マニュアル人間
水曜日, 8月 15th, 2007航空機の運航に関連する各種の安全管理について、航空会社は最も徹底したマニュアル化が進み、職員研修も頻繁に行われているはずである。
しかし、新聞報道 [読売新聞,第2005.9.30.]によると2004年9月に乱気流に巻き込まれた日本航空機で、乗客の1歳10ヵ月の幼児が、機内サービスのホットコーヒーを浴びて大火傷をおったとされる。この事故に関して国土交通省航空・鉄道事故調査委員会は2005年9月30日、調査報告書を公表、「乗員が怪我の程度を軽く見て救急車を手配しないなど日航側の対応に問題があったと指摘した。パイロットについても「気象レーダーを適切に利用していれば乱気流を避けられた」批判。
事故があったのは昨年9月23日。日航2408便(MD90型機)が乱気流に巻き込まれた。
当時、客室乗務員が機体後方で機内サービスの飲物を配っており、激しい揺れでカートに載せていたポットが転倒。ポットの蓋が外れ、座席で母親に抱かれていた幼児が、大量のホットコーヒーを浴びた。
幼児は腹から右足にかけて赤く腫れ、尻などの皮が剥けた。客室乗務員は傷の保冷剤を当てる応急処置はしたが「一刻を争うほどではない」判断。機長も「皮がめくれているとの連絡は受けたが、大事に至っていない」として、無線で地上職員にクリーニング券を用意する要指示したが、救急車の手配は行わず、緊急着陸しなかった。
着陸後に引き継いだ地上職員も空港近くの病院を紹介しただけで、幼児は空港近くの病院で一般の患者扱いで受診した。幼児は翌日改めて専門医の受診を受けたところ、全治1ヵ月の重症と診断された。
幼児の母親は「客室乗務員に救急車の手配を依頼したら『ちゃんとやっています』といわれた」と証言。しかし「降りてからすぐ病院に連れて行きたいというと、子供の状況も確認せずに『タクシーで行って下さい』といわれた」という。
事故調は乗客が火傷を負った際の対応マニュアルが客室乗務員の間で周知徹底されていないと指摘。
「幼児か火傷をしたことを考えれば、軽傷だとしても後になって予見していない症状が現れる恐れがある」として、日航側の対応は不適切とした。
事故調は“乗客が火傷を負った際の対応マニュアルが、客室乗務員の間で周知徹底されていない”と指摘したとされるが、周知されていなかったのではなく、職員はマニュアル惚けをしていたのではないか。
多分、当該の日航職員は、マニュアル以上でもなく以下でもない対応をしたものと思われる。むしろ彼らに欠如していたのは、事に当たっての想像力である。ポットのお湯の温度を何度位に維持しているのか知らないが、皮膚の弱い幼児が、ポットのお湯を浴びた場合、大人とは違った皮膚反応を起こすことについて、何ら思いが至らなかったところに問題がある。
火傷の治療に精通した医師でもない客室乗務員が、軽々に判断できるほど、幼児の火傷は簡単ではないはずである。更に体表面積の小さい幼児の場合、成人では何でもない程度の湯量であっても、幼児では体表面積の大半を占めるという結果になるはずである。火傷が広範囲に及べば、火傷の重症度は増す。
従って、客室乗務員が取るべき手段は、着陸後緊急に専門医のいる総合病院に幼児を搬送する手配をすることであったはずである。
しかし、残念なことに、マニュアル人間化した人間は、重要な部分での想像力が欠如し、マニュアルの範囲からはみ出すことができないという欠陥人間になってしまう。危機管理は、何が起こるか分からない、その緊急事態の中で、如何に冷静に・的確な対応ができるかというところが重要なのであって、前もって予測可能な範囲、マニュアル化できる範囲とは、ある意味、対応できて当たり前の部分に属することなのではないかと思われるのである。
(2005.10.8.)