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世間が狭くなる食い物の世界 

水曜日, 8月 15th, 2007

魍魎亭主人

昔、新宿の飲み屋で、酒を飲んでいたころ、牛の脳味噌の刺身をしょっちゅう食っていた。独特の食感が美味いと思わせたからであったが、それが ある時からぴたっと食わなくなった。店のおやじが不思議がったが、その時は、急に食わなくなった理由を口にすることはなかった。

その当時、勤務していた病院の医薬品情報管理室に、国立の療養所から、入院中のクロイツフェルト・ヤコブ病の患者に使用した器具の消毒・滅菌法を調査してくれといわれ、病名自体が馴染みのないものであったため、どんな病気なのかを調べ始めたのはいいが、プリオンなる原因物質が動物の脳内に存在するという話で、羊やミンクに発症するほか、過去には人食い習慣のある地域の住民にも発症し、脳が海綿状になる等という文献を検索した結果、脳味噌の刺身は食う度胸がなかったということだが、それは狂牛病、ウシ海綿状脳症(bovine spongiform encephalopathy:BSE)等という言葉が、世間をにぎわせる数年も前の話である。

A型肝炎・B型肝炎・C型肝炎の感染防御ということで、消毒・滅菌法の調査をしている段階で、E型肝炎についても調べなければ片手落ちだろうということで調査をしたが、どの資料も衛生状態の悪い国には存在するが、我が国にはいないという記述であった。しかし、そのうち北海道で鹿のレバ刺しを食した人が感染、神戸では猪のレバ刺しを食した人が感染したとする報道があった。そのうち北海道では焼き肉を食べた人が感染したという騒ぎが起こったが、焼き肉から感染した人の場合は、焼きの甘い肝臓を食した結果だということである。

プリオンとは異なりE型肝炎ウイルスは、比較的熱には弱いといわれている。従って十分に加熱すれば、感染することはないとされている。

おっしゃることはよく解るが、ホルモン焼きの世界で、レバーの身が固まるほどに灼くのは邪道であり、悪いけれど美味くはない。更にレバ刺しの旨い店は、それだけで客が集まる魔力を発揮する。まあ取り敢えず、E型肝炎ウイルスは極く限られた地区に限定したものとして、それ以後も機嫌良くレバ刺しを食っていたが、今年の2月厚生労働省が嫌な情報を流した。

従来、牛の肝臓内にはいないと考えられていたカンピロバクターが、胆汁中で見つけられたとされており、胆嚢・胆管内にも棲み付いているというのである。当然肝臓内にもいるということで、肝臓内に菌が棲息しているとすれば、どう処理しようとレバ刺しは食っちゃいかんということになるのかも知れない。まあ、全ての牛の肝臓が汚染されているわけではないからという考えもあるが、何がでるか解らんからまあ生は止めておくかというのも一つの考え方ではある。

しかし、食い物の世界も、えらく世間が狭くなってきたもんである。

(2005.4.23.)

なお、参考までに、厚生労働省が出したカンピロバクターに関する質疑応答を以下に添付しておく。

平成17年2月8日

厚生労働省食品安全部監視安全課乳肉安全係

牛レ バーによるカンピロバクター食中毒予防について(Q&A)

牛レバーのカンピロバクターによる汚染についての研究結果が取りまとめられたことから、正しい知識と現状等について理解を深めていただきたく、 Q&Aを作成しました。

今後、本件に関する知見の進展等に対応して、逐次、本Q&Aを更新することとしています。

Q1.牛レバーはどの程度カ ンピロバクターに汚染されているのですか?

A1.厚生労働科学研究食品安全確保研究事業「食品製造の高度衛生管理に関する研究」主任研究者:品川邦汎(岩手大学教授) において、健康な牛の肝臓及び胆汁中のカンピロバクター汚染調査を行ったところ、カンピロバクターは、従来、胆汁には存在しないと考えられていましたが、胆嚢内胆汁236検体中60検体(25.4%)、胆管内胆汁142検体中31検体(21.8%)、肝臓では236検体中27検体(11.4%)が陽性でした(表参照)。

肝臓部位 検査数 検出数(%) 陽性肝臓に対する検出率 (%) 平均菌数(個/g)
胆嚢内胆汁 236 60(25.4) - 2,700
胆管内胆汁 142 31(21.8) - 6,200
肝臓 236 27(11.4) 100 -
左葉 236 21(8.90) 77.8 55
方形葉 236 19(8.05) 70.4 22
尾状葉 236 13(5.51) 48.1 10

Q2.「カンピロバクター」 とは、どういう細菌ですか?

A2.カンピロバクターは、家畜の流産あるいは腸炎原因菌として獣医学分野で注目されていた菌で、ニワトリ、ウシ等の家きんや家畜をはじめ、ペット、野鳥、野生動物などあらゆる動物が保菌しています。1970年代に下痢患者から本菌が検出され、ヒトに対する下痢原性が証明されましたが、特に 1978年に米国において水系感染により約2千人が感染した事例が発生し、世界的に注目されるようになりました。

カンピロバクターは15菌種9亜種(2000年現在)に分類されていますが、ヒトの下痢症から分離される菌種はカンピロバクター・ジェジュニがその95- 99%を占め、カンピロバクター・コリなども下痢症に関与しています。

Q3.カンピロバクターに感 染するとどんな症状になるのですか?

A3.症状については、下痢、腹痛、発熱、悪心、嘔吐、頭痛、悪寒、倦怠感などであり、他の感染型細菌性食中毒と酷似します。多くの患者は1週間で治癒し、通常、死亡例や重篤例はまれですが、若齢者・高齢者、その他抵抗力の弱い者は重症化の可能性が高いことに注意が必要です。また、潜伏時間が一般に2-5日間とやや長いことが特徴です。

Q4.どのような食品がカン ピロバクター食中毒の原因になるのですか?

A4.カンピロバクター食中毒発生時における患者の喫食調査並びに施設等の疫学調査結果からは、推定原因食品又は感染源として、鶏肉関連調理食品及びその調理過程中の加熱不足や取扱い不備による二次汚染等が強く示唆されています。2003年に発生したカンピロバクター食中毒のうち、原因食品として鶏肉が疑われるものが89件、牛生レバーが疑われるものが10件認められています。

また、欧米では原因食品として生乳による事例も多く発生していますが、我が国では牛乳は加熱殺菌されて流通されており、当該食品による発生例はみられていません。この他、我が国では、不十分な殺菌による井戸水、湧水及び簡易水道水を感染源とした水系感染事例が発生しています。

なお、過去5年間の厚生労働省食中毒統計によると、カンピロバクター食中毒は、各年450件前後発生しており、患者数は1,700-2,600人前後を推移しています。

Q5.どのようなカンピロバ クター食中毒の予防対策がとられていますか?

A5.カンピロバクター食中毒の原因食品の一つである鶏肉については、食中毒菌による鶏肉汚染の防止等の観点から、食鳥処理場の構造設備基準や衛生的管理の基準が定められた「食鳥処理の事業の規制及び食鳥検査に関する法律」が1991年に施行されました。また、1992年には、「食鳥処理場におけるHACCP方式による衛生管理指針」を定め、食鳥処理段階における微生物汚染の防止を図っています。

牛レバーについては、1996年に腸管出血性大腸菌O157による食中毒が社会問題となり、と畜場における衛生管理の重要性が改めて指摘されたことから、と畜場法施行規則を1996年に改正し、先進諸国において導入されつつあるHACCP方式の考え方を導入したと畜場における衛生的な食肉の取扱いの規定を盛り込むとともに、同法施行令を1997年に改正し、と畜場の衛生管理基準及び構造設備基準を追加し、食肉処理段階における微生物汚染の防止を図っています。

Q6.牛の生レバーは安全で すか?

A6.家畜は、健康な状態において腸管内などにカンピロバクター、腸管出血性大腸菌などの食中毒菌を持っていることが知られています。一方、今日の食肉処理の技術ではこれらの食中毒菌を100%除去することは困難とされています。このため厚生労働省では、食中毒予防の観点から若齢者、高齢者のほか抵抗力の弱い者については、生肉等を食べないよう、食べさせないよう従来から注意喚起を行っています。

なお、通常の加熱調理を行えばカンピロバクターや腸管出血性大腸菌などは死滅するため、牛レバーを食べることによる感染の危険性はありません。

(参考)

  1. 腸管出血性大腸菌による食中 毒の対策について
    http://www.mhlw.go.jp/topics/0105/tp0502-1.html
  2. 若齢者等の腸管出血性大腸菌 食中毒の予防について
    http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/kanren/taisaku/dl/040525-1.pdf