医薬品情報管理学[1]
水曜日, 8月 15th, 2007情報とは何か
情報とは断片的な事柄を蒐集し、評価し、再構築することによって、一つあるいは複数の思考を発展させるための道具である。
又は個々の断片の意味を解析し、集積することによって、自らの意志決定を、あるいは行動の決定をするための判断の材料であるとすることが出来る。
山に降る雨の一粒一粒が、散り積もった腐葉土に染み込み、一定の年限を経て、小さなしたたりとなる。滴りはやがて細流となり、大河へと変貌する。情報とは、その水の流れと同様に、個々に発信された断片が、集積することによって、大河へと変貌する。情報を利用する側は、その膨大な情報の流れの中から情報蒐集のための規則を確立し、自らに役立つ情報を選別し、利用する。しかし、自然の大河が放置すれば、暴走するのと同様に、情報の大河も暴走する。
従って護岸工事をし、ダムを造って流出する水流を調節する。更に、その水を発電に利用する、農業用水に利用する、飲料用水に使用する等、利用目的別に細流化し、奔流を管理しようとする。つまり情報の管理とは、水の管理と同様に、情報の洪水に溺れることを避けるために、如何に歯止めを掛けるかの技術であるとすることが出来る。
従って、医薬品情報の管理を考える場合、その基本となるのはあくまで総合的な情報管理の技術であって、医薬品の情報に限定した固有の管理技術があるわけではない。いってみれば、総合的な情報の集合体であるダムからの放流水の一部を、医薬品に特化して、管理しているに過ぎない。
その意味では、医薬品情報管理学に限定した入門書として特別のものを考えるのではなく、一般的な情報管理学の入門書を読むことを推奨する。
参考までに、情報管理業務を行う際、最初に手にした本は、『梅棹忠夫:知的生産の技術;岩波書店,1969』である。
医薬品とは何か
薬事法第2条に医薬品の定義が記載されている。
(2003年7月30日現在)
- 日本薬局方に収められている物
- 人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされる物であって、器具器械(歯科材料、医療用及び衛生用品を含む。以下同じ。)でないもの(医薬部外品を除く。)
- 人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であって、器具器械でないもの(医薬部外品及び化粧品は除く。)
(2005年施行)
- 日本薬局方に収められている物
- 人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされている物であって、機械器具、歯科材料、医療用品及び衛生用品(以下「機械器具等」という。)でないもの(医薬部外品を除く。)
- 人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であって、機械器具等でないもの(医薬部外品及び化粧品は除く。)
上記は、法律としての医薬品の定義であるが、医薬品情報管理学の立場から見た医薬品は、若干この定義とは異なった視点で見ることが必要である。
医薬品原料として使用されるものとして、鉱物・生物成分・植物成分・魚類を含む海産物成分等の多くの物質と共に、人本来が持っている生物学的機能を利用する方法等も検討されている。
これらの成分を医薬品とすべく、最初に実施されるのが『基礎的研究』である。
従来、我が国で行われてきた漢方治療では、原体そのままを粉末化あるいは浸煎剤等とすることにより医薬品としての利用がされてきたが、現在ではそれらの原体に含まれる成分を単離することによって、より有効な薬物の創製が追求されている。また、構造化学的な分析から新たな化合物が合成され、医薬品としての創製も検討される。
動物実験等を含めた『基礎的研究』の結果を受け、健康人を対象とした『第I相臨床試験』が開始され、人における安全性等の検討が実施される。更にその結果を受けて『第II相前期臨床試験』・『第II相後期臨床試験』が少数の患者群によって実施される。『第II?相臨床試験』では主として安全性・有効性・至適投与量等の確認が行われる。
図2.医薬品情報管理学から見た医薬品
以上の各試験の結果、安全性・有効性の確認がされた段階で本格的に治療薬としての検討をするために『第III相臨床試験」が実施される。
患者を対象として実施される各種の臨床試験は、現在ではGCP(Good Clinical Practice)により規制がされている。これは平成9年3月27日(厚生省令 第28号)『医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令』として法制化された。
臨床試験は『臨床試験成績の信頼性確保』のために『科学的に』、『適正に実施』することが求められており、更に臨床試験結果の信頼性・患者の人権擁護の立場から『Informed consent』(十分に説明された上での患者の自由な意思に基づく同意)を求めるべく、実施する医療機関が遵守すべき事項が厳しく定められている。
医薬品にとって、この各段階は『物』に対する『医薬品』としての情報集積期間であり、各種試験結果の総合的な判定を受けて医薬品としての製造承認がされることになる。
つまり『医薬品』とは、『物』に『付加価値としての情報』が加えられることによって初めて『医薬品』として承認・使用されるもので、薬剤師が医薬品の管理を行うということは、これらの情報を含めて管理するということである。
また、発売された医薬品のうち通常の医薬品については、GPMS(Good Post-Marketing Surveillans)により承認のあった日後原則6年(医療用具は4年)に満たない範囲内において厚生大臣の指定する期間に、市販後調査を実施するよう義務付けられている。また、PMSは『医薬品の市販後調査の基準に関する省令』(平成9年3月10日)として法制化されたが、これらは患者の安全性を確保するための努力義務であり、本質的には医薬品に関する情報の蒐集業務であるということが出来る。
更に平成13年10月1日からは『医療機関において使用される医療用の新薬』について、『市販直後6カ月』の市販後調査が実施されることになっている。
*希少疾病用医薬品及び厚生省令で定める医薬品等では、『その製造の承認のあった日後6年を超え10年を超えない範囲内(医療用具では4年を超え、7年を超えない範囲)』とされている。
以上に述べた観点からしても、薬剤師の業務として『医薬品情報管理業務』があるのは当然であり、従来片手間に行われていた業務が、情報量の増加に伴って、独立・専門化せざるを得なくなったということである。
その意味では全ての医療機関に、『医薬品情報管理室』が設置されるのは当然のことであり、情報管理のために選任の薬剤師が配置されるのは極く当然のことでなのである。
[2001.9.23.作成・2003.5.28.一部改訂]
- 古泉秀夫:医薬品情報管理学[1];THPA,44(3):161-163(1995)
- 財団法人日本公定書協会・編:薬事衛生六法;薬事薬事日報社,1998
- 財団法人日本公定書協会・編:薬事衛生六法;薬事薬事日報社,2003