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独法化は万能の免罪符か?

水曜日, 8月 15th, 2007

鬼城竜生

国立医療機関のうちナショナルセンターとハンセン病療養所を除く、154 の国立病院・療養所が、2004年4月1日に独立行政法人に移行する。

移行する施設のうち『国立札幌南病院・東京医療センター・国立宇田野療養 所・国立菊池療養所』の4施設については、4月1日付で調理師業務を全面外部委託するという。現に働いている調理師については、他施設への転勤か、院内で の職種転換か、はたまた、委託業者への就職斡旋もあるというが、委託業者の労働条件が、必ずしも当人の納得いくものとは限らない。

ところで病院で患者にだされる食事は、本来治療の一環を担うものであり、 決してないがしろにすべき性質のものではないはずである。如何に採算性を追求しなければならない独立行政法人化が目前に迫っているとはいえ、医療の本質ま で放棄してしまうということは、国立医療機関としての存在価値を失わせるものであり、国立医療機関として果たすべき役割を見失う行為だといわざるを得な い。

如何に独法化されるとはいえ、国の医療機関としての矜持を忘れてしまった のでは、その存在に意味はない。経営合理化に名を借りて、民間病院並の利潤追求をするのであれば、独法化ではなく、むしろ民間に払い下げる方が分かり易い はずである。

(全日本国立医療労働組合HPより転載)

さて業者に全面的に委託するというが、特別に委託経費が用意されていると いうのではなく、本来患者に提供すべき給食費である『食事療養費』の上前を刎ねるという話である。現在、『食事療養費』の基本金額は三食分として 1,920円。基本金額に『食道利用加算35円』、『減塩食加算350円』等種々の加算額が附加されるとはいえ、あくまで基本は『1,920円』である。

聞くところによれば、1,920円の基本に対して、一般的な下請け単価は 1,400円前後ということである。病院側は500円の差益を掠め取り、下請け業者は材料費を500円程度に抑え込んで利益を上げているということのよう である。病院の出す患者給食は、量も少なく、不味いというのが定説であるが、材料費が500円では、患者の期待する食事を出すことは不可能である。この様 な実体に対して、財務省は、病院が下請けに出すことで濡れ手に粟で儲けている差益の500円を召し上げるための財政措置を検討しているといわれている。

し かし、財務省がやるべきは給食費の切り下げではなく、本来患者にいくべき『食事療養費』の流用こそ注意すべきではないか。更に独法化されるとはいえ、診療 報酬を決める立場にある厚生労働省の病院が、『食事療養費』を本来目的以外に費消する等ということがあってはならないはずである。

病院における患者給食は、あくまで治療食であり、『食事療養費』はその目 的以外に流用することがあってはならないはずである。ただ、甚だ不思議なことは、この問題に対する医師の声が聞こえてこないという点である。ある意味で患 者の食餌療法は、放棄してしまったということなのか。一度正直なところを聞いてみたいものである。

[2003.12.18.]