トップページ»

「それは唐突に訪れてきた」 -statin剤の副作用なのか?。それとも………-

水曜日, 8月 15th, 2007

魍魎亭主人

兎に角、今までに経験のないことに遭遇した。最初に痛み出したのは両脇の腰の部分で、椅子から立つときに無闇に痛みが走った。しかし、その痛みは長続きせず、暫く立っていると消えてしまった。これは座る姿勢が悪くて、筋肉痛が起こっているのだろうと自己診断した。

その次に、異な事もあるもんだと思ったのは、床屋に行ってバリカンを当てられると、無闇に頭皮が痛いのである。三分刈りのバリカン入れが、それほど力を入れてやっているとは思えないのに痛みを感じた。しかし、この痛みも、職人の力の入れ方の所為であろうと、深く考えることはしなかった。

これらのことに気がついたのは、2006年1月半ばのことであった。

大学で90分授業を二駒行い、帰りは駅まで歩いた。その距離約30分。その後約30分電車に乗って、幸い空いていて坐ることができた。さて電車を降りて駅の階段を昇る段になって、えらく足が重く、足を持ち上げるのにそれなりの力を入れないと、階段を昇ることができなかった。解りやすくいえば、 4-5時間山登りをやった後の足の疲労度である。

おいおいなんだいこれは。僅か二駒の授業と30分のテクリで、こんなに足が重いとは。年の所為とはいえ、何かおかしいんではないかと思ったのが最初の疑問である。

椅子から立ち上がるときの腰回りの痛みは相変わらずというか、酷くなったような感じで、正常に歩き出すまでにより時間がかかるようになった。

これはいよいよ年のせいで、筋肉痛が出るようになったのか。それとも座る姿勢が悪くて、永年の姿勢の悪さの積み重ねで、筋肉に異常が起こっているのかと思っていたが、胡座をかいている時に、膝の後ろが無闇にだるくなり、足を伸ばして膝をひねる等ということをしなければならなくなった。

やがて寝る前に痛み止めの貼付薬を貼りまくる話になったが、朝起きると足の裏が痛く、立つときに思わずよろけるような羽目に陥った。面白いのは何分か立っていると、足の裏の痛みは足の甲に突き抜けて、やがて腰を曲げながら歩くことができるようになり、更には正常な二足歩行が可能になるという経過を、毎朝とるようになったということである。

毎朝この儀式を繰り返しているうちに、肩や背中が痛くなり、下腹部は過剰な腹筋をやった後のように、重苦しい状態になり、思わず息をつめているとそれが遠ざかるという状況が続き、ついには頭を洗おうとすると、立てた指が触れる部分の頭皮が痛いという状況に立ち至った。

鬚を剃ろうとすれば、剃刀の当たる皮膚が痛いということ迄見られるようになった。

なんだこれは………。今までに経験のない痛みに周章てたが、この時点では何が理由かわからなかった。しかし、そのうちに服んでいる薬の副作用ではということで、兎に角、疑わしい薬を止めてみる他にないと考え、statin剤の服用を中断した。

中断4日目当たりから痛みは幾らか楽になったが、まだ確信するほどではない。更に中断を継続して8日目を過ぎた当たりから一部の痛みを除き、全体的には痛みが治まりつつある。

この結果から見れば、明らかにstatin剤の副作用ではないかというのが自己診断である。この間2ヵ月に1回の検査が 1回入っているが、creatine kinase(CK)は若干高めを示したものの、医師が注意を向ける程の変化ではなかった。しかし、痛みだけは確実に増幅したということである。

総じてstatin系の薬剤は、副作用は非常に少ない薬とされている。

しかし、脂溶性のcerivastatin sodium(セリバスタチンナトリウム)は、高頻度の筋炎並びに横紋筋融解症を発症し、更にそれに起因する死亡例が世界中で200例に及んだことから 2001年、cerivastatinは世界市場からの撤退を余儀なくされた。

最近10年間のstatinを用いた大規模臨床試験から換算すると、 statin投与による救命症例と死亡症例の比率は、救命が1万-10万例に対し死亡は1例といわれている。

myopathy(ミオパシー)の発現頻度は、我が国では5%未満といわれているが、諸外国では10倍以上にCPKが増加した場合、myopathy発症を考えるとされており、発症頻度については7万例に1例と算定されている。

myopathyは単に筋肉痛、易疲労感を感じるだけのもの、更に血中のCPK のみが上昇する。また重症例では横紋筋融解症のため急性腎不全により死亡する等の症例も存在する。

但し、statinによる横紋筋融解症は100万処方に 1例と算定されている。myopathyの初期症状は、筋肉痛よりも筋肉がだるい等の訴えがあることに注意が必要である。

myopathy(筋症):筋肉自体が侵されて生じる疾患の総称。筋症は筋肉に病変が起こっている場合で、筋肉は種々の原因で侵されるが、外因による筋障害も多く、ステロイドミオパシー、クロロキンミオパシー、ビンクリスチンミオパシーなどがある。こうしたミオパシーの際には、一般的には四肢近位筋である肩、腰などの筋の脱力が目立ち、立ち上がり動作、階段の昇降などに困難を自覚することが多いとされている。

さて、今回経験したこの奇妙な事実は何なのか。

少なくとも薬の服用を中止したことで痛みが薄らいで行くという経過を取っているところを見ると、 statin系の副作用と思われるが、物の本にはこのような厄介な痛み方は書いていない。

仕事の関係で、種々の副作用についての文献を読む機会はあったが、このような奇妙な痛み方を書いたものは知らない。

いずれにしろ経験した副作用の細かな症状をより正確に報告するそんな場所が必要ではないかと感じた次第である。

(2006.4.8.)


  1. 医学大辞典;南山堂,2001
  2. 日本病院薬剤師会・編:重大な副作用回避のための服薬指導情報[1];薬業時報社,1997
  3. 名尾良憲・他編著:臨床医薬品副作用ハンドブック;南山堂,1999
  4. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2006
  5. 和田 攻・総監修:医学生物学大辞典;朝倉書店,2001
  6. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2001
  7. 多田紀夫:HMG-CoA還元酵素阻害薬の副作用;ドクターサロン,50(4):246-252(2006)
  8. ローコール錠添付文書,2005.5.
  9. 高久史麿・監修:臨床検査データブック;医学書院,2003-2004