トップページ»

調剤ミス

水曜日, 8月 15th, 2007

鬼城竜生

川崎市地域医療課は2007年3月2日、高津休日急患診療所(高津区)で2月25日、インフルエンザと診断された5歳の男児2人と7歳の女児 1人に、用量の4倍近いタミフルを調剤するミスがあったと発表した。薬剤師が“秤”の単位を間違えた結果、男児1人と女児1人が1回分を服用した。市は「命にかかわるミス」と謝罪しているが、いまのところ服用による副作用は起きていないと説明している。

発端は診察を受けた男児の親から「薬の量が多いのでは」との問い合わせがあったことから。確認したところ、市から委託を受けている市薬剤師会の薬剤師が「タミフルドライシロップ」を調剤する際に、“秤”の単位の設定が、本来はグラムのはずが匁(もんめ)になっていた。1匁は3.75gで、用量の4倍近くを3人に調剤したという。

また、同じ2月25日には、川崎休日急患診療所(同市川崎区)で、タミフルカプセルの処方が必要な川崎区内の男性患者(40)に、顆粒の総合感冒薬を調剤するミスもあったという。

この“秤”にはグラムと“匁”など四つのモードがあり、それぞれ数値と単位が表示される仕組み。調剤担当者が単位を確認しなかったのが原因としているが、“匁”に切り替わっていたのは、操作ミスか機械トラブルのどちらかの可能性があるとみて調べている。全区の休日急患診療所で、単位をグラムに固定する措置をとったという。

この事件の甚だ不思議な点は、調剤室で使用することのない“秤”の単位モードがある“秤”を使用していたということである。区域内に漢方の専門医がいて、秤量の必要がある漢方の原薬を出すということであれば解らなくもないが、休日急患の診療に漢方の専門医が当たるとも考えられない。

調剤室内の仕事は、mg又はg単位の仕事が中心であり、“匁”で量ることは先ず有り得ない。その意味では、調剤室内に置く“秤”は、mg及び gの秤量が出来るものであればそれでいいわけで、調剤過誤の原因になる可能性のあるものは調剤室内に置かないという基本原則からいえば、第一義的には “秤”の選択の失敗だということが出来る。

次に問題なのは、調剤した薬剤師の注意力の欠如である。朝、調剤室を開けた時点で、調剤室内の各機器の点検を行うのは常識であり、なかでも “秤”は、毎朝チェックするのが基本原則である。もし薬を秤量する前に、“秤”の0点のチェック等をすませておけば、今回の秤量過誤は起こらなかったはずである。

タミフルカプセルの処方に対し、顆粒剤の総合感冒薬を調剤したなどという過誤は、薬剤師としては論外といわざるを得ず、言い訳のしようがない。処方せんは見るものではなく読むものだと良くいわれるが、読むことによって処方せんに記載されている薬品名を正確に確認できる。更に調剤終了後、薬袋に入れる前に、再度処方せんと薬物を突合し、調剤の結果を確認する。

電車や汽車の運転手が、発車する前に必ず“指呼確認”を行っているが、薬剤師も同様の作業が必要なのである。特に1人勤務の職場の場合、各動作毎に“指呼確認”をすることが患者の安全を確保し、自らの身分を守る結果に繋がるのである。薬剤師にとって調剤は重要な仕事であり、調剤の安全確保の努力は、患者に対する責務である。

[2007.5.23.]