薬害
水曜日, 8月 15th, 2007魍魎亭主人
薬害に関する訴訟が起こる度に、二度とこのようなことが起こらないように厳正に対応するというのが厚生労働省の言いぐさではなかったのか。現在、血液製剤を経由したC型肝炎ウイルス感染症の患者が国と製造会社を訴えている。大阪地裁判決、福岡地裁判決では、血液製剤のうち「フィブリノゲン製剤(非加熱)」については、国の責任を認め患者側が勝訴した。しかし、同じ感染原因となった血液製剤「クリスマシン」については、国、製造会社に責任はないとする判断が示された。
ところで薬害に関する司法判断の基準は、1995年に出されたクロロキン訴訟の最高裁判決に置かれているという。
『医薬品は本来人体にとって異物であり、副作用は避け難く、医学、薬学分野は知見の変化が著しい。このため効果が副作用(危険性)を上回るかどうか(有用性)は、その時々の医学水準で比較考量して判断すべきである』。つまり国の責任について
- その時点の医学的知見の下で副作用を上回る有用性がある場合は製造承認は適法。
- 副作用防止のため権限を行使しなかったことが著しく合理性を欠く場合は違法。
ということだとされる。
薬害肝炎における九州訴訟では、血液製剤「フィブリノゲン製剤(非加熱)」等について、C型肝炎ウイルス(HCV)感染の危険性が高まって、有用性が否定されたのは何時の段階なのかが問題にされた。福岡地裁は、1978年には、米国・食品医薬品局(FDA)によるフィブリノゲン製剤(非加熱)の承認取り消しが公示され、また、当時の知見としてもフィブリノゲン製剤(非加熱)の有効性に疑問が生じていたのであるから、医薬品の安全性の確保等について、第一次的な義務を有するミドリ十字だけでなく、厚生大臣としても、その詳細を含めた情報を得た上で、フィブリノゲン製剤(非加熱)について調査し、検討を行うべきであった。
この時点において調査、検討を行えば、遅くとも1980年11月までには、有効性及び有用性についての判断を行うことが出来たし、厚生大臣については、仮にそうでないとしても、ミドリ十字に対して緊急安全性情報を配布するよう行政指導すべきであった。
一方、2006年6月21日に行われた大阪地裁判決では、薬害判断の基準を薬事行政の経過に適用した場合、フィブリノゲン製剤(非加熱)の使用による薬害発生の責任は、青森県で集団感染の発生が報告された1987年4月以降に生じると認定した。また、製薬会社に責任が生じるのは、C型肝炎ウイルス(HCV)の感染力をなくすために施した処理法を変更した結果、逆に危険性を高めた1985年8月以降とした。クリスマシンについては、有用性は否定できないとして、賠償責任はどの時点においても認定しなかった。
原告側は、血液製剤の製造が承認された1964年、1976年の時点で、C型肝炎ウイルス(HCV)に感染する危険性やC型肝炎が重い症状になることが知られており、ずさんな方法で承認された製剤に、有用性は確認できないと主張。被告の国側は当時から有用性はあり、違法性や過失はないと反論。
更に肝炎感染の原因となったフィブリノゲン製剤(非加熱)の危険性が明らかになり、製造を承認した国の責任が認定された時期について、大阪地裁判決は「1987年以降」、福岡地裁判決は「1980年以降」と判断が分かれた点について「医薬品行政の根幹に触れる問題だ」と述べたとされている。
何れにしろ医薬品の原料がvirusに汚染されていたことによって、医薬品を使用した結果、思いもしない感染という被害を被ったのである。医薬品原料の微生物汚染を検査することが行われていれば、感染は起こらなかったわけで、国は製薬会社に検査を義務付け、製薬会社が実施するという体制を作っておけば、このようなことは起こりえなかったのではないか。
更に出産時の止血目的で使用した結果感染したなどというのは、当人に何等責任のないことであり、例えそれが医師の適応外使用から始まったとしても、厚生労働省が適応外使用を見過ごしていたのは事実ではないのか。裁判は裁判として、継続するとしても、医療行政としての失敗は失敗なのである。厚生労働省は速やかに救済処置を講じることが求められる。訴訟は訴訟として、治療費の援助をするぐらいのことは、あってもいいのではないかと思うのである。
(2006.9.6.)
- 読売新聞,第46867号,2006.9.1