事故の言い訳にはならない
水曜日, 8月 15th, 2007魍魎亭主人
京大病院の死亡事故をきっかけに、持参薬問題が、病院の薬剤管理の“盲点”として急浮上しているなる記事が読売新聞に掲載された [読売新聞,第46293号,2005.2.3.]。
京大病院の死亡事故は、持参薬管理の“盲点”で起きた。
70歳代の男性患者が混合病棟に緊急入院したのは、昨年10月の深夜。患者は薬を持参しており、この中に同病院の外来でリウマチの治療用に処方された免疫抑制剤の劇薬「リウマトレックス」が含まれていた。
患者は錠剤を厚紙のシートから外し、むき出しで保管していた。担当の研修医は「免疫抑制剤」の危険性の認識を欠いたまま、1週間に6mgのところを毎日6mgという誤った指示を出し、指導医や看護師のチェックをすり抜けた。薬剤の管理は病院内で一元化されておらず、外来での処方の情報は病棟には伝わっていなかった。服用方法の変化を、患者は「飲み方が変わったのだろう」と受け止めていた。
同病院の薬剤師は、非常勤を含め法定の定員を上回る57人で、診療科別に担当をおいている。だが、患者の入院日や入院はバラバラ、薬剤師に要求される仕事やルールも科ごとに違い、混合病棟で患者全ての持参薬の管理にかかわるのは「現実的には不可能」(同病院)だった。
患者は免疫機能が落ちたために肺炎を患い、先月初めに死亡。同病院では調査委員会を設置して詳しい原因を調べている。事態を深刻視した日本病院薬剤師会は先月末、薬剤師が必ず持参薬の管理にかかわるよう、約3万4千人の会員に対し、緊急の通達を出した。
京大病院の医療事故の問題で、何で突然日本病院薬剤師会や“患者持参薬”の問題が出て来るのか、理解に苦しむところである。今回の事例は、リウマチ治療薬である免疫抑制剤のことを知らない研修医が、使用経験のない薬については、添付文書を見るという基本的な行為を抜きにして、服用の指示を出したという単純な過ちのはずである。
*患者は混合病棟に緊急入院したとされているが、何が原因で緊急入院したのか。
*診察した研修医は、その患者を診察して、どういう病状だと判断したのか。
*もしリウマチ薬の投与が必要な病状だと判断したのであれば、なぜ主治医に連絡しなかったのか。
*研修医が自ら診断し、薬物療法の決定をしたのであれば、“患者持参薬”を使用しなければならない義務はない。
*“患者持参薬”は薬袋に入っていなかったのか。薬袋に用法指示は記載されていなかったのか。
*京大病院は1患者1カルテではなかったのか。
*京大病院はトータルシステムの運用はされていなかったのか。
今回の事故を新聞報道の範囲内で検討しても、幾つかの疑問点が指摘される。従って今回の問題を契機として、日本病院薬剤師会が“患者持参薬”の問題だとして会員に通達を出したということであるが、いささか勇み足の観は拭えない。院内の医療事故調査委員会が結論を出してからでも遅くはない話で、事故調の論議に外部から影響を与える様な行動は差し控えるべきである。更に“患者持参薬”がどうであれ、薬に対する研修医の安易な対応が、事故を招いたことには変わりはない。
更に申し上げれば、日本病院薬剤師会が一片の通達を出したからといって、“患者持参薬”の問題が片づくほど、単純な話ではない。“患者持参薬”の扱いが、乱雑だといって驚いているようであるが、正直に言わせて頂ければ、完成度の低い実調剤を行っている薬剤師の責任である。現在の実調剤の多くは、市販製剤を、市販包装のまま薬袋に入れて渡すというものであり、服用する時に患者が色々手を加える余地を残す実調剤になっていることが問題なのである。
今回の事例でも患者は京大病院の外来通院中であり、院外処方せんに基づいて調剤薬局で薬を受領したと思われる。その時、他の薬はでていなかったのか。でていたとすれば全体の薬袋はどうなっていたのか。でていなかったとすれば、「リウマトレックス」の薬袋はどうなっていたのか。更に服用方法が難しい薬剤の服薬指導はどうなっていたのか。
単純に“患者持参薬”の問題にしてしまったのでは、このように重要な前段問題が薄められてしまい、真の解決には至らない可能性が考えられるのである。
(2005.2.27.)