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情報の非対称性

水曜日, 8月 15th, 2007

インフォームド・コンセントを、日本語で端的に示す適切な訳語は見当たらないようである。日本医師会は『説明と同意』と直訳して見せたが、これはある意味で、医師側の立場に立った訳語であり、患者側に立った訳語ではないように見える。

その他、『十分な説明に基づく、納得したうえでの自由な意思に基づく同意』とする解釈もされているが、“納得した上での自由な意志に基づく同意” の前の十分な説明の“十分”とは、どの程度の説明をいうのか、説明する側と説明を受ける側とで測るべき物差しが示されていないため、認識に差が出てくることが考えられる。

*『患者が自己の病状、医療行為の目的、方法、危険性、代替治療法等につき正しい説明を受け、理解した上で、自主的に選択・同意・拒否できるという原則』(日本弁護士連合会第33回人権大会,1992.11.)

というのが、日弁連のインフォームド・コンセントに対する解釈であり、患者の側に立って考えようとすると、このinformed consentという僅か数語の言葉が、無闇に長い解釈になってしまうようである。これはinformed consentに包含される考え方が、元々日本にはない思想であるためなのかも知れない。

従来、日本人の思想的背景として、俺についてこい的な“父権主義(父子・家族主義)に憧憬する傾向があり、このパターナリズム(paternalism)的発想は、informed consentとは対極に存在する思想である。事実、癌告知率の低い医療機関において、癌患者に対して十分な説明に基づく同意(informed consent)がなかなか進まない理由として「任せておけ」に代表される医師側の父権主義があると、6割もの看護師が考えているという調査結果が報告されていた。

国立国語研究所が、カタカナ語の言い換え例として、informed consent=『納得診療』なる語を挙げていたが、果たして言葉の真の意味とともに、その思想的背景は我が国の医療関係者あるいは国民の中に定着するのかどうか。

  • 医師>患者
  • 薬剤師>患者
  • 看護師>患者
  • 検査技師>患者
  • 放射線技師>患者
  • 栄養士>患者

各専門職能と患者との関係を見た場合、それぞれの専門領域において、情報量に差があるのはやむを得ない。より多くの情報量を確保しているが為に専門職能といわれるわけで、一般人と同程度の情報水準では仕事にならない。 但し、情報量の少ない患者と専門職能の格差を埋める努力は、専門職能の側に求められるのは当然である。病気を治すという目的はあるものの、人体に外的侵襲を加えるという立場にあることを忘れてはならないのである。

しかし、薬剤情報だけが、独立した存在としてあるのではなく、医療機関全体=組織として、情報公開に関する意識改革が必要なので、薬剤師だけが突出するわけにはいかない。特に医師が率先して情報の公開をしなければ、他の職種が提供する情報は矮小化されたものにならざるを得ない。ある意味、医療はあらゆるものが医師を出発点として動き始めるという性格を持っている。しかし、それはあくまで患者の病を治す目的のためであることを、忘れてはならない。

(2006.5.25.)