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薬科大学乱立-即定員割れか

水曜日, 8月 15th, 2007

魍魎亭主人

文部科学相の諮問機関である中央教育審議会(中教審)の試算によると、2007年には『大学全員入学時代』がやってくるという。少子化で大学・短大への進学希望者は2007年度に約699,000人まで減少、全校の合格者数と同数となることが、20日に解ったという。文部科学相の諮問機関である中教審が試算したもので、数字の上では3年後に志願者全員が入学できる『全入時代』に突入するという。

進学率の頭打ちにより、当初予想より2年早まるという。中教審は23日から始まる大学分科会で、8月中にまとめる予定の大学行政などの将来構想である『高等教育のグランドデザイン』の中間報告に反映させる。いずれにしろ各大学は経営の見直しを迫られることだけは間違いない。試算によると、来春は現役の 676,000人に、浪人生を加えた791,000人が大学・短大を志願。これに対し、各校の入学者総数は704,000人とみている。

とはいえ、どうしても入りたい人気の大学はあるわけで、入学試験がなくなるわけではないであろうが、大学によっては定員割れや経営難に拍車がかかり、大学は淘汰の時代を迎えるということである。

ところで、我が陣営を振り返ると、平成15年度には薬科大学2校が新設され、平成16年度に8校が新設の認可を得たという。無闇に薬学部の新設が続いているが、更に平成17年度の新設を目指して、5から7校が平成16年度中に申請を予定しているという。薬科大学が無闇に作られる傾向について、医科大学に比べて安上がりにできる。汚れ仕事ではないということで、女性に人気がある。

薬剤師としての資格を手に入れておけば、何かの時に安心だという保険感覚が、女性の人気を下支えしている。つまりあまり経費をかけずに設立することが可能であり、一方で学生の確保がし易い等々の利点があるため、新たに大学を作るなら薬科大学ということになるようなのである。

さて、2004年5月14日「学校教育法の一部を改正する法律」がに成立した。法案は13日の参議院文教科学委員会で可決された後、翌日の参院本会議に上程、全会一致で可決されたもの。これによって、薬剤師の悲願とされてきた薬学教育6年制の実現が確定した。

また、文科委では採決に際し、13項目(うち薬学教育関連は6項目)の附帯決議が共同提案され、採択された。附帯決議では、4年制と6年制の学部・学科が並立することについて混乱が生じないように、編入制度も活用して弾力的運用に努める措置などを講じるよう政府や関係者に求めた。

学校教育法一部改正法は、医療技術の高度化や医薬分業の進展を背景に、薬剤師養成を目的とする大学学部段階の修業年限を、現行の4年から6年に延長することを趣旨としたもので、2006年4月1日の施行を予定しているとされている。

薬科大学の修業年限が、4年制のままであれば、安上がりな大学ということですむかもしれないが、従来の5割増しの6年制になっても、安上がりな大学等といっていられるのであろうか。内部的には6年分の学生を入れる教室を確保しなければならず、教員も増やさなければならない。外部的には実務実習を行うべき医療機関あるいは薬局を探さなければならない。2年間の修学年限の延長は、医療人としての実務教育の充実が求められてのものであり、医療現場での実習が中心である。

附属病院を持たない単科の薬科大学では、病院実習を実施する医療機関を探さなければならないが、教育機関としての設備、教育体制の確立された施設でなければならない。下手をすれば、嘗ての学生実習同様、安い労働力として使われて終わるという結果になりかねない。

最低限でも300床以上のベッド数をもつ地域中核病院であって、手抜きのない調剤業務はもとより、服薬指導、医薬品情報管理業務、注射薬調剤、院内製剤、実務に即した試験研究等の病院薬局が行うべき業務を十全に実施している医療機関でなければならない。

調剤薬局についても、同時にOTC薬を扱っていなければならず、医師の処方せんに忠実な調剤を実施している薬局でなければならない。患者の私的機密を守ることのできる服薬指導のための区分された区画を持ち、患者のための必要情報を直ちに検索できる仕組みを持った薬局でなければ、学生実習のための場としては相応しくない。

これらの病院薬局あるいは調剤薬局では、教育訓練に習熟した人材の確保がされていなければならず、調剤過誤等に対応するための文書化された危機管理基準が作成されていなければならない。

考えただけでも気の遠くなるような準備が必要であるが、それ以前に受験する側の学生諸君は、4年制から6年制への延長を納得するのであろうか。真に医療人として働きたいという思いのある学生であれば、修学年限の2年間の延長に理解を示すと思うが、単に安全牌として薬剤師免許を取得しようと考えている学生達には、無意味な延長と思われるかもしれない。

つまり従来通り女子学生に人気のある学校ということになるのかということである。

少子化社会を迎え、専門学校を含めた選択肢の広がり、その中での6年制導入である。6年間の勉強の後、薬剤師となった後の待遇がたいしたことはないということになれば、薬学を専攻する学生は限りなく減少する。

新しく設立された薬科大学の多くが、閑古鳥が鳴くような状況になれば、いずれは閉鎖するという事態になりかねない。今後の新規開設は、将来を十分に見通した上で、決定してもらいたいものである。

(2004.7.28.)


  1. 河北新報,2004年07月23日(金曜日)