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薬の安全性

水曜日, 8月 15th, 2007

『薬の安全性』はどうやって決めるのかという質問を受け、通り一遍の返事はできたとしても、より詳細な内容は、調べて見なければ分からないと いうことで、調査した結果は以下の通りである。

医薬品のヒトに対する有効性と安全性を確認するためには、最終的にはヒトによる臨床試験で、有効性と安全性を確認することが必要である。  しかし、そのためには、事前に動物による実験によって、安全性を予測することが必要となる訳である。 安全性を確かめる動物実験では、小動物と大動物が用いられるが、小動物は主として囓歯類、大動物はヒトに近い霊長類も用いられるが、一般的には犬が多く使用される。

毒性試験には、一般毒性試験と特殊毒性試験の2種類が挙げられる。

一般毒性試験 単回投与毒性試験 (急性毒性 試験) 被験物質を1回投与 したとき に観察される毒性を質的・量的に明らかにすることを目的にしたもの。この試験により概略の致死量を求める。概略の致死量とは、必要最小限の動物を用いて、大きな間隔で幾つかの異なる用量の被験物質を投与した時に観察される死亡率から、致死量が存在するであろうと推定されるおおよその範囲である。
反復投与毒性試験 (亜急性、 慢性毒性試験) 被験物質を繰返し投 与した 時、明らかな毒性変化を惹起する用量とその変化の内容、及び毒性変化の認められない用量、即ち無毒性量(No-Observed Adverse Effect Level)を求めることを目的としたものである。なお、毒性変化と薬効薬理作用に基づく徴候とは、区別が困難なことが多いので、生データ、最終報告書には観察された徴候の全てを記載し、考察においてどの徴候が薬効薬理作用に基づくかということを記述する。また標的器官・組織に変化が見られなかった最大容量を、最大無影響量として記述することが求められている。
回復性試験 毒性変化の回復性と 遅延性毒 性を検討するため、1ヵ月又は3ヵ月の反復投与毒性試験では回復毒性試験(Reversibility study、Follow-up test)を行う。出現した毒性変化が可逆的変化であるか、非可逆的変化であるかを見るものであり、その毒性変化の重篤度を知る上で重要である。この試験は、通常、毒性試験を実施した群のうち高用量の1-2群と対照群を対象に実施する。
特殊 毒性試験 生殖・発生毒性試験 (segment I:精子形成・交配能、segment II:器官形成・催奇形性、segment III:授乳・哺育能、異常新生児・異常分娩) 医薬品を生体に適用 したとき に、その生殖能と後世代に対する影響を検索することを目的として実施される動物試験で、催奇形性試験(teratogenicity test)及び世代生殖毒性試験(generation reproductive toxicity test)である。この検索の結果は、ヒトの生殖・発生過程に対する安全性評価の貴重な資料となる。

本試験法は医薬品開発に対して、固守するよう求めるものではなく、基本姿勢としては得られた所見が臨床上の安全性評価に適するものであるならば、他の適切な方法の採用も可能とされている。

具体的に生殖・発生毒性とは、薬物によって引き起こされる毒性のうち、特に雌雄の生殖細胞の形成、受精と着床、胚や胎児の発育、妊娠の維持や分娩、授乳と哺育並びに生後の発育などに対して有害な反応を引き起こす毒性。

局所刺激試験 実験動物の皮膚・粘 膜などに 被検物を局所的に適用した際に主として当該局所に現れる障害を検査する試験。
皮膚感作性試験 皮膚外用剤について Adjuvant and patch test等。
皮膚光感作性試験 皮膚外用剤、皮膚光 感作を有 する可能性が考えられる薬物についてAdjuvant and strip法等の試験の実施。
依存性試験 生体と薬物の相互作 用の結果 生じる特定の精神的状態(時に身体的状態を含む)の発現について検討する試験。
癌原性試験 主として実験用小動 物に腫瘍 を発生させる実験を行う。
変異原性試験(復帰 突然変異 試験、染色体異常試験、小核試験) 変異原性試験(遺伝 毒性試 験)とは、ある化学物質が、生物の遺伝物質(DNA)に作用して、選択的に化学反応を起こしたり、その分子構造の一部を変えたりする性質(変異原性)があるかどうかを調べるものである。この作用が体細胞に生ずると発癌の、また生殖細胞に生ずると種々の先天異常を引き起こす原因となる。
抗原性試験 薬物アレルギーの可 能性につ いて、動物を用いた厳重な試験を行う。

*能動感作による抗原性の検出。*受身皮膚アナフィラキシー(PCA)反応による抗原性の検出。*受け身赤血球凝集(PHA)反応による抗原性の検出。

試験対象動物を選ぶ場合には、薬物による感度や腸管吸収、胆管循環、肝薬物代謝酵素等がヒトと類似する動物を選んで実施する。

毒性試験は、ヒトへの適用上、最大無作用量(作用を起こさない用量の限度)とと もに、発現頻度、質的毒性も明らかにする必要があるとされている。薬物の有害作用の機序を、動物で解明することは、危険度や安全性をヒトで推測する上で役立つものである。

動物試験の結果を受けて第I相臨床試験に進む段階で、ボランティアは男性に限定されることを考えると、反復投与試験、segment I、アレルギー反応、変異原性試験、不可逆反応の有無等、疑いがある場合は、癌原性試験などを終了することが道義的にも求められる。

生体にとって全ての物質は毒物であり、毒でないものはないとさえいえる。これらの有害作用の機序を、動物で解明することは、ヒトでの危険度や安全性を推測する上で役立つものといえる。動物の試験で毒性を示す用量は、薬物によって異なるが、一般に50%致死量(LD50)で示される。目的とする薬理作用を示す有効性は50%有効 量(ED50)で示される。半致死量と半有効量の比LD50 /ED50 を安全域(sefety margin)と呼んでいる。

薬の有効性、安全性が動物段階で確認されたとしても、必ずしもヒトで同じことが起きるとは限らない。ヒトへの適用は十分な管理下で少量の薬物 より次第に用量を上げ慎重に臨床試験が行われる。

第I相臨床試験 健常男子志願者への 投与によ り安全性及び血中濃度(体内動態)の検討を行う。但し、抗癌剤は有志患者により行う。
第II相臨床試験 少数の患者、厳重な 監視下で の投与。合併症のない軽度の男女患者を対象とする。前期第II相臨床試験:少数例、後期第II相臨床試験:多数例に区分し、有効性、安全性を確認、至適用量を設定する。
第III相臨床試験 適応疾患及び患者数 を更に拡 大し、主として有効性、安全性について検討する。

Open Trial:通常の臨床治験で、医師、患者の両者が使用される治験薬を承知した上で、治療が行われ薬物の有用性(有効性と安全性を加味しての表現)を確認する。

Double Blind Test(多施設二重盲検試験):患者を厳格に選定し、被験薬物、対象薬、偽薬(placebo)を用い、通常100-300人の男女患者を対象に実施し、薬物の有用性(有効性と安全性を加味しての表現)を確認する。

第IV相臨床試験 市販され実際の診療 の場で一 斉に多数の患者に使用されるので、安全性の問題で極めて重要な相である。限定された患者でなく、高齢者、小児、肝、腎その他疾病患者、時に妊婦などあらゆる患者が対象になるので、第III相臨床試験までの間に見出されなかった副作用が発現する場合も多く、薬の真価が問われる。

動物実験で、安全性の確認された物質について、第I相臨床試験から第III相臨床試験までの臨床治験で、ヒトに対する有効性・安全性を確認する。但し、動物実験によって安全性に関する全ての事項が解るわけではなく、第III相臨床試験段階を無難に通過したとしても、それで安全性の全てが確認されたわけでもないことを理解しておかなければならない。


  1. 高柳一成・編:薬の安全性-その基礎知識;南山堂,2000
  2. 南山堂医学大辞典第18版;南山堂, 1998
  3. 薬科学大辞典 第2版;広川書店,1990