中枢神経抑制作用を示す(1。本剤による悪夢の発現は、本剤のCNS作用によると類推される。 |
[625]delavirdine mesilate レスクリプター錠(第一三共) |
夢の変化、悪夢 [2%未満又は頻度不明] |
delavirdine は血液脳関門を通過するとされており、本剤による悪夢等の発現は本剤のCNS作用によると類推される[医薬品概要,2000.4.]。 |
[116]droxidopa ドプスカプセル・細粒(大日本住友) |
悪夢 (0.1%未満) |
droxidopa は血液脳関門を通過するとされている(1。本剤のCNS作用により悪夢等が発生すると類推される。 |
[625]efavirenzストックリンカプセル(万有) | 異夢、悪夢 (1-10%未満) |
efavirenz は血液脳関門を通過するとされており、本剤による異夢・悪夢の発現は本剤のCNS作用によるものと類推される[IF,1999.9.]。 |
[449]epinastine hydrochloride アレジオン錠(ベーリンガー) |
悪夢 (0.1%未満) |
epinastine の血液脳関門通過に関する資料はないとされるが、血液脳関門を通過し難く、中枢神経系に対する作用が弱い化合物であることが推察されたの報告があり、 CNS作用により悪夢等が発生すると類推される[IF,1995.10.]。 |
[449]fexofenadine hydrochloride アレグラ錠(アベンティス) |
悪夢(0.06%未満) | fexofenadine の血液脳関門通過に関する資料はないとされるが、脳へ移行し難く、中枢抑制作用の弱い薬剤であることが確かめられたとされているが、本剤のCNS作用によ り悪夢等が発生すると類推される[IF,2000.9.] |
[112]fludiazepam エリスパン錠・細粒(大日本住友) |
多夢 (0.1%未満) |
benzodiazepin 系薬剤は、中枢神経系のGABA 機能を促進することにより不安・緊張緩和、入眠状態を構成するとされている(7。本剤のCNS作用により多夢等が発生すると類推される。 |
[625]ganciclovir デノシン注・カプセル(田辺三菱) |
異夢 (頻度不明) |
ganciclovir は血液脳関門を通過するとされており、本剤のCNS作用により異夢等が発生すると類推される。 |
[112]haloxazolam ソメリン錠・細粒(第一三共) |
多夢 (0.05%未満) |
benzodiazepin 系薬剤は、中枢神経系のGABA 機能を促進することにより不安・緊張緩和、入眠状態を構成するとされている(7。本剤のCNS作用により多夢等が発生すると類推される。 |
[214]hydrochlorothiazide・ reserpineエシドライ錠(ノバルティス) | 悪夢 (頻度不明) [大量・長期] |
reserpine による副作用の大部分は中枢神経系に及ぼす作用によって惹起される(4。本剤による悪夢の発現も同様の作用によるものと類推される。 |
[625]lopinavir・ ritonavirカレトラソフトカプセル(大日本住友) | 多夢 (2%未満) |
ritonavir では血液脳関門通過性に関する資料はないとされているが、ラットでは脳内に分布するの報告[IF,1997.11.]。本剤のCNS作用により多夢等が発 生すると類推される。 |
[112]lormetazepam ロラメット錠(ワイス) |
多夢 (0.1%未満) |
benzodiazepin 系薬剤は、中枢神経系のGABA 機能を促進することにより不安・緊張緩和、入眠状態を構成するとされている(7。本剤のCNS作用により多夢等が発生すると類推される。 |
[117]maprotiline hydrochloride ルジオミール錠(ノバルティス) |
悪夢(0.02%) | maprotiline は血液脳関門を通過すると報告[IF,1993.6.]されており、本剤のCNS作用により悪夢等が発生すると類推される。 |
[112]medazepam レスミット錠(塩野義) |
浅眠多夢 (0.1%未満) |
benzodiazepin 系薬剤は、中枢神経系のGABA 機能を促進することにより不安・緊張緩和、入眠状態を構成するとされている(7。本剤のCNS作用により多夢等が発生すると類推される。 |
[641]mefloquine hydrochloride メファキン錠(エスエス) |
魔夢、異夢 (頻度不明) |
mefloquine の血液脳関門通過性に関する資料はないと報告されている。ただし、動物実験の結果として脳への移行が報告されている[IF,2001.10.]。本剤の CNS作用により魔夢等が発生すると類推される。 |
[214]methyldopa アルドメット錠(万有) |
悪夢 (頻度不明) |
methyldopa はCNSでメチルノルエピネフリンに代謝され、脳幹のα2-受容体を刺激することによりCNSから末梢への交感神経興奮発射を減少させると報告されている (4。本剤による悪夢の発現はCNS作用によると類推される。 |
[214]metoprolol tartrate セロケン錠(アストラゼネカ) |
悪夢 (0.1%未満) |
β-アドレナリン性 拮抗薬の中枢神経系に帰結する副作用は疲労、睡眠障害(不眠、悪夢含む)並びに抑うつである。様々なβ-遮断薬のCNS作用による副作用の原因として脂質 親和性との相関に興味が持たれてきたが、明確な相関関係は明らかでない(4。 |
[112]mexazolamメレックス錠・細粒(第一三共) | 多夢(0.1%未 満) | benzodiazepin 系薬剤は、中枢神経系のGABA 機能を促進することにより不安・緊張緩和、入眠状態を構成するとされている(7。本剤のCNS作用により多夢等が発生すると類推される。 |
[112]midazolam ドルミカム注(山之内) |
悪夢(0.1-5%未満) | benzodiazepin 系薬剤は、中枢神経系のGABA 機能を促進することにより不安・緊張緩和、入眠状態を構成するとされている(7。本剤のCNS作用により多夢等が発生すると類推される。 |
[449]montelukast sodium キプレス錠・チュアブル錠(杏林) |
異夢(頻度不明) | montelukast について、動物実験の結果血液脳関門通過性は低いと報告[IF,2001.6.]されているが、本剤のCNS作用により異夢等が発生すると類推される。 |
[625]nevirapine ビラミューン錠(ベーリンガー) |
異夢(0.2%)、 悪夢(0.1%) | nevirapine は動物実験の結果として血液脳関門を通過すると報告されている[IF,1998.11.]。本剤のCNS作用により異夢等が発生すると類推される。 |
[799]nicotin ニコチネルTTS(ノバルティス) |
異夢、悪夢 (0.1-5%未満) |
禁煙の目的で使用さ れるnicotinは、ニコチン性アセチルコリン受容体に作用することによって中枢神経、自律神経、骨格筋などに作用する(7。本剤による異夢・悪夢の発 現は本剤の中枢神経作用によると類推される。 |
[212]oxprenolol hydrochlorideトラサコール錠(ノバルティス) | 悪夢 (頻度不明) |
β-アドレナリン性 拮抗薬の中枢神経系に帰結する副作用は疲労、睡眠障害(不眠、悪夢含む)並びに抑うつである。様々なβ-遮断薬のCNS作用による副作用の原因として脂質 親和性との相関に興味が持たれてきたが、明確な相関関係は明らかでない(4。 |
[811]oxycodone hydrochloride オキシコンチン錠(塩野義) |
異夢、悪夢 (5%未満)[添付文書,2003.4.] |
oxycodone の作用部位は脳内であり、脳内における消失は、他の組織に比べて緩やかであったと報告されている[添付文書,2003.4.]。本剤による悪夢の発現は本 剤によるCNS作用によると類推される。 |
[214]penbutolol sulfate ベータプレシン錠(アベンティス) |
悪夢 (0.1%未満) |
β-アドレナリン性 拮抗薬の中枢神経系に帰結する副作用は疲労、睡眠障害(不眠、悪夢含む)並びに抑うつである。様々なβ-遮断薬のCNS作用による副作用の原因として脂質 親和性との相関に興味が持たれてきたが、明確な相関関係は明らかでない(4。 |
[212]pindolol カルビスケン錠(チバガイギー) |
悪夢 (頻度不明) |
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[212]propranolol hydrochloride インデラル錠・注(アストラゼネカ) |
悪夢 (0.1-5%未満) |
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[112]quazepam ドラール錠(田辺三菱) |
夢魔(頻度不明) | benzodiazepin 系薬剤は、中枢神経系のGABA 機能を促進することにより不安・緊張緩和、入眠状態を構成するとされている(7。本剤のCNS作用により多夢等が発生すると類推される。 |
[117]quetiapine fumarate セロクエル錠(アストラゼネカ) |
魔夢 (0.2%) |
quetiapine は血液脳関門を通過し、脳内ドパミンD2受容体及びセロトニン5HT2受容体を占有することが確認されているの報告[IF,2000.12.]。本剤によ る魔夢の発現は本剤によるCNS作用によると類推される。 |
[214]rescinnamine レシナミンD錠(イセイ) |
悪夢 (0.1-5%未満) |
reserpine による副作用の大部分は中枢神経系に及ぼす作用によって惹起される(4。本剤による悪夢の発現も同様の作用によるものと類推される。 |
[214]reserpine アポプロン錠・注(第一三共) |
悪夢 (5%以上又は頻度不明) |
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[625]ritonavir ノービアソフトカプセル(大日本住友) |
異夢(2%未満) | ritonavir では血液脳関門通過性に関する資料はないとされているが、ラットでは脳内に分布するの報告[IF,1997.11.]。本剤のCNS作用により多夢等が発 生すると類推される。 |
[625]saquinavir フォートベイスカプセル(中外) |
多夢 (頻度不明)[添付文書,2002.10] |
血液脳関門通過性に 関する資料はないとされる。しかし、低濃度であるが髄液への移行が報告されており、本剤は血液脳関門を通過すると考えられる[IF,2000.4.]。本 剤による多夢の発現は本剤のCNS作用によると類推される。 |
[625]saquinavir mesilate インビラーゼカプセル(中外) |
多夢 (頻度不明) |
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[116]selegilineエフピー錠(藤本) | 多夢 (0.1-5%未満) |
MAO阻害薬は REM睡眠に対し非常に有効な抑制薬であるとされており、本剤による多夢の発現は本剤によるCNS作用によると類推される。 |
[116]talipexole hydrochloride ドミン錠(ベーリンガー) |
悪夢 (0.1-5%未満)[添付文書,2003.3.] |
talipexole の血液脳関門通過性に関する資料はないとされる。ただし、本剤は脳内の線条体シナプス後膜のドパミンD2受容体を選択的に刺激することで抗パーキンソン作 用を示すとされている[IF,1996.4.]。本剤による悪夢の発現は、本剤のCNS作用によるものと類推される。 |
[112]tandospirone citrate セディール錠(大日本住友) |
悪夢(0.1%未 満) | 脳内セロトニン受容 体のサブタイプ5-HT1A 受容体に選択的に作用するとされている(1。本剤による悪夢の発現は本剤によるCNS作用によると類推される。 |
[131]timolol maleate チモプトール点眼液(万有) |
悪夢 (頻度不明) |
β-アドレナリン性 拮抗薬の中枢神経系に帰結する副作用は疲労、睡眠障害(不眠、悪夢含む)並びに抑うつである。様々なβ-遮断薬のCNS作用による副作用の原因として脂質 親和性との相関に興味が持たれてきたが、明確な相関関係は明らかでない(4。 |
[112]triazolam ハルシオン錠(ファイザー) |
多夢、魔夢 (0.1%未満) |
benzodiazepin 系薬剤は、中枢神経系のGABA 機能を促進することにより不安・緊張緩和、入眠状態を構成するとされている(7。本剤のCNS作用により多夢等が発生すると類推される。 |
[117]trazodone hydrochloride デジレル錠(ファイザー) |
悪夢(頻度不明) | trazodone の血液脳関門通過性に関する資料はないとされる。ただし、脳内でのセロトニン取込阻害作用はノルアドレナリンに比べて選択的であるとする報告がある [IF,1993.11.]。本剤による悪夢の発現は本剤によるCNS作用によると類推される。 |
[112]zolpidem tartrateマイスリー錠(アステラス) | 悪夢 (0.1-5%未満) |
benzodiazepin 系薬剤は、中枢神経系のGABA 機能を促進することにより不安・緊張緩和、入眠状態を構成するとされている(7。本剤のCNS作用により多夢等が発生すると類推される。 |
[015.11.DRE:2003.10.7.古泉秀夫・2003.12.5.修正]
- 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2003
- 伊藤正男・他編:医学大辞典;医学書院,2003
- 和田 攻・総監修:医学生物学大辞典[下];朝倉書店,2001
- 藤原元始・他監訳:グッドマン・ギルマン薬理書 第8版;廣川書店,1992
- http://square.umin.ac.jp~jin/text/bad-dream.html,2003.10.6.
- 菱川泰夫:日本における睡眠障害診療の現況;日本医事新報,No.3974:2-6(2000.6.24.)
- 峠哲雄:特集睡眠障害-薬剤による睡眠障害;医薬ジャーナル,37(8):2367-2372(2001)
- 石田悟・他:β-遮断剤・プロプラノロールによるCNS障害の事例;薬局,45(12):2369-2377(1994)