父親の失敗
水曜日, 8月 15th, 2007鬼城竜生
小学校3年生の時に父親から100万円の金を貰い、株を買って儲けろといわれたという挿話[読売新聞,第46781号,2006.6.7.]
が実話であるとすれば、村上ファンドの代表だった村上世彰(ヨシアキ)容疑者の父親は、明らかに子供の教育を間違えたといわなければならない。
金があれば何でもできる、金だけが正義だと考える子供を育ててしまった結果が、今回のインサイダー取引(証券取引法違反)になったとすれば、東大を出る学力は持っていたが、世間の常識という点では、真っ当が理解できない、歪(イビツ)な成長の仕方をさせてしまったということである。
何時の時代であれ、世間で生きていくためには、規則を守るのは最低の条件で、もし、選ばれた人間は何をやってもいいんだと思っていたとすれば、思いあがり以外の何ものでもない。逮捕される前、自ら希望したという記者会見のTVカメラの前で『プロ中のプロが見逃してしまった』等と臆面もなく叫んでいたが、自惚れもいいところである。真の意味で『プロ中のプロ』とは、どの様な場合でも見逃しをしないから『プロ中のプロ』なのである。
しかし、一番不思議なのは、報道機関の取扱である。
最近でこそ見られなくなったが、長いこと村上世彰容疑者の紹介記事の後に、元通商産業省(現経済産業省)なる括弧付きの尻尾を付けて報道していたが、あれは記者連中が村上ファンドの信用性を裏打ちするために、元上級職国家公務員であることを引き合いに出すことで、意図的に声援を送っていたということなのであろうか。
更に解らないのは、村上ファンドのあのやり方と総会屋のやり方と何処が違うのかということである。どう考えてもその違いを理解するまでには至らなかった。
確かに総会屋は大量の株式を保有しているわけではなく、株主総会に出席できる権利を得られる最小株を手に入れ、株主総会に出席して、議場を混乱に陥れるか、あるいは議場混乱回避を条件に、議事運営協力金名目で、沈黙を金に変えるという手法を取ると理解している。
それに反して、村上ファンドの場合は、大量の株を保有し、会社の経営権を脅かす存在であるというところでは、違うといえば違うが、支配的株主代表ということで、会社経営者に種々ものを申し、株の値段をつり上げ、売り抜けて稼ぎを上げるという手法は、膨大な資金を要することであり、総会屋とは異なりそれなりの危険が伴うことは間違いない。
しかし、経営者に脅しをかけるという点では、全く総会屋と同じことのように見えるが、何処かが違っていたとでもいうのであろうか。
更に驚くべきことに、政府の規制改革・民間開放推進会議の議長である宮内義彦オリックス会長が、村上ファンドに出資し、同社と提携関係にあったということである。この会議は小泉総理の意を受けて、何でもかんでも民間に渡せ、大幅な規制緩和を実行しろ等ということを決定してきた所であり、村上ファンドが株の購入で自由に動けたのも、その規制緩和の御陰ではないかとされている。
一方で規制緩和の話を進め、一方でその結果を受けて稼ぎを生み出す等というのは、おかしいのではないかと思うが、おかしいと思う感覚は余りにも庶民的すぎて、それこそおかしいのかも知れない。
それにしてもTVという媒体は、目新しい英雄を次々に作り出してみせるが、つぶすのも早いというのは、ホリエモンの例で証明して見せてくれたが、今回の場合も見事という以外言いようがない。
(2006.6.10.)