呼吸器外し
水曜日, 8月 15th, 2007人工呼吸器を使用するかしないかは、医師の判断による治療の一環であるはずである。それならば人工呼吸器を外すかどうかの最終判断も、治療の一環として医師に任せておけば良さそうなものを、こればかりは妙に警察沙汰になる。
理由は人工呼吸器を装着している限り、機械的に呼吸を続ける事が可能で、素人目に死の判断が難しいからではないかと思われる。
一般の臨終が医師の告知で終わるのであれば、人工呼吸器を外す判断も医師の告知で済ませればよいと思われるが、今回またもや事件扱いにされた事例が報道された。
和歌山県立医科大附属紀北分院(和歌山県かつらぎ町)で、延命措置を中止する目的で80歳代の女性患者の人工呼吸器を外して死亡させたとして、県警が50歳代の男性医師を殺人容疑で和歌山地検に書類送検していたことが、22日分かった。
患者は脳内出血で同分院に運ばれてきた女性患者。患者は緊急手術を受けたが、術後の経過が悪く、脳死状態になっていたため、家族が「可哀想なので呼吸器を外してほしい」と依頼。医師は2度に渡って断ったが、懇願されたため受け入れて人工呼吸器を外し、同28日に死亡したという。医師は3月1日に分院に報告、分院では射水市民病院での問題が発覚した直後の2006年3月末、和歌山県警妙寺署に届け出た。捜査段階の鑑定では、呼吸器を外さなくとも女性患者は2-3時間で死亡したと見られるが、県警は外したことで死期を早めたと判断、今年1月に書類送検した。
紀北分院副院長は「呼吸器の取り外しについては医師個人の判断だった。医療現場の難しい問題なので、司法の判断を仰ぎたいと考えて県警へ届け出た」と話している。家族は被害届を出しておらず、「医師に感謝している」と話しているという。
呼吸器の取り外しについて北海道立羽幌病院の女性医師が2005年5月に殺人容疑で書類送検(不起訴)されており、今回の書類送検が2例目。一方、射水市民病院の問題については現在も富山県警が殺人容疑で慎重に捜査を進めているとされる[読売新聞,第47129号,2007.5.22.]。
呼吸器の取り外しについては、厚生労働省の指針では、治療中止について、患者の意志を尊重するのを基本とし、本人の意思が確認できない場合は家族と話し合った上で、医療チームとして慎重に判断するとされている。しかし、医師が刑事訴追されない免責基準については、検討課題として残されたとされる。
『患者本人の意志確認』が難しいのは、突然、容態が悪化した患者の場合、当人の意思を確認する機会が無い可能性があるということである。本来であれば、普段、元気なうちに自分の死に方を決めておくべきだということなのかもしれないが、中々そうならないのが実態ではないか。更に入院するときに、当人に全く死ぬ気がないとすれば、前もって患者の意思の確認は難しい。
如何にinformed consentを十分な努力によって果たしたとしても、死ぬほどの病気とは考えていない患者に最悪の場合、人工呼吸器を装着するのかしないのか、装着した後の脱着の時期をどうするのかなどの説明を始めたとしても、患者にとって真実味はない。むしろよっぽど治療に自信がないんではないかという、つまらない疑惑を与えることになるのではないか。
最終的には患者の家族の意思の確認で対処せざるを得ないと思われるが、患者家族の意志確認のみでは本当に不適切なのであろうか。更に主治医の判断ではなく、院内に設置した委員会で主治医以外の第三者の意見も加えて判断するというが、人工呼吸器を装着するかしないかは主治医の判断で実施し、脱着するときは第三者も含めた判断ということでは、決断までに時間を要し、結局は不必要な治療の継続になるのではないか。
今回の事例は、患者の家族が懇願し、医師が人工呼吸器を外したということであるが、
人工呼吸器を外さなかったとしても2-3時間後には死亡したとされている。それなら何故医師を殺人容疑で書類送検しなければならなかったのか、理解できない。
もし、医師を殺人容疑で書類送検するなら、2度に亘って人工呼吸器を外すことを懇願した患者家族は殺人を強要したとして書類送検するということになるのであろうか。事件性が推測できないというのであれば、書類送検なぞする必要はなかったのではないかと思うが、如何なものであろうか。
[2007.6.24.]