4.坐薬・頓服薬の服み方使い方
木曜日, 8月 16th, 2007[1]坐薬の使い方
薬の使い方による分類法として、内用薬・外用薬・注射薬という分け方があることについては、本章の『1.薬の形(剤形)』で既に述べた。内用薬はいわゆる『飲み薬』で、経口剤ともいわれている薬である。外用薬はもっぱら『塗ったり・貼ったり・挿入』したりする薬である。注射薬は、ご存じの通り、注射器を使って筋肉や静脈内等を経由して薬を直接体内に入れる仕組みということである。
『外用薬』は、一般に赤い文字で印字した薬袋に入れて渡されるが、飲む薬ではないということを強調するために、薬袋の色が換えられている。
ところで『坐薬』であるが、これは明らかに外用薬であるから、飲む薬でない。従って「この薬は坐って飲まないと何か事故が起こるのでしょうか?。」というお訊ねは、基本的に間違いだということになる。
『坐薬』には、痔の治療を目的とするものの他、全身作用(熱を下げる、痛みを抑える)を目的として使用されるものがある。もし、『坐薬』は痔の治療にのみ使用するものだと考えているとすれば、熱がある、あるいは痛みがあるというときに、坐薬が処方されると、薬は飲むものだという先入観から『坐薬』を飲んでみたいという誘惑に駆られるのかもしれないが、そのような誘惑には負けないでいただきたい。
『坐薬』の使用方法は『肛門に挿入する』のが正しい使い方である。
しかし、薬の説明をするとき、特に相手が若い女性の場合、肛門等という言葉は言い難いということがあり、「お尻に入れてください」等と説明するので、「お汁に入れて飲んだけれど、とても飲めるものではないので、薬を換えてください」等という笑えない話がでてくるのである。
- 『坐薬』が出された場合、自宅に戻ったら直ちに冷蔵庫に入れてください。温度により柔らかくなったり、変形したりします。薬の安定性に影響する場合もありますから、必ず冷蔵庫に入れておいて下さい。
- 『坐薬』を使用する場合、箱入りの場合には箱から出してください。次に銀紙に包まれていたらそれも外してください。プラスチックのコンテナに入っている場合もありますが、そのままでは使用できませんので、それも外してください。コンテナのまま挿入しようとして、肛門が切れて出血したという例があります。ロウソクみたいな感じの紡錘形のものが出てくるはずです。それが『坐薬』の本体です。
- 『坐薬』を使用する前に、出来れば排便しておいて下さい。『坐薬』を挿入し便意を催し、排便してしまっては、期待された効果が得られません。
- 『坐薬』を『肛門』に挿入するとき、素手で『坐薬』に触れないでください。ティッシュで『坐薬』の細い方をつかみ太い方から挿入します。直接、指でつままないと挿入できない場合は、石鹸を使って十分に手を洗い、挿入後も同様に石鹸を使って手洗いをしてください。
- 『坐薬』を女の赤ちゃんに挿入する場合、挿入場所をはっきり確認してから挿入してください。間違えて膣内に挿入した例が報告されています。
なお、坐薬の使用に際して注意することの一つとして、基剤の違いによって主薬の吸収に差が見られることである。熱性痙攣の治療薬であるdiazepam(ジアゼパム)の坐薬と解熱剤の acetoaminophen(アセトアミノフェン)の坐薬を併用した場合、直腸内腔液に溶解した使用性のdiazepamが、 acetoaminophen坐薬の油脂性基剤に一部取り込まれ、diazepamの吸収が遅延するのではないかとされている点である。
『熱性痙攣の指導ガイドライン』では
『diazepam坐薬を使用する場合、解熱薬を経口投与にするか、坐薬を併用する場合には、diazepam坐薬を投与後すくなくとも30分以上間隔を開けることが望ましい』とする記載がされている。
因みに『坐薬』を誤って服んでしまったとしても、特に重篤な障害がでることはないので、心配することはないが、当初の治療の目的は果たせないということにもなるので、薬は正しく使用することが必要である。
[2]頓用について
『とんよう』等というと、そそっかしい人は、『豚用』などという文字を思い浮かべて、動物用の薬ではないのかと思うかもしれないが、これは由緒正しい『薬の服み方』の一つである。
『頓』には「にわか」の意味があるということであり、横文字の『potion』には「一服」とする訳が付けられている。
従って『頓服』あるいは『頓用』とは、「にわかに服む」か、あるいは「にわかに用いる」という意味があることになる。つまり『頓服(potion)』あるいは『頓用』とは、薬を継続的に使用するのではなく、必要時に1回服用することを目的とした服み方ということになる。
それでは『必要な時とはどんな時?』ということになるが、おおよそ想定されている症状としては
『頭痛時』、『疼痛時』、『胸痛時』、『胃(腹)痛時』、『発作時』、『熱発時』、『肩こり時』、『吐気のある時』、『咳のでる時』、『不眠時』、『便秘時』
等があげられている。
つまりこれらの対象となる症状が発現した時に、その症状を改善する目的で投与される薬であり、頓用の目的は、あくまで対象とする症状に合わせて、その時限りの単発で服むことが目的の薬ということである。従って続けて服まなければならない継続的な治療を必要とする病気には、馴染まない投与方法ということになる。
頓用の1回投与量は、処方薬剤の1回量を基準として、投与間隔あるいは1日の服用回数限度は、処方薬剤の作用発現時間、作用持続時間、生物学的半減期、薬剤の排泄動態等を勘案して決定することとされている。
但し、保険診療上の『頓服薬』に関する考え方は、旧厚生省通知等で、次の通り規定されている。
- 頓服薬は、1日2回程度を限度として臨時的に投与するものをいい、1日の服用回数が2回以上で、かつ、服用に時間的、量的に一定の方針のある場合は、内服薬とする。頓服薬は、症状に応じて臨時的服用を目的として投与するものをいう。
(昭24.10.26.保険発第310号) - 十二指腸虫駆除の際に使用される四塩化炭素、チモール等は、投与方法が1日2回以上にわたり、時間的、量的に一定方針ある場合は内服薬とし、1回の場合は頓用とする。
(昭24.10.26.保険発第310号)
(参考):頓服薬とは一般に「臨時的に投与するもの」とされているが、医師個人により考え方に差があるため、睡眠薬、緩下剤、降圧剤で内服薬とすべきだと思われるレセプトが散見される。
特に1日1回服用のものは、例え長期又は定期的なものであっても、頓服薬と考えていると思われるケースが多い。
内服・頓服の区分については『原則として内服薬とは、医師が「食前」等と服用時間を指示したもの』、『頓服薬とは「痛みのあるとき服用」というように症状がでたときに患者の判断で服用するもの』としており、例外的に駆虫剤等臨時的なものに限り、内服時間を医師が指示したものであっても頓服薬と考えることとしている。
上記の旧厚生省の文書は、昭和24年のものであるが、現在も取り消し等の通知が出されていないため、上記通知に基づく判断が『頓服』に関する旧厚生省の見解ということである。
なお、頓用薬の投与量については、『頓服薬は1回量を基準として5単位以内で、月3回(12単位)』とするの記載もみられる。
その他、平成12年4月21日付事務連絡(地方社会保険事務局・都道府県民生主管部(局)・国民健康保険主管課(部)宛、厚生省保険局医療課発)「疑義解釈資料の送付について」として
Q1.頓服薬の投与許容回数に目安はあるのか。例えば14日処方の中に、頓用28回分はかまわないのか。
(答)昭和24年保険発310号で「頓服薬は1日2回程度を限度として臨時的に投与するものをいい、1日2回以上にわたり時間的、量的に一定の方針のある場合は内服薬とする」とされている。例えば、ニトログリセリン錠のように、頓服で処方された薬剤の特性等からみて妥当であれば構わない。なお、院外処方せん受付時に必要があれば処方医に紹介すること。
とする疑義解釈が例示されている。
つまり『頓服薬』は、患者の都合で、何回分欲しいと申し出ても、申し出た回数分を出すことができないという決まりがあるということである。
[015.11.SUP.2004.1.9.]
- 安藤鶴太郎・他:優秀処方とその解説 第37版;南山堂,1996
- 診療点数早見表 11月4日増補;医学通信社,1998
- 坂上正道・監修:レセプトの基礎知識;株式会社ミクス,1999
- 古泉秀夫:市販坐薬の基剤の物性・併用投与について[I];クラヤ三星堂薬報,No.43:4-5(2001.7.6.)