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5.外用剤の剤形別使用法

木曜日, 8月 16th, 2007

外用剤に分類される薬は、意外にその種類が多く、どの薬がどこに分類されるのか、甚だ分かりにくいというのが実体である。一般的に皮膚に塗布して使用される薬は、皮膚から薬を吸収させる目的の場合と、皮膚そのものの病変部に作用させる局所適用-炎症を起こした皮膚、湿疹を起こした皮膚等、皮膚病変部に直接塗布する場合とがあり、皮膚からの吸収を目的とするものを『経皮投与』、皮膚病変部に治療目的で直接塗布するものを『局所投与』と区分している。

しかし、実際には、使用されている基剤(主薬以外の成分)によって、主薬が皮膚病変部のみに効果を発揮する場合と、皮膚を経由して吸収されて、吸収部位に効果を発揮する場合とがある。更に最近では皮膚に貼る(貼付)ことにより、全身的な効果を期待する薬物も発売されるようになっている。

ただし、今回は主として『局所投与』の外用剤について、その特徴・使用目的・使用方法を紹介する。『局所投与』は、軟膏の主薬、基剤の相違によって、リント布に薄く伸ばしてから患部に貼る場合、患部にそのまま塗るか、擦り込む場合、又は密封療法として軟膏を塗布し、通気性のない布等で覆う(被覆)場合など、それぞれ使い分けることが必要なため、医師の指示を確認することが必要である。

一般の薬局等で購入できるOTC薬の場合、薬に添付されている説明文書中に、それぞれの使用上の注意が記載されているので、使う前に必ず読むことを習慣付けることが必要である。

剤型区分 使用方法 適応及び特性
油脂性軟膏
(oleaginous ointment)油脂性軟膏は、種々の油脂が軟膏基剤として用いられ、古くから皮膚外用剤として最も安全・効果の高いものとして使用されている。植物油としてオリーブ油・ヒマシ油・菜種油・落花生油・椿油等。
動物性油脂として肝油・ラノリン・豚脂・蜜蝋等。
鉱物性油として流動パラフィン・ワセリン等。
油脂性軟膏は、元来、湿潤性(湿ってぐゅじぐしゅした)病変に貼付して使用するもので、糜爛(びらん;ただれ)、痂皮(カサブタ)、潰瘍面、小水疱・膿疱(膿を含んだ水疱)等にも軟膏をリントに厚目に伸ばしたものを3×4cm角に切り、更にハサミで切れ込みを入れて病変部に貼付する。
丘疹(皮膚上に円錐状の隆起)や落屑(表皮角質層上部の薄片脱落)等の乾燥性病変にも使用することができ、この場合には手指を用いて薄く塗布する。
塗布の場合1日2-3回、貼付の場合には1日1-2回、新しい軟膏と付け替えるが、軟膏を塗布し直すとき、水で洗い落とすことができないので、植物油を含ませた綿で拭き取る。
皮膚の保護、乾燥防止、柔軟作用・冷却、消炎作用がある。その他、痂皮(カサブタ)面に貼付すると痂皮軟化除去作用、糜爛・潰瘍面に用いて肉芽形成促進、表皮形成促進作用がある。
油性が強く、水を殆ど含んでいない。べとべとして洗い流すことが難しい。塗布面がてかって光ったり、外観がいかにも軟膏を塗布したという感じになる。軟膏は皮膚が乾燥し、潤滑又は湿気を必要としているとき最も適切。
油脂性軟膏基剤は、紅斑・丘疹等の炎症性病変から小水疱・膿疱・糜爛等の浸潤面や痂皮・潰瘍に至るまで非常に広範囲の適応がある。
油脂性基剤軟膏は乳剤性軟膏基剤との比較で、配合薬剤の経皮浸透力は弱いが、皮膚刺激作用が殆ど無く、安全な基剤として使用されている。
乳剤性軟膏(クリーム)(emulsion ointoment)

水(水溶液)と油(油溶液)の混合物に乳化剤を加えて乳剤としたもので、乳化剤の種類により水相中に油滴の分散した水中油型乳剤性軟膏(O/W)と、油相中に水滴が分配した油中水型乳剤性軟膏(W/O)とに分類。
通常、病変部に塗布して用い、ガーゼやリント布にのばして貼付することはしない。
但し、副腎皮質ステロイドホルモン剤配合のクリームの使用法として密封法(ODT法)があり、クリームを塗った上からポリエチレン紙で覆い、周囲を絆創膏で密封する方法がある。
各種薬剤との練合性がよく、配合薬剤の経皮浸透力が強い。塗布したとき擦り込むと消えて見えなくなり、外観が美しく清潔で、水で容易に洗い落とすことができる。顔、手掌等に使用する場合に便利。経皮浸透力が強いため、分泌液の多い湿潤面に使用すると、分泌物を逆浸透させて症状を悪化させる危険があるので、湿潤面には使用しない
水溶性軟膏
(water soluble ointment)

完全に水に溶ける基剤主としてマクロゴール(ポリエチレングリコール)が使用される。
各種薬剤を溶解するのに適しており、水によく溶解し、強い吸水、吸湿作用を有するので皮膚病変の分泌液を吸着する力が強い。また塗布したときの外観が美しく、清潔で、容易に水で洗い落とすことができる。
分泌物の少ない病変には塗布してもよいが、普通はガーゼに厚めにのばしたものを病変面より少し大きめに切って貼付し、その上に必ず数枚のガーゼを重ねて絆創膏で固定する。リント布は軟膏の吸着した水性分泌物を吸収しないので使用しない。
水溶性軟膏基剤の吸水性は極めて強いので、湿潤面が乾燥しすぎて病巣面にひび割れを生ずることがある。
水疱・膿疱・糜爛・潰瘍などの湿潤病変を示す第二度熱傷・湿潤性の湿疹・水疱症・感染症等に使用する。
泥膏
(pasta)

粉末剤を多量に含む油脂性の外用剤で、軟膏より硬いものをいう。現在では使用頻度は少ない。
泥膏は手指を用いて塗擦し、泥膏を皮膚面によく付着させる。その上から叩いておくのが、原則的使用法である。貼付して用いることはない。 皮膚保護作用・冷却・消炎作用があるが、粉末剤が多く含まれているので、分泌物吸収作用や乾燥作用が強い。しかし軟膏に比べ痂皮軟化・肉芽形成・表皮形成作用は弱い。
急性湿疹の治癒期の鱗屑の除去や慢性湿疹の湿潤性病変に対して浸潤除去作用を有する。
急性湿疹の落屑期・慢性湿疹・痒疹・苔癬・尋常性乾癬等の浸潤性炎症に対して使用される。
硬膏
(plaster)

油脂・蝋等に樹脂・弾力ゴム等の粘着剤を加えた混合物で、常温では固体であるが、皮膚面に用いると体温で軟化し粘着性となり、皮膚に膠着する。主として皮膚保護・角質軟化等の作用がある。
鶏眼に用いるときは、サリチル酸絆創膏を芯の大きさにできるだけ小さく切って貼付する。その上から普通の絆創膏で固定し、数日間(5日間位)そのままにして、白くふやけた部分をカミソリの刃等で、出血しないよう注意して削る。
副腎皮質ホルモン配合剤のテープは、病巣面よりやや大きめに切って病巣面に貼付し、通常は夜間約12時間貼付し、昼間は剥がして副腎皮質ホルモン剤配合軟膏又はクリームを使用する。夏季に長時間貼付すると、汗疹、毛包炎等を起こすので注意。
硬膏には紙や布にのばした絆創膏とポリエチレン紙にアクリル樹脂やゴム系粘着剤をのばしたテープ剤がある。
皮膚に粘着して外的刺激から保護し、サリチル酸絆創膏は鶏眼(ウオノメ)、胼胝(タコ)等に角質軟化作用を、副腎皮質ホルモン剤配合テープは慢性湿疹・痒疹・尋常性乾癬・掌蹠膿疱症・ケロイド等に抗炎症作用を示す。
ローション剤(lotion)              
懸濁性ローション
(振盪合剤)
(shake lotion)

懸濁性ローションは水(液体)に粉末を配合してつくられるが、疎水性粉末を用いる場合には懸濁を助けるためにアラビアゴム・トラガカント・ベントナイト・メチルセルローズ等の懸濁化剤が用いられる。
軟膏のようにべとつくことが無く、また容易に水で洗い流すことができる。その作用効果は配合した薬物の作用によるが、薬剤を経皮浸透する力は乳剤性ローションに劣り、作用は表面的である。 水・アルコール等の液体中に不溶性の薬剤(粉末剤)が懸濁しているもので、静置すると時間とともに粉末剤は沈殿して液体と分離するが、振盪すると再び粉末剤が液体中によく分散する。
乳剤性ローション(emulsion lotion)

水溶液と油溶液に乳化剤を加えて乳化し、水中油型乳剤(O/W)としたもの。
クリームに類似しているが、より多くの水を含有。実際には水あるいは水と油を溶媒として、その中に微細な粉末を溶かしたもの。
塗布することは容易で、特に皮膚を冷やしたり乾燥させるのに適している。
被髪頭部によく用いられる。
配合される薬剤を経皮浸透させる作用が強い。また外観が美しく、皮膚に塗布してもべとつくことが無く、容易に水で洗い落とすことができる。糜爛面や浸潤面に用いると分泌物を再浸透させて症状を悪化させることが多く、また痂皮(カサブタ)除去作用も弱いので、主として乾燥性病変に塗布して用いられる。
液体外用剤 (Liquids)
液体外用剤とは、溶剤(溶媒)に種々の薬剤を溶解したもの。溶剤の主なものに蒸留水・アルコール・グリセリン・油脂・プロピレングリコール・ポリエチレングリコール等。最も一般的に用いられている液体は、蒸留水。
液剤  (soluion)
 
不揮発性薬物の水溶液を液剤という。
塗布して用いる。 水は皮膚を清潔にし、そのまま湿布や浴湯に用いられる他、種々の薬物を溶解して液剤として使用される。溶液は皮膚に潤いを与えるより、むしろ乾燥させる傾向がある。
アルコール剤
(alcohlic solution)

種々の薬品を溶解して、アルコール剤として使用する。そのうち揮発性薬品のアルコール溶液を酒精剤(spirits)、不揮発性薬品のアルコール溶液をチンキ剤(tinctures)という。
アルコール剤は塗布して用いる。
表皮に病変があると染みたり刺激症状が現れることがある。
刺激を緩和し、揮発性薬品の揮発を抑える意味で、多くの場合グリセリンやヒマシ油が加えられる。
油脂剤(oils)

植物油としてオリーブ油・ヒマシ油・菜種油・落花生油・椿油等。
動物性油脂として肝油・ラノリン・豚脂・蜜蝋等。鉱物性油として流動パラフィン・ワセリン等。
軽度の潮紅を示す炎症面や第1度熱傷に塗布するが、最近では単独で使用することは少なく、粉末剤等と混和して油脂性軟膏として使用することが多い。
植物油は綿に含ませて、油脂性軟膏や軟化した痂皮を拭き取るのに使用する。
皮膚を外的刺激から保護し、鱗屑や痂皮を軟化するほか、水分蒸発抑制・皮膚乾燥防止などの作用がある。
軽度の潮紅を示す炎症面や乾燥性皮膚面に塗布する。ただし、フケ(脂漏)に用いると、かえって鱗屑(皮膚の薄く剥がれたもの)や痂皮(カサブタ)が増加し、症状を悪化させるので注意を要する。このようなときには軟膏類の塗布又は貼付がよい。
グリセリン剤
(glycerites)

外用剤の原料として使用。種々の薬品を溶解し、グリセリン剤として使用。
単独で塗布して用いることもある。 無色透明、やや粘性のある液体で、水分吸収、皮膚軟化作用がある。
粉末剤(powder)

粉末剤には植物性(澱粉)、鉱物性(亜鉛華、タルク等)、動物性の3種類があるが、現在動物性のものは殆ど使用されていない。
個人用にはパフを用いる。一般には粉末剤を綿に含ませるか、又は綿花をガーゼで包んだものを用いて軽く叩くようにして散布す
る。
粉末剤を過剰に使用すると汗腺口や毛孔を塞いで、かえって汗や皮脂の鬱滞を来すので注意すること。また、糜爛・潰瘍等の湿潤面には使用しないのが原則。
あせも(汗疹)等の軽い炎症面に散布する。皮膚と皮膚が擦れ合う部分を護るために使用される乾燥した製剤。足指、臀部の間、腋の下、股の付け根部分、あるいは乳房の下等に用いられる。
粉末剤は柔らかくなった皮膚(湿潤部分)を乾燥し、湿気を吸収することによって摩擦を軽減する。
粉末剤は保護剤としてクリーム、ローション、軟膏などと混合して使用することもある。その他、油脂性軟膏を塗布した上から、軟膏が皮膚面によく付着するように散布する使用法もある。
[特性]粉末剤を散布すると皮膚面を外的刺激や摩擦等から保護し、汗や皮脂その他の分泌物を吸着して皮膚面を乾燥させ、水分を蒸発して冷却、消炎的に作用。
ゲル(gel)

コロイド粒子が固まってゼリー状になったもの
基剤中の溶剤による刺激があるため亀裂、糜爛面への使用は回避する。 油類や脂肪を用いずに濃縮された水ベースの物質。皮膚は、油分や脂肪を含む薬剤を吸収する程には、ゲルを吸収しない。

[015.11.OIN.2004.1.10.]


  1. 大宮清司・監修:改訂 看護のための薬品管理学;薬業時報社,1987
  2. 福島雅典・監修:メルクマニュアル医学情報[家庭版];日経BP社,1999
  3. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2000
  4. 野波英一郎:改訂第2版 皮膚外用剤療法の実際;中外医学社,1989