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名義借りの実体

水曜日, 8月 15th, 2007

魍魎亭主人

国立病院の医師の名義借り問題で、次の報道がされた。

『北海道の国立療養所帯広病院(帯広市)と同八雲病院(八雲町)が札幌医大の医師から「名義借り」をしていた問題で、両病院が給与として計1億2000万円を支出していたことが会計検査院の調べで分かった。

両病院は、名義を借りた医師を、勤務実態が全くないのに常勤医として扱い、給与を支給したことにしていた。この金を、帯広病院は裏金としてプールして医師が学会に出かける際の旅費などにしていた。八雲病院は名義を借りた医師に、謝礼として支払うなどしていた。厚生労働省は、両病院に対し、こうした不当な給与分を国に返還するよう求める方針[読売新聞,第45824号, 2003.21.]。』

その後、関連する報道として

『北海道帯広市の国立療養所帯広病院と八雲町の同八雲病院による、札幌医大医師の名義借り問題で、厚生労働省は19日、八雲病院長が減給(20%)6カ月間、帯広病院長は減給(10%)6カ月間など、18人に対し国家公務員法に基づく行政処分を行った[読売新聞,第45854号,2003.11.20.]。』

とする記事がみられた。

厚生労働省は、今回関係者の処分をしたことで、全てが終わったというつもりのようであるが、この問題の背景は、そんなに簡単にすませることの出来る内容ではないはずである。以前、国立療養所八雲病院では、医師の不足が労使問題になるほどの重要課題で、医療機関として存続することが出来るのかというほど、危機的状況に陥っていた。

医療機関の医師の配置数は、厚生労働省がお決めになっているが、厚生労働省が直接運営する国立医療機関でありながら、当時の八雲病院は、医師について“医療法標欠病院”そのものだったのである。しかも定員職員として医師の定数はあるにもかかわらず、応募する医師がいなくて採用できないという状況にあった。

本省における労使交渉でも話題にしたはずであるから、厚生労働省が知らなかったということはないはずである。

医師の公務員給与が高いか安いかは、何処に基準におくかで変わることなのでとやかくいう気はないが、民間病院の医師給与との比較でいえば、なるほど高くはないということになる。しかし放置は出来ないということで、苦肉の策として生まれたのが名義借りであり、週に一度でも出勤してくれれば、それでいいということである。

公務員給与は全国一律に決定されている。ある職種にとっては地場民間との比較で高級だという評価になるかもしれないが、医師給与でいえば、地場民間の方が高いということである。売り手市場の医師という立場からすれば、一銭でも高い方がいいということになるのかもしれないが、金銭面だけではなく、子供の教育環境等を考えると、国立療養所の立地条件は、決していいとはいえない。更に医療内容という点からみても、療養所の医療内容は、最先端医療ということからはほど遠い。

つまり何処をどう取っても、若手の医師を魅了するものは何もないということである。しかし、一方では、現実問題として入院患者はおり、医療機関としての機能は確保しなければならない。医療法標欠病院を何とか解消しようとして編み出したのが医師の名義借りである。

中堅の医師を採用したことにして、1週間に1回程度は病院に顔出しをして頂く、もしできない場合には、代人として研修医を派遣して頂く。恥も外聞もなく、大学病院の医局に縋り付くというのが現実だったはずである。

過疎地における医療の確保あるいは医師の確保は、当時の厚生労働省の施策の問題であり、出先の医療機関が窮余の一策として生みだした対応を単にけしかるのけしからんのという話ではないだろう。最も、あれから数年が経過し、医師は十分に充足されているにもかかわらず、なお架空の人件費を支払い続けていたというのであれば問題であるが、国立病院の場合、余分な人件費があることは考えられないので、そのまま同じことが引き継がれていたのではないかと思うが、正直、今はどうなっているのか知らない。しかし過去を引きずった結果が、今日になっているのではないかと思わずにはいられない。

(2003.11.27.)