施設内感染の防御
水曜日, 8月 15th, 2007『院内感染の防御』については、口でいうほど簡単ではない。真面目にやろうとすると、建物を建てるところからやらなければならない程度に困難なのである。
まず院内の水回りを完全に制御することが求められる。
例えば手洗い用の水は、蛇口に手を触れることなく給水されるものでなければならず、自動給水かペダル方式の導入が求められる。
また手洗い用の洗剤は溶液状の洗剤を使用し、これも自動的に滴下されるものでなければならず、手指消毒用の消毒剤も自動滴下する方式の導入が必要である。手拭きは当然紙タオルを使用する。熱風方式の手の乾燥機もあるが、残念ながら乾燥までに時間がかかり過ぎるため、頻繁に手洗いを求められる医療現場には不向きである。また、洗浄槽についても水の撥ね返りのないものを使用することが必要であり、定期的に薬液消毒ができる材質のものでなければならない。
頻繁な手洗いによる手荒れ対策として、肌荒れ防止用のクリーム等の使用がされているが、これも瓶中のクリームの共同利用は避けなければならない。
ヒトからヒトへの細菌・ウイルスの伝播は、多くの場合ヒトの手を介して伝播する。従って汚染された手で水道の蛇口など触れていたのでは手洗いの意味をなさない。手洗いをした後、手指消毒をしたとしても、手を拭くタオルを共同利用したのでは、そこで汚染が伝播し、肌荒れ用のクリームの共同利用も汚染を伝播する原因になりえる考えるべきである。
便所も感染伝播の上で、重要な役割を果たす。職員用、患者用、外来者用が共用されているなどというのは最悪で、細菌・ウイルスの伝播の原因となるため、それぞれ別々に設置すべきである。更に水洗便所の配水も手で触れる形式のものではなく、足踏み式のペダル方式の導入が望ましい。排便後には石鹸を用いて流水で手洗いをするのは当然であるが、洗浄槽は水撥ねのおき難いものを設置する。手洗い後の手拭きは紙タオルを利用する。
更に頻繁に消毒薬が使用される病院の汚水をそのまま下水道に流し込むことは、活性汚泥法による汚水処理に影響する可能性があり、独自の汚水処理槽を設置し、病院排水がそのまま下水道に排出されないよう処理することが理想である。
その他汚染物の院内配送等、考えなければならない部分は多方面にわたり、設備投資は膨大なものを必要とされる。現在多くの医療機関で感染対策委員会が設置され、院内感染に対応するあらゆる方策が検討されているが、それでもなお院内感染が起こるのは、経費面に眼が向きすぎて、踏み込みの足りない会議に終わっているのではないかと思われる。院内感染が発生し感染者の治療に要する経費あるいは死亡者に対する保証等、事後処理の対応に要する経費と労力を考えれば、日常的に必要とされる方策を的確に行うことが最善の策なのである。
院内感染防御について、十分に経験を積んだ病院でさえ、院内感染を完全に制御することはできないでいる。まして経験の少ない高齢者施設では、所内での感染防御に不慣れ故の手抜かりがある可能性は否定できない。今回、ノロウイルスによる感染症の発生で、入所者が死亡する例が出たが、厚生労働省も老健局計画課長名による通知文書を発出した。多くの人が集団で生活する場所での感染対策は、常に十分に対応することが必要なのである。
(2005.5.29.)
以下に参考までに厚生労働省の通知文書を添付する。
老発第0110001号
平成17年1月10日
各
都道府県
指定都市
中核市
民生主管部(局)長
厚生労働省老健局計画課長
高齢者施設における感染性胃腸炎の発生・まん延防止策の徹底について
昨年末から本年の年始めにかけて、広島県福山市内の特別養護老人ホームで42名の入所者が下痢・おう吐等を発症し、うち7名が死亡し、一部の検体からノロウイルスが検出された事例を始め、高齢者施設において下痢・おう吐等の症状を呈する者の発生が頻発している。
高齢者施設における感染症の発生及びまん延の防止については、「特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準」(平成 11年厚生省令第46号)、「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準」(平成11年厚生省令第39号)等において、そのために必要な措置を講ずるべき旨が定められていること、全国社会福祉協議会において「特別養護老人ホーム等における感染症対策の手引き」が作成されていること、国立感染症研究所感染症情報センターのホームページ等において各感染症の発生状況・対処方法等に関する情報が随時提供されていること等を踏まえ、保健衛生部局と連携しながら的確な対応を採るようお願いしてきたところである。
特に、ノロウイルス等による感染性胃腸炎は冬季に多発する傾向があり、抵抗力の弱い高齢者等が感染すると重度化するおそれがあることから、万全の対応を採っていく必要がある。
ついては、管下市区町村及び管下高齢者施設に対して、下記の留意事項の周知徹底を図っていただくようお願いする。
記
1) 発生防止のための措置
- 職員及び入所者の手洗い、うがいを励行すること
- 入所者の健康管理を徹底するこ
- 職員の健康管理を徹底すること
- 食品調理時の衛生管理を徹底すること
2) 発生時の連絡
- 感染症又は食中毒の発生又はそれが疑われる状況が生じた時は、速やかに市町村保健福祉部局に連絡すること
- 食中毒患者若しくはその疑いのある者を診断し、又はその死体を検案した医師は直ちに最寄りの保健所長にその旨を届け出るなど、食品衛生法(昭和22年法律第233号)に基づき、適切な対応が行われるようにすること
3) 有症者への対応
- 施設の医師及び看護職員は、有症者の状態に応じ、施設内又は協力医療機関等において速やかな対応が行われるようにすること
4) まん延防止のための措置
- 施設内の消毒を行うとともに、職員が有症者のふん便、おう吐物等を処理する際の衛生管理を徹底すること