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調剤薬局の危機管理

水曜日, 8月 15th, 2007

事故を起こすことが嫌なら何もしないことである。仕事をしなければ、仕事に伴って起こる事故は発生しない。人が行動を起こせば、その行動に伴って何等かの軋轢が生じるのはやむを得ない。

最近、報道関係で調剤薬局における調剤過誤が報道されるようになってきた。院外処方せんの発行枚数が増加し、保険薬局での調剤件数が増加すればするほど、調剤に関連する過誤は増加する。つまり、仕事が増えれば増えるほど過誤は増加するという原則からすれば、それは当然の結果だといえる。

病院薬局における調剤業務も、ある意味でいえば過誤との戦いであるということができる。院外処方せん発行以前は、1日7-800枚の処方せんを調剤するのが普通であり、その中で如何に過ちのない調剤をするかの工夫や努力をしてきたというのが病院薬局の調剤の歴史である。

[1] 処方せんを読む

まず我々が徹底したのは『処方せん』は見るものではなく、読むものだということである。医師の書いた薬品名が必ずしも正しいとは限らない。類似の商品名が多いということは、薬剤師が『読み間違える』だけではなく、医師が『書き間違える』こともあるわけである。従って、処方内容を正確に読むだけではなく、処方内容の組み合わせについても検討する。処方内容が通常見られる処方薬の組み合わせと異なっているとすれば、患者の病状に何等かの変化があったのか、あるいは医師の処方の書き間違いなのかという検討が必要になるわけである。そのためには処方医の診療科を知ることが必要であり、処方せんに記載されている診療科名を常に念頭に置いて処方の鑑査をすることが必要である。

処方の鑑査をして、疑念を持てば処方医に確認する。これが患者の安全を守るための基本であり、調剤過誤を起こさないための基本である。処方を読み、薬剤師の感性が疑念を呼びかけているにもかかわらず、無視して調剤に取りかかることで過誤を起こし、後で反省しても何の意味も持たない。

[2]鑑査システムの導入

調剤過誤を防止するためには、『鑑査システム』を導入することが絶対に必要である。例えば、薬剤師が2名で仕事をする場合、処方鑑査をし薬袋を取り揃えた薬剤師は調剤をしない。調剤を終了した段階で、総鑑査に回る。つまり処方鑑査をし、薬袋を揃えるという作業の中で、『処方せんの鑑査』をし、調剤をする段階で、別の眼で『処方鑑査』をし、調剤終了時点で、再度別の眼で『処方と薬』の内容を鑑査をするという『二重鑑査』を常に実施するということが必要である。また、散剤の調剤を行う際には、秤量をした薬剤師は、攪拌・分包を行わず、別の眼で散剤の監査を行った後で、攪拌・分包を行う等『鑑査システム』の導入を図ることが必要である。

2名の薬剤師が勤務している場合、相互に一定時間毎に持ち場を交代することによって同一の作業を継続することで陥る慣れを排除し、緊張を維持することも可能である。なお、1名の薬剤師で、調剤を行う場合、これらの作業を全て1人でしなければならないため、『指呼確認』を徹底して行うことが必要である。

嘗て病院薬局における最大の患者サービスは、待ち時間の短縮と考えられていた時期があるが、待ち時間を短縮するあまり、手抜きとも思われる調剤をしている薬局が見られたが、調剤過誤を起こさないということこそ最大のサービスであり、更に情報提供が求められる現在の薬局業務では、待ち時間の短縮を最大のサービス要件とすることは無意味である。

[3] 過誤発生時の対応

どの様に努力を積み重ねたとしても、人間であることの悲しさで過誤は発生する。つまり人の係わる作業から過誤を絶無にすることは不可能ということである。過誤発生防止のために最大限の努力をしたとしても、やはり過誤は発生する。従って、過誤が発生した場合、どの様に対応するのかを決定しておくこともまた重要なことである。

事故発生時の最優先課題は『即応性』である。あらゆる発生事態に対して、常に素速く対応することができる体制を構築しておくことである。調剤した薬剤師が、自らの調剤過誤に気付いた場合、直ちに上司に報告すると共に、患者に連絡し、実害の及ばないように調剤薬の服用の中止を依頼する。同時に再調剤した薬剤をもって、患者の自宅まで交換のために持参する。この際、一切の言い訳は必要なく、むしろ『誠意あるお詫びの言葉』が必要である。

薬剤師が気付く前に、患者が気付いて、苦情の形で申し入れられた場合、直ちに処方せんを確認し、言い訳をする閑があれば『お詫びを』すると共に、手早く再調剤し、患者に渡すことが必要である。

患者から苦情が出された場合、種々言い訳を述べる人がいるが、どの様な話であれ、それは誤った側の理論であり、患者にとっては何の意味も持たない話である。実害が伴わない限り、『誠意あるお詫び』と、手早い『再調剤』を何よりも優先すべきである。

不幸にして患者に実害がでた場合、情報の公開と誠意ある対応が何よりも重要であり、つまらない言い訳は何の役にも立たないばかりか、患者に不信感を持たせるだけである。

以上の各種の対応は、必ず処方医にも連絡し、どの様に対応し、その結果がどうなったかまで、報告することを忘れてはならない。