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大学全入時代

水曜日, 8月 15th, 2007

鬼城竜生

大学・短大の志願者数が、入学者数と一致する状態を『大学全入時代』というそうである。文部科学省は、当初『2009年度』を予測到来時期としていたが、昨年の夏に2年速く前倒しして『2007年度』に到来時期を修正した。

理論的には、入学希望者が大学という名前であれば何処でも良いと考えているのであれば、希望者全員が大学に入れるということで、ある意味でいえば甚だしく喜ばしいということになるのであろうが、入学を希望する方は、大学という名前であれば何処でもいいというわけにはいかない。やはり勉強したい学問があり、手に入れたい資格があり、自分が将来やりたいと考える学問の学べる学校を選択する。

『大学全入時代』を迎えて、競争力の弱い大学の経営は一層困難になると予測されているとされる。2005年6月、山口県萩市の萩国際大を運営する学校法人萩学園が定員割れで東京地裁に民事再生法の適用を申請、改めて私大の経営危機がクローズアップされたとされるが、各大学の生存競争が今後過酷なることは十分予測される。

これを受けて大学経営セミナー等を開催する「日本私学経営活性化協会」(東京都千代田区)は、「私学経営支援委員会」を発足させたという。今後は、経営悪化した私大からの要請で現地調査を行い、経営診断や再生計画の策定を手がけるという。再生資金の融資も行う方針で、破綻状態に陥る前の速い段階で相談して欲しいとしているようである。

また「日本私立学校振興会・共済事業団」は、「学校法人活性化・再生研究会」を設置し、「破綻保険」の具体的内容を検討するとしている。各大学が拠出した資金を破綻大学に投じ、在校生が卒業するまで学校運営を確保するのがねらいだとされている。大学・短大の統合を進める大学版M&A等も検討課題になる見通しとされるが、これらの全ての方策は、各個別大学の経営内容の厳密な分析無しには進捗しない。世間一般の風がなかなか吹き込まない大学の住人である教授諸兄が、果たして自校の経営を何処まで冷徹に分析できるのか。気付いたときには手遅れというのが大方の実態ではないか。経営学博士が必ずしも自校の経営に精通しているとは限らないのが学問の常である。

ところで一般的には、大学の整理に入ろうという時代に、薬科大学のみが次々に新設されているが、一体どういう訳か。しかも6年制に移行するという厄介な時期に、次々と新設されることの意味がよく理解できないところである。悪く勘ぐれば取り敢えず入学させてしまえば6年間は学費の取りっぱぐれがないからとしか考えられない。

従来から運営されている大学に比べて、新設大学は、将に『競争力の弱い大学』に分類されるのではないか。どの程度の基礎財源を用意して開校したか知らないが、学生零で10年は持つなどという驚異的な財源を保有しているとは考えられない。更に予備校からの情報として薬科大学への希望者が、前年比で2割程度は低下しているといわれている。更に更に同じ6年制なら医学部に行った方が卒業後の収入は安定している。4年制の他の医療関係の大学を目指す等々の話も耳にする。

最初に万歳する薬科大学は何処か知らないが、他との差別化を図るために、思い切った手立てを取らなければ、最早生き残れないということであろう。

(2005.11.6.)


  1. 再建プロ集団 破たん保険も-私大救済策急ピッチ-国や私学団体「全入時代」控え;読売新聞,第46567号,2005.11.4.