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社賊

水曜日, 8月 15th, 2007

鬼城竜生

自分達が作ったトラックに、欠陥があったということは、技術屋であれば、苦情を受けた速い段階で、解っていたはずである。素直に欠陥品であることを認めて、速い時期にリコール(回収・無償修理)をかけていれば、トレーラのタイヤが脱落し、母子3人が死傷する事故は発生しなかったはずである。この事実経過を見れば、当該企業の技術屋として、慚愧に堪えないと思うのが普通であると考えるが、残念ながら我が国を代表する一流企業に勤める技術屋諸氏は、世間一般の常識を持ち合わせてはいなかった様である。

三菱自動車の今回の対応を見ていると、一流企業の経営者ともあろう方々が、何を血迷ってあのような迷走をしていたのか、甚だしく理解に苦しむのである。まして会社の代表的立場にある人たちが、自社商品の欠陥を最後まで隠しおおせると判断していたとすれば、その甘さはどこから来たのか。少なくとも大企業の看板の陰で、世間をなめきっていたとしか考えられない。

車の重要な部分である車軸周辺部品「ハブ」の欠陥は、固有の1台のみの話しではなく、設計上の欠陥である。だとすれば、次々に同じ事故が起こるであろうことは、素人にも予測できる。最初の事故報告を受けたときに、開催された検討委員会で、誰が声高に隠蔽を指示したのか。それに対して会議の参加者はなぜ唯々諾々と従ったのか。自由に物が言えない会議は会議ではなく、会議に名を借りた命令伝達の仕組みでしかない。そのことに対して何の疑問もなく、物事が進捗したとすれば、その組織は腐っているとしかいいようがない。

少なくとも専門家といわれる人たちが、自分達が作った商品の欠陥を隠蔽し続ければ、その結果がどうなるのかの予測が付かなかったとは思えない。もし、予測が付かなかったというのであれば、それは想像力の欠如である。リコールによってどの程度の損失になるのか、その試算はしたのだろうが、露見したときに失う会社の信用をどうやら見積損なったようである。

自分達の地位を守ることに汲々とし、自分達が拠って立つ組織をないがしろにする。当人達は悪行が露見すれば首になればすむ話しかもしれないが、組織はそうはいかない。更に組織に依拠する多くの社員は、自分達が関知しない偉いさんの悪行で、会社が左前になれば、整理の対象にされることも考えられる。

組織の社会的責任に気付かず、見通しの悪いお偉いさんは、将に社賊以外の何ものでもない。長い歴史のある会社を、人殺しの会社という汚名まみれにした責任はどう取るつもりなのか。いずれにしろ自分達の製造していた自動車は、一種の殺人機械でもあることの認識がなかったのが、最大の問題だといえる。

(2004.5.14.)