専門職の崩壊
水曜日, 8月 15th, 2007魍魎亭主人
山梨日日新聞社(甲府市)で、1月31日付朝刊に掲載した柳沢伯夫厚生労働相の「産む機械」発言をめぐる社説が、他の新聞の社説(神戸新聞、西日本新聞)と酷似していたということで、社説問題調査委員会で調査した結果、15本に盗用があったと判断された。社説を書いていた小林広(56)論説委員長は、20日付で懲戒解雇処分に、野口英一社長が辞任した他、常務、取締役編集局長の各氏が処分された。
続いて新潟日報社(本社・新潟市)が昨年11月21日の朝刊に掲載した社説が3日前の朝日新聞朝刊の社説と酷似していた。同社は執筆した小町孝夫・論説委員(55)を21日付で総務局付とし、社内に調査委員会を設置して、他に盗用がないか調べる。原稿内容については、論説委員長が校閲していたが、盗用に気付かなかったとされている[読売新聞,第47040号,2007.2.22.] 。
社説というのは、ある現象に対して新聞社の立場を明確にすると共に、その立場を示す意見を表明するものだと理解していたのだが、違うのであろうか。時事問題や国際問題、注目されたニュースの中から幾つかを選別し、新聞社の論説委員が、課題等の背景を解説すると共に、解説した論説委員の主張や考え方を日々掲載するものであると理解していたが、違ったか。
少なくとも論説委員は新聞記者として永年の経験を積み、洞察力や文章力に優れていると評価された記者が選ばれるものと理解している。しかも数名の人達が論説委員として勤務しており、新聞に掲載される社説は毎日必要だったとしても、一人の論説委員が毎日原稿を書く等という、過酷な条件下に置かれているわけではないはずである。にもかかわらず、他社の社説を真似しなければ原稿が書けなかったとすれば、不勉強の謗りは免れない。更に洞察力や文章力の低下以外のなにものでもないといわざるを得ない。
更に毎日新聞の記者が、取材録音を第三者に手渡していたという報道[読売新聞,第47042号,2007.2.24.]がされていた。新聞記者としてはやってはならない基本中の基本であり、これも専門職能の倫理観の欠如に由来する行為であるといえる。
最近、あらゆる分野において、いわゆる専門職能といわれる人種の技術力の低下、倫理観の欠如が原因と見られる種々の問題が報道されている。普通であれば防止できる事故の発生は、明らかに企業としての責任感、倫理観の欠如の結果であり、経営者の他人事みたいな言い訳のお詫び会見に具象化されている。
専門職能の使命感の脆弱化が、組織力を低下させ、従来であれば考えられない事故が発生する。あまつさえその事故を組織ぐるみで隠蔽する。企業の運営が大衆に支えられ、大衆に利益を還元するという基本的なところが忘れられている。
今回、新聞の顔ともいうべき社説を、他人の原稿を部分的とはいえ、流用することで糊塗したていたらくは、最近の専門職能のタガの緩みを如実に示しているといえるのではないか。
(2007.2.25.)