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添付文書の位置付け

水曜日, 8月 15th, 2007

人髄液より高比重に調製された脊椎麻酔用局所麻酔薬『ペルカミンS注(帝国化学)』が市販されていた。承認された適応は『脊椎麻酔(腰椎麻酔)』である。

麻酔対象部位は『上腹部・中下腹部・下腹部、下肢、肛門周囲、仙骨節』で、麻酔時の注意事項の一つとして『脊椎麻酔の際は血圧が降下しやすいので以下の測定基準により血圧管理を行い処置:a)薬液を注入してから1分後に血圧を測定。b)それ以降14分間は2分に1回血圧を測定。必要であれば(例えば血圧が急速に下降傾向を示す場合)連続的に血圧測定。c)薬液注入後15分以上経過後は2.5-5分に1回血圧測定。必要があれば連続測定。』の記載がされている。

『ペルカミンS注腰椎麻酔に係る最高裁判決,1996.1.23』

  1. 事実の概要:麻酔剤ペルカミンSの添付文書に、注入後10-15分間は2分ごとに血圧測定をすべきであると記載されていたにも係わらず、当時の医療慣行として一般的に行われていた、5分間隔の測定をした結果、患者に重篤な後遺障害を与えたことが、医療側の過失になるかどうかが問われた裁判である。
  2. 最高裁判決の内容:「医療水準は、医師の注意義務の基準(規範)となるものであるから、平均的医師が現に行っている医療慣行とは必ずしも一致するものでなく、医師が医療慣行に従った医療行為を行ったからといって、医療水準に従った注意義務を尽くしたと直ちにいうことはできない。」

「医師が医薬品を使用するに当たって、文書(医薬品添付文書)に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことに特段の合理的理由がない限り当該医師の過失が推定されるというべきものである。」

つまり上記の最高裁判決は、医師の『添付文書の遵守義務』について、明確な判断を示したものであるといえる。

『添付文書の記載事項は、当該医薬品の危険性につき最も高度な情報を有している製薬業者が、患者の安全性を確保するために、医師等に対して必要な情報提供の目的で記載するもの』であり、医薬品の使用に際しては、添付文書に記載されている用法・用量、各種注意事項等を遵守しなければならないとしているのである。

ところで添付文書の記載内容について、薬を使用する際に遵守すべき事項が書かれているというのであれば、記載内容の問題点は極力改善する努力をしていただかなければならない。残念ながら現在の添付文書は、薬を使用する際の第一次の資料であることは間違いないが、第一級の資料というにはいささか物足りない感がするのである。

このことは結果的に、最終使用者である患者にも、正確な情報が伝達されないことを意味することになる訳で、薬を使用する患者にとっての不幸であるといえる。

(2006.8.25.)