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承認された疥癬治療薬

水曜日, 8月 15th, 2007

疥癬の患者が増加しているという。

疥癬はヒゼンダニの寄生が原因で起こる病気であり、国内では厚生労働大臣の承認を得た治療薬が販売されていなかったため、病院では殺虫剤を主薬にした軟膏やローションを院内特殊製剤として調製し、それを患者に使用してきた。 従来、『院内特殊製剤』を調製するために、特段面倒な手続きを取る必要はなかったが、1994年6月に、製造物責任(Product Liability)法が成立(1995年7月1日施行)すると、若干、様相を異にしてきた。

医薬品原料でない試薬・殺虫剤等を原料として、医薬品を製造した場合に、厚生労働大臣が承認していない薬物を原料として調製した医薬品を使用したとして、薬価に収載されていない限り、保険請求できない。患者から原料相当額を自費徴収するとしても、自費徴収することの承認は得られない。

奉仕的立場で『院内特殊製剤』を調製したとして、『院内特殊製剤』が製造物に相当するのであれば、病院薬剤師の責任が追及される。それなら作らない方がいいという意見が聞かれるようになり、病院薬剤師の多くは、『院内特殊製剤』から撤退すべきだという意見に収束されていった。

しかし、疥癬の治療薬は、国内で市販されてはおらず、治療をするためには『院内特殊製剤』の調製は避けて通れない。更に薬剤師には薬を調製する能力があり、その製剤を調製することで患者の治療に貢献することが出来るのであれば、『院内特殊製剤』は作るべきだとする少数意見もあり、少なくとも適法と考えられる方策を採ることになった。

そこで院内調製の正当性を確保するために、『院内倫理委員会』において、『院内特殊製剤』の必要性について審議し、有効性・安全性等について論議を尽くしていただく。

次いで薬剤部において現状で把握できる情報に基づき添付文書を作成し、文書による患者説明が出来るように『患者説明文書』を作成する。勿論、文書による同意取得のため、『同意取得文書』を作成する。

更に製剤調製のための手順書を作成し、調製に際しての間違いを極力排除することによって、製剤の安全性を確保する。 ここまでやってなお製造物責任法上の責任を追求されたとすれば、それはそれでやむを得ない。

治療の効果が上がらないことが分かっている薬を使い続けて、院内に疥癬が蔓延するのを傍観することの方が問題だろうということを落としどころにした。

しかし、今回『腸管糞線虫』を適応症として市販されていたイベルメクチン(ivermectin)が、平成18年8月21日、『疥癬』を追加適応として効能が追加承認された。

しかも保険適用開始日も同日付として厚生労働省から告示された。本剤は医療現場からの要望により特定療養費制度の選定療養(薬選)の適用を受け、自費による治療が認められていたが、今回のこの措置により健康保険での使用が可能になったということである。

疥癬は従来30年周期で流行を繰り返すといわれていたが、今回の流行は1975年に始まり既に30年を経てなお続いているとされる。

しかし、どういう理由で30年周期で疥癬の流行が繰り返されていたのか、その理由は不明であるが、1975年以降は、我が国に確実に疥癬は定着したということかも知れない。

しかも現在では、高齢者を中心とした集団発生が見られており、軟膏やローションでは対応が困難な部分もあるので、経口投与による治療が行えるということは、従来からの治療法を大幅に変えることになると考えられる。

ただ、外用剤の使用と異なり、経口剤の使用はそれだけ副作用が増大することにも繋がってくる。折角承認された薬である。服用者の状況を観察しながら、息の長い薬に育って貰いたいものである。

(2006.9.23.)