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どなたか身に覚えのある方は?

水曜日, 8月 15th, 2007

魍魎亭主人

平成16年11月22日の読売新聞夕刊(第46221号)、“わたしの医見”欄に中野区の女性の投稿が掲載されていた。

『先日、夜中に鼻血が止まらず、大学病院の薬局で止血のために薬をもらいました。ところが1日3回、4日間飲み続けても止まらず、近所の開業医に行くと、なんと骨粗しょう症の薬と分かりました。大学病院の薬局へ行くと、間違えた女性が「すみません。薬の場所が変わったから」悪びれもせず言うだけ。薬局の部長の回答にいたっては、「そちらで気を付けてほしい」と無責任でした。別の病院に勤める知り合いの看護師に話すと「そんなことはしょっちゅう。ちゃんと薬の名前を見ないと」と忠告されました。薬は説明書だけでなく、シートの裏にある薬剤名を確認しないと、病気によっては大変なことになるかも知れません。』

匿名ではなく、氏名を公表しての投稿である。その意味では、この内容は真実であるということを前提として、藪睨みの論理を展開したい。

女性=薬剤師と考えるが、「すみません。薬の場所が変わったから」といういい訳は、いい訳にも何もなっていない。もし、薬の場所が変わったというのが事実であったとしても、いい訳にならないということに変わりはない。

現在行われている病院の調剤実務は、殆どの場合、分業方式であり、共同作業である。共同作業を行う際の基本原則は、誰もが間違いなく薬をとることができるようにということから、調剤棚の薬剤の配置は、頻繁に変更してはならないということが第一の鉄則である。

採用中止薬の残薬回収と、それに変わる新規採用薬の充填に留めることにより、多くの薬剤の場所は固定されているはずである。にも係わらず、場所の移動がされていたとすれば、調剤室の管理がおかしいということになる。それにしても薬剤の収納ポケットから薬を取り出す時、薬袋に入れる前に、現物が処方通りであるかどうかを突合するのが当然であり、『自己検収』をしなかったとすれば、専門職能として誤った調剤行為を行ったということになる。

「そちらで気を付けてほしい」という薬剤部長の発言が、もし事実であれば、無責任の謗りを免れない。何のために薬剤部が独立して存在するのか。何のために薬剤師が調剤実務を行っているのか。

薬剤師の調剤行為は、患者の疾病治療が目的であり、患者の安全を確保しつつ、治療に貢献することが最大の眼目である。誤薬あるいは誤調剤は、明らかに患者に悪影響を与える行為であり、少なくとも『長』としての給料をもらっている人間のいうことではない。最近、薬剤部科長の諸氏は、何かというと薬剤師の危機管理責任者(risk manager)としての役割を口にしたがるが、このような無責任な対応をとることが危機管理であるとするなら、それは違うだろう。 更に『知り合いの看護師に話すと「そんなことはしょっちゅう。ちゃんと薬の名前を見ないと」と忠告されました。』となっているが、その看護師は、よほど質の悪い薬剤師の勤務する病院に勤めているのではないかと疑ってしまう。

経験から申し上げても、薬剤師という職種は、あらゆる場面で、誤った薬を患者に渡さない、調剤過誤を起こさないということに鎬を削っているのである。調剤過誤の結果、患者が誤った薬を服用すれば、致命的な事態が起こる可能性もある。患者に実害を及ぼす誤薬を侵せば、それは薬剤師としては致命的な状況に追い込まれることになる。

従っていい加減な気持で実調剤を行う薬剤師はおらず、更に誤薬を避けるために二重、三重の鑑査方式を導入している。ただし、今回の事例は夜間のことであり、当直中の薬剤師が行った調剤行為である。例え大学病院とはいえ、夜間当直中に複数の薬剤師を当直させる余裕はない。

全ての業務を一人の薬剤師が行わなければならないということからいえば、調剤過誤の防止は、徹底した自己鑑査しかない。処方せんを受領し、処方監査を始めた時点から実調剤の終了まで、一つ一つの作業を『指呼』確認することである。 ところで中野区内に大学病院はあったか。ないとすればこの方は何処の大学病院を受診されたのか。たった1回の受診で、調剤過誤に遭遇するという不幸な目に合われたわけだが、身に覚えのある薬剤部長は、その対応等について、検証する必要があるのではないか。

(2004.11.22.)