Archive for 8月 15th, 2007

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新聞の不思議  

水曜日, 8月 15th, 2007

鬼城竜生

製薬大手三共と第一製薬との経営統合に、株主の村上ファンドが反対しているという記事の中に『 通産省(現経産省)OBの村上世彰氏が代表を務める「M&Aコンサルティング」(村上ファンド)』 [読売新聞,第46424号,2005.6.14.] という記載がされていた。

今回に限らず、この会社の絡む記事が出る度に、この注釈が付いているが、新聞社は、彼が官僚出身であるから信用ができるということを証明するために注釈を付けているのであろうか。一個人の経営する会社の社長が、官僚出身であることを延々と書くということは、特別何か含むところがあるということであろうか。

いずれにしろ大学卒業後、官庁に就職し、米国に留学して帰国、直ちに退職して、民間会社に高級で迎えられるか、あるいは自ら会社を始めたか、留学の経費を国に返戻せず、いわば食い逃げ同然の仕打ちが流行っているようであるが、あるいはその走りだったということを暗に比喩するために出身官庁を書き続けているのか。あるいは経済産業省の先輩や同期から情報を入手することのできる立場で、購入する株は絶対に外れがないということを示しているのか、考えてみれば親切なことである。

しかし、おかしなことに2005年6月22日付 [読売新聞,第46432号]の新聞では『大証の経営責任追及 村上氏、株主総会で』なる記事があり、大阪証券取引所は22日、大阪市中央区の大阪証券取引所ビルで、実質的な外部株主が初めて参加する株主総会を開いた

。筆頭株主である投資ファンド代表の村上世彰氏も出席し、システム障害のため、ヘラクレス市場の新規上場を一時凍結した経営責任を厳しく追及したとする記事が掲載されていたが、村上氏の出身については、何の記載もされていない。

記事の長さの関係なのか、あるいは最早氏の前職を書かなくても、世間一般に通ると考えたからなのか分からないが、2005年6月24日 [読売新聞,第46434号 ]付けで『経産省、研究費で裏金 残金3100万円 前室長、カネボウ株購入』の記事が掲載されていた。しかも、株の購入は、キャリア官僚が業務上掴んだ内部情報を基にして購入したとして、証券取引法違反(インサイダー取引)の疑いで告発というものである。

別に疑うわけではないが、この一連の流れを見ると、変に疑われてはいけないと考えたのか、あるいは情報源を内部に持っていたのを表沙汰にされたくないと考えたのか、いずれにしろ不思議な書き方に付き合わされたのは事実である。

(2005.6.24.)

施設内感染の防御

水曜日, 8月 15th, 2007

『院内感染の防御』については、口でいうほど簡単ではない。真面目にやろうとすると、建物を建てるところからやらなければならない程度に困難なのである。

まず院内の水回りを完全に制御することが求められる。

例えば手洗い用の水は、蛇口に手を触れることなく給水されるものでなければならず、自動給水かペダル方式の導入が求められる。

また手洗い用の洗剤は溶液状の洗剤を使用し、これも自動的に滴下されるものでなければならず、手指消毒用の消毒剤も自動滴下する方式の導入が必要である。手拭きは当然紙タオルを使用する。熱風方式の手の乾燥機もあるが、残念ながら乾燥までに時間がかかり過ぎるため、頻繁に手洗いを求められる医療現場には不向きである。また、洗浄槽についても水の撥ね返りのないものを使用することが必要であり、定期的に薬液消毒ができる材質のものでなければならない。

頻繁な手洗いによる手荒れ対策として、肌荒れ防止用のクリーム等の使用がされているが、これも瓶中のクリームの共同利用は避けなければならない。

ヒトからヒトへの細菌・ウイルスの伝播は、多くの場合ヒトの手を介して伝播する。従って汚染された手で水道の蛇口など触れていたのでは手洗いの意味をなさない。手洗いをした後、手指消毒をしたとしても、手を拭くタオルを共同利用したのでは、そこで汚染が伝播し、肌荒れ用のクリームの共同利用も汚染を伝播する原因になりえる考えるべきである。

便所も感染伝播の上で、重要な役割を果たす。職員用、患者用、外来者用が共用されているなどというのは最悪で、細菌・ウイルスの伝播の原因となるため、それぞれ別々に設置すべきである。更に水洗便所の配水も手で触れる形式のものではなく、足踏み式のペダル方式の導入が望ましい。排便後には石鹸を用いて流水で手洗いをするのは当然であるが、洗浄槽は水撥ねのおき難いものを設置する。手洗い後の手拭きは紙タオルを利用する。

更に頻繁に消毒薬が使用される病院の汚水をそのまま下水道に流し込むことは、活性汚泥法による汚水処理に影響する可能性があり、独自の汚水処理槽を設置し、病院排水がそのまま下水道に排出されないよう処理することが理想である。

その他汚染物の院内配送等、考えなければならない部分は多方面にわたり、設備投資は膨大なものを必要とされる。現在多くの医療機関で感染対策委員会が設置され、院内感染に対応するあらゆる方策が検討されているが、それでもなお院内感染が起こるのは、経費面に眼が向きすぎて、踏み込みの足りない会議に終わっているのではないかと思われる。院内感染が発生し感染者の治療に要する経費あるいは死亡者に対する保証等、事後処理の対応に要する経費と労力を考えれば、日常的に必要とされる方策を的確に行うことが最善の策なのである。

院内感染防御について、十分に経験を積んだ病院でさえ、院内感染を完全に制御することはできないでいる。まして経験の少ない高齢者施設では、所内での感染防御に不慣れ故の手抜かりがある可能性は否定できない。今回、ノロウイルスによる感染症の発生で、入所者が死亡する例が出たが、厚生労働省も老健局計画課長名による通知文書を発出した。多くの人が集団で生活する場所での感染対策は、常に十分に対応することが必要なのである。

(2005.5.29.)


 以下に参考までに厚生労働省の通知文書を添付する。

老発第0110001号

平成17年1月10日

都道府県

指定都市

中核市

民生主管部(局)長

厚生労働省老健局計画課長

高齢者施設における感染性胃腸炎の発生・まん延防止策の徹底について

昨年末から本年の年始めにかけて、広島県福山市内の特別養護老人ホームで42名の入所者が下痢・おう吐等を発症し、うち7名が死亡し、一部の検体からノロウイルスが検出された事例を始め、高齢者施設において下痢・おう吐等の症状を呈する者の発生が頻発している。

高齢者施設における感染症の発生及びまん延の防止については、「特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準」(平成 11年厚生省令第46号)、「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準」(平成11年厚生省令第39号)等において、そのために必要な措置を講ずるべき旨が定められていること、全国社会福祉協議会において「特別養護老人ホーム等における感染症対策の手引き」が作成されていること、国立感染症研究所感染症情報センターのホームページ等において各感染症の発生状況・対処方法等に関する情報が随時提供されていること等を踏まえ、保健衛生部局と連携しながら的確な対応を採るようお願いしてきたところである。

特に、ノロウイルス等による感染性胃腸炎は冬季に多発する傾向があり、抵抗力の弱い高齢者等が感染すると重度化するおそれがあることから、万全の対応を採っていく必要がある。

ついては、管下市区町村及び管下高齢者施設に対して、下記の留意事項の周知徹底を図っていただくようお願いする。

1) 発生防止のための措置

  • 職員及び入所者の手洗い、うがいを励行すること
  • 入所者の健康管理を徹底するこ
  • 職員の健康管理を徹底すること
  • 食品調理時の衛生管理を徹底すること

2) 発生時の連絡

  • 感染症又は食中毒の発生又はそれが疑われる状況が生じた時は、速やかに市町村保健福祉部局に連絡すること
  • 食中毒患者若しくはその疑いのある者を診断し、又はその死体を検案した医師は直ちに最寄りの保健所長にその旨を届け出るなど、食品衛生法(昭和22年法律第233号)に基づき、適切な対応が行われるようにすること

3) 有症者への対応

  • 施設の医師及び看護職員は、有症者の状態に応じ、施設内又は協力医療機関等において速やかな対応が行われるようにすること

4) まん延防止のための措置

  • 施設内の消毒を行うとともに、職員が有症者のふん便、おう吐物等を処理する際の衛生管理を徹底すること

事故の言い訳にはならない

水曜日, 8月 15th, 2007

魍魎亭主人

京大病院の死亡事故をきっかけに、持参薬問題が、病院の薬剤管理の“盲点”として急浮上しているなる記事が読売新聞に掲載された [読売新聞,第46293号,2005.2.3.]。

京大病院の死亡事故は、持参薬管理の“盲点”で起きた。

70歳代の男性患者が混合病棟に緊急入院したのは、昨年10月の深夜。患者は薬を持参しており、この中に同病院の外来でリウマチの治療用に処方された免疫抑制剤の劇薬「リウマトレックス」が含まれていた。

患者は錠剤を厚紙のシートから外し、むき出しで保管していた。担当の研修医は「免疫抑制剤」の危険性の認識を欠いたまま、1週間に6mgのところを毎日6mgという誤った指示を出し、指導医や看護師のチェックをすり抜けた。薬剤の管理は病院内で一元化されておらず、外来での処方の情報は病棟には伝わっていなかった。服用方法の変化を、患者は「飲み方が変わったのだろう」と受け止めていた。

同病院の薬剤師は、非常勤を含め法定の定員を上回る57人で、診療科別に担当をおいている。だが、患者の入院日や入院はバラバラ、薬剤師に要求される仕事やルールも科ごとに違い、混合病棟で患者全ての持参薬の管理にかかわるのは「現実的には不可能」(同病院)だった。

患者は免疫機能が落ちたために肺炎を患い、先月初めに死亡。同病院では調査委員会を設置して詳しい原因を調べている。事態を深刻視した日本病院薬剤師会は先月末、薬剤師が必ず持参薬の管理にかかわるよう、約3万4千人の会員に対し、緊急の通達を出した。

京大病院の医療事故の問題で、何で突然日本病院薬剤師会や“患者持参薬”の問題が出て来るのか、理解に苦しむところである。今回の事例は、リウマチ治療薬である免疫抑制剤のことを知らない研修医が、使用経験のない薬については、添付文書を見るという基本的な行為を抜きにして、服用の指示を出したという単純な過ちのはずである。

*患者は混合病棟に緊急入院したとされているが、何が原因で緊急入院したのか。

*診察した研修医は、その患者を診察して、どういう病状だと判断したのか。

*もしリウマチ薬の投与が必要な病状だと判断したのであれば、なぜ主治医に連絡しなかったのか。

*研修医が自ら診断し、薬物療法の決定をしたのであれば、“患者持参薬”を使用しなければならない義務はない。

*“患者持参薬”は薬袋に入っていなかったのか。薬袋に用法指示は記載されていなかったのか。

*京大病院は1患者1カルテではなかったのか。

*京大病院はトータルシステムの運用はされていなかったのか。

今回の事故を新聞報道の範囲内で検討しても、幾つかの疑問点が指摘される。従って今回の問題を契機として、日本病院薬剤師会が“患者持参薬”の問題だとして会員に通達を出したということであるが、いささか勇み足の観は拭えない。院内の医療事故調査委員会が結論を出してからでも遅くはない話で、事故調の論議に外部から影響を与える様な行動は差し控えるべきである。更に“患者持参薬”がどうであれ、薬に対する研修医の安易な対応が、事故を招いたことには変わりはない。

更に申し上げれば、日本病院薬剤師会が一片の通達を出したからといって、“患者持参薬”の問題が片づくほど、単純な話ではない。“患者持参薬”の扱いが、乱雑だといって驚いているようであるが、正直に言わせて頂ければ、完成度の低い実調剤を行っている薬剤師の責任である。現在の実調剤の多くは、市販製剤を、市販包装のまま薬袋に入れて渡すというものであり、服用する時に患者が色々手を加える余地を残す実調剤になっていることが問題なのである。

今回の事例でも患者は京大病院の外来通院中であり、院外処方せんに基づいて調剤薬局で薬を受領したと思われる。その時、他の薬はでていなかったのか。でていたとすれば全体の薬袋はどうなっていたのか。でていなかったとすれば、「リウマトレックス」の薬袋はどうなっていたのか。更に服用方法が難しい薬剤の服薬指導はどうなっていたのか。

単純に“患者持参薬”の問題にしてしまったのでは、このように重要な前段問題が薄められてしまい、真の解決には至らない可能性が考えられるのである。

(2005.2.27.)

事故は人に止められるか

水曜日, 8月 15th, 2007

 「全てのエラーはヒューマンエラーである」というのが、失敗学の提唱者畑村洋太郎・工学院大学教授の失敗学の根本的な考え方であるという。

病院勤務薬剤師の仕事-特に実調剤については、その作業が多岐に亘り、更に細かい作業の連続ということから常に過失がついて回る。仕事をすればするほど過失とは背中合わせの日常を送るということになる。

従って病院勤務薬剤師も、一時日航のパイロットを講師として招聘し、危機管理の勉強会なるものを流行病のようにあちらこちらで行っていたが、その最も危機管理に長けたと思われた航空業界(日航)が、今年に入って御難続きで、遂に日航は、3月17日に国交省から「事業改善命令」を受けた。更にその5日後にも1日4件の事故を起こし、国交省の特別査察を受けるはめになったという(読売新聞,第46347号,2005.3.29.)。

如何に綿密な“事故対策の手引き書”を作成したとしても、その手引き書を遵守するは人である。守るべき人の精神が鈍麻すれば、手引き書は単なる駄文の羅列に過ぎず、根腐れを起こす。

事故防止には膨大な労力と経費と時間がかかる。しかし、掛けた結果が眼に見える利益を生み出すわけではなく、砂漠にバケツの水を撒くのと同様、取り立てて変化は見られない。効率的な運営を標榜すればするほど、適切な事故防止計画を実施することが無駄だという雰囲気が職場では生まれてくる。各人の中に気付かぬふりが蔓延し、この程度のことはまあいいかという甘い囁きが、精神の損耗を招くのである。

最近の傾向として、精神論を避ける気風があるが、事故の防止はどこまで行っても当事者の気構えの問題であり、業務に対応する緊張感がなければ避けられない。如何にコンピュータを導入し、業務を機械化したとしても、最後は仕事と向き合う人としての責任感が重要なのである。第一コンピュータに指示を入力するのは人であり、機械の操作をするのも人である。その人に絶対に間違いがないという保証がない限りどこまで行っても過失は発生する。

職場の一人一人が、自ら業務の重要性を認識し、自らの責任を全うするための緊張感を保持しなければならない。更に仕事を継続する間、その緊張は継続しておかなければならない。

特に医療の現場では、常に高度の緊張感を持って仕事をしなければ、人の生命に係わる事故が発生する。この精神の緊張は、高度な機械化によって代替出来るものではなく、医療人としての自覚と責任に裏打ちされたものでなければならない。

仕事に対する責任、その業務を全うするための真摯な緊張感の維持は、将に精神の問題以外の何ものでもない。

(2005.4.3.)

処方せん医薬品

水曜日, 8月 15th, 2007

2005年4月1日から施行される改正薬事法で、医療用医薬品のうち『要指示医薬品』を『処方せん医薬品』に再分類するための個別品目の指定が、2月10日に告示された。 厚生労働省は『処方せん医薬品』について「いかなる事情があっても処方せんなしには販売を禁止すべき」もので、「違反行為には罰則規定を適用するなど厳格に対処する必要がある」としている。

違反者の罰金については「200万円以下」を「300万円以下」に引き上げる法改正も実施するという。 『処方せん医薬品』の指定基準は

  1. 医師等の診断に基づき、治療方針が検討され、耐性菌を生じやすい、または使用方法が難しい等のため、患者の病状や体質等に応じて適切に選択されなければ、安全かつ有効に使用できない医薬品(例:抗生物質製剤、ホルモン製剤、注射薬全般、麻薬製剤)
  2. 重篤な副作用等の恐れがあるため、その発現防止のために、定期的な医学的検査を行う等により、患者の状態を把握する必要がある医薬品(血糖降下剤、抗悪性腫瘍剤、血液製剤)
  3. 併せ持つ興奮作用、依存性等のため、本来の目的以外の目的に使用される恐れがある医薬品(精神神経用剤)

の3要件に該当する医薬品とされている。

具体的には全医薬品の6割以上を占める約3,200成分を指定。『要指示医薬品』との成分数比較でも倍増したことになるとする報道がされている。

『処方せん医薬品』以外の“非処方せん医薬品”については、罰則規定を適用するほどの「規制は過度」で、「行政指導ベースで規制する」と説明されているようである。ビタミン製剤や漢方薬、痔疾用剤等で、OTC薬として市販実績のある消化性潰瘍治療剤、含嗽剤等が移行されたという。

保険適用を継続する“医療用非処方せん医薬品”の零売に対しては、行政通知で規制する方向だとされるが、厚生労働省の考え通りに行くのかどうか。

今回の薬事法改正で『要指示医薬品』を『処方せん医薬品』に変更したのは、要指示医薬品の指定の意味が曖昧で、薬局で零売が行われており、その規制をしなければならないという反省に基づく行政対応だったはずである。

今回の改正で『処方せん医薬品』の零売は阻止できるかも知れないが、医療用医薬品でありながら“非処方せん医薬品”に分類された医薬品について、零売を止める理由がないのではないかと思われるがどうか。更に行政指導では罰則がなく、また罰則を強化したのでは、「過度の規制」をしないとする行政意思とも反することになる。

元々『要指示医薬品』は、医師の処方せん又は指示書がなければ販売してはならない医薬品であったはずである。

それがなぜ“容器や被包を開封して分割販売する”等ということが行われたのか。更にその行為を誰が『零売』等という言葉で表現するようになったのか。『要指示医薬品』であっても、医師の処方せんあるいは指示書がなければ、薬剤師の意思での販売は認めないという、規則の原初的な目的を徹底してさえいれば、広く零売が行われるような今日的結果は招かなかったはずである。

規則は、規制当局が断固として遵守するという姿勢を示さない限り、永年の間には風化するものである。更には小出しに踏み出してみて、相手の反応が鈍ければ、更に足は踏み出される。最後には、その行為を正当化するための理論が展開される。

その意味では、今回の“非処方せん医薬品”の行政通知による零売の禁止は、最初から守られないことを前提に決めたようなものである。一般用として販売する薬はOTCがある。医療用医薬品を零売するという行為は、薬の持つ危険性の意味を形骸化しかねない。儲けたいという人間の欲望のために制度が歪められることのないよう、当初から規制内容は明確にしておくべきである。

(2005.2.16.)


  1. RISFAX,第4310号,2005.2.10.
  2. 薬事衛生六法;薬事日報社,2004

人工呼吸器事故 3年で15人死亡-国立病院・療養所-長期装着急増で

水曜日, 8月 15th, 2007

全国の国立病院機構傘下の病院で、人工呼吸器を巡る医療事故が3年間で23件発生、15人が死亡していたことが、機構の調査で解った。患者の多くは筋ジストロフィー、筋萎縮性側索硬化症(ALS)といった難病などで、長期間、人工呼吸器を装着していた。

調査は国立病院機構に所属する154病院を対象に、2001年から3年間の事故について実施された。

2001年11月(中部地方の病院)、人工呼吸器から患者に空気を送る管を交換した約2時間後、看護師が巡回した際、患者が酸欠状態になっているのを発見。交換の後、何等かの原因で管から空気が漏れていたが、異常を知らせる警報が鳴らず、発見が遅れた。蘇生措置を行ったものの、患者は死亡した。

2003年3月(九州の病院)、患者の体をふくなどの処置後、人工呼吸器から空気を送る管の接続部分が外れたのに気づくのが遅れ、患者が死亡した。

23件の事故の原因は、人工呼吸器の接続部の脱管が10件、気管内挿入管の抜け落ち3件等で、事故後に15人が死亡、2人が意識不明の重体に陥った。

人工呼吸器の誤操作の理由としては、同一施設内で操作法が異なる複数の機種の人工呼吸器が使用され、1病院当たり平均約5種類、最大14種類の機種が使用されていたことが理由の一つとして挙げられている。このため国立病院機構は、操作が簡便で安全性の高い機種に統一する方針を決めたとされている [読売新聞,第46186号,2004.10.18.]。

従来、肺の機能低下から呼吸困難に陥り死亡していた筋ジストロフィーや筋萎縮性側索硬化症の患者が、人工呼吸器の使用で長期生存が可能になり、1980 年代後半から装着する患者が増加、20年以上の装着者もいる。国立病院機構の病院でも呼吸器をつけた入院患者は約2,000人にのぼるとされる。しかし、人工呼吸器は、救急など急性期医療用に開発されたもので、長期間装着すると管が外れるなどの不具合が起きやすいとされている。

更に誤操作発生の大きな理由として、患者急増の一方で、病棟の看護師の配置人が少ないという、人員不足が挙げられている。

国直営の国立病院・療養所は、こと人員問題に関しては、国家公務員の総定員法の枠の中で七転八倒してきた。国を代表する医療機関でありながら、各職種の配置人員は最悪の状況下におかれていた。

国立病院機構に移管する際にも、人員については殆ど手当てされることなく移管したはずであり、国内の医療機関としては相変わらず最低の人員配置のはずである。更に国立病院時代の予算は、単年度会計であり、各施設は本省に対して毎年予算要求をするが、人工呼吸器のような直接収益に関係しない機器の予算は纏めて付くはずもなく、必要の都度1台、2台と買い足していくという手立てを採らざるを得ない。

しかも悪いことに、人工呼吸器の買い足しをするとき、人工呼吸器の操作に携わる看護師の意見を聞くこともなければ、機種の統一性を図る努力もなく、その時点で最も金額の安いものを何の計画性もなく購入してきた。

機種が異なり、操作性が異なる器械が、無計画に次々に購入されれば、それを使用する現場は、混乱に陥り、毎日が危うい綱渡りを強いられているのと同じだという想像力のなさが、患者の事故に繋がり、患者の命を縮めたということなのである。

あらゆる場面で予算がない、予算がないをいい訳にしてきた事務官、特に事務官の筆頭職は、医療事故の発生時には、医療職の白衣の陰に隠れて何の責任も取らないという体質があるが、自らの責任にならないからといって、日々の病院運営で責任を取らなくていいという理屈にはならない。

(2004.10.23)

社賊

水曜日, 8月 15th, 2007

鬼城竜生

自分達が作ったトラックに、欠陥があったということは、技術屋であれば、苦情を受けた速い段階で、解っていたはずである。素直に欠陥品であることを認めて、速い時期にリコール(回収・無償修理)をかけていれば、トレーラのタイヤが脱落し、母子3人が死傷する事故は発生しなかったはずである。この事実経過を見れば、当該企業の技術屋として、慚愧に堪えないと思うのが普通であると考えるが、残念ながら我が国を代表する一流企業に勤める技術屋諸氏は、世間一般の常識を持ち合わせてはいなかった様である。

三菱自動車の今回の対応を見ていると、一流企業の経営者ともあろう方々が、何を血迷ってあのような迷走をしていたのか、甚だしく理解に苦しむのである。まして会社の代表的立場にある人たちが、自社商品の欠陥を最後まで隠しおおせると判断していたとすれば、その甘さはどこから来たのか。少なくとも大企業の看板の陰で、世間をなめきっていたとしか考えられない。

車の重要な部分である車軸周辺部品「ハブ」の欠陥は、固有の1台のみの話しではなく、設計上の欠陥である。だとすれば、次々に同じ事故が起こるであろうことは、素人にも予測できる。最初の事故報告を受けたときに、開催された検討委員会で、誰が声高に隠蔽を指示したのか。それに対して会議の参加者はなぜ唯々諾々と従ったのか。自由に物が言えない会議は会議ではなく、会議に名を借りた命令伝達の仕組みでしかない。そのことに対して何の疑問もなく、物事が進捗したとすれば、その組織は腐っているとしかいいようがない。

少なくとも専門家といわれる人たちが、自分達が作った商品の欠陥を隠蔽し続ければ、その結果がどうなるのかの予測が付かなかったとは思えない。もし、予測が付かなかったというのであれば、それは想像力の欠如である。リコールによってどの程度の損失になるのか、その試算はしたのだろうが、露見したときに失う会社の信用をどうやら見積損なったようである。

自分達の地位を守ることに汲々とし、自分達が拠って立つ組織をないがしろにする。当人達は悪行が露見すれば首になればすむ話しかもしれないが、組織はそうはいかない。更に組織に依拠する多くの社員は、自分達が関知しない偉いさんの悪行で、会社が左前になれば、整理の対象にされることも考えられる。

組織の社会的責任に気付かず、見通しの悪いお偉いさんは、将に社賊以外の何ものでもない。長い歴史のある会社を、人殺しの会社という汚名まみれにした責任はどう取るつもりなのか。いずれにしろ自分達の製造していた自動車は、一種の殺人機械でもあることの認識がなかったのが、最大の問題だといえる。

(2004.5.14.)

処方せんの疑義照会

水曜日, 8月 15th, 2007

薬剤師法第24条は、処方せん中の疑義照会に関する規定である。

曰く『薬剤師は、処方せん中に疑わしい点があるときは、その処方せんを交付した医師、歯科医師又は獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによって調剤してはならない。』ということである。

更にこの規定を受けて薬剤師法第32条に『次の各号のいずれかに該当する者は、五十万円以下の罰金に処する。「4.第24条又は第26条から第28条までの規定に違反した者」』の罰則規定が定められている。

この規定は医師の記載する処方内容を、薬剤師が患者に代わって監査することによって、より安全な薬物療法を提供するというのであり、いわば“医薬分業”の根本となる規定である。

しかし、実際には、薬剤師の側がこの規定をないがしろにしているのではないかと思われる節が伺える。

医薬品名の略号・薬価基準に収載されていない医薬品名・判読不明な薬品名・明らかに何処かの病院の約束記号等、処方を記載した医師しか判断できない内容の質問を、医薬品情報室に簡単に振ってくる。しかし、結局は“調査不能、処方医に確認を”ということにならざるを得ない質問内容なのである。

薬剤師が、最初から処方医に確認しさえすれば、簡単に処理できるものを、何故取り敢えずということで第三者に調査の依頼をするのか。もし、運良く一定の調査結果が出たとしても、それはあくまでも“推測”の域を出ず、最終的な確認は処方医にしなければ、調剤はできない。

ところでこの一連の流れを見ていて、何時も不思議に思うのは、この間、患者はどこにいるのかということである。処方せんに確認すべき内容があるため、処方医に確認するので暫くお待ち下さいと患者に伝えて電話をするのと、何処か分からないところに電話をして待たせたあげく、再度処方医に確認のための電話をするというのでは、当然、待ち時間に差が出てくるはずである。更に何をしているのか分からずに待たされるというのは、同じ待ち時間であっても、待たされる方の時間感覚は長くなるはずである。

『処方せん上に疑義が存在する場合、直ちに処方医に確認する』という薬剤師業務の原則を、全ての薬剤師が遵守することを期待したい。

次の文書は、日本薬剤師会の会長名で都道府県薬剤師会会長宛に発出された文書である。この様な文書が出されること自体、薬剤師が薬剤師としての基本が守られていないことの証明みたいなものである。

日薬業発第137号

 平成12年9月20日

都道府県薬剤師会会長 殿

日本薬剤師会

会 長  佐 谷 圭 一

院外処方せん発行に伴う疑義照会の徹底等について

平素より、本会会務に格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。

さて、徳島県立三好病院(徳島県池田町)で脳障害の治療を受けていた男性患者(40歳)が、本年7月、院外処方せんによって薬局で受け取った薬を服用し、けいれんや意識障害を起こして1カ月入院する事故が発生しました。事故の経緯は別紙のとおりですが、抗てんかん剤「アレビアチン」10倍散2gを処方されるところを、誤って原末2gを処方され、薬局が疑義照会の上そのまま投薬したことが原因と推測されています。

薬剤師法第24条では、「薬剤師は、処方せん中に疑わしい点があるときは、その処方せんを交付した医師、歯科医師又は獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによって調剤してはならない」とされており、また、薬局業務運営ガイドラインでは、「疑義照会を行った場合は、その記録を残しておくこと」とされています。今回の事故では、疑義照会先が不明確であったことと、その記録が不十分であったことが指摘されています。

本会では、平成10年9月、調剤過誤防止マニュアル(日薬誌-同年10月号)を策定し、類似する名称や複数の濃度・規格がある医薬品等については、その取扱いに留意するよう周知を図ったところであり、特に今回の対象医薬品であるアレビアチンについては、有効域と中毒域が近いために重大な医療事故を起こす可能性が高いことから、注意喚起を行ったところであります。したがいまして、今回、当該薬局が疑義照会を行ったにせよ、このような事故が起きたことは誠に残念でなりません。

本会では、今回の事故を重く受け止め、リスクマネジメント特別委員会を中心に薬局における調剤過誤の一層の防止対策に取組む所存であります。貴会におかれましても、院外処方せんの発行に伴う処方医への疑義照会を会員薬局に徹底するなど、下記の事項を中心に薬局における調剤過誤防止対策に一層のご尽力を賜りたく、ご高配の程、お願い申し上げます。

1.疑義照会及びその記録の徹底について

会員薬局においては、「処方せん中に疑義が生じた場合には、薬剤師が処方医に直接疑義照会を行い、疑義が解決した後でなければ調剤してはならない」原則を徹底されたいこと。

疑義照会を行った結果、薬剤師が薬学的見地から疑義が解決しないと判断する場合には、調剤することが適当でないと判断せざるを得ない場合もあることを認識すること。

なお、疑義照会を行った場合には、その責任の所在を明確にするため、薬局側の質問者名と質問の内容、及び医療機関側の回答者名と回答の内容を薬歴に記録すること。

2.特に注意を必要とする医薬品の取扱いについて

会員薬局においては、フェニトイン(アレビアチン)、ジギタリス製剤(ジゴキシン)、フェノバルビタール、インスリン、抗ガン剤及び麻薬等の規格・濃度の違いが重大な事故を起こす可能性が高い医薬品について、特に処方せんの確認や医薬品の取り間違いに留意すること。

なお、複数の規格・濃度、類似する名称が存在するなど、取り間違いが生じやすい医薬品については、「調剤過誤防止マニュアル」(平成10月9月10日付.日薬業発第104号.日薬雑誌- 平成10年10月号)を参考とされたいこと。

3.処方せん発行医療機関との話し合いについて

都道府県薬剤師会及び処方せん発行医療機関のある地元支部薬剤師会においては、どこの薬局でも間違いなく調剤できるよう、複数の規格・濃度、類似する名称が存在する医薬品等については規格・濃度等まできちんと処方せんに記載するよう、当該医療機関と話し合いを行うこと。

また、疑義照会の方法についても、県薬及び地元支部薬剤師会が中心となり、当該医療機関と十分な話し合いを行うこと。疑義照会は薬剤師が処方医に直接行うものであるが、処方医に連絡がつかない時の対応や、大型病院の場合には院内薬剤部の協力体制等についても話し合いを行うこと。

以 上

参 考

薬剤師法第24条

薬剤師は、処方せん中に疑わしい点があるときは、その処方せんを交付した医師、歯科医師又は獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによって調剤してはならない。

薬局業務運営ガイドライン(平成5年4月30日)

12. 業務(3)疑義照会

薬剤師は、患者が有効かつ安全に調剤された薬剤を使用することができるよう、患者の薬歴管理の記録や患者等との対話を基に薬学的見地から処方せんを確認し、当該処方せんに疑義がある場合は、処方医師に問い合わせて疑義が解消した後でなければ調剤してはならないこと。

なお、疑義照会を行った場合はその記録を残しておくこと。

別紙

徳島県立三好病院における調剤過誤事故等の経緯

(新聞報道等による)

  • 男性患者(40歳)は脳障害の治療のため3年前から月1回のペースで通院。
  • 平成12年4月3日:徳島県立三好病院が院外処方せん発行を開始。
  • 平成12年4月5日:脳神経外科の医師がアレビアチン「10倍散」を1日2g 処方する際に「10倍散」の但書きをせず。処方せんは手書き。処方せんを応需した薬局では用量に疑問を感じ、疑義照会を行ったが、当該病院からは「医師の指示通りに」との回答があったとされる。薬局ではアレビアチン原末1日2g(分3)を1ヵ月分調剤。
  • 平成12年5月 :処方せんをコンピュータ処理に変更。散剤の濃度も表示されるようになる。
  • 平成12年7月4日:男性患者が4月に薬局で受け取った薬を服用したところ、数時間後にけいれんが起き、意識障害に陥る。救急車で同病院に運ばれ入院。

その後、香川県善通寺市内の病院にも入院。

  • 平成12年7月15日:三好病院が徳島県保健福祉部に処方ミスを報告。
  • 平成12年8月1日:男性患者の病状が回復し、退院。

[考 察]

同病院は本年4月から院外処方せんの発行を開始したばかりであった。院内の薬局では 3月までアレビアチン「10倍散」しか採月していなかったため、同病院では「アレビアチン」の処方には「10倍散」を調剤するのが慣例になっていた。

今回の事故は、院外処方せんに切り替えた4月以降も医師が従来通り「アレビアチン」とだけ処方せんに記入し、「10倍散」の但書きをしなかったことが原因と推測されている。

この問題に関していえば、院外処方せんを発行するときに、常に論議になる院内ルールの問題である。何種類の剤型の薬剤が市販されていようが、院内に限定していえば、その施設で購入されている薬剤が全てであり、この病院の場合、アレビアチン「10倍散」しか採用していないため、倍散の記載を省略して「アレビアチン」と記載しても『アレビアチン「10倍散」』を調剤するという院内ルールが成立する。

院外処方せんに切り替える際、医師に正式名称での処方の記載を依頼しても、長年の習慣で簡単に修正は効かない。まして手書きの処方せんで院外ということになると、まず修正は殆ど不可能だということになる。更に今回の事例で不幸なことは、調剤薬局からの疑義照会に対して、院内ルールの立場から判断すれば、院内で実施している調剤ルールに基づいて回答し、その結果「アレビアチン」原末が患者にだされたということになったということであろう。

院外処方せんの発行を決めるのはいいが、院内ルールの修正や調剤薬局に対する院内ルールの伝達等、その決定に付随する修正作業は膨大なエネルギーを要することになる。

しかし、どの様な環境であれ、処方せん上の疑義照会は薬剤師に取って重要な業務であることを忘れてもらっては困るのである。

[2003.7.31.]


  1. 財団法人日本公定書協会・編:薬事衛生六法;薬事日報社,2003

最終使用者は誰か?

水曜日, 8月 15th, 2007

医薬品情報21

古泉秀夫

嘗て『医療用医薬品の最終使用者は医師である』とのたもうていたプロパー諸氏に行き会うことがあった。その思想性の発露として、彼らは最終使用者である医師に取り入り、処方せんに自社の薬の名前を記載してもらうために狂奔していた。

しかし、その当時も今も、医薬品の最終使用者は患者であり、利益と共に被害を受けるのも患者であった。

医師は自らが学んだ医学知識に基づき、患者の病状を判断し、その治療のために最適と考えられる薬を選択して処方するだけであり、その薬を服用するか否かを、最終的に判断するのは、やはり患者でなければならない。何故なら、例え医師が最適と考えたとしても、体質的に合わない薬があり、効かない場合があることも考えられる。また患者側からすれば、薬を服むことで、何等かの副作用が出るのではないかという恐れがあり、前に薬を服んだときに、えらい目を見たという記憶があり、できれば薬は服みたくないという、潜在的な回避意識がある。

最近、添付文書中に『重篤な副作用』という記載がされるようになったが、重篤という判断は何に対比して重篤と判定するのか。薬を服む患者側からすれば、単なる“食欲不振”は、単なる“食欲不振”ではなく、ヒトの生命維持の上で重要な役割を果たす食事が取れないということであれば、そのヒトにとっては重大な問題になるはずである。

薬を服めば下痢をする、眠れなくなる、あるいは陰萎(陰萎:インポテンス)に陥る等という副作用も、他人にとっては軽度の副作用ということかもしれないが、当事者にとってみれば、軽度の副作用ですませる話しではないのである。立ち居振る舞いが不自由なヒトにとって、治療目的で服用した薬の副作用で下痢が起きた場合、便所に行くこと自体が大変な労力を要する作業であり、頻繁な下痢が継続すれば、便所にたどりつく前に便漏れが起こり、下着を汚すということになる。

間に合わないなら便器を使いますかということから、やがてはおしめにしましょうということで、気がつけば寝たきりということになってしまう。薬を服むと寝付きが悪いという副作用も、特に命に別状のある副作用ではなく、放っておけば何時かは寝ているので、気にすることはないといわれるかもしれない。しかし、実際に目がギンギンになって寝付かれないという状態を経験すると、他人事だと思って、適当なことをいわんでくれるという気になるのである。

まして陰萎なぞはなおさらである。薬のためにその気が起きないのではないかとは、なかなか主治医にもいえない話題であり、患者が抱え込まなければならない精神的な負担である。このような副作用は、前もって患者に伝え、回避する方法があれば回避法を伝達しておくことが必要だろう。

そのような副作用は、病気を治すためには仕方がないという意見があるかもしれない。しかし、多くの福音があるから多少の害は我慢をすべきだという考え方は、薬を服むことのない健康人の発想である。添付文書に書かれている副作用の『重篤』度は、人命に関わる副作用か否かの区分であり、服用する患者の側からの区分ではないということである。

ところで最近、医療関係者の口から『患者様』なる言葉が発せられるのをよく耳にする。一般名詞に『様』を付けて患者主役の医療を提供しているといいたいのであろうが、呼ばれる患者の方は未だに眉に唾を付けて聞いているのではないか。そんなところに変な気を使うよりは、服む薬の期待されざる作用について、より具体的な説明と配慮をしていただいた方が、患者にとってはなんぼかましということである。

(2004.4.29.)

呼吸器外し

水曜日, 8月 15th, 2007

人工呼吸器を使用するかしないかは、医師の判断による治療の一環であるはずである。それならば人工呼吸器を外すかどうかの最終判断も、治療の一環として医師に任せておけば良さそうなものを、こればかりは妙に警察沙汰になる。

理由は人工呼吸器を装着している限り、機械的に呼吸を続ける事が可能で、素人目に死の判断が難しいからではないかと思われる。

一般の臨終が医師の告知で終わるのであれば、人工呼吸器を外す判断も医師の告知で済ませればよいと思われるが、今回またもや事件扱いにされた事例が報道された。

和歌山県立医科大附属紀北分院(和歌山県かつらぎ町)で、延命措置を中止する目的で80歳代の女性患者の人工呼吸器を外して死亡させたとして、県警が50歳代の男性医師を殺人容疑で和歌山地検に書類送検していたことが、22日分かった。

患者は脳内出血で同分院に運ばれてきた女性患者。患者は緊急手術を受けたが、術後の経過が悪く、脳死状態になっていたため、家族が「可哀想なので呼吸器を外してほしい」と依頼。医師は2度に渡って断ったが、懇願されたため受け入れて人工呼吸器を外し、同28日に死亡したという。医師は3月1日に分院に報告、分院では射水市民病院での問題が発覚した直後の2006年3月末、和歌山県警妙寺署に届け出た。捜査段階の鑑定では、呼吸器を外さなくとも女性患者は2-3時間で死亡したと見られるが、県警は外したことで死期を早めたと判断、今年1月に書類送検した。

紀北分院副院長は「呼吸器の取り外しについては医師個人の判断だった。医療現場の難しい問題なので、司法の判断を仰ぎたいと考えて県警へ届け出た」と話している。家族は被害届を出しておらず、「医師に感謝している」と話しているという。

呼吸器の取り外しについて北海道立羽幌病院の女性医師が2005年5月に殺人容疑で書類送検(不起訴)されており、今回の書類送検が2例目。一方、射水市民病院の問題については現在も富山県警が殺人容疑で慎重に捜査を進めているとされる[読売新聞,第47129号,2007.5.22.]。

呼吸器の取り外しについては、厚生労働省の指針では、治療中止について、患者の意志を尊重するのを基本とし、本人の意思が確認できない場合は家族と話し合った上で、医療チームとして慎重に判断するとされている。しかし、医師が刑事訴追されない免責基準については、検討課題として残されたとされる。

『患者本人の意志確認』が難しいのは、突然、容態が悪化した患者の場合、当人の意思を確認する機会が無い可能性があるということである。本来であれば、普段、元気なうちに自分の死に方を決めておくべきだということなのかもしれないが、中々そうならないのが実態ではないか。更に入院するときに、当人に全く死ぬ気がないとすれば、前もって患者の意思の確認は難しい。

如何にinformed consentを十分な努力によって果たしたとしても、死ぬほどの病気とは考えていない患者に最悪の場合、人工呼吸器を装着するのかしないのか、装着した後の脱着の時期をどうするのかなどの説明を始めたとしても、患者にとって真実味はない。むしろよっぽど治療に自信がないんではないかという、つまらない疑惑を与えることになるのではないか。

最終的には患者の家族の意思の確認で対処せざるを得ないと思われるが、患者家族の意志確認のみでは本当に不適切なのであろうか。更に主治医の判断ではなく、院内に設置した委員会で主治医以外の第三者の意見も加えて判断するというが、人工呼吸器を装着するかしないかは主治医の判断で実施し、脱着するときは第三者も含めた判断ということでは、決断までに時間を要し、結局は不必要な治療の継続になるのではないか。

今回の事例は、患者の家族が懇願し、医師が人工呼吸器を外したということであるが、

人工呼吸器を外さなかったとしても2-3時間後には死亡したとされている。それなら何故医師を殺人容疑で書類送検しなければならなかったのか、理解できない。

もし、医師を殺人容疑で書類送検するなら、2度に亘って人工呼吸器を外すことを懇願した患者家族は殺人を強要したとして書類送検するということになるのであろうか。事件性が推測できないというのであれば、書類送検なぞする必要はなかったのではないかと思うが、如何なものであろうか。

[2007.6.24.]

これでいいのか-臓器売買

水曜日, 8月 15th, 2007

臓器移植により助かる命があることは理解している。しかし、その必要な臓器を手に入れるために、国外に出かけてまで手に入れるということになると、些か違和感を持つのである。特に幼小児の臓器移植の場合、国内では現在認められていないため、海外に行ってでもという募金活動が、美談としてマスコミに取り上げられるが、全ての臓器移植を必要とする幼小児が、対応できているわけではないということからすると、些か嫌な気がするのである。

国内法を速やかに整備し、幼小児の臓器移植が可能になるような手だてを講ずることが第一であり、その手だてを早めることこそ、マスコミが叱咤激励すべきことではないのか。まして一応の法整備がされている成人の場合、法改正が必要であるなら法改正を急ぐべきで、他国にまで行って金で臓器移植を受けるなどということは、国外から批判される前に止めるべきである。

しかし、どうにも信じられない話だが、フィリピン保健省は生体腎移植の臓器売買を公認する新制度導入を目指す公聴会を開催したという。更に政府方針を示す声明案が提示され、「国及び社会はフィリピン国民に対し、臓器の提供及び『報奨』、『感謝の贈り物』を社会から受け取ることを容認する」との文言が盛り込まれた[読売新聞,第47029号,2007.2.11.]とする報道がされていた。

臓器提供の『報奨』、『感謝の贈り物』を社会から受け取る等という、美辞麗句が並べられているが、結局は自国国民が臓器売買をすることを容認するということであり、国家としての決定に疑念を持たざるを得ない。

闇の臓器売買が日常的に行われている貧困層がある。臓器摘出後の提供者(販売者)の健康維持に問題があるため、制度化することによって販売者の身の安全を守るということのようである。しかし、国家が国民の貧困を改善する努力を放置し、臓器販売に手を貸すような立法化を図る等という感覚は理解の外である。駄目だといっても臓器売買は止まらない。それならば思い切って公然化するということのようであるが、取り締まりを強化しても止められないなら、何もかも公然化するという発想は、現代的な国家としては、後ろ向きの発想といえるのではないか。

単純化し過ぎだ、甚だ大雑把な解釈だといわれるかもしれないが、国民の貧困は、国家としての機能が偏り、利益の配分が適正に行われていないということではないのか。フィリピンにも大富裕層がおり、国内で富の生産が出来ないわけではない。その生産される富が、特定の集団に偏在しているということであり、富の分配の仕組みを変えることが必要なのではないか。

しかし、どういう発想から臓器の売買を認めるなどということになってしまうのか。更にそれを受けて他国から臓器の買い手が集まる等ということになるのか。

臓器移植は、誰かが死ぬことを期待して移植を希望する患者がいるわけではないはずである。死を迎えた人が、自らの意志で臓器を提供し、利用できるのであればどうぞということが基本のはずである。臓器移植をすれば助かる命があるから全て救うべきであるという考え方になったとき、臓器売買という発想が生まれてくるのかもしれないが、臓器を摘出する手術の絶対の安全性が保証されているわけではない。臓器摘出後に何等かの問題が生じ、命を失うことがあるかもしれない。その場合、誰が臓器提供者の命の保証をするのであろうか。それとも販売することを決めた当事者責任として、対処すべきことだとでもいうのだろうか。

(2007.2.24.)

後発医薬品

水曜日, 8月 15th, 2007

長い間『ゾロ』という呼び方をしていた薬を『ジェネリック』と呼び代えてみたとしても、過去の印象を拭い去ることは難しい。更に全く同じだと力説されたとしても、後発医薬品が先発医薬品に化けるわけではない。さあ、そこでだ………

厚生労働省は、後発医薬品の使用に躍起になり、あらゆる機会に先発品と同じだと声高に叫んでいるが、厚生労働省が声を挙げれば挙げるほど、何か胡散臭いのではないかと思われてくる。

後発医薬品を販売する会社は会社で、テレビ広告に力を入れているが、医師が不安だとしている点の解消に力を尽くそうとはしていない。それどころか会社の収益の上方修正を図るなどという声が、業界紙を賑わしている。勘違いしてもらったら困るのは、売り上げが上がっているとすれば、薬がいいから売れているわけではなく、一つには規制当局の圧力が強いのと、価格差を強調した広告のおかげということである。

広告に依存する後発医薬品の有り様をCMBM(Commrcial Massage Based Medicine)と皮肉っている方がいるが、将に広告の影響力をもろに受けた結果、使用が伸びただけで、処方医の信頼を得た結果で使用されているわけではない。従って外圧がゆるめば、元の木阿弥になる危うさがある。

ところで後発医薬品の使用促進に際して、先発医薬品と同等であるとしきりに強調しているが、そんな必要はないのではないか。兎に角医療費の総枠抑制のため、後発医薬品を使用していただきたいというのが厚生労働省の本音であり、財務省の圧力と言うことである。

先発医薬品と後発医薬品の主成分は全く同一であるということになっている。但し、主成分が同一であることで、先発医薬品と後発医薬品の同等性を示すことにはならない。一般名(general name)で表示される成分は確かに同じであるが、原薬の製造所は同じなのか、医薬品添加物は同一なのか、製剤技術は保証されているのか等、種々疑念を持たれる部分はいくらでもある。

医師は誰しも自分の使い慣れた薬を持っている。その薬に変えて、後発医薬品を選択するというのは、そう簡単なものではないのではないか。使い慣れた薬とは、効果のみならず副作用についても熟知しているということであり、成分が同じだとはいえ、簡単に変更できると考えるのはある意味無責任ではないのか。また服用する側も、医師が確信を持っていない薬を出しては戴きたくないと思ったとしても、それをとやかく批判することは出来ない。

とはいえ医療費の削減も緊急の課題である。仕方がない、この際、先発医薬品に変わる後発医薬品を選択するという考え方を捨てて、新しい薬として後発医薬品を選択することにしてはどうだろう。使ってみて効果がなければ他の薬に変更する。変更を続けた結果、先発医薬品に本卦還りするのであれば、それはそれでいいのではないか。

更に価格が安いというだけで後発医薬品を選択したのであれば、価格に見合う効果しか得られなかったとしても、それはそれなりの危険を背負ったということで、選択した側の責任ということになるのではないか。勿論、そんな薬を製造した会社も、それなりの責任を取らなければならないのはいうまでもないが………。

(2006.12.13.)

懲りない面々

水曜日, 8月 15th, 2007

鬼城竜生

厚労省所管の独立行政法人「国立病院機構」大阪医療センター(大阪市中央区)の事務部長(57)が前任の旧国立京都病院(現・京都医療センター)時代に、看護師宿舎の改修などに使われる共益費約900万円を着服した疑いが強まり、京都地検は28日にも業務上横領容疑で強制捜査に着手する。地検は、関係者の証言などから、共益費以外にも公金が「裏金」としてプールされ、私的に流用された疑いがあると見ている。

調べでは、事務部長は2002年4月-2004年3月、旧国立京都病院の事務部長として勤務。2003年春、看護師約100人が入居する宿舎の共益費を積み立てた銀行口座から約900万円を無断で引き出し、着服した疑いがある。共益費は当時、毎月1人あたり2000円前後で、事務部長の部下が管理していたという。内部告発などを受けて、地検が内定していた。

複数の関係者らが「裏金」の存在を認めた上、「業者に水増し請求したことがある」「部内で管理され、飲食などに使われた」と証言しており、地検は、事務部長が関与した支出に関心を寄せている

[読売新聞,第46710号,2006.3.28.]。

旧国立病院の看護宿舎の共益費を巡る横領事件で、京都地検特別刑事部は、28日前事務部長(57)(現、大阪医療センター事務部長)ら数人について、業務上横領容疑で取り調べを始めた。容疑が固まり次第、逮捕する方針。

また、前事務部長らは、職員互助組織「病院協会」の口座などを管理していたほか、看護師宿舎の電気製品の修理費をカラ請求するなどの手口で公金の一部をプールし、多額の裏金を作っていたことが、関係者の証言で新に判明した。地検は、前事務部長を中心に組織的な裏金作りが進められていたと見て、不明朗な金の流れを調べる。

調べなどでは、前事務部長らは2003年5月、看護師宿舎の共益費を積み立てている口座を解約し、約880万円を横領した疑いがもたれている。

前事務部長は、自動販売機や公衆電話などの設置手数料、生命保険の手数料収入などが振り込まれていた「病院協会」の講座を事実上、管理していた。ところが手数料などの収入が、収益事業に伴う所得と見なされ、自主申告する必要に迫られたことから2002年3月期までの4年間で法人税二百数十万円を自主申告した。その際、着服した共益費の一部を流用し、前事務部長らの飲食代や前事務部長のポケットマネーに充てられていた。

一方、旧国立病院のOBらでつくる「保健医療ビジネス」(本社・東京)との取引を巡り、全国の旧国立病院が随意契約などの不透明な調達方法で駐車場の管理などを集中的に発注していたが、看護宿舎の管理は同社近畿支店の受注だった[読売新聞,第46710号,2006.3.28.]。

京都医療センター(旧国立京都病院)の施設の共益費を巡る横領事件で、京都地検特別刑事部は28日、前事務部長の粟井一博(57)(現、大阪医療センター事務部長)ら3容疑者を業務上横領容疑で逮捕した。粟井容疑者らはこの他にも、病院施設の電気製品の修理や備品の修繕などを取引業者にカラ請求するなどの手口で公金の一部をプールし、複数の口座に総額1000万円以上の裏金を作っていたことが関係者の証言で新に判明した。一部を厚労省幹部に対する接待に使ったと見て使途を更に調べる。

他の逮捕者は、元会計課長の東垣陽一(54)(現、兵庫青野原病院事務長)、元庶務課長の水嶌啓一(57)(現、宇多野病院事務部長)の両容疑者。

調べでは、3容疑者は共謀し、2003年5月半ばに病院施設の共益費の口座を無断で解約し、約880万円を横領した疑い。粟井容疑者は「私的な流用はしていない」と容疑を否認している。

また、粟井容疑者が京都医療センターで勤務していた2002年4月以降、厚労省幹部と頻繁に飲食、粟井容疑者の部下だった職員が同じ幹部らをゴルフに誘い、一緒にプレーしたりしていたことが判明した。関係者は「裏金が使われた」と話しており、地検はこうした証言にも関心を寄せている [読売新聞,第46711号,2006.3.29.]。

何年かに一遍、同じ様な事件が起こるが、少しも懲りていないというのが不思議である。今回の事件も国立病院時代と全く同じで、国立病院から独立行政法人国立病院機構に組織改変されたにもかかわらず、国病時代の体質は、そのまま引きずっているということのようである。

まず厚生労働省の役人と顔繋ぎをするのは出先の役人にとって重要である。例えば順番を変更して、医療機器等の予算を回遊して貰う。設備改修費を他の施設の順位を飛ばして回して貰う。特別に裏の予算を付けてもらう。これら予算絡みの話は、各施設において事務部門の長の評価に繋がる。

曰く予算を取るのが上手い事務部長だ。

更に本省に厚い人脈を持つことは、自分の人事にも好影響を及ぼす。

いわゆるノンキャリと呼ばれる一般職公務員が、座れる本省の課長の席は限られている。課長補佐として長らく本省の席に座って、予算を握るか人事を握るか。多くは大都市の国立の大施設に天下って行く。つまり本省には元々人脈があるわけだが、その人脈を何時までも繋いでおくためには、接待が必要ということになる。出先機関の視察に来たときに、温泉旅館に泊まって一杯やる。次の日には近場のゴルフ場でゴルフをやる。出張で地方大都市に御出になれば、その土地の繁華街の飲み屋に御案内し、歌の一つも歌うということになる。

これらの費えに使う金は、自分の金だけでは間に合わない。通常であれば、公衆電話の置き賃や自動販売機の手数料を職員の福利厚生費に使用するという名目で○○協会として管理し、使用するという手品を使っているが、最早、公衆電話は大きな収入源にはならない。一度遊び癖がつくと、簡単には修正が効かない。空領収書を業者に依頼して支払いの事実をでっち上げる。そうやって浮かした程度の金では間に合わないところまで来た結果、積立金に手を付けたのであろうが、職員の積立金に手を付けたという話は今まで聞いたことがなかった。

このあたりが国立病院から国立病院機構に組織改変された違いなのだろうか。

しかし、もし彼らの思いの中に、誰もがやっていることだなどという思いがあったとしたらそれは不幸な思いこみだといえる。また、何回も逮捕者が出ながら、根絶できていないとすれば、上っ面の捜査で終わっており、本省も含めて根こそぎ浚えてないということである。

天網恢々疎にして漏らさず。

派手になればなるほど甚だしく目立つ。更に皆に好かれる管理職はいない。阻害された奴は頭に来て何処かに知らせる。結局は明るみに出て、職を失うことになってしまう。それこそこの悪しき構図は、そろそろ止めてはどうか。

更に病院内・本省内における監視機関の一つとして、労働組合の存在さ認知させるべきである。

(2006.4.16.)

588人死亡の重さ

水曜日, 8月 15th, 2007

鬼城竜生

*肺癌治療薬「ゲフィチニブ」(商品名・イレッサ)の有効性について製造元のアストラゼネカ社(英国)が「延命効果はない」とする調査結果を公表した問題で、厚生労働省の検討会は20日、「使用制限する必要性はない」との中間意見書を纏めた。3月を目途に、イレッサの有効性を最終判断する。

意見書では、調査結果が「東洋人には延命効果がある」としていることを理由に、「引き続き十分な経験を持つ医師のもとで適正に使用していくべきだ」とした。ただ、副作用によると見られる国内の死者が588人に上っているため、日本人の延命効果に関する試験を早急に進めるよう同社に求めた。これに対し、「イレッサ薬害被害者の会」の近沢昭雄代表は記者会見し、「使用を継続すれば、副作用による死者が増えていくだけだ」と批判した [読売新聞,第46280号,2005.1.21.]。

*588 人の死亡(2004年12月28日)は、2002年7月の本剤発売開始以降約2年6ヵ月の間に起きた死亡例である。米国のFDA(食品医薬品局)は、 2004年12月にイレッサの市場からの回収を検討することを決め、製造元の英国アストラゼネカ社は2005年1月4日、欧州での承認申請を取り下げることを発表した。アストラゼネカ社は、日本以外の28カ国で、他の抗がん剤が効かない末期の肺癌患者1,700人を対象に、プラセボとの比較試験を実施し、イレッサを服用したグループとプラセボを服用したグループの間で、生存期間に明確な差がなかったとしている。

本剤の服用によって重篤な副作用である『間質性肺炎』を惹起した患者数は 1,473人、そのうち死亡した事例が588人ということで、約40%の死亡率である。重篤な副作用、特に死亡例がでた薬の製造中止の判断基準はどこに設定することがいいのか解らないが、588人というのは、薬を回収するあるいは販売中止にするという基準値には達していないということなのであろうか。

今回の厚生労働省の検討会議では、「東洋人には延命効果がある」としていることを理由に、「引き続き十分な経験を持つ医師のもとで適正に使用していくべきだ」としているが、現在までに何回か『十分な経験を持つ医師のもとで適正に使用していくべき』とする通知が、厚生労働省から出されていたのではないか。その中での死亡例の増加ということであれば、適正使用にも限界があるということである。更に「東洋人には延命効果がある」という結果についても、対象とされた東洋人は日本人ではなく、更にどの程度の延命効果が見られたのか公表されたデータは見ていない。

588人の死亡という命の重さと、僅かな外国人を対象とした試験の結果を較量して、なお、継続するという判断を下したことは、果たして正当な判断といえるのかどうか。更に薬の効果が現れ、病状が好転している例もあるとされているが、どの程度の患者が、どの程度の好転を見たというのか。

他の病気を対象にした治療薬であれば、遠の昔に厚生労働省の回収指示が出されるか、あるいは企業自らが回収の決断を下している。イレッサは分子標的薬(がん細胞の増殖・転移に係わる分子を狙い撃ちする)の一つで、期待の新薬として2002年、世界に先駆けて日本で承認された経緯がある。通常なら腰の重いはずの厚生労働省が、珍しく身軽に動いた結果が、患者の死亡数の増加という結果に終わったのでは、色々差し障りがあるということで、使用中止の決断を先延ばししているのかも知れない。

更に現在、この薬については、その使用の適否について、裁判で争われている。今、回収の決断をすれば、厚生労働省が自ら招いた薬害ということになってしまう。それを避けるとすれば、販売の継続はやむを得ないということなのかも知れない。しかし、何等かの措置を講じ、使用の制限をしない限り、死亡者数の増加に歯止めをかけられないのではないか。

(2005.1.29.)


  1. 赤旗,第19465号,2005.1.21
  2. 坂上 博:イレッサ継続-現場の強い要望を反映 世界と逆行、規制含め議論を;読売新聞,第46286号,2005.1.27.

コンフリーに関する通知文書

水曜日, 8月 15th, 2007

コンフリーは牧草であるという認識を持っていたので、コンフリーの摂食禁止に関する通知がでたと聞いた時に、“いわゆる健康食品”の材料として使用されているものと考えていた。しかし、その後、国外では野菜として摂取され、国内においても一時野菜として摂取するのが流行ったと聞いて、一体このコンフリーというのは何なんだということで調べてみることにした。

コンフリー(Comfrey)は、ヨーロッパを原産地とするムラサキ科(Boraginaceae)の多年草で、原生種:オオハリソウの園芸種。ムラサキ科ヒレハリソウ属(Symphytum spp.)として数種のものが見られる。和名:ヒレハリソウ(Symphytum officinale L.)、鰭玻璃草。

英名:beinwell。

コンフリー(Symphytum peregrinum)→Symphytum officinaleとの交配種。

鰭玻璃草(Symphytum officinale)

鰭玻璃草の含有成分:アラントイン、粘液、タンニン酸、珪酸、コリン、イヌリン、シンフィト-チノグロッシン。ピロリジジンアルカロイド(Pyrrolizidine alkaloids:PAs)。

鰭玻璃草をチンキ、粉薬、お茶として飲むことが出来る。チンキは25-30滴を3回、お茶としては根又は葉から作ったものを1カップずつ3回与える。最も効果が強いのは粉薬で、大きな傷、下腿潰瘍、骨折、切断又は手術後の治癒の促進には、小匙1杯の粉薬を服用する。

膝関節愁訴、内出血、下腿潰瘍、痛風、非炎症性関節炎と静脈炎に対して、乾燥した根を挽いた粉に熱湯を加えてよくかき混ぜ、硬めのネバネバした粥にする。これを布に塗って当該する部位に貼付し、一晩作用させる。コンフリーの葉は野菜として生でサラダや野菜ジュースなどに使ってもよい。ビタミンB12、アラントイン、珪酸と蛋白質を含んでいる。この葉はカビやすいので、慎重に乾燥しなければならない。

コンフリーは、コーカサス地方の長寿村で常食しているということから、欧米で“奇跡の草”と呼ばれたことが伝えられ、1960年代に国内で流行した。コンフリーはビタミンやミネラルを多彩に含有しているといわれるが、中でもビタミンB12、有機ゲルマニウムを大量に含んでいる等の報告がされている。

なるほどコンフリーには、“いわゆる健康食品”の材料として、魅惑的な成分が含まれているが、一方でピロリジジンアルカロイド(Pyrrolizidine alkaloids:PAs)については、コンフリー摂取による毒性発現の原因物質であり、肝静脈閉塞性疾患等の疾病を招来するとして、厚生労働省から『摂取禁止』とする通知が発出されたので、経口摂取は中止すべきである。

  1. 奥本裕昭・訳:イギリス植物民俗事典;八坂書房,2001
  2. 手塚千史・訳:大地の薬-ヨーロッパの薬用植物の神話、医療用途、料理レシピ;あむすく,1996
  3. 奥田拓道・監修:健康・栄養食品事典-機能性食品・特定保健用食品;東洋医学舎,2004-2005

以下に参照として、コンフリーに対する厚生労働省通知の一部を添付する。

  食安発第0618002号

平成16年6月18日

都道府県

各保健所設置市衛生主管部(局)長 殿

特別区

厚生労働省医薬食品局食品安全部長

シンフィツム(いわゆるコンフリー)及びこれを含む食品の取扱いについて  シンフィツム(いわゆるコンフリー、以下「コンフリー」という。)及びこれを含む食品に関しては、平成16年3月24日付けで厚生労働大臣から食品健康影響評価について食品安全委員会委員長に対し意見を求めていたところ、今般、緊急を要するとの食品安全委員会での議論から、国民からの意見募集に先立ち、別添のとおり食品健康影響評価の通知があったところである。これを受けて、コンフリー及びこれを含む食品については、食品衛生法第6条第2号に該当するものとして販売等を禁止することとしたので、御了知願いたい。

なお、コンフリー及びこれを含む食品に対する、食品衛生法第54条の適用にあたっては、営業者が自主的に廃棄、回収等の措置を適切に講じている場合には、これを考慮いただくようお願いする。

また、食品安全委員会では、別添通知の別添審議結果に対して広く国民からの意見・情報を募っているので、申し添える。

なお、コンフリー等の取扱いについては、平成16年6月14日付け食安基発第0614001号、食安監発第0614001号「シンフィツム(いわゆるコンフリー)及びこれを含む食品の取扱いについて」にて通知したところであるが、改めて営業者に十分な周知を図られたい。

(参考)

食安基発第0614001号

食安監発第0614001号

平成16年6月14日

都道府県

各 保健所設置市衛生主管部(局)長 殿

特別区

厚生労働省医薬食品局食品安全部基準審査課長

厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課長

シンフィツム(いわゆるコンフリー)及びこれを含む食品の取扱いについて

シンフィツム(いわゆるコンフリー、以下「コンフリー」という。)及びこれを含む食品の取扱いについては、厚生労働大臣から食品安全委員会委員長に対し、食品健康影響評価を依頼しているところであるが、本日の食品安全委員会かび毒・自然毒等専門調査会において、「コンフリー(Symphytum spp.)が原因と思われるヒトの肝静脈閉塞性疾患等の健康被害例が海外において多数報告されていること、また、日本においてコンフリーを使用した健康食品等がインターネットを使って販売されていることなどの情報から、日本においてコンフリーを摂食することによって健康被害が生じるおそれがあると考えられる」旨の意見の一致を見たところである。

調査会の議論によれば、コンフリーの摂取によるヒトの健康被害として、肝静脈閉塞性疾患(肝静脈の非血栓性閉塞による肝硬変又は肝不全)等が指摘されているところである。

また、この調査会では、「広く国民一般に対し、コンフリーを摂食することのリスクについて注意喚起するなど適切なリスク管理措置を講じるべきであると考える」ことが指摘されているところである。

ついては、貴職にあっては、コンフリー及びこれを含む食品を製造、販売等をしている営業者に対しては、当該食品の製造、販売等の自粛及び自主的な回収措置等を内容とする指導の徹底方よろしくお願いする。

また、製品化されたもののみならず、コンフリーを栽培し、又は自生しているコンフリーを採取等する者があることが指摘されていることから、国民に対しコンフリー及びこれを含む食品の摂取を控えるよう幅広く情報提供いただけるようよろしくお願いする。

なお、食品安全委員会の食品健康影響評価の結果が正式に示された後に、貴職が監視指導を行うに当たり必要な食品衛生法上の措置を改めて通知する旨、申し添える。

厚生労働省行政情報-報道関係資料

  シンフィツム(いわゆるコンフリー)及びこれを含む食品の取扱いについて

平成16年6月14日

厚生労働省医薬食品局食品安全部基準審査課

本日、食品安全委員会かび毒・自然毒等専門調査会にて、シンフィツム(いわゆるコンフリー、以下「コンフリー」という。)及びこれを含む食品の取扱いについて、「コンフリー(Symphytum spp.)が原因と思われるヒトの肝静脈閉塞性疾患等の健康被害例が海外において多数報告されていること、また、日本においてコンフリーを使用した健康食品等がインターネットを使って販売されていることなどの情報から、日本においてコンフリーを摂食することによって健康被害が生じるおそれがあると考えられる」旨の意見の一致が見られたところです。

これを受け、厚生労働省は、コンフリーの製造・販売、摂取等に係る留意事項を次のとおり示したところですので、情報提供いたします。 なお、同留意事項については、地方自治体及び関係事業者・消費者団体に対し通知したことを申し添えます。

(1) コンフリーを製造・販売・輸入等する営業者に求める事項

  • コンフリー及びこれを含む食品の製造・販売・輸入等の自粛
  • 回収等、営業者による自主的な措置の実施

*食品安全委員会の食品健康影響評価の結果が正式に示された後、コンフリーに対し、食品衛生法に基づく法的な措置をとることとなる。

(2) 一般消費者に対し求める事項

  • 販売されたコンフリー及びこれを含む食品の摂取を控えること
  • 自生し、又は自家栽培したコンフリーについても、その摂取を控えること

(参考)シンフィツム(いわゆるコンフリー)とは

別名:ヒレハリソウ

学名:Symphytum spp.

(主な種)

Symphytum offcinale :通常のコンフリー

Symphytum asperurn :プリックリーコンフリー

Symphytum x uplandicum :ロシアンコンフリー

(コンフリーを含む製品では、これらの種類が区別されていない場合あるいは交雑種を使っている場合がある。若い芽や若い葉は茹でるなどして食べられることが知られている。)

科名:ムラサキ(Boraginaceae)科

原産地:ヨーロッパ、西アジア

シンフィツム(いわゆるコンフリー)に関するQ&A

Q1. シンフィツム(いわゆるコンフリー)とはどのようなものですか。

A1.別名ヒレハリソウともいう。ムラサキ科ヒレハリソウ属の多年草本で、主な種として、通常のコンフリー(Symphytum offcinale)、プリックリーコンフリー(Symphytum asperum)、ロシアンコンフリー(Symphytum x uplandicum)などがあります。

コーカサスを原産地とし、ヨーロッパから西アジアに分布しています。草丈は60?90cmで、直立し、全身に粗毛が生え、葉は卵形?長卵形。初夏から夏にかけて花茎を伸ばして釣り鐘状の白~薄色の花を咲かせます。我が国には、明治時代に牧草として入り、一時長寿の効果があると宣伝され、広く家庭菜園に普及しました。[参考:丸善食品総合辞典(丸善株式会社) 他]

Q2.コンフリーを摂食することでどのような健康被害が知られていますか。

A2.諸外国では、コンフリーを摂取した場合の主要な健康被害として、肝障害が報告されています。主な肝障害は肝静脈閉塞性疾患で、主に肝臓の細静脈の非血栓性閉塞による肝硬変又は肝不全です。主症状は、急性又は慢性の門脈圧亢進、肝肥大、腹痛です。

Q3.コンフリーを含む製品を摂取していますが、どうすればいいですか。

A3.摂取を中止してください。また、気になる症状がある場合には、最寄りの医療機関で診察を受けてください。なお、日本国内でコンフリー又はこれを含む食品を摂取したことによる健康被害事例は、これまで報告されていません。

Q4.自生あるいは栽培しているコンフリーは有害ですか。

A4.自生あるいは栽培しているコンフリーであっても食用とすることで健康被害が生じるおそれがあると考えられるので食用にはしないでください。なお、コンフリーが生育している環境中で生活していてヒトの健康に影響を及ぼすようなことはありません。

Q5.外国ではコンフリーの規制はありますか。

A5.米国では、コンフリーを含む栄養補助食品の自主回収等を勧告しています。カナダでは、コンフリーを含むNatural Health Productについては、当局の許可を得ている製品以外は販売禁止となっています。オーストラリアでは、コンフリーの一部の種類は意図的に食品に添加することを禁止する植物とされています。

[2005.1.24.作成]