感染症の類型(感染症予防法)
木曜日, 8月 16th, 2007*感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染予防・医療法=感染症予防新法)
分類 | 感染症名・感染症の 概要 | 性格 [主な対応・措置] |
一類感染症 | *エボラ出血熱:エボラウイルスの感染により多臓器が侵され、出血傾向を示す。特異的な治療法はなく、死 亡率が高い。患者の血液、体液の接触により感染するが、手術用手袋等による接触感染予防により感染拡大を予防できる。 *クリミア・コンゴ出血熱:ウイルスによる出血傾向を示す感染症。ウイルスを保有した成熟ダ ニの刺咬による。未成熟ダニは保有動物宿主から感染し、卵巣内で継代されると考えられている。患者の血液・体液の接触により感染し、人から人の感染が多数 報告されている。罹患後少なくとも1年間は免疫が残る。特異的な治療法なく、死亡率高い。*重症急性呼吸器症候群(病原体がSARSコロナウイルスであるものに限る):SARSコロ ナウイルスの感染による重症急性呼吸器症候群である。多くは2-7日、最大10日間の潜伏期間の後に、急激な発熱、咳、全身倦怠、筋肉痛などのインフルエ ンザ様の前駆症状が現れる。2-数日間で呼吸困難、乾性咳嗽、低酸素血症などの下気道症状が現れ、胸部CT、X線写真などで肺炎像が出現する。肺炎になっ た者の80-90%が1週間程度で回復傾向になるが、10-20%がARDS(Acute Respiratory Distress Syndrome)を起こし、人工呼吸器などを必要とするほど重症となる。致死率は10%前後で、高齢者での致死率はより高くなる。 *痘そう:痘そうウイルスによる急性の発しん性疾患である。現在、地球上では根絶された状態 にある。主として、飛沫感染によりヒトからヒトへ感染する。患者や汚染された物品との直接接触により感染することもある。エアロゾルによる感染の報告もあ るが稀である。潜伏期間はおよそ12 日(7-17 日)で、感染力は病初期(ことに4-6病日)に最も強く、発病前は感染力はないと考えられている。すべての発しんが痂皮となり、これが完全に脱落するまで は感染の可能性がある。皮(かさぶた)の中には、感染性ウイルスが長期間存在するので、必ず滅菌消毒処理をする。 *ペスト:黒死病。腸内細菌科に属するグラム陰性桿菌であるYersinia pestis の感染によって起こる全身性疾患である。リンパ節炎、敗血症等を起こし、重症例では高熱、意識障害等を伴う急性細菌性感染症であり、死に至ることも多い。 臨床的に腺ペストと肺ペストの2型に分類される。我が国では大正8年以後発生していない。 *マールブルグ病:ウイルス感染により多臓器が侵され、出血傾向を示す。特異的治療法なく、 死亡率高い。患者の血液・体液の接触により感染するが、手術用手袋等による接触感染予防により感染拡大を予防できる。看護婦の院内感染例報告。 *ラッサ熱:ウイルス感染。ウイルス血症により肝臓をはじめ多臓器が侵される。多彩な症状を 示し、重篤なものでは出血傾向がある。腎不全、ショック等で死亡することもある。昭和61年1例報告。 |
*感染力、罹患した場合の重 篤性等に基づく総合的な観点から見た危険性が極めて高い感染症。 *患者、疑似症患者及び無症状病原体保有者について入院等の措置を講ずることが必要。 [主な対応・措置] *原則入院 *消毒等の対物措置(例外的に、建物への措置、通行制限等の措置も適用対象とする)。 患者・疑似症患者及び無症状病原体保有者:診断医師は速やかに保健所に届出。 ◆医師の届出:直ちに (法律) |
二類感染症 | *急性灰白髄炎(ポリオ):ポリオウイルス1-3 型感染による急性運動中枢神経感染症である。潜伏期は3-12日で、発熱(3日間程度)、倦怠感、頭痛、嘔気、項部・背部硬直などの髄膜刺激症状を呈する が、軽症例(不全型)では軽い風邪症状または胃腸症状で終わることもある。髄膜炎症状だけで麻痺を来さないもの(非麻痺型)もあるが、重症例(麻痺型)で は発熱に引き続きあるいは一旦解熱し再び熱発した後に、突然四肢の随意筋(多くは下肢)の弛緩性麻痺が現れる。罹患部位の腱反射は減弱ないし消失、知覚感 覚異常を伴わない。 *コレラ:コレラはコレラ毒素(CT)産生性コレラ菌(Vibrio cholerae O1)またはV. cholerae O139に汚染された飲料水や食品を介した経口感染により、激しい水様性下痢と嘔吐、著しい脱水と電解質の流失をきたす疾病である。コレラの潜伏期間は数 時間から5日、通常1日前後である。近年のエルトールコレラは軽症の水様性下痢や軟便で経過することが多いが、まれに“米のとぎ汁”様の便臭のない水様便 を1日数リットルから数十リットルも排泄し、激しい嘔吐を繰り返す。その結果、著しい脱水と電解質の喪失、チアノーゼ、体重の減少、頻脈、血圧の低下、皮 膚の乾燥や弾力性の消失、無尿、虚脱などの症状および低カリウム血症による腓腹筋(ときには大腿筋)の痙攣がおこる。胃切除を受けた人や高齢者では重症に なることがあり、また死亡例もまれにみられる。 *細菌性赤痢:赤痢菌(Shigella dysenteriae、S.flexneri、S.boydii、S.sonnei )の経口感染で起こる急性感染性大腸炎である。1-5日の潜伏期の後に、発熱、腹痛、下痢、時に嘔吐によって急激に発症し、重症例では頻回の便意とともに 粘血便を排泄する。志賀菌では重症例が多く、ソンネ菌では軽症例が多い。*ジフテリア:ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)の感染による急性感染症である。ジフテリア菌が咽頭などの粘膜に感染し、感染部位の粘膜や周辺の軟部組織の障害を引き起こし、扁 桃から咽頭粘膜表面の偽膜性炎症、下顎部から前頚部の著しい浮腫とリンパ節腫張(bullneck)などの症状が出現する。重症例では心筋の障害などによ り死亡する。 *腸チフス:腸チフスはチフス菌(Salmonella serovar Typhi)の感染による全身性疾患である。 腸チフスの潜伏期間は7-14 日で発熱を伴って発症する。患者、保菌者の糞便と尿が感染源となる。39℃を超える高熱が1 週間以上も続き、比較的徐脈、バラしん、脾腫、下痢などの症状を呈し、腸出血、腸穿孔を起こすこともある。重症例では意識障害や難聴が起きることもある。 健康保菌者はほとんどが胆嚢内保菌者であり、胆石保有者や慢性胆嚢炎に合併することが多く、永続保菌者となることが多い。 *パラチフス:パラチフスはパラチフスA菌(Salmonella serovar Paratyhi A)の感染によって起こる全身性疾患である。(Salmonella Paratyphi B、Salmonella Paratyphi Cによる感染症はパラチフスから除外され,サルモネラ症として取り扱われる)。臨床的症状は腸チフスに類似する。7-14 日の潜伏期間の後に38℃以上の高熱が続く。徐脈、脾腫、便秘、時には下痢、等の症状を呈する。症状は腸チフスと比較して、軽症の場合が多い。 |
*感染力、罹患した場合の重 篤性等に基づく総合的な観点から見た危険性が高い感染症。 *患者及び一部の疑似症患者について入院等の措置を講ずることが必要。[主な対応・措置] *状況に応じて入院 *消毒等の対物措置 患者・政令で定める感染症の疑似症患者及び無症状病原体保有者:診断医師は速やかに保健所に届 出。 ◆医師の届出:直ちに (法律) |
三類感染症 | *腸管出血性大腸菌感染症:ベロ毒素(Verotoxin ,VT)を産生する腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic E.coli,EHECあるいはShigatoxin-producing E. coli ,STEC)の感染によっておこる全身性疾病である。臨床症状はその血清型により差異があるが、一般的な特徴は腹痛、水様性下痢および血便である。嘔吐や 38℃台の発熱を伴うこともある。さらにベロ毒素の作用により溶血性貧血、急性腎不全をきたし、溶血性尿毒症症候群( Hemolytic Uremic Syndrome, HUS ) をひきおこすことがある。小児や高齢者では痙攣、昏睡、脳症などによって致命症となることがある。 |
*感染力、罹患した場合の重 篤性等に基づく総合的な観点から見た危険性が高くないが、特定の職業への就業にによって感染症の集団発生を起こし得る感染症。 *患者及び無症状病原体保有者について就業制限等の措置を講ずることが必要。 [主な対応・措置]*特定職業への就業制限 *消毒等の対物措置 患者・無症状病原体保有者:診断医師は速やかに保健所に届出。 ◆医師 の届出:直ちに (法律) |
四類感染症 | *E型肝炎:E型肝炎ウイルスによる急性ウイルス性肝炎である。我が国では、これまでの報告のほとんどは 発展途上国などの流行地域での海外感染例であったが、2002 年から国内感染例の報告が増加している。途上国では主に水系感染であるが、我が国では汚染された食品や動物の臓器や肉生食による経口感染が指摘されてい る。潜伏期間はA型肝炎より長く、平均6週間といわれている。臨床症状はA型肝炎と類似しており、予後も通常はA型肝炎と同程度で、慢性化することはな い。しかし、妊婦(第3三半期)に感染すると劇症化しやすく、致死率も高く20%に達することもある。特異的な治療法はなく、対症療法が中心となる。 *ウエストナイル熱(ウエストナイル脳炎を含む):フラビウイルス科に属するウエストナイル ウイルスによる感染症で、蚊によって媒介される。2-14日の潜伏期の後に高熱で発症する。発熱は通常3-6日間持続する。同時に頭痛、背部の痛み、筋肉 痛、食欲不振などの症状を有する。約半数で発しんが胸部、背、上肢に認められる。リンパ節腫張通常認められる。症状は通常1週間以内で回復するが、その後 倦怠感が残ることも多い。特に高齢者においては、上記症状とともにさらに重篤な症状として、激しい頭痛、方向感覚の欠如、麻痺、意識障害、痙攣等の症状が 出現し、脳炎、髄膜脳炎を発症することがある。特に米国では重篤な例で筋力低下が約半数に認められている。 *A型肝炎:A型肝炎ウイルスによる急性ウイルス性肝炎である。我が国では衛生状態の向上と ともに患者数は減少したが、最近でも年間500 例近い報告があり、そのほとんどは国内感染例である。汚染された食品や水などを介して、通常経口感染により伝播する。しかし、一部には性感染症として伝播 する例もある。潜伏期間は平均4週間程度である。感染期間は、ウイルスが便に排泄される発病の3-4週間前から発症後数週間にわたることもあり、数ヶ月に わたって便からウイルスが排出されるという報告もある。主な臨床症状は全身倦怠感、食思不振で、黄疸、肝腫大などの肝症状が認められる。一般に予後は良 く、慢性化することはないが、まれに劇症化することがある。小児では不顕性感染や軽症のことが多い。特異的な治療法はなく、対症療法が中心となる。 *エキノコックス症:エキノコックス(Echinococcus) による感染症で、単包条虫(Echinococcus granulosus)と多包条虫(Echinococcus multilocularis)の2種類がある。ヒトへの感染はキツネやイヌなどから排泄された虫卵に汚染された水、食べ物、埃などを経口的に摂取した時 に起こる。体内に発生した嚢胞は緩慢に増大し、周囲の臓器を圧迫する。多包虫病巣の拡大は極めてゆっくりで、肝臓の腫大、腹痛、黄疸、貧血、発熱や腹水貯 留などの初期症状が現れるまで、成人では通常10 年以上を要する。放置すると約半年で腹水がたまり、やがて死に至る。 *黄熱:フラビウイルス科に属する黄熱ウイルスの感染によるウイルス性出血熱である。南米や アフリカの熱帯地域にみられる。潜伏期間は3-6日間で発症は突然である。悪寒または悪寒戦慄とともに高熱を出し、嘔吐、筋肉痛、出血(鼻出血、歯齦出 血、黒色嘔吐、下血、子宮出血)、蛋白尿、比較的除脈、黄疸等を来す。普通は7-8病日から治癒に向かうが、重症の場合には乏尿、心不全、肝性昏睡など で、5-10 病日に約10%が死亡する。*オウム病:クラミジアChlamydia psittaci を病原体とし、オウムなどの愛玩用のトリからヒトに感染し、肺炎などの気道感染症を起こす疾患である。1-2週間の潜伏期の後に、突然の発熱で発病する。 軽い場合はかぜ程度の症状であるが、老人などでは重症になることが多い。初期症状として悪寒を伴う高熱、頭痛、全身倦怠感、食欲不振、筋肉痛、関節痛など がみられる。呼吸器症状として咳、粘液性痰などがみられる。胸部レントゲンで広範な肺病変はあるが理学的所見は比較的軽度である。重症になると呼吸困難、 意識障害、DIC などがみられる。発症前にトリとの接触があったかどうかが報告のための参考になる。 *回帰熱:シラミ或いはヒメダニ(Ornithodoros 属:ヒメダニ属) によって媒介されるスピロヘータ(回帰熱ボレリア)感染症である。コロモジラミ媒介性Borrelia recurrentis やヒメダニ媒介性B.duttonii 等がヒトに対する病原体である。菌血症による発熱期、菌血症を起こしていない無熱期を3 ないし5 回程度繰り返す、いわゆる回帰熱を主訴とする。感染後5-10 日を経て菌血症による頭痛、筋肉痛、関節痛、羞明、咳などをともなう発熱、悪寒がみられる(発熱期)。またこのとき点状出血、紫斑、結膜炎、肝臓や脾臓の 腫大、黄疸もみられる。発熱期は3-7日続いた後、一旦解熱する(無熱期)。無熱期では血中から菌は検出されない。発汗、倦怠感、時に低血圧や斑状丘しん をみることもある。この後5-7日後再び発熱期に入る。上記症状以外で肝炎、心筋炎、脳出血、脾破裂、大葉性肺炎などがみられる場合もある。 *Q熱:リケッチアの一種であるCoxiella burnetii の感染によって起こる動物由来感染症である。急性感染ではインフルエンザ様で突然の高熱、頭痛、筋肉痛、全身倦怠感、眼球後部痛の症状で始まる。未治療の 場合、有熱期間は5-57 日とされるが、多くは14日以内に解熱する。肺炎や肝機能障害を起こすこともあるが、予後は一般に良い。慢性感染では心内膜炎を起こし死亡率が高くなる。 急性症例の20-40%に慢性疲労症候群に類似した症状がみられたという報告もある。 *狂犬病:ラブドウイルス科に属す狂犬病ウイルスの感染による神経疾患である。狂犬病は狂犬 病ウイルスを保有するイヌ、ネコおよびコウモリ、キツネ、スカンク、コヨーテなどの野生動物に咬まれたり、引っ掻かれたりして感染し、発症する。潜伏期は 1-3カ月で、まれに1年以上に及ぶ。臨床的には咬傷周辺の知覚異常、疼痛、不安感、不穏、頭痛、発熱、恐水発作、麻痺と進む。発症すると致命的となる。 感染動物の唾液中にはウイルスが存在していることがある。米国ではアライグマやコウモリにおける狂犬病の増加が問題となっているが、狂犬病ウイルス感染動 物との接触が明らかでないヒトの感染事例が時々報告され、コウモリが原因と推測される場合がある。ワクチン接種により防御免疫を確立できる。狂犬病ウイル ス暴露後であっても、ワクチン接種により発症予防が可能である。 *高病原性鳥インフルエンザウイルス:高病原性鳥インフルエンザウイルスによるヒトの感染症 をいう。鳥インフルエンザウイルスのうち、特にH5及び(又は)H7亜型のヘマグルチニンを持つものはニワトリに対する病原性が強い。ヒトに対しても強い 病原性を獲得する可能性が高い。H5N1ウイルスの感染により、1997 年に香港で6名が死亡し、さらに2003 年に2名が死亡した。2003 年にオランダでニワトリにH7N7ウイルスの感染症が発生、流行した際に、獣医師が1名死亡した。現在のところ、我が国では家禽類からは、H5及びH7ウ イルスは検出されていない。感染した家禽あるいは野生鳥などからヒトにH5またはH7ウイルスが感染することがごく稀にある。オランダでのA/H7N7に よる事例では、ヒトからヒトへの感染も起こったと報告されている。潜伏期間は通常のインフルエンザと変わりなく、1-3日と考えられており、症状は突然の 高熱、咳などの呼吸器症状の他、重篤な肺炎、全身症状を引き起こす。A/H7N7ウイルスの感染では結膜炎を起こした。過去の香港でのA/H5N1ウイル スによる事例では、感染拡大防止のために大規模な家禽の屠殺処分が行われた。上述の症状のごとくインフルエンザを疑わせる症状があり、A型インフルエンザ ウイルスが分離同定されるものの、A/H1N1あるいはA/H3N2に対する抗血清と反応せず、亜型判別不能の場合には本疾患を疑う。 *コクシジオイデス症:カリフォルニア州、アリゾナ州、ニューメキシコ州をはじめとする米国 西南部各州、メキシコの太平洋側の半乾燥地帯、ベネズエラのコロ地方、アルゼンチンのパンパ地域に発生する風土病で、原因菌は真菌で 1)皮膚炭疽:全体の95-98%を占める。潜伏期は1-7日である。初期病変はニキビや虫さされ様で、かゆみを伴うことがある。初期病変周囲には水疱が *日本脳炎:フラビウイルス科に属す日本脳炎ウイルスの感染による急性脳炎である。ブタが増 幅動物となり、蚊が媒介する。感染後1-2週間の潜伏期を経て、急激な発熱と頭痛を主訴として発症する。その他、初発症状として全身倦怠感、食欲不振、嘔 *ボツリヌス症:ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)が産生するボツリヌス毒素、またはC. butyricum、C. baratii などが産生するボツリヌス毒素により発症する神経、筋の麻痺性疾患である。ボツリヌス毒素またはそれらの毒素を産生する菌の芽胞が混入した食品の摂取など *レジオネラ症:Legionella 属菌(Legionella pneumophila)が原因で起こる感染症の総称である。在郷軍人病(レジオネラ肺炎)とポンティアック熱が主要な病型である。免疫不全者に感染する |
*動物、飲食物等の物件を介 して感染し、国民の健康に影響を与えるおそれがある感染症(人から人への伝染はない)。 *媒介動物の輸入規制、消毒、物件の排気筒の物的措置が必要。[主な対応・措置] *感染症発生状況の収集、分析とその結果の公開、提供。 ◆医師の届出:直ちに |
五類感染症 | *アメーバ赤痢:赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)の感染に起因する疾患で、消化器症状を主症状とするが、それ以外の臓器にも病変を形成する。病型は腸管アメーバ症と腸管外アメー バ症に大別される。腸管アメーバ症は下痢、粘血便、しぶり腹、鼓腸、排便時の下腹部痛あるいは不快感などの症状を伴う慢性腸管感染症であり、典型的にはイ チゴゼリー状の粘血便を排泄するが、数日から数週間の間隔で憎悪と寛解をくり返すことが多い。潰瘍の好発部位は盲腸から上行結腸にかけてとS字結腸から直 腸にかけての大腸である。まれに肉芽腫性病変が形成されたり潰瘍部が壊死性に穿孔することもある。腸管外アメーバ症は多くは腸管部よりアメーバが血行性に 転移することによるが、肝膿瘍が最も高頻度にみられる。成人男性に多い。発熱(38-40℃)、季肋部痛、嘔気、嘔吐、体重減少、寝汗、全身倦怠などを伴 う。膿瘍が破裂すると腹膜、胸膜や心外膜にも病変が形成される。その他、皮膚、脳や肺に膿瘍が形成されることがある。*ウイルス性肝炎(E型肝炎及びA型肝炎を除く):ウイルス感染が原因と考えられる急性肝炎 (B 型肝炎、C 型肝炎、その他のウイルス性肝炎)である。慢性肝疾患、無症候性キャリア及びこれらの急性増悪例は含まない。一般に全身倦怠感、感冒様症状、食思不振、悪 感、嘔吐などの症状で急性に発症して、数日後に褐色尿や黄疸をともなうことが多い。発熱、その他の全身症状を呈する発病まもない時期には、感冒あるいは急 性胃腸炎などと類似した症状を示す。臨床病型は、黄疸をともなう定型的急性肝炎のほかに、顕性黄疸を示さない急性無黄疸性肝炎、高度の黄疸を呈する胆汁 うっ滞性肝炎、急性肝不全症状を呈する劇症肝炎などに分類される。 *急性脳炎(ウエストナイル脳炎及び日本脳炎を除く):ウイルスなど種々の病原体の感染によ る脳実質の感染症である。ただし、病原体が特定され、他の届出基準に含まれるものを除く。炎症所見が明らかではないが同様の症状を呈する脳症もここには含 まれる。多くは何らかの先行感染を伴い、高熱に続き意識障害やけいれんが突然出現し、持続する。髄液細胞数が増加しているものを急性脳炎、正常であるもの を急性脳症と診断することが多いが、その臨床症状に差はない。 *クリプトスポリジウム症:クリプトスポリジウム属原虫(Cryptosporidium spp.)のオーシストを経口接種することによる感染症である。潜伏期は4-5日ないし10 日程度と考えられ、無症状のものから、食思不振、嘔吐、腹痛、下痢(水様性下痢や粘血便)などを呈するものまで様々である。患者の免疫力が正常であれば通 常は数日間で自然治癒するが、エイズなどの各種の免疫不全者には重篤な感染を起こすことがあり、1日に3-5リットル、時に10 リットルをこえる下痢によって脱水死することもある。 *クロウイツフェルト・ヤコブ病:クロイツフェルト・ヤコブ病(以下、「CJD」という。) は、脳内に異常なプリオン蛋白(蛋白性感染粒子、プリオン、proteinaceous infectious particle、prion)が蓄積し、脳が海綿状となる「伝達性海綿状脳症(transmissible spongiform encephalopathy、TSE)」又は「プリオン病」と呼ばれる疾患の代表的な疾患。本疾患の有病率は100 万人に1人前後、その8割は孤発性CJD で、地域差、男女差はない。発病は50-70 歳代が多い。約2割に遺伝性CJD があり、発病が早い(40 歳代)ものもある。また、医原性感染が疑われるものに、ヒト由来脳下垂体製剤(成長ホルモン等)、ヒト乾燥硬膜移植等がある。孤発性CJD では、初老期以降に不定の精神・神経症状が生じ、急速に憎悪し、数ヶ月で無動性無言状態となり、全経過は1-2年といわれている。家族性CJD では、プリオン蛋白遺伝子の変異に応じて臨床症状、経過が異なる。この場合は、静脈血から遺伝子診断が可能である。新変異型CJDは、近年、英国で報告さ れ、20 歳代の若年に発症し、不安、感覚障害等で初発し、経過が従来のCJD よりやや長い。この新変異型CJD は、異常なプリオン蛋白の泳動パターンが牛海綿状脳症(狂牛病)のものと類似していることが指摘されている。この他、亜型として、GSS(ゲルストマン・ ストロイスラー・シャインカー症候群、GerstmannStrausslerScheinkersyndrome)、FFI(致死性家族性不眠症、 Fatal Familial Insomnia)がある。 *劇症型溶血性レンサ球菌感染症:突発的に発症し、急激に進行するA群レンサ球菌による敗血 症性ショック病態である。初発症状は咽頭痛、発熱、消化管症状(食欲不振、嘔気、嘔吐、下痢)、全身倦怠感、低血圧などの敗血症症状、筋痛などであるが、 明らかな前駆症状がない場合もある。後発症状としては軟部組織病変、循環不全、呼吸不全、血液凝固症状、腎肝症状など多臓器不全を来し、日常生活を営む状 態から24 時間以内に多臓器不全が完結する程度の進行を示す。A群レンサ球菌による軟部組織炎、壊死性筋膜炎、上気道炎・肺炎、産褥熱は現在でも致命的となりうる疾 患である。 *後天性免疫不全症候群:レトロウイルスの一種であるヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus; HIV)の感染によって免疫不全が生じ、日和見感染症や悪性腫瘍が合併した状態。感染からエイズ発症まで通常約10 *破傷風:破傷風毒素を産生する破傷風菌(Clostridium tetani)が、外傷部位などから組織内に侵入し、嫌気的な環境下で増殖した結果産生される破傷風毒素による神経刺激伝達障害を起こす。外傷部位などで |
* 国が感染症の発生動向調査を行い、その結果等に基づいて必要な情報を国民一般や医療関係者に情報提供・公開していくことによって、発生・まん延を防止すべ き感染症。 [主な対応・措置] 後天性免疫不全症候群、梅毒、マラリアその他厚生労働省令で定めるものの患者。但し、後天性免 疫不全症候群、梅毒その他厚生労働省令で定める感染症については、無症状病原体保有者を含む。 ◆医師の届出:7日以 内 (省令) □ペニシリン耐性肺炎球菌感染症、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症又は薬剤耐性緑膿菌感染 症に係るものにあっては、診断した日の属する月の翌月の初日に最寄りの保健所に届出。 |
五類感染症 ・定点把握対象 |
*RSウイルス感染症:RSウイルス(respiratory syncytial virus)による急性呼吸器感染症である。乳児期の発症が多く、特徴的な病像は細気管支炎、肺炎である。2日-1週間(通常4-5日)の潜伏期間の後 に、初感染の乳幼児では上気道症状(鼻汁、咳など)から始まり、その後下気道症状が出現する。38-39 度の発熱が出現することがある。25-40%の乳幼児に気管支炎や肺炎の兆候がみられる。1歳未満、特に6ヵ月未満の乳児、心肺に基礎疾患を有する小児、 早産児が感染すると、呼吸困難などの重篤な呼吸器疾患をひき起こし、入院、呼吸管理が必要となることがある。乳児では、細気管支炎による喘鳴(呼気性喘 鳴)が特徴的である。その後、多呼吸、陥没呼吸などの症状あるいは肺炎を認める。新生児期あるいは生後2-3か月未満の乳児では、無呼吸発作の症状を呈す ることがある。再感染の幼児の場合には、細気管支炎や肺炎などは減り、上気道炎が増える。中耳炎を合併することもある。 *咽頭結膜熱:発熱・咽頭炎および結膜炎を主症状とする急性のアデノウイルス感染症である。 潜伏期は5-7日、症状は発熱、咽頭炎(咽頭発赤、咽頭痛)、結膜炎が3主症状である。アデノウイルス3型が主であるが、他に7、11、4型なども本症を 起こす。発生は年間を通じてみられるが、さまざまの規模の流行的発生をみる。とくに夏季、プールを介して流行的発生をみるので、プール熱の病名がある。 *A群溶血性レンサ球菌咽頭炎:レンサ球菌のうち、Lancefield の血清型分類のA群に分類されるものによる上気道感染症である。乳幼児では咽頭炎、年長児や成人では扁桃炎が現れ、発赤毒素に免疫のない人は猩紅熱といわ れる全身症状を呈する。気管支炎を起こすことも多い。リウマチ熱や急性糸球体腎炎などの二次疾患を起こすこともある。 *感染性胃腸炎:細菌あるいはウイルスなどの感染性病原体による嘔吐、下痢を主症状とし、そ の結果種々の程度の脱水、電解質喪失症状、全身症状が加わるものである。1才以下の乳児は症状の進行が早い。乳幼児に好発し、主症状は嘔吐と下痢である が、嘔吐または下痢のみの場合、嘔吐の後下痢がみられる場合とさまざまで、症状の程度にも個人差がある。37-38℃の発熱がみられることもある。年長児 では嘔気や腹痛がしばしばみられる。嘔吐や下痢、発熱で脱水症状を来すことがあるので注意が必要である。原因はウイルス感染(ロタウイルス、小型球形ウイ ルス(SRSV)など)が多く、毎年秋から冬にかけて流行する。また、エンテロウイルス、アデノウイルスによるものや細菌性のものもみられる。*水痘:水痘・帯状疱しんウイルスの初感染による感染症である。冬から春の感染症であるが、 年間を通じて患者の発生をみる。飛沫あるいは接触感染で感染し、潜伏期は2-3週間である。乳幼児や学童いずれの年齢でも罹患する。母子免疫は麻しんほど 強力ではなく、新生児も罹患することがある。症状は発熱と発しんである。それぞれの発しんは紅斑、紅丘しん、水疱形成、痂皮化を順次約3日で経過するが、 次々の発しんが出現するので新旧種々の段階の発しんが同時に混在する。発しんは体幹に多発し、四肢に少ない。発しんは頭皮及び粘膜にも出現する。健康児の 罹患は軽症で予後は良好であるが、免疫不全状態の小児の罹患は重症で、致死的経過をとることもある。 *手足口病:主として乳幼児にみられる手、足、下肢、口腔内、口唇に小水疱が生ずる伝染性の ウイルス性感染症である。コクサッキーA16 型、エンテロウイルス71 型のほか、コクサッキーA10 型その他によっても起こることが知られている。典型的なものでは、軽い発熱、食欲不振、のどの痛み等で始まり、発熱から2日ぐらい過ぎた頃から、手掌、足 底にやや紅暈を伴う小水疱が多発し、舌や口腔粘膜に浅いびらんアフタを生じる。この水疱はやや楕円形を呈し、殿部、膝部などに紅色の小丘しんが散在するこ ともある。皮しんは1週間から10 日で自然消退するが、ごくまれに髄膜炎や脳炎などが生じることがあるので、発熱や嘔吐、頭痛などがある場合は注意を要する。 *伝染性紅斑:ヒトパルボウイルスB19 型の感染による紅斑を主症状とする発しん性疾患である。幼少児(2-12 歳)に多いが、乳児、成人が罹患することもある。潜伏期は4-15 日。顔面、とくに頬部に境界明瞭な紅斑が突然出現し、鼻背で融合して蝶型の紅斑になる。つづいて四肢に対側性に小紅斑が出現し、環状又は融合して地図状に なる。消退後さらに日光照射、外傷などによって再度出現することがある。発しんの他に発熱、関節痛、咽頭痛、鼻症状、胃腸症状、粘膜しん、リンパ節腫脹、 関節炎を合併することがある。予後は通常、良好である。 *突発性発しん:乳幼児がヒトヘルペスウイルス6、7型の感染による突然の高熱と解熱前後の 発しんを来す疾患である。乳児期とくに6-18 カ月の間に罹患することが多い。突然、高熱で発症、不機嫌で大泉門の膨隆をみることがある。咽頭部の発赤、とくに口蓋垂の両側に強い斑状発赤を認めること がある。軟便もしくは下痢を伴うものが多く、発熱は3-4日持続した後に解熱する。解熱に前後して紅色の丘しんが出現し、散在性、時に斑状融合性に分布す る。発しんは体幹から始まり上肢、頚部の順に広がるが、顔面、下肢には少ない。発しんは1-2日で消失する。 *百日咳:Bordetella pertussis によって起こる急性の気道感染症である。かぜ様症状で始まるが、次第に咳が著しくなり百日咳特有の咳が出始める。この咳込みは、顔を真っ赤にしてコンコン と激しく咳込み、最後にヒューッと音を立てて大きく息を吸う発作でレプリーゼと呼ばれる。嘔吐も伴い、眼瞼の浮腫や顔面の点状出血がみられることがある。 乳児では重症になり、特に新生児がかかると無呼吸となり、致死的となることがある。 *風しん:風しんウイルスによる急性発しん性疾患である。潜伏期は2-3週間で、 経気道飛沫感染により、冬から春に流行する。症状は、斑状の紅丘しん、リンパ節腫脹(全身とくに頚部、後頭部、耳介後部)、発熱を三主徴とする。リンパ節 *急性出血性結膜炎:エンテロウイルス70 型及びコクサッキーウイルスA24 亜型の感染によって起こる急性結膜炎である。潜伏期は1日で強い眼の痛み、異物感で始まり、結膜の充血、とくに結膜下出血を伴うことが多い。眼瞼の腫脹、 *淋菌感染症:淋菌(Neisseria gonorrheae)による性感染症である。男性は急性前部尿道炎として発症するのが一般的であるが、放置すると前立腺炎、副睾丸炎となる。後遺症とし *成人麻しん:18 歳以上の成人に見られる急性麻しんウイルス感染症である。小児の麻しんと同様で、発熱、カタル症状、咳嗽、コプリック斑、色素沈着を残す発しんが特徴であ |
[DID-0062.INF:2000.9.4.古泉秀夫・2003.12.9.改訂]
- 桜山豊夫:感染症予防新法の概要;都薬雑誌,20(8):4-8(1998)
- 基本医療六法 平成12年版;中央法規,2000
- 厚生省保健医療局結核感染症課・監修:改訂・感染症マニュアル;株式会社マイガイア,1999
- 森 良一・他編:戸田新細菌学;南山堂,1985
- 改正感染症法・検査法が施行される;日本医事新報,No.4150:72-73(2003.11.8.)
- 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律及び検疫法の一部を改正する法律:官報号外第239号;24(平成15年10月16 日)