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肺癌患者-喫煙原因訴訟敗訴

水曜日, 8月 15th, 2007

魍魎亭主人

喫煙が原因で、肺癌などの病気になったとして、患者や家族計6人が、日本たばこ産業(JT)と国を相手取り計6000万円の損害賠償と広告の差し止めなどを求めた訴訟で、最高裁第一小法廷(才口千晴裁判長)は26日、請求棄却の1、2審判決を支持し、上告を退ける決定をした。患者側敗訴が確定した。喫煙者が国を相手取った初めての訴訟で、原告側は、「JTがたばこの有害性と依存性についての情報を提供せずに販売し、国はそれを放置した」と主張したが、 1、2審とも「依存性は低く、喫煙は自由意志だった」と判断していた。

[読売新聞,第46650号, 2006.1.27.]

米国であれば、あるいは煙草会社が悪い等という判断がだされ、賠償金を支払え等ということになるのかもしれないが、国民性の違う日本では、若干無理があるということなのかも知れない。

「依存性は低く、喫煙は自由意志だった」との判断がだされた。

『依存性が高いか低いか』というところでは、個人的な差異もあるから、軽々とは判断できないが、『喫煙は自由意志だった』といわれれば、別に誰からも奨められた覚えはないのにいつの間にか吸っていたところを見ると、そうかもしれないと思ってしまう。

思い起こせば、昔何度か試験問題で悩まされたものに『三公社五現業(さんこうしゃごげんぎょう)』なるものがあった。難しくいえば公共企業体労働関係法、公共企業体等労働関係法、国営企業労働関係法、国営企業及び特定独立行政法人の労働関係に関する法律或いは特定独立行政法人等の労働関係に関する法律(昭和23年法律第257号)の適用を受けていた公共企業体及び国の経営する企業の総称であるということになる。

公共企業体いわゆる三公社は、日本国有鉄道・日本電信電話公社・日本専売公社の3企業体で、このうちの日本専売公社というのが、嘗ては煙草を独占販売していたのである。つまり現在のJT(日本たばこ)は民営化された専売公社のなれの果てであり、最も自由に煙草が販売できていた時代は、国営企業だった訳である。国が率先して自国民に体に悪いといわれる煙草を販売して稼いでいたわけであるが、この稼いだ金は国家の運営に使用したものであり、間接的に国民の全てが恩恵を受けているということになる。

従って煙草の害を認めて、賠償金を支払えというのであれば、国が全面的に責任を持たなければならないということになる訳であるが、国にすれば喫煙を推奨したこともなく、煙草の売り上げは国民のために使用したものであって、その恩恵を受けた国民から訴えられる筋合いはないということになるのかもしれない。

裁判所が、その点に配慮したとはいわないが、喫煙者が100%肺癌になるという事実が証明されない限り、煙草は世の中から無くならない。しかし、実際には煙草を吸いながら80歳まで何事もなく生きた人もおり、更に自分の意思で禁煙できる人達もいる以上、自らの喫煙を他人の所為にするのは如何なものかということになるのかも知れない。

ところで貴方はどうだということになると、禁煙する意志の強固さは持ち合わせていないので、長期の休煙期間に入っている。1日40本近く吸っていたので、休煙4年目を迎えて、尚、確固たる禁煙宣言に切り換えられないでいる。

情けないといえば情けないが、禁煙していることと同じことであるから、肩の力を抜いて、このまま継続できればいいのではないかということである。

昔懐かしい『三公社五現業』、歴史的な事実として、折角調べたので附録として残しておくことにした。

日本国有鉄道 日本国有鉄道清算事業団(1998年10月22日解散。)に移 行→JR北海道、 JR東日本、 JR東海、JR西日本、JR四国、JR九州、 JR貨物他。
日本電信電話公社 1985年4月1日解散→日本電信電話株式会社。
日本専売公社 1985年4月1日解散→日本たばこ産業株式会社。
郵便 郵便、郵便貯金、郵便為替、郵便振替及び簡易生命保険の事業 → 日本郵政公社に移管
造幣 造幣事業(賞はい等の製造の事業を含む。) → 独立行政法人造幣局に移管
林業 国有林野事業(国有林野事業特別会計において事務を取り扱う治山事業を含む。)
印刷 日本銀行券、紙幣、国債、印紙、郵便切手、郵便はがき等の印刷 の事業(これに必要な用紙類の製造並びに官報、法令全書等の編集、製造及び発行の事業を含む。)
→ 独立行政法人国立印刷局に移管
アルコール専売 アルコール専売事業 → 新エネルギー総合開発機構(=新エネルギー・産業技術総合開発機構。2003年10月1日解散。)に移管

(2006.3.10.)

バイブル本のあきれた実態

水曜日, 8月 15th, 2007

魍魎亭主人

「がんに効く」アガリスク本で逮捕、出版社役員ら6人 薬事法違反容疑、 監修者書類送検へ [読売新聞,第46537号,2005.10.5.]の見出しを見て、やっとかよというのが率直な感想。

「アガリスクで末期ガンが消滅する」などとする書籍を出版し、キノコの一種のアガリスクから作った健康食品を販売していた事件で、警視庁生活環境課は2005年10月5日、出版元の役員ら5人と健康食品販売会社の社長の計6人を薬事法違反(未承認医薬品の広告禁止、無許可販売)の容疑で逮捕した。書籍で紹介された「ガンが消えた」の体験談は、大半が捏造だったとしている。書籍を広告ととらえた薬事法違反容疑で逮捕者が出たのは初めてとされている。

逮捕者を出した出版社は「史輝出版」(港区青山)、健康食品販売会社は「ミサワ化学」(新宿区四谷)の両社。調べによると2001年と2002年に出版した「速効性アガリスクで末期ガンが消滅」等と題した書籍2冊の中で、医薬品として国の承認を得ていない健康食品「速効性アガリスクS」について、「ガン抑制率100%」等と効能効果を標榜する広告をしていたというもの。これらの書籍には巻末の頁や挟み込んだしおりに、問い合わせ先として「アガリスク研究センター」と称する電話番号を掲載していたが、この番号に電話をすると、商品を販売しているミサワ化学に繋がり、商品の注文を受け付ける仕組みになっていたという。

「史輝出版」の取締役が表向きの社長で、実際には「史輝出版」の社長が経営しているとされる「ライブ出版」(世田谷区)では、「メシマコブでガンが消えた」とする書籍を出版、監修者には山梨県の医師を起用しているとされる [読売新聞,第46538号,2005.10.6.]。

白鳥の写真 『いわゆる健康食品』の効能を標榜するバイブル本の特徴は、一見すると科学的な資料を用いた解説がされていること。利用者の生の声と称する体験談が掲載されていること。監修者に医学博士で○○大学の教授や名誉教授、研究所の所長等の肩書きを持った人を必ず記載していることである。

今回の事例も東海大学名誉教授「師岡孝次」氏が監修者として名前を出しているが、警視庁生活環境課は、2005年10月7日薬事法違反(未承認医薬品の広告禁止)の容疑で書類送検したとされる [読売新聞,第46539号,2005.10.7.]。

ただし、今回の事例で甚だ不思議なことは、監修者の「師岡孝次」氏は医学部の出身者ではなく、医学博士の肩書きも、中国の学位だということである。氏の経歴を見ると、慶応大学の何学部を卒業したのか確認できない書き方をしているが、どうやら工学部の出身ではないかと思われる。しかし、もしそうだとすると、氏が癌について書かれた文書の監修者になることは甚だ問題であるといわなければならない。ハッキリいって病気について知識のない素人が、アガリスクは癌に効果があるとか、メシマコブは癌に有効であるなど、何を根拠にして判断したのか。ある意味、詐欺行為だといわれても仕方がない。

いずれにしろ『いわゆる健康食品』は氾濫している。医薬品ではないため薬効を標榜することは禁じられているはずであるが、インターネットのホームページを見る限り、効果を標榜していると受け取れるホームページは多い。更に新聞の折り込みにも、明らかに効果を標榜している『いわゆる健康食品』のチラシが見られる。更に今回、監修者が薬事法違反で書類送検されたが、今回の事例だけではなく、多くのバイブル本の共通事項であり、発行されているバイアル本の全てについて、精査することが必要ではないか。

いい加減なバイアル本を発行することで、効果のない『いわゆる健康食品』をあたかも効果があると思わせて、何億もの売り上げをあげているとすれば、詐術によって国民を騙すということだけではなく、患者の治療の機会を奪う行為であり、決して許されることではない。

(2005.10.9.)

果たして安全性は確立するものですか?

水曜日, 8月 15th, 2007

 政府の『規制緩和推進計画会議』において、OTC薬のうち風邪薬等の安全 性の確立している薬は、薬剤師の管理下から外して、コンビニエンスストア等24時間営業の商店で販売させるべきであるとする論議がされたとの報道があった。夜間であっても風邪薬が自由に買えるということは、国民にとって便利であり、第一、薬剤師はOTC薬について何の説明もせずにただ販売しているだけではないか。薬剤師の管理下においてのみ風邪薬の販売がされるべきだという薬剤師の意見は、単なる既得権擁護であり、国民の期待する便宜性とは甚だしく乖離している。

なるほど現状を見ると、スーパーに出店している薬屋さんたちは面白いことをおやりになっている。薬剤師が不在の時間帯になるとOTC薬を並べている棚をカーテンで覆ってしまう。つまり今は薬剤師が不在であるからOTC薬は販売しないという意思を表示しているというわけである。あたかも順法精神横溢という態度を示しているが、客が直接OTC薬の名称を告げると、カーテンの陰から商品を取り出して販売している。

何の意味があって手品師もどきの芸当をしているのかというと、薬剤師不在時にOTC薬の販売はできないが、『セルフメディケーション(self-medication:自己治療)』の原則からいえば、服用する客が自ら商品名を指定した場合、客の自己責任に基づいて選択されたものであり、薬剤師以外の人間が販売したとしても問題はないという、奇妙な理論に基づいている。この理論を拡大解釈すれば、コンビニにOTC薬を配置し、客が商品名を指定した場合には販売してもいいのではないか、OTC薬について薬剤師は何の説明もなしに販売しているという理論に繋がっていく。

しかし、OTC薬といえど『医薬品』なのである。『医薬品』の場合、『安 全性が確立している』と見えたとしても、本質的には常に危うい綱渡りをしているのだということを、理解しておかなければならない。薬害問題を持ち出すまでもなく、医薬品は人にとって、本来異物であり、効果の裏側には常に副作用という危険性が存在することを忘れてもらっては困るのである。

長期にわたり安全に使用されていた風邪薬の成分の一つについて、最近、厚生労働省が出した文書を参照しておきたい。

平成15年8月8日

厚生労働省医薬食品局安全対策課

 塩酸フェニルプロパノールアミンを含有する医薬品による脳出血に係る安全対策について

1.経緯

バーコードは誰が付けるのか?

水曜日, 8月 15th, 2007

魍魎亭主人

2000年10月25日付の読売新聞に、『国立国際医療センターで、投薬の時期や量などの診療内容を、バーコードで瞬時にチェックできる管理システムの整備に取り組むことを決めた。不注意な基本的ミスの防止や、薬品の在庫管理による病院経営の改善が主目的だが、診療全般を一括管理することで、多角的に情報を蓄積、薬の効果や、効率的な治療方法などの分析にも威力を発揮しそうだ。

医療行為を行うごとに薬や患者の腕に巻き付けたバーコードを読み取る。薬のバーコードには、薬名、投与量や有効期限、製品番号が記され、もし登録内容と異なると警告がでる』とする記事が収載されていた。

現在、我々が日常的に眼にするバーコードは、黒白の縦線が並列して横長に配列されている『一次元バーコード』であるが、これではコーディングできる情報量が少なく「薬名、投与量や有効期限、製品番号」等を入力することは困難である。従って、ここで考えられているバーコードは、コーディングできる情報量が飛躍的に増えたとされる、『二次元バーコード』の利用が考えられているのであろうが、どれだけ多くの情報量が、バーコードにコーディングできたとしても、基本的問題が片付かなければ、問題の解決が図られたということにはならない。

つまり、基本的な問題というのは、医療機関で使用される全ての製品に、何時この『二次元バーコード』の導入がされるのかということである。

例えば医薬品に関していえば、現在でも箱単位ではバーコードがコーディングされており、医療機関によっては、このバーコードを用いた物品管理が行われている。しかし、今回報道された内容は、箱単位でのバーコードではなく、各薬剤の個別最小単位-例えば注射薬のアンプル1本1本へのコーディングということであろう。

曲面のある錠剤にさえ印刷できる技術がある現在、注射薬のアンプルに『二次元バーコード』を印刷することは可能であろうが、果たして製薬企業は、アンプルの1本1本に『二次元バーコード』をコーディングすることを了承したのであろうか。

更に錠剤の1錠1錠に、『二次元バーコード』を印刷することも技術的には可能であろうが、バーコードリーダーに読み取らせる場際、錠剤やカプセルを素手で持って読み取らせるという方法は、衛生管理の上からも不向きである。

更に新聞報道に見られる『製品番号』とは、JANコードやYJコードではなく、新しく製品コードとして設定することになったコードだと思われる。しかし、このコードもやっと新会社を設立して、作業を開始するという段階だと聞いている。従ってこのコードもこの2?3カ月の間に全ての整備が終わるということではないのではないか。

新聞報道によれば、本格稼働の予定は2001年の9月だという。少なくともこの僅かな期間に、全製薬企業が新たな設備投資を実施し、全ての個別製品にバーコードをコーディングするとは信じられない。とすると個別製品の一つ一つにバーコードをコーディングするのは院内で職員がやるとうことなのであろうか。バーコードの印刷から個別注射薬のアンプル1本1本に印刷したバーコードを張り付ける作業を院内で実施するとすれば、新たに過誤を起こす機会を増やすだけの話ではないか。

それに注射薬のアンプルにのみバーコードをコーディングしたところで全体としての過誤防止対策にはならない。院内で使用する全ての製品にバーコードを貼付するとすれば、新たに膨大な作業量を院内に持ち込むことになり、現状の配置人員の中で、増加した作業を実施するとすれば、それは何の過誤対策にもならないことになる。

電子カルテの実施は、あらゆる作業の結果を電子化しなければならないのはその通りである。しかし、それを実施するために、あらゆる職場に作業量の増大をもたらしたのでは何の合理化にもならない。厚生省にすれば、予算の都合もあり、国を挙げて情報技術がいわれているときに、電車に乗り遅れたのでは、国立病院の電子化は後れを取るとの思いから、とりあえず打ち挙げた構想かもしれないが、ボタンの掛け違えから強引に実行などということになれば、迷惑を被るのは病院の職員のみならず、最終的には患者である。

ところで同じ記事の中に、『一足先に地元の新宿区医師会と患者の医療情報を共有化するシステムを開始している。「1地域・1患者・1カルテ」の実現で医療のスリム化を図る有力な手段となる』とする関係者の談話が掲載されていたが、これもおかしな話だ。厚生省は従来、ナショナルセンターでは地域医療は行わないと言い続けてきたはずである。

事実、国立小児病院と国立大蔵病院の統廃合により新たに設立される『成育医療センター(仮称)』における地元住民との最大の争点は、引き続き地域医療を継続し、地域住民の治療を行うか否かであり、厚生省は地域医療は地方自治体の責任で、ナショナルセンターは標榜する専門医療を実施するといい続けていたはずである。

最も最近では小児救急医療部門を『成育医療センター(仮称)』に設置するといっているところを見ると、まさか救急車が都外の全国各地から来るとは考えていないであろうから、地域医療を実施するのはやむを得ないと考えているのかどうか。

いずれにしろ新聞で取り上げられた国立国際医療センターは、感染症を主体とするナショナルセンターだったはずである。その施設が1地域・1患者・1カルテ等といっているのは、将に厚生省の従来の見解とは異なることになるが、そのへんの整合性はどうなるのか、伺いたいところである。

電子カルテ化を否定する気はない。むしろ積極的に実施すべきであると考えている。しかし、急ぐあまり医療事故の増大を招きかねない拙速は避けるべきである。更に職員の労働条件を無視した近代化などはあり得ない。医療機関はものを造る工場とは違うはずである。無闇な合理化は職員の心を荒廃化させ、患者サービスの低下に連動する。

看板だけはやけに立派であるが、人間的な温もりのない医療機関では、治療を受ける患者は、不幸である。

それと最近気になるのは、全てを電脳化することで、医療過誤が防止できるという発想である。機械が100%安全だという神話は、一体どこから生まれてきたのか。近代科学の粋を集合化した航空機も落ちるときは落ちる。まして機械を扱うのは人間である。

その人の安全に対する対策抜きで、どんなに機械化したところで過誤はなくならない。医薬品等へのバーコードのコーディングは、やはり製薬企業が、製造工程の一連の流れの中で行うのが当然であり、製薬企業の作業転換の遅れを病院職員に転嫁すべきではないと申し上げておきたい。

[2000.11.4.]

ノロウイルスについて

水曜日, 8月 15th, 2007

広島県福山市内の高齢者施設で、集団感染が発生し、7人が死亡したという衝撃的な結果から、norovirusによる感染症が、報道各社の注目を集めたのか、その後も引き続き感染者の数や集団感染の実態が、次々に報道されている。

厚生労働省の集計結果として報道された内容では、2004年11月以降、2005年1月12日現在、norovirus感染が疑われる患者は全国で 7,821人、死者は12人とされており、例年に比較して感染者数はさほど増加しているわけではない。

従来、『小型球形ウイルス』による感染症とされていた本感染症の原因が『norovirus』とされたのは、2002年に国際ウイルス命名委員会において、国際的に名称の統一を行うとして『norovirus』の命名がされたからである。

しかし、『小型球形ウイルス』では、報道する方もあまり迫力がない?ということなのか、従来はさほど世間を騒がせてはいなかったが、『norovirus』という名称は、それなりにおどろおどろしさがあるということなのであろう、あっという間に世間の知るところとなった。

norovirusは口から入り、人間の腸で増殖し、下痢、腹痛、嘔吐を起こす。冬に起きる胃腸炎の原因として、極く普通のvirusであるとされている。virusは貝類の腸に蓄積されるため、冬に食べる機会の多い生牡蠣が主な感染源とされているが、牡蠣だけに棲み付いているわけではなく、多くの二枚貝に棲み付いているとされている。

最もその中で牡蠣以外は生食する機会がないので、感染源として騒がれていないというだけで、調理過程で汚染源とならないという保証はない。ただ、『norovirus』については、現段階でインフルエンザのように脳症を起こしたり、virusが血液に入り重篤な病気を起こしたという報告はないとされている。

一般的に高齢者では、感染症に罹ると全身状態が急速に悪化し、死亡に至ることが多いとされている。しかし、現在報告されている『norovirus』について、その感染力や病原性が、従来との比較で強まったという徴候があるわけではないといわれている。

『norovirus』については、1997年の食品衛生法改正で、食中毒の原因virusに指定されたため、「集団食中毒」の原因としての印象が強く、貝類の加熱等の食品の安全管理面が強調されてきたが、本質的にはこの virusの感染力は非常に強く、患者の便や吐瀉物に大量に含まれるため、汚物処理や排便の後の手洗いが不十分な場合、二次感染が拡大する。

Center for Disease Control and Prevention(米・疾病対策センター)の調査では、『norovirus』の集団感染場所の4割が飲食店、3割は病院や高齢者施設、1割は学校とされている。また、別の調査では飲食店での集団感染の原因の66%は食品であるが、病院では95%がヒトからヒトへの感染とされ、高齢者施設等でも91% がヒトが感染の原因だとされているの報道がみられる。

(参照)消毒・滅菌法

加熱殺菌:流水により対象物を十分に洗浄したのち、一般の病原性菌の消毒法として用いられている次の方法により完全に滅菌される。 オートクレーブ ・乾熱滅菌・煮沸消毒(15分以上)

薬物消毒

  • 調理器具等は洗剤を使用して十分に洗浄した後、0.02%-次亜塩素酸ナトリウム液(塩素濃度 200ppm)で浸すように清拭することでウイルスを失活できる。
  • まな板、包丁、へら、食器、ふきん、タオル等は0.02%-次亜塩素酸ナトリウム(塩素濃度 200ppm:)に10分以上浸漬。塩素剤による腐蝕が考えられる器具等は、熱湯(85℃以上)で1分以上の加熱が有効である。
  • 手洗いの励行
  1. 看護、介護前後、特に吐物処理や糞便処理等の後には丁寧な手洗いを励行する。
  2. 手洗い後に使用するタオルはペーパータオルとする(手洗い後アルコール系消毒剤の使用を示唆する報告も見られる)。手洗い後、足踏み等でない蛇口はペーパータオルで締める。

[註]石鹸自体にはNorovirusを失活化する効果はないが、手掌の汚れを落とすことによってウイルス数を減少させる。

  • 糞便・吐物の処理
  1. ディスポーザブルのマスク、ビニール手袋を装着する。
  2. 汚物中のウイルスの飛散を避けるため、糞便、吐物等をペーパータオルで静かに拭き取る。オムツ等はできるだけ揺らさないように取扱う。
  3. 糞便、吐物が付着した床等は0.1%-次亜塩素酸ナトリウム液 (1,000ppm)で浸すようにして清拭する。
  4. 清拭に使用したペーパータオル等は、0.1%-次亜塩素酸ナトリウム液 (1,000ppm)に5-10分間浸漬した後、処分する。
  5. 患者の使用したベッドパンは、フラッシャーディスインフェクター(ベッドパンウオッシャー)で90℃-1分間の蒸気による熱水消毒。熱水消毒できない場合は、洗浄後に0.1%-次亜塩素酸ナトリウム液(1,000ppm)に 30分間浸漬。又は2%-グルタラールに30分-1時間浸漬。
  6. 患者の使用したトイレの便座、flushvalve(水洗用弁)、ドアノブ等直接接触する部分を0.1%-次亜塩素酸ナトリウム液(1,000ppm)で清拭。塩素剤による腐蝕が考えられる場合、アルコールで浸すように清拭。

[註1]Norovirusは乾燥すると容易に空中に漂い、経口感染を惹起することがある。糞便、吐物等は乾燥させないよう処理する。

[註2]エタノールも若干の効果が期待できるが、高い不活性化率は期待できない。ウイルスの物理的な除去を兼ねて清拭法により用いるか、洗浄後の補完として使用するの注意が見られる。

  • 寝間着、リネン等:熱水洗濯(80℃-10分間)。熱水洗濯できない場合、0.1%-次亜塩素酸ナトリウム液(1,000ppm)の濯ぎ液に30分間浸漬。

なお、以下に参照資料として厚生労働省が公表した『ノロウイルス食中毒の予防に関するQ&A』を添付しておく。

『ノロウイルス食中毒の予防に関する Q&A』

  (作成:平成16年2月 4日) (改定:平成16年4月26日)

最近増加しているノロウイルスによる食中毒の発生を防止するため、ノロウイルスに関する正しい知識と予防対策等ついて理解を深めていただきたく、厚生労働省において、次のとおりノロウイルス食中毒に関するQ&A(平成16 年2月4日)を作成しました。

今後、ノロウイルスに関する知見の進展等に対応して、逐次、本Q&Aを更新していくこととしています。

Q1:「ノロウイルス」ってどんなウイルスですか?

A:1968年に米国のオハイオ州ノーウォークという町の小学校で集団発生した急性胃腸炎の患者のふん便からウイルスが検出され、発見された土地の名前を冠してノーウォークウイルスと呼ばれました。 1972年に電子顕微鏡下でその形態が明らかにされ、このウイルスがウイルスの中でも小さく、球形をしていたことから「小型球形ウイルス」の一種と考えられました。その後、非細菌性急性胃腸炎の患者からノーウォークウイルスに似た小型球形ウイルスが次々と発見されたため、一時的にノーウォークウイルスあるいはノーウォーク様ウイルス、あるいはこれらを総称して「小型球形ウイルス」と呼称していました。

ウイルスの遺伝子が詳しく調べられると、非細菌性急性胃腸炎をおこす「小型球形ウイルス」には2種類あり、そのほとんどは、いままでノーウォーク様ウイルスと呼ばれていたウイルスであることが判明し、2002年8月、国際ウイルス学会で正式に「ノロウイルス」と命名されました。もうひとつは「サポウイルス」と呼ぶことになりました。

ノロウイルスは、表面をカップ状の窪みをもつ構造蛋白で覆われ、内部にプラス1本鎖RNAを遺伝子として持っています。ノロウイルスには多くの遺伝子の型があること、また、培養した細胞でウイルスを増やすことができないことから、ウイルスを分離して特定する事が困難です。特に食品中に含まれるウイルスを検出することが難しく、食中毒の原因究明や感染経路の特定を難しいものとしています。

Q2:ノロウイルスはどうやって感染するのですか?

A:このウイルスの感染経路はほとんどが経口感染で、次のような感染様式があると考えられています。

  1. 汚染されていた貝類を、生あるいは十分に加熱調理しないで食べた場合
  2. 食品取扱者(食品の製造等に従事する者、飲食店における調理従事者、家庭で調理を行う者などが含まれます。)が感染しており、その者を介して汚染した食品を食べた場合
  3. 患者のふん便や吐ぶつから二次感染した場合 また、家庭や共同生活施設などヒト同士の接触する機会が多いところでヒトからヒトへ直接感染するケースもあるといわれています。

Q3:ノロウイルスによる食中毒は、日本でどのくらい発生していますか?  

A:厚生労働省では平成9年からノロウイルスによる食中毒については、小型球形ウイルス食中毒として集計してきました。平成 14年の食中毒発生状況によると、小型球形ウイルスによる食中毒は、事件数では、総事件数1850件のうち268件(14.5%)、患者数では総患者数 27,679名のうち7,961名(28.8%)となっています。 病因物質別にみると、サルモネラ属菌(465件)、カンピロバクター・ジェジュニ/コリ(447件)に次いで発生件数が多く、患者数では第1位となっています。

過去5年間の発生状況は次のとおりです。

平成10年 平成11年 平成12年 平成13年 平成14年
事件数(件) 123 116 245 269 268
患者数(名) 5,213 5,217 8,080 7,358 7,961

なお、最近の学会等の動向を踏まえ、平成15年8月29日に食品衛生法施行規則を改正し、今後はノロウイルス食中毒として統一し、集計することとしたところです。

Q4:ヒトへのノロウイルスの感染は、海外でも発生していますか?

A:ノロウイルスは世界中に広く分布しているとされ、アメリカ、イギリス、ニュージーランド、オーストラリア、フランス、スペイン、オランダ、アイルランド、スイスなどでヒトへのノロウイルスの感染が報告されています。

Q5:どんな時期にノロウイルス食中毒は発生しやすいのですか?

A:我が国における月別の発生状況をみると、一年を通して発生はみられますが11月くらいから発生件数は増加しはじめ、1?2月が発生のピークになる傾向があります

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
平成10年 47 16 16 2 9 1 1 0 0 3 9 19
平成11年 12 17 12 12 5 3 2 2 0 3 10 38
平成12年 70 45 45 13 4 4 3 0 3 3 10 45
平成13年 87 72 25 9 7 5 2 0 1 5 14 42
平成14年 61 62 37 12 9 11 2 1 1 3 13 56

Q6:ノロウイルスに感染するとどんな症状になるのですか?

A:潜伏期間(感染から発症までの時間)は24?48時間で、主症状は吐き気、嘔吐、下痢、腹痛であり、発熱は軽度です。通常、これら症状が1?2日続いた後、治癒し、後遺症もありません。また、感染しても発症しない場合や軽い風邪のような症状の場合もあります。

Q7:発症した場合の治療法はありますか?

A:現在、このウイルスに効果のある抗ウイルス剤はありません。このため、通常、脱水症状がひどい場合に輸液を行うなどの対症療法が行われます。

Q8:診断のためにどんな検査をするのですか?  

A:このウイルスによる病気かどうか臨床症状からだけでは特定できません。ウイルス学的に診断されます。通常、患者のふん便や吐ぶつを用いて、電子顕微鏡法や、RT-PCR法などの遺伝子を検出する方法でウイルスの検出を行い、診断します。ふん便には通常大量のウイルスが排泄されるので、比較的容易にウイルスを検出することができます。

Q9:生カキが食中毒の原因として多いと聞きましたが、本当ですか?  

A:このウイルスによる食中毒の原因食品として生カキ等の二枚貝あるいは、これらを使用した食品や献立にこれらを含む食事が大半を占めています。カキなどの二枚貝は大量の海水を取り込み、プランクトンなどのエサを体内に残し、出水管から排水していますが、海水中のウイルスも同様のメカニズムで取り込まれ体内で濃縮されます。いろいろな二枚貝でこのようなウイルスの濃縮が起こっていると思われますが、われわれが二枚貝を生で食べるのは、主に冬場のカキに限られます。このため、冬季にこのウイルスによるカキの食中毒の発生が多いと考えられます。

Q10:カキを調理する際、どのようなことに注意すればよいですか?  

A:このウイルスは、主にカキの内臓特に中腸腺と呼ばれる黒褐色をした部分に存在しているので、表面を洗うだけではウイルスの多くは除去できません。また、カキを殻から出す時あるいは洗う時には、まな板等の調理器具を汚染することがあるので、専用の調理器具を用意するか、カキの処理に使用したまな板等は、よく水洗あるいは熱湯消毒等を行った後、他の食材の調理に使用することなどにより、他の食材への二次汚染を防止することが重要です。さらに、カキを調理したあとは手指もよく洗浄、消毒してください。

Q11:「生食用カキ」と「加熱加工用カキ」がありますが?  

A:生食用カキについては、その消費形態から、より高い安全性が必要であるため、食品衛生法第7条第1項の規定に基づき、食品、添加物等の規格基準(昭和34年12月28日厚生省告示第370号)において、微生物に関する成分規格、採取する海域や加工処理の衛生要件等に関する加工基準、保存温度等の保存基準が定められており、これら規格基準に適合したものだけが「生食用カキ」として市場に流通し、それ以外は「加熱加工用カキ」として流通します。このように、「加熱加工用カキ」は、生食することを想定した処理をしていませんので、新鮮なものでも絶対に生食しないで下さい。また、十分に加熱して喫食するようにして下さい。

Q12:カキ以外にどんな食品が原因となっていますか?

A:カキ以外にもウチムラサキ貝(大アサリ)、シジミ、ハマグリ等の二枚貝が食中毒の原因食品となっています。また、カキや二枚貝を含まない食品を原因する食中毒も発生しています。これらは、感染した食品取扱者を介して食品が汚染されたことが原因と考えられます。

Q13:食品中のウイルスを失活化するためには、加熱処理が有効とききましたがどのようにすればよいですか?

A:ノロウイルスの失活化の温度と時間については、現時点においてこのウイルスを培養細胞で増やす手法が確立していないため、正確な数値はありませんが、同じようなウイルスから推定すると、食品の中心温度85℃以上で1分間以上の加熱を行えば、感染性はなくなるとされています。

<加熱前と加熱(85℃1 分)後のカキの状態>

85℃1分の加熱により、カキの内臓部分は完全に凝固します。

Q14:手洗いはどのようにすればいいの ですか?

A:食品取扱者は常に爪を短く切って、指輪等をはずし、石けんを十分泡立 て、ブラシなどを使用して手指を洗浄します。すすぎは温水による流水で十分に行います。石けん自体にはノロウイルスを直接失活化する効果はありませんが、手の脂肪等の汚れを落とすことにより、ウイルスを手指から剥がれやすくする効果があります。

Q15:調理台や調理器具はどのように殺 菌したらいいのですか?

A:ノロウイルスの失活化には、エタノールや逆性石鹸はあまり効果がありません。ノロウイルスを完全に失活化する方法には、次亜塩素酸ナトリウム、加熱があります。  調理器具等は洗剤などを使用し十分に洗浄した後、次亜塩素酸ナトリウム (塩素濃度200ppm)で浸すように拭くことでウイルスを失活化できます。また、まな板、包丁、へら、食器、ふきん、タオル等は熱湯(85℃以上)で1 分以上の加熱が有効です。

Q16:患者のふん便や吐ぶつを処理する際に注意することはありますか?

A:ノロウイルスが感染・増殖する部位は小腸と考えられています。したがって、嘔吐症状が強いときには、小腸の内容物とともにウイルスが逆流して、吐ぶつとともに排泄されます。このため、ふん便と同様に吐ぶつ中にも大量のウイルスが存在し感染源となりうるので、その処理には十分注意する必要があります。

患者の吐ぶつやふん便を処理するときには、使い捨てのマスクと手袋を着用し汚物中のウイルスが飛び散らないように、ふん便、吐ぶつをペーパータオル等で静かに拭き取ります。おむつ等は、できる限り揺らさないように取り扱います。

ふん便や吐ぶつが付着した床等は、次亜塩素酸ナトリウム(塩素濃度約 200ppm)で浸すように拭き取ります。拭き取りに使用したペーパータオル等は、次亜塩素酸ナトリウムを希釈したもの(塩素濃度約1000ppm)に 5?10分間つけた後、処分します。

また、ノロウイルスは乾燥すると容易に空中に漂い、これが口に入って感染することがあるので、吐ぶつやふん便は乾燥させないことが感染防止に重要でです。

11月頃から1月の間に、乳幼児の間でノロウイルスによる急性胃腸炎が流行します。この時期の乳幼児の下痢便および吐ぶつには、ノロウイルスが大量に含まれていることがありますので、おむつ等の取扱いには十分注意しましょう。

Q17:食品取扱者の衛生管理で注意すべき点はどこでしょうか?

A:ノロウイルスによる食中毒では、患者のふん便や吐ぶつがヒトを介して食品を汚染したために発生したという事例も少なくありません。ノロウイルスは少ないウイルス量で感染するので、ごくわずかなふん便や吐ぶつが付着した食品でも多くのヒトを発症させるとされています。

下痢やおう吐等の症状がある方は、食品を直接取り扱う作業をさせなようにすべきです。 また、このウイルスは下痢等の症状がなくなっても、通常では1週間程度長いときには1ヶ月程度ウイルスの排泄が続くことがあるので、症状が改善した後も、しばらくの間は直接食品を取り扱う作業をさせないようにすべきです。

さらに、このウイルスは感染していても症状を示さない不顕性感染も認められていることから、食品取扱者は、その生活環境においてノロウイルスに感染しないような自覚を持つことが重要です。たとえば、家庭の中に小児や介護を要する高齢者がおり、下痢・嘔吐等の症状を呈している場合は、その汚物処理を含め、トイレ・風呂等を衛生的に保つ工夫が求められます。また、常日頃から手洗いを徹底するとともに食品に直接触れる際には「使い捨ての手袋」を着用するなどの注意が必要です。

調理施設等の責任者(営業者、食品衛生責任者等)は、外部からの汚染を防ぐために客用とは別に従事者専用のトイレを設置したり、調理従事者間の相互汚染を防止するためにまかない食の衛生的な調理、ドアのノブ等の手指の触れる場所等の洗浄・消毒等の対策を取ることが適当です。

Q18:感染が疑われた場合、どこに相談 すればいいのですか?

A:最寄りの保健所やかかりつけの医師にご相談下さい。

<参考文献及びリンク>

国立感染症研究所感染症情報センター

病原微生物検出情報(月報):IASR

http://idsc.nih.go.jp/iasr/24/286/inx286-j.html

感染症発生動向調査週報:IDWR 感染症の話

http://idsc.nih.go.jp/kansen/k01_g1/k01_08/k01_8.html

米国 CDC

http://www.cdc.gov/ncidod/dvrd/revb/gastro/norovirus.htm

<Q&Aを作成するにあたって御協力を頂いた専門家> (50音順)

品川 邦汎先生 (岩手大学農学部教授)

武田 直和先生 (国立感染症研究所ウイルス第二部第一室長)

西尾  治先生 (国立感染症研究所感染症情報センター第六室長)


  1. 宮崎 敦:解説-ノロウイルス-二次感染拡大に注意病院などの衛生管理重要;読売新聞,第46273号,2005.1.14.
  2. http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/kanren/yobou/040204-1.html,2005.1.16.
  3. ノロウイルス(Norovirus)感染防止対策;株式会社オーやラックス,2005.1.
  4. ウイルスによる感染性胃腸炎について;Y’sLetter No.21(吉田製薬株式会社),2004.9.1.
  5. 山口恵三:厚生労働科学研究費補助金医薬安全総合研究事業「院内感染を防止するための医療用具及び院内環境の管理及び運用に関する研究?プリオン及びウイルスに汚染された医療用具の感染防止策」;平成13年度研究事業
  6. 出雲正剛・他監修:日本語版サンフォード感染治療ガイドブック第34版;ライフサイエンス出版,2004
  7. 大里外誉郎・編集:医科ウイルス学 改訂第2版;南江堂,2002

捏造-テレビ屋体質に由来する事件

水曜日, 8月 15th, 2007

健康娯楽番組”が放映されると、それに関連した問い合わせを受けることが多いので、時間があれば見るようにしている。従って納豆ダイエットの放送についても見ていたが、途中から何を阿呆なことをいっているんだということで、“ながら族”を決め込んでしまったので、記憶は断片的であるが、これでまた明日は店頭から納豆が無くなるぞと思ったことだけは確かである。

案の定、翌日から納豆騒ぎは拡大していったが、その拡大騒ぎが、番組の欺瞞を暴く結果になったのは皮肉である。

さて、フジテレビ系の情報番組“発掘!あるある大事典II”で放送された納豆で減量という放送が、実は実験結果を捏造した大嘘であることが明らかになった。

続いて味噌ダイエットも捏造、レタス快眠も改竄、ワサビの若返り効果、レモンダイエットも実験結果や専門家のコメントを歪曲して放送したことが明らかになり、強引な実験や取材がほぼ日常的に行われていた疑いが強まったという。

週刊誌の疑念に基づく取材から明らかになった結果が、連日マスコミを賑わせていた。しかし、“健康情報番組”等と報道しているが、それがそもそも間違いであれは単なる”健康娯楽番組”でしかない。それが証拠に番組の進行は、医療関係者ではなく、タレントであり、進行しているタレントは、書かれている台本通り何の疑念もなく進めているに過ぎない。

第一何処まで信頼できる根拠に基づいて放送されているのか、それを確認する手だては示されていない。最もらしい専門家の声も聞こえてくるが、動物実験の結果をそのまま人に外挿するような話をされたとしても信用できる訳がない。

まして、永年の努力の成果?として溜め込まれた体脂肪が、何の努力もなしに、納豆や味噌汁でどうして減らすことが出来るのか、考えただけで分かりそうなものである。太るか太らないかは、食物の摂取と消費のバランスの問題で、消費を超える摂取が行われれば間違いなく太るのである。瘠せたければ消費量を増大し、収支をマイナス側に傾けない限り期待は裏切られる。

今回の納豆問題、別に納豆に責任があるわけではない。偶然対象として選ばれただけで、納豆にすればいい迷惑だということである。第一、毎週毎週健康に関する問題を放送すること自体無理なのではないか。最も土日以外毎日最もらしい娯楽的健康問題を放送をしている番組もあるが、あれほど乱発したのでは、科学的な検証の時間をとることは出来ないのではないか。更に毎週の放送では、選択する課題に追い詰められ、針小棒大な放送をでっち上げることになってしまう。

ところで不思議なのは、毎回の放送で、尤もらしい御高説を述べていたいわゆる専門家と称する方々は、放送内容を見てどう対応されていたのか。自分の研究結果と異なった結果になっていたとすれば、当然抗議すべきで、もしテレビ局がその抗議に対応しなかったとすれば、学術雑誌等に”健康娯楽番組”の欺瞞について書くぐらいのことは出来たはずであり、それが専門家としての責任の取り方ではなかったのか。

何れにしろ番組の制作を孫請けに丸投げしているという、今のテレビ放送局のありようも、根本的に考えるべきだと思われる。

ところで納豆が番組で取り上げられる度に、気になるのが『warfarin potassium』を服用中の方々についてである。warfarin potassiumを服用中の方は、例え納豆が大好きであっても薬との相互作用の関係で、納豆の摂取を避けなければならないということになっている。

納豆を摂取して減量が可能などということをテレビが放送する度に、この方々が納豆を摂取したくなりはしないかと心配するのである。服用している薬によっては、世間一般で何気なく食べている食べ物が差し障ることもあるので、食べ物に関するお祭騒ぎだけはは止めてもらいたいものである。

(2007.2.12.)

何のためのリハビリ期間の制限なのか

水曜日, 8月 15th, 2007

鬼城竜生

1998年11月20日の夕、千葉県勝浦に釣りに行く予定で、友人の車で出かけたが、翌早朝、山中の下りの急坂で側溝に前輪を噛まれ、車が逆立ちした。後部座席に座っていた当方は、左腕をドアの突起部で強打し、左上腕の複雑骨折で21日に即入院が決まった。

その週の日曜日に、茨城で講演を依頼されており、取り敢えず、一時退院を願い出たが、貴方が考えているほど簡単な骨折ではなく、どうやればこういう折れかたになるの分からんような骨折だといわれてやむなく後輩に資料を渡して代人に立てもらった。

入院後10日前後は腕に錘を付けて懸垂状態で安静ということでベッドの上で座って過ごし、最終的に手術をしたが、年齢的な問題もあり、経過が長引けば、後のリハビリが大変だという話をきかされた。

手術後、リハビリを受けることになったが、僅かな期間で、これ程躯が動かなくなるのかと、呆れるくらい、腕は動かなくなっていた。

理学療法士の処方に従って、一つ一つ腕を動かす運動を消化していったが、リハビリというのは、明らかに理学療法士の熱意と技術、更には患者自身の回復したいという熱意に依拠する部分が多い。つまり患者側の断固として元に戻るという強固な意志がないと、きついという思いだけが先行して回復は上手く行かない。

リハビリを受けている期間に、機能訓練室で出会った患者がいる。最初は車椅子の上で、ただ呼吸をしている物体、この患者にリハビリなんぞするのは無理ではないかと思って見ていた。

但し、半年後に出会ったときには、機能訓練室の歩行訓練用平行棒に掴まって歩いている彼は別人のようになっていた。勿論まだ完全に回復しているわけではない。しかし、あの物体のような肉体が、完全に人間の型を取り戻していた。

永年病院に勤務していたが、こんな驚異的な状況に初めて遭遇した。その時、病院の中で比較的地味な存在の機能訓練室の重要性を改めて認識した次第である。

ところで厚生労働省は、2006年4月以降、リハビリ治療について最大180日とする日数制限を導入した。全国保険医団体連合会(保団連)は 10月26日、4月からのリハビリ治療制限に関連して、20都府県の228医療機関の脳血管疾患患者6,873人がリハビリを打ち切られたとする調査結果をまとめた[東奥日報,2006年10月26日(木)]。

保団連は「日数制限は矛盾に満ちた制度で撤廃するべきだし、現在困っている患者救済のため除外規定の拡大や基準の明確化をすぐ行ってほしい」としている。

調査は制限日数に達した先月28日から今月24日まで、リハビリ関係の専門職の配置が手厚い医療機関に絞って実施した。

脳血管疾患患者について厚生労働省は「改善の見込みがあると医師が判断した場合」は制限の対象外としているが、基準が不明確なため、ほとんど打ち切っている医療機関がある一方、医療費の審査支払機関から診療報酬明細書(レセプト)が戻されるのを覚悟の上で保険請求しているところもあり、対応に苦慮しているという。

新聞報道に因れば、

制度変更の狙いについて、厚労省は「必要な人へのリハビリを質量とも厚くし、機能維持だけが目的のケースは介護保険でみる役割分担を明確にした。医療費圧縮が目的でない」と説明する。一方、患者側は「医療費削減のため、弱者が狙い撃ちされた」といきどおる。患者には十分な説明もなく実施されたのが実態のようで、医療現場はかなり混乱している。リハビリ治療はこれまで必要に応じて受けられた。ところが、厚労省の研究会は

  1. 重点的に行われるべき発症後早期のリハビリが十分でない。
  2. 長期間、効果の明らかでないリハビリが行われている。
  3. 医療から介護への連続するシステムが機能していない。

などの問題点を指摘した。反省を踏まえ、効果が望めないリハビリを長期間続けるより、早い時期に専門的、重点的に訓練を受ける方が有効だとして、その狙いに沿って診療報酬が改められた。

  1. 1日当たりのリハビリ時間の上限を2時間(従来は1時間20分)まで延長。
  2. 1人の療法士が複数の患者に対して行う集団療法を廃止して1対1の個人療法だけを認めた。
脳血管疾患 180日
上・下肢損傷 150日
肺疾患 90日
心疾患 150日

上記の期間以上に医療リハビリを望む場合は、全額自己負担となる。ただ失語症、脳機能障害、関節リウマチなど数十の疾患は制限から除外された。厚労省は「症状が固定し、機能維持だけを目的とする患者は介護保険で対応する」としている。この場合、要介護認定を受け、通所リハビリ施設などを利用しなければならない。[毎日新聞 2006年7月19日]

患者は個々に症状が違う。ただ、リハビリを受けた経験から言えば、固まってしまった筋肉や筋を強制的に動かそうと言うのである。最初の一歩は、それこそ何でこんな事をやらされなければならないのかという所から始まる。この時の理学療法士の対応の仕方が、後々響いてくる訳で、更に進捗状況は、患者個々によって異なるはずである。機械的に期間を決めて打ち切るのではなく、現場の判断に任せるべきではないか。更に重症度は現場の担当者でなければ分からない。人間の治療は、機械的に割り切ればいいというものではない。まして人は好きで病気になるわけではなく、怪我をするわけではない。何等かの回り合わせでそうなっただけで、可能性のある限り治療はじっくりさせるべきである。

(2006.11.11.)

なぜ、海外から出稼ぎ看護婦を導入しなければならないのか

水曜日, 8月 15th, 2007

鬼城竜生

経済同友会は2004年4月5日、医師や医療機関の診療成績の情報開示を義務づけるとともに、看護師など医療従事者の海外からの受け入れ、医療機関への株式会社の参入などを求める医療改革の提言を発表した。患者が納得し、受けたい医療サービスを選択できる制度や医療関係者のサービス向上への努力が報われる制度を作っていくのがねらい。

診療成績の公開は、行政や所属医療機関による処分歴、高度先進医療を担う機関の手術件数などから始め、最終的には治癒率、生存率、再入院率なども公開していく。看護師の受け入れ国は、当面は自由貿易協定交渉で協議しているフィリピンを想定し、合意へ向けた環境整備を求めている。

提言はこのほか、インフォームド・コンセントやカルテ閲覧権などを明記した患者権利法の制定、医療事故紛争に対して中立的判断を行う国税不服審判所のような行政組織の設置なども求めている。

ところで経済同友会は、何故に看護師等医療従事者の海外からの受け入れなどと云っているのであろうか。就業する看護師の数が少ないことに危機感を持って、海外からの看護師導入を提言しているのだとすれば、藪睨みもいいところである。看護師の資格を持ちながら就労していない看護師を掘り起こせば、国内の看護師の不足などということは起こり得ない。

しかし、未就労の看護師を医療現場に再度引き出すためには、労働条件の改善が絶対の必要条件なのである。夜勤の回数の多さ、勤務時間の長さ、連続する緊張感、これらの圧力に耐えられず燃え尽きてしまう。大都会の総合病院での看護師の平均勤続年数がその実態を如実に示している。 経済同友会が云うべきは、看護師の労働条件の改善であり、看護師が要望している三人夜勤、四人夜勤で6日以内を早急に実施すべしという提言なのである。

それとも今回の提言は、表向き国内医療の改善を目指しているように見えるが、本心は海外市場確保のため、東南アジア各国の労働者に働く場所を確保しようという魂胆だけなのかも知れない。

国内で働く看護師の数について、2001年に厚生労働省がまとめた数字が、次の通り報告されている。

看護職員数113万4000人・年間約4万人増加

1999年3月末時点で就業している看護職員数は約113万4000人で、前年から約4万人増えたことが2001年1月 19日の厚生労働省のまとめでわかった。看護職員の養成では、3年課程で大学の養成数が増える一方、准看護婦養成所の1学年定員数は約1万9000人となり、2万人を割り込んだ。

厚生労働省によると、1999年3月末で就業している看護婦・士は65万 5094人で、前年3月末から約4万3000人増加。准看護婦・士は41万3996人と4000人減り、計106万9090人になった。保健婦・士は4万 113人と4万人を突破、助産婦は2万4654人になり、看護職員数は計113万3857人、約4万人増加した。

また、3年課程と2年課程を合わせた看護婦の学校・養成所数は1085施設(2000年4月)で2施設減少。1学年当たり定員数は5万2027人と、620人減った。3年課程では、大学が75施設から84施設に増え、1学年定員数も5950人に増加している。

養成所は513施設と7施設増えたが、1学年定員数は280人減り、2万 3544人になった。准看護婦は養成所と高等学校衛生看護科を合わせて529施設と17施設減少。養成所だけで16施設減り、1学年定員数は1716人減の1万9335人になった。1学年定員数は計2万6470人、1830人減で減りが目立つ。

ところで小泉純一郎首相は2004年11月29日、訪問中のラオスでフィリピンのアロヨ大統領と会談し、日本におけるフィリピン人看護師・介護福祉士の就労受け入れを盛り込んだ自由貿易協定(FTA)などについて大筋で合意した。 その中には日本の国家資格を取得することを前提に

  1. 一定の要件を満たした看護師・介護福祉士候補者の入国
  2. 日本の国家資格を取得するための準備活動としての就労
  3. 国家資格を取得した後の就労 を容認することなどが盛り込まれている。

これを受けて厚生労働省は12月1日、候補者の入国要件等の一覧を自民党厚労部会に報告したとしている。

看護師     介護福祉士
国家試験受験 養成施設入校
目的 看護師国家資格取得と取得後の就労 介護福祉士国家資格取得と取得後の就労
在留 資格     2国間の協定に基づく特定活動(入管法上新たに創設)
在留内容 雇用契約
(日本国内の病院で就労)
雇用契約(日本国内の介護関連施設で就労) 養成施設在籍→修了・資格取得後は雇用契約
期間等 ・資格取得前:看護師3年、介護福祉士4年(養成施設入校の場合は、養成課程終了に必要な期間)が上限。
・不合格・資格不取得の場合は帰国。・資格取得後:在留期間上限3年、更新回数の制限なし。
・労働市場への悪影響を避けるため、受け入れ枠を設定。
要件 ・フィリピン看護師資格保有者
・看護師経験
・6ヵ月間の日本語研修等(※)
・日本人と同等の処遇
・「フィリピン介護士研修終了者(TESDAの認定保持)+4年制大学卒業者」又は「看護大学卒業者」・6ヵ月間の日本語研修等(※)
・日本人と同等の処遇
・4年制大学卒業者
・6ヵ月間の日本語研修等(※)又は日本語検定2級
送出調整機能 政府関係機関(フィリピン海外労働者雇用庁 [POEA])
受入調整機能 福祉・医療関係団体

※海外技術者研修協会(経済産業省)及び国際交流基金(外務省)が実施。「等」には看護、介護研修を含む。

病気は人間にとって最も弱い状態である。病人の気持ちを理解し、的確に対応するためには、病人の言い分を十分に聞かなければならない。生活習慣が異なり、言葉の正確な理解が難しいと思われる外国人の看護師に、日本人の患者の気持ちを理解することが出来るのか。工場で製品を作るようなわけにはいかない。 病院で働く看護師の過酷な労働条件を改善し、潜在的な看護師を掘り起こすことが先ではないのか。安直な外国人看護師・介護福祉士の導入には反対だと云わざるを得ない。

(2004.12.28.)


  1. 社団法人経済同友会:http://www.doyukai.or.jp/policyproposals/list2003.html,2004.8.18.
  2. NEWS 対フィリピンFTA-看護師などの受け入れで合意;日本医事新,No.4207:72(2004.12.11)

何か違うんじゃないか

水曜日, 8月 15th, 2007

嘗て『ゾロ』と呼ばれていた薬がある。先発品の特許切れを待って、それこそ雨後の竹の子のようにゾロゾロ出てくる状況を比喩していった言葉であるが、言い得て妙である。当然、中には製剤技術の稚拙な会社もあり、溶出試験の結果、先発品との比較で、後れを取るものもあり、服用した患者の糞便中に原形のまま排泄されてしまったなどという話しも聞こえてきた。

時代は変わり『医療費の総枠抑制』という流れの中で、2002年以降、厚生労働省はいわゆるgeneric(一般名商品)の使用を推進する方策を採り始めた。

2002年3月 国会予算委員会で、坂口厚生労働大臣から国公立病院での後発品使用を促進する発言
2002年4月 診療報酬改訂で後発品使用促進の点数化(処方点数2点の加算)新設。-院外処方で後発品を含む処方をした場合に加算。
2002年6月 厚生労働省-後発品使用の促進化を国立病院へ通知。-患者への薬の処方に際し、後発品があれば必ず使用を検討するよう要請。
2003年4月 DPCに基づく包括支払制度を特定機能病院に導入-包括部分のコスト削減が病院経営の視点で重要性を増し、結果として後発品への変更が促進。
2004年4月 民間病院を含む一部医療機関にDPCの試行的拡大-厚生労働省本格的な民間病院への拡大を期待

一方、業界側も2003年9月23日に国立病院東京医療センターにおいて『日本ジェネリック研究会』の発足シンポジウムを開催している。

ところで最近の一般紙に、genericの意見広告が、全紙版で掲載されていたが、何か方向性が違うのではないかという違和感が残った。長年の下積み生活で、日の当たるところにでた経験のない役者が、いきなり舞台照明を当てられたのと同じで、我が時至れりと勇み立つのは分からぬでもないが、医療関係者が期待しているのは、実力の分からない役者を、派手な宣伝だけで、あたかも名優に見せかけるような虚構ではない。

今、genericに取って必要なことは、地道に資料を揃える努力である。悪いが大衆向けに、派手な宣伝を打つ話しではない。同じ金を使うなら、先発品を対照とした自社製品の体内動態値の比較試験や市販後調査の強化による副作用情報の収集等に使うべきで、第三者が評価するに足る資料を積み上げる努力なのである。

現在、厚生労働省は、先発品とgenericの同等性を証明する手段として、溶出試験を義務づけ、その結果を“オレンジブック”として公表している。しかし、溶出試験の結果から、生物学的同等性を証明することには、チョィト無理があるといわなければならない。生身の人間には種々の変異性がみられ、機械的な試験の結果が即ヒトには外挿できない。特に医師に対しては、溶出試験の結果をみて先発品とgenericとの同等性を認知しろなどといったところで、納得するわけはないのである。臨床医は、常に生身の人間を相手にしているから臨床医なのであって、生身の人間で効くのか効かないのか、生身の人間で副作用が出るのかでないのか等が問題になるのである。

上っ面な局面のみに眼を向けず、地道に資料の集積を続ける企業が、最終の勝利者となるのは、genericの世界とはいえ、究極の真理である。

(2004.7.8.)

何かおかしくはありませんか

水曜日, 8月 15th, 2007

魍魎亭主人

 既に旧聞に属するが、「病院・診療所・薬局における覚醒剤原料の取扱について」(Q&A)が、平成11年2月に、厚生省医薬安全局麻薬課から発行された。

これはたぶん新たに発売された「セレギリン」を対象として発行されたものと考えられるが、その問18に「医薬品である覚せい剤原料を服用している入院患者が死亡した場合、病棟に保管されている残余は、どのように処理すればよいのですか。」といものがある。その回答として「返却された医薬品である覚せい剤原料は、廃棄する(廃棄届は必要です。)か、又は汚染がなく品質等に問題がない場合は、他の患者に使用しても差し支えありません。」という項がある。

この文書を読む限り、死亡した患者に処方された『覚醒剤原料』は、そのまま他の患者に流用してよいと読めるが、果たしてそれで問題はないのだろうか。

かって病棟から返戻された薬を、勿体ないという単純な理由から、他の患者に流用していた施設が、マスコミに取りあげられ、一度患者に処方して、患者に所有権が移行した薬を、他の患者に流用するのは、医薬品費の二重取りだということになり、厚生省も好ましくないという判断を示したはずである。

もし、今回の事例で、この二重取り問題を回避するとすれば、取りあえず回収した薬は医事課に連絡し、回収残薬の医薬品費を患者家族に返戻するという作業が必要であり、甚だ面倒な手続きを経由しなければならない。まして国立病院の場合、一端納入した金額は簡単に返せないという仕組みになっている。それとも『覚醒剤原料』にかぎっては、二重取りは問題はないと考えているのか、それとも金の出し入れに関する国の仕組みを、簡素化するとでもいうのであろうか。

更に問題なのは『覚醒剤原料』については、病棟で1錠無くしても届を出せという位、厳しい管理を求めている。しかし、この解答を素直に読めば、廃棄するときは廃棄届がいるが、他の患者に流用する際には、何もしなくていいように読める。

だが常識的に考えれば、受払の帳簿に記載のない『覚醒剤原料』を使用するわけにはいかない。従って、入院患者死亡による受入であれ、廃棄しない場合、受入の記載をしなければならないことになるはずである。手続きにかかる諸経費と廃棄することの経費とでは、差し引き幾らになるのか。

[2000.10.4]

何処かおかしくありませんかね

水曜日, 8月 15th, 2007

鬼城竜生

花粉症の治療を受けた子供の処方せんに、点鼻薬が書かれていたにもかかわらず、点眼薬が調剤され、薬局で誤薬の確認をされたときの経緯。

対応した薬剤師が、ヘラヘラ笑いながら「あぁ、間違っていますね」というので、「何かおかしいですか?」詰問するようなやりとりになった。さらに薬袋に書いてある薬剤師名と、実際に薬を渡した薬剤師(=調剤した薬剤師も同じと思うとのこと)の名前が違うことを指摘すると、「うちのチェーンはそういうシステムです」との回答であった。説明を聞くと、そのチェーンでは、

  1. 誰が調剤・投薬しても決まった人の印鑑を押す。
  2. 当日にその決まった人がいなくてもその人の印鑑を押す。

というシステムだそうだが、このシステムに問題はないか。本来、印鑑は調剤した人が、「私が調剤しました」ということが分かるように押すのではないか。 このシステムでは、責任の所在が分からなく、不安に思いました。

[平成16年度 全国医薬分業担当者会議資料(16) 平成17年3月26日 日本薬剤師会 国民・患者から寄せられた意見・駆除など(H16.3.30 -H17.3.10) H17.3.10.「薬の間違えと調剤した人の印鑑について」(患者の家族:電話);薬事新報,No.2403:60(2006)]

患者から調剤過誤を指摘されて”ヘラヘラ笑いながら”薬剤師が対応するという図式は甚だしく理解に苦しむ。子供の嘘がばれて、ヘラヘラしながら言い訳をするという図は理解できないわけでもないが、少なくとも専門職能である薬剤師が、患者から調剤過誤を指摘されてヘラヘラしていられるという神経は、理解の外である。

何処のチェーン薬局か知らないが、一体全体どの様な社員教育をしているのか。少なくとも接遇教育に関しては、零だということが出来る。更に申し上げれば、専門職能である薬剤師が、調剤に関してどの様な姿勢で向かわなければならないかという、基本的な教育さえもが欠落しているといえる。

勿論、調剤に対応する姿勢は、薬学教育の中で教育すべきことである。しかし、実際に患者に直面して行う調剤には、大学の教育とは異なる緊張感が存在する。そういう緊張感の中で、調剤をすることの意味を理解することは、真の専門職能としての自己を確立することに繋がるはずである。つまり調剤過誤は、最悪の場合、患者の生死に関わる問題に発展することを、常に念頭に置いて仕事をする薬剤師を育てるのは、大学ではなく、実際に調剤をする現場なのである。

更に不可解な点は、薬剤師が説明した当チェーンのシステムというやつである。患者の親の聞き間違いでないとすると、『調剤印』に対する考え方が、完全に間違っているといわなければならない。分担調剤をする場合、それぞれの部署で直接調剤に携わった薬剤師が、自らの職能を賭けて押印するのが調剤印であり、薬剤師を日替わりで決めて、その薬剤師の調剤印を押印するなどという行為は、何の意味も持たない。ましてや当人が出勤していない場合でも、構わずに押印するなどという仕組みは、押印する本来の意味を見失っている。

患者に薬を渡す薬剤師と調剤した薬剤師が違うということは、患者あるいは患者家族に薬の説明をしなければならないということを考えれば、より経験のある薬剤師が説明するということで、調剤者以外の薬剤師が窓口業務を行うことに特に問題はない。しかし、患者家族にその点での誤解があるとすれば、薬剤師としての説明義務を果たしていないということである。

チェーン薬局というからには、それなりの規模の薬局であると思われる。当然、薬学生の実習現場となる可能性もあるということである。しかし、調剤に対する不遜とも見える思いあがり、あるいは完全な誤解に基づく仕事をしている薬局は、教育の現場として、絶対に相応しくない。

(2006.1.3.)

どなたか身に覚えのある方は?

水曜日, 8月 15th, 2007

魍魎亭主人

平成16年11月22日の読売新聞夕刊(第46221号)、“わたしの医見”欄に中野区の女性の投稿が掲載されていた。

『先日、夜中に鼻血が止まらず、大学病院の薬局で止血のために薬をもらいました。ところが1日3回、4日間飲み続けても止まらず、近所の開業医に行くと、なんと骨粗しょう症の薬と分かりました。大学病院の薬局へ行くと、間違えた女性が「すみません。薬の場所が変わったから」悪びれもせず言うだけ。薬局の部長の回答にいたっては、「そちらで気を付けてほしい」と無責任でした。別の病院に勤める知り合いの看護師に話すと「そんなことはしょっちゅう。ちゃんと薬の名前を見ないと」と忠告されました。薬は説明書だけでなく、シートの裏にある薬剤名を確認しないと、病気によっては大変なことになるかも知れません。』

匿名ではなく、氏名を公表しての投稿である。その意味では、この内容は真実であるということを前提として、藪睨みの論理を展開したい。

女性=薬剤師と考えるが、「すみません。薬の場所が変わったから」といういい訳は、いい訳にも何もなっていない。もし、薬の場所が変わったというのが事実であったとしても、いい訳にならないということに変わりはない。

現在行われている病院の調剤実務は、殆どの場合、分業方式であり、共同作業である。共同作業を行う際の基本原則は、誰もが間違いなく薬をとることができるようにということから、調剤棚の薬剤の配置は、頻繁に変更してはならないということが第一の鉄則である。

採用中止薬の残薬回収と、それに変わる新規採用薬の充填に留めることにより、多くの薬剤の場所は固定されているはずである。にも係わらず、場所の移動がされていたとすれば、調剤室の管理がおかしいということになる。それにしても薬剤の収納ポケットから薬を取り出す時、薬袋に入れる前に、現物が処方通りであるかどうかを突合するのが当然であり、『自己検収』をしなかったとすれば、専門職能として誤った調剤行為を行ったということになる。

「そちらで気を付けてほしい」という薬剤部長の発言が、もし事実であれば、無責任の謗りを免れない。何のために薬剤部が独立して存在するのか。何のために薬剤師が調剤実務を行っているのか。

薬剤師の調剤行為は、患者の疾病治療が目的であり、患者の安全を確保しつつ、治療に貢献することが最大の眼目である。誤薬あるいは誤調剤は、明らかに患者に悪影響を与える行為であり、少なくとも『長』としての給料をもらっている人間のいうことではない。最近、薬剤部科長の諸氏は、何かというと薬剤師の危機管理責任者(risk manager)としての役割を口にしたがるが、このような無責任な対応をとることが危機管理であるとするなら、それは違うだろう。 更に『知り合いの看護師に話すと「そんなことはしょっちゅう。ちゃんと薬の名前を見ないと」と忠告されました。』となっているが、その看護師は、よほど質の悪い薬剤師の勤務する病院に勤めているのではないかと疑ってしまう。

経験から申し上げても、薬剤師という職種は、あらゆる場面で、誤った薬を患者に渡さない、調剤過誤を起こさないということに鎬を削っているのである。調剤過誤の結果、患者が誤った薬を服用すれば、致命的な事態が起こる可能性もある。患者に実害を及ぼす誤薬を侵せば、それは薬剤師としては致命的な状況に追い込まれることになる。

従っていい加減な気持で実調剤を行う薬剤師はおらず、更に誤薬を避けるために二重、三重の鑑査方式を導入している。ただし、今回の事例は夜間のことであり、当直中の薬剤師が行った調剤行為である。例え大学病院とはいえ、夜間当直中に複数の薬剤師を当直させる余裕はない。

全ての業務を一人の薬剤師が行わなければならないということからいえば、調剤過誤の防止は、徹底した自己鑑査しかない。処方せんを受領し、処方監査を始めた時点から実調剤の終了まで、一つ一つの作業を『指呼』確認することである。 ところで中野区内に大学病院はあったか。ないとすればこの方は何処の大学病院を受診されたのか。たった1回の受診で、調剤過誤に遭遇するという不幸な目に合われたわけだが、身に覚えのある薬剤部長は、その対応等について、検証する必要があるのではないか。

(2004.11.22.)

独法化は万能の免罪符か?

水曜日, 8月 15th, 2007

鬼城竜生

国立医療機関のうちナショナルセンターとハンセン病療養所を除く、154 の国立病院・療養所が、2004年4月1日に独立行政法人に移行する。

移行する施設のうち『国立札幌南病院・東京医療センター・国立宇田野療養 所・国立菊池療養所』の4施設については、4月1日付で調理師業務を全面外部委託するという。現に働いている調理師については、他施設への転勤か、院内で の職種転換か、はたまた、委託業者への就職斡旋もあるというが、委託業者の労働条件が、必ずしも当人の納得いくものとは限らない。

ところで病院で患者にだされる食事は、本来治療の一環を担うものであり、 決してないがしろにすべき性質のものではないはずである。如何に採算性を追求しなければならない独立行政法人化が目前に迫っているとはいえ、医療の本質ま で放棄してしまうということは、国立医療機関としての存在価値を失わせるものであり、国立医療機関として果たすべき役割を見失う行為だといわざるを得な い。

如何に独法化されるとはいえ、国の医療機関としての矜持を忘れてしまった のでは、その存在に意味はない。経営合理化に名を借りて、民間病院並の利潤追求をするのであれば、独法化ではなく、むしろ民間に払い下げる方が分かり易い はずである。

(全日本国立医療労働組合HPより転載)

さて業者に全面的に委託するというが、特別に委託経費が用意されていると いうのではなく、本来患者に提供すべき給食費である『食事療養費』の上前を刎ねるという話である。現在、『食事療養費』の基本金額は三食分として 1,920円。基本金額に『食道利用加算35円』、『減塩食加算350円』等種々の加算額が附加されるとはいえ、あくまで基本は『1,920円』である。

聞くところによれば、1,920円の基本に対して、一般的な下請け単価は 1,400円前後ということである。病院側は500円の差益を掠め取り、下請け業者は材料費を500円程度に抑え込んで利益を上げているということのよう である。病院の出す患者給食は、量も少なく、不味いというのが定説であるが、材料費が500円では、患者の期待する食事を出すことは不可能である。この様 な実体に対して、財務省は、病院が下請けに出すことで濡れ手に粟で儲けている差益の500円を召し上げるための財政措置を検討しているといわれている。

し かし、財務省がやるべきは給食費の切り下げではなく、本来患者にいくべき『食事療養費』の流用こそ注意すべきではないか。更に独法化されるとはいえ、診療 報酬を決める立場にある厚生労働省の病院が、『食事療養費』を本来目的以外に費消する等ということがあってはならないはずである。

病院における患者給食は、あくまで治療食であり、『食事療養費』はその目 的以外に流用することがあってはならないはずである。ただ、甚だ不思議なことは、この問題に対する医師の声が聞こえてこないという点である。ある意味で患 者の食餌療法は、放棄してしまったということなのか。一度正直なところを聞いてみたいものである。

[2003.12.18.]

毒・劇薬の管理について

水曜日, 8月 15th, 2007

厚生労働省は2001年4月23日付で「毒薬等の適正な保管管理等の徹底について」(医薬発第第418号 医薬局長 都道府県知事宛)の通知を発出した。

その中で

『1.管理体制について』として

『毒薬及び劇薬の適正な保管管理等を行うための体制を確立し、維持すること。その際、実際に毒薬及び劇薬の保管、受払い等の業務に従事する者の責任、権限等を明らかにしておくこと

『2.保管管理について』として

  1. 毒薬について『毒薬については、薬事法第48条の規定に基づき、適正に貯蔵、陳列、施錠の保管管理を行うとともに毒薬の数量の管理方法について検討し、これを実施すること。

    また、毒薬の受払い簿等を作成し、帳簿と在庫現品の間で齟齬がないよう定期的に点検する等、適正に保管管理すること。』

  2. 劇薬について 『劇薬についても、薬事法第48条の規定に基づき、適正に貯蔵、陳列を行うこと。

    また、劇薬の受払いを明確化し在庫管理を適切に行う等、劇薬の盗難・紛失及び不正使用の防止のために必要な措置を講ずること。』

『3.交付の制限について』として

『毒薬及び劇薬については、薬事法第47条の規定に基づき、14歳未満の者その他安全な取扱をすることについて、不安があると認められる者については、交付することのないよう留意すること。』

この通知“北陵クリニック”における毒薬投与事件が原因で出された通知であり、それなりに厳しくしなければならないとは思うが、現場から見て、単に業務量を増やすだけのものであれば、誰も守らない。

まず『毒・劇薬の適正な保管管理等を行うための体制を確立し、維持すること。その際、実際に毒薬及び劇薬の保管、受払い等の業務に従事する者の責任、権限等を明らかにしておくこと。』とされているが、薬剤師が配置されている施設では、当然薬剤師が対応すべきことであり、毒薬を使用する必要のある施設では、むしろ薬剤師を配置すべきで、わざわざ遠回しに『業務に従事する者の責任、権限等を明らかにしておくこと』等という必要はないような気がするが、如何なものか。

更にまた、『毒薬の受払い簿等を作成し、帳簿と在庫現品の間で齟齬がないよう定期的に点検』とされているが、『受払い簿等』の『等』は何を指しているのか。その後『帳簿』と続くところを見ると、『帳簿』以外のものは駄目だということなのかどうか。いずれにしろ加除式の帳票では途中で書き換え等の操作をされるため駄目だということであれば、コンピュータでの管理も駄目だということになる。更に『定期的』とは、どの程度の頻度で点検しろとおっしゃっているのか、日常的にあまり動かない薬であれば、問題はないが、繁用される薬剤であれば、定期的な点検の期間によっては、相当に繁雑な作業が求められるということである。

2001年5月29日現在、薬価基準に収載されている毒薬指定の医薬品数は一般名で34品目である。そのうち“塩酸モルヒネ”は麻薬であり、麻薬として徹底した員数管理がされており、重複して毒薬の帳簿に員数を記載する必要はないと考えられる。

また、(2- methoxyisobutylisonitoril)technetium(99mTc)は放射性医薬品であり、これも徹底した員数管理がされており、毒薬の帳簿に重複して記入する必要はないと考えられる。

また、physostigmine salicylate(別名:eserine salicylate)は、原末が薬価収載されているのみであり、眼科用の適応から見て、特に購入する必要のない医薬品だといえる。

残りは31品目であるが、これらの医薬品の『毒薬の受払い簿等を作成し、帳簿と在庫現品の間で齟齬がないよう定期的に点検』をどうするのかということである。

日常的に処方せんで動く薬や、1日に使用する数の多い薬では、相当の努力を要する作業である。

まして劇薬について『劇薬の受払いを明確化し在庫管理を適切に行う等、劇薬の盗難・紛失及び不正使用の防止のために必要な措置を講ずること。』というが、『受払いを明確化』とはどの様なことを想定しているのか。

多くの薬が劇薬に区分されており、処方せんによって外来患者に渡され、入院患者に渡される。調剤は絶対に間違えてはならないという作業であり、処方に記載されている薬剤名と投与総数を確認すれば、在庫との突合は可能だが、これは電脳を利用した処方せんの発生源入力が実施されていなければ、手作業では対応困難である。

何か事件が発生すると、それに伴って厳しい対応が求められるのはいいが、今回の事件は薬剤師不在下での特殊な事例であり、“羮に懲りて膾を吹く”の類に見えるのは、当方の僻目(ひが目)か。

添付文書情報-投与禁忌

水曜日, 8月 15th, 2007

『シトルリン血症の患者の会』で、シトルリン血症と診断された患者に“グリセオール注”が投与され、投与された我が子が死亡したという話がされたようである。現在市販されている“濃グリセリン・果糖”注には投与禁忌として「成人発症IIシトルリン血症」の患者の記載がされている。

患者の家族の声として、大病院の医師が投与禁忌を知らなかったということは問題ではないのかということと、それを受けて、会員の声として「薬剤師も協力して投与禁忌の薬が患者に投与されないようにすべきではないか」とするものがあったという話が聞こえてきた。

「成人発症IIシトルリン血症」という疾患は、希少疾病に属する疾患で、医療関係者の多くが聞いたこともない疾患かもしれない。その希少疾病に投与禁忌の薬剤として“濃グリセリン・果糖”注があるということを医療関係者のどの程度が承知しているのか、甚だ疑問だといわなければならない。確かに厚生労働省は注意を喚起するための文書を流し、添付文書の改訂を指示している。

しかし、多くの場合、添付文書の改訂情報が、医療現場に定着するまでに時間が掛かる。それこそくどいほどに繰り返して情報を流し続けなければ定着しない。まして今回の事例は希少疾病が対象であり、専門医以外はそのような患者を診察する機会があるなどということを考えてもいないのではないか。

薬剤師も同じことである。言い訳をする気はないが、投与禁忌情報や併用禁忌情報はあまりにも多すぎて、記憶で対応する範囲はとうに通り過ぎている。何れにしろブログへの登録情報として、下記の内容のものを公開しておいた。

情報の99%は正確に伝わらないとされている。重篤な副作用や投与禁忌は、対象となる患者にとって最重要な情報であっても、医療関係者にはなかなか伝わらない。特に医師に伝わるまでには一定の時間が必要なようである。

一つには情報が氾濫していること、日常的に使用する薬と希に使用する薬とでは、関心の度合いが異なること、更に問題なのは、医師は新しく使用する薬以外、添付文書情報に眼を向けようとしないということである。何れにしろ病院に勤務する医師は忙しすぎる。診療に携わるだけでなく、院内の各種会議への参加が求められるが、これが最近増えているのである。

その合間に薬の情報に眼を向けるとすれば、極く僅かな時間しかないわけで、情報の徹底は難しい。従って、薬の情報は繰返し、繰返し流さないと定着しないということである。

『濃グリセリン・果糖』を組成とする製剤の商品として

グリセオール注(中外)・グリセノン注(小林製薬)・グリセパックF注(川澄化学)・グリセリンF注(光製薬)・グリセレブ(テルモ)・グリポーゼ注(扶桑薬品)・グリマッケン注(模範薬品)・グレノール注(清水製薬)・ヒシセオール注(ニプロファーマ)

の9品目がある。

残念ながら薬剤師といえども自分の病院で採用している薬以外、商品名をいわれてもそれが『濃グリセリン・果糖』であると認識することは難しい。薬を直接扱わない医師の場合、なおさら使用経験のない商品名をいわれても分からない。

更に問題なのは処方箋(経口薬等)・注射薬処方箋の何処にも患者の病名の記載はされておらず、薬剤師が『服薬指導』で患者と対応しない限り患者の病名は薬剤師には分からないということである。

更に希少疾病に属する成人発症II型シトルリン血症について、専門医以外は殆ど気に掛けてはいないということで、当然、投与禁忌の薬についての知識もないということになる。

この問題を解決するためには、院内のカルテ・処方の管理を全て電子化することが必要である。患者の病名を入力した段階で、“投与禁忌”薬の一覧が画面上に出るようにし、更に医師が処方を記載する際に、“投与禁忌”の薬剤を入力した場合、画面上に警告が出ると同時に、薬剤の変更をしない限り次の操作ができなくなるようにすることである。これは“併用禁忌”についても同様であるが、CPで徹底的な情報管理をしない限り、膨大な薬の情報に対応することは困難である。

現在、『濃グリセリン・果糖』の添付文書に記載されている“効能・効果”は、次のものである。

*頭蓋内圧亢進、頭蓋内浮腫の治療

*頭蓋内圧亢進、頭蓋内浮腫の改善による下記疾患に伴う意識障害、神経障害、自覚症状の改善

脳梗塞(脳血栓、脳梗塞)、脳内出血、くも膜下出血、頭部外傷、脳腫瘍、脳髄膜炎

*脳外科手術後の後療法

*脳外科手術時の脳容積縮小

*眼内圧下降を必要とする場合

*眼科手術時の眼容積縮小

また禁忌(次の患者には投与しないこと)として、次の記載がされている。

  • 『1.先天性のグリセリン、果糖代謝異常の患者[重篤な低血糖症が発現することがある](重要な基本的注意の項参照)』
  • 『2.成人発症II型シトルリン血症の患者(重要な基本的注意の項参照)』

重要な基本的注意(2):成人発症IIシトルリン血症の患者に対して、脳浮腫治療のために本剤を投与して病態が悪化し、死亡したとの報告がある。成人発症IIシトルリン血症(血中シトルリンが増加する疾患で、繰り返す高アンモニア血症による異常行動、意識障害等を特徴とする)が疑われた場合には、本剤を投与しないこと。

『2』が追記された項目であるが、改訂の理由について、厚生労働省医薬食品局安全対策課長通知(平成16年7月21日付)は

『成人発症II型シトルリン血症(以下CTLN2)は、尿素回路の律速酵素であるアルギニノコハク酸合成酵素(以下ASS)の肝細胞における低下(ASS蛋白の量的低下)により高シトルリン血症、高アンモニア血症を来たし、その後、脳症に進展することがある常染色体劣性遺伝性疾患です。

CTLN2患者の脳浮腫治療に本剤を投与し、投与後に脳浮腫の改善を認めずに死亡した、本剤との因果関係が否定できない症例が、国内において 2例報告されました。本剤の投与によりCTLN2の病態を更に悪化させる可能性があることから、[禁忌]及び「重要な基本的注意」の項にCTLN2に関する記載を追記して注意喚起を図ることといたしました』。

“禁忌”記載の根拠となった症例報告は、次記の通りである。

  • [目的]CTLN2患者の脳浮腫治療におけるグリセロール投与の危険性とマンニトール単独投与の有効性について、本症患者3名の治療経験から考察する。
  • [方法]本症患者3名(患者[1]:40歳女性、患者[2]:31歳男性、患者[3]:40歳男性)の脳性浮腫に対する治療経験を検討した。患者[1]、[2]は、脳浮腫発症後グリセロール投与開始後マンニトール投与を追加。患者[3]は脳浮腫発症後マンニトール単独で治療を行った。
  • [結果]患者[1]、[2]ではグリセロール投与後、マンニトール投与を追加しても脳浮腫は改善せず、両患者とも死亡した。患者[3]ではマンニトール投与後、脳浮腫は明らかな改善が認められ救命し得た。
  • [考察]本症における脳浮腫治療には、グリセロールよりマンニトールが有効である可能性がある。シトリンはミトコンドリア膜上において、細胞質内NADH をミトコンドリア内へ移送する機能を有しているが、グリセロール自体の代謝により細胞質内NADHの蓄積を促進させ、本症の病態を更に悪化させる可能性がある。

*NADH:還元型nicotinamide adenine dinucleotide(NAD)

(2007.1.7.)


  1. グリセオール注添付文書,2006.8月改訂
  2. 厚生労働省医薬食品局:医薬品・医療用具等安全性情報,No.204,2004.8
  3. 矢崎正英・他:成人型シトルリン血症(CTLN2)患者の脳浮腫におけるグリセロール投与の危険性;第45回日本精神学会総会プログラム・抄録集,229(2004)
  4. 使用上の注意改訂のお知らせ(グリセノン注);小林製薬工業株式会社,2004.7.